インフィニットサムライズ~Destroyer&Onishimazu~   作:三途リバー

14 / 16
なんかやたら長くなりました


第10幕 アイラブユーが言えなくて

「と言うことで、1年1組クラス代表は島津豊久くんに決定しました!頑張って下さいね、島津くん!」

 

「よっ、総大将!」

 

「これでもうクラス対抗戦はもらったも同然よ!」

 

「フリーパス置いてけ!食堂のデザート半年フリーパス置いてけ!!」

 

「勝ったな風呂入ってくる」

 

 

 

ちくと待てぇぇぇぇえい!!!!!

 

 

 

休校明け一発目のSHRだというのに、相も変わらず賑やかなクラスである。女子たちはきゃいきゃいとはしゃぎ、直は爆笑しているが1人豊久だけが目を釣りあげて怒っている。

 

何故(ないごて)じゃ!?俺はまだこやつらん首ば奪っちょらん!!」

 

「そ、それはですね…」

 

「まず第一に、私が辞退させて頂いたからですわ」

 

そう言って立ち上がったのは渦中のセシリア・オルコット嬢。以前までは威圧的で、どこか背伸びをしたような印象だったが今は憑き物が落ちたように微笑んでいる。見やった豊久が小首を傾げる程度には人が変わっていた。

 

「直さんとの一戦で己の実力不足、そして人としての未熟さを思い知らされました。まずは、クラスの皆さんに心より謝罪をさせて下さい。あなた方の祖国を辱めるような言動の数々、誠に申し訳ありませんでした」

 

深々と頭を下げるセシリアに、箒も目を丸くしている。

 

「クラス代表を務めるに相応しい在り方ではなかったと、心底思いまして…決闘での敗戦も含め、私には資格はございませんわ。ですがもしお許し頂けるのなら、クラスの一員として、共に切磋琢磨をしていきたいと」

 

初めはザワついていた教室だが、少しすると皆納得したような顔で彼女に声をかけ始める。

 

「オルコットさんは襲撃の時みんなを庇ってくれたし、許すも許さないも…ねぇ?」

 

「うんうん、そんな畏まらないでさ、若気の至りってことで流そうよ!」

 

「皆さん…」

 

無人機の攻撃、シールドエネルギーが底をついたISで受け止め、身を呈して生徒を庇った姿は皆が目撃している。力を持つ者の務めという彼女の主張が口先だけのものではなかったと、皆理解しているのだ。

 

「菅野くんもそこは納得してるよね?」

 

「まぁ、死体蹴りは好きじゃねぇしな」

 

「またまたぁ、気絶したセッシーをお姫様抱っこして医務室に担ぎこんだのは誰だったかなー?ねぇナオシー?」

 

「適当なこと抜かしてんじゃねぇよバカヤロウ!」

 

爆弾発言をかます本音の机には菓子の山が組まれている。直と5分間一対一で話せるという整理券を配布し、その対価として貰っていた購買の菓子達だ。1週間でのべ100人以上が押し掛け、更にリピーターもいたことから購買のお菓子コーナーは新学期早々品薄状態。その殆どが本音の懐に転がりこんできたらしい。

最早机の表面も見えず、それをひょいひょいぱくぱくと景気よく口に放り込む様は見ていて気持ちが良いくらいだ。幸せそうに目を細めてお菓子を堪能する小動物に、何人かはハートを撃ち抜かれて頭を撫でてたり頬を弄り回したりしている。

 

「あ、私もそれ見たよ!『重傷者だ!』って言って必死にせしりん運んでたよね!」

 

「記憶障害かなんかじゃねぇのか…?いや今から記憶障害にしてやろうか…?」

 

「いだだだだだだだ!!か弱い女の子にアイアンクローはらめぇぇぇ!!!」

 

「直さんが私を…!?そんな情熱的な…て、え?せ、セッシー?せしりん?」

 

「おるるんの方が良くない?」

 

「せしりあたんが王道でしょJK」

 

好き勝手はしゃぎ始めるクラスメイトたちにセシリアは困惑しきりだが、それを見る麻耶はにっこりと優しそうな笑みを浮かべている。想像以上に丸く収まり、クラスの仲も図らずして深まったようだ。副担任として喜ばしいことだと、うんうんと頷いている。

 

「オルコットが退いたんは分かった、じゃっどん直は勝ったじゃろ!不戦の俺よかまだマシじゃろうが!」

 

「紫電がぶっ壊れて回収されてンだよ!俺が代表になったらクラス対抗戦間に合わねぇだろうがバカヤロウ!」

 

「そいは俺とて同じぞ!緋縅ば晴明に…」

 

「それなら問題はない」

 

言いながら入室してきた我らが担任、島津千冬。流石の威厳に先程まで姦しく話していた生徒達も背筋を伸ばして挨拶をする。

 

「「「「「おはようございます!」」」」」

 

「うむ、おはよう。それで島津。貴様の専用機だが、学園の整備科でメンテナンスをしたところ目立った損傷も特にない。そこの自傷馬鹿と違って、開発元にまで戻す必要はないという訳だ」

 

勝ち取った。言外にそう伝え、取り出したるは1つのレザーブレスレット。黒字のベルトに緋色の金具が映えた逸品だ。言わずもがな緋縅の待機状態である。

 

「オルコットは辞退、菅野は専用機の改修。消去法だ、甘んじて受けろ。ま、やるからにはなぁなぁではなくそれなりの覚悟と目標を持って取り組むことだ」

 

尚も不服そうな顔をしていた豊久だが、彼とて何時までもグチグチ言い募るような子供ではない。それに、クラス対抗戦で功名を得られるというのも中々に魅力的である。自分だけでなく、クラスメイト全員が待ち望む中で首級を挙げるのはどれほど素晴らしいだろう。

考えが顔に出たか、みるみるうちに表情が輝き始める。千冬からブレスレットを受け取り、それを右腕に通した時には既に満面の笑顔である。

 

「言われるまでもなか。何がなんでん、他クラスん代表の首ば奪う!」

 

万雷の拍手の中、1年1組が漸く大きな1歩を踏み出した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そん前にオルコット、決闘ん続きば今日の放課後で良かが?」

 

「あなた本当にブレませんわね!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、その日の放課後に豊久とセシリアの決闘が改めて取り行われた。行われたのだが……

 

「ぐぬぬぬぬぬ……」

 

「なんで勝ったのにそんなに不機嫌なんだお前は…」

 

「あいは緋縅んおかげぞ。俺の勝ちではなか。俺は奴ん銃撃ば何度も喰ろうたじゃっどん、オルコットは最後に一刀当てられただけじゃ。あいでは到底勝ち名乗りなぞ挙げられん。性能頼りの無様な戦じゃ」

 

食堂に繋がる寮の廊下を歩きながら、豊久は絶賛傍らの箒に不満をぶちまけている。結果としては豊久の逆転勝ち、という判定だったのだが本人にとって納得できるものではなかったようだ。

 

序盤はセシリアが徹底的に距離を取り、豊久の接近を許さずBT兵器で苛烈に攻め立てたが、被弾覚悟の特攻の末、『シールドエネルギーを全て削り取る』という意志の元発動された狂奔征葬のたった数撃で勝負が決した。

かつて豊久の姉は自身のエネルギーを犠牲にあらゆる物を切り裂く諸刃の剣を以て最強の座を手中におさめたが、狂奔征葬にはそのデメリットも何もない。ただ豊久の想いに応え、絶大な力を発揮するのだ。

反則級の単一仕様能力のおかげで勝ちを拾った、機体性能に救われた等と周りが評するのは至極当然の流れと言える。その評価の中に本人の自嘲も含まれているのは何とも言えないところだが。

 

しかし豊久と同じく刀を得物とする箒からすれば、削り切られる前に飛び道具使いの玄人の懐に飛び込んだ豊久の技量こそ褒められて然るべきである。慰めではなく、大真面目に豊久の功名を讃えたかった。

 

「使えるものは全て使い、死力も万策も尽くして勝利を掴み取る…それが家久さんの教えではなかったのか?お前は自分に与えられた条件の中で、それを最大限引き出して敵の首級を奪ったのだ。胸を張れ、豊久。そんな様ではオルコットにも失礼だぞ」

 

「箒……」

 

思わずといったように立ち止まった豊久が、目を丸くして箒の顔を見つめた。あまりに真っ直ぐなその視線に、少女漫画の主人公ばりにピュアっピュアな箒は顔を赤らめてしまう。

 

「な、なんだ、そんなジロジロと……言いたいことがあるなら言うがよかろう!」

 

「人ば気遣えるようになったんか……」

 

「悪即斬ァ!!!!」

 

感慨深そうに抜かした幼馴染の脳天に手刀を叩き込んだ箒を誰が責められよう。さっきのドキドキを返せ、割とマジで。

 

「全く、この大馬鹿者め…!」

 

「何故打たれなきゃなんねぇ……納得いかん……」

 

なおも言い募る豊久を捨て置き、ずんずんと食堂へ進む箒。プンブンと擬音が聞こえてきそうな拗ね具合だ。

「あー…箒!」

 

「なんだ」

 

「そげに怒うなよ…まぁ、なんじゃ。お前の言は一理あっど。勝ちは勝ちじゃ。もう言わん」

 

頬をかきながら言った豊久の方を振り返り、今度は箒が目を丸くする番だった。

あの功名餓鬼が、頑固一徹の大馬鹿が戦についての言葉を撤回する…?

 

「変な物でも食べたか…?」

 

「お前も大概じゃねぇか!!!!」

 

いがみ合い怒鳴り合いしているのも、傍から見れば仲のいい子供がじゃれ合っているようにしか見えない。ぎゃあぎゃあとやりあっているうち、いつの間にかもう食堂は目の前である。

2人して肩をいからせて足を踏み入れると、そこは──

 

 

パン!パン!パァン!

 

 

 

「ぬ?」

 

「「「「「島津くん、クラス代表就任おめでとー!!!」」」」」

 

盛大なクラッカーと弾んだ祝いの言葉。ぽかんとしている豊久をよそに、クラスメイトの1人…鷹月静音が箒に声をかけた。

 

「篠ノ之さん、任務ご苦労様!準備までの島津くんの引き付け、ほんと助かったよ」

 

「なんの、私の方こそ用意を押し付ける形になってしまった。それに…その、2人きりになれたし…むしろ役得というか……」

 

目の前のテーブルには所狭しと並べられた料理に、ジュースやらお菓子やら完全にパーティの様相を呈している。ご丁寧に『祝!クラス代表決定!!』と大書してある垂れ幕までかけて、食堂占拠状態である。

 

「なんぞ、これ」

 

「ぃよぉくぞ聞いてくれましたぁ!!」

 

呆気に取られる豊久の疑問に応えたのは髪を2つに纏めの元気が良い女子だ。相川と言ったろうか。

 

「入学早々あんなことが起きちゃったけど、まぁ、なんというかクラス皆の親睦も兼ねて島津くんの代表就任パーティをやろうってなってね!食堂貸し切っちゃった♪」

 

食堂を丸々貸し切るなど、申請や料理の準備など相当大変だったろう。自分が全く預かり知らぬ所でこのような大掛かりな催しが練られているとは豊久は思いもしなかった。しかも箒まで1枚噛んでいたらしい。申し訳なさそうな、それでいて悪戯が成功した子どものような顔でこちらを見ている。

 

「料理は俺が作った!一口でも残しゃがったらぶっ飛ばすぞコノヤロウ!!」

 

フンスと腕組みするのはなんとエプロンに三角巾と言った出で立ちの直である。エビチリや回鍋肉、野菜炒めに肉じゃがにサラダにおにぎりにと、パーティにしてはやたら大衆的な料理をほとんど1人でこさえたという。

 

「料理できうのか!?直が!?」

 

「なに驚いてやがるバカヤロウ!地元のダチの実家が定食屋やっててな。そこでバイトしてたんだよ」

 

「菅野くんすごいんだよ!手際よくぱぱっと作っちゃって、手伝いのの私たちなんてほとんどやることなかったもん!」

 

悪友の思わぬ特技に豊久が驚愕する。どう見ても、直は料理を作る側というより出された料理を料金に見合わないとかなんとか言って踏み倒す側だ。テーブルの上の料理は見た目は間違いなく美味そうだが、一抹の不安が残る。

 

「すげぇ失礼なこと考えてねぇかコノヤロウ」

 

「気の所為じゃろ」

 

動物的な勘を見せる直をスルーしつつ、豊久は用意された席に着いた。本日の主役襷も渡され、しぶしぶとそれを肩に掛けたところで相川が皆の方を振り返った。どうやら発起人は彼女らしい。

 

「じゃあ主役も来たことだし、乾杯しよーーっ!ではでは島津くん、音頭をどうぞっ!!」

 

「む……そうだの、わざわざあいがとぅごわぁた。朝も言うたがクラス対抗戦も、そん次も、そん次の次も、卒業すっまで俺は負けん!必ず首級ば奪っち来るど!乾杯!」

 

「「「「「かんぱーーーい!!!」」」」」

 

随分と物騒な音頭だが、テンションの上がったJK達には些事である。1週間寮に缶詰だったこともあり、それまでの鬱憤を晴らすかのように笑い声をあげている。

 

「えっ、このエビチリ凄い美味しい!食堂のと遜色ない!」

 

「私的にはこの回鍋肉がポイント高いなぁ」

 

ふぉにひりふぉいひい(おにぎりおいしい)

 

「リスかあんたは!」

 

どちらかと言うと男ウケしそうな料理に豪快に食らいつくところを見ていると、豊久も腹の虫が鳴ってくる。元来大飯食らいなのもあって、次から次へと料理を掻きこんでいった。

 

「ハフハフ、むぐ、んむ、ムグ………プハァ」

 

「おー、トヨトヨいい食べっぷり〜。男の子だねぇ」

 

そう言ってのほほんと笑う本音の皿にはマカロンやらクッキーやらチョコレートやら、お菓子ばかりが載せられている。直で儲けたお菓子があると言うのに、こっちはこっちでブレない少女である。

 

「直!」

 

「あンだよ」

 

「美味かっ!!」

 

「……おう」

 

屈託の無い豊久の笑顔と、照れて視線を逸らす直。その姿何人かの心の琴線に触れたらしく、「はぅ…」と悶える声があちこちであがる。中には鼻血を流しながら無言でスマホカメラを連写している連中もちらほら。肖像権?客寄せパンダにそんなものはない。

 

豊久が女子に囲まれており、それを遠巻きに眺めるしかない箒は歯噛みしっ放しだ。四六時中豊久の傍にいなくては気が済まないとかそういう訳では無いが、やはり見目麗しい異性にちやほやされているのを見ると思うところがある。本人に自覚がなく、幸せそうに料理をがっついているのは不幸中の幸いか…。

 

「ふふ、篠ノ乃さんは本当に島津くんが好きなんだね」

 

「なぁっ!?い、いや、豊久は幼少の砌よりの知己で、実家の剣道場の同門というそれだけで…」

 

「あぁもうっ、かわいいなぁっ!こんな健気な子、応援するしかないじゃない!」

 

「だ、だから私はそのような…!」

 

それをちゃっかり横目で見ていた豊久は、意外にクラスに馴染んでいる箒の姿にほんの少しだけ安心した。元々堅っ苦しい性格な上、入学から代表候補生に挑む蛮勇と笑われた豊久の肩を持ち続けていたのだ。自分のせいで多少の蟠りができたかもしれぬと密かに気にしていたが、あの様子からして大丈夫そうだ。そう断定して豊久は目の前の料理を胃袋に放り込む作業に戻った。

 

一方直は料理の作り方やバイトの事などで質問攻めにされている。普段なら鬱陶しそうに振り払うところを気前よく答えてやっているあたり、素直に豊久に褒められたのが余程嬉しかったらしい。

それを敏感に感じ取ったBでLな趣味をお持ちの方々が息を荒らげているが、幸か不幸か豊久も直も気付かない。「豊直ありがてぇ」「は?直豊が覇権だが??」「あ?」「お?」「おっしゃ屋上」など身の毛もよだつやり取りがなされている。もし気が付いたら無言で殴っていただろう。グーで。

 

「……」

 

そんな中、人の輪から少し外れた場所でグラス片手に物憂げな顔をしている金髪淑女がいた。決闘で直、そして追い詰めはしたものの豊久に連敗したという事実に、やはり思うところがあるのだろう。

 

ほぅ、と溜息を吐く姿はまるで深窓の令嬢のよう──実際令嬢なのだが──で、あまりに絵になり過ぎて周りもそこに入っていきにくい。と、そこにずんずんと押しかけていく陰がある。気配を感じ、セシリアがそちらに向き直ると…

 

「テメェ俺の作った飯が食えねぇってのかコノヤロウ」

 

「な、直さむぐぅっ!?」

 

先程まで女子に囲まれていた筈の直が、おにぎりを口に突っ込んできた。女子への対応にしては乱暴に過ぎるが、セシリアはモゴモゴと口を動かしてそれを咀嚼していく。

 

「おいしい…」

 

「あたりめぇだバカヤロウ」

 

満足そうに笑った横顔を見て、セシリアの頬が僅かに紅潮する。自身もおにぎりにかぶりつきながら、2人だけに聞こえる声で直が語り出した。

 

「素人ふたりに連敗して、御国に合わせる顔がねぇってか?」

 

「っ…えぇ、口は悪くなってしまいますが、正直に言うとその通りですわ。私はオルコット家を守るために代表候補生となったというのに…このままでは…」

 

「はぁ?バカかテメェ。いやバカだったな」

 

「な、私は真面目に悩んで…!」

 

「なんの為の学園だバカヤロウ。手前よりも強い奴と戦って、負けて、強くなってそいつを負かしてを繰り返す為だろうが。初めから最強だの無敵だの、そんな奴はここに来る意味ねぇだろ。あの功名馬鹿はキチガイなだけだ、あてられてんじゃねぇ」

 

それは不器用で、乱雑で、だがしかし確かな温かみを感じる直なりの励ましだった。直にすれば大したことでは無いかもしれないが、オルコット家の名跡を継いだ瞬間から、たった1人で全てを背負い込んできたセシリアにとってそれは暗中の光の如くに思われた。

 

「……直さんには、教えられっぱなしですわね。あなたと出会っただけで、この学園に来た意味があったのだと思います…心の底から」

 

「なんだ、入学から人が変わりやがって。気色悪ぃぞコノヤロウ」

 

「フフ、それだけ直さんに染められてしまったということですわ」

 

「本当に気色悪ぃんだよバカヤロウ!!テメェんとこのクソ国家許した訳じゃねぇからな金髪コノヤロウ!!」

 

 

 

 

「むむむ……ナオシーとセッシーからラブコメの波動を感じる…」

 

「えぇ…あれラブコメ…?菅野くん本気で嫌がってない…?そんでもってオルコットさんはオルコットさんでなんかハァハァ言ってない…?」

 

 

 

 

思い思いの時を過ごしていると、ドタドタと食堂に足音が近付いてくる。直が何事かと目線を向けると、そこにいたのは眼鏡をかけた見知らぬ生徒。リボンの色から見て2年生だろうか。

 

「どうも〜!新聞部部長の黛薫子でーす!話題の男性操縦者お2人にインタビューをしに来ました〜!」

 

その声に直も、幸せそうに飯を頬張っていた豊久もゲンナリした顔を覗かせた。休校中の一週間、ゴシップを狙いに来るこの手の連中に散々悩まされてきたのだ。態度にも出るというものだろう。

 

「あぁん、そんな嫌そうな顔しないでよぉ。皆2人のことを知りたいのよ。まず初めに、クラス代表に就任した島津豊久君から!」

 

露骨に嫌な顔をする2人を押し切るあたり、この部長も中々強引である。IS学園の生徒は推しが強くないとやってられないということか。

 

「まず最初に、今度のクラス対抗戦についての意気込みを一言!記事になりそうな派手なヤツを頼むよ〜、『オレに触れると火傷するぜ…』とか!」

 

「首ば奪る」

 

「へっ?」

 

構うことなく食事を続けながら視線だけを向けた豊久の返答は、これ以上なく単純明快。気負いや情熱など、そういった類の感情を一切感じさせない淡々とした声音である。

 

「2組も3組も4組も、全員ぶっ倒して首ば奪る。そいだけぞ」

 

「なぁるほど……これは噂以上の戦闘狂…いや、戦闘よりその結果得られる手柄を重視してるのかな?なんにせよ、島津君は学園最強を目指すってことでOK?」

 

いつの間にか話が大きくなっている気がするが、わざわざ否定する程でもない。それに実際問題豊久は学園全ての強者を下して首級を挙げたいと思っている。黛の言は核心をついていると言えなくもなかった。

 

「おう」

 

「うんうん、こりゃあ面白い記事が書けそう…♪じゃあ近いうち島津君の前にたっちゃんが立ち塞がるのかぁ」

 

「たっちゃん?」

 

「あぁ、ウチの生徒会長よ。私のマブダチって奴?ほら、聞いたことない?IS学園の生徒会長とは文字通り生徒達の長。つまり生徒の中で最強の力を持つ者がその座に着くってわけ。一般生徒はいつでも会長に勝負を挑めて、勝てばその瞬間から座を奪えるのよ」

 

それを聞いた瞬間、豊久の表情が一変した。例の狂気的な笑顔である。直はまたか、と慣れた様子だがクラスメイトの中には未だその豹変に慣れない者もいる。テロリストをいとも容易く捩じ伏せた姿がフラッシュバックしたか、身震いする者も出る始末だ。

 

「そんたっちゃんに、いつでん挑めるのか」

 

「え、えぇ…一応、そうなってるけど……まさか行く!?行っちゃうの島津君!?宣戦布告しちゃう!?」

 

特大スクープの匂いを嗅ぎつけた黛もまた目を輝かせた。世界で2人だけの男性操縦者のうち1人が、国家代表候補生を打ち破ったその勢いのまま『最強』へ勝負を挑む…これ以上ない格好のネタである。

 

「今は対抗戦が先じゃっどん、いずれ必ず挑む!なんとしてもそん首()()取らねばのう!」

 

「うおおおおお!!島津君さいっっこーだね!!」

 

ヨダレを垂らしながらうへへへへへ、と気味の悪い笑い声をあげる新聞部部長。こんなんばっかか、大丈夫かIS学園。

 

「とと、そうそう質問はまだあるのよ。ここからは菅野君にも聞いていくわね。学園の生徒達が一番気になってる事だと思うんだけど、ズバリ!!2人はお付き合いしてる子はいる!?!?」

 

ぐりん、と凄まじい勢いでそちらに顔を向けたのは箒だ。そこそこ離れた場所にいたというのに、誰よりも敏感に反応して瞳孔をガン開きにしている。直の横のセシリアも、平静を装っているがちらちらと視線を向けたりモジモジ体を動かしたりと落ち着かない。

そんな中、心底呆れたように直が口を開いた。

 

「そんなのがいたらとっくのとうに女子避けに使ってますぜ」

 

「女の園はゴシップに飢えててねー。秘密の関係とか今まで隠してたけど実はとか、そういう展開を期待してたりするもんなのよ」

 

その質問を聞きながら視線を宙に飛ばした豊久の頭には、1人の少女の姿が思い起こされていた。

 

あのちんまい身体のどこからそんな力が湧いてくるのか不思議に思うほどパワフルで、それでいて周囲のことを誰よりも見ているヤツだった。()()()、無自覚ながらも憔悴していた豊久の臀を蹴りあげ、怒鳴り、励まし傍に居続けた異邦の少女は今何をしているだろうか。今もどこかで、あの鈴を鳴らしたような笑い声を響かせているのだろうか。

 

「ん?どったの島津君考え込んじゃって…まさか!?」

 

「いや別に、色事の付き合いばなかったが」

 

「え!?ちょ、なにその思わせぶりなコメント!?聞かせて、ねぇお願い聞かせて!!!」

 

「豊久ァッ!!!!貴様、私のいない所で色恋に現を抜かしていたのか!!!」

 

何故(ないごて)そうなる!色事じゃねぇって言ったろ!」

 

加速度的に騒々しさが増していき、場は熱狂の渦である。箒が飛びかかるようにして豊久の元へすっ飛んでいったり、セシリアが密かに胸を撫で下ろしたり、本音が延々とお菓子を食べ続けていたり…。

結局、代表決定パーティは鬼女に鎮圧されるまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もー、やっと着いた!!ったく、甲龍のメンテでこんなに時間取られるなんて……おかげで1ヶ月!1ヶ月よ!」

 

飛行機のタラップから降りた場所で、一人の少女が文句を垂れている。周りに人影は見えず、大分大きな独り言だがそうでとしないと我慢ならないのだろう、その額には青筋が浮いている。

 

「折角世紀の一夜漬けで入試に合格したのに…!私の努力を!返せぇぇ!!!」

 

一際大きな声をあげ、はぁはぁと息を荒らげる彼女の手荷物はボストンバッグ一つだけ。年頃の少女にしては随分と身軽だ。と、それまで俯いていた彼女が全身のバネでもって体を跳ね上げた。その顔には先程までの怒りなど微塵も浮かんでいない。

 

「よし、気ぃ済んだ!」

 

茶色のツインテールを揺らし、しっかりとした足取りで歩き出す少女の瞳は燃えている。

 

「私の愛、いい加減受け取らせてやるんだから!首洗って待ってなさい、豊!!」

 

燃え盛る愛を引っ提げ、極東の地へ降り立った龍。その咆哮が、宵闇を劈いた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんお客様、他のお客様のご迷惑になりますので…」

 

「あっすいません…」

 

 

 

 

 




ちょっと難産でした。主人公2人動かすのやっぱり難しいですね…ここから暫く、紫電が復活するまで豊久のターンが続いてしまいますが、よろしくお願いします。

感想、評価、ダメだしetc.....お待ちしております。






次回


アタック・フロム・チャイナ

島津豊久の作り方

島津豊久の続け方



『愛・哀・I』

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。