絶対正義の兄が斬る!   作:もちふじ

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お久しぶり。遅くなってごめんなさい。


行き過ぎたシスコン野郎

 

 

 

 

──基本、エスデスといるとろくなことが無い。これはもう数年の付き合いによりミラルドは理解していた。とは言え、それを自らの意思で回避できるかと言えば、別にそんなことは無い。少なくとも彼女が上司で、彼が部下である以上それは覆しようがなかった。

 

今回も例によって我儘上司に休日出勤を強いられ、挙句それが上司の想い人と偶然見つけた賊を逃がした同僚の尻拭いだと言うのだから、もはや文句すら出ない。仕方なしにミラルドとセリューはせっかくの休日だというのに、人探しに山を駆けずり回るはめになったのだった。

 

 

 

「・・・・・・本当に申し訳ありませんでした。このウェイブ、山よりも高く海よりも深く反省しております・・・」

 

下着一枚までひん剥かれた上、重石を膝に乗せて正座するウェイブを、山狩りから帰ってきたミラルドは扉に寄りかかりながら見つめていた。『石抱き』なんて随分古風なことをするものだ、と思うと同時にあのエスデスにしては珍しく甘い拷問だとも思っている。彼女はジワジワ攻めることが好きなことなド変態だが、それにしたって優しすぎる。もっとも、耐性のないウェイブには効果抜群だろうけれど。

辺境でのんびり優しく育てられたウェイブにエスデスの遊び相手は少々荷が重い。せっかく手に入れた部下──それも希少な帝具使いだ、流石の氷の女王といえどある程度の気は使ってやるらしい。あくまで使い物になるうちは、だが。

エスデスは髪をかきあげてやけに冷気たっぷりの溜め息をつくと、

 

「・・・ウェイブはもういい。あと鞭打ちと水責め程度で終わらせてやる。ミラルド、見つかったか?」

「いや」

「セリューの方もか?」

「・・・すみません」

 

エスデスは、二人の答えを聞いてがっくりと肩を落とした。ようやく見つけた理想の恋人をみすみす逃がしたショックと、尻尾を掴みかけた正体不明の暗殺集団──ナイトレイドを逃がした失望が半分半分だろうか。セリューやミラルドと同じようにスタイリッシュも自らの強化兵とともに捜索しているようだが、連絡が入っていないのだから望み薄だろう。

 

「それで、隊長。先程のお話ではタツミくんは反乱軍に入る可能性がある・・・そうおっしゃってましたね」

「──なっ!?」

 

エスデスの背後に控えていたランがスルリと口を挟み、それにセリューが大きく反応した。どうやらセリューとミラルド以外、先に部屋にいたメンバーは拷問を受けていたウェイブも含めて全員既に聞いていた話らしい。

昨日の取り乱し様といい真っ当に正義感の強そうなタツミだ、考えられないことではないだろう。

 

「そんな、それが分かっていたなら何故放置していたのですか!?危険分子になりうる存在なら、生かしておく必要なんて・・・むぐっ、んんー!!」

 

琥珀色の瞳をギラつかせて鼻息荒くセリューがエスデスに詰め寄ろうとする。昨日のことをまだ引きずっているのだろうか、とミラルドは小さく息を吐いてセリューの手を引いた。それから悪がどうのこうの言い出した妹の口を手で抑えて、しっかりと腕に閉じ込める。

 

もごもごとセリューが苦しそうにするので、少し手の力を緩めると途端に騒ぎ出した。

 

「ぷはっ・・・悪と分かっていながら生かしておいたなんて・・・隊長、そんなのおかしいです!」

「まだ反乱軍に通じていると決まったわけじゃない。将来的に可能性があるだけだ」

 

エスデスが言いながら、然も面倒くさそうに視線をミラルドに寄越した。落ち着かせろ、という事だろう。

 

「セリュー。いい子だから、あまり困らせないでくれ」

「お、お兄ちゃんは私が間違ってるっていうの?」

「そんなことは言っていない。俺はセリューの可愛い声でそんな物騒な話を聞きたくないだけだ。兄ちゃんの言う事聞けるか?」

「・・・・・・ん」

 

えぇ・・・、とクロメとウェイブが同時に呆けたように溜め息をついた。あんなに血走った目で騒いでいたセリューを一瞬で可愛い妹に戻したミラルドの手腕に脱帽である。

 

ミラルドが不満気に膨らんでいたセリューの頬をつつくと、彼女は子供扱いするなと怒り。何だかんだいいつつもぎゅっと手を握ってくる愛らしい妹を空いている手であやす様に撫でて、ミラルドは話を続けた。

 

「・・・セリューは見ての通りだ。仮にタツミが敵として現れたとしても、生け捕りは出来ない。その場で殺してしまうだろう」

「私も帝具の性能的に生け捕りは難しいかもしれません・・・」

「いや、それで構わん。タツミの事はまだ好きだが・・・、優先すべきは部下の命だ。勿論生け捕りが好ましいが、いざとなれば生死は問わん」

 

ミラルドはまだしもセリューが生け捕りなんて器用な真似出来るはずがない。そう言うと続いてボルスもおずおずと口を出す。心情的には兎も角、確かに彼の帝具『ルビカンテ』は捕獲には不向きであろう。残りのメンバーはどうだか分からないが、暗殺部隊所属であった以上クロメも捕獲には慣れていないはずだ。生け捕りは正直言って現実的ではない。

エスデスも充分それを理解していた。故に生け捕りを強制するような事はしない。彼女はサディストをこじらせすぎた変態だが、決して部下を使い捨てるような外道ではないのだ。

 

「まあ、全て可能性の話だ。何も無ければそれに越したことはないが、警戒は怠るなよ。・・・では解散」

 

 

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

 

同時刻。

 

「───以上が、俺が見てきたイェーガーズの戦力だ」

 

帝国最強の想い人──絶賛噂されているタツミはというと、アカメとラバックの助けの元無事ナイトレイドのアジトへ戻ってきていた。意図せずスパイ活動をしたことになったタツミの情報は、非常に有益なものだっただろう。有益なもの、なのだが──。

 

「てか、アンタ大丈夫なの?今の話だと完全にあのとち狂った男に喧嘩売ったっぽいけど」

「・・・う」

 

問題はエスデス軍のナンバー2、そしてナイトレイドの暗殺対象候補筆頭であるミラルドにタツミが突っかかった事だ。流石にあれだけでナイトレイドとバレることはないとは思うが、彼の機嫌を損ねて後々タツミが危険に晒されることも考えられなくはない。

半眼で指摘するマインにタツミは言葉を詰まらせた。大丈夫か大丈夫でないか言ったら、あまり大丈夫ではない。しかし、あの場では頭に血が上ってしまってそれどころではなかったのだ。

すると元帝国軍所属であったラバックが首を振り、冷静に否定した。

 

「いや、でもたぶん問題はないと思う。少なくとも、それでタツミがミラルドから目のかたきにされることは無いはずだ。どっちかって言うと・・・ヤバイのはシェーレさんだ」

「私、ですか?」

 

すみれ色の長髪を揺らして自分を指さすシェーレに、ラバックは一つ頷いて続けた。

 

「アレは行き過ぎたシスコン野郎だ。レオーネさん以外は見たことあるだろ、セリュー・ユビキタス。あの妹に対する執着は尋常じゃないし、同時にどんなに小さな事だろうと妹を傷つけた相手に対する憎悪も尋常じゃあない。セリューの両腕を斬り飛ばしたシェーレさんなんて、真っ先に狙われるに決まってる」

「わあ、それは困りましたね。気をつけないと」

「あれ結構軽いね!?」

 

真面目に話した俺が馬鹿みたいじゃん、と騒ぎ立てるラバックにくすくすとシェーレは笑った。

 

「怖くないと言ったらそれは嘘になりますけど・・・でも逆にチャンスだと思いますよ」

「チャンス?」

「・・・そうだな、シェーレの言う通りだ。ミラルドの一番厄介な所はあの冷静な思考だろう。シェーレの存在がアレの冷静さを奪えるなら、それは大きなチャンスと言える」

 

目を丸くして聞き返したタツミに、アカメも同調する。勿論彼自身の戦力も非常に厄介なものだが、冷静沈着というのはそれだけで大きな力となる。戦闘中も冷静でいられるというのは言うほど簡単ではない。

 

例えばタツミ、イェーガーズではセリューやウェイブだろうか。三人は挑発に乗ったり熱くなったりしてしまう典型的な情熱タイプだ。逆にアカメやミラルドは、くぐり抜けてきた修羅場の数も関係しているのだろうが、危険な状態であればあるほど落ち着いて思慮深く行動する人間だ。普段の様子からは想像出来ないがラバックもそうだろう。

故に彼を少しでも動揺させることさえ出来れば、勝率は上がるのだ。

 

「それは確かにその通りだと思うけど・・・アイツの帝具の能力は?副将軍なんて呼ばれるくらいだし、持ってるんだろ?」

 

タツミの話では分からないとの事だったから、期待できるのは帝国軍に所属していて、エスデス軍とも多少なりとも関わりがあったラバックだ。酒瓶を手で弄びながらレオーネはラバックに視線を向けた。

その視線を受けたラバックは、ふぅと息をついて話し始めた。

 

 

「名は、千剣格納『クラーウィス』。能力は───」

 

 

 




ネーミングセンスの無さは許してヒヤシンス。
10話の無理矢理感ももうちょいしたらどうにかします。たぶん。

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