仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士 作:名もなきA・弐
場所は変わり、何処かの廃工場……そこに二体の異形がいた。
『どうですか「ケルベロス」?ゲームは進んでいますか』
『問題はないっ、次で一先ずは終わりだ』
そう落ち着いた声色で尋ねるのは魔術師と鳥を組み合わせたような不死鳥を思わせる赤い怪人、そして鎖を巻き付けて三つの首を持った猟犬のような怪人……。
赤い怪人『フェニックス・エラー』は『ケルベロス・エラー』に力を与えた張本人であるため、上の者に連絡するための状況確認をしているのだ。
『あなたがゲームクリアすることを、他の者も期待しています。どうか、ご自分の復讐を堪能してください』
楽し気に笑うと、フェニックスは深々と頭を下げてから赤い羽根と共に姿を消す。
一方のケルベロスは宿した憎悪を魔力として放出するように深い息を吐く。
『あぁ……存分に楽しませてもらうよ』
『楽しむ!楽しむっ!』
『何もかも噛み砕いてやるよ!』
エラーの人格が口々に嗜虐に満ちた声色で叫ぶ。
その声を耳にしながら、ケルベロスもその場から立ち去るのだった。
戒は街を歩いていた。
買ったばかりのゲームで遊ぶ気も起きず、かと言って何かをする必要があるわけじゃない。
ただ、先ほどの奇妙なやり取りを思い返していた。喋る赤いミニ四駆……ウェルシュの話だ。
まずは、エラー。
人間の絶望に反応して怪人へと変貌してしまった存在。
ウェルシュ曰く、この街……いや世界で人の絶望につけ込んで犯罪へと至らせる敵がいると。
今は彼とその仲間たちが世界各国にいるエラーと戦っているらしく、日本が手薄になっている状態らしい。
そしてエラーと戦うことが出来るのが、仮面ライダー。
その仮面ライダーに戒が選ばれたのだ。
街の景色を眺めながら、歩き考える。
「俺に、何が出来るんだよっ」
その想いが口から出てしまう。
少年探偵……数々の難事件や怪奇事件を母親譲りの推理力で解決してきた。
そんな自分にいつしか相棒が出来、彼と共に舞い込んできた事件を解き明かした。宛らホームズとワトソンのように思っていた。
けど、現実は違う。
『あの事件』が、戒の心に傷を残した。
簡潔に言ってしまえば、その犯人は戒の相棒だった。
被害者たちは、彼の恋人を辱め自殺にまで追い込んだ連中だった。
戒の相棒になったのも全ては復讐のため……自分の持つ捜査能力を間近で観察し、学ぶためだったのだ。
全ての謎を解き明かし、彼がアジトにしている場所を推理した戒は必死に叫んだ。
あの時、どんな内容のことを言っていたのかは正直覚えていない。
ただ頭が真っ白で、ブレーキの壊れた相棒を止めたくて、とにかく今までのことを全部叫んだ。
そんな言葉が復讐鬼を人間に戻す。
その結果が、犯人の自害……相棒の喪失だ。
復讐の象徴であるアジトに火を放ち、その中で彼は自らの死を選ぶ。それがこの事件の顛末だった。
後始末は、全て戒と美海が行った。
生き残った連中の真実を白日の下に晒し、全てを終わらせた瞬間に彼は燃え尽きた。
結局のところ、自分は何も出来なかった。彼の苦しみも葛藤も復讐心も、何も理解していなかった。
(本当に大事なものを、俺は見ていなかった)
そんな自分が、仮面ライダーに変身して戦う?
おこがましい。戦う理由を持った戦士になれるわけがない。
探偵失格……気力もない今の自分には無理だ。
そう、ぼんやりと上を見上げていた時……。
「待って~~~~~~っ!」
「……んっ?」
ふと聞こえた声に思わず後ろを振り向く。
見れば胡散臭い恰好をした女子と、それを追いかけている制服を着た少女(恐らく高校生)の姿がこちらの方へ走ってくるのが見える。
前者は手に財布らしき物を持っており、恐らく制服の少女からスッたのだろう。
ほんの一瞬見て全てを悟った戒は溜息と同時にスリを働いた少女に……。
「……ぶべっ!?」
足を思い切り引っ掛けてやった。
逃げることに夢中で戒のことを視界に入れていなかったスリ少女は地面を滑りながら見事に転倒。
起き上がろうとするその背中を思い切り踏みつけ、スマホ片手に口を開く。
「今ここで盗んだ奴全部置いていくのと、ネットに素顔晒してから豚箱にぶち込まれるのどっちが良いですか?」
「ひっ!?」
有無を言わさない彼の赤い瞳を見たスリ少女は大人しく今日盗んだ物を全て捨てるようにその場に差し出す。
盗品がこれで全てであることを表情で悟った戒は足をどけると、そそくさと逃げ出した。
それを横目に財布を拾うと、ようやく追いついて息を切らす少女に投げ渡す。
「あ、ありがとう!」
「いえっ、別に……!?」
そのまま立ち去ろうとしたが、胸元に財布を入れる姿に思わず視線と動きを止めてしまう。
健全な十五歳、これは仕方がないだろう。
(ま、まじか……高校生になると、あ、あんな大胆に///)
先ほどまでの冷静な思考が一気に煩悩に染まる。
よく見ればかなり可愛い。黒髪を後ろに纏めたポニーテールが活発な印象を与えているし、それに胸も大きい。それにスカートも動く度に……。
「っ?どうかしたの」
「いえ別に」
視線に気づいた少女の言葉に戒に冷静さが戻る。
一先ず目の前の美少女にお礼をもらえたことと先ほどの光景を脳内フィルダに納め、改めて立ち去ろうとする。
「あのさ」
「はい?」
「えっと、何か悩んでいる?」
動きが止まった。
まるで核心を突かれたような問いに、何の縁もゆかりもない少女の口から言われた一言に一瞬だけ表情が引き攣る。
動揺を隠し、何とか笑顔を保つ。
「えっと、まぁ。はい……ちょっとスカウトされていて」
あんたには関係ない……。
そう言って立ち去れば良かったのだが、何故かつい喋ってしまう。
もちろん正直に全て話さずに当たり障りのない内容にしたが、別に嘘は言っていない。どうも目の前にいる少女は、人の警戒心を解く才能があるらしい。
「そっか!スカウトってモデルさんとか?」
「まぁ、そんなとこです。でも、俺なんかがやったところでって話ですよね」
「んー……」
彼の発言に少女はしばし考える素振りを見せる。
やがて、納得したように口を開いた。
「じゃあ、私からのアドバイス!『自分に正直になる』!」
「えっ?」
「君はさ、他のことを考えているんだと思う。だから自分が何をしたいのかが決まっていても、それを隠しちゃうんじゃないかな?」
彼女の話を、戒は黙って話を聞く。
何処となく先輩風を吹かせながら、笑ってそう語る彼女が何故か眩しく見える。
何だかおかしくなって、思わず笑みを零してしまう。
「むー。笑わないでよ」
「すいません。でも……ありがとうございます。何か、ちょっとだけ気持ち軽くなった気がします」
「そっか!じゃあ、私はこれで。友達が待っているから!」
「それじゃあね」と元気良く手を振って少女は颯爽と走り去っていった。
戒も軽く手を挙げて返すと、「良い人だったな」と思いながら自宅に帰ろうとした時だ。
スマホから着信音が響く。
取り出して確認すると、相手は琴音だ。
「もしもし?」
『戒君、助けてっ!』
「神楽坂?」
声は幼馴染ではなく同級生の倫花の声だ。
彼女からの突然のSOSに戒の表情が変わる。
探偵としての直感が、彼女の焦った声色から冗談でないことが伝わってくる。
「場所は何処だっ!?」
彼女たちの元に向かうべく、地面を蹴って走り出した。
少し、時間を巻き戻そう。
「あー……疲れた」
公園のベンチに座った琴音が一息吐く。
今の彼女は特攻服を羽織っていない。総長の証であるあの上着は信頼出来る後輩に託し、晴れて自分は足を洗ったのだ。
……とはいっても、彼女のグループは性質の悪いナンパ野郎や不良どもから人を助ける義賊みたいなことをしていたため傍から見れば「ごっこ遊び」の範疇でしかない。
まぁ琴音は「ナイチチ野郎」と挑発してきた不良グループを木刀と蹴りだけで殲滅した記録があるのだが、話が逸れるので割愛しよう。
一人の少女へと戻った琴音は近くの自販機で買った缶ジュースを飲みながら夕焼けに染まった空を見上げる。
「琴音ちゃん」
突如、自分の名前を呼ばれ首を向けて露骨に顔をしかめる。
戒と自分にお節介を焼いてくる神楽坂姉妹だ。
正直彼女はこの二人が好きではない。
別に嫌いとかでもないのだが、あのスタイルで戒や自分に近づいてくるのが心底気に入らないだけだ。
あのバインバインを押し付けられる度に如何に自分が小さい存在かを思い知らされる。
「……て、誰の何処が小さいだごらぁっ!!」
「ええっ!何の話っ!?」
謎の電波を受信して急に怒り出した琴音に倫花が驚き、その態度を見た琴音が「ごほんっ」と咳払いをして気を落ち着かせる。
話を聞ける段階になったところで、倫花は話を始めた。
「えっと、戒君が何処に行ったのか知りたくて」
「カー君?この時間ならもう家に帰っていると思うけど……」
「本当に?何なのあいつ、お姉ちゃんがこんなに声かけてくれるのに」
隣にいた乱花が口を尖らせる。そんなこと言いながらも姉について来る辺り、戒に対して悪い感情は抱いていないのだろう。
鼻を鳴らした琴音がベンチから立ち上がった時だった。
(……っ!?)
嫌な気配を感じた。
曲がりなりにも母親から護身術を教わり、不良どもの喧嘩で培った第六感が危険信号を発している。
敵意……違う。
これは相手への強烈な憎悪と、殺気……!
「伏せろっ!」
その感覚に従うまま、琴音が倫花と乱花の二人を地面に押し倒した瞬間、その頭上を『何か』が通り過ぎた。
それは琴音たちが先ほどまでいたベンチに激突しけたたましい音を立てて破壊される。
だが、しばらくして音が変わった。
何かが砕けるような、硬い物を咀嚼しているような……そんな不快な音だ。
琴音が二人を庇うように前に立つ。その際にスマホが落ちてしまったが気にする余裕がない。
やがて『何か』が起き上がった。
「……何、あれ……!?」
あの強気な乱花の声が震えている。
それが変態や不審者であったのなら、どれほどまともだったのだろうか。
そう思えるほどに、目の前の『何か』は異常だった。
『グルルルルル……!』
『不味いね』
『不味いよっ!』
翼を生やした三つの首を持った猛犬のような異形が、不気味な単眼でこちらを睨みつけている。
二つの口はベンチだった残骸がまるで紙屑のように容易く食い千切りながら、目の前にいる血肉を口々に求めている。
不気味な怪人、あの怪人は現実に存在してはいけない……!
まだ捨てていなかった木刀を構えるも怪人……ケルベロス・エラーは獣の見た目に違わない速度で詰め寄ると木刀をはたき落とし、琴音の首を掴む。
「ぐっ……こいつっ」
『ここは、そうだ。あいつの好きだった場所、そうだそうだった……妹を傷つける奴らは絶対に許さねえ!地獄の底まで突き落としてやるっ!!』
どうにか振り解こうとするも、普通の人間がケルベロスの力に叶うはずがない。
やがて、意識が遠のき始めた時だった。
「オラッ!」
『ぐっ!?』
彼女の細い首を掴んでいた腕に向かって鋭い蹴りが放たれた。
その乱入者は強引に琴音を開放すると、小柄なその身体を優しく抱える。
「げほっ、げほっ!カー、君っ?」
自身の助けた幼馴染の名前を呼ぶ。
琴音は知る由もなかったが、あの時スマホを拾った倫花が急いで戒に電話し、場所を聞き出して通話を終えた戒は叔母の美海に連絡しながら急いで駆け付けて来たのだ。
戒は琴音が無事であることに一先ず、安堵するも背後からケルベロスの爪が迫る。
「くそっ!」
それを躱し、倫花と乱花に彼女のことを任せると自分に狙いを定めるように誘導する。
「こっちだ犬っころ!」
『ガアアアアアアアッッ!!』
攻撃を捌き、躱しながら彼女たちから離すべく動き続ける。
しかし、その逃避はすぐに終わった。
『捕まえたよっ!』
『捕まえたぞ!』
二つの声が響くと同時に、ケルベロスの腕が伸びた。
不意を打たれた突然の動きに戒は驚き、捉えられてしまう。
『ちょろちょろしやがってガキがっ!俺の復讐を邪魔しやがって!』
獣の口から放たれたその言葉に戒が反応する。
復讐……その単語が最近になって発生した連続傷害事件と結び付く。恐らく、目の前にいるこの怪人が犯人なのだろう。
そうなると、腑に落ちない点が多々ある。
「どうして?あんたの目的は復讐だろ、あいつらは関係…」
『関係ないっ!?妹を失ったことを関係ないだとっ!!ふざけるなっ、ふざけるなっ!!』
遮るように吠えるケルベロスは、戒の胸ぐらを掴むと濁り切ったモノアイで睨む。
『妹は、あいつらに辱められた。挙句の果てにその時の様子を動画に取られていた……分かるか?だから俺は奴らに社会的な制裁を加えたっ』
「だったら…」
『それで充分?違うっ!俺は許せないのは妹の死に気にすることなく平凡に生きている奴ら全てだ!!そんな奴らを俺の牙と爪で切り裂くのは……楽しかった』
その声は、この世の全てを憎んでおりケルベロスの声が人を傷つけることへの快感に震えている。
狂ってる……そこで戒はウェルシュの言葉を思い出す。
エラーと融合した人間は本来の人格を歪められる。
そうなった者は絶望という狂気のままに、大勢の関係ない人を巻き込むようになる。
そんなこと……。
「ふっざ……けんなっ!」
『……っ』
両脚に魔力を込めて、ケルベロスの胴体を蹴り飛ばす。
気が逸れたことで拘束から無理やり脱出した戒はその場でへたり込み、咳き込む。
思いもよらぬ反撃に、エラーは怒りを露わにして再び彼に手を伸ばそうとする。
だが、一発の銃声が動きを止める。
「止まりなさいっ!」
リボルバーを構えているのは、戒が電話で読んだ刑事……美海だ。
怪人の存在に内心驚くも表上は顔に出さず、両手で拳銃を握り締めて威嚇する。
背後には琴音たちもいる。
しかし、警察……妹の死に何もしなかった
『……そうか。お前たちから始末されたいようだなぁっ!』
「やめ、ろっ……!!」
標的を再び彼女たちへと狙いを定めたケルベロスが襲い掛かろうとする。
いくら美海が精霊術の使い手だとしても、如何に琴音たちが武道に心得があっても、怪物が相手ではどうすることも出来ないだろう。
だからこそ望む。
力が欲しい、と。
相手を倒すための力ではない。
目の前の誰かを救えるような、復讐でその身を怪物へと変えてしまった人間を助けることが出来るような……そんな優しい力を。
『出来るさ。君のその優しい心があればね』
男性の、ウェルシュの声が戒の耳に入る。
顔を上げれば、ミニ四駆が赤い軌跡を描きながら縦横無尽に動いてケルベロスを翻弄している光景が目に映っていた。
追い払うように距離を取ったケルベロスを確認したウェルシュは戒にある物を投げ渡す。
それ…ゲームパッドを思わせるようなバックルのアーサードライバーをキャッチした戒は無意識の内にゆっくりと腰へ軽く当てる。
そこか赤いベルトが伸びて完全に固定されると、今度はプッシュボタンがあるドラゴンがイラストされた赤いカセットテープを受け取る。
『……戒。君は相棒とも言える人物を失った。だが、今なら救える。私いや、私たちと仲間がいれば、奴らと戦える。絶望に苦しむ人たちを守ることが出来る』
巻きつけた途端、意識をアーサードライバーに移したウェルシュの声が聞こえる。
その言葉が、今まで綺麗ごとにしか聞こえなかった言葉が凍り付いた心を解かしていく。
あの時、何も出来なかった、相棒の罪はおろか周りを見ることさえ出来なかった……違う、「救えなかった」を理由に行動しなかっただけだ。
目の前には、唸り声をあげる獣へと堕ちたケルベロス……。
今の自分では無理だったかもしれないし、正直に言うと怖い。
だけど、今は戦える『力』がある。
目の前の人を守れる、そして、怪物になってしまった彼を救えることが出来る。
それならば……。
「……なら、やるしかないだろっ!」
覚悟は決めた、後はもう自分の心のままに動き出すだけだ。
上着に入れていたミラージュカセット『ドラゴンカセット』を起動させる。
【DRAGON!!】
起動音声と共にバックルの左側に位置するスロットに装填する。
【HENSHIN ARTHUR! GAME START!!】
和ロックのようなノリの良い待機音声が周囲に鳴り響き、それを背景に戒は左手に軽く力を込めると、それを斜め前に突き出し残った手はバックルのグリップを握り締め、トリガーに手を掛ける。
「……変身!」
【RIDE UP! DRAGON! 連・撃!RED KNIGHT!!】
叫びと同時に戒がトリガーを弾くと四角いディスプレイにドラゴンの赤いグラフィックが映ると同時に、昆虫のような赤く丸い複眼に黒と紫のアンダースーツが全身を包む。
カセットの絵柄に描かれた赤い竜を模した『霊装』が召喚されると、パーツ状に分解しスーツを纏った戒の上に装着し、彼を赤い騎士へと変えた。
竜を模した装甲と上部に装着されたV字型のホーンが生えたドラゴンのバイザーから竜の騎士を彷彿させ首元に出現した赤いマフラーが変身の余波で靡かせる。
『Start Your heart!!』
『な、何者だっ、お前!?』
ウェルシュの声が響く中、ケルベロスは突如変身した騎士に動揺した声で問いかける。
答えは決まっていた。
今の自分は、弱い人を守るヒーロー。
「……『仮面ライダー』」
『何っ?』
「俺は仮面ライダーアーサー!お前の物語、ここで終わらせる!」
歪んだ正義を、悲しい復讐劇という物語をこの手で終わらせるべく、戒が変身した仮面ライダーアーサーは左手をスナップしてエラーへと走り出す。
『このっ、邪魔をするんじゃねぇよっ!!』
『こけおどしだぁっ!何があっても俺は、俺は大切な者を……妹を絶対に護って見せるんだっ!!』
変身した姿に驚くも、エラーの人格が身体の主導権を握って迎え撃とうとする。
しかしアーサーは地面を滑り、スライディングのように叫ぶケルベロスの股下を潜り抜けると瞬く間に背後を捉えた。そこからすかさず先制攻撃として鋭い蹴りを叩き込むも効果は薄い。
そこにウェルシュの声が響く。
『戒。バックルにあるボタンを押すんだ』
「ボタン、てことは……」
【MAGICAL ARTS! BOWABOWA KACCHI-N!!】
アーサードライバーにあるボタンを押すと、両脚に高熱と冷気が纏わりつく。
それに一瞬だけ驚くもアーサーはすぐに冷気を宿した右脚で後ろを向こうとするケルベロスを蹴り飛ばした。
「オラッ!!」
『があああああああああっ!』
『こ、このっ!』
先ほどとは比べものにならない、背中からの激痛に苛まれたケルベロスの悲鳴が辺りに響く。
しかし右肩の獣の口から巨大な盾を出現させると、アーサーの方へ向き直ったエラーは迫りくる蹴りのラッシュを防ごうとする。
最初は一発二発と防ぐことが出来たが、段々と早くなってくるラッシュに盾での防御が間に合わなくなってくる。
「ならば」とケルベロスは武器で殴り飛ばそうとするが、アーサーは柔軟な体捌きで難なく回避すると隙だらけのボディに突き刺さるような高熱を纏った跳び膝蹴りをお見舞いする。
『ぐぅっ!?こ、このガキッ!!』
重い一撃に息苦しさを感じながらも、ケルベロスは巨大な口を開けてアーサーを噛み砕こうとする。
しかし、攻撃を受ける直前に彼は直感で赤いボタンを押した。
【ATACK ARTS! SONIC BITE!!】
「よっと」
『がっ!?』
赤いオーラに覆われたと同時につっかえ棒のように脚を突き上げる。
じたばたと暴れて何とかアーサーの足ごと噛み砕こうとするも、脚力を強化されている今の彼の前では無力だ。
すると、身体を捻ったアーサーのサマーソルトがケルベロスの横っ面を蹴り飛ばした。
吹き飛んだエラーは地面を転がり、どうにか起き上がるとモノアイを光らせながら叫ぶ。
『くそっ、くそっ!どうして俺たちがこんな目に合うんだ!俺や妹は被害者なんだぞっ!?それなのにっ、何でええええええええええっっ!!!』
「……今のお前は、復讐どころか無関係な人間にも手をかけたただの犯罪者だっ」
『何だとぉっ!!?』
「お前は俺の友達をっ、無関係な人も殺そうとした!そんな復讐、俺は認めない。お前の暴走も、悲しみもっ!絶望に染まった物語を全て終わらせてやるっ!!」
宣言したアーサーはドライバーのスロットからドラゴンカセットを抜き取り、必殺技専用のスロットへと装填する。
瞬間、今までの音声とは異なる電子音声が響き渡った。
【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! DRAGON!!】
「ふっ!」
両脚に先ほど以上の魔力を宿したアーサーは助走をつけて勢いよく走る。
地面を蹴る度に炎と氷の跡を残しながらも、ふらついた状態で起き上がっていた標的からしっかりと狙いを外さない。
そして、空高く跳躍した。
「オラアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
そして、そのまま急降下してきたのだ。
ドラゴンのエフェクトを纏ったスピードに乗った左脚による必殺の跳び蹴り『ドラゴンストライク』は満身創痍となっていたケルベロス・エラーに直撃した。
『がああああああああああああっっ!!!』
束縛を衝撃で破られ、ケルベロス・エラーは一撃を受けた時点で宙に浮かび、地面に向かって吹き飛んだ。
そして、力無く地面に叩きつけらたエラーのボディからは暴発するように火花となった魔力が漏れ出る。
「GAME OVERだ」
『ぐっ、あああああああああああああああっっ!!!』
アーサーのセリフと共に、ケルベロスの身体は悲鳴と共に爆散。
琴音や神楽坂姉妹はその姿に、仮面の騎士の初陣にただ見とれることしか出来なかった。
エラーのボディから気を失った男性が倒れたのを確認した彼は、すぐさま美海に連絡を入れる。
『……戒』
「んっ?」
『これからも、私と共に戦ってくれるか?』
「…ああ。これからも頼むぜ?ミニ四駆のウェルシュ』
「余計な一言だよ」とウェルシュが返事をすると、変身を解除した戒とミニ四駆に意識を戻した彼は拳と機械のボディを軽くぶつけるのであった。
『戒、エラーの反応……恐らく今回の事件を起こしているハイドの仕業だ』
「んあ?」
十六歳になった戒にウェルシュが声をかける。
彼の両手には横向きになったスマホがあり、ゲームをしていることは明白だ。
「マジかよ……もう夜だぜ?」
『今回の犯人は人気のない時間帯を選んでいる……君が以前言っていたことだろ?』
「そーでした」と彼の言葉に返す。
だが、移動手段が徒歩なため、変身していった方が良いかもしれない。
そう思いながら、ドライバーをセットして外に出ると見覚えのない物が視界に入った。
「……バイク?」
『そう。君のためのマシン「ドライグハート」さ。免許を取っていると美緒から聞いたからね。私なりのプレゼントさ』
思わぬ贈り物に、戒は赤く輝くマシンへと手を触れる。
ドラゴンや甲冑のようなデザインに少しだけ心を躍らせながらも、付属されていたヘルメットとゴーグルをつけてエンジンを起動する。
「さぁ、行くぜウェルシュ!」
『OK! Start Your Engine!!』
こうして二人は、再び忍の少女と出会う……。
『閃乱忍忍忍者大戦ネプテューヌ -少女達の響艶-』が発売されると聞き、モチベを上げつつ投稿しました。本当にすいませんでした!(土下座)
今回の『ケルベロス・エラー』は烈 勇志さんの投稿していただいたエラーを参考に登場させました。誠にありがとうございます!
ケルベロス・エラー ICV花江夏樹(エラーの人格と兼役)
妹を自殺に追いやった連中に復讐し、その尊厳を守るべくエラーカセットと手にして融合した。モチーフは『ケルベロスとナベリウス』
特殊な力こそ持たないが、その分破壊力や鋭い爪による攻撃を得意としており、強靭な牙で嚙み砕く。また翼を持っているため飛行も可能。