仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士   作:名もなきA・弐

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 お待ちかねのレッドゾーン編です。彼の正体とは、なぜエラーへと堕ちてしまったのか、分かります。
 あ、今回は全面シリアスです。それでは、どうぞ。


COMBO34 暴走車×見えない都市

その女性はただひたすらに逃げていた。

自分を追いかけてくる存在から必死に逃げ回り、ヒールが外れてしまってもそれが気にならないほど逃げ回る。

右腕に負った傷を抑えながら息を荒げながら必死に足を動かす。

 

(何で、どうして…!?)

 

さっきから逃げている、なのにどうして…怪物から距離を放せない。

どうして……。

 

(自分の知らない場所へ辿り着くのっ!!?)

 

最初自分は慣れ親しんだ街並みだったはず、なのに今自分は見たこともない不気味な空間に迷い込んでいる。

バカげた話に聞こえるかもしれないが、それが彼女の恐怖を倍増させていた。

そして、体力の限界だった彼女が転び地面へと倒れてしまった時だった。

 

『地獄に落ちろ』

 

その声と同時に、彼女の頭に大剣が叩き込まれた。

 

 

 

 

 

翌日、至って変哲もない道路には白いカバンから化粧品やスマホなどが散らばっており、その付近にあるシートを僅かに広げて戒は下にある亡骸を覗きこむ。

露出の多い服からホステスを思わせており、顔も上品で悪くない…そんな彼女の頭部には一目で分かるほどの大きな傷が見える。

それに気分を悪くしながらも、戒は美海に視線を向けた。

 

「被害者は『歩原鞠華』。職業は…謂わなくても分かるわね」

「何となくは。死因はこの傷で間違いないんですか?」

「検視官の話じゃ間違いないそうよ。『鉈でもこんな傷にはならない』って驚いていたけど……これで二件目」

 

そう言って、ため息を吐く。

二日前にも同じような現場状況と死因で一人の女性が襲われて死亡した事件が起きているのだ。

普通の人間では不可能な凶器もあるが、異常だったのはそれだけではない。

 

「何で、この遺体にも『汗をかいた形跡』があるのかしら?」

「全速力で走ったことは分かりますけど…ね」

 

今回の件も含めて、被害者たちは何かから逃げようとした痕跡があり傷だらけになっている両足からはっきりと分かる。

怪人から逃げられるわけがないのは分かるのだが、今回は住宅街…不審な物音や人影を住人たちが一切認知していないのだが奇妙なのだ。

 

「一人目の海野美菜子はフリーターで共通点はないと思ったけど、調べて行く内にとんでもないことが分かったわ」

「とんでもないこと?」

 

戒の言葉に頷くと、美海は資料が入っている封筒を差し出した。

 

 

 

 

 

「海野と歩原は学生時代、一人のクラスメイトを対象に陰湿ないじめを行っていたらしい」

 

情報を整理するように一度自宅へと帰った戒はそこにいた飛鳥と琴音、リアたちに説明する。

当時学生だった海野と歩原、そして主犯だった人物の三人はクラスメイトだった少女…『森蘭花』に対して執拗なまでの嫌がらせを行っていた。

ハサミや道具を使った暴力はもちろん、強引に万引きをさせたり、ゴミを頭からかけられるなど陰湿なまでの行為を繰り返していたのだ。

そして、彼女は自ら命を絶った…学校の屋上から転落したのだ。

学校は当然それを調べ、海野たちが犯人であることを突き止めたのだが森の身内は当時十歳だった弟しか身寄りがなく、裁判になることはなかった。

たちの悪いことに彼女たちの両親は大手会社の社長だったり、そこそこ裕福で名前のある会社の関係者だったりしたので学校側も対応することが出来なかったのだ。

そしてその事件はただの「いじめ事件」と終わり、話題に上がることもなかった。

その事件から一週間後、定額が明けた彼女たちがいじめを行っていたことが動画サイトで暴露されたのだ。

住所や名前なども全て特定され、いじめの内容を告発されたその動画に危機感を覚えた学校側は彼女たちを退学させたが悲劇はそれだけでは終わらなかった。

今度は彼女たちの自宅に執拗なまでの嫌がらせが行われるようになり、それによって家庭は崩壊し彼女たちは誰かに頼ることも出来ず、一人で生きて行くことしか出来なくなったのだ。

 

「じゃあ、今回の事件は…」

「その少女の復讐ってことだろうな……そして」

 

「これがその弟の写真だ」と戒はテーブルの上に一枚の写真を置いた。

それを見た彼女たちの表情は驚愕に染まる。

 

「っ!?この子…!!」

「あぁっ、『森伸介』…彼女のたった一人の身内で、弟だ」

 

そこには姉と共に笑顔を浮かべている赤と黒のチェックを着た…戒たちが「レッドゾーン」と呼んでいる少年の姿だ。

全員の言いたいことが分かったのだろう、戒はゆっくりと頷く。

 

「恐らく、彼女たちに嫌がらせをしたのはこいつだ。エラーになる前からこいつは三人の人間の人生を滅茶苦茶にしたんだ。そして…」

「今度は自分の手で仇を討つために人間を捨てた…」

 

彼の言葉に続くように琴音は口を開く。

エラーに変身してからのあの苛烈なまでの性格…そう考えるとあの時の彼は復讐心に呑まれている状態だったのだろう。

そして彼は人間を捨てて幹部各のエラーへとなった。

 

『…彼はもう、人間を捨てている。もはや元に戻すことは不可能だろう』

「だったら……その前に止めるだけだ」

 

戒のコートから顔を覗かしながら喋ったウェルシュに戒は拳を握る。

その瞬間、スマートフォンから着信音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

ドラグハンターとデッド&アライブ、ユグドラシルはレッドゾーンのゲームをミケネの目を通して観測していた。

活き活きとした様子で暴れるレッドゾーンを見てドラグハンターは楽しそうに微笑む。

 

「レッドゾーンのゲームは順調のようだね」

「でも、良いの?救済の基本ルールは『一つのゲームにエラー一体』…幹部とは言え、少しやり過ぎじゃない?」

「問題ないんじゃないかなぁ…その措置としてポーントルーパーを廃止しているからねぇ。無問題さ」

 

腕を組んで困った表情を見せるユグドラシルに答えたのはデッドだ。

全身黒ずくめの彼は楽しそうに、粘着質な声でレッドゾーンが行っている追加ルールを説明する。

今回、レッドゾーンは一体のエラーと共謀して救済を行っている……その代わりとしてポーントルーパーを使用していることを禁止しているのだ。

そのことを聞いた彼女は「なるほど」と納得してモニターに視線を移す。

 

「無理をするなよ、レッドゾーン」

 

仲間となった少年に、ドラグハンターは不安気な瞳で見つめるのであった。

 

 

 

 

 

レッドゾーン・エラーは憎むべき人間を追いかけ回していた。

最愛の家族である姉の陥れた怪物…『笹井百合』は自分の姿を見て悲鳴をあげるや否や身を翻して逃走する。

だが、それは不可能だ……自分から逃げることも、誰かに助けを求めることなど決して不可能なのだ。

そうして、霧が深くなる…彼女は何処にも逃げられない、レッドゾーンの術中にはまったことにさえ気づけない。

後は笹井の精神を折るだけだ…レッドゾーンはただ獲物を追いかけているだけではない、わざと追い詰めているのだ。

それだけのことを彼女たちはしたのだ、慈悲の心も必要ない…無様な表情を見せながら始末されるのがお似合いの末路である。

やがて体力の限界となった笹井が転ぶ…今までの被害者たちと同じように泣き叫び、ヒステリックに叫ぶ。

 

『うるせぇな…姉ちゃんは泣き叫ぶことも出来なかったってのに、マジで苛つくなおいっ』

 

レッドゾーンはわざとらしく声をあげながら、ゆっくりと近づいて来る怪人の姿に笹井は後ずさりをして命乞いをするように視線を彼に向ける。

 

『これは裁きだ、お前らが殺した…蘭花姉ちゃんのなぁ…!!』

「蘭…花…!?」

 

鸚鵡返しした彼女の表情は更に恐怖へと染まる…分かってしまったのだ、人生のどん底へと落とされた自分がどうして狙われたのか。

それは、自分たちが死に追いやった彼女への復讐だと、ようやく理解したのだ。

レッドゾーンは愕然とする笹井の脳天目掛けて、大剣を振り下ろそうとした時だった。

 

『っ、ちぃっ!!』

 

瞬間、三つの軌跡がレッドゾーンの攻撃を弾き、彼はよろめきながら後退してしまう。

そこにいたのは忍転身をした焔と雪泉、そして雅緋。

彼女たちは戒が戻る際に、予め連絡を受けており笹井を見張っていたのだ…そして予想通り、彼は姿を現して彼女を襲い始めたのでこうして現れたのだ。

 

『て、てめぇらっ!!どうやって「この街」にっ!?』

「姿が見えなくなったのには驚きました…ですがお忘れですか?私たちは忍です、結界を認知することなど容易いことです」

 

そう宣言した雪泉に対して、レッドゾーンは苛立ちを募らせる。

忘れていた…目の前にいる連中は忍、結界の構造を誰よりも理解している人間なのだ。

「くそ!」と苛立つ彼に雅緋は「やれやれ」と自嘲気味に笑う。

 

「人を救うのは悪忍の性分ではないが、門矢には借りがあるからな」

「同じく」

「レッドゾーン、神妙にしなさいっ!!」

 

武器を構えた三人にレッドゾーンは大剣を構える。

所詮は三人、仮面ライダーの力を分け与えられただけの人間に負けるとは考えられないし自分の有利には変わりはない。

レッドゾーンが大剣を構えた途端……聞こえるはずのないバイクのエンジン音と共に霧の奥にある陰から人影が現れる。

 

「…と。主役は遅れてやってくるってね」

「お待たせ、三人とも!」

 

ドライグハートから降りたアーサーと、ヘルメットを外してから降り立った飛鳥は其々に武器を構える。

最後の標的である笹井も飛鳥が結界の外へと出してしまい、まさに多勢に無勢…だがレッドゾーンはただ笑うだけだ。

 

『数が増えたから何だよ…ここじゃてめぇらが勝てる確率は、ゼロだぁっ!!』

 

レッドゾーンがそう叫んだと当時に周囲が霧に包まれる。

周囲が見えなくなるほどの霧に全員が警戒するが、武器を構えていた飛鳥が吹き飛ばされるとそれに驚いた雪泉が殴り飛ばされてしまう。

 

「くそっ!」

 

焔が両手に構えた六刀を振るうが、空を切るだけであり逆にレッドゾーンの攻撃を受ける。

雅緋は黒炎を放っても当たる様子がない。

辛うじて彼の黄色く光るモノアイで方向をある程度予測することが判明するが、どうしてもそこから反撃に移ることが出来ない。

レッドゾーンが振り下ろした斬撃をグレンバーンで防ぎながらアーサーは考える。

彼をサポートするように周囲を覆い隠す霧、結界から発生しているのは分かるがレッドゾーンの能力であることは考えられない。

戦った経験からレッドゾーンは凄まじい馬力自身の魔力を赤熱化させて内燃機関の力を引き出すこと…この特殊な能力と一致しないのだ。

考えたアーサーはリズムカセットを取り出して起動する。

 

【RHYTHM!!】

【RIDE UP! RHYTHM! 音色と踊れ!GREEN BEAT!!】

「みんな!下手に動かず攻撃を耐えてくれっ!!」

 

リズムリンクへとチェンジしたアーサーがそう叫ぶと、飛鳥たちは武器を構えて防御の姿勢へと移行する。

 

【ATACK ARTS! MUSIC SEARCH!!】

「……」

 

赤いボタンを押して能力を発動させたアーサーはピアノアローを構える。

四人がレッドゾーンの攻撃を耐えてくれる中、彼は神経を研ぎ澄まして思考をクリアにさせる。

そして、僅かに聞こえた物音の方向目掛けてロックオンを付与したピアノアローから矢を発射した。

 

『っ!?しま…』

『ぎゃああああああっっ!!?』

 

動揺するレッドゾーンとは別に激痛から発した悲鳴があがると、そこ目掛けてアーサーは集中砲火する。

やがて、霧が晴れると死角となっている曲り角から転がるように一体のエラーが煙を上げながら姿を現した。

右肩には公園の乗り物や砂場を思わせるようなオブジェがあり左肩には高層ビルを思わせるような白い装飾、そして巨大な城を彷彿させる灰色のボディ…様々な文化の街の要素を取り込んだ異形『タウン・エラー』は窓のようなモノアイで睨みつける。

 

『この、邪魔をするなっ!!私は…私はあの悪魔どもに騙された息子の仇を討つんだっ!!』

 

タウンはそう叫んで、再び霧を起こそうとするが雪泉の放った氷弾と飛鳥の斬撃によって吹き飛ばされる。

すると周囲の霧が晴れて周囲は寂れたような街並みであり、ビルや住宅街に室外機が異様なほど存在した不気味な外観が見える。

恐らく、彼の能力だろう…周囲に結界を張り、その内部から自身の思い描く『街』を想像して創造するのがタウン・エラーの最大の特徴である。

 

『ぐっ、うぅ…ならば…!』

 

起き上がったタウンは魔力を練り上げると、地形や建築物を変形させて障害物を増やす。

そこをレッドゾーンが身体中に生えたパイプから蒸気を発生させながら仕掛ける突進に吹き飛ばされる。

 

「がはっ!?」

 

地面に叩きつけられたアーサーは赤く発光するレッドゾーンを睨もうとするがあることに気づく。

飛鳥や焔、雪泉と雅緋たちが苦しげな表情で立ち上がろうとしていたのだ……元々は自分が戦うべきはずであるのに生身である彼女たちに戦わせてしまっている。

そんな罪悪感が僅かに芽生えたアーサーだったが近づいてくるレッドゾーンを見てすぐに思考を切り替える。

このままだと全員敗北する…そう考えたアーサーは例のカセット、シノビカセットを取り出して起動した。

 

『っ!危険だ、戒っ!!また倒れる気かっ!?』

「全滅するよりましだっ!忍…転身っ!!」

 

そう叫んでアーサーはシノビカセットをアーサードライバーにセットしてサイドグリップのトリガーを引いた。

 

【旋風無双!HIGH SPEED CHAMBARA!!】

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」

 

内側から爆発するほどの魔力で身体がきしむのを感じながらアーサーはグレンバーンを構えようとするが先ほどのダメージと相まって気を失いそうになる…しかし。

 

「戒君っ!!」

「っ!?」

 

自分の名前を呼ぶ飛鳥の声にアーサーは我に返る……気づけば自身を蝕む激痛が和らいだ気がする。

「行ける」と確信したアーサーはグレンバーンにシノビカセットをセットした。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! SHINOVI!!】

「我流秘伝忍法『乱閃』っ!!」

 

直進するようにレッドゾーンの懐へと潜り込んだアーサーの抜刀術が斬り裂く。

いくつもの斬撃を同じ箇所に浴びせられたレッドゾーンは地面を削りながら後退する。

火花を大量に散らした彼は、忌々し気に隣へ来たタウンへ視線を移す。

 

『くそったれがぁぁぁぁ…一端退くぞっ!!』

『し、しかし…』

『あんなクズ、いつでも狙えるっ!!』

 

戦況が悪いと判断したレッドゾーンの放った言葉にタウンは何か言おうとするが気迫に押されたのか大人しく撤退する。

同時に、結界が解除されて元の道路や街並みへと戻り戦闘が一先ず終わったのを確認したアーサーは変身を解除し、飛鳥たちも元の衣装へと戻る。

シノビカセットを使った戒は以前のように倒れると思ったが、普通に立っていたのだ。

 

「戒君…何ともないの?」

「はい、でもどうして…?」

 

飛鳥の問いに、戒はそう答えながらも戸惑っている表情のまま、手に持ったシノビカセットを見つめていた。

To be continued……。




 レッドゾーンの基本ベースは復讐に染まった人間の末路をイメージしています。
 大切な人を理不尽に奪われた憎悪から、人の皮を被った怪物たちを粛正する…自分が怪物となっていることに気づかない復讐者が彼の基本ベースです。
 次回で全面決着です。ではでは。ノシ

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