仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士 作:名もなきA・弐
原作と似通っているところは文章で流したり、もしくは各キャラの視点で描写する予定です。
それでは、どうぞ。
「はー……」
音を立てる青い波の景色を眺めながら、砂浜に腰を下ろした戒は何度目かのため息を吐いた。
両姫と再会してからその数時間後、この島に召喚された半蔵学院と蛇女学園、月閃女学館と紅蓮隊のメンバーらと合流し、先ほど儀式に参加していた老婆『小百合』から状況を説明された。
飛鳥たちメンバーが呼ばれた理由は『カグラ千年祭』を行うために必要な役者であったかららしい。
小百合曰く「無念の内に死んだ忍たちの魂を安らかに成仏させるための祭り」であるらしく、今戒たちがいる世界では現世では故人である忍たちも生身の人間と同じように活動を行えるらしい。
よって、戒たちを襲ってきた黒子も先代の忍であり謂わば実力を試すために攻撃を仕掛けて来たのだと…詳しいことを彼女は教えてくれなかったがウェルシュの分析が正しければ恐らくここは魔力によって作られた結界の中である可能性が高い。
洋服やトイレットペーパーと言った生活に必要な品物は全て揃えられており何不自由もない。
しかし、携帯などの通信機器も身近の人間には通じるが外部の人間への通信は不可能な状態となっている。
おまけに、祭りが終わるまでは帰ることが出来ないらしい…あまりにも周到な用意に戒は呆れるしか出来なかったが同時にこれほどの空間を造れることに感嘆した。
「はー…」
『…これで何度目のため息だ、戒?』
「圏外」と表示されたスマホを見てまたしても息を吐いてしまい、それをウェルシュに窘められるが、「だって」と戒は言い訳を始める。
「俺たちは両姫姉さんの墓参りしていたら、何時の間にか見知らぬ世界に飛ばされてその挙句祭りに参加しろって……ため息だってつきたくなるだろ?」
『君の場合、他のことも考えているだろ?』
その言葉に頷く戒…実を言うと千年祭の概要を説明された後、カグラ千年祭の執行部として小百合に協力している『巫神楽三姉妹』の長女…戒があしらった少女でもある『蓮華』と、次女の『華火』に目をつけられてしまったのだ。
元来、あまり女性に対して耐性がない戒にとっては、豊満なスタイルを持つ美少女たちは心臓に悪く、適当な言い訳をつけてあの場から離れ、こうしてやっと一息つける場所を見つけたのである。
『エラーとの戦闘では乗り気なのに、こういった戦いについては消極的だよな君は』
「こう見えても平和主義だよ。それに……胸とか身体に当たったら恥ずかしいし…///」
「思春期の中学生か君は!」とツッコミを入れたウェルシュだったが、それを無視するように戒は海の景色を眺めていた。
普通ではお目にかかれないようなその光景に、今までの悩みでざわついていた心が徐々に落ち着いていく。
そのまましばらくぼうっとしていたが急に視界が暗くなったのと同時に後頭部に柔らかい感触を感じる。
「ふふ、だーれだ?」
「えっと…両姫、姉さん?」
楽しそうに笑う声が聞こえたが動揺とは裏腹に戒の頭は冷静に思考を紡いでいく。
声の方向からして自分の背後、両目部分に当たるすべすべした感触は彼女の両手…そうなると、今自分の後頭部に当たっている物は……。
「うわわわわわっっ!!?///……あだっ!?」
そこまで考えに至った途端顔を真っ赤にし慌てて立ち上がり彼女の方を向こうとするもボーラーハットがずれて視界が悪くなったのと何かに躓き、尻もちをついてしまう。
「あらあら、急に立ち上がったりするからよ?」
そう言って微笑みを浮かべる両姫の姿を見る。
最初のドレスタイプの忍装束とは違い、ノースリーブの白いワンピースを着ており頭には麦わら帽子を被っている。
スリムタイプだからか彼女の胸が強調され、黒く長い髪が白い服との対照的な美しさを出している。
そんな自分の容姿に見惚れているのに気づいているかは分からないが両姫はハンカチを取り出すと落とした戒の帽子を拾い、付着した砂を払う。
「はい。綺麗になりましたよ」
「あ、ありがとうございま…///」
帽子を手に取って、照れながらも感謝の言葉を戒は口にしようとするが人差し指を口元に突き出される。
「そんな他人行儀じゃなくて、昔みたいに、『両姫お姉ちゃん』って呼んで」
「ええっ!?えと、その……///」
口元に笑みを浮かべてそう言われた戒は、顔を増々赤くしながら動揺する。
昔ならともかく、この年齢でそう呼ぶのには抵抗がある。
両姫にそう言われた戒は驚きながらも、自分に向けられるまっすぐな視線から逃げられないと分かり、リクエスト通りに昔の呼び方で彼女の名を呼ぶ。
「り、両姫……お姉、ちゃん///」
もし今、鏡があったらな自分の顔は茹ダコのように真っ赤になっているだろう…羞恥で目に涙が溜まってきた彼に微笑みを向けると両姫は戒を抱き寄せ豊満な胸に顔を埋める形となる。
顔から伝わってくる柔らかくも張りのある感触に慌てて抵抗しようとするが体勢と以外にも強い力によって無駄な抵抗で終わった。
そんな彼に対して、彼女はあの時のように優しい声で語りかけると身体を包み込むように抱く。
「うふふ♪からかいすぎましたね。ごめんなさい、戒君」
「……///」
知らず知らずの内に、頬が赤いままの戒は彼女の身体に腕を回していた。
恥かしさと心地良さが混じった不思議な感覚にその身を委ねた。
一方、その頃の門矢家…。
「っ!?」
「どったの?美緒お姉ちゃん」
「今、懐かしいような、それでいて息子二号の危険が迫ったような…とにかく嫌な予感がしましたっ!」
何処かから変な電波を受信した美緒はホットチョコレートの入ったカップと、もう片方の手に持った推理小説をテーブルに置くと席から立ち上がって周囲を右往左往する。
いつもの病気かと練乳の入ったコーヒーを飲んでいると合鍵を使って入ってきた真希奈が現れる。
「戒君の危険を受信したよ~!!可愛い甥っ子の危機だよ~っ!」
「うん、とりあえず二人とも黙ろうか」
「美海が来てくれないかな」と思いながら、騒ぎ出す二人が余計なことをしないか見張るのであった。
カッコ悪い……。
ボーラーハットを目深に被りながら戒は森林の中を歩いていた。
あの後、冷静さを取り戻した戒は両姫から「両備の様子がおかしい」と相談されたため、こうして捜索をしている最中なのだ。
だが、初恋の人を前にしてカッコつけることはおろか普段の態度すら出すことが出来なかった上に、子どもみたいに抱きしめられた。
あんな情けない姿を見せてしまった恥じらいを消すように戒は歩を進める。
『憧れの女性と触れ合えて良かったな、戒♪』
「海に投げ捨てるぞガラクタミニ四駆」
『その呼び方やめてくれないかっ!?割と傷つくんだぞ!』
茶化してきたウェルシュに毒を吐くと、戒は森の奥にある小川の近くで両備はしゃがみこんでいた。
「何してるんだ?」
「っ!?…戒」
顔を上げた彼女の顔は、何処か弱々しい年相応の少女の顔をしていた。
ここから、戒が両姫との交流を得ている時間より数時間前に遡る。
両備は両奈と共に改めて亡き姉との再会を果たしていた。
両奈は満面の笑みで胸に顔を埋めて彼女の身体を抱きしめると両姫はそれを優しく受け入れる。
伏し目がちに「久しぶり」と言ったが彼女はあの頃と変わらぬ笑みと共に自分の身体を抱きしめてくれた。
それでも胸中は穏やかではなく、むしろそこに巣食うもやもやが増えるだけだった。
「おんどれ!触るなっ、ぶっ飛ばすぞっ!!」
突如聞こえた罵声に両備は驚いて顔を上げる。
声の主は両姫だった。
穏やかだった笑みは怒りの形相となっており、抱き着いている両奈を放送禁止用語を使いながら口汚く罵っている…当の両奈は頬を赤らめて嬉しそうにしていたが。
「……姉さん?」
アホみたいに口を開けてしまった…まさしく開いた口が塞がらない。
「生き返ったせいで性格が変わった!?」と驚く両備とは対照的に両奈があっけらかんと答える。
「えっ?両姫お姉ちゃんは前から怒るとこんな感じだったよ?」
どうやら両奈はこの状態の両姫を知っているらしい…そうなると自分が中学生の時だろうか?それなら知らないのも納得がいく。
そう考えていると両奈が頭の輪っかに手を触れると、両姫はいつもの穏やかな表情へと変わる。
輪っかによってオンオフの切り替えが出来る、と何処か冷静に判断していると両姫は歩き出して何時の間にか来ていた雅緋と話を始めた。
その際、もう一度触れようとしたらしい両奈は転んでいたが特に気にせず二人の会話に耳を傾けた。
両姫は自分と両奈を養うために働いてくれた…「唯一のワガママ」と称して月閃女学館に入学したが、選抜メンバーに選ばれて間もなく遺体となって帰ってきた。
その時は、当時彼女と戦っていた雅緋が仇だと思っていたが後に誤解だと分かり、今はこうして彼女の仲間として日々を過ごしている。
「あの時はごめんなさいね。先にやられちゃったりして」
「いや、謝るなら私もだ。私がもっと強ければだれも死なずに済んだんだからな」
そう言って、頭を下げると二人は楽しそうに話を続ける。
二人はライバル同士だったらしいがそこには険悪な様子はなくむしろ互いを認め合っているようにも見えた。
……もう耐えられない。
「ちょっと、トイレ」
適当に言い訳をすると、この輪の中から離れた。
道なき道を分け入り、三人の姿が見えなくなったのを確認すると森の奥を両備は走っていた。
息を切らしながら走ると小川に差し掛かる。
しばらくここで時間をつぶそう……そう考えた彼女はそこにしゃがみ込んだ。
雅緋と姉は互いに頭を下げていた…本当ならば、自分もその場で謝りたかった。
だが両姫が亡くなる前日、自分は取り返しのつかないことを言ってしまったのだ。
姉と再会出来たことは何よりも嬉しい、だけど……。
「何してるんだ?」
「っ!?」
急に自分に向けて掛けられた声に驚いて顔を上げて振り向いた。
「…戒」
「よっ」
いつものと変わらずへらへら笑って敬礼の真似をする戒に両備は視線を小川へと戻る。
自分の様子がおかしいことにとっくに気付いているのだろう、目の前の幼馴染が右隣に座った。
「「……」」
互いに何も喋らなかったが、やがて両備が意を決したように話を切り出す。
戒がわざわざ理由もなしに森林の奥まで来たとは考えられないからだ。
「……姉さんに頼まれてきたの?」
「まぁな。お前の様子がおかしいって、さ」
「おかしくない」
「じゃあ、両姫姉さんと何かあったのか?」
確信を突かれたことに顔を埋めたくなるが、その代わりに近くの小石を思い切り投げると、それは水を切って対岸まで辿り着いた。
「…まぁ、深くは聞かないよ」
「ありがと、そう言うあんたは?」
「子ども扱いされた…おかげで恥ずかしい思いをしたよ。役得だったけど」
そう照れ臭そうに笑う戒に、両備は胸にちくりとした痛みを覚える…。
気に食わない…姉と出会って嬉しそうな笑顔を見せる両奈も、自分には見せない表情を彼にさせる姉も、三人にそんな感情を抱く自分にも……。
悔しくて悔しくて仕方がなかった。
もやもやした気持ちを吹っ切るように両備は黙々と小石を投げ続ける。
「私は、何をやっても姉さんに敵わないんだ」
無意識に出してしまった言葉に戒が反応した。
だが、彼は何も言わずに両備の頭を撫でる。
「な、何よ…///」
「気持ちの整理が出来たら、俺たちに話してくれよ」
幼馴染なんだから……。
頬を赤らめた自分に優しくそう言うと、戒は自分に背を見せてそのまま去って行った。
彼が去って行くのを確認すると、しばらく水面に映る自分の顔を眺める。
両姫は「大人っぽくなった」と喜んでくれた。
だが、自分には…彼女が亡くなる前の幼稚な自分に見えた。
「ごめんなさい、姫お姉ちゃん。買い物に付き合ってくれて」
「良いのよ。琴音ちゃんも女の子だから、オシャレに気を使うのは当然です」
琴音は申し訳なさそうに両姫に謝ると、彼女は楽しそうに笑ってくれた。
「本当に昔から変わらないな」と琴音は心の中で呟いた。
「お姫様みたい」なのと彼女の名前にちなんで名付けた愛称で「もう一度呼んで」と言われた時は困惑したがそう呼んだ途端、二人はすっかり昔のような関係へと戻っていた。
その二人が何をしているのかと言うと、琴音は自分の水着を買うために、両姫は彼女に似合う水着を選ぶために購買部に向かっている最中である。
「戒君とも会ったけど頼もしくなっていたわね。恥ずかしがり屋さんなところと可愛い部分は変わってませんでしたけど」
「あまりからかっちゃ駄目ですよ?最近スケベになってきましたから」
「あらあら、もう男の子なんですね。お姉ちゃんも気をつけなくっちゃ」
「うふふ」と笑う両姫に、琴音は苦笑いする。
普段なら少しばかり妬いてしまうが完璧な人が身近にいるとこうも対抗心が薄まるのか、そんなことを考えながらも「購買部」と書かれた店に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませー!あっ、琴音さんっ!」
「菖蒲ちゃん、本当に何処へでも現れるんだね」
ピンク色のエプロンを着用している菖蒲は、半蔵学院で時々昼食を買いに来てくれるお客兼同年代の友人である琴音との再会に喜ぶ。
『何時でも何処でも商売繁盛』をモットーにしていると以前自分に対して言ってくれていたが、まさかここで会うことになるとは…。
驚きながらも、琴音はある重大なことに気づく。
「あれ、服はどうしたの…まさか」
「違いますよぉ。水着の上にエプロンを羽織っているだけですぅ、エアコンの温度を極力下げないよう極力薄着にしてて。それにこれなら戒君も悩殺出来る…」
「それ以上言ったら怒るよ菖蒲ちゃん?」
笑顔で威嚇してきた琴音に「冗談ですぅ」と流すと菖蒲は水着コーナーへと案内する。
自分のような『一般の』サイズから紫レベルのサイズまで揃えており、柄や色も豊富な種類があった。
どれを選ぶか悩んでいたが、水着を見ていた両姫が手に取る。
「琴音ちゃん。これならどうかしら?」
「うわぁ、可愛い…!!」
彼女が見せてきたのは桜をイメージした上下着用タイプの水着であり、薄いピンクで彩られた水着は琴音の好みとも一致していた。
試着してみるとサイズもぴったりであり、すぐに買うことを決めると財布を取り出そうとする。
しかし、それよりも先に両姫がレジに向かうと先ほどの水着と、黒と青を基調とした水着分の代金を菖蒲に払う。
「ひ、姫お姉ちゃん?」
「お姉ちゃんも丁度、水着が欲しかったから…ね♪」
「ありがとう!」
楽しそうにウィンクすると、琴音は満面の笑みを浮かべるのであった。
水着に入った袋を楽しそうに手に提げながら両姫と共に話をしていたが、やがて視界の隅に何か奇妙な物が入る。
(……?)
「琴音ちゃん?」
一言謝罪を入れながら、視界の隅に映った方向に足早に向かう。
しかしその場には誰もいなかったが地面に落ちてある物に気づく。
ハンカチを広げてそれを拾い上げると、彼女は驚愕した。
なぜならそれはこの場にいるはずのない……フェニックス・エラーの極彩色の羽根が落ちていたのだから。
それは、まるで後の運命を予言するかのように不気味に煌めいていた。
To be continued……。
カー君が若干キャラ崩壊しているような気もしないでもないですが、初恋の人と出会ったら年頃の少年ってこんな感じかなと思いながら書きました。ぶっちゃけこれがカー君の素です。しかし何で自分は野郎のデレを書いているのでしょう?
原作になぞる形になってしまいましたが、今回は両備の視点も織り交ぜました。恋する年頃の少女らしい複雑な感じに出来たかどうか不安です。
琴音はもう「敵わないな」と思っているので両姫に嫉妬の感情は湧きません。菖蒲とは購買部に顔を出すのでその縁で知り合ってます。
両姫お姉ちゃんの口調が未だ安定しません…キャラの口調を安定させるのも課題の一つだと実感しました。
ではでは。ノシ