少年士官と緋弾のアリア   作:関東の酒飲

112 / 113
遅れた事、深くお詫び申し上げます。

 言い訳をさせていただきますと……留年をかけた成績発表を前に手が付かなくなったり、就活×コロナのせいで右往左往していたり……。
 もう疲れた。なんだよ、エントリーシートって。

 



遠すぎた香港……

 安眠ができるようになって数日後、俺達『COMPOTO』は羽田空港にいた。

 俺達はカウンターで荷物を預けてボーディング・パス(飛行機の切符)を受け取り、武装職従事者専用の出国ゲートを抜け……ある一室へ向かっていた。

 免税店に目もくれず(夏のアメリカ旅行で見たから)その一室へ着き、入り口にあるカウンターで簡単な手続きを済ますと……俺の目の前には桃源郷が広がっていた。

 

 ……ここが、かの有名な航空会社ラウンジ!!

 

 航空会社ラウンジ……カードラウンジや有料ラウンジとは違い、『プレミアムメンバー』や『ファーストクラス・ビジネスクラス利用者』等しか利用できない特別なラウンジだ。

 広々とした空間に、ソフトドリンク・アルコール類、軽食、シャワールーム全てが無料という、素晴らしいサービスを兼ね備えた場所だ。

 

 ……一度、一度でいいから来てみたかったんだよ!!

 

HS部隊の時、移動で時々民間機を使う事もあった。そしてファーストクラス・ビジネスクラスしか空いていないという時は、‘‘軍の予算’’でその席に乗せてもらっていた。

 だが、俺の上官:辻希信大佐は(‘‘軍の予算’’であるため)ラウンジ利用の許可は一切出すことはなかった。なので俺は一度もラウンジを利用したことがなかった。

 

 

 余談ではあるが、俺はHS部隊第二中隊第一小隊(辻さん以外)全員巻き込み、ラウンジ利用を画策した事があるのだが……勿論(もちろん)辻さんにバレ、半殺しにされたのは言うまでもない。

 

 

 

 そんな下らない昔話はともかく……桃源郷(ラウンジ)についた我々『COMPOTO』は席取りを終えると、各々(おのおの)飲み物食べ物を取りに行ったり、シャワーを浴びに行ったりした。

 

ふぁはは、(まさか、)へんいん(全員)ふぃふぃへすふぁふぁへ~(ビジネスなんてねぇ~)

 

 理子は無料のケーキやサンドイッチ・ビスケット・クッキーをハムスターの様に口に詰め込みながら言う。

 そしてドリンクバーでミックスジュースを作るが如く、置いてあった酒を適当に混ぜて作った即席カクテルで口の中の物を流し込んだ(悔しいことに、一口貰ったらうまかった)。

 

「はい!!リサ、頑張りました!!……イブキ様、頼んでいた‘‘かき揚そば’’と‘‘きつねうどん’’です。」

「流石リサだな。よくもまぁ、こんな割安でビジネスクラスを……。お、ありがとう。」

 

俺はウィスキーや日本各地の日本酒や焼酎を飲み、稲荷ずしやおにぎりを頬張(ほおば)っていたのだが……その手を止め、そばやうどんを啜り始める。

 

 ……数日間は日本食が食えないからな。‘‘食いだめ’’しておかないと。

 

 

 

 

 普通、武偵でも軍人でも敵地へ赴く数時間前に酒を飲むのは厳禁なのだが(判断力が落ちる云々(うんぬん))……‘‘縁起担ぎ・景気づけ’’と言う名目で、俺は普通に酒を飲んでいた(‘‘無料’’と言う言葉のせいもあるだろうが)。

 羽田~香港間のフライトは4時間20分。待ち時間に不具合等の時間を合わせても……今か6~7時間後には香港市内にいるだろう。そんなに時間があれば……今散々飲んでいても、市内に着く前には酔いは醒めている。

 

 

「……(ガツガツ)」

 

俺の斜向(はすむ)かいに座る牛若は勢いよくおにぎりや稲荷ずしを食べていた。おそらく、俺と同じような事を考えて食いだめしているのだろう。

 

「……(ニコニコ)」

 

エルキドゥ(エル)はオレンジジュース片手にニコニコと静かに座っていた。

 そして、この場にいないネロとニトはシャワーを浴びに行っている。

 

 

 

 

「ねぇねぇ、みんなの席は何処?」

 

 大量のサンドイッチやお菓子を食べてもまだ足りないのか、理子はそう言いながら再び山盛りの大皿と謎カクテルを持ってきた。

 

 ……そう言えば席の確認はしてなかったな。

 

俺はポケットに手を突っ込み、ボーディング・パスを探し始める。どこかのポケットに入れたのは覚えているのだが……ラウンジの事で頭がいっぱいだったせいか、なかなか見つからない。

 

「理子りんは10E~!」

「10Gなので…‥理子殿と隣ですね!」

「「いぇ~い!!」」

 

理子と牛若は楽しそうにハイタッチをした。二人のノリが‘‘酔っぱらいのノリ’’に見えるのは気のせいだろう。

 

「僕は……11Dだね。」

「リサは11Fですので……エル様、隣ですね!!」

 

エルキドゥ(エル)とリサも隣らしい。

 ビジネスクラスの席の並びは1・2・1となっているため、順当に考えれば俺・ネロ・ニトが一人席の可能性が高い。

 俺はやっとボーディング・パスを見つけ出した。それに書かれた席順を確認すると……

 

 ……‘‘GTE’’?おい、これってもしかして……

 

俺のボーディング・パスには座席番号が書かれてなかった。その代わりに『GTE』とだけ書かれている。俺は嫌な予感がした。

 残っていたおにぎりとそばつゆを不安と一緒に飲み込もうとするが、不安だけはやはり残る。

 

 ……おい、噂で聞いたことがあるが……『オーバーブッキング』かよ!?

 

 

 

 

 さて、『オーバーブッキング』を知っているだろうか。

 元々、航空会社は乗り遅れや直前のキャンセルなどの‘‘予約したが乗らなかった客’’の数を予想し、座席数よりも多くの客を募集している。そのため、 ‘‘予約したが乗らなかった客’’が予想よりも少なかった場合、全員を旅客機に乗らせることはできない。この状態を『オーバーブッキング』と言うのだ。

 ただ、『フレックストラベラー制度』などがあるため‘‘旅客機に乗れない’’という確率はとても低く……1万人当たりの‘‘乗れなかった乗客’’の割合はJALで0.04人、ANAで0.24人だそうだ(国土交通省 平成31年4~6月のデータより)。

 そして、オーバーブッキングに会いやすい人は『予約時に座席を指定しない』・『チェックインが遅い』・『荷物を預けない』・『マイレージの上級会員でない客』・『運賃が高くない客』と言われているのだが……

 

 ……いやいやいや!?‘‘座席指定’’は分からないけど、俺は‘‘早くチェックインして’’・ ‘‘荷物を預けて’’・‘‘ビジネスクラス’’だぞ!?

 

そして、チケットに書いてある『GTE』とは……『オーバーブッキングで‘‘搭乗ゲート(GTE)’’で調節するからそこで待ってろや(意訳)』と言う意味だ。

 

 

 

 

「うむ!!いい湯であった!!ただ、テルマエが無かったのは残念ではあるがな!!」

「無料のシャワー室と聞いていたのでそこまで期待していなかったのですが……アメニティも(そろ)っていて中々ですね。」

 

 俺が予想外の事態で固まっていた時、シャワー組(ネロとニト)が湿った髪に火照った体で、‘‘冷えたビール(又は冷えたワイン)’’片手に戻ってきた。そして俺達のいるテーブルの前まで来ると二人は片手を腰につけ、もう片方の手で‘‘冷えたビール(又は冷えたワイン)’’を一気に飲み干す。

 

 ……うん、二人とも日本に馴染(なじ)んできたなぁ

 

俺はボーディング・パスから目を離し、軽く現実逃避を始めた。

 

「ちょうど今席に付いて話していました。ネロ様とニト様の席は何処ですか?」

 

リサが尋ねると、ネロとリサはボーディング・パスを探し始めた。

 

「余は11Aだな。」

「私は11Hですね」

 

 ……マジか、『GTE』は俺だけか。

 

俺は頭が痛くなってきた。

 

「さっきから静かだけれど……大丈夫かい?」

 

俺がいきなりしゃべらなくなったからエルキドゥ(エル)は不思議に思ったのだろう。

 俺は持っていたボーディング・パスをテーブルへ軽く放り投げた。そのボーディング・パスは滑る様に動き、テーブルの中央で止まった。

 

「もしかしたら……俺、香港行けないかも。」

 

「「「「「「……は?」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅客機の席を手配したリサは土下座せんばかりの勢いで俺に謝ってくる。だが、こればかりは運でしかない。

 また、『フレックストラベラー制度』(オーバーブッキングになった時、自主的に他の便へ変えてくれた客には現金やその他サービスが受けられるという制度)があるため、オーバーブッキングになっても乗れないという事はほとんどない。そのため、乗れない確率は1万人に1人以下と言う確率なのだ。まさか俺がその一人になる事はないだろう。

 そのため俺はリサを許し、そのまま搭乗時刻ギリギリまでラウンジで飲み食いを続けていた。

 

 

 

 

 

 

『先日の夜、在香港アメリカ総領事館で爆発事故が発生しました。このことを受け、アメリカでは……』

 

俺は視線を移すと……テレビでニュースを報じていた。ちょうど行先が同じ‘‘香港’’での事件、気にならないはずがない。

 

 ……まさか藍幇(ランパン)が?……いや、まさか極東戦役(FEW)中にアメリカと事を構えるなんてことはしないはずだ。きっと他の勢力がやったに違いない。俺には関係ないはずだ。

 

俺はそう思いながら日本酒を飲み干し、お代わりを貰いに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウンジをたっぷり堪能(たんのう)した後、そろそろ時間なので搭乗ゲートへ向かう事にした。

 搭乗ゲートへ着くと、すでに‘‘ダイヤモンドステータス’’または‘‘ファーストクラス’’の搭乗が始まっていた。

 アリアはファーストクラスを取っていたのだろう。アリアは小さい体を揺らして優雅(笑)にボーディング・ブリッジ(空港と飛行機を繋げる橋)を渡っている所だった。

 

 ……アリアがいるってことはキンジもいるのか?

 

搭乗口近くのベンチを探すと……いる。キンジが白雪と一緒に座っていた。近くにはレキもいる。

 

 ……どうせだ、冷やかしと(白雪への)応援でもしてやるか。

 

 

 

 

 俺はキンジの席へ(おもむ)き、声をかけようとした時だった。

 

「お!?イブキにキンジ!!お前らも一緒の飛行k……って酒臭ッ!!

 

背後から武藤がドカドカと近づいてきた。そして俺と肩を組もうとし……相当酒臭かったのか、俺を突き飛ばした。

 

「おう、当たり前だろう?さっきまでタダ飯タダ酒を堪能してきたんだからよ。」

 

しかし、俺は酒が入っているせいか心に余裕がある。俺は突き飛ばしてきた武藤を許し、陽気に答えた。

 

「……お前、浮かれすぎだろ。香港は敵地なんだぞ。」

 

そんな俺を見て、キンジは(あき)れてため息をついた。

 

「大丈夫だって、香港に着くころには酔いはさめてるからよぉ……」

 

 ……それに、最悪の場合は数時間後の別の便だけどな。

 

 俺はそんなことを考えながらため息をついた。

 

 

 

 そんなやり取りをしている間に‘‘ビジネスクラス’’または‘‘その他優待客’’の搭乗が始まった。

 俺もビジネスクラスのボーディング・パスを持っているとは言え……『GTE』。もちろん搭乗はできない。

 

「イブキ様、本当に申し訳ございません。リサの責任です。よろしければチケットの交換を……」

「リサ、気にしなくていい。それに、リサは戦闘能力が無いんだから単独で香港へ行って襲われたら抵抗できないだろう?……まだ俺は乗れないと決まったわけではないから。ただ念のため、手配してくれたホテルの名前と住所を後で送ってくれないか?」

 

俺はそう言ってリサの頭を撫でた。リサは頭を下げ、静かに涙を流した。

 

 ……リサ、そこまで気にしなくていいから。重い、重いし周りの目が……なぁ!?

 

白雪は何故か感銘を受けたのかハンカチで目尻を押さえていた。逆にキンジは呆れ、武藤は俺を睨んでくる。また、その他の客も俺を見てくるため……中々つらい。

 俺の祈りが通じたのか……リサは名残惜しそうに俺から離れると己のスカートをつまんで持ち上げつつ頭を下げ、上品で見事な‘‘カーテシー’’をした。そして飛行機に乗り込んで行った。

 

 ……周りの目がつらい。

 

最早俺はため息も出なかった。

 

「では先に乗っているぞ!!」←ネロ

「乗れなかった場合は連絡してくださいね?」←ニト

「……(ムスッ)」←牛若

「ほら、行くよ。(牛若を引っ張って連れて行く)」←エルキドゥ(エル)

 

ネロとニトは『何とかなるだろう』と思っているのか、すんなりと行った。それと対照的に『主と一緒に行く』と地面に根を張ったように動かない忠犬:牛若は、エルキドゥ(エル)に首根っこを掴まれて飛行機へ運ばれていった。

 そして白雪・レキもビジネスクラスだったらしく、キンジを置いて先に搭乗していく。

 

 

 

 

 

「「「……」」」

 

残ったのは……いつもの野郎共に不知火(清涼剤(?))を抜いた、むさ苦しい男3人だけだった。(武藤率いる『キャリアGA』はまだ乗ってないが)。

 

「とりあえず……おい、イブキ。何お前あんな巨乳美少女メイド泣かしてるんだよ。」

「武藤の言葉はともかく、流石に女を泣かすのはどうかと思うぞ。」

 

武藤は察していたが……キンジまで敵に回るとは予想外だった。

 

「泣いたのはともかく……これが原因だよ」

 

俺は自分のボーディング・パスを二人に見せた。

 

「っけ!!ビジネスクラスなんて金を持ってるなぁ~……あぁ」

「なんだよ。お前までビジネスクラスか。乗らなくていいのか?」

 

武藤はパスを見て察したようだが……キンジはまだ気が付かないようだ。

 

「『COMPOTO(うち)』は補給や手配等の後方支援はリサが担当なんだ。で、このパスには座席が書いてないだろ?」

「……言われればそうだな。」

「オーバーブッキングで俺だけ乗れない可能性が出てきたんだ。リサはメイド業や後方支援に人一倍のプライドがあるから……それで責任を感じていたんだ。で、俺が許したら……あぁなったって訳だ。」

 

 ……でも涙を流すほど感動することではないと思うんだけどなぁ。

 

俺はため息をつき、武藤とキンジは俺から視線をそらした。

 

「それとさっき聞いたんだが……この便、エコノミーはともかくビジネスもファーストも今のところ空席は無いんだと。」

 

さっき搭乗ゲートにいるCAさんに聞いたのだが……今のところ、『フレックストラベラー制度』で移動してくれる客はいないそうだ。そのため、直前のキャンセルが無いと俺は乗れないそうで。

 

「イブキ、悪かった。やっぱり親友を疑うってのは良くないよな!!」

「ごめん。」

 

武藤とキンジは素直に謝ってきた。とりあえず俺は武藤を一発殴っておいた。

 

 

 

 

 

 

 それから時間が経ち、そろそろ搭乗締め切りの時刻が迫っていた。もちろんキンジや武藤はすでに搭乗を済ませており……搭乗ゲートにいるのはCAさん達と俺だけだった。そのCAさん曰く『オーバーブッキングで‘‘空席待ち’’は俺一人』だそうで。

 

「あの……空席、あります?」

 

俺はCAさんに尋ねた。

 

「申し訳ございません。今、エコノミークラスが4席ほど空いております。そちらでよければ……」

 

CAさんが申し訳なさそうにそう伝えた時だった。

 

「おい藤崎くぅ~ん!!君が羽田(ここ)で饅頭とか買ったせいでもう搭乗ギリギリだよ!?」←和泉

「はぁ!?そもそも和泉(鈴虫)が寝坊したから遅くなったんだろ!?」←藤崎

「まぁまぁまぁ……」←鈴藤

「……(ビデオを撮っている)」←音野

 

見覚えのある蝦夷テレビの4人が大声でこの搭乗口へやってきた。

 

「ん?村田君?奇遇だねぇ」←和泉

「もう時間だから早く乗ったほうがいいですよぉ!!」←藤崎

「そうだよ?早く乗りなって」←鈴藤

「……(ビデオを撮りつつ、手で乗ることを()かす)」←音野

 

4人は手早く搭乗手続きを済ませ、急いでボーディング・ブリッジを渡っていった。

 彼らが出していたのはエコノミーのパスだった。そのため……

 

「……あの、CAさん?さっき『エコノミーが四席空いてる』って言ってましたよね?もしかして……」

「……お客様、申し訳ございません。別の便に変更なさって貰ってもよろしいでしょうか?」

 

空いていたエコノミーの4人席、それは……あの蝦夷テレビは四人組の席だったようだ。

 

 ……香港って、近い様でメチャクチャ遠い所なんだな

 

俺はため息を吐くのと同時に、ボーディング・ブリッジが飛行機から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、次の ‘‘羽田空港→香港行き’’の便は00:55発だそうだ。現在時刻は午前9時過ぎなので15時間後……もはや明日である。

 ほかの航空会社からも‘‘羽田空港→香港行き’’の便はあるのだが、航空連合(アライアンス)が違うために乗れないそうだ。

 

 ……流石に15時間後は無いだろ

 

そこで提案されたのは『 ‘‘成田空港→香港行き’’』か『 ‘‘羽田空港→伊丹空港行き’’に乗り、別会社で‘‘関西国際空港→香港行き’’』の二つ。

 後者の方は2時間ほど到着が早いため(とは言っても現地時間20時半ごろ到着)、俺は急遽伊丹空港(大阪)へ行く事となった。

 

 ……とはいってもなぁ。元々の便に乗れていれば、現地時間の13時頃には香港に着いてたんだよなぁ。

 

俺はため息をつきつつ……国際線ターミナルから羽田第2ターミナルへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 香港にて

 

「えぇ、その‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’が乗る便は全部買い占め、オーバーブッキングを起こさせなさい。また、彼は他の便で来ようとするはずです。十分注意しなさい」

 

諸葛静幻は‘‘這う這うの(てい)’’で何とか日本を脱出した後、急いで香港の防衛策を練っていた。

 そして‘‘(エネイブル)(キンジ)’’はともかく、‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)(イブキ)’’への妨害を始めていた。

 なお、‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)(イブキ)’’への‘‘麒麟の置物(超強力な呪術)’’や‘‘オーバーブッキング’’も全ては諸葛静幻が裏で手を回したことだった。

 

「あの、諸葛先生?なぜ‘‘(エネイブル)’’より‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’を警戒するんですか?東京では‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’を瀕死にまで追い詰めることができました。全力を出せば……きっと奴の首を取れるはずです。ですが‘‘(エネイブル)’’を、『バスカービル』を倒せる確証は……」

 

司馬鵬(老け顔)は右手で書類にサインを、左手でキーボードを叩きながら尋ねた。

 今、香港藍幇(ランパン)上層部はいつもの数倍以上多忙だった。上海藍幇(ランパン)が壊滅したことにより、上海の仕事の一部が香港藍幇(ランパン)に降りかかってきたのだ。

 『バスカービル』やイブキへの対策をしつつ、通常業務が倍増したため……香港藍幇(ランパン)上層部はすでに疲労していた。

 

「‘‘手負いの獣’’ほど恐ろしい物はありません。例え‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’を瀕死に追い詰めたとしても……彼は周りを巻き込んで戦い続けるでしょう。そして多大な被害を振り撒く……」

「そうですが……大量の雑兵に曹操(ココ)姉妹に自分がいれば、奴の首は取れるはz……」

(ほう)、大局を見失うな。彼らを倒すことが目的ではない。‘‘香港藍幇(ランパン)’’を……いえ、『香港を守り、そして戦後も‘‘藍幇(ランパン)’’の影響力を維持させ、増大させる事』が我々の使命ですよ?」

 

 諸葛静幻は東京での戦闘に加え、香港での激務のせいでやつれていたが……眼光は今まで以上に鋭くなっていた。

 

「‘‘不死の英霊(イモータル・スピリット)’’は周りに()く被害が尋常ではありません。自国の首都ですら‘‘あんな事’’になったのですよ?そんな彼が香港(ここ)で遠慮しながら戦うと思いますか?」

 

静幻は口調では諭すように、しかし目は『このぐらいも分からないのか』と言う呆れた目をしていた。

 ただ、彼を弁護すると……いつもの司馬鵬(しばほう)であればこの様な事はすぐに悟っていたはずだ。しかし今の彼はこなすべき仕事が多すぎて疲労困憊であり、頭の回転は非常に悪かった。

 

「日本の被害を考えれば……一地区くらいは焼け野原になりますね。まだ『バスカービル』との戦いの方が……」

 

司馬鵬(老け顔)は疲労によってさらにしわが増え、肌年齢が上がった顔を真っ青にしながら言った。

 ついでに、もしここにイブキがいれば……『いやワザとじゃないから!!と言うかテメェら藍幇(ランパン)やサイモンが来たからだろ!?と言うか、一人で一地区を焼け野原にできるほどの戦闘力は持ってねぇ!!』などと全力で否定しているだろう。

 

「一地区ぐらいで済めばいいのですがね」

 

諸葛はボソッとそう言った後、仕事を片付けながら二人でため息をついた。

 

 

 

 

 なお、香港国際空港では……

 

「イブキ先生(シエンション)、来なかたネ。」

不用担心(心配するな)、きっと乗り遅れネ。次は……JALの14時15分。イブキ先生(シエンション)、一緒に待つネ。」

「……是的(うん)

 

しょんぼりしたココ(三女:猛妹(メイメイ))をココ(長女:狙姉(ジュジュ))が慰めていた。一見、美しい姉妹愛を感じられる光景であるが……

 

「放置プレイだと思うと……なかなかヨ!!」

「……原来是这样(なるほど)!!」

 

そして二人の頬は徐々に赤く染まっていく。

 そんな二人から離れた場所で……ココ(次女炮娘(パオニャン)・四女機嬢(ジーニャン))が冷めた目で見ていた。

 

「姉ちゃん達、イブキのせいでおかしくなた。炮娘(パオニャン)?どうしたら治るカ?」

機嬢(ジーニャン)、‘‘女大十八变(女は18回も大きく変わり)越变越好看(変わるたびに美しくなる)’’ヨ。」

 

機嬢(ジーニャン)の言葉に……炮娘(パオニャン)(さと)った目で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、俺は羽田第二ターミナルへ向かい、大阪・伊丹空港へ向かう事になった。

 その際、エコノミー席しか空いてなかったため、中央三席の真ん中に座ることになったのだが……

 

「……って、そんな事があったのよぉ!!」

「やっだぁ~!!」

 

俺を挟むように座った‘‘オネエ’’二人が意気投合し……そのまま俺を挟みながら楽しく会話をし始めたのだ。

 

「あ、あの……俺、席交換しますか?」

「あらぁ~。でも悪いからいいわよぉ」

「そうよぉ~?坊や、気持ちだけ貰っておくわぁ」

 

 ……いや、気まずいから席を移動したいんだけど

 

そんな俺の願いは通じる事はなく、俺を挟みながら(彼女)(?)達は話が弾んでいった。

 

 

 

「ねぇ坊や、このマニキュア、どう思うかしらぁ~?」

「この色、なかなかいいと思わなぁ~い?」

 

 ……いや、マニキュアなんて分からねぇし。早く伊丹に着かねぇかな……

 

 

 

 

 

 さて、伊丹空港へ着くと俺はバスに乗り、関西国際空港へ向かった。

 関西国際空港へ着くとカウンターで手続きをし、休む間もなく旅客機へ乗り込むこととなった。

 

 ……だ、だけど今回はビジネスクラスでよかった。

 

 ドタバタとした疲れからか…‥俺は豪華な機内食を平らげ、ビールを飲み干すと夢の中の住人になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 香港国際空港は1998年に開港された比較的に新しい空港で、現地では‘‘赤鱲角國際機場(チェクラップコク国際空港)’’と呼ばれているそうだ。

 なんでも『2015年の年間乗降者数は約6,800万人でドバイ国際空港、ロンドンのヒースロー国際空港に次ぐ世界第3位、貨物取扱量においては世界第1位(Wikipediaより引用)』だそうで。

 俺は襟を緩めてコートを脱ぎ、ハンカチで汗を拭きながら香港国際空港へ足をつけた。

 

 ……(あたた)かい。いや、少し暑苦しいくらいか

 

 到着時刻は20時半前、予定時刻より少し早く到着したようだ。もちろん、香港の空は真っ黒に染まっている。

 

「本来なら昼過ぎには到着だったんだけどなぁ。」

 

俺は思わずため息が出た。

 

 

 

 

 入国審査を済ませ(入国管理官のおばちゃんがギョッとした目で俺を見てきたが……何故だ?)、手荷物を受け取り、俺は‘‘到着ロビー’’へ着いた。

 

 ……流石に来てないよな?

 

俺は『到着が夜遅くになるため、迎えは不要』と『COMPOTO』全員に伝えてある。そうは言ってもリサや牛若あたりが迎えに来ているかもしれないので、‘‘到着ロビー’’を軽く見回してみると……

 

 ……こ、ココ!?それも四人そろって!?

 

‘‘到着ロビー’’の入り口をちょうど見張れるベンチに、ココ姉妹4人が仲良く寝息を立てながらぐっすりと寝ていた。一部ではヨダレが垂れていたり、鼻提灯(ちょうちん)を作るほど爆睡している。

 何故空港にココ達がいるのか分からないが……寝ているのは不幸中の幸いだ。俺はそそくさとその場を離れようと……

 

  プルルルル……

 

その時、ココ姉妹の誰かのポケットから携帯のアラームが鳴った。

 

 ……マズい!!ココが起きる!!

 

俺は慌ててそこらにあった柱に隠れ、ココをの様子をうかがう。

 

「んみゅ……吵闹(うるさい)……」

 

すると同時に、ココ姉妹のうちの一人が寝ぼけながらも携帯のアラームを止めた。そして、再び横になって惰眠を(むさぼ)る。

 

 ……なんでここに奴ら(ココ姉妹)がいるのか分からないけど……とにかくここから離れるぞ!?

 

そう思って足早にこの場から離れようと……そこで、周りが俺を注目していることに気が付いた。俺は自分自身を見ると……普段通りの東京武偵高校の制服だ。おそらく、この服が珍しいのだろう。

 

 ……念のために着替えておくか。

 

 

 

 

 俺はトイレに駆け込み、個室に入ると念のために持ってきていた‘‘黒のスーツ’’に着替えた。

 

 ……これならあまり目立たないはずだ。‘‘ビジネスで来た日本人’’に見えればいいが。

 

それにネロやニトの事だ。待ち合わせ場所はそこらのファミレス(香港にファミレスはあるのか?)の様な場所ではなく……格式のある場所、おそらくドレスコードのある場所にしているはずだ。そのような場所に学生服は……(日本だと)一応良いのだが、あまり良い顔はされない。しかもここは香港だ、学生服では拒否される可能性がある。

 それに学生服は空港(ここ)ですら目立っている。市内ではさらに目立つはずだ。香港は敵地であり……敵地ではあまり目立ちたくはない。

 

 ……とはいえ、これは安物のスーツだからな。ドレスコードの場だと逆に目立つかも

 

俺はため息をつきながらネクタイを締めて背広を着た後、顔を隠すため黒のソフト帽を被った。

 そして門番(ココ姉妹)からバレないようにこっそりと空港を出ると急いでタクシーに飛び乗り、香港市内へ向かった。

 

 

 

「もしもし……リサ、今着いたから。どこに向かえばいい?……わかった。ICCのOzoneって言うバーだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 香港藍幇(ランパン)はさらに荒れていた。

 

「‘‘不死の英霊(イモータルスピリット)’’が入国した?その情報は本当ですか!?……そうですか。彼の後を追いなさい。最悪の場合は戦闘を許可します。また、彼の情報を全体に流しなさい。」

 

日本に潜入した偵察員がイブキを見失った事。それに加えて空港を何度も変え、最終的に関西から海外の航空会社で来たため……ネット上の監視員もイブキの事を見逃していたのだ。その他にも様々な要因が加わり、イブキを香港へ入れてしまった。

 当初の予定とは違ったが……この事態は想定済みなのだろう。諸葛静幻はそれらの報告を聞いても(あせ)らず、部下に命令を下していく。しかし、静幻は激務を重ねているせいか、顔色は少しずつ悪くなっている。

 

「……クソッ!!ココ、何をしているんだ!!」

 

司馬鵬(老け顔)は空港にいる曹操(ココ)達へ何度も電話をかけるが……なかなかでないため、苛立(いらだ)ちを(つの)っていく。

 

『………(もしもし)?……什么(何か用)?』

 

やっと祈りが通じたのか……明らかに寝起きであろう、不機嫌なココの声が聞こえてきた。そんな声を聴き、司馬鵬(老け顔)苛立(いらだ)ちを倍増させる。。

 

「何じゃないだろうが!!イブキ()が来た!!早く追え!!そこまで遠くに入っていないはずだ!!戦闘許可も出たt……」

『姉ちゃん!!快点起来(早く起きろ)!!我睡过头了(寝過ごした)!!

 

  ブチッ!!ッー、ッー……

 

司馬鵬はため息をつきながら、投げるようにスマホを机の上に置いた。彼はココとの会話のせいで疲れが一気に噴き出たようで……さらに老け込んでいた。

 

 

 

 

 再び司馬鵬はため息をつき、冷めきったお茶を一飲みした。

 

「‘‘バスカービル’’は工作を始め……‘‘(遠山キンジ)’’は香港島の何処かに潜伏中。 ‘‘不死の英霊(村田イブキ)’’は結局香港に入国。先日の『在香港アメリカ領事館での爆破事件』で香港警察と米国シークレットサービスが(うごめ)く。」

 

司馬鵬は頭を整理するため、今起こっている重要な事実を口にした。

 先日の夜に起きた『在香港アメリカ領事館での爆破事件』……それは極東戦役(FEW)の時期を狙い、下剋上を(たくら)んでいる香港の別組織がやった事という事がすでに分かっている。

 だが、そのせいで藍幇(ランパン)は圧倒的に不利な状態だ。下手な行動を打てば香港藍幇(ランパン)は……いや、藍幇(ランパン)は崩壊する可能性もある。

 

「……ん?」

 

司馬鵬は‘‘不死の英霊(村田イブキ)’’の経歴が書かれた紙を再び見た。

 彼は今年の夏にアメリカでとある事件(高校生活夏休み編 ラッシュ〇ワー)を解決している。その時はロス市警の一人とDIE HARD(ジョニー・マクレー)、そして香港警察の‘‘リー警部’’と一緒だった。

 

「……リー警部?」

 

司馬鵬は香港警察の資料を探し出した。

 『在香港アメリカ領事館での爆破事件』で捜査に当たる香港警察の刑事は……‘‘リー警部’’。同一人物だった。

 その‘‘リー警部’’は香港(の裏社会)では有名な刑事ではあるが……香港警察には他にも優秀な刑事は沢山いる。それにその‘‘リー警部’’は最近長期の有給を取っているのだが、何故か働き詰めらしい。……どこか違和感を覚える。

 

「……先生、諸葛先生?『在香港アメリカ領事館での爆破事件』ですが、このリー警部は……」

 

そう言いながら司馬鵬は諸葛静幻に目をやり……固まった。諸葛静幻は悪魔が如く、邪悪な笑みを浮かべていたからだ。

 

「鵬?……我々の使命は『香港を守り、藍幇(ランパン)の影響力を維持・増大させること』ですよ?」

 

やせ細った諸葛静幻は……目をギラギラと光らせ、微笑んだ。

 

「‘‘(遠山キンジ)’’・‘‘不死の英霊(村田イブキ)’’、それに‘‘リー警部’’。今後、東アジアで重要な人物となります。ならば、彼らと伝手があったほうがいいでしょう?」

 

そんな諸葛静幻を見て……司馬鵬は鳥肌が立った。

 証拠は一切ないし、おそらく残ってもいないだろう……しかし、司馬鵬の勘は(ささや)いていた。『この全ての状況を作ったのは諸葛静幻である』……と。

 司馬鵬は鳥肌が立った。

 

 

 

 

「……諸葛先生。自分も戦闘に出たほうがいいですよね。準備します。」

 

司馬鵬は前線での戦闘指揮を執るため、‘‘不死の英霊(村田イブキ)’’や‘‘(遠山キンジ)’’の情報を得るため、……そしてココ達の面倒を諸葛静幻に押し付けるために席を立った。

 

「そうですね。ココ達が暴走しないように監視をお願いします。」

「……………え゛?」

「ココ達の暴走を止められるのはあなただけですよ?」

 

しかし、諸葛静幻にはバレバレだったようだ。

 

 

 

 




 航空会社ラウンジは一回だけ利用したことがあります。正直に言って……丸一日そこにいても不満はないくらいの快適さでした。ただ、アルコールが無料のため、『飲みすぎて飛行機酔いする可能性』があるのが欠点ですねw


 オーバーブッキングには出会ったことはありません。


 ANAとJALはアライアンスが違うため、オーバーブッキングが起こっても乗り換えはできない……はず。たぶん



 次は早く投稿できるといいなぁ…‥


  Next Ibuki's HINT!! 「リーさんとカーターさん」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。