絶対正義の兄が斬る!   作:もちふじ

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いつにも増して、駄文で読みづらいと思います。
すみません。


変人達の会合

──老若男女に関わらず、様々な人の足音。主婦の井戸端会議の話し声。商人が荷馬車を引く、ガラガラとした重低音。

それらがてんでバラバラに音を奏でたミュージカル、帝都のメインストリートを表現するとしたら、こんな感じだ。

 

この悪政の世の中では非常に珍しい余裕のある表情をした者達、端的に言ってしまえばブルジョアは、活気溢れる帝国の裏側で何が起こり誰がどうなっているのか、全てを知りながら笑ってやり過ごす。

花の都とまで言われた帝国は、千年という長い時間をかけ、順調に腐っていきもはや生き地獄。一部の者を除き、皆が皆生きることに必死だというのに。

 

しかし、だ。この事情を知る者のほとんどは帝都の住人であり、地方の田舎者達は帝都の闇を一切と言っていいほど知らない。

それが良いことか悪いことかは分からないが、地方で重税に苦しみながら生き続けるのと、帝都で家畜のような扱いを受け、犯され殴られ痛めつけられ、死んだように生き続ける奴隷とでは前者のほうがまだマシではないだろうか。

 

閑話休題。

 

帝国の中で一際目を引く大きな建物、つまるところの宮殿を遠目から眺める黒髪の青年は、つい先日までは帝国の辺境にある、海軍に所属していた男だ。帝具使いのみの特別警察として帝国から招集され、生まれて初めて都会へとやって来たのである。

だが、帝都の華やかさに多少驚いたものの、彼の心に気後れや田舎者である恥などは少したりとも存在しない。自分の故郷が帝都に負けず劣らず、立派な場所だと自信があるからだ。

服だって彼が持つ中で最も洒落たものを着て来たし、同僚へのお土産として持ってきた海産物も絶品揃いと抜かりは無い。

 

その服が一昔前に流行ったものであるとか、袋がはちきれんばかりに詰められた大量の鮮魚が田舎臭さに拍車をかけていることとかなんて、彼が知る由もない。

周囲の視線や、自分を見てコソコソとする話し声が僅かに気になるものの、此処で慌てたり挙動不審になったりしては自分の故郷を陥れることになるやもしれない。故に、彼は胸を張り、堂々と歩く。

 

青年の名はウェイブ。海賊や海の危険種と戦ってきた、自称『漢の中の漢』。

彼は、心の中で腕を組んでどっしりと構える。言わばこれは、帝都への宣戦布告だ。

 

侮るなかれ、我は『海の男』なり。些細なことでは取り乱せないと知れ、帝都よ。

 

──こう宣言した数分後、まさか涙目になりつつこの言葉を撤回する事になるとは、勿論今の彼は知らない。

 

 

■ ■ ■

 

「──よし!」

 

宮殿内の会議室のドアの前で、ウェイブは満足げに鼻息を荒くして立ち止まった。

目的地まで迷うこと無く辿り着けた。元より方向音痴という訳でもなかったが、帝都に来たのも、宮殿に入ったのも初めてなのだから、誰の助けもなく自分の力でここまで来れたことは充分称賛に値するだろう。

 

そんな風に自分で自分を褒めながら、ウェイブは未来の仲間達との遭逢に胸を踊らせた。地元にはいなかった、自分と同じ帝具使いに出会えることは、たとえそれが人殺しの為に集まったと言えど、彼にとって喜ばしいことである。

最初が肝心。舐められてはいけない。

父がそう口を酸っぱくして言っていたのを、ウェイブはよく覚えている。叱りつけるように言っていたが、あれは父なりの応援だったのかもしれない。

ならば、それに応えてみせよう。見ていてくれ、父よ。

 

 

「こんにちは!帝国海軍から来まし──た・・・」

 

 

バン、と音を立てて開けた重たい扉の先にいたのは、予想外にたった一人。綺麗に膝の上で両手を重ねている──、上半身裸の大男だった。

 

それだけならまだしも、下半身を覆う衣服は拘束着のようで、頭部は顔面も含めて特徴的なマスクに隠されている。さらに、剥き出しの胸には三本の傷跡。時々マスクの隙間から漏れる「・・・シュコー、・・・シュコー」という音は恐らく吐息か。

 

マスクで表情は窺えないが、顔の向き的に多分ウェイブの方を見ている。ウェイブは拷問官じみた彼にゆっくりと微笑んで返し、

 

「部屋、間違えちゃいました」

 

静かに会議室から出ていった。

 

 

 

「は、ははっ。えーと、ここは拷問官の部屋だったかな」

 

頬を引き攣らせながら、ウェイブはドアの前でしゃがみ込んでなんとか笑顔を作る。

目的地を再度確認するべく、ポケットに入った紙を取り出す。四角く折ったそれをゆっくりと開いて、ウェイブは敢えて声に出して呟いた。

 

「俺の集合場所は、特別警察会議室ね。特別警察会議室、特別警察会議室」

 

早口言葉みたいだ、と笑いながら頭上に向ける。

ドアにぶら下がったプレートには間違いなく『特別警察会議室』と彫られていた。

──あっている。

 

「・・・ってことはアレが同僚かよ!!」

 

きょうび海賊だってもっとマシな格好してるわ、と言いたい気持ちはなんとか抑えて、ウェイブはもう一度静かに入室する。

 

「ど、どうも」

 

トコトコと小走り気味に、男から一番離れた斜めの席に座る。

この場においてウェイブが出来ることはただ一つ。彼を刺激しない事だ。

 

そう思って、絶対に目を合わせないようにしていたのだが、どうにも視線を感じる。この部屋にはウェイブと男しかいないので、見られているのはウェイブで、見ているのは男だろう。

やだ怖い。ウェイブもう帰りたい、パパ。

だが現実は甘くなく、ウェイブの気持ちを他所に加速していく。

 

「・・・・・・」

 

続いて現れたのは、黒髪黒装束の少女。ウェイブより数歳年下だろうか。

少女はサラサラとしたショートカットの髪を撫でつけて、ウェイブと男を見比べる。そのままとくに何も言わずにウェイブの正面に腰を下ろし、自前のお菓子をモグモグと口に放り込み始めた。

 

些か愛想が良くないが、例の男よりはまともな人間だろう。腹をくくって彼女に話しかけた。

 

「お、俺はウェイブっていうんだ。君も招集された帝具使いなんだろ?よろ─」

「このお菓子はあげない」

 

よろしくな、と最後まで言わせて貰う事すら出来ず、敢え無く轟沈。やはりこの子も変な子だった。

 

すっかり活力を失くしたウェイブが、涙目で席に戻ったとき、バタン!と一際大きな音が鳴り響いてドアが開き、

 

「帝都警備隊所属、セリュー・ユビキタス!アンドコロです!」

 

足元に小さな生物─犬に近い─を連れた少女と、彼女に手を握られた青年が入ってきた。

ニコニコと屈託なく笑うセリューは、今のウェイブにとってまともな人間に見えるが、しかし。ウェイブは話しかけには行かない。

見えているからだ、セリューの後ろ手に握られた花束が。

 

案の定、セリューは薔薇の花束を宙に放り投げて花びらの絨毯を作り上げるという、奇行に走る。

 

「第一印象に気を遣う。・・・それがスタイリッシュな男のタシナミ」

 

花びらが舞い散る中、頬に手を当てて、歩いてきたのは白衣の男性。ウェイブと目が合うと、彼は片目を瞑り投げキッス。男色の気がありそうな彼に、不幸なことにも気に入られてしまったらしい。

 

取り敢えず、一連の騒動から逃げるようにウェイブの隣に腰を下ろした青年に声をかける。

 

「よぉ、俺はウェイブだ。よろしくな」

「ああ」

 

・・・ウェイブの挨拶に返ってきたのはたったの二文字。いくらコミュニケーション能力に欠けた者だろうと、名乗られたら名乗り返すくらいの事はしてもおかしくないだろう。それとも帝都ではこれが当たり前なのか。流石帝都。

そんなワケあるか。

 

「あーっと、君の名前は?」

「──ミラルド。ミラルド・ユビキタス」

 

涼しげを通り越して、冷ややかな瞳にウェイブが映る。

見惚れる、というか人間味のない、彫刻のように無機質な美しさを持つ男だ。『カッコイイ』ではなく、『綺麗』。

感情が乏しいこともあり、それは綺麗から不気味にジョブチェンジしてしまっているが。

 

しかし、どうにも会話が続かない。そもそも、会話が成立しているかすら疑問だ。実際、二人の間で起こっているのは会話のキャッチボールではなく、ドッチボールに近い。ウェイブが投げ、ミラルドが避ける。

当然ウェイブにもいずれ限界というものが来る。

そうすると、二人に訪れるのはただ一つ。

 

『沈黙』である。

 

 

「おや、私が最後のようですね」

 

そんな中、最後の一人が扉を開けた。

穏やかな声に俯きかけていた顔を上げたウェイブは、ドア付近に目を向け、疲れきった声で挨拶をする。

 

「・・・ウェイブだ。よろしくな・・・」

「ランです。こちらこそ、宜しくお願いします」

「!!」

 

厳ついマスクを被っていなければ、お菓子を食べ続けている訳でもない。花束なんて持っていないし、勿論オカマでもない。その上、自ら名前を教えてくれる。

 

最後に常識人きたっ、と思わず立ち上がってランの腕を掴んで、涙をふいた。初対面であるランからしたら、ひたすら不思議でしかない。

 

 

──そんなウェイブは自身が、ランから変人のレッテルをつけられていることには気づかなかった。

 

 


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