仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士   作:名もなきA・弐

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 今回と次回で一つの目途が立ちます。そして……現時点で使えるアーサー最後のフォームが登場します。短編を読んでくれた方はすぐに分かるかもしれませんが…とにかくこれで基本フォームが揃いました。
 それでは、どうぞ。


COMBO11 両手×水晶

戒と琴音が現場に駆けつけると、人々で賑わっているはずの商店街は随分と様変わりしていた。

至る所に、兎やら犬やらをファンシーにした何処となく一般のセンスとはかけ離れたぬいぐるみが辺りに埋め尽くされており、とても満足に移動出来る状態ではなかったからだ。

 

「うわ…何これっ!?」

「……あれは」

 

琴音が埋め尽くされているぬいぐるみたちに驚く中、戒は少し離れた距離で戦っていた雪泉たちに気が付く。

一方の彼女は自分の仲間である少女『四季』と共に動くぬいぐるみに苦戦している。

色素の薄い金髪に血のように紅い瞳を持つ顔にはメイクが施されており、口元のホクロが彼女のセクシーさを引き立てている。

飛鳥たちと負けず劣らずの豊満な身体を、魔女を彷彿させる黒い忍装束に身を包んだ彼女はダメージの通らないぬいぐるみたちに驚愕しながらも攻撃の手を止めない。

 

「雪泉ちん!何なのこいつ、アタシらの攻撃がまるで通用しないんだけどっ!?」

「事情は後で話しますっ!四季さんたちはこの人形を…!?」

『無駄やでぇ~。ワタシの丹精込めて作った、オンリーワンの、ぬいぐるみは絶対に壊れないんやでぇ~』

 

雪泉の言葉を嘲笑うように、兎のような耳を持ったピンク色のドクロとボタンのようなモノアイ。

そして、ぬいぐるみを白い身体にゴチャゴチャ身に着けた異形『ファンシー・エラー』が姿を現すと身体にあるぬいぐるみが動きだし雪泉たちへと向かう。

 

「きゃっ!?と、止まりなさ…ひゃんっ!?」

「雪泉!こんのぉっ!離さんか…きゃっ!?」

 

和服の中に潜り込まれて変な声を出してしまう雪泉を助けようと、花飾りを付けたおかっぱの少女『夜桜』がぬいぐるみたちを追い払うが逆に服の中に潜り込まれてしまい、一般の女性よりも大きめのサイズをした水色のブラジャーを盗まれてしまう。

 

「か、返せっ!!返さんか!」

「んな…っ!?」

 

ぬいぐるみたちが持っているブラジャーを見た琴音は一瞬だけ動きを止める。

そして、自身の……恐らく一般の高校生よりは平らな胸に視線を向け、目の前の少女との圧倒的差に絶望して膝をつく。

 

「…神よ……どうして、私にばかり、こんな試練を……」

『ふぁ~はっはっは!人間など所詮身に着けている物を取っ払えばこんなものやでぇ~っ!』

『……一人、無力化も出来た』

 

自身の作り出したぬいぐるみに翻弄される雪泉たちを見て高笑いをするエラーの人格に対して融合者らしき少女の声が響く。

だが、変身したアーサーがファンシーの後頭部を蹴り飛ばすと雪泉たちの元に駆け寄り、ぬいぐるみたちを剥ぎ取って行く。

 

「か、仮面ライダー!?本物だー!!」

「……ぬぅ」

「雪泉さん!ぬいぐるみの足元狙って!」

 

突如現れた都市伝説の存在に、ハムスターの形をしたリュックサックを背負っている長い茶髪をツーテールにしたトランジスタグラマーの少女『美野里』や般若の面を着けた…五人の中では長身の少女『叢』が驚きを露わにするも、アーサーはそれを無視して雪泉に指示を送る。

彼の指示に素直に従うと、雪泉は扇子を広げてそこから発生する冷気でぬいぐるみの足元を凍らせて動きを制限した。

しかし、凍結から逃げ出せていた何体かは琴音の方に飛び掛かり、服の中に潜り込もうとする。

 

『あ~、そいつは良い良い。壁みたいな女にその戦法は通じないでぇ~』

 

エラーの人格による凄まじい暴言が飛んだ瞬間、ブチィ!と何かが切れた音が聞こえた…気がした。

 

「おい……あんた今、この胸のこと何つった……!?」

『んっ?』

『あ…嫌な予か…』

 

腹の底まで響くような声にファンシーが殺気を感じた時には遅かった。

そこにはぬいぐるみの一体を踏みつけ、もう一体の個体の頭部をわし掴みにしている琴音がおり、手足を動かしてもがいている身体を掴むと、思い切り引きちぎった。

アーサーは「やっちまったか」と何かを諦めたように天を仰ぎ、ぬいぐるみに悪戯を仕掛けられている雪泉たちも殺気に近い魔力を発する琴音の方を向く。

余談だがこの時、目撃者たちは口を揃えて「右目部分に影が差し、左目が赤く発光しているようだった」と証言していたらしい。

そんなことは露知らず、琴音はいつものハルバードではなく、黒と金で装飾された無骨な戦斧を召喚するとそれを思い切り地面に叩きつけた。

 

「誰の胸がぺったんこの絶望的まな板だゴラアアアアアアアアッッ!!!」

『『ひっ、ひいいいいいいいいいいっっ!?』』

 

衝撃と怒鳴り声による気迫に悲鳴をあげたファンシーは己の身を守るように、目の前の鬼神に向けて大量のぬいぐるみを差し向けるも琴音はそれを踏み潰し、片手で引きちぎり、戦斧で叩き割るなど喧嘩殺法で吹き飛ばしていく。

アーサーも緑のボタンでぬいぐるみたちを焼き払いファンシーへの道を作って行く。

 

『ちょ、待てよ。ぬいぐるみに火をつけるのは反則やでぇ~!?』

「知るかっ!」

 

ぬいぐるみたちを燃やしながら、自分の方へと向かって行くとアーサーは炎を纏ったグレンバーンで打撃を行うと熱の籠った左手でアイアンクローを決める。

最初は高熱でじたばたと暴れていたが、やがて両腕を下げるとぼそりと呟く。

 

『あちち…ワタシの芸術的センスを理解しない奴には…おしおきやでぇ~』

「…よしっ!何とか……えっ?」

 

ファンシーはアーサーの手を振り払うと、ブラを奪還して気が緩んでいた夜桜の方に直進し自分の手の中に牛のぬいぐるみを召喚し、押し付けようとする。

しかし、アーサーは脚力強化による高速移動してファンシーの攻撃から彼女の庇うと左手に押し付けられてしまった。

淡いピンクと黄色に発光すると、アーサーの右手は牛のぬいぐるみと一体化しており当然、自分の手に起こった異変にパニクってしまう。

 

「嫌ああああああああっ!?手があああああっ!て、手が…牛君にいいいいっっ!!」

『か、戒っ!落ち着きたまえっ!!このままでは…』

 

「敵の思うつぼだ」とウェルシュが続けようとする前に、ファンシーは取り出したカエルのぬいぐるみを右手に押し付け、紫と緑の淡い光が周囲を少しだけ照らすと今度は右手がカエルのぬいぐるみと一体化してしまう。

 

「ああああああっ!!こ、ここ、今度はカエル君にいいいいっっ!!!?」

『ふぁ~はっはっは!良い様やでぇ~!では、ワタシはこれにてオサラバ…』

「カー君の手を戻しやがれ、ヘンテコ野郎っ!!」

 

ブチギレモードの琴音が戦斧をファンシーに向けて叩き込むと軽い悲鳴と共に吹き飛ばされるが何とか起き上がる。

 

『あだだ、ワタシは別にやることがあるのでな、サラバやでぇ~』

「くっ!?お待ちなさいっ!!」

 

動き出すぬいぐるみに手こずっていた雪泉が逃げようとするファンシー目掛けて氷弾を飛ばすが巨大なクマのぬいぐるみを眼前に召喚する。

それが消滅すると、ファンシーは既にその場から姿を消していた。

 

 

 

 

 

戒と琴音は月閃女学館にある選抜メンバー用の教室にいた。

ファンシーの行方は美海や飛鳥たちが追っているが、捜査網に引っ掛かっている様子は見られないらしく苦戦しているらしい。

リアたちもインターネットから調査を進めているが一つしか集まっていない。

その情報は、最近この近くにある付近の建物に未確認生物が出没するという噂が立て続けに三件も起きているのだ…偶然ではないだろうが琴音にはピンと来るものがなく頭を抱えるしかなかった。

 

「「はー…」」

 

琴音と雪泉は揃ってため息をつく。

情報が入ってこないのもそうだが、もう一つ頭を悩ましている問題があった。

 

「門矢さん。お味はどうですか?」

「美味しい、ですけど…///」

「わしのことを気にしないでください。い、今限りはあなたの手としているだけですから///」

 

今琴音の視界に映っているのは、恥かしげな様子の夜桜から食事をさせられている光景…なぜこうなったかは詳細まで説明すると長くなるので割愛するが戒に助けてもらった彼女は自分のミスのせいで両腕がパペットになってしまった彼に少しでも恩返しでもしようと、昼食時に戒の両手の代わりになろうとしているのだ。

まぁ、平たく言えば「あーん」してもらっている戒に…恥ずかしそうにしている幼馴染に不機嫌な表情を見せる琴音と、表情をこそ出さなかったが落ち着かない様子を見せる雪泉。

昼食が終わってからも受難は続いた。

 

「門矢ちーん♪アタシ実はブログやっててさー、ツーショット撮って良い?良いよね!」

「あ、あの…漫画のキャラの参考にしたいので…ス、スケッチして良いですか?」

「みんなずるいっ!仮面ライダーさん、次は美野里と遊ぼっ!」

「ま、待って!…ち、近いし柔らかいのが周囲に…///」

 

四季に至っては無自覚なのか意図的なのか隣にすり寄ってくるし、なぜか面を外した叢が彼の姿をスケッチしようと正面に来るし、美野里に至っては戒の腕に引っ付いてくるなど結果的に容姿端麗の美少女たちに囲まれる形となった。

頬を赤らめながらも満更でもない表情を見せる戒に、琴音の堪忍袋も限界を迎えたのだった。

 

「てめーらぁ……これ以上カー君に近づくんじゃねーーーっっ!!!!」

 

琴音のシャウトが教室中に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

少女『浅海』は孤独だった。

両親には先立たれ、親戚にはたらい回しにされていた彼女にとって唯一信頼出来るのは母と父が誕生日にくれたぬいぐるみたちだけだった。

しかし、あるぬいぐるみ…ミケネに渡されたエラーカセットを起動した時、友達が自由に増やせるようになったのだ。

実験として商店街で暴れ回ったが、あの様子だと自分の魔力が続く限り召喚・操作出来るだろう。

……そこまで考えた彼女は自らのアジトとしている廃棄された工場でファンシー・エラーへと融合し、足を進めようとした時だった。

 

「みーつけた」

『っ!?』

 

工場の入り口には戒たちが立っており、ファンシーの行く手を阻むようにいた。

自分の隠れ家がばれて動揺しているエラーの周囲をウェルシュが旋回しながら戒たちの元へと着地した。

どうやらウェルシュが彼女の後を追跡していたらしい…悔しげに拳を握るファンシーに笑みを見せると戒はカエルのパペットと化している右手を突き出す。

 

「散々人をおちょくってくれた礼は返すっ!頼む、琴音っ!」

「うんっ!」

【MAGICIAN!!】

 

彼の言葉を聞いた琴音は、シルクハットを被った手品師がデフォルメされた絵柄のある白いミラージュカセットを構える。

手品アプリもしくはRPGアプリの『マジシャンカセット』のスイッチを押して起動させると、アーサードライバーにセットしてグリップのトリガーを引いた。

 

「変身っ!」

【RIDE UP! MAGICIAN! 魔法、錬成!WHITE FANTASY!!】

 

変身音声と共に白いローブを模した霊装が現れると、スーツだけとなっているアーサーの上に覆い被さりドラゴンリンクともリズムリンクとも異なる形態となった。

シアンカラーのシルクハット型ヘルメットは上部を覆い、紫色の魔法陣が彫られた上半身を覆う甲冑と全体に纏ったローブは白を基調としている。

 

【MAGICAL ARTS! PRISMA PRISM…SHOW TIME!!】

「ふんっ!!」

 

アーサーの変身が完了したのを確認した琴音は緑色のボタンを押して能力を発動させると、両手を一体化している牛とカエルのぬいぐるみを拳同士でぶつけ合うように叩きつけた。

すると、ぬいぐるみがクリアカラーの水晶に変化すると同時にけたたましい音を立てて砕ける。

 

「……すっご」

「きれーっ!!」

「「……」」

 

砕け散った水晶は破片となって舞い散り、その中心にいるアーサーの姿に四季や美野里、夜桜たちも魅了されていた。

元に戻った両手には魔法陣が刻印された小型の盾と一体化した紫色のグローブ『マジッグローブ』が露わになる。

これぞ、アーサーが使用出来る最後の形態……。

『仮面ライダーアーサー マジシャンリンク』である。

 

「お前の物語、ここで終わらせる!」

『ただのこけおどしよっ!!』

 

宣言して歩いてくる無防備なアーサーを好機と捉えたのかファンシーは大量のぬいぐるみを放つ。

小さく爆ぜる中、アーサーはそれを物ともせずただゆっくりと歩を進めていく。

攻撃を受けているはずなのに彼の身体にはダメージがまるで届いていないようであった。

 

『な、何でダメージすら負ってないんやでぇ~っ!?』

 

自分の攻撃に全く動じないアーサーに驚いたのか焦った声を出すファンシーに対して鼻を鳴らすとアーサーはゆっくりと赤いボタンを押した。

 

【ATACK ARTS! CHARGE!!】

「オラッ!!」

『ガハッ!?』

 

『腕力強化』を施したアーサーのボディーブローの衝撃で身体を揺らされたファンシーは膝をつきそうになるも、それよりも先にマジッグローブから繰り出される一撃が身体を浮かした。

そして。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」

『グベグボベラガダベエエエエエエエエエエエエッッ!!?』

 

アーサーから繰り出されるラッシュを浴びるファンシー……そして止めの一撃とばかりのストレートが顔面を捉えると地面を削りながら吹き飛ばした。

 

『ゲホ、ゲホッ!!ま、まだやでぇ~…お、おしおきやでぇ~っっ!!!』

 

身体中ボコボコにされながらも、何とか立ち上がったファンシーはぬいぐるみを終結させると巨大なぬいぐるみへと変化させる。

だが、彼の一面と活躍を見ていた夜桜たちは彼の加勢に入る…と同時に『シェアリングナイトフォース』が起動し力を共有した彼女たちの一撃はぬいぐるみの巨体を揺らした。

ウェルシュが呼び出したドライグハートに乗り込んだアーサーも彼女たちの輪の中に入ると、今の自分と最も相性の良い人物…夜桜に合図を送る。

 

「夜桜さんっ!頼む!」

「はいっ!」

 

その声を聞いた夜桜はドライグハートを踏み台に跳躍すると、右の籠手を巨大化させる。アーサーはそれに合わせるように緑色のボタンを押して巨大な水晶の足場を作ると、アクセルを全開にして巨大なぬいぐるみ目掛けて突貫する。

打撃と同時に近距離で爆発を連続させる夜桜の秘伝忍法『極楽千手拳』と、巨大な水晶を利き手に纏った拳をぬいぐるみに発動させる。

 

「「合体秘伝忍法『阿修羅千手拳』っ!!」」

 

爆発と棘のように出現した水晶が巨体を貫くと、ぬいぐるみはゆっくりと消滅するように音を立てて倒れた。

とっておきの切り札が倒されたことに唖然とするファンシー…だがそれを見逃すほどアーサーは甘くなかった。

スロットからマジシャンカセットを抜き取り、左腰のスロットに装填…赤いボタンを押す。

 

【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! MAGICIAN!!】

 

腰を低く落としマジッグローブにエネルギーを集中させると勢いよく駆け出し、拳を叩き込んだ。

 

「オラアアアアアアアッッ!!!」

『やでえええええええええええええっっ!!!』

 

必殺技『マジシャンブレイク』で殴り飛ばされるとファンシー・エラーは爆散、しかしエラーカセットは無事であり融合者である浅海もはっきりとした意識が残っている。

アーサーはそんな彼女に対してカセットを渡すよう説得しようとした時……。

 

「楽しそうだな、俺も混ぜてくれよ」

 

少年の声が響き渡った。

To be continued……。




 満を持して登場しましたマジシャンリンク。読めば分かるかもしれませんがアーサー唯一のパワー系フォームです。攻撃と防御に重きを置いておりあらゆる物質を質量保存の法則を無視して水晶に錬成できます。
 最後に登場した少年については次回の最初の方で明らかになります。ではでは。ノシ

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