少年士官と緋弾のアリア   作:関東の酒飲

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 何とか中間テストが終わりました。だけど、一か月後には期末が……今から復習を始めないとまずい……。


今回は比較的短いです。(宣戦会議を一話でまとめようと思ったら、導入だけで結構な量になってしまったので。)


公衆の面前で振られるなんて……

時は過ぎ、9月30日23時10分。俺は戦闘服を着て、腰にホルスター二つと刀に弾薬盒を()き、戦闘帽を被り、万全の体勢で武藤の妹・武藤貴希待っていた。本来なら兄の方に頼むのだが、なぜかいじけていたため‘‘触らぬ神に祟りなし’’という事で妹の方に頼んだのだ。

 ……勤務招集令状で呼び出され、ジャンヌにも武装の上で来いと言われた。いったい何をするんだ?

 俺は刀の柄頭をグッと握った。

「先輩、遅れてすいません!!って……どこか戦争でも行くんですか!?」

貴希が来たようだ。

……流石に武偵高の制服じゃなくて、軍の戦闘服を着ていれば誰だっておかしいと思うか。

「すまないな、こんな夜中に。まぁ……軍の召集があってね。」

俺は手配してもらったボートに乗り込み、エンジンを始動した。あ、忘れてた。

 俺は懐から封筒を取り出し、貴希に渡した。

「これレンタル料な。真夜中だから色付けといたぞ。」

「ありがとうございます、先輩!!」

貴希は封筒を受け取ると、小躍りでもしそうなくらいテンションが上がった。

「……そこまで大したものは入ってないぞ?」

「先輩は色付けてくれるって有名ですよ!!値引き交渉はあまりしないし、それどころかボート一隻貸すだけで色付けてくれるなんて!!」

 ……こんな夜中に貸し出してもらうんだ、色を付けて当然だろうに。

「先輩、今度もよろしくお願いします。」

「……おう。」

俺は喜ぶ貴希を尻目にボートに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

借りたボートの(もやい)係船柱(けいせんちゅう)に結んで船から降り、錆びた梯子を登って浮島へ上がった。人工浮島の上は暗く、濃霧に包まれていた。

「なんだってこんな時間に……。」

俺は思わずぼやいた。あたりを見回すと、浮島の濃霧の中で照明がついている場所がある。ついでにトンカンと何かを建てている音も聞こえる。

 ……あそこにいるのだろうか?

俺は勤務召集令状を片手に、その照明がある場所へ向かった。

 

 

 

「イブキ大尉!!時間前に来るとは!!希信は嬉しいぞ!!」

「あの……これはどういう事でしょうか?」

そこには、掘立小屋を作っている工兵隊の皆さんと、辻さん、それに空軍の制服を着た士官が一人いた。辻さんは勤務召集令状を俺から受け取り、ポケットに突っ込んだ。

 ……召集令状をそんな雑に扱っていいのかよ。

「イブキ大尉は、これから起こることは知っているか?」

辻さんはいきなり、ウキウキと俺に聞いてきた。まるで、買ってもらった玩具(おもちゃ)を自慢するように……。

「……何が起こるんですか?」

「戦争だ……世界規模の大戦争だ。」

辻さんはニタァと笑った。

 

 なんでも、イ・ウーが倒されたことで裏社会のバランスが崩れ、師団(ディーン)眷属(グレナダ)に分かれて戦争が起こるそうだ。

 そして、その宣戦布告とチーム分けをする場所がここ、空き地島でやるらしい。

「その戦争は我が軍も参加する。その宣戦布告の使者3人の護衛としてイブキ大尉が必要だった。だから希信が兵部省に働きかけたのだ!」

「俺、撤退戦苦手ですよ?矢原嘉太郎(兄者)さんの方が適任では?」

というか、辻さん一人いれば大丈夫だと思うんだが。

「希信達の逃げる時間を稼いでくれればいい。それに、矢原は他の任務でいないのだ。」

なるほど、それなら理解できた。理解できたけど……

「辻大佐!!設置完了しました!!」

「ご苦労!!では駐屯地に戻ってくれ!!」

「はっ!!」

工兵隊の隊長が辻さんに報告をして、そのまま工兵隊の皆さんは帰って行った。

「あの、辻大佐?」

「なんだ?わからないことがあれば希信が聞くぞ!!」

「……工兵隊の皆さんが建てたこの小屋は何ですか?」

柱と屋根があるだけの小屋には、カウンター席とテーブル席があり、カウンターには魚の切り身が入っているガラスケース、カウンターの後ろには、まな板とおひつがあり、おひつからは酢の香りがほのかにする。そして、柱と柱の間に暖簾(のれん)がかかっており、そこが入り口だとわかる。その暖簾(のれん)には‘‘寿司 多門丸’’と書いてある。

「これは!!ほかの使者たちをもてなすため!!建てた寿司屋である!!」

「……いるんですか?」

「最近は‘‘お・も・て・な・し’’が流行っていると希信は聞いているのだが?」

 ……それ、結構前じゃないですか?

「それに陸海空全てがこの案に賛成している!!」

……え?まじで?

「君が今日の護衛か?」

空軍の軍服を着た士官(見たら大佐)が俺に声をかけてきた。

「はっ!!護衛の村田海軍大尉です!!」

俺は敬礼をしながら答えた。

「君があの部隊のホープか……僕は加藤空軍大佐、今日はよろしく。」

この加藤大佐は、懐が大きそうな男に見える。辻さんが陸軍代表なら、加藤さんは空軍代表なのだろう。それだと、海軍代表は誰になるんだ?

「はっ!!全身全霊でお守りします!!」

「それはそれは……この時間だと寒いだろう?辻大佐、せっかく建てたのだし一杯やっていこう。」

「加藤大佐、今は勤務中であるぞ!!」

「使者達に飲んでもらうために酒を持ってきたのに、僕たちが飲まないとなると痛くない腹を探られる。飲まないにせよ、寿司ぐらい食べよう。少将殿が握る寿司なんて今後もないだろうし。」

 ……少将が握る寿司?しかも店名が‘‘寿司 多門丸’’。嫌な予感しかしない。

「まぁ、希信もそうは思うが……イブキ大尉!」

「はっ!!」

「寿司は好きか!?」

辻さんが俺に聞いてきた。

「大好物です!!」

「……寿司でも食べるか。希信が許可する!!」

辻さんがそう言うと、加藤大佐と辻さんはその寿司屋の暖簾をくぐった。俺も二人に(なら)って暖簾をくぐると、そこには、明らかにカタギでない人がいた。

「……らっしゃい。」

「流石は山口少将、寿司屋の大将が板についていると希信は思いますなぁ。。」

「これはこれは……。」

そこには、布袋(ほてい)のような朗らかな顔つきではあるが、目つきは殺人鬼の様な、おっかない人が板前をやっていた。ちょうど今、この明らかにカタギではないような板前さんが、布巾で包丁を拭いていた。まるで……包丁に付着した血油(ちあぶら)を拭きとるように……

「……え?山口少将?」

 

 山口多門丸少将は北方を守る第5艦隊の参謀長だったはず……。それが何で、こんなところで寿司を握ってるんだ!?というか、この人の雰囲気が恐ろしすぎて気軽にネタ頼めないだろ!?

 

「どうした?イブキ大尉?寿司を食べることを希信が許可したぞ?」

辻さんが不思議そうに俺を見た。

「どうした大尉?」

加藤大佐は隣の席をポンポンと叩く。

「え、あ……ハイ、スイマセン。失礼シマス。」

俺は考えるのをやめて席に着いた。

「では希信にはキスを!」←辻さん

「僕にはエンガワをお願いします。」←加藤大佐

「……スイマセン、ヒラメをお願いします。」←俺。

すると、板前・山口少将(?)がギロリと俺達を見ると

「………ヘイ。」

そう言って、包丁を拭くのをやめると、寿司を握り始めた。

 

 ……重い空気がこの寿司屋(?)の空間を占領したような気がする。

 

「……お待ち。」

そう言って板前・山口少将(?)は寿司下駄と共に、頼んだ寿司が2貫乗っていた。

「……いただきます。」

俺はその寿司を手に取り、醤油に軽く触れさせた後、頬張った。

「あぁ……。」

誰かから感嘆の声が上がった。

 ……うまい。俺は漫画や雑誌の様に料理の美味しさを多様な語彙で表現したり、一流料理人のような細かな違いが分かる舌を持っていない。しかし、この寿司を食べた感想が美味(うま)い以外の感想が見つからないという事がよくわかった。

 ……って違う!!!

「大将、とてもおいしいです!!……ところで山口少将、少将は第5艦隊参謀長であったと記憶していますが……。」

俺がこの重すぎる空気を破り、発言した。

「……聞いてなかったか。私はこの大戦中、第5艦隊からHS部隊に転属になった。」

俺の顔から血の気が引いていくのが分かった。

 ……少将クラスの転属だ。この部隊は特殊で、大佐で中隊を率いる。という事は山口少将は中隊長以上の階級、となるとHS部隊隊長以外ない。部隊長の顔を知らない部下など、どうなるかわからない……

「す、すいませんでした!!」

俺は席から立ち上がり、頭を下げて謝罪した。

「分からなかったのも無理はない。今回の大戦のため今の今まで軍機だった。」

 ……極秘で転属か。

「村田大尉、このことは許す。寿司でも食って忘れろ。」

「ありがとうございます!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ところで少将。」

「なんだ?それと、ここでは大将と言え。」

「大将、なぜ大将自身が寿司を握っているのですか?」

「使者達をもてなすためだが?」

「いえ、職人に頼んで、出張してもらってもよかったのではないかと……。」

「資材は空軍、人手は陸軍が出した。食材と職人が海軍が出す。それで、海軍の将官自ら寿司を握ればこれほどのもてなしはないだろう。」

「……はい。」

そう言われちゃそうだけどさ。

「それに最近は‘‘お・も・て・な・し’’が流行っているから、将官自らやった方がいいと加藤大佐が言っていたぞ。」

俺は加藤大佐を見た。加藤大佐は満面の笑みを浮かべていた。

 ……黒幕はあんたか!!

 

 

 

 

 

 

 

 俺は諦めて少将の握る寿司に舌鼓を打っていると、次第に人が増えていった。

「ここいいか?……って貴様!!」

「イブキも来てたのか?」

白銀の鎧を着たジャンヌと武偵高校の制服を着たキンジが来た。

「お、二人とも来たのか。あぁ、ここ空いてるぞ。」

俺は隣の席をポンポンと叩いた。ジャンヌは顔を真っ赤にしながらそこに座り、キンジもジャンヌの隣に座った。

「イブキ大尉の知り合いか?」

辻さんが聞いてきた。

「二人とも武偵高校の同級生です。」

「ほぅ……。」

辻さんは観察でもするかのように二人を見た。

「む、村田……。」

ジャンヌは真っ赤になりながら俺を呼んだ。

「どうした?」

「この前の手紙のことだが……確かに、私は貴様を悪からず思ってはいる。しかし好きだとは……こう、友人としては好きではあるが、男として貴様を多分好いてはいないと思うのだ。……私のことを可愛いとか、いい女と言った時、確かに私は舞い上がってしまった。貴様が本心で言ったことは分かる。だが、こう……私は……まだ恋やら愛やら経験したことがないのでよく分かっていない。だから……今の私は貴様に告白などできない。貴様から告白されても私は、きっと断ってしまうだろう。……勘違いさせた事については謝る。仮に今の状態で、恋人同士になどなってはいけないのだ。貴様を期待させてしまってすまない。だが、可愛いとか、いい女と言われて嬉しかった。……自分勝手だとは思うが……今まで通りに接してくれると嬉しい。」

ジャンヌは顔をトマトの様に赤くしながら、俺に言ってきた。

 ……え?あの冗談の件、真面目に受け取っちゃってたの!?

「……え?あ……うん。分かった。」

ガヤガヤとしていた‘‘寿司 多門丸’’がシーンとした。

「……。」

山口少将(大将)は無言で大トロを俺の寿司下駄に置いた。

「……辻大佐。大尉に今日ばかりは飲ませてもいいんじゃないか?」

加藤大佐が俺の肩をポンポンと叩きながら言った。

「……イブキ大尉、希信は本日、宣戦会議のせいで部下を監督する暇がなかったようだ。希信は何も見ていない。」

そう言って、辻さんは俺の目の前にビール瓶とコップを置いた。

 ……なんか、凄く(むな)しい。確かにあれはブラックジョークだったかもしれない。けれど、告白してない美少女に、しかもこんなに人がいる目の前で振られるなんて……。

俺はジャンヌを見た。彼女の顔は真っ赤だった。

 ……策略でやってるわけではないのだろう。という事は素やったんだ、ジャンヌは。

「アハハハハハ……。」

俺の虚しい笑い声が、‘‘寿司 多門丸’’に響いた。

「まぁ……その、なんだ。注いでやる。」

トンガリ帽に逆卍の眼帯をつけ、肩にカラスを乗せた少女が瓶ビールの栓を抜き、俺の目の前にあるコップに注いでくれた。

 ……そういえば、こいつ夏に俺と戦ってたよな。確か名前は……カツェ=某。

「ムラタさん、あなたに主のお導きがあらんことを。」

巨乳のグラマラスな体を、金糸の刺繍を施したロープで隠した美女が、ロザリオを手に、俺の隣で祈ってくれた。

「……フォースの事で世話になってるからな。食えよ。」

GⅢが俺の手にトマトを渡した。

 ……GⅢ、オマエも来てたのか。

「……強く生きなさい。」

カナさん(キンイチさん)が俺の背をさすってきた。

 ……あんたも居るのか。これでかなめも居たら遠山一家勢ぞろいだな。

「……泣く、ダメ。」

頭に生花を挿した、角のついた小学生ほどの少女が椅子を台にして俺の頭を撫でた。

 ……これが最後の一押しとなった。

「チクショウ!!今日は飲んでやる!!」

俺はコップのビールを一気に(あお)った。

「「「「「「おぉ~!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばトンガリ帽の魔女さん。」

「なんだ?」

「前回ちゃんと名前聞いてなかったからさ。俺は村田維吹。よろしく。」

「あぁ、そうだったな。アタシはカツェ=グラッセだ。よろしく。」

俺とカツェさんは握手をした。

「そういえばカツェさん、逆逆。」

俺はそう言って自分の目を指した。

「え?……ッ~~~!!」

カツェさんは急いで手鏡を見て確認した。

「お、おめぇ!!嘘つきやがったな!!」

「いやぁ、前回が前回だったし。」

「てめぇ!!ぶっ殺してやる!!」

  ギロリ!!!

「「ッ!?」」

圧倒的な圧力を俺とカツェは感じ、お互いその圧力を感じた方向を見ると……そこには

布袋(ほてい)のような優しい顔とは裏腹に、般若も逃げ出すような眼光を光らす山口少将(大将)がいた。

「お客さん……ここは暴力沙汰、禁止ですよ?」

「「すいませんでした。」」

俺とカツェは土下座した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「想定外のことが起き、開始時間が遅くなってしまったが……始めよう。各地の機関・結社・組織の大使たちよ。宣戦会議(バンディーレ)……イ・ウー崩壊後、求める者を巡り、戦い、奪いあう我々の世が……次へ進む為に(Go For Next)。」

ある程度時間がたち、騒ぎも落ち着いてきた所で、寿司屋の中にあった司会者席みたいな台にジャンヌは立ち、ここにいる全員に聞こえるように言った。ついでに、ジャンヌの顔はまだ若干赤い。

――Go For Next――

キンジは、バラバラに唱和したその一夜限りの飲み仲間達を、ヤケクソ気味に睨みつけていた。

 ……これが戦争への第一歩、宣戦会議か。辻さんが張り切っているってことは……メチャクチャ危険な戦争なんだろうなぁ。なんだってこんな目に……。

 俺はヤケクソ気味にイクラをほおばった。憎たらしいぐらいに美味かった。

 

 




 遅くなりましたが、山口多門丸少将は太平洋戦争中に第2航空戦隊司令官をしていた猛将がモデルです。この人は有名&名前もそこまでひねってないので、すぐに分かると思います。


 寿司屋では板前さんのことを‘‘大将’’と呼ぶので山口少将を‘‘大将’’と呼んでいます。

 公衆の面前で、一方的に振られれば……流石に同情すると思います。将来の敵だとしても……。


  Next Ibuki's HINT!! 「陣営決め」

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