一章が終ったのでしばらく休憩していました!
今回はまあ、雪のあれです。
そして、今回から第二章開始です!
第十五話 『この使えない女神に問題を』
白奈side
季節は秋になり、あと少しで冬になりそうな時期。
「金が欲しいっ!」
カズマは、私の隣で血を吐くように、鬼気迫るかのように切実に呻いた。
冒険者ギルドと呼ばれる施設内の酒場にて。
カズマは、両手で頭を抱えながらテーブルに顔を伏せた。
カズマの気持ちは良く分かるよ。今、私達の抱えている問題を解決するには大金が必要だからね。
「はあ? そんなの誰だって欲しいに決まってるじゃないの? もちろん私だって欲しいわよ。カズマってば何当たり前の事言ってるの? バカなの? アホなの?」
……はあ、アクアはやっぱりバカなの? と言うか、アクアだけにはカズマは言われたくないと思う。
「さて、アクア様に問題です。私達が今抱えている問題とは一体なんでしょうか?」
私の問題にアクアは胸を張って自信満々に答えた。
「そんなのこの高貴な女神である私を贅沢させていない事でしょ!」
「…………違います」
「おい、アクア。お前は本当に俺がどうして金が欲しがっているのかが分からないのか?」
「元引き篭もりの頭の中なんて、清く正しくも麗しい女神の私に分かるわけないでしょ?」
「……………借金」
「うっ!!」
私がホツリの呟いた一言にアクアの肩がびくりと震えて目を剃らす。
「そう、借金だよ!! お前が作った借金のせいで、毎回、請けたクエストの報酬の大半が、借金返済のために天引きされていくんだぞ!? そろそろ冬だ! 今は布団の中ならまだ大丈夫だが、このまま本格的な冬にでもなってみろ! いずれ凍え死ぬわ!」
「アクア、分かった? もう魔王討伐どころの話じゃないんだよ? 生命の危機なんだよ? ……ちょ、ちよっとアクア! 耳を塞いで現実逃避しても状況は変わらないからね!?」
耳を塞いでそっぽを向くアクアに、カズマはテーブルを叩きながら食ってかかった。
この世界には冒険者がいる。
たが、冒険者達は冬が来ると宿に篭りのんびり暮らす。
なぜなら、冬は弱いモンスターのほとんどが冬眠してしまい、活動している手強いモンスターしかいないからだ。
素人より少し強い冒険者にとって、冬のモンスター討伐は自殺行為と言える。
ここは駆け出し冒険者の集う街、アクセル。
特典を持っている私だってレベルが低い今、他の冒険者より少し強い程度だ。
と、そんな事を考えているとアクアがばんとテーブルを叩き、身を乗り出して反論してきた。
「だ、だってだってしょうがないじゃないの! ベルディアの時の私の超凄い活躍が無かったら、この街は滅ぼされていたのかも知れないのよ!? それが分かったら、もっと私を称えてよ! 敬ってよ! もっと誉めて誉めて、甘やかしてよ!」
うわああ。
「この構ってちゃんが! ああ、良いぜ。認めてやる! お前の活躍で何とかなったって認めてやるよ! それなら、あの時の手柄も報酬も借金も全部お前一人のものな! ………借金返済、一人で頑張って返してこい!」
「わ、わああああ待って! ごめんなさい、調子に乗ったのは謝るから見捨てないで!」
アクアを見捨てていこうと席を立つカズマに、アクアが泣いて縋る中。
………アクアは一応女神………なんだよね? 何だろう。女神の威厳っていうかオーラがやっぱり全く感じない。どうしよう、本当に女神だよね?
そんな事を考えている私とカズマ達に声がかかった。
「全く、朝から何を騒いでいるのだ」
「何か、良い
今声をかけてきたのは、私達の仲間の、ドMなダクネスと爆裂狂と中二病のアークウィザードのめぐみんだ。二人ともこの状況に慣れたのかもう何も言わなくなっている。
「いや、まだクエストは探して無いよ。この状況じゃあな」
そう言いながら私達はギルド内を見渡した。
そこでは、まだ朝というのにもかかわらず、多くの冒険者達が思い思いに飲んだくれていた。
「まあ、仕方が無いよね。ベルディアの時の報酬は戦いに参加した冒険者達に支払われたから」
「はい、懐が潤ったらわざわざ危険な冬のモンスター狩りに行く理由がありません。勿論私は大歓迎ですが」
「私もだ、敵は強ければ強い方が良い」
……何を言っているのか分からないし、理解できないけど、突っ込むのを我満しておこう。
と言うわけで私達は、ギルドの掲示板の方に向かった。
「どれどれ。………報酬は良いのに、本気でロクなクエストが残って無いな……」
「ねえ、カズマ! 「はい、カズマです」これなんかいいんじゃないかしら!? 一撃熊の討伐!」
ええと、何々。
「『正体不明の爆発音により、複数の一撃熊が冬眠から覚め、畑に出没しています。とても危険なので何とかして欲しい。討伐なら一匹二百万エリス、追い払うだけなら五十万エリス』……か」
「「…………」」
「……………」
私とカズマはめぐみんに目を向けた。めぐみんはそれに合わせて目を剃らす。
「おい、こっちを向け。ベルディア討伐からダクネスを無理矢理誘って毎日どこかに行っていたのは、こんな事してたのか?」
「うっ! し、仕方が無いじゃないですか! あれ以来爆裂魔法を撃たないと死んでしますのですよ! カズマも私に死ねといっているのですか!」
「開き直らないで!」
「開き直るじゃねえ! このバカがあ! 何問題起こしてくれてんだ! 一撃熊ってあれだろ!? めぐみんの爆発魔法についていって出てきたやつだろ!? もう、あんな危険なモンスターに関わりたくない」
私達が起こしたら問題なので私達で解決したいが、あんなのが複数襲ってきたら、私達のパーティーじゃ即全滅だろう。他の強い冒険者達に任せておいた方が良い。私達以外の転生者とかに。
「カズマカズマ! 「はいはい、カズマだよ」これなんかどうだろうか! 白狼の群れの討伐。報酬百万エリス。獣達に襲われる自分を想像しただけで………んんっ!」
「……却下」
大型犬よりも大きくて速くのが一度に大量に襲ってきたら、私達じゃ即全滅、いや、即死だろう。
カズマの判断は正しい。
あれっ?
「ねえ、カズマ。これ何か分かる?」
「んっ? 何々? 機動要塞デストロイヤー接近につき、進路予測の為に偵察募集? なんだよこれ。なあ、デストロイヤーってなんなんだよ」
「デストロイヤーとはデストロイヤーだ」
「ワシャワシャ動いて全てを蹂躙する子供達に妙に人気があるヤツです」
「なるほど、分からん」
「めぐみんは違うの?」
「私は大人なので」
「そ、そうなんだ」
……やっぱりどうみても子供にしか見えない。
カズマはダクネスとめぐみんの説明を聞き流し、更にクエストの募集を見る。
「なあ、この雪精討伐って何だ? 名前からしてそんなに強そうに聞こえないんだけど。一匹討伐するごとに十万エリスだってよ」
「十万エリス?」
報酬が凄く高いが、カズマが言う通り名前からしてそんなに強そうに感じられない。
「雪精はとても弱いモンスターです。雪深い雪原に多くいると言われ、一匹倒すごとに春が半日早くくると言われていますが……」
「何々、そのクエスト請けるの? だったら私準備してくるわね! 「お、おい。ちょっと待て」」
張り紙を剥がしたカズマの制止の声を聞かず、アクアがちょっと待っててと言い残してどこかに向かった。
ダクネスがホツリと呟いた。
「雪精か……」
「んっ?」
日頃から何かと強いモンスターと戦いたかる、ドMなダクネスがなんで嬉しそうにするんだろう。
この疑問はカズマも感じたらしい。
日本人の私達二人はダクネスの様子に違和感を覚えながらも、雪精討伐に出発した。
カズマside
街から離れた所にある平原地帯。
そこは街にはまだ雪は降っていないのにもかかわらず、そこだけがあたり一面雪で覆われ、真っ白に輝いていた。
そして、これがきっと雪精なのだろう。
そこらかしこに白くふわふわした、手の平くらいの大きさの丸い塊が漂っていた。
「何で見るからに危険そうじゃないモンスターの報酬が十万エリスもするんだろう」
隣にいるシロナが聞こえるか聞こえないかの声でポツリと呟いた。
その疑問は俺も考えていた。
おそらく、こいつが一匹倒すごとに春が半日早くくるとか言っていたから、春が待ち遠しい金持ちの連中が高額の報酬をかけているのかも知れない。
クエストは弱いが積極的に人を襲うような好戦的なモンスターの方が、強くても温厚なモンスターよりも報酬が大きくなる。
だが、雪精の報酬の高さも気になるが、俺はそれよりも気になる事があった。
「………お前、その格好はどうにかならんのか。冬場セミとりに行くバカな子供みたいだぞ」
俺は捕虫網といくつかの小瓶を抱えた、アクアの格好にそういった。
そんな俺にアクアははあー? といったバカを見るような表情て俺に見る。
この野郎。
「これで雪精を捕まえて、この小瓶の中に入れておけば、いつでもキンキンのレモネイドが飲めるっていう考えよ! どうどう、頭いいでしょう!」
オチが読めそうだな。まあ、本人がやる気なので勝手にやらせておこう。
……で。
「ダクネス、鎧はどうしたの?」
「修理中だ」
シロナがダクネスに質問したそれは俺も気になっていた。
ダクネスの格好は鎧も着けずに私服姿で、大剣だけを携えていた。
「……こないだの魔王軍幹部の時に短時間で鎧、ボロボロにされていたからなあ……。でも、何があるか分からないしそんな格好で大丈夫なのか?」
「問題無い、大丈夫だ。ちょっと寒いがそれもまた……」
ダクネスが真っ白な防寒具を着ているシロナとは逆に防寒具も着ずに黒のタイツスカートとシャツのみという寒そうな格好でハアハア言っている。
……どうやら頭の温かい変態は体温も高いらしい。いらない知識が増えたな。
俺達は気を取り直して雪精討伐を開始した。
「おらっ! くそっ、チョロチョロと!」
近づかなければただゆっくり漂っているくせに、攻撃すると素早い動きで逃げる雪精。
雪精が小さいのも関係して、攻撃を当てるのがなかなか困難だ。
まあ、一匹十万なんて高額な報酬をつけられているんだ。これくらいは当たり前か?
俺はやっとの事で三匹目の雪精を倒し、ホッと息を吐いた。
「カズマ、見て見て! 四匹目とったー! 大漁よ大漁!」
嬉々としたアクアの声にそちらを向くと、アクアは捕虫網で捕まえた雪精を小瓶の中に入れ、こちらに自慢気に見せてきた。
………もし、俺が討伐数が少なかったら、あいつの雪精を討伐してやろう。
「よし、これで十匹目かな」
シロナは俺達と少し離れたところで魔法を使って凄い速さでどんどん雪精を倒している。あの魔法を自分も覚えれないかとシロナにきいたが、爆裂魔法まではスキルポイントを使わないがそれでも俺が習得するのは難しいとの事。
「カズマ、めんどくさいです。爆裂魔法で辺り一面ぶっ飛ばしてもいいですか?」
ダクネスと二人で追いかけ回し、ようやく一匹仕留めためぐみんが、荒い息を吐きながら言ってきた。
依頼にあった白狼とか一撃熊とかが襲ってくることも考えたが、敵感知スキルで常時注意して、逃げるのが無理でも潜伏スキルを使えば何とかなるか。
んっ? まてよ……。
「おし、ならちょっと待ってろ。おーい、シロナ!」
少し遠くにいるシロナに大声で呼び掛けると、直ぐにこちらに走って来た。
「何、どうしたの?」
「ベルディア戦の時見たいに雪精を集められないか?」
「うん、出きると思うよ。ちょっと待ってて、『ウインドカーテン』!」
ベルディア戦の時の様に雪精達をどんどん風でまとめていく。
………あの魔法便利だな。レベルが上がった時、使えるように後でシロナに教えて貰おう。
シロナの言葉にめぐみん頷き、遅めに詠唱を唱え……!
「ありがとうございます、シロナ! いきます、『エクスプロージョン』!」
日に一度しか見れない、使えない、めぐみんの爆発魔法が雪原に放たれる。
冷たく乾いた空気を振動させ、轟音と共に、白い雪原のど真ん中にやや赤くなった地面を剥き出させたクレーターを作り上げた。
「おーい、大丈夫か?」
「めぐみん、大丈夫?」
魔力を使いはたしためぐみんが、雪の中にうつ伏せに倒れたまま、自分の冒険者カードを自慢気に見せてきた。
「二十七匹、やりましたよ。レベルはシロナのお陰で三つも上がりましたっ!」
「おお、やるなあ。シロナもナイス!」
シロナはやっぱり普通に優秀だ。めぐみんも雪の中に埋もれた状態じゃなければ、格好良かったのにな。
これで、俺が三匹、めぐみんが二十八匹。シロナは十匹。現在撃ち取った総数は四十一匹だ。
アクアの捕まえた分と取り上げるとなると、合計四十五匹で、四百五十万エリス。
四人で割って、一人辺り九十万エリスか。
なんだよ、雪精討伐美味し過ぎるだろ!……なんでこんなに美味しいクエスト誰もやらないんだ?
そんな俺の疑問に答えるかの様に、俺達の前にそれは突然表れた。
また、一話で収まりませんでした。
すみません、本当にすみません!
毎回進む速度が遅くてすみません!
次回で雪精偏は終わりです。………多分。