ストライク・ザ・ブラッド ー監獄結界の聖剣遣いー   作:五河 緑

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聖者の右腕編Ⅱ

 「学食は、こっちだ。つっても、大体、自分で弁当持ってきてるから使う奴あんま、いないけどな」

 

 那月にキリヲの案内を任された古城が校舎の廊下を通りながら、食堂の説明をしていた。ちょうど、昼時で廊下にも生徒が溢れている。

 この日は、午前中で学校が終わりのせいか帰り支度をしている生徒も少なくない。

 

 「キリヲ、飯は?」

 「……持ってきてない」

 「あっ、独り暮らしだっけ?」

 

 古城の問いにコクりと頷いて返事をするキリヲ。

 

 「じゃあ、学食だな。悪いけど先行っててくれるか?俺も後で行くから。その後、また案内するよ」

 「……?なにか用事でもあるのか古城?」

 

 キリヲが首をかしげると、古城が、ああ、と言いながらポケットからピンク色の財布を取り出した。

 どうみても、女物だ。長年、投獄されていて世間に疎いキリヲでもそれくらいは分かった。

 

 「こいつを、中等部に届けてくるからさ」

 「失せ物か?」

 「ああ。昨日、拾ってな……」

 

 槍をぶん回す女子中学生が、という言葉を呑み込んで苦笑いを浮かべる古城。

 

 「そうか?じゃあ、学食で待ってる」

 「おう、すぐ戻る」

 

 そう言ってキリヲに背を向ける古城。その後にてに持っている財布を覗きこむ。

 

 (柄は、結構可愛いな。……槍とか持ってたけど)

 

 などと、考えていた次の瞬間。

 

 「ぐっ……!」

 

 突如、財布を抱えて古城がうずくまった。両手は自らの顔を覆っている。

 

 「どうした、古城!?」

 

 食堂に行こうとしていたキリヲが古城の異変に気付いて駆け寄った。

 

 「く、来るな。キリヲ……!」

 

 近づいてきたキリヲを全力で止める古城。

 

 (やべぇ。今、来られたら……ただの変態にしか見えねぇっ!)

 

 端から見れば、今の古城は女物の財布の匂いを嗅いで鼻血を出すほど興奮してる様にしか見えない。

 

 「お、おい、本当に大丈夫か?」

 「い、いや、ホント大丈夫だから……」

 

 そんな古城の心情など知る由もなくキリヲは、駆け寄って古城の背中をさする。

 

 「わ、悪い……」

 

 キリヲに介抱されながら、なんとも情けない声をあげる古城。

 

 「…………これも、吸血鬼化の影響なのか?」

 

 古城の背中をさすっていたキリヲが、ポツリと呟いた一言に古城は、顔を跳ね上げて反応した。

 

 「な、なんで、知って……るん……だ……?」

 

 その顔は、驚愕に満ちていた。決して知られているはずのない秘密を知られていたことに対する驚きだった。

 

 その時。

 

 「こんなところに、いたんですか」

 

 突然、二人の背後から声が掛けられた。

 振り替えると、そこに立っているのは中等部の制服に身を包んだ女子生徒。その背中には、大きめのギターケースが背負われている。

 

 「……女子の財布の匂いを嗅いで鼻血出すほど興奮するなんて。……なんて、おぞましい」

 

 女子生徒がドン引きした様子で古城を見下ろしていた。

 

 「誰だ?」

 「この、財布の持ち主だよ。昨日、会った。攻魔官らしい」

 

 キリヲの質問に古城が口早に答える。

 

 「攻魔官……」

 

 キリヲは、女子生徒の背負っているギターケースに目を向けていた。漏れ出す気配から、中身が楽器などではないのは明白だった。

 

 「姫柊……雪菜だったか?」

 「……なんで、名前を知ってるんですか?」

 「定期に書いてあったよ」

 

 ヒラヒラと財布を掲げる古城に女子生徒ーー雪菜が鋭い視線を向ける。

 

 「それ、わたしの財布ですね?返してください」

 「……その前に教えろよ。お前は、何なんだ。返すのは、それからだ」

 「…………分かりました。力ずくで奪い返せと言うことですね?」

 

 背中のギターケースのジッパーを開ける雪菜。

 その動きに合わせて古城も身構える。

 

 「…………」

 「…………」

 

 両者の間に一瞬の静寂が流れた後。

 

 ガッ。

 

 勢いよく、雪菜が床を蹴り、古城に急接近する。更に移動さながら、ギターケースの中身を取り出した、その先端を古城に向ける。取り出された銀色の槍は、ガチャンッと音をたてて刃を展開する。

 槍の切っ先は、真っ直ぐに財布を持つ古城の手首に向かっていく。

 その動きに古城は、反応できない。槍の先端が古城の手首に当たる寸前ーー。

 

 キンッ!

 

 辺りに甲高い金属音が響き渡った。

 古城の背後からキリヲが竹刀袋にいれていた刀を抜き放って、雪菜の槍を打ち払ったのだ。

 柄から刀身の先まで黒く塗りつぶされた太刀。魔術的に強化されているエンチャントウェポンだ。

 

 「っ!」

 「おっと……!?」

 

 雪菜は、突然の乱入者に警戒を露にして数歩下がった。

 一方でキリヲも魔術的に強化されていた刀に付与されていた術式がゴッソリと削り取られているのに驚いていた。

 

 「……その槍、七式突撃降機魔槍《シュネーヴァルツァー》か」

 「……何者ですか?攻魔官?」

 

 一瞬で己の得物の正体を見破ったキリヲに雪菜は、更に警戒を強める。

 

 「いや。攻魔官じゃない」

 「なら、なぜ武装しているのですか?それに、後ろの男の正体を分かっているのですか?」

 

 首を振るキリヲに雪菜が怪訝そうに言う。

 

 「……ああ。知ってるよ。第四真祖。世界最強の吸血鬼……だろ?」

 

 キリヲの答えに雪菜だけでなく古城も驚いた表情を浮かべた。

 

 「俺は……まあ、攻魔官の助手みたいなものだ。古城のことも南宮那月に聞いた」

 「那月ちゃんに!?」

 

 思わぬ情報の出所に古城が思わず声をあげる。

 

 「確かに俺は、攻魔官じゃないが、武装する許可は得てる。まだ、続けるなら相手になるぞ?」

 

 刀を正眼に構えてキリヲが威圧するように言葉を発する。

 だが、それに対峙する雪菜も引くことなく槍を構え直して相対する。

 

 「……」

 「……」

 

 まさしく、一触即発の状況の中でーー。

 

 グウウゥ。

 

 「……」

 「……」

 「………………」

 

 突如、鳴り響いた謎の奇音にキリヲと古城が首をかしげ、数秒後、音の正体を察した古城が気まずそうに口を開いた。

 

 「姫柊……ひょっとして、昨日からなにも食べてないのか?」

 「……………………だったら、なんですか?」

 

 俯いてプルプルと肩を震わせる雪菜。

 

 「だったら、なんですか!?」

 

 顔を上げて声を張り上げた雪菜の顔は、羞恥の色で真っ赤に染まっていた。

 

 この後、3人が一時休戦して食事のために近くのジャンクフード店に向かうのに、時間は掛からなかった。

 

 

 




 すいません。少し原作とズレました。

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