仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士 作:名もなきA・弐
さて、胡蝶を襲ったストーカーの正体とは……?それでは、お楽しみください。
美海と佑斗が所属する不可能犯罪捜査課では、二人と戒…そして胡蝶の四人がいた。
あの後、美海に事情を説明してから保護者である胡蝶の使用人に電話し、署内で詳しい話を聞くことにしたのだ。
「…学校内では、風紀委員としての仕事をしていたのもありますが、休日や地域の見回りの際に妙な視線を感じるようになりましたわ」
いつもならば真面目にはっきりと答えていたのだろうが、今は未知の怪人に襲われたのと自分のせいで怪我を負った佑斗に対して後ろめたさがあるのか視線を落とし小さな声で話している。
やはり、彼女も学生なのだろう…恐怖心によって普段の感情が押し潰されようとしている様子に美海は優しく肩を叩く。
「大丈夫よ、落ち着いて」
気休めに過ぎない言葉だが、それでも彼女には必要な言葉だったのだろう…息を深く吸ってから最近のことについて語り始めた。
自分が誰かに監視されていると思ったのはここ数週間前のことであるらしく、校内以外での場所で視線を感じるようになったらしい。
そのことを、護衛を務めていた使用人たちに説明し、学校を除く場面では常に使用人がいたのだが今週になってぱったりと止まり何も異常なく暮らしていたのだ。
もちろん、使用人には護衛を続けさせてもらっており今日の休日でも二人の使用人がいた。
「…以上が、事の次第ですわ」
「ありがとう、話してくれて」
佑斗がお茶を差し出し、胡蝶がそれで喉を潤していると扉を開けて入ってきた制服を着た警官に続くように燕尾服を着た丁度二十代の男性と、エプロンを外しているが黒いロングドレスを着た同じく二十代ほどの女性が現れる。
「お嬢様っ!」
「御無事でよかった」
ロングドレスの女性…『田中』と燕尾服の男性…『加藤』は安堵した表情を見せるとわき目も振らず、一目散に駆け寄る。
一しきり胡蝶の状態を確認した二人は佑斗たちの方を向き直ると恭しく頭を垂れて感謝の言葉を口にする。
「この度は、お嬢様を助けていただき感謝いたします」
「いえ、これが俺たちの仕事ですので」
慌てて頭を上げさせようとする佑斗に使用人二人はようやく頭を上げると、加藤が話を切り出す。
「本当なのでしょうか?お嬢様が襲われたのと言うのは」
「はい、言動からして彼女を付きまとっていたストーカーである可能性が高いかと」
「左様ですか…どうしてお嬢様が怪物などに」
加藤は顔を蒼くさせるが、それを落ち着かせるように田中が肩を叩く。
我に返った彼は彼女に話しかける。
「田中さん、私はお嬢様を帰らせます。後のことは……」
「分かりました」
短いやり取りを終えると、加藤は胡蝶と共にこの場を後にする。
しかし……。
「……何のおつもりですか?刑事さん」
佑斗が加藤の手首を掴んでいたのだ…その目は今までのような温厚な瞳ではなく、鋭い視線を向けている。
困惑した表情を向ける彼に戒は呆れたようにため息を吐く。
「まさか、あんな古典的なミスをするなんて…わざとらしいにも程がありますね」
「先ほどから何を…」
「あんた、何で胡蝶ちゃんが襲われたのが『怪物』だと知っている」
加藤の言葉を遮るように佑斗は腕を掴む手の力を強めながら発言する。
その言葉に加藤は首を傾げるが事態を呑み込めていない田中は忙しなく視線を両者に向けている。
「あの、怪物って何の話を…」
「やだなぁ、田中さん。私に話してくれたではないですか、お嬢様は怪物に襲われたってそこの刑事さんが…」
「私は、怪物の話なんて一度もしていないわよ。襲われたのを彼女に伝えただけ」
その言葉を遮るように美海はあっさりと答える。
彼の反応は傍から見ても怪しいものに変わって行き、歯ぎしりをしながらもこの場を切り抜けることを考える。
やがて、何かを思い至ったように言葉を発する。
「だ、大体。なぜ私が疑われているのですか!?そんな揚げ足を取ったぐらいで…犯人は第三者で…」
「それがおかしいのですよ、そもそも第三者がストーカーだったのならなぜ最近になってそれがなくなったのか。当然だ、わざわざ監視をしなくても合法的に監視が出来る立場になったんですから」
「校内で監視をしなかったのは自分の仕事があったのと疑われないためだな」
その反論を戒は言いくるめるように潰し、佑斗がそれを追い込む。
正直、物的証拠は何もないが彼はエラーとなって自分たちの前に現れ、正気とは思えない言動をしていた……つまりは、自制が出来ていない証拠だ。
言い逃れが出来ない状況にまで追い詰められた加藤は目を見開き、汗を流すが…やがてその表情が何の感情もないものに変わると指を鳴らした。
「うわっ!?」
突如現れたポーントルーパーが複数現れ、戒たちを二人掛かりで拘束する。
不意を突かれた四人の横目に、加藤は胡蝶の腕を掴んで無理やりこの場を後にする。
無論騒ぎを聞きつけた警官や刑事が行く手を阻もうとするがただの人間が神秘の存在であるポーントルーパーに勝てるわけもなく、瞬く間に蹂躙されてしまう。
冷たい笑みを共に外に出ると自分の運転する車の後部座席に彼女を押し込み、自分も運転席に座り演じるを掛けるとハイウェイへと走り始めた。
「この…野郎ぉっ!!」
本体が離れたことで能力が切れたのか身体中に魔力を流して強化を施した戒は思い切り振り払うと田中を拘束していた個体を蹴り飛ばす。
美海もネックレスを変化させたハンドガンで頭を撃ち抜き、佑斗も一本背負いを決める。
「戒君っ!」
「っ!美海姉さん、後はよろしくっ!」
彼の呼びかけに、戒は力強く頷き美海にその場を任せると加藤たちの後を追跡するべく走り始めた。
加藤が運転する車内では、重苦しい空気が充満していた。
その元凶でもあり運転手でもある彼は呑気に鼻歌を歌っており上機嫌な様子だ。
しかしその瞳はビー玉が嵌め込まれかのように感情がなく、濁っているとも表現出来る……やがて、胡蝶は意を決したように顔を上げた。
「なぜですの?なぜあなたが私を…!!」
その視線は恐怖で潤んでいるようにも見えたが、加藤を射抜くように芯のある真っ直ぐな視線を向けている。
その視線をバックミラーで確認しながら、彼は楽しそうに答える。
「お嬢様。私…僕はね、両親にずっと厳しく育てられてきました。将来の夢にしようと書いていた漫画は目の前で破り捨てられ、教育に打ち込んできた母は勉学のために健康と成績だけを重視してきた」
とつとつと語り始めた彼は、彼女の反応を確かめるように粘着質な視線を鏡の奥にいる彼女を見つめる。
「だけど、それは全て僕のためだった。虐待じゃない、二人なりの愛があったと確信しています……でも、でもぉっ!!鬱陶しいんだよっ!やれお前は仕える者だ、やれお前は私たちの自慢だだの、人を苛立たせることばっか重ねてさぁっ!!」
途中で荒々しく叫ぶ彼に、胡蝶は愕然とするしかない…田中ほどではないが年が近いのもあって幾分か心を許していた彼がここまで感情的な姿を見たことがなかったからだ。
「お嬢様、僕はね…自由になりたかったんですよ。『これ』をもらい、両親をこの手に掛けた時、確信したんです。僕は誰にも抑制されたくなかった」
運転席から隠していたエラーカセットを取り出し、語り続けながら「でも」と彼は言葉を続ける。
「それでも僕は、両親の教えに従って陰ながらあなたに仕えた。なぜだか分かりますか?」
「……」
「『あなたが欲しくなった』からですよぉっ!!一目見た時、運命だと思った。天啓だと思ったっ!!抑制されて何も執着出来なかった空っぽな僕が、ようやく執着出来た唯一の
情愛と狂喜が入り混じった視線を向けられた胡蝶は自分で自分を抱く…嫌悪感からではない、何もかも得られた思っていた彼の絶望に恐怖を感じたからだ。
既に壊れてしまっている彼は、笑みを浮かべたままなおも喋り続ける。
「だから、護衛の話が来てラッキーだと思いました。これで、合法的に…あなたを手に入れることが出来るってね」
【LOADING…GAME START…】
運転をしながらも、エラーカセットを起動させて支配態のバウンド・エラーへと融合を完了し、帯状の影で身体を固定させてモノアイを光らす。
悲鳴をあげようとしても猿轡のように口を塞がれ喋ることも出来ない。
『さぁ、麻呂たちの妃となってもらうぞ』
好色染みた声色でエラーカセットの人格が呟くとモノアイの光が強くなる…眼を閉じようにも能力なのか開くことしか出ない。
(誰か…助けて……!!)
涙を零し、薄れゆく意識の中でそう願った時だった。
【MAGICAL ARTS! PRISMA PRISM…SHOW TIME!!】
『な、何でおじゃるかぁっ!?』
突如進路方向を遮るように現れた巨大な水晶によってバウンドは能力を解除してハンドルを右に切ろうとするが、それが彼らの作戦の内だった。
「こっちだっ!」
「佑斗さん…」
『なっ、いつの間に…!?』
後部座席に侵入していた佑斗が、ウェルシュから渡された精霊術を施された刃物で影を千切り、彼女を抱えて車内から飛び出す。
「何をっ!」と突然の出来事だらけで困惑するバウンド…彼が胡蝶と共に飛び降りたのはかなりの高所…自殺行為に等しい行動だったがマジシャンリンクのアーサーがドライグハート・ブースターで救出する。
人気のない場所を確認して運転したのが完全に仇となったバウンドは悔しさで拳を強く握る。
「さて、お姫様は返してもらったぜ?ボール野郎」
『ぐううううううううっっ、こうなったらお前らをぶちのめすだけだぁっ!!』
『麻呂たちの邪魔をした数々の蛮行、死を持って償ってもらうでおじゃるっ!』
「やれるもんならやってみろ。お前の物語、ここで終わらせるっ!!」
反発態に反転したバウンドは怒りに身を任せて掴みかかろうとするが、圧倒的なパワーと防御力を持つアーサーと取っ組み合いになる。
このままではあっさりと投げ飛ばされてしまうだろうが、バウンドは驚くことに力で負けているのだ。
「お前、その状態だとカウンター攻撃しか出来ないだろ?」
『っ!!?』
その言葉にバウンドは絶句する……バウンド・エラーは二つの形態を持っており相手を自身の影での拘束、モノアイを光らせて相手を支配するピンク色の支配態と…ボール型のエネルギー弾と相手の攻撃を倍返しにする反発態がある。
一見弱点がなさそうな反発態だが、実は『相手の攻撃を受けて』からでないと怪力能力を発揮出来ないのだ。
そして、アーサーは今攻撃をしているのではなく動きを止めているだけ…攻撃にはカウントされない。
『バ、バカがっ!!だったらお前を支配して…』
『ま、待っ…』
「バカはお前だぁっ!!」
焦りを露わにしたバウンドだがすぐに支配態に反転してアーサーを支配しようとする。
しかし、それこそが彼の狙いだった。
何かに気づいたエラーカセットの言葉を遮るようにアーサーは両腕でバウンドの胴に腕を回してクラッチして持ち上げて自ら後方に反り返るように倒れ込む。
所謂バックドロップでけたたましい音と共に頭部を地面に叩きつけられたバウンドは声にならない叫びをあげながらのた打ち回る。
しかし、その隙を逃さずに赤いボタンで腕力強化したマジッグローブを装備した拳で思い切りアッパーカットを叩き込んだ。
『ぎぎゃああああああああああああああっっ!!!』
本物のボールのように吹き飛ぶバウンドだがアーサーが生成した水晶でまるで本物のピンボールのように激突と反射を繰り返す。
やがて、地面に叩きつけられたバウンドはふらふらと立ち上がりピンク色の身体は傷だらけになっている。
『く、くそっ!速く反転して…』
「させるかっ!」
融合者から身体の主導権を交代したエラーカセットの人格は慌てて反転しようとするが佑斗が外に出る際に用意した拳銃で相手の気を反らす。
それが、命とりだった。
【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! MAGICIAN!!】
『っ!!』
必殺技のシークエンスを終えたアーサーは宙を跳んでおり、そのまま力強い急降下キックを叩き込んだ。
『おじゃあああああああああああああああっっっ!!!!』
跳び蹴り『オーバーストライク』が直撃したバウンド・エラーは爆散し、砕けたエラーカセット共に融合を解除された加藤が倒れた。
勝利したアーサーに、佑斗は安堵しながらも胡蝶の緊張を解くように頭を撫でるのであった。
事件が終わった数日後、基本暇な不可能犯罪捜査課では報告書作成と資料の整理を行っていた。
美海はパソコンのディスプレイと睨めっこをする中、佑斗は白い手紙を読んでいる。
「…胡蝶ちゃんから?」
「んっ?まぁな」
真面目な彼女故なのか、ただ単に佑斗のアドレスを知らなかっただけなのか…彼女から送られた手紙から一度目を放して佑斗は彼女に微笑む。
あれから、事件は解決し彼女も風紀委員会の仲間たちと共に仕事を全うし『風紀の乱れを正す』と書いてあった。
それに対して、複雑な表情を見せるのは美海…事情は分かっているし仕事ではプライベートを挟まないのが彼女だがそれでも彼氏が女性(厳密には女子高生だが)と触れ合っていたのが落ち着かないらしい。
もちろん、それに気づかないほど佑斗は鈍感ではない…椅子を滑らして彼女の元まで近づくと頭を優しく撫でる。
「……何?///」
「浮気はしないから…な」
「…分かってるわよ、それぐらい///」
彼の言葉に少しだけ笑みを見せた美海は、優しい微笑みを向けるのであった。
「……カー君、私たちはどうすれば良いのかな?」
「甘い空気が終わったら、突入しよう…まずはこの光景を映像に収めて」
『出歯亀なことはやめたまえ』
丁度外では、気まずそうな琴音と…スマホで録画しようとする戒と窘めるウェルシュがいたがそれに気づくのは後数秒のことである。
To be continued……。
バウンド・エラーの出番はこれで終了です。麦蕎那支さん、素敵なエラーを本当にありがとうございました!
さて、今回は佑斗のお話でした…主人公らしい要素をある意味で持っている彼の活躍が書けていたかは微妙ですが、カッコ良いと思っていただけたら嬉しいです。
ではでは。ノシ
バウンドエラー CV櫻井孝宏・池田秀一
麦蕎那支さんからいただいたオリジナルエラー。モチーフは『スーパーボールと殿様』
ラメの入った丸いシルエットにちょん髷が乗っかった頭部と、手足がある。
能力は二形態が存在しており、攻撃を反発して怪力を得る能力とエネルギー弾を放つ水色のボディの「反発態」に、相手を支配するチャーム能力と触手もしくは帯のような影を持つピンク色のボディを持った「支配態」がある。
支配態でポーントルーパーたちを手足のように操り、強力なカウンターでアーサーは苦しめた。ただし、反発態は怪力能力もカウンターにしか使えないこと、支配態は防御力が低いといった弱点がある。