ストライク・ザ・ブラッド ー監獄結界の聖剣遣いー   作:五河 緑

5 / 29
聖者の右腕編Ⅴ

 彩海学園、執務室。

 

 コツコツ。

 それほど、広くはない執務室の中に床を叩く靴の音が響いている。

 足音の主は、この部屋の主、南宮那月。さっきから机の前を行ったり来たりと歩き続けている。

 そして、執務室の来客用ソファーに座っている人影が二つ。無論、キリヲとジリオラだ。

 この二人は、那月とは対照的にソファーの上でじっとしている。

 

 「……それで?あれだけ、派手に暴れまわっておいて犯人を取り逃がすどころか身元も確認できなかったのか?」

 

 顔に手を当てて腹の底から低い声を出して自らの苛立ちを前面に押し出す那月。

 

 「えっと……、聖職者の様な服装をしていたから西欧教会の関係者かと……」

 「そんなことは、とっくの前から分かっている!」

 

 一応、口を開いて言い訳をしてみたキリヲだが那月に一蹴されて再び押し黙ることになった。

 ジリオラは、キリヲとも那月とも視線を合わせず、無関係だと言いたげな様子だった。

 その態度が琴線に触れたのか、那月は更に目尻を吊り上げる。

 

 「貴様らが昨夜出した被害……知っているか?」

 

 那月の問いかけに、今度はキリヲも那月から視線をそらす。

 

 「事件現場である倉庫区画は、高濃度の呪毒で汚染。未だに除染作業が続いていて消火活動に入れないそうだ。そして、廃棄区画にいた登録魔族の大量記憶障害。昨夜からの記憶が無くなり、未だに起きない奴らもいるぞ?おまけに巡回中の特区警備隊の隊員も記憶障害を被っている」

 

 前者は、キリヲがアスタルテと戦うために使用した呪詛のことだ。刀に封じ込めるようにしていたが、刀が折れたことによって、込めていた呪詛が漏れだし、辺りを呪毒で汚染した。

 後者は、ジリオラの眷獣〈ロサ・ゾンビメイカー〉に操られたことによる後遺症だ。直接的な攻撃力を持たない眷獣だが、濃密な魔力の塊であることに変わりはない。それが、体内に侵入して脳神経に直接干渉してきたら、魔族と言えど無事ではすまない。

 

 「まったく……貴様らを外に出す以上、なんらかの問題は起きると思っていたが、ここまでとは思っていなかったぞ」

 

 頭が痛いと言った様子で立ち止まって目を伏せる那月。

 

 「……それに、九重キリヲ。貴様、なぜ本気を出さなかった?呪詛など使わず、本来の力を使えば犯人を逃がすこともなかったんじゃないのか?」

 

 那月の言葉にキリヲは、真顔で言い返す。

 

 「いや、俺が本気出したら刀の方が速攻で砕けるんで。……まあ結局、呪詛使っただけでも折れたけど」

 

 キリヲが本来、戦闘で使っているのは呪詛ではなかった。キリヲは、並の人より霊力が高い。それこそ、そこら辺の巫女よりは上の筈だ。

 その霊力を使った、より強力な技を使えば戦闘力は上がるが、使う武器に掛かる負担も大きくなる。エンチャントウェポンで強化された程度の武器では、キリヲの霊力に耐えきれずに砕けてしまう。そのため、キリヲは全力で霊力を使うのではなく、少量の霊力で高い効果を発揮する呪詛を使ったのだ。

 

 「……はあ。とにかく、魔族狩りの犯人は、わたしの方で探す。貴様らは、犯人の居場所が分かるまで、この部屋で待機していろ」

 

 そう言うと、那月はキリヲ達に背を向け、空間転移魔術で音もなく部屋の中から、その姿を消した。

 

 ***

 

 「結局、九重先輩は何だったんでしょうか?」

 

 正午。高く昇った太陽がジリジリとアスファルトを焼く中、雪菜は道を進みながら隣を歩く、古城に問いかけていた。

 

 「……さあな。でも、俺達を助けてくれたし、味方って考えていいんじゃないか?」

 

 二人が話していたのは、昨晩の出来事。魔族を襲う西欧教会の宣教師、そして眷獣を宿す人工生命体。さらに、古城達を助け、殲教師達と死闘を繰り広げた転校生のキリヲと着任してきたばかりの講師、ジリオラ。

 古城の見えないところで戦いが始まっているのは明白だった。

 その後、今回の一件を大規模な魔導犯罪と断定した雪菜が獅子王機関の一員として解決させると言い出して、二人は、魔族狩りの宣教師のことを調べていた。

 

 「今日は、キリヲは学校休んでたし、ジリオラ先生も来てないって那月ちゃんに言われたもんな……」

 

 昨晩のことを問いただそうと本人達を訪ねてみたが、担任教師にあっさりと門前払いを食らってしまっていた。

 国家攻魔師である担任教師と昨夜現場にいたキリヲとジリオラは頼れなかった。

 よって、二人が頼ったのは別の人物だった。

 藍羽浅葱。絃神島管理公社のセキュリティ部門に雇われるほどの凄腕ハッカーである彼女に古城たちは頼ったのだ。

 浅葱が見つけ出したのは、ロタリンギアに本社を置き、今は絃神島から撤退した製薬企業だった。その会社の設備が未だに放置されているのを浅葱は見つけ出したのだ。ここに宣教師と人工生命体がいると古城達は考えていた。

 

 「先輩、見えてきました。あの建物です」

 

 雪菜が声を上げて、眼前の建物に駆け寄る。

 目の前の廃ビル、製薬企業の工場跡地の入り口は、数ヶ月は触られなかったであろう程に鍵や取手が錆び付き、腐食していた。少なくとも、ここ数日は出入りがなかった様子だ。

 

 「……外れか」

 「いいえ、先輩。ここで正解です」

 

 目論みが外れて落胆した様子の古城に雪菜が笑いかけて答える。

 そして、ギターケースから取り出した破魔の槍ーー雪霞狼の切っ先を錆びた扉の鍵に押し当てる。

 雪霞狼の刃に触れた鍵は、パリンとガラスが割れたような音を立てて真の姿を見せる。

 錆び付いてもいない、普通の扉。施錠も解除されている。明らかに何者かが出入りしている跡だ。

 

 「幻術です。……先輩も第四真祖なんですから、これくらいで騙されないでください」

 

 呆れた様子で扉を開けた雪菜は、工場跡地の中に足を踏み入れていく。

 工場跡の奥に進んでいき、二人はソレを目にする。

 大量の大型培養槽の中に浮く、爬虫類とも哺乳類ともかけ離れた歪な生物。

 

 「これは……」

 

 雪菜が口元に手を当てて絶句し、古城は無言で拳を握りしめる。

 その背後に。

 

 「警告。今すぐ退去してください」

 

 抑揚のない声が古城と雪菜の背中に投げられた。

 条件反射で二人とも声の主の方向に顔を向ける。二人の背後に立っていたのは、昨夜、旧き世代の吸血鬼を襲い、キリヲと激闘を繰り広げていた人工生命体、アスタルテだった。

 その藍色髪を持つ人工生命体の少女の姿を確認すると、雪菜は即座に古城の目を槍を持っていない左手で覆って隠した。

 

 「先輩は、見ちゃダメです!」

 

 布地の薄い、病衣が肌にピッタリと張り付いている様子から培養槽から出た直後と思わしきアスタルテは、生気を宿さない無表情も合わさって、今にも崩れてしまいそうな儚さを醸し出していた。だが、それ以前にほとんど肌がむき出しの少女の姿を古城の目に入れないため、雪菜は古城の視界を封じたのだ。

 

 「この島は、間もなく沈みます。その前に逃げてください。なるべく、遠くへ……」

 

 古城が雪菜に視界を塞がれて驚きの声を上げている間にも、アスタルテの警告は続いていた。

 だが、その内容は古城達の理解を遥かに越えるものだった。

 島が沈む。すなわち、この絃神島が沈むことを意味するその警告に古城は、背中に冷たいものが押し当てられたかのような寒気を覚えた。

 

 「それは……どういうーー」

 「“この島は、龍脈の交差する南海に浮かぶ儚き仮初の大地。要を失えば滅びるのみ"……」

 

 アスタルテの警告の意味を問いただそうと雪菜が口を開くと同時に、アスタルテの背後からもう一つの声が響いてきた。

 低い男の声。その声に古城と雪菜は警戒するように身構え、アスタルテもビクンッと肩を震わせて怯えるように反応していた。

 詩を読むような口調で言葉を発しながら姿を表したのは、法衣に身を包んだ殲教師ーールードルフ・オイスタッハだった。

 

 「我らの望みは、要として祀られし不朽の至宝の奪還」

 

 培養槽の影から姿を表したのはオイスタッハは、戦斧を担ぎ、アスタルテの隣で立ち止まった。

 

 「永きに渡る屈辱を堪え忍んできましたが、ようやく我が悲願を達成するのに足る力を得ました」

 

 そう言うオイスタッハの表情は、歓喜、憎悪、そして闘志を宿した歪な笑みを浮かべていた。

 

 「至宝の奪還……?それに力……?一体なんのことをーー」

 「おい、おっさん。力ってのは、その人工生命体に埋め込んだ眷獣のことを言っているのか?」

 

 雪菜の言葉を遮って古城が怒気を孕む声を発する。その視線の先にいるオイスタッハは、ほう、と感心したと言わんばかりに声を漏らした。

 

 「分かりますか。第四真祖。その通り。このアスタルテこそが至宝奪還の要なのです。世界で唯一、眷獣をその身に宿す人工生命体。このアスタルテの力をもって我らの悲願を遂げます」

 「ーー!ふざけんなっ!どうして、眷獣を宿せるのが吸血鬼だけなのか、あんたも知ってるだろ!?」

 

 誇らしげに語るオイスタッハに古城は怒りを爆発させるように怒鳴る。

 無限の負の生命力を持つ吸血鬼だからこそ、この世の理を外れた存在である眷獣を

召喚できるのだ。もし、吸血鬼でもない者が眷獣を召喚しようものなら、生命力を一気に眷獣に食らいつくされて、死に至るのは自明の理。

 だが、そんな古城に興味ないといった様子でオイスタッハは、冷たい笑みを浮かべる。

 

 「……確かに〈薔薇の指先〉を宿している以上、アスタルテの命は後、数日程でしょう。ですが、それだけあれば、我が目的は達成できます。何も問題はありませんよ」

 「そんな……、その子を道具みたいにーー」

 「道具ですよ。そして、それを貴女が憤るのですか?剣巫よ」

 

 信じられないと言葉を失う雪菜にオイスタッハは、嘲るような視線を向ける。

 

 「貴女も獅子王機関によって造られた道具のようなものでしょう?思い出してみてください、貴女には戦う以外の選択肢がありましたか?」

 

 雪菜達、獅子王機関の攻魔師は両親のいない孤児であり、幼い頃から高神の杜で戦闘訓練をさせられてきた。無論、行われていた訓練は人道的なやり方で行われていたし、それ以外の教育も人並み以上のものを受けることができていた。獅子王機関のやり方に不満はないし、攻魔師になったのだって自分の意思だと思っている。

 だが、攻魔師になる以外の道は自分にはあっただろうか。

 雪菜は、その問いに頷くことはできなかった。

 

 「元々、道具として造られたアスタルテを道具として使うわたしと、神の祝福を授かって生まれた人間の貴女を道具として使い潰す獅子王機関、どちらが罪深いでしょうか?」

 「黙れよ、おっさん」

 

 言葉を失う雪菜の代わりに古城が声を上げる。

 

 「……あんたが何考えて戦っているのか知らねえけど、この島を沈めるなんて、させるわけないだろっ!」

 

 古城の怒りが魔力に形を変えて体から漏れ出す。青白い電光が迸り、辺りを照らし出す。

 

 「この島には、那月ちゃんだっている。あんたの企みは成功しない」

 「那月……。南宮那月。空隙の魔女ですか……。確かに彼女は脅威ですが、無論我々も対策は取っています。彼女に我々を止めることはできませんよ」

 

 那月の名前が出されてもオイスタッハの余裕が崩されることはない。

 

 「それに、キリヲやジリオラ先生だっている。絶対にあんたを止めるぞ」

 

 古城も、オイスタッハにプレッシャーをかけるように二人の名前を出す。昨夜、アスタルテはキリヲに圧倒され、ジリオラの出現によってオイスタッハは撤退を強いられていた。この二人にとってキリヲとジリオラは十分に脅威になると古城は考えていた。

 しかし。

 

 「くっ、ククッ、ハハハハハッ」

 

 オイスタッハは、耐えられないといった感じで突然、笑い出した。

 

 「な、なにが可笑しい!?」

 「クククッ、いえ、すいませんね。貴方があまりにも滑稽なことを言うものですから」

 

 何故笑われたか理解できないと古城が驚いていると、オイスタッハが笑いを押さえながら口を開く。

 

 「確かに、彼らは脅威です。我々の道を阻む可能性のある不穏分子であるのは確かです。ですが、我らを止めるために彼らを頼るのですか?理解できませんね」

 「なぜだ?犯罪者を止めるために、戦える奴の力を頼ってなにが悪い?」

 

 要領を得ないオイスタッハの物言いに古城が怪訝そうに言い返す。

 だが、次にオイスタッハが言った言葉は古城の予想を大きく裏切るものだった。

 

 「彼らも犯罪者ですよ?」

 「は!?」

 

 オイスタッハの言葉に古城は、驚愕に目を見開く。

 

 「九重キリヲ。ジリオラ・ギラルティ。二人ともかつて、大勢の人間を殺し、国際指名手配を受けていた魔導犯罪者であり、監獄結界の囚人です」

 「監獄結界……?」

 

 聞き慣れない単語に古城が疑問符をつけて言葉を発する。

 

 「絃神島にあると言われている特殊な刑務所ですよ。あの空隙の魔女が看守を務めており、通常の手段では拘束できない凶悪犯を封じ込めているそうです。彼らは、その監獄結界から来た犯罪者なのですよ」

 

 オイスタッハの言葉に古城は愕然とする。

 

 「我々を否定するのに、私利私欲のために人を殺め続けてきた彼らのことは、肯定するのですか?第四真祖よ」

 

 オイスタッハの問いに古城は、返事をすることができない。ただ、かすれた息が喉から漏れるだけだった。

 そんな、古城に侮蔑の視線を送ったオイスタッハは握っている戦斧を構え、臨戦態勢をとる。

 

 「……どちらにせよ、我らの道を阻む者は排除するまでです。アスタルテ!」

 「命令受諾」

 

 オイスタッハの指示を受けたアスタルテが〈薔薇の指先〉を顕現させ、その巨腕で古城を叩き潰そうとする。

 反応が遅れて対処できない古城を庇うために雪菜が雪霞狼を構えて、〈薔薇の指先〉を迎え撃つ。

 あらゆる魔術を無効化する雪霞狼なら魔力の塊である眷獣を消滅させられると考えていた雪菜の予想は、裏切られることになる。

 キイィンッと澄んだ音を立てて雪菜の雪霞狼とアスタルテの〈薔薇の指先〉が激突し、互いに押し合い、拮抗していたのだ。

 

 「なっ!?」

 

 ありえない、という言葉を雪菜は飲み込んだ。本来、あらゆる魔術を無効かする雪霞狼が拮抗するーーそれは、相手が同じ力を持っている時を除いてありえない。

 すなわち、アスタルテの〈薔薇の指先〉も雪霞狼と同じ神格振動波を纏っていることになる。

 

 「獅子王機関の秘奥兵器。世界で唯一、実用化に成功させた神格振動波。剣巫、貴女との戦闘データによって我々もこの力を複製することに成功したんですよ」

 「そんな……!?」

 

 オイスタッハの言葉によって雪菜の表情が暗い絶望に染まっていく。

 

 「もはや、貴女の七式突撃降魔機槍は脅威にならない。ここで、排除します。獅子王機関の傀儡よ、魔族ではなく人の身であるわたしに殺されることを救いと知りなさい」

 

 アスタルテに雪霞狼を封じられ、動きの取れない雪菜にオイスタッハが戦斧を降り下ろす。

 グチャッ。

 巨大な戦斧が肉を割く音が鳴り響く。

 

 「え……?」

 

 雪菜は、状況が理解できず間の抜けた声を上げる。目の前で雪菜を庇って戦斧の一撃を受けた古城の背中と吹き出した赤い鮮血を見て。

 

 「そ、そんな……先輩……」

 

 やがて、目の前の現象を認識した剣巫の少女が悲鳴を上げる。受け入れることのできない現実に耐えられず、絶叫を上げる。

 それが、この場の戦いを締め括る合図となった。

 

 ***

 

 彩海学園、執務室。

 

 「魔族狩りが現れた」

 

 何もななかった場所に突然、現れた黒いゴシック調のドレスに身を包んだ魔女ーー南宮那月が、室内にいた二人に告げる。

 

 「場所は?」

 

 ソファーに座って、待機していたキリヲが立ち上がり、那月に訪ねる。向かいに座っているジリオラもすぐに動けるように寝かしていた上体を起き上がらせる。

 

 「キーストーンゲートだ。現在、駐在していた特区警備隊が応戦中だが、状況を見る限り押されているようだ。全滅は時間の問題だろう。貴様らに対処してもらう。準備しろ」

 

 相変わらず、高圧的な物言いで命じる那月にジリオラが口に手を当ててあくびをしながら言葉を発する。

 

 「わたし達が行くよりも、貴女が空間転移で飛んでいって相手した方が早いんじゃないの?」

 

 確かに単純に戦闘能力だけを見れば、キリヲ達が行くよりも那月本人が行った方が効率的だろう。並大抵の相手なら那月一人でも十分に対処できるはずだ。

 もしも、那月でも敵わない相手ならキリヲやジリオラが行っても相手にならないだろう。行くだけ時間の無駄なのである。

 

 「できることなら、わたしが行きたいところだが、相手もわたしを警戒している様でな。キーストーンゲートを中心に半径二キロ圏内に空間転移の魔術を阻害する結界が展開されている。入ることも叶わん」

 

 諦めたように嘆息しながら那月が言う。

 

 「……じゃあ、わたし達が行くしかないわね」

 

 そんな、那月の様子を見てジリオラも腹を括ったように立ち上がる。

 二人揃って部屋から出て、現場に向かおうとした時、キリヲの背中に那月が声を投げ掛ける。

 

 「九重キリヲ。代わりの武器だ。こいつを使え」

 

 持ってきていた、細長い銀のアタッシュケースをキリヲに投げ渡す。

 

 「こいつは……」

 

 寄越されたアタッシュケースを開いて中身を確認する。

 ケースの中に納められていたのは、一振りの刀だった。白いカラーリングで機械的な柄と鞘を持っている。手に取って鞘から刃を抜くと銀色の輝きを見せる刀身を見せる。曇り一つない刃は、洗練された鍛冶技術を彷彿させ、柄や鞘は、白色の機械的な外装でコーティングされていて、最新鋭の科学技術を詰め込まれたようなフォルムをした刀だった。

 

 「この前、貴様に渡したエンチャントウェポンとは比べ物にもならない逸品だ。こいつなら、貴様の全力にも耐えられるだろう」

 

 那月の言葉にキリヲも満足そうに頷く。

 

 「……なあ、南宮那月。こいつの核に使われているのは聖剣か?」

 「そうだ」

 

 鞘から抜いていた刃を見て、キリヲは那月に訪ねた。現代に開発される強力な武神具は、歴史上において強力な力を持った武具を核に使って作られることがあった。雪菜の使っている、七式突撃降魔機槍も古の霊槍を核に製造されたものだった。そして、今、キリヲが手にしている刀にも強力な武具が核として使われていた。

 

 「……よく手に入れたな」

 

 無論、聖剣などを代表とする古の強力な武具は、希少価値の高いものだ。非常に高価であり、所有しているのは国営の研究施設や小国の王族などで、那月でもそう簡単に用意できるものではない。

 

 「どこかで、貴様の仮釈放のことを聞いたみたいでな。アルディギアの腹黒王女が送ってきたものだ」

 「ラ・フォリアか……」

 

 核となった聖剣の出所を聞いて、納得したキリヲは刀を鞘に戻した。機械的なフォルムの鞘にジャリンッと音と火花を立てて刃が収納される。

 

 「……もっとも、送られてきた聖剣は太古の時代の骨董品で、とても実戦で使えるような状態じゃなかったから、修復とカスタマイズは済ませておいた」

 

 鞘にM・A・Rのロゴが刻印されているのを見て、この最新技術を駆使した改良が誰の仕業か分かった。

 

 「核になった剣……腹黒王女が送ってきた聖剣は、〈フラガラッハ〉だ」

 

 かつて、聖なる乙女が振るった神の加護を授かった救世の剣。キリヲも実物を見るのは、初めてだった。

 

 「どうだ、こいつで足りるか?」

 「……ああ。十分だ」

 

 新たな得物を手にしたキリヲは、今度こそ振り返ることなく、執務室を後にして現場へと向かった。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 




 すいません。前回、次で聖者の右腕編完結と言いましたが、予想より長くなりそうだったので、二回に分けました。
 次回で本当に完結させる予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。