仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士   作:名もなきA・弐

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 EV編、これにて完結です。前半はバトルが多いですがそこは大目に見てもらえると嬉しいです。
 ちなみフェニックス戦は『Spinning Wheel(歌:門矢戒・幸村琴音・両備・両奈)』でエンディングはEVのエンディングテーマでもある『夏火(歌:両備)』でイメージしてください。
 後、活動報告の方である募集を行っていますのでよければ覗いていってください。
 それでは、どうぞ。


COMBO20 終焉×別れ

何時の間にか距離を詰めていたアーサーの蹴りがフェニックスの頭部を捉えた。

動揺していたフェニックスはすぐに気を取り直すとバックステップでアーサーたちから距離を取りボウガンとステッキから弾幕を放とうとする。

しかし……。

 

『何っ!?』

「狙い撃つわっ!!」

 

両備の狙撃によって弾幕が相殺される、威力を強めるがアーサーによる冷気を帯びた抜刀を胴体に受けると、今度は琴音のハルバードを浴びる。

体勢を崩したフェニックスに新たに召喚した戦斧を叩き込もうとするがボウガンで防御し、弾き飛ばす。

 

『図に乗るなっ!秘伝忍法「火炎一葬」っ!!』

「させないよっ!」

 

魔力で生成した火炎弾を飛ばすが両奈の変則的な射撃術とリズムリンクにチェンジしたアーサーのロックオン狙撃で競り勝つ。

同時にアーサーと両奈は合体秘伝忍法を発動する。

 

「「合体秘伝忍法『ガンショットノクターン』ッ!」」

『ぐあああああああああああっっ!!?』

 

リズムゲームアプリの力を利用した不可視と無音のショットをフェニックスに発砲する。

なす術なく吹き飛ばされたフェニックスは翼を広げると、ボウガンとステッキを構える。

 

『秘伝忍法「紅蓮天翔翼」っ!』

「両奈っ!ぐぅっ!!」

「カー君っ!」

 

炎を纏った急降下を利用したタックルが、両奈をかばうために突き飛ばしたアーサーに命中する。

タックルと高熱によるダメージに身体を蝕まれるが、ファンタジー系アプリのマジシャンカセット起動しドライバーにセットするとグリップのトリガーを引く。

 

【RIDE UP! MAGICIAN! 魔法、錬成!WHITE FANTASY!!】

【ATACK ARTS! CHARGE!!】

『っ!しまっ…』

「遅いっ!!」

 

腕力強化したマジシャンリンクのパンチを叩き込まれたフェニックスは地面に激突してワンバウンドすると片足を掴んだアーサーに再度叩きつけられる。

しかし、捕まれていた自分の脚を斬り捨てると胸元に羽根を突き刺して脚を再生する。

同時にポーントルーパーを複数召喚すると両者は対峙する。

 

「器用な奴」

『はぁっ、はぁっ!やって、くれましたね…!!』

『気を抜くな、四人とも…行くぞっ!』

 

ウェルシュの掛け声と共に四人は一度に駆けた。

 

 

 

 

 

『ヒャッホー!!エキセントリックなスーパーテクニックで行くぜえええええっ!』

『さぁ飛ばすぜっ!』

 

暴走態となったバイシクル・エラーに跨って暴れ回るシーフ・エラーに雪泉たちは近づけずにいるが焔たちが張ったロープに引っ掛かって派手に転ぶと飛鳥たちがそこを狙う。

互いに縁のある者と組むとバイシクルとシーフに武器を構えて突貫する。

 

「春花さんっ!」

「行くわよ、雲雀」

 

春花の傀儡で足止めした隙に雲雀が忍兎で起き上がろうとしたバイシクルに直撃すると、未来の弾幕で撹乱と共に雨属性を帯びた柳生の弾丸が撃ち抜く。

 

「…もっと撃てるか?」

「当然っ!まだまだやるわよっ!!」

 

一方、シーフはポーントルーパーを利用したコンビネーションを始めようとするが詠が大剣で怯ませた三体を斑鳩の居合を浴びせた後、身体の柔らかさを活かし両脚で挟んだ怪人を投げると、葛城はバッティングの要領で蹴り飛ばした。

 

「流石ですね、詠さん」

「斑鳩さんも腕は衰えていないようですわね」

「葛城、最後や」

「よっしゃっ!!」

 

最後の一体を蹴り上げた途端、上空にいた飛鳥が斬り裂くと地上にいた焔の後ろに並び立つ。

 

「それが、あいつの力か…」

「うん、戒君が繋いでくれた私たちの力だよ」

「そうか」

 

飛鳥の言葉に焔は頷く…男性に対してあまり良い思い出がない彼女だが友である飛鳥の言葉を否定しないほど愚か者ではない。

未だ話したこともない少年に興味と期待を抱きながらも、目の前の敵に対して武器を構えた。

 

「サポートは私がやる、止めはお前に任せるぞ」

「うんっ!」

 

 

 

 

 

巫神楽三姉妹と両姫は極めて厄介な二体のエラー…ステルス・エラーとマグネティック・エラー戦っていた。

ステルスの奇襲とマグネティックの能力による移動制限、そして後ろにいる小百合を守りながらの戦いに苦戦を強いられる。

やがて、ステルスの一撃が華風流の身体を吹き飛ばした。

 

「ぐぅっ!!」

「「華風流(ちゃん)っ!!」」

 

地面に倒れる彼女を抱き抱える蓮華と華毘の隙を狙うようにマグネティックが生成した鉄塊が襲い掛かるがそれを両姫のショットガンで相殺する。

 

『くそっ!!忌々しいっ、忌々しいぞっ!仮面ライダーも、その味方をする貴様らにもっ!!』

『ですが、所詮は人間と精霊の転生体…我々に勝てる道理などありません』

 

苛立ちを露わにするステルスと、彼とは対照的に冷静なマグネティックが歩を進めた時だった。

彼らの影にクナイが刺さった途端、まるで金縛りにでもあったかのように身動きが取れなくなる。

 

『何ですかこれはっ!?』

『ぐっ、うぅっ…!!?』

 

困惑する二体に背後からある存在が近づいてくると、ステルスの後頭部に固い物体を押しつけた。

固い物体……銃口を突きつけられた彼は驚愕する。

 

『き、貴様…』

 

遮るようにその存在…スナイパー・エラーは引き金を引いて頭を撃ち抜かれたステルスが消滅したのと同時にマグネティックの頭部をショットガンで粉砕した。

二体のエラーが消滅したのを確認したスナイパーが合図を送ると岩場の陰から黒影が出てくる。

 

「……黒影」

「何とか、間に合ったな」

 

得意気に喋る黒影だったがその身体は既に限界が来ており、粒子化が起き始めている。

未練のなくなった忍はあの世へと返される…だが、彼は最後の最後で友の妻でありかつて愛した女を救ったのだ。

小百合は立ち上がると彼の元に歩み寄る。

 

「…何か言い残すことはあるかい?」

「ない……もう未練はなくなったからな」

「…そうかい」

 

小百合と黒影は互いに笑みを見せると彼は光に包まれて姿を消した。

それを見届けたスナイパーはこの場から立ち去り、やがて人気のないところまで来る、そしてライフルを召喚して自身に向けると躊躇なく引き金を引いた。

発砲音と共に地面に倒れた彼は視界に広がる綺麗な空を眺める、エラーカセットの一人格でしかない自分が空の美しさを知った…勿体ないぐらいの収穫だ。

 

『……俺も、正義のヒーローになれたかな?マス、ター…』

 

この場にいない自身の融合者に呟いた彼の身体は黒いノイズ状になって原型を失うと、壊れたエラーカセットと傀儡だけが残った。

 

 

 

 

 

「「合体秘伝忍法『12の乱舞曲』っ!!」」

 

両備が生成した十二個の機雷を無数のポーントルーパーたちの周囲に設置すると琴音は地面を戦斧に叩きつけたことで生じた衝撃波を飛ばす。

すると、機雷の爆破と衝撃波によってポーントルーパーが殲滅したのと同時に両備は、リズムに乗ってピアノアローで攻撃しているアーサーと並んだ。

 

「「合体秘伝忍法『JACK POT』ッ!!」」

『がああああああああああっっ!!!』

 

音速のスピードで放たれた銃撃と矢がポーントルーパーたちの隙間を縫うようにフェニックスの顔面に命中した。

煙を上げる顔を抑える彼は、猛禽類を思わせるモノアイで忌々し気に睨むと懐から木片を取り出す。

 

『こんなところで終われるかあああああああああっっ!!我流・秘伝忍法『不死鳥変化』っ!!』

 

炎となった魔力を全身に放出させてから、ユグドラシルから譲り受けた木片を胸に突き刺すと、最後のヤグラを巻き込みながら赤いデータ状の魔力が彼の姿を変貌させていく。

 

「何だよ、あれっ…!?」

『まさか、ここまで強大とは……!!』

『ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!』

 

アーサーとウェルシュが恐れる中、『フェニックス・エラー 暴走態』が鳴き声をあげる。

ヤグラを思わせるような赤い甲冑に身を包んだ巨大な不死鳥の怪物は空高く舞い上がると空間全体に向けて火柱を起こす。

 

「何だあれはっ!?」

「と、鳥っすよ華風流ちゃんっ!!」

「……段蔵っ」

 

突如現れて火柱を起こす存在に雅緋は驚きの声をあげ、華毘に至っては完全にパニクってしまい隣にいる末っ子の肩を叩いている。

そんな中、小百合だけは『彼』を人間として見ていた。

一方のアーサーたちはフェニックスによる攻撃を回避するのに必死であり上空にいる敵に対して対策を練る。

 

「どうすんのよっ!?あれじゃ攻撃も届かないじゃない!」

「じゃあじゃあ!両奈ちゃんがあの熱いのに飛び込んで…」

「消し炭なるからね、両奈ちゃんっ!?」

『このままでは…うん?』

 

両備が三人に叫ぶと両奈は半ば自殺願望に近い発言にツッコミを入れている中、ウェルシュも作戦を考えていると、ふとマテリアライズに成功したドライグハートが光っていたのだ。

「戒っ!」とアーサーに指示を出すと、彼はドライグハートの中に近づく。

 

「何だ、一体…?」

 

ドラゴンリンクへとチェンジしたアーサーが恐る恐る手を触れた時だった。

何とドライグハートの装甲から赤い魔力の粒子が散布されるとマシンの横に着くように巨大なウィングとファンが模られた装備『ウィングブースター』が現れる。

かなりのサイズがあるそれは人ひとり乗せることも可能となっている。

 

「ウェルシュッ!?」

『いや知らないぞ私は…リアと千歳め、私に無断で勝手に改造していたなっ!!』

 

あまりにも急な装備にアーサーは驚いてウェルシュに尋ねるが、彼はこの場にはいない二人に文句を述べる。

だが、これはチャンスだ。

 

「乗れっ!みんなっ!!」

「「「っ!!」」」

 

彼の声を聞いた琴音と両備、両奈は迷うことなく『ドライグハート・ブースター』となったマシンに乗る…その際、琴音がアーサーの後ろに座り少し空気が重くなったのは気のせいだろう。

全員がドライグハートに乗ったのを確認したアーサーはアクセルを全開にするとウィングブースターにエネルギーが集まり大空へと飛び立つ。

 

「フェニックス!!」

『ピイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!』

 

自分の名を呼ぶちっぽけな虫けらにフェニックスは威嚇すると、羽根を弾幕にして発射するがアーサーはドライビングテクニックで回避し、両備と両奈は当たりそうな攻撃を秘伝忍法で相殺する。

 

「絶・秘伝忍法『メヌエットミサイル』!!」

 

複数のミサイルと巨大ミサイルはフェニックスの弾幕を吹き飛ばしながら空を縦横無尽に飛び回るフェニックスの巨大な翼を迎撃する。

 

『ピイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!』

「よし、翼逝ったっ!!」

「ナイス、両備っ!!」

 

激痛で身体を悶えさせたのと翼を狙われたことで動きを制限されたフェニックスを見た両備はガッツポーズすると、アーサーは彼女にサムズアップを送りドライグハートは空高く浮上する。

ウィングブースターの上で両奈は牽制による銃撃を行いながらも、ドライグハートはフェニックスとの距離を詰める。

次に動いたのは琴音だった。

 

「このまま、落ちろおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

飛び上がった琴音が自由落下に勢いを足した戦斧による一撃をフェニックスの脳天に振り落とした。

続くように、ウィングブースターから飛び降りた両奈が魔力を纏わせた回転キックを数回行い、前方へ蹴り上げて脚を振り下ろした。

もちろん、アーサーはドライグハートを動かして二人を無事に救出する。

 

「秘伝忍法『スケーターズワルツ』ッ!!」

『ピイイイイイイイイイイイイイイイッ!!?』

 

琴音の重い一撃と両奈の秘伝忍法による致命傷を負ったフェニックスに対してドライグハートが突撃してきた。

直撃したことでフェニックスは大きなダメージを負い、高度も低くなっている。

やがて、ダメージが蓄積されたことで正気に戻った彼が問いかける。

 

『何故、デスカ?何故、アナタ方ハ大切ナ人トノ別レを恐レナイノデスカ…!?』

「確かにさ、怖いよ。大切な人がいなくなることは怖いし、別れることは辛い」

 

「だけど」とアーサーは顔を上げる。

迷いのない声で、はっきりと言葉に出した。

 

「それを受け止めることで、人は強くなれる。どんな悲しくても辛くても、前を進めるようになるんだっ!だから俺たちは生きているんだよっ!!」

 

そうフェニックスに向けて叫ぶと、アーサーはドラゴンカセットを抜き取り左腰のスロットに装填すると赤と緑のボタンを同時に押した。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! DRAGON!!】

「これで終わりだあああああああああああっ!!フェニックスウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!」

『ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!』

 

オート操作に切り替わったドライグハートから射出されるようにアーサーの飛び蹴りが炸裂した。

炎と冷気+強化された脚力によって繰り出された『ドラゴンストライク』がフェニックス・エラーの胸に突き刺さると、フェニックスは内部から漏れ出すエネルギーによって爆発する。

そして一人と一体は隕石のような勢いで、けたたましい音と共に森林へと激突した。

 

 

 

 

 

「ぐぅ、うっ……!!」

 

人間態へと戻ったフェニックスは森林の奥を歩いていた。

エラーブレスにセットされたカセットに皹が入る度に激痛が走る。

この損傷では変身することも出来ない、ましてや回復することだって不可能だ。

……救いたかった。

フェニックスは人間だったころの自分を思い出す。

そうだった、自分は若者たちに忍の存在意義と厳しさを教えていた。

生徒たちは五人と少なかったが、それでも自分の授業に真摯に聞いたり眠っていたり、特訓では涙を流しながらも最後にはみんな笑顔だった。

卒業生となった彼らを自分は一人一人祝福した。

生徒の一人は弱き者を守る忍を目指すと言ってくれた。

生徒の一人は善悪関係なく、人間を守る忍になると言ってくれた。

生徒の一人は交際している女性がおり、愛する人を守れるような忍になると言ってくれた。

生徒の一人は大人しかったが、強い忍になると言ってくれた。

生徒の一人はクラスの紅一点で、やりたいことを両立出来る忍になると言ってくれた。

だが、彼らは妖魔の手によって全滅した…他ならぬ自分の力不足のせいで。

実を言うと、そこからのことは覚えていない……気が付いた時には妖魔は灰となって消滅していたのだ。

そして数年後、知ったのだ…カグラ千年祭の秘密とその概要を。

ならば無理ではないか、いくら鍛えたところで何時かは死ぬ。

あんなことを体験させるつもりなのか?亡くなった人に合わせて、その人の古傷を抉ることがそんなに楽しいのか?そんなの不条理だ、誰も望まない。

自分には、耐えられない……。

自分のように残された人間が苦しむのを見ていられなかった。

自身の秘伝動物のように、死してなおも復活する不死鳥のように……この悲しみから解放されたかった。

だが、救済のオーナーはその想いを受け止めてくれた、力をくれた。

今度は自分が救う番だ。

死の概念が存在しない、亡くなった最愛の人と永遠の時を歩み続けることが出来る…誰も苦しまない世界に変えるために……。

 

「ガハッ!!」

 

カセットに大きな皹が入り、地面に倒れてしまうもそれでも進むことをやめない。

どうして進もうとしているのかも分からないまま身体を動かそうとすると、一人の人物が現れる。

 

「小百合、様」

 

その人物……小百合はあの時と変わらぬ表情で話しかけてくる。

 

「段蔵……本当に不器用じゃの、お前さんは」

「……」

 

彼女の言葉に返事をすることすら出来ない…荒い息を吐くことしか出来ない自分に困ったように微笑むと小百合は言葉を続ける。

 

「お前さんのやろうとした世界は…望んだ世界には確かに恐怖はないじゃろう。素晴らしいことかもしれんが、やはりあたしは賛成出来ん」

 

「なぜですか」と視線を動かすと、その意思を受け取った彼女はゆっくりと頷く。

 

「その世界では、ただ歩み続けることしかしないからじゃ。恐怖を受け止めて歩むこととは全然違う…じゃからこそ、その歩みは特別なものになるんじゃ」

「……」

「勇気じゃよ…あたしは生と死も必要なことじゃと思っている…そこで大人しくしておれ」

 

そう言って小百合はこの場から去って行く。

カセットの亀裂が酷くなっていく……そろそろ限界だろう。

「一人で消えていくのか」と自分の末路に自嘲的な笑みを見せると、ゆっくりと瞳を閉じようとした時だった。

 

「……先生」

 

聞き覚えのある声と、懐かしい呼び方に顔を上げる。

そこには、何時の間にか五人の男女がおり全員が彼を見下ろしていた。

 

「先生、無茶しすぎですよ」

「真面目な癖にバカなとこは変わっていないよな」

「君が言えたことじゃないでしょ?」

「でも、先生は僕たちのために」

「……」

 

懐かしい姿で、懐かしい声で、懐かしいやり取りを自分の前で行う彼らに段蔵は涙を零していた。

やり取りをしていると、最後の一人が自分の前に屈んで話しかけてくる。

 

「こんな身体になってまで、本当にバカだよ。先生、私の言ったこと覚えてる」

 

何だったか?確か……そうだ、どうして忘れていたのだろう。

口を動かす。

 

「うん、『前を向いて生きて』……やっと思い出してくれたね、先生」

 

涙を零して嬉しそうに頷いた彼女に申し訳ない表情をする。

教え子の遺言一つすら有言実行出来ないとは情けない話だ。

 

「行こう、先生」

「また教えてくれよ、先生」

 

彼らの笑顔を見ていると、何故だか痛みが引いてくる…そうか、もう自分は苦しまなくて良いのか……。

その時の光景は幻だったのか分からない。

彼らと共に、自分が光のある道へと歩いていく光景を見届けると、段蔵はゆっくりと瞳を閉じた。

 

【GAME OVER】

 

無機質な電子音声とエラーカセットが音を立てて壊れると、段蔵の姿は粒子状の魔力となって消滅した。

 

「……」

 

その光景を見届けた戒は帽子を深く被ると、黙ってその場から去って行った。

 

 

 

 

 

あの激闘から数時間後、騒々しかった場所は落ち着きを取り戻しており戒がここに戻ると、両備は両姫に話しかけていた。

その声には心配の色があり、素直な気持ちを出している。

 

「姉さん、大丈夫」

「平気よ、両備ちゃん」

 

微笑んでそう言葉にした彼女に安堵すると、両姫は両備に話を始める。

 

「両備ちゃんに死んじゃえって言われたこと……気にしていないってのは嘘」

「……やっぱり、そうだったんだ…ごめんなさい。両備、何て謝れば……」

 

申し訳なさそうに謝罪をする両備に対して、両姫は「ううん」とゆっくり首を横に振ると話を行う。

 

「ううん、謝るなんて逆。お姉ちゃん、嬉しかったんだよ…ずっと、私の後を子犬みたいについて来ていた両備ちゃんがあんな風に反抗するようになって…『ああ、成長したんだな、大人になったんだな』って。本当に嬉しかったの」

 

そう話す両姫の表情はとても楽しそうであり、嘘偽りがないように見えた。

彼女は話を続ける。

 

「だから、両備ちゃんも両奈ちゃんも忍になったら、姉も妹も関係なく同じ女の子として、一緒に競い合ったり悩みを相談し合うのが本当に楽しみだったの」

 

そうすれば、また両備と仲良く出来ると思ったから……だけど、その前に自分は亡くなってしまった。

それが本当に悔しかった。

 

「ごめんね。死んじゃって、本当にごめんね」

「「……」」

 

その言葉に両備は何も言わず、戒と琴音も黙っていた。

しかし、その目には涙が溜まっており泣きそうになるのを堪えていた。

両姫も目に涙を溜めているが、指でそれを拭き取ると何時もの笑みを見せる。

 

「でも、二人の成長も、戒君と琴音ちゃんも成長もしっかりと肌で感じられたわ。もう心残りなんてない」

「両姫。良くみんなの壁になってくれた、心から礼を言うぞ」

「本当にありがとうございました、両姫さん」

 

両姫の言葉に小百合と飛鳥の二人がお礼の言葉を述べる。

「だけど」と飛鳥は先ほどの小百合の言葉を訂正する。

 

「私からしたら、両姫さんは『盾』でした。だって、私たちのために身体を張って戦ってくれたんですから」

 

そう言って飛鳥は握った拳を胸の前に持っていく。

忍にとって必要な力である『刀と盾』……幼いころから祖父に教わったその言葉はずっと言い聞かされていたが改めて知ることが出来たのだ。

その表情を読み取った小百合は締めの挨拶をする。

 

「それではこれにて祭りは終いとなる、優勝は…」

「待って…両備は先に負けているから優勝は無効だよ。でも、もし妖魔と戦うことが忍務になったら、命を懸けて戦うから…悪忍の誇りに賭けて」

 

小百合の言葉に待ったをかけた両備は改めて自分の決意を言葉にする。

それを聞くと、彼女は巫神楽三姉妹に指示を下す。

 

「それでは、巫神楽三姉妹…終わりの儀式の準備じゃ!」

「「「はいっ!」」」

 

三人が儀式の準備を始める中、両姫の元に集まるように戒と琴音、両備と両奈が駆け寄る。

やがて、両姫が意を決したように口を開いた。

 

「…みんな。お姉ちゃんは、世界で一番幸せなお姉ちゃんだったわ」

「両備たちも、世界で一番幸せな妹だったよ」

「うん、うんっ!両奈ちゃんも、絶対…そう思うっ!!」

「姫お姉ちゃん、久しぶりだったけど…とても楽しかったよ」

「ありがとう、両姫姉さん」

 

両備に続くように両奈、琴音、戒が返事をするが、その声は震えており涙が止まらなかった。

そして、両備が一番言いたかった言葉を口にした。

 

「ありがとう。お姉ちゃん、本当にありがとう。ありがとう!ありがとう…」

「両備ちゃん、両奈ちゃん、戒君、琴音ちゃん。ありがとう、さようなら……永遠に大好きよ」

 

その言葉が、最期の挨拶となった。

三姉妹の舞踊が開始されると、両姫の身体は淡い光に包まれていく。

そして、小百合に一礼した彼女は全員に見送られる形で天へと昇って行った。

両姫が成仏したのを見送ってから数時間後、飛鳥は自分の祖母に疑問をぶつける。

 

「……あれ?ばっちゃん、もう祭りは終わったんだよね?どうして元の世界に帰れないの」

「当り前じゃ、まだまだカグラ千年祭は終わらんよ……と言うわけで、第二回『ドキ!忍だらけの水上運動会 ポロリもあるよ!』を開さ…」

 

そこまで言い続けた途端、ガラスの割れるような音が響き渡った。

見ると、上空には割れた空間がありそこには謎の人影がある。

何事かと全員が身構えると三人の人物が不時着する…いや、少なくとも戒や琴音などの幼馴染組はすぐに分かった。

一人の人物がすぐに目当ての人物…つまり戒へとタックル紛いのハグを行った。

 

「ふ、ふふ…見つけましたよ息子二号ううううううううっっっ!!!!」

「げふううううううううっっ!!?」

 

己の母親でもある美緒の突撃に悲鳴をあげながら転がるが彼女は胸ぐらを掴むと思い切り彼を揺らす。

 

「携帯の連絡が通じないと思ったのでもしやと思いましたがこんな浦島太郎状態の空間にいるなんて、とてつもなく心配したじゃないですかごらあああああああっっ!!」

「……」

「何とか言ったらどうですかあああああああああっっ!!?」

「お、おばさん。落ち着いて!カー君気絶してる、気絶してるからっ!!」

 

気絶してることに気づかない美緒はひたすら戒の身体を揺らすが硬直状態から立ち直った琴音が必死に引き剥がそうとする。

だが、それよりも前に二つの影が現れるとその内の一つが戒の右腕を抱き締める。

 

「兄様、大丈夫ですか?安心してください、私が来たからには安心ですよ」

「リア、どいてください。次は私です。」

「じゃあ、二人で右腕を引っ張りましょう」

「ちょっと、両備たちの戒に何すんのよっ!!」

 

どさくさ紛れに恋人繋ぎをしようとしているリアと千歳に両備が噛みつき、それに両奈が便乗するというカオスの中、小百合は「やれやれ」とため息をついた。

……忍の道は死の定め、影に生まれて影に散る。

それでも少女たちは忍の道をひたすら走る、片道切符の運命と知ってはいても止まることなどありはしない。

だから、忍の道は儚いし報われない……それは誰も知らない名もなき花。

そして、王の名を持つ仮面の騎士は改めて決意する。

人間を捨ててまで得ようとする希望と絶望から、戦うことを……。

 

ESTIVAL COMBO……GAME CLEAR。

→To be Next Stage……。




 最後の最期でどうして美緒を出したかって?はは、気分ですよ(笑)。本当は千歳とリアだけにする予定でしたが、オチが弱いと思ったので美緒も強制的に出演させました。
 さて、フェニックスはこれで完全退場です…某ユウゴさんとは差別化を図ったりもしましたが正直もっと活躍させたかったと後悔しています。しかし中々綺麗な終わり方には出来たのではないかと思ったりします。
 色々と語ることは次のアーサーチャンネルで語りたいと思います。ではでは。ノシ

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