仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士   作:名もなきA・弐

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 解答編です、犯人は誰か?嘘吐き狼の正体とは……!?お楽しみください。
 それでは、どうぞ。


ANOTHER COMBO5 山小屋の狼(解答編)

自分ほどツイている人間はいない……。

『狼』は内心ほくそ笑んでいた。

まさかあのスマートフォンに犯行の様子を録画されていたのは予想外だったが停電が起こったのは本当に幸運だった。

アクシデントに次ぐアクシデントだったがそれに解決する出来事も起こった…本当に自分はツイている。

飛行機のチケットは既に押さえてある、この場をやり過ごすことが出来れば後は海外に高飛びだ。

あのチビ女には肝を少しだけ冷やしたがどうせ無駄なことだ、あのナイフはもう道に捨ててあるし仮に見つかったとしてもあそこから証拠が出るわけがない。

最も、自分の正体が分かるころには日本には既にいない…『狼』は自分の勝利を確信していた。

「それにしても」と『狼』は思う…無駄な殺生をしなくて助かった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……もはや『狼』にとって犯罪とは手段でしかなかった。

別荘に多くの金があることを知った『狼』は威嚇用のサバイバルナイフと顔と姿を隠すための黄色いレインコートを買って別荘に足を踏み入れた。

言い訳ではないが元々殺すつもりではなかった、ただ騒がれたからナイフを振り下ろした。

それを見られたから他の人間も始末した。

一人始末した辺りで『狼』に抵抗はなくなっていた…一人も二人も同じだったからだ。

金も手に入ったし、後はこの山小屋から逃げるだけ。

 

「ねー、そろそろ帰らない?犯人は逃げたんでしょー?」

「自分も、その誠に言い辛いのですが交代の時間でして」

「俺も帰りたいな」

「私も早く旅館に訪れたいのですが…」

 

全員が全員、思い思いに話す中……一人の人間が口を開いた。

 

「犯人が分かりました」

 

 

 

 

 

美緒がそう言い放った途端、全員に緊張が走る。

この緊張感と猜疑心が入り混じった空気、この中にいる犯人の僅かな恐怖心……何もかもが懐かしい。

自然と自分が微笑んでいることに気づく。

何時からこうするようになったのか分からない、ただこうしていると早鐘を打つ鼓動と緊張感が落ち着いてくる。

美緒が口を開いた。

 

「この中にいます、五人もの人間を殺害し…そして『六人目』の犠牲者を出した恐ろしい『狼』がね」

「ち、ちょっと待ってよ。犯人はこの窓を破って逃走したんじゃないのっ!?」

「あれはフェイクです。そもそも狭い山小屋の中に隠れ潜んでいたのだとしたら気づくはずですよ」

 

もし隠れていたとしたら、ここに隠れている何かしらの痕跡がある。

しかしそれがなかったということはやはりこの場には存在しないことになる。

鷹田の言葉にそう返すと、美緒は話を続ける。

 

「スマートフォンの映像を観た人はいますか?」

 

その言葉に鈴木と尼野がおずおずと手を挙げる。

それに満足した美緒は自分の考えを話し始める。

 

「あの映像を思い出してもらえれば分かりますがあのレインコートと裾から見える黒いシャツ、そしてサバイバルナイフを持っている人間はいませんでした」

「それって、犯人が捨てたからだろ?」

 

「何を今さら」と憮然とした態度で腕を組む尼野に対して美緒は楽しそうに笑う。

 

「なぜですか?」

「そりゃっ、服に血が付いたから…」

「そう、服の場合はレインコートを捨てれば済むことですよね?ではなぜ黒いシャツとサバイバルナイフを捨てたのでしょう?私は犯人の行動を考えてみました」

 

そもそもの話、血が付着したレインコートは証拠になるから道に捨てるのは分かる。

だからこそなぜ黒いシャツまで捨てたのかが分からない。

黒い色ならば血の色は目を凝らさなければ良く見えないし、見つかった場合レインコートよりも決定的な証拠になる。

証拠を残さないため?……それはありえない。

警察は血まみれのスマートフォンのことは知らないし、犯人の服装を知っているのは山小屋でスマホの映像を観た彼らだけだ。

そうなると可能性は一つ。

 

「誰にも見られていない犯人が着ていた服を脱ぎ捨てたのは、警察の目を欺くことだったからです。それと同時に、凶器を持っている意味もなくなった」

「どういうことですか?お義姉さん」

 

美緒の言葉に周囲が騒然としている中、小夜が全員を代表するように尋ねる。

ゆっくりと間を置くと、ポケットから自分のスマートフォンを取り出しながら彼女の問いに答える。

 

「実は、私の妹は刑事でしてね。その子から凶器のサバイバルナイフのことを聞いたんですよ…『凶器らしき血まみれのナイフも山道で発見された』ってね」

 

その言葉に全員が驚きの表情を見せる中、美緒だけはマイペースに推理を続ける。

 

「大事なことだから言い換えます。『山の中に捨てられていた』んですよ、犯人だってバカじゃありません。警察に追われることも想定していたのにですよ?」

 

美緒の頭の中で完成したパズルには血だらけのレインコートを着た黒いシルエットの『狼』が息を切らしながら山道を走っている画が見える。

目を血走らせ、殺意を全身に纏った『狼』の目に映ったのは無垢な得物…何時ものように愛車の自転車を乗っていた紺色の制服を纏った『犬』を……。

 

「そう、犯人はナイフよりも頼りになる武器を見つけたのですよ……『ピストル』って最大最悪の凶器をね」

 

そう言って細めた目で鋭い視線を『狼』……警官服に身を包んだ男性『鈴木太郎』へと向けた。

 

「えっ?あっ、はっ?ち、ちょっと待っ…」

「犯人はあなたです、自称『鈴木太郎 職業:警察官』さん?」

 

鈴木が動揺している間にも美緒は言葉を続けて行く。

煽るように言われた彼は驚きながらも全員の視線を受け止めながら必死に言葉を続ける。

 

「ま、待ってくださいよ探偵殿っ!自分は犯人じゃ…ましてや偽物だなんて言い掛かりでありますよ、マジで違いますって!」

「その間抜けな演技に私もすっかり騙されました。勘が鈍ったと言うべきですか…まぁ良いです。あの時もあなたはわざと大きな声で喋った」

 

その言葉に鼻を鳴らした美緒は犯人を追い詰める。

全員に聞こえるようにしておかなければスマホを鳴らすことを知っている自分が疑われることになる、取り調べの振りをして鷹田のリュックに入れるチャンスのあった自分がだ。

そこまで話すと鈴木は顔を真っ青になりながらも言葉を紡ぐ。

 

「い、いやっ、それだけじゃ自分は犯人と断定するのは早いですよ!大体、全部あんたの推測じゃないですかっ!挙句の果てに偽警官だなんて…あんまりですよ!!」

「そうでしょうか?よくよく考えればあなたの言動は最初から怪しかった。だって、あなたは私が紹介を始めた時、何の躊躇いもなく信じましたよね?」

「そ、それが何かっ」

「普通の警察官だったら探偵なんて怪しい職業の、初対面の人物を信用しません。まして私が美海との関係を話したこともあなたは信じた。普通だったら県警の人間に確認をするものなのにあなたはそれをしなかった、無線の使い方が分からなかったか下手に使うと県警に怪しまれると思ったか…どっちですか?」

「だから違うっつってんだろうがっ!!くそアマッ!!!」

 

美海の言葉に苛立ちを露わにしてきた鈴木が怒鳴る。

今までの彼からは考えられないほどの暴言に全員が驚くが当の美緒は涼しげな表情で笑みを浮かべている。

困惑した全員の表情に気づいた鈴木は慌てて言葉を整える。

 

「いやえとっ、部長からも良く言われるのですが自分は人の言葉を鵜呑みにして良く貧乏くじを引いてしまうんですよ」

「良く警察官になれましたね?尊敬します」

 

素面で言われた鈴木の表情が変わっていく…先ほどまでの間の抜けた表情は怒りの形相へと変わっておりその表情はさながら血に飢えた狼。

そこまで言い終わると美緒は相手の様子を見る。

鈴木は堪えるように、真っ赤な顔を向けており飛び掛かろうとしているのを我慢しているようにも見える。

 

「俺、いや自分は…本物の警察官です。警察官の鈴木太郎であります」

「そうですか……では、警察手帳を見せていただけませんか?この場にいる全員に」

「……はっ?」

 

美緒の止めの言葉に鈴木は口を開いたまま唖然としていた。

笑みを消した彼女が言葉を続ける。

 

「いえっ、長々と推理した私が言うのもあれですけど…警察手帳を見せれば冤罪かどうか分かりますよ。どうします?」

「……」

 

鈴木は顔を俯かせておりその表情は見えることはなかったが彼の身体から殺意が感じ取れる。

やがて帽子を乱雑に放り投げるとホルスターに納まったピストルを突きつけた。

 

「あったまきた…うぜぇ、お前ムカつくんだよ。別荘にいた連中と…あの冴えない爺警官みたいに消してやる…!!」

 

血走った目で銃口を向ける鈴木に対して美緒は素知らぬ顔をしたままだ…それが余計に彼の苛立ちを募らせる。

 

「…私を撃つつもりですか?」

「何っ?今さら命乞い?うけるんだけどさー」

「撃ったら罪が重くなりますよ?」

「はぁっ???何人殺ろうが一緒なんだよ、バーカ♪」

 

狂気に満ちた笑みを見せる鈴木に対して、美緒はため息を吐いた。

どう考えても命の危機に反している、自分が始末した人間たちとは違う表情と態度を見せる彼女に対して怒りで身体を震わせる。

「でしたら」と彼女は口を開いた。

 

「警官なんかに成り済まさず、さっさと外に出るなり全滅させるなりすれば良かったんです。だから上げ足を取られるんですよ、被害者にも…一番ムカつく私にもね」

「はぁっ?何言って…」

 

そこまで喋った途端、乾いた音と共に鈴木の右手に衝撃が走った。

ピストルを落とした彼に美緒が駆け寄ろうとした時だ…尼野と森重が彼を取り押さえ、鷹田は小夜を庇うように立つ。

未だに抵抗しようとする鈴木の顔面に、美緒のハイキックが直撃したことで彼は意識を失った。

ふと、美緒が音の方向を向く。

 

「……時間ぴったりですね、美海」

「デートの待ち合わせには時間丁度で行くタイプだから」

 

拳銃を持った美海はそう言って安堵した笑みを見せるのであった。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「お邪魔しまーす」

 

数日後、事件関係のごたごたを終えた美緒はようやく自宅に帰ることが出来た。

小夜も久しぶりの甥の顔が見たいと思っていたらしく「どうせなら」と彼女を招待したのだ。

疲れた様子で安楽椅子に座る、戒たちは出かけているのだろうと判断した彼女は少し眠ろうと目を瞑った時だった。

 

「あっ、二人ともー♪」

 

小夜の声が聞こえる、礼司と戒が帰ってきたのだろう…「お帰り」と目を開けた時だった。

 

「えっ?」

 

視界全体に広がったのは紅と赤ピンクの花束…カーネーションだ。

目を向けるとそこには幼い戒と礼司がおり両手には花束を抱えていた。

そこで今日の日付を思い出した…五月十四日、『母の日』だ。

 

「おかあさん、いつもありがとう!」

「お礼のカーネーションだよ。母さん」

 

そう言って、二人は大切な母親に美緒は花束を手渡す。

手渡された花束に彼女の目には涙が溜まっており、嬉しそうな顔をしている息子二人に「ありがとう」と感謝を口にした。

そして、リビングの奥から見えてきたのは愛しい彼の姿……。

 

「お帰りなさい、士さん…!」

 

目に涙を浮かべながら、美緒は言葉を紡いだ。

一年に一回の母への感謝を言葉に出来る最高の日……あなたも普段は言えないことを、母親に言ってみませんか?




 門矢美緒の事件簿、これにて完結です。出来れば母の日に投稿したかったと内心悔しがっております。
 ちなみに、母の日は切り花を送りました。何だかんだで感謝の言葉を言えるのはこの日しか言えませんし…。
 ではでは。ノシ

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