仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士   作:名もなきA・弐

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 ふとネットサーフィンしていたら閃乱カグラNewWaveの16日からのイベントで伊吹のボイスカードが登場していたそうです。彼女の声優(鈴木絵理氏)が決まった記念に今回は自称「普通」の伊吹を主役に銀○パロをやります。
 それでは、どうぞ。


ANOTHER COMBO6 監察×あんパン

それは、ドラマや漫画ならよくあるような光景だった。

 

「あ、ごめんなさい!」

「いえいえ、私もよそ見をしておりました」

 

二人の女性が歩いていた時に肩がぶつかってしまい、少女の持っていたビニール袋が落ちてしまったのだ。

少女は謝罪をしながらも女性の方はにこやかに返す。

女性の方は色鮮やかな着物と時折見せるしぐさから、所謂『女将』を思わせるような雰囲気を纏っている。

対して少女の方は、服装こそ地味なものの、後ろの髪をツインテールにした黒いカチューシャを着けており、どこか犬のような雰囲気を持った少女。

 

「でも、買い物袋が落ちて……って、あら?あんパンと牛乳ばっかり?」

「あ!いえこれは、その……///」

 

女性がその買い物袋を見て、思わず頭を傾げる。

少女の持っていた買い物袋の中身は、全てあんパンと牛乳だったからである。

そんな女性の反応に、少女は袋から出てしまった大量のあんパンと牛乳を抱え、恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

「ふふ、あんパン……お好きなのですね」

 

そんな少女を見て女性は微笑みながらそう言うとその場から去っていった。

少女も彼女の姿が見えなくなったのを確認すると、すぐさまその場から立ち去り、アパートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

「別に好きじゃありません」

 

予め用意されたアパートの部屋で、そう言って苦々しい顔で食べるのは、『秘立蛇女子学園補欠メンバー』が一人、『伊吹』です。

『閃乱カグラNewWave』をやっている人は知っているかもしれませんが別に伊吹はあんパンなんて好きじゃありません。

でも、伊吹が好きじゃなくても『張り込みの神様』は好きだからしょうがないんです。

『あんパンと牛乳』…これは伊吹にとっての張り込みの作法であり、同時に八百万の神様に捧げる供物でもあるのです。

それは、古今東西の刑事ドラマが示している通りなんです。

でも、この方法で張り込みの成功率がグンと上がったのも事実なんですよ?

このおかげで伊吹は密偵や監察といった忍らしい役割を教官に与えられてるのですから…そして後々門矢教官に…わんわん♪。

……と、カツ丼やパフェといった外の誘惑を自分の妄想と雑な思考で逃避しつつも今日も伊吹はあんパンを食らいます。

 

「張り込み対象とは避けるのが常法だろう?お前はそれでも隠密担当か、伊吹?」

 

すると、後ろから声が聞こえてきました。

後ろを見なくても、この自信に満ちた声色から誰だかわかります。

私のクラスのリーダー『総司』ちゃんです。

対象から目を逸らさずにちらりと横目で見てみると、彼女以外にもアホ毛の茶髪少女『千歳』ちゃんと長い銀髪を結んだ緑色の瞳を持つ小柄な少女の『リア』ちゃん。

緑髪の小動物系少女『芭蕉』ちゃんと赤毛の中二病患者『芦屋』ちゃんもいました。

…よく見ると全員片手にう○い棒やらス○ッカーズといった携帯食を持っています。

……腹立ちますね、この人たち。

 

「…張り込みを張り込むなんて良い趣味してますね、なんなら席を譲りましょうか?」

「荒れてますね、伊吹さん」

「願掛けだかなんだか知らぬが、食べるものを食べなければ忍務にもならんぞ」

 

伊吹が不機嫌そうに応えると、千歳ちゃんと芦屋ちゃんはサクサクと小気味良い音を立てながら伊吹の側へと寄り助言をしてくれました。

サクサクいっているのがすごいイラつきしたけど…。

でも確かに二人の言うとおりもうかれこれ十個以上はあんパンを口にしていますし、あの独特な甘さに若干の飽きを感じてもいます。

 

「それで、どんな方でした…?」

「普通に良い人そうでしたよ、とても凶悪な犯罪者の姉とは思えないくらいに……」

 

少なくとも伊吹が見張っていたこの五日間は、芭蕉ちゃんに答えた通り大きな動きを見せていません。

やはり片方がダメだともう片方はしっかりするんでしょうか?

そんなしっかり者の姉を利用しているということに若干罪悪感を抱いてしまいます。

 

「そうか、まぁ弟の方は自分の組織の金を持ち逃げしたんだ。追っているのは私たちだけじゃない、奴にとって逃げ場は姉の所しかないだろう、そこを私たちが捕える」

「あんまり良いことじゃあないですけどね」

 

総司ちゃんの言うことは最もですが、それでもやっぱり嫌な感じです…。

そんなモヤモヤを感じ取ったのか、リアちゃんは何時の間にか作っていた折り紙の兜を頭に被せ、総司ちゃんたちは伊吹に背を見せて外へと向かって行きました。

 

「ふん、汚れ仕事はお前の仕事じゃない、私たちの役目だ」

「伊吹さんは、あの人を守ってあげてください…」

「他の連中もあの女を狙ってくるかもしれんからのぅ」

「任せましたよ、伊吹さん」

 

そう言うと今度こそみんなは外に出て行くと伊吹はあんパンを口に放り込みました。

こうして、伊吹のあんパン生活が幕を開けました。

 

 

 

 

 

―――――伊吹の監察レポート あんパン生活一週間目

好い加減好物のなめこおろしの味が恋しくなってきたけど、相変わらず彼女に動きはありません。

『倉田リリナ』…とある酒屋の女主人。

噂では四年前に父と死別してから女手一つで父の店を継いだ孝行娘らしく、人柄も良く、ここ数年一人で店を切り盛りしてきたらしい。

一方弟の『倉田権兵衛』は札付きの悪たれ野郎、姉が店を継いでからも度々金をせびりにきて来てたとか。

伊吹の任務は、その権兵衛とそのテロリストたちの動きを報告すると共に、彼女を守りきることです。

なんとしても守りきってみせます!

決意を固め、伊吹は今日もあんパンを食らいます。

 

 

―――――あんパン生活八日目

昨日スーパーに行ったらバイトらしき人物が「『アンパンマン』来たww マジ来たwwwwww」とひそひそやっていましたが相変わらず彼女に動きはありません。

店の客も常連さんばかり、非常に穏やかな毎日だ。

「こんな日がずっと続いて欲しい」と悪忍には相応しくないことを願いながら、今日も伊吹はあんパンを食らいます。

 

 

―――――あんパン生活十二日目

気がつけばここ最近誰とも話してません。

最後に話した「あ、袋一緒で良いです」が三日ぶりに発した言葉でした…が、相変わらず彼女に動きはありません。

一瞬彼女がこちらを見ていた気がしたが、気のせいでしょうね。

私は気のゆるんだ心を引き締め、今日も伊吹はあんぱんを食らいます。

…けど、半分残しました。

 

 

―――――あんパン生活十五日目

コンビニに行ったら、「『袋一緒で良いです』来たwww 絶対またあんパンと牛乳買うぜwwww 絶対一緒だぜwwwwww」とバイトらしき人物がひそひそやっていましたが相変わらず彼女に動きはありません。

「このまま何も起きなかったらどうなるんだろう?」と、ふと口に出した邪念を振り払うように、今日も伊吹はあんパンを食らいます。

そして。

 

「オロロロロロロロロ!!」

 

全部吐きました。

 

 

―――――あんパン生活二十日目

あんまり誰とも喋ってないから、声出るかな?…と思ったので「ロードローラーだッ!」と大きな声で叫んだら、お隣さんから「オラオラオラオラァ!」と言う叫び声が帰ってきて久しぶりに会話が成立して嬉しかったけど、相変わらず彼女に動きはありません。

毎日毎日飽きもせずにニコニコニコニコ、世の中にはもっと刺激のある楽しい生活があるのに…例えば、ろくでもない弟が店に逃げ込んでくるとか?

そんなことを考えながら、今日も伊吹はあんパンを…壁に叩きつけます。

 

 

―――――あんパン生活二十二日目

もう好い加減にしてください…何時になったら弟は来るんですか?いつになったら伊吹はこのあんパンの呪縛から解き放たれるんですか…?

そんなことを思いながら壁に頭をぶつけていると別のお隣さんから「神の安眠を妨げるなぁっ!!」と言葉が返ってきましたが無視して頭をぶつけます。

弟ぉぉぉ早く来てくださいぃぃぃ…!!伊吹をこのエンドレスあんパンから救い出してぇぇぇぇ…!!!!

そんな願いを込めて、伊吹はあんパンを……天空に向かってスパーキング!

 

 

―――――あんパン生活二十三日目

スーパーのバイトに向かってスパーキングッ!!

 

 

―――――あんパン生活二十四日目

コンビニのバイトに向かってスパーキングッッ!!!

 

 

―――――あんパン生活二十五日目

総司ちゃんたちに向かって、スパーキーーーーーンッッッッッ!!!!!!

 

 

―――――あんパン生活二十八日目

目が覚めると、部屋中が血まみれで身体に包帯が巻かれていました。

おまけにここ最近の記憶がありません。

しかし、こんな伊吹の変化とは裏腹に、やはり彼女に動きはありません。

いつものように彼女は道にあんパンを巻き、店先にあんパンをあげる。

そして、あんパンがあんパン時にあんパンをするんです。

あんパンがあんパンにあんパンだあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパン…。

 

 

―――――あんパン生活三十日目

あんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパンあんパン……以下解読不能。

 

 

―――――あんパン生活三十一日目。

気がつくと伊吹は見知らぬ土地でぼんやりと立ち止まっていました。

どうやらうなされていたようです。

 

「もうこんな生活嫌だああああああああああああああっ!!もう忍務なんて知らない!!弟も姉のことも知りませんっ!!!伊吹はあんパンなんて食べたくないんですううううううううううううううううううううううううううううううううううううううっっっ!!!!」

 

伊吹は身支度をするため、全力疾走でアパートに戻ると、そこには美味しそうな肉じゃがが置いてありました。

手紙が添えられており、差出人は伊吹がこの一週間監視していた彼女からでした。

 

『お向いさんだったんですね。あんパンばかりじゃ身体壊しますよ。肉じゃが作りすぎちゃったんで、よかったら食べてください。いつも見守ってくれてありがとう。 倉田リリナより』

 

その手紙を読んで、伊吹はとても情けなくなりました。

こんなにもひどいことをしていたのに…。

感謝をされるにも値しないのに……。

伊吹は涙のせいでしょっぱくなった肉じゃがを口にしました……。

 

 

 

 

 

ゆっくりと目を開けると、そこは病院だった。

覚醒していない頭で彼女が辺りを見渡すと、そこには総司と千歳がベッドの隣の椅子に複雑な表情で座っていた。

目が覚め混乱している伊吹に千歳は話を切り出した……。

 

「私たちはハメられたようです。倉田リリナと倉田権兵衛はグルだったらしく、金を持ってどこかへと消えました……」

 

そう、餌として監視していたリリナは、弟の権兵衛と共犯だったのだ。

組織の金を強奪したのも姉弟で一緒に行ったこと。

そして伊吹の監視に気づいたリリナが、誤魔化すために一ヶ月もの間芝居を打ったこと。

弱り切った伊吹に、毒を盛ったこと……。

そう、彼女は負けたのである。

倉田リリナに、そして……自分自身に……。

 

「まぁその…周りをうろついていた連中を捕えることが出来ただけでも大手柄だ。二人ほど逃がしても釣りが来る…良く、やったな……」

「よく頑張りましたね、伊吹さん」

 

総司と千歳は労いの言葉を送った。

特に総司に至っては、あの傲慢な彼女にしてはぶっきらぼうながらも、とても優しい言葉であった。

そんなに対して、伊吹は自嘲気味に笑いながらこう言った。

 

「似合わないですよ、二人共。それに……どうせ負けるなら、自分のルールで……負けたかったな」

 

 

 

 

 

そして、数日後。

 

「しかし姉貴、これでしばらく遊んで暮らせるな」

「バカ言わないの。お金は稼ぐために使うものですよ」

 

逃げ切った倉田姉弟は、持ってきた金を今後どうやって使うかを呑気に話し合っていた。

そんな二人の目の前に、地味な服装をした犬系の少女がコンビニ袋を大事そうに抱えてながら歩いてくる。

そして彼女の肩がリリナの肩とぶつかった。

 

「あ、ごめんなさい急いでいたもので~」

「おいおいどこ見てんだよ?大丈夫か、姉貴?」

「いたた……って、袋の中が……あんパン……だらけ?」

 

ぶつかり謝る少女、姉にぶつかったことで怒りを隠さない権兵衛。

そんな二人の最中、落ちた袋の中を見て背筋を凍らすリリナを余所に、少女は権兵衛に対して呑気にこんなことを喋っている。

 

「祭りがあったもので~」

「祭り?んなもんどこでやってんだよ?」

 

そう少女に絡む権兵衛。

この時、リリナには全てが分かってしまったんでしょうね。

その大量のあんぱんを抱える少女こそ……。

この私『秘立蛇女子学園補欠メンバー』が一人『伊吹』だということに!!!

そんな彼女に、伊吹は満面の笑みを浮かべました。

 

「やってますよー、春のパン祭りっ!!」

 

その言葉と共に、二人の顔面にあんパンを叩きつけました。

そのあまりの威力に、二人とも思わず膝をつきます。

道ばたであんこまみれになってしまったリリナは、皮肉も込めて伊吹にこう言葉を贈りました。

 

「あなた、本当に……あんパン好きなんですね……」

「好きじゃありませんよ~だ」

 

その言葉に伊吹は少し黙ってしまいましたが、少しはにかみ、あんパンをむさぼり、そう言い放ってやりました。

今日も伊吹は、あんパンを食らいます。




 ごめんよ、伊吹…嫌いじゃないんだ。ザキと被って見えたのとこの話が好きだったから主役にしたんだ……。
 アホな言い訳はここまでにして伊吹が主役にお話でした。Newwaveキャラは別の形で活躍させたいなーと思っています。

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