少年士官と緋弾のアリア   作:関東の酒飲

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 学校が始まりまして……今までよりも過密になりました。それが遅れの原因その一です。


ゲテモノじゃないはず……

 俺が『ハッスルマッスルブギ』を変装食堂(リストランテ・マスケ)の舞台で踊っていると……安浦さんが同じ格好で一緒に踊り始めた。

「「「おぉおおおおお!!!」」」

蘭豹先生とごく一部の男子生徒は大興奮。

 

 ……今こいつらに銃弾当てても、きっと笑って許すだろうな。

 

そこまでの大興奮。一部生徒は暴動にならないように監視までしている……。

 

 

 ひとしきり踊り終わった後、

「Thank you, Brother.」

安浦さんはそう言ってハイタッチを求めてきた。

「OK, Brother.」

  パン!

俺はそう言ってハイタッチをすると……

「「「「キャーーー!!!!」」」」

大興奮していた一部に加え、女子の一部も一緒に叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「冬コミのネタは決まったわね!!」

「まさか村田×安浦なんて……」

「安浦×村田かもしれないわよ!!」

そんなことを話している女子の前に、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な男子生徒10数人が立ちはだかった。

「俺達はBLには全く興味はないが……今のを作品にするのなら協力する。」

「あぁ……まさか、『マッスルボデーは傷がつかぬ!!」の方が出るなんて……」

「筋肉のためなら力を貸すぞ!!」

「あぁ……筋肉のためだ!!なんだってする!!」

  ムキムキムキ!!!

そして、男子生徒は女子たちの前でボディビルのポーズを取った。

「……確かに、私達はあんな筋肉を描いたことはない……リアルさに欠けるわ。」

「しょうがないわね……今回だけよ!!」

  ガシッ!!

女子と男子が堅い握手を交わした。

 

 このことにより、男子ボディビル愛好家達と女子BL愛好家達による謎の共闘がはじまるのだが……蛇足なのでここまでにして置く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、大好評(ごく一部)だった『ハッスルマッスルブギ』が終わり、俺は13時まで必死に接客に勤めていた。

 その時、蝦夷テレビの皆さん、ダージリン達に会ったのは驚いた。

「勇者の登場です!!」

「「「アッハッハッハ!!!」」」

「色々言いたいことあるんですが……とりあえずケーキ10個、シュークリーム20個、ぜんざい5杯、まんじゅう20個、コーヒー5杯……本当にこれでいいんですか?」

「大丈夫大丈夫!!全部この魔人が食べるから!!」

「え?何言ってるんですか?」

「「「「「え?」」」」」

しかも全部食べ終わった後、うどんと大福・まんじゅうを注文するディレクターがいたとかなんとか……。

 

 

 

「イブキさん!!」

「村田さん!!」

ダージリンとローズヒップはキラキラした瞳で俺を見ながら言った。

「「とてもかっこよかったです!!!」」

 

 ……マジか。

 

「え……うん……あ、ありがとう。」

「写真撮ってもいいですかでございます!?」

ローズヒップはそう言ってスマホを構えて自撮りをしようとした。

「ローズヒップ、撮ってあげるわ!!」

「ダージリン様!!」

ダージリンはそう言ってローズヒップのスマホを奪うように取った。ローズヒップはその言葉に感激したあと、俺に抱き着いてピースを取った。

「はい、チーズ!!」

  パシャッ!!

 

 ……某ネズミーランドのネッズミーの中の人はこんな気持ちなんだな。

 

ダージリンが数枚写真を撮った後、

「次は私ね!!!」

そう言って俺に抱き着いてきた。

「ダージリン様!!あたしが!!!……わたくしが撮って差し上げるですわ!!」

そう言ってダージリンのスマホをもらい、10枚20枚とっていくローズヒップ……。

 

 

 二人からから解放されると、今度はオレンジペコに掴まった。

「村田さん……何があったんですか?」

「うん……この変装食堂(リストランテ・マスケ)の変装は……」

俺は事の顛末(てんまつ)を伝えると……

「村田さん……ご愁傷様です。……何か食べます?」

俺は……オレンジペコの慈悲の表情と優しさに感無量だった。

「あ、ありがとう……ありがとう……。」

「え……む、村田さん!!ちょ、泣かないで!!」

俺はオレンジペコの手を両手で握り……涙が出てきた。

「「……(ギロッ)!!!」」

「「「「「アッハッハッ!!!」」」」」

「む、村田さん!!ちょ、ちょっと落ち着いてください!!!」

「グスッ!!!」

 

 

 

その後、はやてとウォルケンリッター、高町一家と月村姉妹・アリサちゃんたちにも接客をすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……やっと終わった。」

13時過ぎ、俺はやっと解放された。

 普通の生徒はもう少し長いのだが……転校生・中途転入生は勝手がわからないだろうと短めにシフトが組まれるのが伝統だそうで……。

「お疲れ様でーす」

俺はそう言って更衣室へ撤退しようとすると……

「おい、村田ぁ!!」

蘭豹先生に掴まってしまった。

 

 ……また変な事やらされるんじゃねぇだろうな

 

「はい!!」

俺はそう思いながら返事をすると……

「お前、料理できたよなぁ?」

 

 ……厨房でもやらされるのかな?

 

「ある程度の料理はできます!!」

「この後、暇だったよなぁ?」

「はっ!!この後シフトは入ってません!!」

 

 ……家族と一緒に回ろうと思ってたのに。

 

「『料理対決』に欠員が出てなぁ……出るはずの田口と渡辺が病院送りになったんや。」

 

 ……ん?昨日その田口君・渡辺君は蘭豹にしごかれていたよなぁ?

 

「村田、お前、『料理対決』に出ろや!!」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ドドーン!!

「始まりました。『東京武偵高校料理対決』実況は私、中空知美咲と……」

「うむ!!この至高の芸術家にして、最高の料理人たる余が!!実況するぞ!!」

実況席には中空知さんの写真とネロがいた。

「解説者には……現役メイドで『提督』のリサさんです。」

「は、はい!!よろしくお願いします!!」

中空知さんの言葉に、リサは上ずった声で敬礼をした。

 

 ……緊張しているんだろうなぁ。左右逆だし。陸式だし。

 

 

 

 

 

「では今回の選手たちを紹介しましょう。」

「うむ!!まずは一人目!!『小学生なれど腕は一流:八神はやて』だ!!」

ネロの言葉と共にプシュ―と入場門に白煙吹き出し、はやてとその車椅子を押すシグナムが入場した。

「よ、よろしゅうお願いします。」

はやてはそう言っておずおずとお辞儀(じぎ)をした。

「うむ!!はやては余と張り合いができるほど料理が美味であるからな!!余も楽しみだ!!」

「そうですね。はやて様もリサの料理をすぐ覚えてもらえるので……教えるほうも楽しいです。」

ネロとリサははやての料理が楽しみのようだ。

 

 

 

 

「さて、もう一人の一般枠『お嬢様学校は伊達(だて)じゃない:田尻凛』さんです。」

  プシュ―!!

「……ダージリンですわ。」

「ん?余の紙には田尻凛と書かれているが……」

「ダージリンですわ!!」

「「「……ハイ」」」

 

 ……す、すごい威圧。

 

「……ダージリンさんの出身は聖グロリア―ナ女学院という事で、英国風の校風を持つそうです。」

中空知さんがそう言うと……

「イギリスですか……イギリス料理はまずいと有名ですが……おいしい物もあるので期待ですね。」

リサは笑顔のまま……あれ?笑顔が硬い。

 

 

 

 

「次は教師枠『強襲科(アサルト)の頼れる姉御:スカサハ』先生です!!」

  プシュ―!!

「ふむ、たまにはこういうのも悪くないな。」

師匠は長そでのセーターにエプロン、ポニーテール姿で出てきた。

「「「「おぉおおお!!!」」」」

 一部男子による歓声が上がった。うん……確かにあの格好はグッとくる。

「余はスカサハが料理をしたところは見たことがない。どれほどの腕前だ?」

ネロは不思議そうにリサに聞いた。

「リサも……見たことがないので……。」

 

 ……俺は師匠との山籠もりの時に一回だけ食べたことがあるが、栄養重視だったっけ。

 

 

 

 

 

「うむ、次は生徒枠『死なない男・村田維吹』だ!!」

  プシュ―!!

 

 ……俺の番か。この二つ名はやめて欲しい。

 

俺は門をくぐると……おい、音野さんがカメラ構えてるよ。放送できるもの作らないと……。

「よろしくお願いします。」

俺はそう言ってボディビルのポーズを取った。(まだこの役はやらなければならないらしい)

「情報によると……‘‘料理は上手いのですが、時々ゲテモノが入る’’とあるのですが……。」

「う、うむ……。時々……時々ではあるな。しかもゲテモノと気づいてない場合が多くて……な。」

中空知さんの言葉にネロは……テンションをだいぶ落としていった。

「そうなんですか?」

リサは不思議そうに言った。

 

 ……あれ?ゲテモノなんて入れてたっけ?そう言えばリサが来てから料理はしてないな。

 

 

 

 

 

「最後にまさかの特別ゲストが登場です。『北海道のアイドル:シェフ・和泉陽司』さんです。」

  プシュ―!!!!

「いらっしゃいまほ。今回はですね、審査員の皆さんにお見舞いしようと思います!!……打ち抜くぞぉおお!!!」

「「「「「「「うおぉおおお!!!」」」」」」」

和泉さんの言葉に大歓声が上がった。

「え~と……『和泉陽司さんは北海道を代表する超大物お笑い芸人』だそうだ!!」

ネロが自信満々に言った。

「ちょっと待って!!ぼかぁ俳優だ!!タレントだ!!」

 

 ……え?そうなの?

 

 

 

 

 

 

 

「では審査員の紹介です。強襲科(アサルト)よりベオウルフ先生」

「おう!!美味い物を期待してるぜ!!」

ベオウルフはそう言って両手を上げた。

 

 

 

装備科(アムド)の絶対的権威、エジソンだ!!」

「トーマス・アルバ・エジソンである!!!顔のことは気にするな!!!」

エジソンはその顔で咆哮(ほうこう)した。

 

 

 

「生徒からは遠山君と峰さんです。」

「……よろしくお願いします。」

キンジは死んだ魚の目で挨拶をした。

 

 ……あれ?キンジは17時までのシフトだったような。

 

「イエーイ!!みんなの理子りんだよ!!」

「「「「「「理子りーん!!!」」」」」」

理子の挨拶と共に声援が沸き上がった。

 

 

 

「そして特別ゲスト、蝦夷テレビ『木曜どうでぃ』より鈴藤さん、藤崎さん、音野さんである!!」

「いや~……緊張するなぁ~」

「アッハッハッハ!!」

「……。(ビデオカメラを構えながらサムズアップ)」

 

 ……あぁ、やっぱりこの人達は出るのか。

 

 

 

 

 

 

「では特別ゲスト、‘‘シェフ・和泉’’さん。意気込みをお願いします。」

中空知さんの声が聞こえた。

 

 ……中空知さんはどこにいるんだろう?

 

俺は周りを見渡したが……どこにもいそうにない。

「えぇ……本来はですねぇ……」

和泉さんはそう言ってポケットから紙を取り出した。その紙には『本日のお品書き』と書かれていた。

「僕たちを助けてくれた武偵高の皆さんに、ここに書いてある美味しい料理を……って聞いてたんですけどねぇ~。……村田君!!」

「は、はい!?」

なんで俺を呼んだ!?

「何だって君は作る側なんだよぉ!!おかしいじゃない!!」

「いやいやいや!!俺だって急遽(きゅうきょ)代役で出ることになったんですよ!!」

「そもそもだねぇ……」

「さて、それではルールを説明します。」

中空知さんは和泉さんのコメントを無理やり切った。

 

 

「うむ!!今回何を作っても、どれだけ作っても構わぬ!!そこにある食材を使い!!5時間以内に作るように!!」

「そこにない食材も1年生たちが買える範囲であれば大丈夫です。」

ネロが指さした場所には、大量の食材と10人ほどの1年生たちがポーズをとっていた。

「では始めるとしよう!!」

「そうしましょう。」

「「プレイボール!!」」

  ドワ~~~~ン!!

大きな銅鑼(どら)の音が高らかに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

俺は肉が置いてあるところへ向かったのだが……お目当ての物がない。

「お~い、一年生。早速仕事だ。」

「は、はい!!」

すると丸刈りの男の子が走ってやってきた。

「………………を買ってきてくれないか?」

「……え?」

一年坊主の顔は引きつった。

 

 ……そんな変なものか?

 

「もう一回言おうか?………を買ってきてくれ。」

「……マジですか?」

「…そんな変な食材か?」

「いえ……買ってきます。」

そう言って一年坊主は走っていった。

 

 ……とりあえず、パパッと作っちまうか。

 

 俺はキュウリを薄切りにし、トマトを茹で始めた。

 

 

 

 

 

「あら、パイ生地がありませんわ。」

ダージリンが食材置き場でそうつぶやいた。

「……ん?なんだいお嬢ちゃん、パイ生地が欲しいのかい?」

すると(サケ)の解体に悪戦苦闘していた和泉さんが声を上げた。

「え、えぇ……パイ生地が無いと作れない料理でして……。」

すると和泉さんは何処からか、ビニールに入った生地を出した。

「僕の同級生にイタリアンのシェフがいてねぇ……。彼に頼み込んでパイ生地を()ってもらったんだ。」

「「「「「「おぉ~……」」」」」

会場に驚きの声が出る。

「これをお嬢ちゃんに分けてあげよう。」

「あら、ありがとうございます。シェフ。」

ダージリンはにっこりと笑うと……

「いやぁ~、照れちゃうなぁ~……」

 

 ……おい、おっさん。

 

 

 そしてダージリンはパイ生地とニシン、サンマ、数種類の野菜を持って、自分のキッチンへ向かった。

 

 ……あれ?そう言えばパイ生地って練らないような?

 

 

 

「あ、あの……。」

「ん?どうしたのだ?」

解説のリサがおずおずと声を出した。

「パイ生地って練らないような……。」

「ん?そうなのか?」

ネロは不思議そうに聞いた。

「そうですね。パイ生地は折り込み製法を用いて作られるそうです。」

今度は中空知さんの声が会場に響き渡る。

「あぁ、これはですねぇ、彼に直接頼んだ特注品なんですよ!!イタリア風のパイ生地です!!」

和泉さんが堂々と言った。

「え……イタリアでもそんなものは……どちらかと言うとフランス……。」

「君はちゃんとした料理を知っているのかい!?ぼかぁね、大学時代に……」

リサの言葉を無理やり切り、長々とした和泉さんの話が始まったのだが……カットする。

 

 

 

 

 

 

 さて、俺はキュウリを薄切りにし、トマトの湯むきを終え、三杯酢を作り終えた。ちょうどその時、買い物に行って来てくれた一年坊主が戻ってきた。

「ハァハァハァ……買って、来ました。」

「ありがとう。そこで休んでいていいよ。」

俺は袋を持って舞台袖へ行く。

「「「「「???」」」」」

 

  バキ!!バキ!!メリメリ……

 

 

 

「村田さんは袋を持って行った後、何やら音がするのですが……どうしたのでしょうか。」

中空知さんが不思議そうに聞いた。

「……あぁ、最初から出すのだな。」

そう言ってネロは右手で頭を押さえ、倒れるように座った。

「い、イブキ様に何が起こってるんですか!?」

リサは慌てて聞いた。

「大丈夫だ。あとでわかる。……頭痛薬は持っておらぬか?」

「え!?あ、はい……。」

「村田さんが戻ってきました。手には……ウナギ?でしょうか……」

 

 

 

 ……さて、解体が終わった。これは骨が多いからな。

俺はそう言って骨切り包丁を使ってハモのように切っていく。

切り終わった後、串を刺し、ウナギのように焼いていく。焼き終わった後、タレに付け、細かく切る。

そして、小鉢に薄切りキュウリとトマト、焼いた‘‘アレ’‘を盛りつけ、三杯酢をぶっかけた。

「できました!!」

「最初の一品目は村田選手からです!!」

「あぁ……できてしまったか……。」

 

……なんでネロは頭を押さえてるんだ?

 

 

 

 

 

「おぉ~!!これは何ですか!?」

俺が審査員の人達一人一人に小鉢を渡していると、藤崎さん(蝦夷テレビディレクター)が聞いてきた。

「あぁ、ウナギを使わない‘‘うざく’’です!!……最近ウナギは高いですからね。これを使えば安くて美味いですよ!!しかも‘‘うざく’’はパパッとできますからね。」

すると藤崎さんは真顔に戻り……

「……で、何を使ったんですか?」

「まぁ……それは食べてからのお楽しみという事で……。」

 

 

 全員に小鉢が行き渡り、試食が始まった。

「「「「「ほぉ~……」」」」」

「白身魚……と言うか鳥のササミに近い?」

「まぁ……これはこれで……」

「骨は多いけど切ってあるから食えるな。」

この‘‘うざく’’は好評なようだ。

 

 

 

 全員が小鉢を食べ終わった。

「村田さん、ウナギの代わりに使った物を教えてください。」

中空知さんの声が聞こえた。

「はい、これはアオダイショウ。……アオダイショウの‘‘うざく’’です!!」

俺が高らかに宣言した。

  シーン……

 

 ……あ、あれ?

 

「……に、日本ってヘビも食べるんですね。初めて知りました。」

「いえ……食べません。」

リサの言葉を中空知さんが否定した。

「え?……食べないの?」

俺は思わず言った。

「「「「「「「食べねぇよ(ないよ)!!!」」」」」」」

 

 ……おっかしいなぁ?訓練中に獲れるジビエの中で高級の部類だったんだが?

 

 

 

 

 

 その後、散々文句を言われて意気消沈し、渋々キッチンに戻った。

「お主……初心者にヘビはきつかろう?」

師匠が寸胴鍋を煮込みながら言った。

「そうですかねぇ?……ヘビなんて爬虫類(はちゅうるい)の中でも高級品なのに……」

「そうか……どこかで間違えたか……

「なんか言いました?」

「いや……。」

そう言って師匠は大きなため息をついた。

 

 ……なんかおかしい事言ったか?

 

 

 

 

 さて、俺が再び食材選びを始めると……

「あの……グラタン皿は何処かしら?」

ダージリンはキッチンの戸棚を必死に探していた。

「はい!!ここにあります!!」

一年の少女はダージリンに駆け寄り、皿を出した。

「あら、ここにあったの?ありがとう。」

「……!!はい!!」

そしてパイ生地をそのグラタン皿に敷き、具と魚をつめた後……

「あの……私、オーブンを使ったことが無いの。どう使うのかしら?」

いきなり不安な言葉を言った。

 

 ……おい、大丈夫か?

 

 

 その後、ダージリンはオーブンの使い方を教わった後、余熱をせずにパイを焼き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 俺はフグを取り、さばいている時……

  チーン!!

トースターの音が会場に響いた。ダージリンはトースターからトーストを出し、何かを塗った後、皿に違う何かとトーストを盛り……

「できましたわ!!」

堂々と宣言した。

「ダージリンさん、一品目の完成です。」

中空知さんの声が再び響いた。

「うむ……何故かあれも食欲がわかぬ……。」

ネロは再び頭に手を当てた。

 

 

 

 

 

 審査員にそれと紅茶が行き渡り、食すると……

「俺は好きだけよ……癖があるしなぁ……」

「元宗主国の料理か……」

「……人によっては上手いだろうな。」

「帰りたいよぅ……」

「うん……ワカサギの活造り(いけづくり)に比べたら……まだ……。」

「和泉さん以上の物があるなんて……」

審査員たちのハイライトは一人(ベオウルフ)を除き、消えていった。

 

「ゴフッ……だ、ダージリンさん……この料理は……」

中空知さんは何かを吐いた様な音がした後、この料理を聞いた。

「イングリッシュ・ブレックファスト……ベーコンエッグとブラックプディング、マーマイトを塗ったトーストですわ!!……お昼を食べてないと思って手間をかけた料理ではないの……ごめんなさい。」

  シーーーーン……

 

 

 

 

 

 ダージリンの料理にはコメントはそれ以上出なかった。

 ダージリンは小首をかしげ、キッチンへ戻った。

 

「今度は村田さん、ふぐ刺しでしょうか。」

俺がフグを捌いているのを、中空知さんは目ざとく見つけた。

「うむ!!あれは美味いからな!!楽しみである!!」

一食も食べてないネロはヨダレを垂らしながら言った。

俺は盛り終わった後、茶碗にご飯を大量に盛った。

「「「「「「おぉおおお!!!」」」」」

俺はふぐ刺しを一切れポン酢につけ口に放ると……ご飯を掻き込んだ。

「「「「「「……(ゴクッ!!)」」」」」

俺は再び一切れつまみ、ポン酢につけて食べる。

「……あの、村田さん。」

「…なんです?」

中空知さんの質問に、俺はご飯を掻き込みながら答えた。

「そのふぐ刺しは……」

「あぁ……俺の昼飯です。」

「「「「「昼飯!?」」」」」

審査員たちは目をひん剥き、叫んだ。

「え?……いや、俺まだ昼食ってないんで。簡単に済まそうと……」

「それを出しなさいよ!!アオダイショウじゃなくてさぁ!!!」

藤崎さんは泣きながら叫んだ。

「いや……俺は『普通フグ調理師免許』しかないんで。二親等までにしか食べさせられないんで。」

俺はそう言って美味そうにふぐ刺しを平らげた。

 

 ……流石に法律違反は犯したくないしなぁ。

 

審査員たちは血の涙を流しながら、このふぐ刺しを見ていた。何故だろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 俺が‘‘まかない’’のふぐ刺しを食べ終わった後、カラカラカラ……と揚げ物のいい音が聞こえた。

「ふんふんふーん♪」

はやては鼻歌を歌いながら揚げ物をしていた。会場に揚げ物のいい匂いが広がっていく。

 はやては揚げ物をしながら、キャベツの千切りをし、その後鍋に味噌を溶き始めた

  グゥ……

誰かの腹が鳴った。

 はやては揚げ物を新聞紙が敷かれたバットに入れ、入れ終わると漬物を切り出した。

「出来た!!」

はやては堂々と宣言した。

 

 

 審査員の前には、はやて特製の定食が広がっていた。

「お腹空いてると思ぅて、すぐできる物にしたんやけど……品数が少なくなってしまいました。ごめんなさい。」

はやては申し訳なさそうに審査員たちに言う。

「何言ってんだ!!」

「これほど旨そうなものはない!!」

「あんなヘビにゴミを食わされたんだ!!そんなのに比べれば……」

「おい、キンジ。今度はマムシの丸焼き食わせるぞ」

俺は思わず言った。

 

 ……マムシの丸焼きに比べたら‘‘うざく’’はゲテモノじゃねぇだろうが!!

 

 

 

 

「「「「「「いただきます!!」」」」」」

審査員たちはそう言って、ガツガツと定食を食べ始めた。

「うめぇ!!……うめぇ!!!」

「あぁ……やっと美味いものが食べられる……」

「あぁ……これが‘‘おふくろの味’’かぁ……」

「…………(必死に掻き込む)」

「唐揚げがカラッと揚がっていてとてもおいしいですね~。これは‘‘シェフ・和泉’’にはできないですね。」

「これは美味いよ。」

ベオウルフ、エジソン、キンジに理子、鈴藤さん、音野さんに大好評のようだ。

「……グスッ。……うぅ」

藤崎さんに至っては涙を押し殺し、嗚咽(おえつ)が漏れている。

「あ、あの……どうしたんですか?」

鈴藤さんは、泣き出した藤崎さんに声をかけた。

「み、味噌汁が……お袋の味そっくりなんです……」

そう言って藤崎さんはメガネを取り、涙をぬぐった。

「名古屋出身と聞いたんで、藤崎さんのだけ八丁味噌の味噌汁にさせてもろうたんです。」

はやては申し訳なさそうに言った。

 

 ……はやて、出身まで調べて味を変えるなんて。なんて恐ろしい子!!!

 

 俺ははやてに戦慄を覚えた。

「たまには実家…帰ろうかな……」

藤崎さんの(つぶや)きは会場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 




 実は……ヘビは食べたことがありません。味は想像です(一応調べた)。

 料理のコメントは
『ベオウルフ→エジソン→キンジ→理子→鈴藤→藤崎→(音野)』
の順番です。

 マーメイトも食べたことはありません。
 ブラックプディング(ブラッドソーセージ)は食べたことがありますが……普通のソーセージのほうが好きです。自分はそこまで好きにはなりませんでした(幼少期に食べたので、もしかしたら今食べれば好きになる……のか?)

 藤崎さんは名古屋出身なので、八丁味噌……。
 名古屋に行ったことはないのですが(通ったことはあるが)、名古屋は八丁味噌が主流なんですかね?



Next Ibuki's HINT!! 「スープ(?)」



 

 

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