仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士 作:名もなきA・弐
今回は待って頂いた皆様には消化不良な展開になっていると思います(汗)。それでも良ければどうぞ・
「忍結界」
一言……第三者を介入させないための結界を雲雀が展開する。
彼女の近くにいるのは戒と空良の二人……そんな彼らと対峙するのは三体のエラー。
メタリックな鋼のボディにワニの牙を彷彿とさせる頭部、胴体には背中や肩に鉄骨や鉄板などが突き出している不気味な外観をした『スティール・エラー』。
クラゲのような白く透明なボディ、左腕はシャチで右腕にはシャワーのような装飾が設置されている女性型エラー『シャワー・エラー』。
そして、紺色のユニフォームにサッカーボールのような白黒のボディが特徴の『プレイ・エラー』。
一見すると関連性のないモチーフのエラーたちだが、彼らにははっきりとした『繋がり』が存在しているのだ。
今から三人は、この三体は撃破しなければならない。
それが使命だからだ。
「……君たちはあの子との約束を果たしてあげるんだ。変身」
プレイの相手を雲雀と戒に任せ、空良はギアルに変身すると地面を蹴ってスティールとシャワーの二体へと迷うことなく直進する。
彼の気持ちを受け取った二人は、先ほどから動くことなくこちらを見つめているプレイと正面から対峙する。
『……来てくれたんだ。お兄ちゃん、お姉ちゃん』
「うん。タクヤ君も待っててくれたんだね」
雲雀の優しい声に、まだ声変わりのしていない声で「うん」と頷く。
戒は意を決したようにアーサードライバーをセットし、シノビカセットを起動する。
【SHINOVI!!】
「約束通り、一緒に遊ぼうか」
時間は、数日前に遡る。
その日雲雀は珍しく一人での休日を満喫していた。
いつもなら親友の柳生と行動を共にしているが実家に帰っているため、今日は久しぶりの一人の時間というのを楽しむことにしたのだ。
お気に入りの店でパフェを食べ、近くのゲーム屋で話題のゲームをチェックする。
そんな当たり前の日常を謳歌して帰路へと向かおうとした時、公園である物体が目に留まったのだ。
それが、プレイ・エラー。
人目を気にしながら、自分で作り出したボールでリフティングやドリブルで遊んでいる様子を雲雀は物陰から見る。
本来ならすぐに戒や仲間を呼ぶべきだったが、一人で遊ぶ彼の姿にかつての自分を重ねてしまったのだろう……。
気づけば、彼女は声を掛けていた。
「ねぇ、何してるの」
『っ!?』
急に聞こえた声に驚いたプレイは慌ててその場から逃げようとするが、雲雀は「待って」と慌てて止める。
容姿は幼く見えるのも理由だったのだろう、多少怯えながらも彼女の方に振り向いて答える。
『遊んでるの……僕、外で遊ぶの初めてだから』
「そっか」
楽しそうに話す彼に、雲雀は小さい子どもと話すように普段の調子で答える。
加工されていないその声から、年端のいかない少年であることを直感した彼女はプレイの手を取ってある提案をする。
「ねっ、お姉ちゃんと遊ばない?」
『え?』
「一人で遊ぶより、みんなで遊んだほうが楽しいよ。ねっ、戒君」
この場にいない名前に小首を傾げるが、エラーの反応をウェルシュ経由でキャッチして少し前から現場に到着していた戒とウェルシュが姿を見せる。
苦い顔を機体のディスプレイで表示する彼に対して、戒も困った表情をする。
どんな事情、人間であれエラーは何れ暴走し絶望を振り撒く存在になる。
「どうするべきか」と悩むが……。
「負けるのが怖いの?」
笑顔で言い放った雲雀のセリフに戒が反応する。
分かりやすいまでの挑発、自分の乗せるための発言なのは誰が聞いても明らか。
「ほう?言ったな雲雀」
『沸点低いな君はっ!?てか、挑発されて怒るキャラじゃないだろ!』
何処となくメタい発言をするウェルシュを華麗にスルーし『雲雀に挑発されたから』という大義名分を得た戒は軽く伸びをする。
雲雀に急かされるまま、サッカーボール型のエネルギーを取り出したプレイに指をさし宣言する。
「かつて『百発百中シュートの門矢』と言われた俺のシュートを見せてやらああああああああっっ!!!」
『そして二つ名がださいなおいっ!!』
流れるようにボケを繰り出す彼にツッコミを入れるウェルシュ……この際、琴音の普段の苦労が身に染みたことは全くの余談である。
そこからはサッカーを始め、次にかくれんぼや鬼ごっこ、そして缶蹴り(何故かこの時だけ戒はマジモードになっていた)などの遊びを行い辺りはすっかり夕方になっていた。
『僕、そろそろ帰るね』
夕焼けを見ながら、プレイはそう口にする。
戒と雲雀も特に口に挟むことはなく、ウェルシュもプレイについての対策を考えるためその提案に賛成の意を示す。
「その前に」と、彼は戒たちの方を振り向く。
『僕のお願い、聞いてくれる?』
「お願い?」
聞き返した戒にプレイは頷き、やがて意を決したように口を開いた。
『一つは、また一緒にここで遊ぶこと』
「そして」と、彼は一呼吸置く……。
『おかしくなった僕たちを止めて』
「……分かった」
その言葉を理解した戒は目を鋭くし、その依頼を受け取る。
彼らは、この場所でもう一度遊ぶことを約束し、それぞれの戻るべき場所へと帰っていった。
そして、時間は再び現在へと戻る。
ギアルの放った銃撃がシャワーに直撃し、激昂したスティールが剛腕から繰り出される一撃を浴びせようとする。
しかし、タンクモードへと切り替えて受け止めたギアルがカウンターによる一撃を繰り出す。
吹き飛んだのを確認し、すぐさまフライヤーモードへと戻す。
『ずっと、不幸だった』
自分の愛した男は、みんながみんな自分を騙した。
――――「君を愛せるのは僕だけだよ」――――
――――「俺には君しかいない」――――
そんな歯切れの良い言葉で縛り付け、搾取を繰り返した。
許せなかった。
平気で自分を裏切る連中も、「この人なら」と思ってしまう自分のことも……。
パペット人形の男からエラーカセットを渡された時、この力で自分を騙した連中に報復するつもりだった。
でも……。
『私は、私を愛してくれる本当の人と出会えた』
【CRITICAL ARTS! FINAL STRIKE! SOCIAL!!】
そう呟いたのと同時に、ギアルショットガンの銃撃が彼女の身体を貫いた。
愛する人が崩れ落ちる姿を見たスティールが声にならない悲鳴をあげる。
獰猛な獣のように、策も何もない無謀な突進を行う。
ギアルはそれを躱すことも出来たが、あえてそうせずタンクモードへと切り替えて真正面からそれを受け止める。
その衝撃に少しだけ後ずさりするも、完全に勢いを殺すことに成功した彼はそのまま右拳に力を込めて殴る。
剛腕からのラッシュにスティールも負けじと殴り合いを始める。
『……俺は、無力だ』
妻と早くに死別し、病弱な息子一人さえ守ることも出来ない。
そんな自分がたまらなく嫌でたまらなかった。
職場の人間も、そういった事情を理解してくれるからか率先して自分の仕事を手伝ったり引き受けてくれたりもした。
それが、どれだけ自己嫌悪を強めたか……それは本人だけにしか分からなかっただろう。
だが、雨に打たれている女性を見かねた時、それが転機だったのかもしれない。
美しい瞳をした女性、妻のことを忘れたことはなかったが何処か放っておけない危うさを彼女から感じ取った。
女性の方は警戒していたが、何回か顔を合わせる内に自然と惹かれ合うようになった。
息子も彼女が優しい女性だと理解してくれたのか、年相応に甘え笑顔を見せてくれる。
まるで本当の家族のようだった。同時に、今湧き上がる子の感情が亡き妻への裏切りなのではないか……幸せと同時に葛藤することも多くなった。
だから、答えを出そうと思い二人のための旅行を計画したのだ。
同僚や上司たちも快く了承してくれた。
車を走らせ、自然が生い茂る景色を見ていく中で自分の希望は守れるのだと思い始めていた。
だが。
『どうして……あんなことが起きたんだ』
「……っ」
淡々と、悲しみも怒りも感じなくなったその声に僅かな反応を見せるギアル。
しかし、止めることなく放たれた必殺の一撃はスティールを浮かせるだけでなく鋼鉄のボディに皹を入れた。
「変身」
「忍、転身…」
【RIDE UP! SHINOVI! 旋風無双!HIGH SPEED CHAMBARA!!】
ドライバーのサイドグリップにあるトリガーを引いてシノビリンクのアーサーへと変身し、雲雀もシノビリンク衣装へと姿を変えたと同時にプレイがサッカーボール型のエネルギー弾を蹴り飛ばす。
アーサーはそれを躱すことなく、逆に足を使って受け止めると軽くリフティングしてから蹴り返す。
当然、返されるとは思ってなかったプレイの顔面に直撃し後ろへと倒れてしまうがすぐさま起き上がる。
『痛い、痛いけど……何でだろ?あんまり悲しくない』
「病気の時も痛かったのに」と自分の顔を擦りながら、自嘲するように笑う彼にアーサーは軽く挑発する。
「やられっ放しは嫌だろ?今度は三人で遊んでやる」
『ううん。今度は「八人」だよ』
その言葉と共に五体のポーントルーパーを召喚し、プレイは再びエネルギー弾を取り出して地面に置く。
ゆっくり、ゆっくりと息を吸い声を発した。
『シュートしたボールを相手に当てた方が勝ち。僕の考えたオリジナルの遊びだけど……どうかな?』
「ちょっとだけルールを足さない?ほら、身体に当たって地面に落ちるまでにボールを拾えばセーフとか」
「どうかな」と雲雀が周囲を見渡す。反論はない。
誰も異論がないことを確認するとプレイはすぐさまエネルギー弾を一体のポーントルーパーへとパスする。
パスを受け取ったポーントルーパーはそのままドリブルで直進し、雲雀に向かってシュートするがそれを受け止め、膝で軽くリフティングしてからアーサーへとパスする。
受け取ったアーサーは一度宙へ高く上げてからシュートを繰り出す。
素早い速度での軌道はプレイへと直撃するが、まだエネルギー弾のボールは空中にある。
(あれを受け取れば、まだ勝機が……!!)
取ろうと動き始めるプレイだったが、それよりも先に助走をつけた雲雀が飛び上がり、プレイの左肩に脚を掛けて更に高く跳躍する。
「戒君っ!!」
雷属性の魔力を纏った足で、騎士の名前を呼びながら彼女はパスを渡す。
それを受け取ったアーサーも再び跳躍し、同時に必殺技のシークエンスを開始する。
【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! SHINOVI!!】
「これでゲームセットだああああああああああっっ!!!」
託されたボールに突風を纏ったオーバーヘッドキックを叩き込むと、雷と突風を纏ったエネルギー弾がプレイへと直進する。
明らかに受け止められるわけがない威力だが、彼はそれをあえて受け止めようとする。
しかし……。
『ぐっ!ああああああああああっっ!!!』
威力に耐え切れず、プレイは爆散。
尻餅をついたように倒れるからだったが、身体には魔力の粒子化が起き始めている。
それに恐れることも悲しむこともなく、プレイは自分と最後まで…全力で遊んでくれた二人を見上げる。
『ずっと、遊びたかったんだ』
プレイはポツリ、ポツリと語り始める。
物心つく前に母親が亡くなって、身体は病気になって父親に負担になることしか出来ない。
それがどうしようもなく悲しくて辛くて、痛いことだった。
本当は父親に怒られるぐらい遅くまで遊んで、泥だらけになって遊んでいたい……そう願っていた。
『父さんがあの人と一緒に旅行しようって言った時、もしかしたら三人で遊べるって思ったんだ』
「だけど」と、少年は続ける。
『あの事故が、僕たちの希望を奪った』
不慮の事故だった。
山道の運転での急な災害、誰のせいでもなく第三者による原因があったわけでもない……本当にただの不幸な事故だったのだ。
「どうして」と三人は自問した。
幸せを手に入れようとした自分たちが、こんな最期を迎えるのか……誰かを憎むことも出来ないその事故に絶望することしか出来ない。
丁度その時だった。
【EVOLUTION! LOADING…GAME START…】
ネオエラーカセットが起動したのは……。
『ネオエラーカセットは、融合者の精神でも融合することが出来る……槇村は、君たちを縛り付けたんだ』
『それでも、僕たちは……幸せを掴みたかった』
ウェルシュの言葉に、プレイは首を横に振る。
デッドという男から自分たちの肉体は、実質植物状態で例え融合を解除したとしても目覚めるかどうかも怪しい……。
だからこそ、『今』を楽しみたかったのだ。
『ありがとう、お兄ちゃんお姉ちゃん。僕たちは、もう寝ることにするよ』
「もし」と、少しだけ地面に視線を落としたプレイは再度戒と雲雀を見上げる。
『もし僕たちが目覚めたら、その時は一緒に遊んでくれる?』
「……ああ。今度は俺たちだけじゃない。みんなで遊ぼう」
「雲雀たちの友達も、いっぱい連れてくるから……だから、今は眠ろう?」
二人の優しい言葉に、プレイは満足したように頷くと……いつの間にか立っていたスティール・エラーとシャワー・エラーの方を振り向く。
『お休み。父さん、母さん』
『お休みなさい。私たちも眠りましょ?疲れちゃったわ』
『……分かった』
互いに、何度も頷き合った『家族』は完全に消滅し、本来のあるべき肉体へと戻る。
それを忘れないよう、戒と雲雀は目を閉じ、奇跡が起きることを祈った。
これは、いつもと違う物語。
絶望に縛り付けられた、三人の家族を助けた騎士と少女の小さな物語……。
今回の怪人たち…プレイ・エラーはバルバロッサ・バグラチオンさん、シャワー・エラーとスティール・エラーは覇王龍さんからいただきました!お二方、誠にありがとうございます!流石に原案通りだと上手くシナリオが組めなかったので自分なりに解釈して改変しました、申し訳ありません。
プレイ・エラー ICV小松未可子
バルバロッサ・バグラチオンさんから頂いたオリジナルエラー。モチーフは『サッカーボールとサッカー選手』
旅行中の事故で植物状態になった身体の弱い少年『タクヤ』の精神とネオエラーカセットが融合した姿。紺色のユニフォームに白黒のボディが特徴。
遠距離からサッカーボールをモチーフにしたエネルギー弾による攻撃を得意とする。また、劇中では披露しなかったがバットによる近接攻撃も可能。
シャワー・エラー ICV西村ちなみ
覇王龍さんから頂いたオリジナルエラー。モチーフは『シャワー、シャチなどの水を連想させるもの』
旅行中の事故で植物状態になった女性の精神とネオエラーカセットが融合した姿。クラゲのような白く透明なボディ、左腕はシャチで右腕にはシャワーのような装飾が特徴。
高圧水流を武器とし、ウォーターカッターなどが扱える。
多くの男性に騙され、翻弄されていたがスティール・エラーだった男性と出会い、本当の愛を掴むことが出来た。
スティール・エラー ICV稲田徹
覇王龍さんから頂いたオリジナルエラー。モチーフは『ワニと鋼』
旅行中の事故で植物状態になったタクヤの父親の精神とネオエラーカセットが融合した姿。メタリックな鋼のボディにワニの牙を彷彿とさせる頭部、胴体には背中や肩に鉄骨や鉄板などが突き出している。
目立った特殊能力はなく、桁外れのパワーと防御力が特徴で自身及び他者の性質を好戦的にすることが出来る。
息子を守れるぐらい『強くなりたい』という純粋な願いだったが、エラーの力によって歪曲させられてしまった。