この異世界転生者に祝福を!   作:白城

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 こんにちは白城です!

 まず、ここでまとめて、誤字報告ありがとうございます、助かります! 

 いや、いつも無いように気を付けてはいるんです! 
 すみません、言い訳でした。

 今回は風呂回です。かなり悩みました。


第二十五話 『この優しきサキュバスに祝福を』

    白奈side

 

 カズマが二階に上がってから数十分後。

 

 「あははははっ! ちょっとシロナー、それ私に渡しなさいよー! あの男の分なんて必要ないわ!」

 

 完全に酔っているアクアを見ながら私はため息を吐いた。

 結局めぐみんはアクアにも交渉した様だが、決裂だったようでお酒を飲まず、今では少し落ち込みながら最後のカニを食べていた。

 

 …………それで最後かな?

 

 「………じゃあ、後は私が片付けておくよ。ダクネスはそのお酒をアクアに取られないように死守してて。めぐみんはそれを食べ終わったら、お皿を台所まで運ぶようにね」

 

 立ちあがりながら、そんな事を言うとダクネスが

 

 「いや、食器洗いは私がしておく。元々これはお前達のお礼のものだからな」

 

 ………えっ?

 

 「………ダクネスって皿洗いできるの? 終わった後、全部食器が割れてるなんて笑えないよ?」

 

 「シロナは私の事を何だと思っているんだ! 食器洗いくらいできる」

 

 少し落ち込みながらも喜んでいる様に見えるダクネスは台所に向かい、止まった。

 そして、こちらの方に振り向くと、

 

 「シロナは先に風呂にでも入って来ると良い。その様子じゃ今日は畑仕事でもしていたんだろう。酒の事は心配するな。風呂に入って疲れをとって来ると良い」

 

 そう言って頬笑んだ。

 私はしばらく悩むと、

 

 「うーん、じゃあめぐみんも手伝って上げてー。ダクネスだけじゃやっぱり心配だし。それじゃあお願いね」

 

 ダクネスがこう言ってくれている事だし、お言葉に甘える事にしよう。

 

 私は未だに何が面白いのか分からないが、笑っているアクアの声を聞きながら、風呂場に向かった………。

 

 

 

 カズマside

 

 脱衣場のドアの開ける音に、呑気に構えていた俺は驚き、慌てふためく。

 

 おいおい、このタイミングはおかしいだろ!

 いや、誰が入ってきたかは知らんが、手に灯りを持っているみたいだ。

 と言うか、これなら、脱衣場の籠の中身で俺が入っていることに気が付くだろう。

 

 不意に、誰が持つランプの灯りが消えた。

 

 「へっ? 何で突然!? 『ティンダー』! 何ですぐ消えるの!?」

 

 ガラス越しに聞こえてきたのは、焦った様なシロナの声。

 

 「………うーん、まあ、見えない程じゃあないし、これでいいかな」

 

 そんな事を言いながら、シロナはガラスの向こうで服を………。

 

 っておいおいおい!

 

 俺は慌てて声を上げようとして気が付いた。

 明らかに誰かに仕組まれたかの様なこの状況。

 まず普通に考えてあり得ない展開だろう。

 

 んっ? まて。

 この展開に陥る前に俺はふと眠気を感じて目を閉じていた。

 つまり、この状況は………!

 

 「うん、大丈夫そうだね。普通に見える………し」

 

 片手にタオルを持ちながら、何かを言い掛け浴場に入ってきたシロナは………

 

 「「………………」」

 

 月明かりが照らす暗い中、堂々と湯船に浸かる俺と目があった。

 勿論お互い真っ裸である。

 月明かりにほのかに照らされ、輝く銀髪と透き通る様な白い肌が鮮やかに映えた。

 

 ふむ、前々からスタイルが言いとは思っていたが、想像以上のプロポーションだ。

 

 あの一応女神のアクア程では無いとしても、出過ぎず足らな過ぎずなその体は………。

 もしかしたらサキュバスのサービスにより、俺好みの修正が入っているのかも知れない。

 未だに呆然と立ち尽くすシロナに、俺は湯船の中から

 

 「……よう」

 

 と気さくに片手を上げた。

 そんな俺を見て、口をポカンと開けたまま、シロナが慌てて持っていたタオルで前に隠すと一歩後ずさる。

 

 「え………な……へ……っ! カズマっ、ごめん入ってるとは知らずに私は先にきゃっ!」

 

 「………? どうしたシロナ、早くこっちに来いよ。よし、まずは背中に流してくれ」

 

 「っ!!!???」

 

 湯船から上がって、木でできた丸椅子に座り背を向ける俺の行動は予想外だったのか、シロナは顔を赤くし、目を反らした。

 

 何だろう。凄く良い反応をするな。

 美人でスタイルの良いお姉さんって描いただけなのにシロナが出てくるなんてサキュバスは分かっているな。

 しかし、次も同じとは限らないな。次はもっと細かく指定しよう。

 

 「か、かかかカズマ!? 何言ってるの!?「おかしいかい?」 こう言うことは普通はそ、その、こ、恋人とかがする事じゃないの!? って言うか、その、どうしてそんなに落ち着いているの!?」

 

 凄い、なんだこのリアリティは!

 

 「おっと、感動している場合じゃないな。焦らしプレイだなんて設定してないぞ。……あ、いや、アンケートには、美人でスタイルの良い、恥ずかしがる系の世間知らずのお姉さんとも書いたな。なら、これで良いのか」

 

 「えっ!?」

 

 俺の独り言にシロナがいよいよパニックになった様な表情を浮かべた。

 

 なるほど。ここは俺がリードする展開なのか。

 

 「シロナが世間知らず設定なのはしょうがないが、早く背中をお願いします」

 

 「!? た、確かに私は世間に疎いとは思うけどそこまで酷くないと思ってたんだけど!?」

 

 シロナがパニックになりながらも、恐る恐る俺の背中に近づいてくる。

 

 「これくらい常識だろ。では、早くお願いします。なんかもう色々溜まりません!」

 

 「ひぃっ、どうしたの!? 今のカズマはなんかおかしいよ!」

 

 「おい、さっきから騒がしいぞ! 何時だと思っているんだ。常識知らずにも程があるからな」

 

 「この状況の(もと)で、そんな事をいわれてもっ!? え、なに、これって私がおかしいの!?」

 

 「何言ってるんだ。これくらい常識だろ!」

 

 「え、そう……なの? わ、分かったから! だけど絶対に後ろは見ないでね!」

 

 「よし、それではお願いします」

 

 頬を赤らめ、シロナがゆっくりと背中に回った。

 その手にはさっきまで前を隠していたタオルを持ち、椅子に腰掛ける俺の背後で、床にペタんと座り込む。

 やがて、シロナは俺の言う事に流されるままに、器用に背中を洗い始めた。

 

 「そう、これは常識常識…………」

 

 後ろでは自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟いている。

 

 「ふう………。なんか良いな。こっち来てからはろくな事が無かったけどやっと幸運度が働いている気がする。と言うかシロナは器用だな。これなら風呂場の時はシロナを多めに使うか」

 

 「本当にカズマは何を言っているの!? よしっ、こ、これで背中は洗い終わったよ。わ、私は先に上がっていいよね………」

 

 俺の裸から必死に目を剃らしながらも、上がろうとするシロナに、俺はその手をがっしりと掴んだ。

 捕まれたシロナは「カズマ!?」と慌てた声をあげる。

 

 「何を言っているんだ! いくら常識知らずでもこの後の展開が分からないのか? 次は前の方も……」

 

 「いや、でも、流石にそれは………!」

 

 「早くー、早くー」

 

 そうは言いながらもシロナはゆっくりと近づき、緊張で奮える手を前の方に伸ばそうとした、その時だった。

 

 

 「この曲者ー! 出会え出会え! 皆、この屋敷に曲者よーっ!!」

 

 

 それは屋敷に響くアクアの声。

 

 「あ、アクア?」

 

 「あ"? 良いところで邪魔が入るなんて、そんなお預け設定はつけてないぞ! あいつ夢の中ですら邪魔するのか、文句言ってやる!」

 

 俺はシロナから持っていたタオルを奪い、素早く腰に巻いて飛び出した。

 タオル一丁で声のあった広間にでると、そこには、昼間見たお姉さん風のサキュバスよりも幼げな小柄なサキュバスがアクアの手によって取り押さえられていた。

 それにめぐみんとダクネスがパジャマ姿のまま、威圧している。

 

 「カズマ、見て見て。私の結界に引っ掛かって身動きの取れなくなった曲者が…………って、こっちにも曲者がいたー!」

 

 「誰が曲者だ! ………あれっ?」

 

 サキュバスの子?

 

 タオル一丁の俺を曲者扱いするアクアにツッコむ。

 

 おかしい。いや、幾らなんでもおかしい。登場人物が多すぎる。

 と言うか、夢の中にサキュバスがでて来るなんておかしい。

 

 「このサキュバス、屋敷に張った結界に引っ掛かって動けなくなってたの! サキュバスは男を襲うから、きっとカズマを狙いにやって来たのね! でも安心してちょうだい。今、サクッと悪魔払いしてあげるわ!」

 

 アクアの声にサキュバスが、小さくヒッと声を上げた。

 

 あれっ。

 何これおかしい。本当におかしい。

 と言うか、つまりさっき風呂場で出くわしたシロナは………!

 いや、今はそれよりも目の前のサキュバスだ!

 

 俺の知らない間に結界だとか、余計な事をすることには定評のあるアクアが、サキュバスに向けてビシッと人差し指を突きつけた。

 

 「観念するのね! 今とびきり強力な対悪魔用の…………」

 

 俺は無言でサキュバスの前に立つと、その手を取り、玄関に連れていく。

 サキュバスの小さな戸惑う様な声が聞こえた。

 

 「ちょ、ちょっとカズマ! その子は悪魔なの。カズマの精気を狙いに襲いにきた悪魔なのよ!?」

 

 「カズマ正気ですか!?」

 

 「おい、カズマしっかりしろ! それはモンスターだぞ」

 

 三人が鋭く叫ぶ。

 サキュバスが俺にだけ聞こえる小さな声で。

 

 「お客さんすみません! こんな状況になってしまったのは、侵入できなかった未熟な私が悪いんです。お客さんに恥をかかせる訳にはいきません、私は退治されますから、お客さんは何も知らないフリをしてください!」

 

 俺はそんな事を言ってくるサキュバスを、背中に庇う様にして、アクア達に向き直った。

 そして、アクア達に向かって拳を構え、そのままファイティングポーズを取る。

 

 「お、お客さん!?」

 

 サキュバスの小さな悲鳴じみた声。

 

 「……カズマどういうつもり? 仮にも女神な私としては、そこの悪魔を見逃す訳には行かないわよ? カズマ、袋叩きにされたくなかったら、さっさとそこを退きなさいよ!」

 

 アクアが眉根を寄せて、チンピラみたいな事を言ってきた。

 

 「み、皆落ち着いて! 今のカズマはきっとサキュバスに操られているんだよ! さっきからカズマが夢とか設定とか変な事を言っていたから間違いないと思う! だからあんまり酷い事はしないであげて! サキュバス、良くもあんな事を…………っ!」

 

 濡れた髪をそのままに、急いできたのかシャツとスカートを身につけ、裸足で飛び出してきたシロナが、アクア達に向かって叫んできた。

 目に涙を浮かべながら俺の身を労るその言葉に、凄く良心が痛み全力で謝りたくなる。

 たが、退くわけにはいかない。

 

 「カズマ、一体何をトチ狂ったんですか? いくら可愛くてもそれは悪魔。モンスターですよ? しっかりしてください」

 

 「カズマ正気に戻れ。それはモンスターで倒すべき敵だ」

 

 めぐみんとダクネスの呆れた様に、そして、冷たい目線で突き放す様な声で言った。

 その視線が心にくるが、それでも引き下がらない。

 

 「……行け」

 

 「で、ですが……」

 

 後ろ手に、サキュバスに早く行けと声をかける。

 それを聴いたサキュバスの戸惑う様な声が聞こえる。

 それを見たアクアが一歩前に出て、腰を落と身構えた。

 

 「どうやら、カズマとはここで決着をつけないといけないようね……! カズマをけちょんけちょんにした後、そこのサキュバスに引導を渡してあげるわ!」

 

 そして、深呼吸をし、

 

 「………いくぜ」

 

 叫ぶと同時に三人が、俺に向かって飛び掛かってきた。

 絶対に守るべきものがある。

 それは、自分を信じて秘密を話してくれた、友人達の信頼。

 それは、寂しい男達の欲望を満たしてくれる、俺の背中に隠れる優しき悪魔。

 俺は拳を強く握り締め。

 

 「かかってこいやー!!」

 

 屋敷の中に響く声で、熱く、熱く、叫んでいた。

 

 

 

    白奈side

 

 「……………」

 

 次の日の朝。

 私はカズマの背中をジッと見つめていた。

 視線に受けているカズマは庭の隅に屈み込み、黙々と墓掃除をしていた。

 私に見られているせいか、少し作業がしにくそうだ。

 

 「なあ、いい加減口()いてくれよ。て言うか、あんな状況で雰囲気に流されるシロナだって悪いと思うんだが」

 

 「うっ……………」

 

 それを言われると耳が痛いよ。

 

 あの後、三人相手に一人でしばかれたカズマによって、サキュバスは逃げられた。

 そして、三人にはあの時、カズマはサキュバスに操られていたのでしょうがないと説得した。

 私は確認の為、恥ずかしい気持ちを我慢しカズマに尋ねる。

 

 「……………昨日の事は、記憶が無いんだよね? カズマはサキュバス操られていたせいで、本当に記憶が無いんだよね?」

 

 念を押すように、二回言う。

 

 「ああ、残念ながら覚えてないよ。良い夢を見ていたとしか覚えていない」

 

 「そ、そう? 良かったあ。まあ、事故みたいなものだし、私も悪いところがあるしね。うん、私を忘れようかな」

 

 「と言うかシロナはもうちょっと常識を勉強しろよ。大体、今回は俺はちっとも悪くないぞ。ランタンに火だって灯しておいたし、入浴中の札もかけてたし。まったく一体どこのどいつがいたずらしたのやら」

 

 「うん、あの時はランタンの灯りが灯ってなかったし、札も掛かって無かったからね。ごめんね。疑ったりして。私はてっきりカズマだから『このままサキュバスのせいにすれば都合が良いし、乗っかっておくか!』みたいな事考えてると思って………」

 

 カズマの肩がビクリと震えた様な気がした。

 

 「………ち、違うよ?」

 

 「あれ? そう言えば、カズマって風呂場からなんか可笑しかったよね。サキュバスって遠距離の見えない相手でも魅了できるのかな? あれ?」

 

 つまり、あの時のカズマは魅了されてなかったって事で、と言うことは記憶は……………!

 

 そこまで考えたその時だった。

 その思考を途切れさせるかの様に、街中にアナウンスが轟いた。

 

 『デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 機動要塞デストロイヤーが、現在この街に接近中です!』

 

 「「え、デストロイヤー?」」




 最後の視点はシロナにしてみました!
 やっぱり今回はカズマ視点が多かった様な気がします。
 次回からやっとデストロイヤー戦です! 長かったです。

 …………さて、どうしよう。優秀な魔法使いいるし………。

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