ストライク・ザ・ブラッド ー監獄結界の聖剣遣いー   作:五河 緑

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 大変お待たせしました。


天使炎上編Ⅶ

 

 金魚鉢

 

 「獅子の巫女たる高神の剣巫が願い奉る!雪霞の神狼、千剣破の響きをもて楯と成し、兇変災禍を祓い給え!」

 

 雪菜が破魔の力を宿す銀の槍〈雪霞狼〉を大地に突き立て、青白い光のドーム状の、神格振動波の結界を張った。

 猛威を振るっていた吹雪が遠ざかり、結界の内部は安全な状態になった。

 

 「大義でした、雪菜」

 

 結界を張り終えて、地に横たわる古城に駆け寄る雪菜に、ラ・フォリアが労いの言葉を投げ掛ける。

 

 「古城の様子は?」

 「まだ、目覚めません。ほとんどの傷は塞がったんですけど、胸の大きな刺し傷だけが残ってしまっていて…………」

 

 不安そうに古城のパーカーの裾を握り締めながら雪菜はラ・フォリアに言葉を返した。

 

 「あの…………九重先輩は?」

 

 ジリオラに担がれていたキリヲは、今は古城と同様に地面に横たわって目を閉じていた。

 胸の銃創からは絶えず血が流れ出している。驚異的な再生能力を持つ古城と違い、魔族ではないキリヲは雪菜の目にも危険な状態に見えた。

 

 「…………胸に精霊炉を埋め込んでいたのが幸いでした。銃弾はそこで止まっていて、心臓には届いていません」

 

 悲痛そうに目を伏せながらラ・フォリアが言った。

 

 「……でも、弾を摘出しないと不味いわよ。あと止血も」

 

 今までキリヲの容態を見ていたジリオラが、キリヲの胸の出血を止めようと傷を押さえながら珍しく焦っている様子を見せていた。

 

 「……………わたくしがやります」

 

 ジリオラの言葉を聞いたラ・フォリアが意を決したようにキリヲの側に座り込んで太股のホルスターから〈アラード〉を抜き、銃身の先端に着装されている銃剣をキリヲの傷に向ける。

 

 「押さえておくわ。………………やって」

 

 ジリオラが緊張した面持ちでキリヲの二の腕を掴み、のしかかるようにして押さえ込んだ。

 ラ・フォリアの頬に冷や汗が流れる。やがてラ・フォリアがゆっくりとした動きで銃剣をキリヲの傷口に刺し込んだ。

 

 「………………っ!」

 

 意識は戻っていないがキリヲの身体が痛みに反応するようにビクッと大きく震える。

 すかさず、ジリオラが力を込めてキリヲの体を押さえつける。

 

 「キリヲ、耐えてください……………!」

 

 祈るように言いながらラ・フォリアは、さらに銃剣をキリヲの傷の奥に押し込んでいく。

 銃剣の刃が半ばほどまで埋まったところで刃の先端に硬質なものが当たる感覚がラ・フォリアの手に伝った。

 弾の位置を探り当てたラ・フォリアは、銃剣を捻って抉るようにゆっくりと抜いていく。

 銃剣が傷口から完全に抜き取られると同時に、弾頭がへこんだ金色の薬莢が転がり出てきた。

 

 「どいて、止血するわ」

 

 銃弾が摘出されたのを確認したジリオラがコートのポケットからライターを取り出しながら言った。

 ライターの火でラ・フォリアの〈アラード〉の銃剣を炙る。刃が十分に熱を持って赤く染まるとジリオラは、ラ・フォリアから〈アラード〉を受け取り、赤々と熱を発する銃剣をキリヲを傷に向けて、一思いに押し付ける。

 

 「……っ………ウゥッ」

 「キリヲ…………」

 

 ジュウと音を出して焦げた臭いが周囲に立ち込める。

 傷口を焼かれたことで強制的に出血を止められたキリヲが苦しそうに呻くと悲痛そうな表情を浮かべたラ・フォリアが手を握ってキリヲの名を呼ぶ。

 

 「……………とりあえずは、これで大丈夫よ」

 

 〈アラード〉をラ・フォリアに返しながら、地面を赤黒く染めたキリヲの大量の血液を見てジリオラが溜め息をついて言う。

 

 「九重先輩………」

 

 目の前で行われた、手当てというには痛ましすぎる行為に雪菜は絶句していた。

 

 「…………でも、なんで当たったりしたのかしら?銃火器如きにやられるような玉じゃないでしょ、こいつ」

 「………あの、ジリオラ先生。一応、怪我人ですからもう少し優しく………」

 

 手当てし終えたキリヲの頭を爪先でコンコンとつつくジリオラに雪菜が焦った様子で声をかける。

 

 「………叶瀬賢生もキリヲと同じ、魔義化歩兵の義眼を持っていました。恐らく、彼も未来を見ることができるのでしょう」

 

 ラ・フォリアがそう言うと、ジリオラは怪訝そうに顔をしかめて口を開く。

 

 「……………おかしいわねぇ。確か魔義化歩兵はCSAご自慢の独占技術じゃなかったかしら?」

 「今は違います」

  

 ジリオラの言葉を首を横に振って否定するラ・フォリア。

 

 「六年前、当時キリヲはCSAの遊撃部隊〈ゼンフォース〉の一員でした。…………あの日、国境を越えて破壊工作を行っていた〈ゼンフォース〉に、アルディギアの聖環騎士団が奇襲を仕掛けたんです。結果、〈ゼンフォース〉は撤退。隊員三名を捕虜として捕らえました」

 「………その中に九重先輩が?」

 

 雪菜の問いかけに一度小さく頷いて、ラ・フォリアは話を続けた。

 

 「捕虜として拘束された魔義化歩兵三名の内、二人は祖国への忠誠を示すために体内の魔具を爆破させて自決。……………残ったのは、まだ幼くてCSAにそれほど忠誠心のなかったキリヲだけでした。彼は、自分の体に使われている魔義化歩兵の技術を提供することを条件に、傭兵として雇われるという形で王宮に身分を保証させたのです」

 「つまり、今はアルディギア王国にも…………」

 「魔義化歩兵の技術が存在します」

 

 ラ・フォリアの説明を聞いたジリオラが納得したように肩をすくめた。

 

 「では、叶瀬賢生が使っている義眼は……」

 「十中八九、王宮を抜ける時に持ち出したキリヲの体の情報を基に造ったのでしょう」

 

 忌々しそうに表情を歪めて目を伏せるラ・フォリアに同意するようにジリオラも憂鬱そうな表情を浮かべた。

 

 「…………確かに面倒くさそうね」

 「ええ。……………ですが、やはり最大の脅威は賢生ではなく叶瀬夏音ーー〈模造天使〉です」

 

 〈模造天使〉の放った光の剣によって撃ち抜かれて地に伏している古城に目を向けながら言うラ・フォリア。

 

 「古城は、大丈夫ですか?」

 「…………やっぱり、胸の傷だけが塞がりません」

 

 キリヲの手を握りながら聞いてくるラ・フォリアに雪菜が答える。

 それを聞いたラ・フォリアは、しばらく古城の胸の周囲を眺めて怪訝そうな表情を浮かべた。

 

 「…………なるほど。古城の体には、まだ〈模造天使〉の剣が刺さっているのですね。わたくし達には触れることもできない剣が………」

 「…………どういう意味かしら?」

 

 ラ・フォリアの呟きにジリオラが顔をしかめて問いかけた。

 

 「………〈模造天使〉は、高次元に留まることができる存在です。わたくし達とは異なる次元にいるため、目の前にいてもこちらから干渉する事はできません。〈模造天使〉が放つ剣も同じ特性を持っているのでしょう」

 「わたし達とは異なる次元…………なるほどね、確かにそれなら眷獣の攻撃が効かなったのも納得できるわ」

 

 ラ・フォリアの説明にジリオラも疲れたように溜め息をついて頷いた。

 

 「…………ですが、どうやら古城の眷獣の中に〈模造天使〉の能力を無効化できるものがいるようですね。そうでなければ、古城はとっくに消滅しているはずです」

 

 旧き世代の吸血鬼ですら瞬時に灰に変えるほどの力を持つ〈模造天使〉の剣を受けて未だに朽ちることのない古城の体を見て、ラ・フォリアが言う。

 

 「まさか…………〈焔光の夜伯〉から受け継いだ新たな眷獣!?」

 

 雪菜も古城を救っている存在の正体に気付き、驚愕に目を見開いていた。

 

 「………ええ、ですがまだ完全に目覚めているわけではありません。その眷獣を完全に呼び覚まさない限り、古城に刺さっている剣を取り去ることはできないでしょう」

 

 そう言うとラ・フォリアは、握っていたキリヲの手を静かに放して上着を脱ぎ始めた。

 

 「な、なにをしているんですかラ・フォリア!?」

 

 突然、服を脱ぎ始めたラ・フォリアに雪菜が慌てて叫びながらシャツのボタンを外そうとするラ・フォリアの手を掴む。

 

 「未覚醒の眷獣を目覚めさせるには、霊媒の血を飲ませるのが一番良いのですよね?意識がなくても性的興奮を引き起こせば、吸血行為は可能なはずです。わたくしの血ならば問題ないと思うのですけれど…………」

 

 首を傾げて言うラ・フォリアに雪菜がさらに慌てた様子で声を張り上げる。

 

 「そんなのダメです!貴女がそこまでする必要はないですし、何よりラ・フォリアには九重先輩がいるじゃないですかっ!?」

 

 雪菜の口からキリヲの名前が出た瞬間、ピクリとラ・フォリアの肩が僅かに震えた。

 

 「………………今は緊急時です。キリヲも分かってくれるはずです」

 「いいえ、絶対にダメです!貴女と九重先輩は、お付き合いしている仲なんですよね!?そんなことしたら、九重先輩は、絶対に悲しみます!」

 

 ラ・フォリアの手を取って雪菜は、言葉を続ける。

 

 「九重先輩への想いを…………自分の気持ちを裏切ったりしないでください」

 「………………雪菜」

 

 自らの手を取って思いの丈を訴える雪菜にラ・フォリアも何も言い返せなかった。

 

 「……………暁先輩は、わたしが助けます」

 

 そう言うと、自らの得物である〈雪霞狼〉の刃で自分の手首を切って滲み出てきた血を口に含むと、雪菜は古城の顔に唇を寄せる。

 

 「…………」

 「……………っ」

 

 ソッと唇を重ねて口の中に含んだ血を流し込んでいく。やがて口の中の血を全て口移しで飲ませた時、古城に変化が起きた。

 意識が戻っていないであろう状態で体を起こし、雪菜の肩を掴むと勢いよく押し倒して雪菜の首筋に口を寄せていく。

 そんな荒々しい古城の瞳は、深紅に染まっている。

 ラ・フォリアとジリオラが見ている中、古城が血を啜る音と雪菜の荒い息遣いだけが響き渡っていた。

 

 

 ***

 

 〈メイガスクラフト〉貨物船

 

 ネクロマシー技術を応用した軍用オートマタを格納しているコンテナをいくつも乗せた大型貨物船。

 その貨物船の甲板に船内を警備していた軍用オートマタと死闘を繰り広げる一人の少女の姿があった。

 髪をポニーテールに結っていて、手にしているのは銀の片刃剣。

 あらゆる物質の空間連結を斬り裂く擬似空間切断能力を持つ武神具〈六式重装降魔弓〉ーー〈煌華鱗〉を振るうのは、獅子王機関の舞威媛、煌坂紗耶香だった。

 

 「もうっ、しつこいんだけど!」

 

 斬っても斬っても際限なく船内から湧き出てくるオートマタに、紗耶香はうんざりしたように声を張り上げる。

 このままでは埒が明かないと判断した紗耶香は、〈煌華鱗〉の形状を刀剣から弓に変形させる。

 

 「獅子の舞女たる高神の真射姫が讃え奉る!極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、憤焔をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり!」

 

 太股のホルスターから取り出した銀色の伸縮式ダーツを矢に変えて詠唱と共に空に向かって撃ち放った。

 人の声帯では唱えられない祝詞が慟哭にも似た重低音となって響き渡り、貨物船上に呪詛が降り注ぐ。

 呪詛を浴びたオートマタ達は、内部の魔術回路を完全に破壊されて全て沈黙した。

 全てのオートマタを片付けて紗耶香が疲れたように溜め息をついた直後。

 

 「ご苦労だったな、舞威媛」

 「誰!?」

 

 突然、背後から聞こえた声に紗耶香は新たな矢を弓につがえて振り返る。

 振り返った先にいたのは、黒いゴシック調のドレスに身を包ん、日傘をさして佇む少女だった。

 

 「…………南宮那月。いたなら手伝いなさいよ」

 

 優雅に佇む那月に、紗耶香が不満そうに頬を膨らませながら言う。

 

 「こんなところで何をしている?」

 「人探しよ」

 

 那月の問に紗耶香がぶっきらぼうに答える。

 一方で紗耶香の答えを那月は、納得したように小さく頷いた。

 

 「…………探しているのは、アルディギアの王女か?」

 「なぜ、知ってるの?」

 

 機密事項という扱いになっている自分の任務を一発で言い当てた那月に紗耶香が怪訝そうに顔をしかめた。

 

 「ポリフォニア…………………アルディギアの王妃からわたしにも捜索願が来た」

 

 那月の答えを聞いて、情報の出所が分かった紗耶香が納得したように肩の力を抜いた。

 

 「沿岸警備隊から〈メイガスクラフト〉所有の無人島で救難信号を受信したって聞いて来たんだけど。…………こいつらの出迎えがあったってことは、〈メイガスクラフト〉が一枚噛んでるって情報は本当みたいね」

 

 足元に転がっているオートマタの残骸を爪先でつつきながら紗耶香が言うと那月が愉快そうに笑みを浮かべながら口を開く。

 

 「こいつらを片付けた褒美に続報をやろう。……………貴様等、獅子王機関が気にかけている〈第四真祖〉と監視役の〈剣巫〉も同じ島にいるそうだ」

 「暁古城がラ・フォリア王女と同じ島に!?」

 

 那月が寄越してきた情報に紗耶香も驚いたように目を見開いた。

 そんな、紗耶香に構わず那月は更に話を進める。

 

 「ついでに、わたしが放し飼いにしていた囚人共も同じ島に行っているらしい」

 

 那月が放し飼いにしている『囚人』………つまり、ジリオラ・ギラルティと九重キリヲ。

 そこまで考えて紗耶香の顔から血の気が引いていった。

 

 「………………ねえ、わたしの記憶が正しければ、二年前に九重キリヲがアルディギアで虐殺を行ったのは、ラ・フォリア王女が原因だったわよね?」

 「そうだ、腹黒王女の事となるとあの小僧は抑えが全く利かなくなるからな。あの女に傷の一つでもついてみろ、タカが外れたように暴れ出すぞ」

 

 疲れたように眉間に皺を寄せて言う那月に紗耶香の顔がさらに青ざめる。

 

 「悠長にしてる場合じゃないわね。早く王女を見つけないと……………」

 「そう上手くいけば良いがな。…………あれを見ろ」

 

 那月が船の進行方向の先に見える金魚鉢の方に目を向けて言う。

 つられて同じ方向に視線を移した紗耶香は、目の前に広がっている自身の理解を超えた光景に呆然と立ち尽くした。

 

 「あれは、一体…………」

 「どうやら、あの馬鹿共はまた面倒ごとに巻き込まれているみたいだな」

 

 二人の視線の先にあったのは、金魚鉢から天に向かって伸びる白き氷の塔だった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 回想

 

 

 ーー痛い。

 

 朦朧とする意識の中、真っ先に口から出た言葉がそれだった。

 重たいまぶたを開けて、目だけを動かして周囲の様子を確認する。

 

 ーーここは………………?

 

 見覚えのない周りの風景に戸惑うようにそう言う。

 感触から察して自分が今、ベッドの上にいるのは分かった。

 右腕の感触が全くないことが気掛かりだったが、自分の右腕は神経の通った生身の腕ではなくて、鋼で出来た機械の腕だったことを思い出して納得した。

 

 ーーここは、どこ?

 

 改めて周囲を確認する。周囲には自分と同じように簡素なパイプベッドに横たわって体中の至る所を包帯で巻いている野戦服を着た兵士と彼らを手当している衛生兵の姿が見受けられた

 衛生兵達の着ている服には、CSAのロゴが刺繍されている。

 

 「…………起きたか、キリヲ」

 

 突然、すぐ真横で女性の声が聞こえた。

 声の主の顔を見るために痛む体に力を入れて左隣に顔を向ける。

 そこにいたのは、細く引き締まった身体を野戦服に包んだ白人の女だった。西洋人女性の中でもかなり長身の分類に入るほど背が高く、色素の薄い髪を肩の所でバッサリと切っている。顔立ちは整っているが、顔に浮かべている冷たい無表情と鋭い目つきのせいで、どこか近寄り難い雰囲気を醸し出していた。

 一年前に死にかけていた自分の命を拾ってくれたCSAの軍人、アンジェリカ・ハーミダだ。

 

 ーーここはどこ、アンジェリカ。

 

 「負傷者収容テントだ。お前は、吸血鬼の眷獣の攻撃に巻き込まれてここに担ぎ込まれた」

 

 ーー眷獣……………体が凄く痛いよ。

 

 曖昧な記憶の中で、自分を紙切れのように吹き飛ばした実体を持った魔力の怪物に襲われた瞬間を思い出し、同時に全身を苛む激痛も思い出した。

 

 「そうだろうな。…………あんな化け物に襲われたんだ。タダで済むはずがないだろ?」

 

 ーー………………ここで、死んじゃうのかな?

 

 「安心しろ。肋骨が三本折れただけで、後は打撲傷と裂傷だけ。後遺症も残らないはずだ」

 

 あまり心配する様子もなく、無愛想に言うアンジェリカ。

 

 ーー…………死んだ方が良かった。

 

 誰に言うわけでもなくポツリと呟く。

 

 ーー死んだら………終わったら、もう痛い思いもしなくて済むのに。

 

 諦めの感情を含んだ言葉が口からこぼれてきた。

 

 「……………お前は死にたいのか?」

 

 ーー………………うん。

 

 問い掛けに小さく頷くと、アンジェリカは傷ついて包帯を巻かれた身体を優しくさすりながら口を開く。

 

 「…………キリヲ。軍人には二つのタイプの人間がいる。出撃したその日にあっさりと死ぬ奴と、どんなに過酷な戦場に送り込まれても生きて帰ってくる奴だ。………この二つの違いはなんだと思う?」

 

 ーー……………強い奴が生き残って、弱い奴から死んでいくんでしょ?

 

 今まで見てきた戦場での光景を思い返しながらキリヲが言うと、アンジェリカは首を横に振ってキリヲの出した答えを否定した。

 

 「それは、違う。どんなに戦いに強い奴でも鉛玉を脳天に食らえば死ぬ。逆にどんなに弱くて戦いに勝てない奴でも弾に当たらなかったり地雷を踏まなければ生き残れる。………問題なのは、強さじゃない」

 

 優しく頭を撫でながらアンジェリカが話を続ける。

 

 「大切なのは、使命があるか否かだ。………軍人は、勝手に死ぬことを許されない。やるべきことをやってから死ななければならない。戦場に成すべき事がなくなって初めて兵士は、死ぬことを許されるんだ」

 

 ーー許す?……………誰が?

 

 「さあな、神様みたいな奴かもしれないし、もしかしたら運命と呼ばれているものかもしれない。……………とにかく、まだ戦場にやり残したことがある兵士は死を許されない。どんなに辛くても生きるために最善を尽くさなければならない」

 

 ーーどんなに辛くても………。

 

 「そうだ。……………わたしも随分と長い時間を戦場で過ごしているが、未だに死を許されていない。まだ、果たさなければならない役目が残っているんだ。……………そして、それはお前も同じだキリヲ。お前にも、まだ成すべきことが残っているはずだ。お前は、まだ倒れることを許されていない。お前に死を受け入れる許しは降りていない。だから、どんなに辛くても、痛くてもーー」

 

 全身を苛む痛みと過剰に投与されたモルヒネのせいで視界が徐々に暗くなっていき、目蓋が重くなっていく。

 言葉を紡ぎながら、アンジェリカは人工皮膚に包まれた機械の両手でキリヲの左手を優しく握り締める。

 機械の手が持つはずのない確かな温もりを僅かに感じた気がした。

 

 薄れゆく意識の中で最後に聞いた言葉はーー。

 

 

 「ーー生きろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 金魚鉢

 

 「………………………………っ、ここは?」

 

 意識が浮上した瞬間から激痛を訴え始める胸を手で押さえながら、重たい目蓋をゆっくりと開けていく。

 

 「目が覚めましたか、キリヲ!」

 

 上体を起こすと真っ先にラ・フォリアが銀色の髪を振り乱して駆け寄ってきた。

 

 「良かった………」

 

 キリヲの胸に飛び込むと、ラ・フォリアは縋るように身を寄せて賢生に銃弾を撃ち込まれたキリヲの胸の傷に両手を重ねた。

 自らの胸に飛び込んできたラ・フォリアの髪を優しく撫でるキリヲ。

 だが、その目は虚空を見つめていてどこかボンヤリとした雰囲気を醸し出していた。

 

 「夢を見ていた……………昔の」

 「え?」

 「…………いや、なんでもない」  

 

 ポツリと呟いたキリヲにラ・フォリアが顔を上げて反応したが、キリヲは微笑を浮かべながら首を横に振った。

 続いて視線を下ろして、賢生にマスケット銃で撃たれた銃創に目を向ける。

 

 「…………手当てしてくれたのか?」

 「すいません。ちゃんとした医療キットがなくて、かなり荒っぽい治療になってしまいました」

 

 傷口を指先でなぞるキリヲにラ・フォリアが申し訳なさそうに視線を反らしながら言った。

 

 「…………なるほど、バーベキューか」

 

 止血のために焼かれた傷跡を見て、キリヲが皮肉気にジョークを飛ばすとラ・フォリアが更に気まずそうに俯いてしまった。

 

 「…………焼いたのは、わたしよ。そのお姫サマを責めないであげて」

 「大丈夫だ、気にしてない。前にもやったことがある」

 

 ラ・フォリアに助け船を出したジリオラにキリヲが以前、CSAの野戦病院で過ごした日々を思い返しながら苦笑いを浮かべて言う。

 

 「怪我人は、俺だけか?」

 「いえ、古城も〈模造天使〉による攻撃で重傷でした」

 「…………おいおい、大丈夫なのか?」

 

 ラ・フォリアの言葉にキリヲが驚いた様子で古城に視線を向けた。

 魔族に絶大な効果を発揮する神気の攻撃に曝されれば、いくら古城と言えど無事では済まない筈だった。

 しかしーー。

 

 「ああ、なんとか大丈夫だ」

 「まったく、相変わらず先輩は人騒がせなんですから」

 

 思いのほか当人は元気そうだった。

 着ているパーカーは大量出血があったことを示すように赤く濡れているが、本人に怪我をしている様子はなく、隣にいる雪菜も浮かべている表情は心配ではなく呆れだった。

 

 「どうやら、古城の眷獣の中に〈模造天使〉の能力を無効化できるものがいるみたいなのです」

 

 ラ・フォリアの説明にキリヲも感心したように目を見開いていた。

 吸血鬼の持つ力は魔力を原動力に使っている。その対極ともいえる神気を無効化できる眷獣と言うのは、それだけ珍しい存在だったのだ。

 

 「新しい眷獣を………掌握したのか?」

 「〈剣巫〉の血を吸ってね。さっきは、凄かったわぁ。いつもの様子からは想像もできないほど積極的だったわよ、彼」

 

 古城を指差しながら愉快そうにジリオラが言うと雪菜は羞恥で赤く染まった顔を背け、古城も決まりが悪そうに視線を泳がせていた。

 

 「しかし、古城を蝕んでいた〈模造天使〉の剣は消えましたが新たな眷獣が目覚める気配がありませんね」

 

 ラ・フォリアが顎に手を当てて考える素振りをしながら、古城の瞳を覗き込んで言った。

 

 「この眷獣は………………………なるほど、そういうことですか」

 

 得心がいったように一つ頷いたラ・フォリアは、雪菜に向き直り口を開いた。

 

 「どうやら、この眷獣を目覚めさせるには二人の霊媒の血が必要のようです」

 「二人………か」

 

 ラ・フォリアの言葉にキリヲが今この場にいる面子に目を走らせた。

 雪菜………強力な霊媒だが既に古城に血を吸わせている。眷獣を呼び覚ますには、別の霊媒の血が必要になるだろう。

 ジリオラ………魔族であるジリオラの体内にあるのは、霊力ではなく魔力だ。眷獣の原動力にはなるが、眷獣を呼び覚ますための贄にはなり得ない。

 ラ・フォリア………代々強力な霊力を宿すアルディギア王家の血を引いている。霊媒としての質は最上級であり、〈第四真祖〉の眷獣を目覚めさせるには十分だろう。しかしーー。

 

 「ダメだぞ」

 「え?」

 「ラ・フォリアの血は、ダメだ」

 

 古城を見据えてキリヲがキッパリ言いきる。

 そんなキリヲにラ・フォリアが困ったように苦笑いを浮かべて口を開く。

 

 「キリヲ、気遣いは嬉しいですが今は緊急時なんですよ?〈模造天使〉を倒すためには彼の眷獣が必要です」

 

 申し訳なさそうに目を伏せるラ・フォリアにキリヲも返す言葉がなくなる。

 

 「大丈夫ですよ、キリヲ。たとえ、他の殿方に血を吸わせてもわたくしの貴方に対する想いは変わりません」

 「ラ・フォリア………」

 

 キリヲを安心させるために健気に微笑みを浮かべるラ・フォリア。ここまでされると、本当に何も言い返せなくなるキリヲだった。

 

 「…………なんか、俺がキリヲからラ・フォリアを奪おうとする悪者みたいな扱い受けてないか?」

 

 キリヲとラ・フォリアの会話を聞いていた古城が不本意そうに顔をしかめていた。

 

 「ていうか、血を吸わせるのが浮気になるなら貴方もこの前わたしとヤッたでしょう?」

 

 唐突にジリオラの発した言葉にキリヲの肩がビクッと震えた。

 今までキリヲを気遣うように微笑みを浮かべていたラ・フォリアの表情も固まる。

 

 「…………………どういうことですか、キリヲ?」

 「いや……あれは………その……」

 

 後ろめたい気持ちを隠すようにラ・フォリアから顔を逸らすキリヲ。

 だが、ラ・フォリアも逃がす気は毛頭なかった。

 

 「キリヲ、わたくしの目を見てハッキリと答えてください。今ジリオラが言ったことは本当なのですか?」

 

 キリヲの頭を両手で挟むように掴んで強制的に自分の顔に向けるラ・フォリア。浮かべている表情は満面の笑顔だが目が笑っていない。

 

 「あ、あれは……非常事態で、生きるか死ぬかの状況下だったんだ。俺としては大変不本意だったんだが、状況がそれを許してくれなくて………」

 

 視線が泳いでいる状態で必死の弁明をするキリヲ。

 

 「ちょっと、不本意ってどういう意味よ?」

 「話がややこしくなるから、少し黙ってろ」

 

 不満そうに口を挟むジリオラにキリヲが必死の形相で口を閉ざすように指示する。

 

 「本意では…………なかったと?」

 「ああ、勿論だ。俺は乗り気じゃなかったし、必要最低限のことしかしてない。…………そうだよな、姫柊?」

 

 この状況を乗り越えるために雪菜に助けを求めるキリヲ。あの場にいた雪菜に証人となってキリヲの無実を訴えてもらおうと考えたのだ。

 しかし、当の雪菜は…………。

 

 「すいません、九重先輩が上半身裸になった辺りから恥ずかしくて目を閉じていたので、なにがあったかは分からないんですけど…………」

 「姫柊、頼むから追い討ちかけるのは止めてくれっ!嘘でも良いから何もなかったとーー」

 

 あの時の事を思い出して顔を朱に染める雪菜にキリヲが声を張り上げる。

 だが時既に遅く……。

 

 「…………上半身裸ですか。それは、必要最低限のことなのでしょうか?それに『嘘でも良いから』って何か嘘をつかなければならないことでもあるのですか?」

 

 キリヲの頭を挟んでいる両手に力を加えながらラ・フォリアが笑顔のままキリヲに顔を近づける。

 

 「い、いや何もない。何もないぞ、ラ・フォリア。服を脱いだのだってジリオラに言われたからで、やましいことはなにも………ってイタッ、痛い、ちょ、ちょっと手に力入れすぎだろ、頭潰れるっ」

 

 万力のようにキリヲの頭に圧力をかけるラ・フォリアの手首を掴みながらキリヲも必死に許してもらおうと弁明する。

 やがて、拗ねたように頬を膨らませるとラ・フォリアはキリヲから手を放して自分の着ているシャツのボタンに手をかけた。

 

 「……彼にわたくしの血を吸わせます」

 「だ、ダメだ。ラ・フォリア、落ち着け」

  

 ボタンを外そうとするラ・フォリアの手を掴んで止めようとするキリヲ。だが、ラ・フォリアに引く気はなかった。

 

 「貴方もジリオラに吸わせたのでしょう?わたくしも古城に吸わせます。……………貴方も少しはわたくしの気持ちを思い知れば良いんです」

 

 いよいよ本気で拗ねたようにキリヲにそっぽを向くラ・フォリア。昔から、こうなったら何を言っても聞かないことを知っているキリヲは、疲れたように溜め息をついた。

 

 「なあ、ラ・フォリア。頼む、信じてくれ。俺が一番大切に想っているのは、いつだってお前だ。それだけは、嘘じゃない。絶対に」

 

 真剣な面持ちでラ・フォリアの顔を覗き込んでそう言うと、ラ・フォリアもシャツのボタンを外していた手の動きを止めて見上げるようにキリヲの顔を見返した。

 

 「………………………そんなことは、分かってます。少しヤキモチ焼いて欲しかっただけです。わたくしだけ、こんな思いするなんて不公平ですから」

 「もう十分、思い知ったよ。……………悪かった」

 

 勘弁したようにそう言うとキリヲは、優しくラ・フォリアの細い体を抱きしめて頭を撫でた。それで満足したのか、ラ・フォリアもシャツのボタンをしめなおした。

 とりあえず、古城がラ・フォリアの血を吸うという展開を回避したことでキリヲも安堵したように息を吐いた。

 

 「で、結局どうするの?〈第四真祖〉の眷獣を目覚めさせるための霊媒。言っておくけどわたしのはダメよ?眷獣を掌握するための餌は霊力じゃないといけないから」

 

 ジリオラがそう言うと、再度キリヲが困ったように表情を曇らせた。

 雪菜が既に血を吸われている以上、他に霊媒として血を提供できるのはラ・フォリアになってしまう。

 その時だった。

 

 「あの………今更になってしまうんですけど、九重先輩の血を吸わせても眷獣は目覚めるんじゃないですか?」

 「「「あ」」」

 

 雪菜がそう呟いた途端、この場にいた全員が動きを止めて間の抜けた声を上げた。

 確かにキリヲは生まれつき持っている霊力は常人程度だが、体内に小型精霊炉を埋め込んでからは、アルディギア王家の女系に匹敵するほどの霊力を全身に宿していた。

 吸血鬼の眷獣の霊媒には、十分になりうる血の持ち主だった。

 

 「……………よし、それでいこう」

 

 善は急げとでも言うようにキリヲは、鞘に納められている〈フラガラッハ〉を抜くと、銀色に光を反射する刃を手首に当てて皮膚を薄く切り裂いた。

 

 「ま、待てよ。さすがに男の血は…………」

 

 血の滲み出る左手首を差し出すと今度は、古城が引きつった表情を浮かべて半歩下がった。

 

 「姫柊、押さえろ」

 「はい」

 

 キリヲの指示を受けて雪菜が素早く古城の背後に回りヘッドロックをかけた後に足を絡ませて地面に引きずり倒し、そのまま寝技に持ち込んで動きを拘束した。

 

 「ひ、姫柊。いくらなんでも、キリヲの血はちょっと………」

 「他にいないんですから、仕方がないじゃないですか!」

 「いや、でも他にも……」

 

 雪菜に拘束された状態で古城が端で面白そうに目の前の光景を見物しているラ・フォリアに視線を向ける。

 すると、古城の関節を固めていた雪菜が激高したように声を張り上げて関節を絞める力を強める。

 

 「そんなにラ・フォリアの血が吸いたいんですか!?いやらしい!」

 

 雪菜が怒りを力に変えてギチギチと音を立てる関節を更に強く締め上げていくと古城の口から声にならない悲鳴が零れた。

 

 「観念しろ、古城」

 「いや、無理だって!いくらなんでも、野郎の血は無理ーー」

 

 雪菜に拘束されながら虚しい抵抗を続ける古城の口に躊躇なく左手首を押し付けるキリヲ。

 

 「いいから、黙って飲め」

 「グボボッ!?」

 

 古城の苦悶の声が、静寂が支配する氷の塔に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 氷の塔 内部

 

 (全部消えた………消してしまった)

 

 静寂と暗闇が支配する氷の塔、その最上部で幼い顔立ちの天使ーー叶瀬夏音は、膝を抱えてうずくまっていた。

 

 (全部、わたしのせいだ………」

 

 脳裏に浮かぶのは、ここ数日互いに殺し合った、同じ仮面を被せられたら少女達。そして、自らの手で刺した吸血鬼の少年と敬愛していた父が銃で撃ち抜いた黒髪の少年。

 

 (キリヲ……さん……)

 

 数日前に出会ったばかりの少年。共に過ごした時間は短かったけれど、彼はわたしに誰よりも優しく接してくれた。

 それが何よりも嬉しかった。

 ……………たとえ、その優しさが向けられていたのが自分ではなくても。

 彼が自分を通して別の誰かを見ているのは夏音にも分かった。

 自分にあれほど優しくしてくれるのは、彼の言う自分に似た他の女性がそれ程までに大切だからなのだろう。

 けれど、それでも構わなかった。

 他の人の代わりとは言え、彼の優しさに触れられたのが嬉しかった。

 でもーー。

 

 (それも………もう終わり)

 

 夏音は、ゆっくりと顔を上げた。

 翼を広げ、次なる次元に完全に昇華するために。

 この世界に、今まで感じてきた苦痛に、悲しみに、別れを告げるために。

 

 (もう…………わたしは…………消えてしまいたい)

 

 人ならざる声で叫びを上げ、夏音は氷の塔から飛び出した。

 蛹から蝶が羽化するように。

 

 

 

 

 ***

 

 金魚鉢

 

 「動き出したか」

 

 吹雪の止んだ金魚鉢の浜辺で今まで沈黙を保っていた氷の塔が突如、眩い光を放つのを見て白衣を着た男ーー叶瀬賢生は誰に聞かせるわけでもなく呟いた。

 

 「もう、お前をこの世界につなぎ止めるものは消えたのだな、夏音よ」

 

 氷の塔の外壁を破って翼を広げる夏音に賢生は、穏やかな微笑を浮かべた。

 その次の瞬間だった。

 

 「ん?あれは…………」

 

 氷の塔の最上部で動き始めた夏音に続くように塔の根本からも振動が発生したのだ。

 振動は徐々に強くなっていき、やがて氷の壁を突き破って緋色の双角獣が姿を表した。

 

 「〈第四真祖〉の眷獣………生きていたのか」

 

 賢生がそう呟くと、眷獣が開けた穴から五人の人影が姿を表した。

 

 「よう、オッサン。また会えたな」

 

 氷の塔から出てきた古城が獰猛に牙を剥きながら吼える。

 そして、古城に続くように現れたキリヲ達も敵意に満ちた視線を賢生に向ける。

 

 「叶瀬………」

 

 光り輝く翼を広げて賢生の側に降り立つ〈模造天使〉を目にしてキリヲが悲痛そうに表情を歪めた。

 

 「…………やはり、邪魔をするか」

 

 現れたキリヲ達を見て、忌々しそうに賢生は白い銃身のマスケット銃を取り出し、合図を出すように左手を上げた。

 

 「なに、あいつ等生きてたの?ホント、怠いんだけど」

 

 合図を受けて、賢生達が待避していた高速艇からベアトリスを先頭にロウ、〈白狐〉が姿を現す。

 

 「最後の儀式だ。XDA-7を完成させるぞ」

 「怠……、さっさと済ませるわよ」

 「まあ、給料分は働くとするか……」

 「〈剣巫〉……本家の実力を見せてもらおうかしら」

 「………………」

 

 賢生、ベアトリス、ロウ、〈白狐〉、〈模造天使〉がそれぞれ臨戦態勢を整えて前にでる。目の前に立ち塞がる敵をねじ伏せるために。

 

 「一人一殺だ。必ず全員で勝って帰るぞ」

 「ああ、ここから先は俺の喧嘩だ!」

 「いいえ、先輩。わたし達の喧嘩です!」

 「我が臣下達を手に掛けた罪、絶対に許しません」

 「格の違いってのをたっぷりと教えてあげるわぁ」

 

 キリヲ、古城、雪菜、ラ・フォリア、ジリオラも賢生達を迎え撃つように闘志をたぎらせて対峙し、キリヲが開戦を告げるかの如く小さく声を発する。

 

 「行くぞ」

 

 雪菜が〈雪霞狼〉を構え、〈白狐〉も〈乙型呪装双叉槍〉の矛先を雪菜に向ける。

 ジリオラとベアトリスが互いに使役している意志を持つ武器である眷獣〈ロサ・ゾンビメイカー〉と〈蛇紅羅〉を召喚した。

 ロウは、自身を狼の頭部を持つ獣人へと変身を終え、ラ・フォリアは呪式銃である〈アラード〉に呪式弾を装填する。

 〈模造天使〉である夏音は神気を纏った翼を広げ、古城の全身を眷獣の魔力が覆った。

 そして、キリヲと賢生が互いに胸の中と銃身の内部に埋め込んだ精霊炉を稼働させる。

 

 「「ヴェルンドシステム…………起動」」

 

 純白のマスケット銃と〈フラガラッハ〉を構える二人を白銀の霊力のオーラが包み込んでいく。

 

 

 叶瀬夏音、この一人の少女を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回で天使炎上編は、終わりの予定です。

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