テイルズオブザワールド レディアントマイソロジー3 ─そして、僕の伝説─   作:夕影

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第三十話

 

 

 

 

 

――あの後、再完成した異次元チューニング装置はカノンノのドクメントと共鳴し、無事に天空の宮殿『ヴェラトローパ』を呼び寄せる事に成功した。

 

今はそのヴェラトローパ探索に向けて皆が忙しくしている中……僕はただ、医務室でカノンノが眠っているベッドの横に腰掛けていた。

 

 

あの時、カノンノが倒れてから……彼女はまだ目を覚ましてないのだ。

 

 

「――衛司様。まだ、此処に……?」

 

 

不意に背後から声が聞こえ見ると、そこには心配そうな表情をしたロックスさんが居た。

 

「……うん。心配だから…ね」

 

 

「そうですか……お嬢様はまだ…?」

 

ロックスさんの問いに、僕は眠るカノンノの方を見てゆっくりと頷いて答える。

 

 

「……僕は……やっぱり弱いね…」

 

 

「…衛司様…?」

 

 

「彼女が…カノンノが苦しみながら頑張ってる時に…ただ見守る事しか出来ないなんて…」

 

 

そう、僕は言葉を漏らしながら思わず拳を作り、それを強く握り締める。

 

 

 

「…それは私も同じです。お嬢様が苦しんでいるのに、何も出来なかった。…それに決して衛司様が弱い訳ではありません。ただ…今回に関してはお嬢様にしか出来ない事であった。そしてそれは、お嬢様の意志からでもあった。だから…衛司様が悔やむ事ではありません」

 

 

「――っでも……それでも…っ!」

 

 

ロックスさんの言葉に、それでも荒げて言葉を出そうとする僕。それにロックスさんは此方に飛んでくると小さく首を振った。

 

 

「いいえ、何度でも言いますが、衛司様は決して弱くなどはありません。それに……今回お嬢様から進んでドクメントの提供に出たのは、きっと衛司様のおかげだと私は思います」

 

 

「……え……?」

 

 

 

ロックスさんの出した言葉に、思わずそんな声が出た。

それって一体……。

 

 

「お嬢様が書いた風景…それを書いているお嬢様は楽しそうで…それでいてどこか不安に私は見えていた時がありました。ですが…衛司様と絵の事で話すようになってからは、お嬢様は絵を書いている時に、とても楽しそうに見えました」

 

 

そう、ロックスさんは言葉を続けていく。

 

 

「―もし、お嬢様がアナタと会えずに…絵の事を誰にも深く話すことがなければ…あくまで私の推測ですが…お嬢様は『自分は何なのか』という不安に押しつぶされていたでしょう。…ですが、アナタが…衛司様が今此処にいたからこそ、お嬢様は前を向いて、自らの意志で前に踏み出せたんだと、私は信じてます」

 

 

「――これを聞いてまだ、自分は何の役にもたてていないと思っているのであれば……」

 

ロックスさんはそう言い掛け僕の目の前まで飛んでくると僕の顔を見て微笑を浮かべて言葉を続けた。

 

 

 

「――お嬢様の目が覚めるまで、できる限り傍に居てあげてください」

 

 

「え……?」

 

 

「きっとその方が、お嬢様もすぐに目を覚ましてくれると私は思っていますから」

 

 

上手く理解できないままの僕にロックスさんはそう言うと再び飛び、医務室の扉の前まで行くと此方に振り返った。

 

 

「―アンジュ様やメリア様には私から話をして、今回の探索には衛司様は一緒に行けない事はもう伝えてありますから。…お嬢様を宜しくお願いしますね」

 

 

「ぁ……うん」

 

 

 

 

 

 

ロックスさんの微笑ながらも何処か真剣な表情に、僕は頷くとロックスさんは一礼して医務室を出て行った。

 

 

「……僕が傍にいた方が目が覚める、か」

 

 

ロックスさんが居なくなり、再び顔を眠るカノンノへと向けると、先程のロックスさんの言葉を思い出し自然に口から出してしまう。

 

 

「……カノンノ…遠い目標かもしれないけど…僕は皆を…カノンノを守れるくらい――強くなりたい」

 

 

目の前で眠り続ける少女の手を握り、僕は言葉を漏らしていく。彼女に今届いているかは分からない。ただ、自分の目標を口に出した。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「――……ん…寝ちゃってた…かな…?」

 

 

ふとゆっくりと目を開き、ぼやけた視界を目で擦る。どうやらカノンノの看病をしている間にいつの間にやら寝てしまったみたいだ。カノンノに悪い事しちゃったなー…。

そう思い、いまだに眠っているだろうカノンノへと視界を向けると…。

 

 

「――おはよう、衛司」

 

 

にっこりと笑顔を浮かべたカノンノが此方を見ていた。

 

 

「カノンノ……目が覚めたんだ…良かったぁ」

 

 

「うん。まだちょっとクラっとするけどなんとかね。衛司のおかげだよ」

 

 

カノンノの様子に僕は一安心していると、カノンノは少し苦笑を浮かべながらそう応えた。

僕のおかげ…か……。

 

 

「――衛司……?」

 

 

「ごめん…僕はキミが言うほど役に立ててないよ。だって……」

 

 

「…自分は強くない、から…?」

 

 

「っ!?」

 

 

僕の言い掛けた言葉を繋げたカノンノに驚いた表情を浮かべる。なんで……

 

 

 

「…眠ってる時にね、うっすらだけど…衛司の声が聞こえてね…。

ねぇ、衛司……『強さ』って、何?」

 

 

「え……それは……」

 

 

カノンノからのその問いかけに思わず口ごもってしまう。

 

 

「…誰かが倒れた時に落ち込む事?誰かの背中を追い越すこと?…違うよね。少なくとも…私が知ってる『強さ』は…衛司が教えてくれたから、今の私が居るんだから」

 

 

「…僕が……?」

 

「うん。それで…その『強さ』は、私が知ってる中だと多分…ううん、きっと衛司が一番だと思うよ。お人好しな衛司なら」

 

 

カノンノの言葉を聞きながら僕は考える。

彼女の言う『強さ』……それって一体…。

 

 

「分からないなら宿題。分かったら私に一番に教えてね」

 

 

「ぇ…宿題って…」

 

 

「教えなーい。衛司が本当に困ってた時に、もしかしたら教えてあげるかも?」

 

 

考えこんでいる僕にカノンノはクスクスと笑うとそう言った。

本当によく分からないけど……少し落ち着いた気がした。

 

彼女のいう『強さ』って…本当、なんなんだろう。

 

そんな事を考えながら、いまだにクスクスと笑い続けるカノンノにつられ、自然に笑みがこぼれようとした時だった。

 

 

 

―――ゴゴゴゴゴッ!!

 

 

 

「「!!?」」

 

 

突然、ヴェラトローパ探索で空に浮いている筈のバンエルティア号の船内が、まるで地震を感じたかのように大きく揺れ出した。

 

 

 

 

 

 

「ぇ、じ、地震…っ!?」

 

 

「いや、違うはずだけど…一体何が……」

 

 

「――衛司っ!!」

 

 

今バンエルティア号が飛んでいる事を知らないカノンノが出した言葉に首を振って答えていると、医務室の扉が開き、慌てた様子のアンジュが飛び込んできた。

 

 

「アンジュ!どうしたの…?」

 

 

「カノンノ!?目が覚めたみたいね……ちょうど良かったわ。二人共、大変よっ!!」

 

 

「大変って…一体何が…」

 

 

「説明するより見た方が早いわ。とにかく、甲板に来て!!」

 

 

 

慌てながら言うアンジュに僕とカノンノは頷くと、僕は上手く動けないカノンノを背中に背負い、甲板へと走り出した。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「――これは……一体……」

 

 

カノンノ、アンジュと共に甲板に出ると甲板から見えた光景に思わずそんな声が出た。

 

 

地面からまるで木々が生えるかのように現れた…『白』よりも『灰』に近い色をした巨大な『ナニカ』。先程の揺れはこれの出現が原因で地面が……いや、大袈裟かもしれないけど…『世界』が震えたんだろう。

 

 

「――…まるで『キバ』ね」

 

 

「牙……?」

 

 

「えぇ、あれを『キバ』以外になんと言うのかしら?」

 

 

 

「…なんかアレ……嫌な感じがする」

 

 

アンジュの言う『キバ』を見ていると、そうカノンノが言葉を出した。

確かにカノンノの言うとおり…あの『キバ』から何か嫌な感じがした。

 

 

 

「――…おーい、皆ぁっ!!」

 

 

『キバ』を眺めていると、不意にヴェラトローパの方から声が聞こえ見ると…慌てた様子のキール、それについてメリア、ジュディス、アルヴィンがこちらに走ってきていた。

 

 

 

――この『キバ』の出現に、事態は刻一刻と最悪な状況へと進み出していた。

 

 

 

 

 




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