何かとウザイやつが問題児達に紛れたら。 作:ふわっとしたプリン
「おんやぁ?誰かと思えば東地区最底辺のコミュニティ、"名無しの権兵衛"のリーダー、ジンくんじゃないですか。今日はお守りの黒ウサギは一緒ではないのですか?」
変な男が近づいてくる。
なんだよこいつ。まじ気持ち悪いな
男に対して不快感を顕にする。
男は紳士のようなスーツを着ているものの全く着こなせておらず、全身からは人格の悪さがにじみ出ている。
「・・・・・僕達のコミュニティは"ノーネーム"です。"フォレスガロ"のガルド・ガスパー」
「はっ、黙れこの名無し」
「・・・・・・」
ムッとした表情で言い返すジンであるが、ガルドは冷酷に鼻で笑った。
そんなガルドを、一輝はつまらなそうな目で見ている。
あーあ、まためんどくさい悪党に絡まれたな。今日は災難続きだ
「聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。よくもまだ未練がましくコミュニティを存続させるものだ」
そう言いながら椅子に腰掛けようとする。
誰が同席を許したってんだ。
足で椅子を、ガルドが勢いよく座る直前で蹴飛ばす。
「うおっ!?」
するとガルドは間抜けな声をあげながら尻餅をついてしまった。
「なにすんだてめぇ!!」
「おや申し訳ありません!」
と言いながら勢いよくガルドの方へと振り向きながら立ち上がる。
その時に春日部さんが飲んでいたカップをガルドの顔面へと弾き飛ばす。
さらびそれと同時に足の方では器用に使って、いかにも自然な感じを装って椅子までガルドの方へと蹴り飛ばす。
(くらえ嫌がらせコンボ)
一体ガルドが何をしたって言うのだ。
ちょっと席にことわりなく来ただけなのだが…
「なにすんだてめぇ!!」
一輝を睨みながら怒号を放つガルドであったが、そんなもの一輝は全く意に介さずに、柔かな笑顔を浮かべながら返事を返した。
「ごめんなさいごめんなさい。偶然が重なってしまいまして…てか同席する前に一言許可をとってみては如何ですか?エセ紳士」
「ふん、神城くんの言うとおりね。同席を求めるのならば氏名を名乗った後に一言添えるのが常識ではないかしら?」
「ぐっ・・・・・これは失礼いたしました」
久遠さんにも言われ、ガルドは青筋をピクピクとさせながらも無理矢理に笑みを浮かべて謝罪した。
いやこれだけのことされて謝るって意外といいやつなのか。
まあ、ガルドはもちろんはらわたが煮えくり返りそうになっているだろう。いい気味である。慈悲はない。
「私は箱庭上層に陣取るコミュニティ、"六百六十六の獣"の傘下である「烏合の衆」コミュニティのリーダーをしている・・・・って、誰が烏合の衆だ小僧!」
ガルドは自己紹介に割って入ったジンに怒りを顕にする。
「口を慎め・・・・・紳士の俺にも聞き逃せねえ言葉はあるんだぜ?」
「街を荒らす獣に返す礼儀などありません!」
へえ・・・・・結構度胸あるじゃん
ガルドに物怖じせずに、反論を返すジンに一輝は少しだけ感心した。
「そういう貴様は自分のコミュニティがどういう状況か理解できてんのか!」
「はいちょっとストップ」
ジンとガルドの口論に、久遠さんが割って入る。
「貴方達の仲が悪いことは承知したわ。だからこそガルドさんが指摘する私達のコミュニティが置かれている状況・・・・・リーダーとして説明していただけるかしらジンくん?」
「そ、それは・・・・・」
久遠さんに説明を促されるジンであるが、言い淀んで説明しようとしない。
「くくっ・・・・・レディ、貴女の言うとおりだ。しかし彼はそれをしたがらないでしょう。よろしければ私が客観的に説明させていただきますが?」
「そうね・・・・・」
久遠さんはチラリとジンの様子を伺うと、ジンは顔を伏せており、ガルドの言うとおり説明したくなさそうにしていた。
その後、近くにいた春日部さんに目線を配らせると、春日部さんも察したようにコクりと小さく頷いてみせた。
ふむ。割り込むのも一興かな。
「お願いするわガルドさん」
「それではお話しましょう。まず・・・・」
「簡単に説明すると、元から弱小チーム。もしくは訳あって衰退した弱小チームだな。いや、でもこいつがこんなにも絡んでくるなら衰退したって方が正しそうだな。理由は…確かギフトゲームで様々なことが決まる世界。だとしたらギフトゲームに負けた。いやでもノーネームになってしまうほどの相手ということは、普通そんな戦いをするほど無茶はしないだろう。つまりは無理矢理ゲームに引きずり込むことの出来る存在があるということ。そしてその強制的なゲームに敗北したためコミュニティメンバーが働けない者と黒ウサギぐらいになってしまった。だから俺達の助けが必要になった。大方こんな感じだろ」
自分で言ったことを訂正していきながら説明し、正解かどうかじんの方を見る
「ど、どうしてそこまで?!あ、あってます…」
「やっりぃ」
ガルドが口を開けたまま固まっててものすごく面白いんだが
「あら、あなたには聞いていないのだけれど。にしてもすごい推理ね。素直に賞賛するわ」
「…すごい」
「えーっと、少し補足すると、さっき無理矢理ゲームを参加させられると言いましたね。それはこの世界に魔王と呼ばれる者が存在しているからです」
「へーそーなんだー」
「なるほど、事情はよくわかったわ。あら、そーいえばガルドさんはどうして私達に丁寧に説明しようとしてくれたのかしら?」
「あ、そういえばまだ居たのか」
久遠さんはわざわざ理由を説明しようとしていたガルドに尋ねる。
それに対しガルドは咳を一つついてから、では、と話をきりだす。
「もしよろしければ黒ウサギ共々私のコミュニティに入りませんか?待遇はお約束します。という事を伝えたかったのです」
「なっ!?何を言って・・・・」
ガルドの一言に、同様を隠せずにいるジン。
無理もない。ガルドはせっかく呼び寄せた希望とも言える者達、さらにはコミュニティの支えである黒ウサギを寄越せて言っているのだから。
しかし
「結構よ」
ガルドの誘いを、久遠さんはものの見事に一蹴した。
「私はジンくんのコミュニティで間に合っているもの。けどそうね・・・・・春日部さんは今の話どう思う?」
「別にどっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだから」
「あら?じゃあ私が立候補してもいいかしら?」
「・・・・・うん。飛鳥は私の知ってる人達とちょっと違うから大丈夫かも」
春日部さんは友人に立候補した久遠さんに笑顔でそう返した。
「あ、あの・・・・お嬢さん?理由を教えてもらっても?」
ビキビキと青筋を立てさせ、さらには表情をヒクつかせながら久遠さんに尋ねる。
「だから間に合ってるのよ。私は裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる全てを支払ってこの箱庭に来たのよ。小さな一地区を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる・・・・・などと言われて魅力を感じるとでも思ったの?」
ガルドに向かってキッパリと言い放つ久遠さん。
「そ、そちらの貴方はどうですか?」
今度は一輝に尋ねるガルド。
なぜこいつに尋ねるのだ。散々嫌がらせされまくった相手に聞くことでもない気がするのだが、とガルド以外の人は全員思っただろう。
もしかしてドエムなのかもしれない。
「そうだなぁ。いいぞ」
しかし、一輝はそれに了承する。
「なっ」
さらにその返事を聞いて絶句するジン
「おお!!ぜひともかんg「ただし、毎日一立方メートル分の金塊でも寄越せ」なっ」
今度はガルドが絶句する
断言しよう。一輝は碌でもないやつだ。
「えー払えねーの?じゃあこの話はなしだな帰れ」
「す、少しお待ちを!!」
「んだよしつこいな。しつこい男は嫌われますよ〜?」
それに。と付け足す。
「全く今までの話とは関係ないが気になってたことがあるんだ。あんた、今まで何人無意味な殺人をしてきた?」
一輝の発言を聞いたガルドは顔を青ざめさせながらギクリと動揺をあらわにした。
「いやーそういうのに敏感でねーさぞかし外道な行為を今まで何回もおこなってきたんでしょうね〜この世に悪は必要だと思うが行き過ぎた悪は要らんのだよ」
普通に考えれば一輝のこの発言は戯言だと思われても仕方がないほどに唐突で突飛なものだ。
しかし、一輝の冷酷なまでに鋭い視線が・・・・・一輝の発言に妙な信憑性と確信めいたものを感じさせ、さらにガルドの後ろめたさがそれを助長せたために動揺したのだ。
これは確実に黒だ
「その態度からして心当たりがあるようね。その上で聞くけれど、貴方は先程この地域のコミュニティに両者合意で勝負を挑み、勝利したと言っていたけれど・・・・・私には腑に落ちないわ」
「ど、どういうことだ・・・・・」
動揺しきっているガルドは余裕がないのだろう。言葉遣いが荒れ始めている。
「ねえジンくん、コミュニティそのものをチップにするゲームはそうあることなの?」
「い、いいえ。かなりのレアケースです」
「まあ当然よね。では貴方はなぜコミュニティを賭けあうような大勝負を強制的に続けることができるのかしら?教えてくださる?」
「!?」
久遠さんに問われた瞬間、ガルドは何かに支配されるような感覚に陥った。
そして自らの意思に反して、その口が言葉を紡ぎ始める。
「あ、相手コミュニティの女子供を攫って脅迫し、ゲームに乗らざる得ない状況に圧迫した」
へーこれが多分久遠さんの能力だな。口で命令したことを相手に絶対やらせる。
これもまた不便だな。
相手が自分より強かったら効かないだろうし、言葉を発し終えるまでが長いな。
一輝は久遠さんに視線を向けながら思う。
「・・・・それはコミュニティを吸収した後もかしら?」
「・・・・ああ。数人ずつ子供を人質にしてある」
「人質ねぇ〜それじゃあその人質は今どうしているのかなー?」
「・・・・・・」
「神城くんの質問に答えなさい」
「・・・・・もう殺した。うるさいし鬱陶しかったからな」
久遠さんが命じると、ガルドはそれに答えた・・・・・想定内だった最悪の返答を。
「・・・・酷い」
「ガルド・・・・・貴方はなんてことを」
「・・・・とんだ外道ね」
「ジンくん、今の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことはできるかしら?」
「・・・・・難しいですね。箱庭でもガルドほどの違法を働いた悪党はそうはいませんが・・・・・裁かれるまでに箱庭の外に逃げてしまえばそれまでです」
「そう。なら仕方ないわ」
パチンと飛鳥が指を鳴らすと、ガルドの支配は解かれた。
「貴様・・・・よくも!覚悟しろ小娘がァァァァァ!!」
支配が解かれたガルドはワータイガーと化し、怒りのままにその鋭い爪を飛鳥に対して振りかざした。
だが・・・・・
「帰れ」
「!?」
一輝が言い放ったたった一言で、ガルドの動きを封じ込めた。
何故だろう。この緊迫した状況になんだかあってない気もする言葉で相手の動きが完全に止まるのが酷く虚しく感じる。
それはそうと、一輝が言った一言には、ずっしりと重く、まるで空気が辺り一帯から消え去ってしまったと錯覚させるほどの濃厚な殺気も一緒に放たれた。
それは先程の久遠さんの能力による強制支配ではない。だが、たしかにそれはガルドの身体を完全に支配し、縛り付けた。圧倒的なまでの恐怖により。
(神城さん…!?)
(なに…これ…)
(これは…神城くんの…実力…?)
その濃密な殺気は当然ガルドだけでなく周囲にまで広がっていた。
「おい。虎。俺は結構前に1度帰れと言ったよな?なのに2度も言わせるんじゃねーよ。殺すぞ?」
お前が言葉を繋げたせいで帰れなかったんだろ。なんて言葉は今のこの状況では誰も言えなかった。
「う・・・・があ・・・・」
あまりの恐怖から上手く言葉を発することができないガルド。
そもそも全員が全員喋ることすらも困難であった。
「まあ今回は許してやるよ」
と言うとさっきまでの重い空気は嘘だったように消え去り、みんなの喉に空気が入る。
「っ…はぁ、はぁ、はぁ。」
殺気を放つのをやめた一輝は久遠さん達の方へと向き直りながら言う。
「さて、今回は箱庭らしくギフトゲームなんてどうかな?これは俺からの最後のチャンスだ。"フォレスガロ"の存続と"ノーネーム"の誇り。そして、お前の運命を決めるためのな」
かくして、箱庭に来て初めての、本番のギフトゲームが開催されることが決定した。
あ、これ俺も参加しなくちゃいけないじゃんやっちまった
ーto be continuedー
ガルドさんの登場だけで約5000文字の第三話であった。