何かとウザイやつが問題児達に紛れたら。 作:ふわっとしたプリン
紆余曲折を経て、箱庭についての説明を一通り終えた黒ウサギは問題児三名を彼女の所属するコミュニティのある箱庭二一〇五三八〇外門に連れてきた。
「ジン坊っちゃーん!新しい方を連れてきましたよー!」
黒ウサギはベンチに座っていた少年。ジンという子に呼びかけた。その呼びかけに反応してジンは立ち上がる。
「お帰り黒ウサギ。そちらの三人が?」
「はい!こちらの御四人様が」
振り返った瞬間、黒ウサギは石のように固まってしまった。ようやく気がついたらしい・・・・・・十六夜がついてきていないことに。
こいつアホなのか。
「・・・・え?私の記憶が確かならもう御一人いませんでしたっけ?全身から"俺問題児!"ってオーラを放っているヘッドホンをつけた方は?」
あってるけどひどい説明だな
数十分前
「なあ一輝。俺と世界の果てに行ってみないか?」
にやりと笑いながらこそこそと喋りかけてくる十六夜。
「馴れ馴れしく名前で呼ぶなって言ってんだろ。それと面倒だからパス」
普通に行きたくない。こっから結構距離あるしな。それとこいつはわざとこんな絡んできてんのか?
「いいじゃねえか別に。呼びやすいから呼んでるんだ」
「あーはいはいそうですか、さっさと1人で行ってこい」
「これは許可貰ったってことにするぜ。あ、黒ウサギには言うなよ」
「別に告げ口なんてしねーよ」
「そうか。なんだかんだいいやつだよなほんと。じゃあな」
なんだよいいやつって。意味わからん。あいつはドエムかなにかなのか。
「十六夜くんも変わってるわね。こんなやつのどこがいいやつなのか」
久遠さんからはだいぶ嫌われているようだ。まあ明らかさま箱入り娘みたいな感じだから当然か。
現在に戻る
わなわなと目の前でうさぎが震えている。
「ああ、十六夜くんなら『ちょっと世界の果てを見てくるぜ!』って言って駆け出していったわ」
「・・・・・え?」
・・・・・一瞬久遠さんの言っていることが理解できずに黒ウサギの思考は停止してしまったようだ。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
10秒ほど経ってからようやく頭が回りだした黒ウサギは、止めてくれなかった春日部さんと久遠さんを怒鳴りつけた。
「『止めてくれるなよ』と言われたもの」
「ならどうして黒ウサギに一言・・・・」
「『黒ウサギには言うなよ』と言われたから」
「嘘です!絶対に嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう!」
「「うん」」
こいつらほんと息ピッタリだな。実はここに来る前友達だったんじゃないのか。
「じゃあなんで神城さんは言ってくれなかったんですか?!」
ここにきてこっちにふるなよ。
「注意不足のお前が悪い」
俺の言葉がトドメの一撃になったらしく、完全に撃沈している。
「た、大変です!"世界の果て"には野放しにされている幻獣がいるんです!」
と思ったら急に立ち上がって慌てだした。
「「幻獣?」」
「ギフトを持った獣を指す言葉で、特に"世界の果て"付近には強力なギフトを持ったものがたくさんいるんですいます!場所によっては神格を持ったものも!出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」
ジンは焦った様子で言う。その様子が事態の重大さを物語っている。
でも正直あいつはここら辺じゃまず死ねないだろうな。
「それは残念ね。もう十六夜くんは・・・・・」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?・・・・・斬新」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
喜んだり、落ち込んだり、怒ったりと忙しいやつだな。
春日部さんも久遠さんも十六夜のことを心配する様子は一切見られない。
「全く・・・・・ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが御三方のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「黒ウサギ?」
「黒ウサギは問題児を捕まえに参ります。そして・・・・・“箱庭の貴族”と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります!」
怒りに震える黒ウサギ。艶やかな黒髪と耳が桜色へと変化し、そして・・・・
「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」
そう言い残して黒ウサギは世界の果てに向かって飛び立った。
「箱庭のウサギは随分速く跳べるのね」
黒ウサギの跳躍力を見て久遠さんは素直に感心した。
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属ですからね。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思いますが・・・・いなくなってしまった方が心配です」
ジンは十六夜のことを心配して顔を伏せていた。知らない奴のことを気遣うなんて優しいねぇ。
「そんなことはどうでもいいとして、黒ウサギに任されたんだろ?だったらこっから先を案内しろよ」
「そ、そんなことって…どうでもいいわけありませんよ!!」
あーらら、どうやら俺の言葉が気に障ったらしく怒りだした。
「うるせーな早くしろどっか勝手に行くぞ」
そう言いながらジンの横を通り過ぎる。
だがすれ違いざまにボソッという。
(あいつは大分強いから心配する意味ねーよ)
(え?)
あーあらしくない。どうしてこんなにガキに弱いんだかねぇ。
声はしっかりとジンだけの届いていたらしくこちらを振り返ってるのが視線を感じるのでわかる。
「ほら案内する気があるならさっさとしろ」
「あ、はい。わかりました」
ようやく了承してくれた。無駄な時間をくったな。
「コミュニティのリーダーをしているジン・ラッセルです。齢11になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。御三方のお名前は?」
「久遠飛鳥よ」
「・・・・・春日部耀」
「神城だ。いい加減に行かないとまじでどっかいくぞ?」
「す、すみません…えーっと、まずは簡単に食事をしながら話をしようと思います。ただ全て黒ウサギに任せてしまっていたので合流するまで話で・・・・・」
どうやらほとんどの段取りは黒ウサギが任されていたようで、ジンはどうしようかと少々戸惑ってしまっている。
てかなんでこいつがこんな偉そうなんだ。明らかに黒ウサギより実力は下だろ。
「だったらこちらでお店は決めさせてもらってもいいかしら?」
「はい。構いません」
「そう、なら行きましょ」
久遠さんの申し出に了承するジン。4人は軽食の取れる店を探して移動し始めた。
「いらっしゃいませ、オーダーはお決まりですか?」
5分ほど歩いてよさげな店を見つけた一行がテーブルに着くと、猫耳を付けたウェイトレスがオーダーを取りに来た。
「えっと・・・・紅茶3つで…神城さんは何を頼むんですか?」
「俺はいらねーよ。お前らそんな余裕ねえだろ」
少しかまをかけてみる。何もいらないのは本当だが、いい加減黒ウサギが隠していることを知りたくなった。まあ大方検討はついているのだが
「な、もしかして黒ウサギが?」
ビンゴ、これは当たりだな。
「いんや?何も聞いてないぞ。いやーまさか良からぬ隠し事でもあるのかね〜?」
「そ、それは…」
「ま、今はどうでもいいさ」
話を無理矢理打ち切る。何を隠しているのか知れたし話なんて聞かなくていいや。
「ご注文は以上でよろしいですか?」
猫耳ウェイトレスが聞き返してくる。ちょっと聞き返すタイミングを見失ってて面白かったのに。
「あ、あと軽食にこれとこれをお願い」
「にゃあっ!」
久遠さんが注文したのに続いて猫までも図々しく注文している。
「はい。ティーセット3つとネコマンマお一つですね」
「え?ネコマンマなんて頼んでない・・・・」
久遠さんは猫耳ウェイトレスの口から出た頼んだ覚えのないメニューに首を傾げる。
「いえいえ、確かに頼まれましたよ。そちらの毛並みの綺麗な旦那さんが」
猫耳ウェイトレスは春日部さんがが抱きかかえる三毛猫に目配せをしながら言う。
やっぱり猫は猫だな。
「三毛猫の言葉がわかるの?」
「はい。私も猫族ですからね」
その後、猫耳ウェイトレスは三毛猫と一言二言話をしてから、厨房へと向かっていった。
「・・・・・箱庭ってすごいね。私以外にも三毛猫の言葉がわかる人がいるなんて」
「え、ちょっと待って!?春日部さんって猫と会話ができるの!?」
久遠さんは机から大きく身を乗り出しながら春日部さんに尋ねる。
「できるよ」
「あの・・・・もしかして猫以外にも?」
「う、うん。ペンギンがいけたからきっと誰でも・・・・」
「「ペンギン!?」」
ふーん。こいつの能力は身体強化系かと思ったが、動物と同じ力を発揮できるって言った方がしっくり来そうだな。
「水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」
「すべての種と会話が可能だとしたら心強いですね」
「春日部さんには素敵な力があるのね・・・・・羨ましいわ」
久遠さんは羨望の眼差しを春日部さんに向ける。
そんないいものか?不便なところがありそうだがな
「久遠さんは・・・・」
「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん」
「うん。飛鳥はどんな力を持ってるの?」
「私?私は・・・・・酷いものよ」
久遠さんは自嘲気味に苦笑いを浮かべてそう答える。
少しだけどんな力か気になるね。
完全に空気だな…
おや、向こうから変な大柄な男が来ているぞ
ーto be continuedー
なんだか内容が薄くてごめんなさい。
きっと次回こそは一輝くんがなにかしてくれますよ。