仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士   作:名もなきA・弐

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 後編パートです。雪泉さんのクールさと可愛らしさが表現できているか不安です。それでは、どうぞ。


COMBO10 解答×微熱

フェニックス・エラーを退け、一度真希奈の音楽教室へと戻った戒は琴音からの情報を電話越しで聞いていた。

 

『やっぱり菅井と田荘はコンビで詐欺をしていたみたい…リアちゃんと千歳ちゃんが詐欺に関する証拠を探してくれた』

「そうか…んで、襲われた可哀想な被害者さんは?」

『すっかり錯乱しちゃって、しきりに「殺される」とか喚いていたよ』

「それだけ話せれば十分だな」

 

「ありがと」と情報を送ってくれた彼女に感謝すると、通話を終了させソファに腰を掛け一息つく。

今は自分と雪泉しかいない空間を見渡す…恵利奈と真希奈、ウェルシュはジュースを買いに出かけておりこの場には二人しかいなかった。

椅子に座って考えことをしている雪泉を横目に戒は菅井と田荘に関する情報を読む。

大まかにまとめるとこうだ…共に詐欺の常習犯であり主に十代から二十代の若者、何れも立場の弱い者たちから金額を騙し取っていたらしく、彼らのせいで自ら命を絶った者も少なくはない。

挙句の果てに、一度関わったらしつこく付きまとい被害者の身内にすら手を出そうとするほどの陰湿さから彼らの仕事に関わった連中からも「毒虫」と蔑まれる始末。

弱い立場の者から卑劣な手段で追いつめて金を搾り取る…まさに「悪党」を呼んでも何ら差支えのない人物に戒は少しだけ気分を悪くさせたが、すぐに調子を戻すと先ほどから黙っている彼女に不安を覚えた戒は声を掛ける。

 

「どうしました。雪泉さん?」

「……田荘と言う方を守る必要があるのでしょうか?」

 

戒からの問い掛けに気まずそうに答えた雪泉に何も言わず、話を促すように口を噤んだ。

僅かに顔を上げた彼女は言葉を続ける。

 

「私は、常に正義について考えています。ですが、あの人の目的は私腹を肥やす者を仕留めること…彼の行いを、止める権利があるのか……分からないのです」

 

その言葉に戒は合点がいった。

恐らく自分よりも先にあの資料を読んだのだろう…まだ出会って間もないが、彼女が悪を許さない、正義感の強い人物だと言うのは分かる。

飛鳥から聞いたが彼女は彼女なりに『正義』について考えており、そしてその答えを必死に探そうと努力しているのだ。

そんな彼女をまるで雪のようだと戒は思った。

雪のように純粋だからこそ、自分の変身した姿に子どものように素直に喜び…悪を許さない心を持っているからこそ今こうして悩んでいるのだ。

 

「……雪泉さんは、どうしたいんですか?」

「私は、犯人を助けたいです。しかし、それが目の前の悪を見逃すと思うと……」

 

そこまで言うと、雪泉は再び俯いてスカートの裾を力強く握りしめていた。

戒はそんな彼女の頭を撫でていた。

あまりにも突拍子のない行動に雪泉は慌ててその手をどかそうとする。

 

「なっ、何を…」

「いや、リラックスさせようと…嫌でした?」

「別にそう言うわけでは……」

 

嫌と言うわけではない、むしろ心地好い……。

しばらく、頭を撫でていた戒だったがやがてその手を離し椅子に座ると雪泉と向き合った。

 

「俺は、たくさんの人を守りたいから戦っているんです。それは犯人に対しても同じなんですよ」

「え?」

「シンプルに考えましょうよ。犯人を助けて田荘も裁く、それで充分でしょ」

 

あまりにも単純な答えに雪泉は唖然とするしかなく、割り切った考え方の出来る彼に何処か羨ましく思っていた。

 

「門矢さんは、すごい方ですね」

「いやぁ全然、優柔不断な奴って良く言われます」

 

そう言ってへらへら笑う彼につられて雪泉も微笑んだ。

 

「あ、笑ってくれた。雪泉さんのこと綺麗な人だと思ってたけど、笑うと可愛いですよね」

「そ、そうでしょうか?自分のことはあまり興味なくて…///」

 

「綺麗」や「可愛い」の言葉に雪泉は顔を赤くする、良く周囲からも言われるがあまり自覚がないのだ。

だが、鈍感や朴念仁を地で行く戒は、男子に対してあまり免疫のない彼女に熱を与えていく。

 

「そうですよ、初めて会った時は天使か何処かの姫様みたいだと思いましたもん…」

「も、もうおやめください……羞恥でどうにかなってしまいそうです///」

 

その言葉の通り雪泉の顔は真っ赤に染まっており、体温もこれ以上言われたら噴火でもするんじゃないかと思われるほど熱を持っていたのだ。

そんな話をしていると、ウェルシュだけがタイミングを狙ったかのように出てくる。

小さな道を作りながら戒たちの元まで走行すると、ディスプレイで感情を表しながら茶化すように話しかけてくる。

 

『お邪魔だったかな?』

「いや…てあれ。二人は?」

『あー……まだ買い出しをしていてね。○ァンタを買うかド○ペを買うかで揉めていたから私だけ帰ってきたよ』

 

ウェルシュの歯切れの悪い言葉に疑問符が浮かんだが、彼は話を変えるように戒に推理の進展を訪ねる。

 

『それよりも、犯人の目処はたったかな?』

「ああ……よしっ!休憩終わり!!」

「…行くのですか?」

「えぇっ…犯人のゲームをこれで終わらせます。行こう、雪泉さん」

「……はいっ!」

 

二人の絆を感じ取ったアーサードライバーに内蔵されたシェアリングナイトフォースはエラーを破壊するための力を、正義の証明者たる彼女に共有させたのと同時に、二人は犯人が来るであろう場所へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

なお、この時真希奈と恵利奈が様子を見ようと隠れており……。

 

「む~、戒君の周りに女の子が増えた~……」

「はいはい、私たちは美海と美緒お姉ちゃんに連絡するよ」

 

大事な甥っ子に女の子が増えたことに内心複雑な真希奈と楽しそうにそれを見ている恵利奈が彼女を慰めると、姉たちに連絡を取った。

 

 

 

 

 

その人物は田荘が今潜伏しているであろう病院を訪れていた。

周囲を見渡し、警察の関係者がいないか確認すると彼はゆっくりと歩を進めた。

一歩一歩踏みしめるように病院へと近づいていく…。

もう少し、もう少しで全てが終わる…昨日から、その言葉を頭の中で何度も何度も繰り返しながら歩く。

最初のターゲットを仕留めた時、国や人を守るための手が汚れたのだと分かった。

だが、これしかなかったのだ…自分が、あの子が救われるにはこうするしかなかったのだ。

目的地まで後数メートルと言ったところで足を止めた。

仮面ライダーの少年…戒と、最初の事件の目撃者にさせた挙句、銃器を向けてしまった少女…雪泉がいた。

 

「……俺も鈍ったなぁ」

「平和を謳歌出来ている証拠ですよ。そのまま止まってくれませんか?『轟修吾』さん」

 

戒のその言葉に、彼……轟は自虐的な笑みを浮かべると「なぜだ」と彼に問い掛ける。

 

「最初の被害者の検視結果を見た時、全ての急所が外されていることに気付いた。犯人は身体の壊し方を知っている人物…けど、それだけだと医者の源田さんも候補に入る」

 

「そこで」と戒は自信の推理を続ける。

 

「考え方を変えました。あの場所で犯行を行う理由です……深夜とはいえ人がいる可能性もある。現に犯人は雪泉さんに見られていた、でもそうしなければ戸籍を誤魔化していた犯人を見つけることが出来なかった。それには膨大な時間が必要となる」

「だから、職についている源田先生に犯行は無理だと…なるほど。証拠も押さえてあるんだろ?」

 

無言で頷いた彼に轟はため息をついていると、道中で戒から推理を伝えられていた雪泉が口を開いた。

 

「田荘たちの犯罪の証拠は警察が押さえてあります。もちろん、田荘本人も既に……」

 

その先は言わなくても轟には分かった。

警察が既に田荘の会社を取り押さえられ、その本人も逮捕。

つまり、彼がもう救済を行う理由がなくなったと言うこと…しかし、それでも彼は止まらない、もう止めることが出来ないのだ。

ポケットに入れてあるエラーカセットを起動させる。

 

【LOADING…GAME START…】

『頼む、救済をさせてくれ…頼むよ』

「……例え、それであなたが救われても…俺は止める」

『あなたは…まだ引き返せる。人間を捨てるべきじゃない』

 

スナイパーへと融合した彼は、悲痛な声で訴えかけるが戒とウェルシュはその目を正面から受け止めその場から離れない。

そして雪泉も、自分の出した答えをスナイパーに向けて話す。

 

「私は、あなたに人を殺めて欲しくない。陳腐な言い方かも知れませんが…あなたは優しい方です」

 

「だから」と彼女は巻物を取り出して構える…彼を止めるために、自身の『正義』を証明するために。

 

「私が、私たちが止めます!私の正義のために!!…忍、転身っ!」

「変身っ!!」

【RIDE UP! RHYTHM! 音色と踊れ!GREEN BEAT!!】

 

雪泉は雪女を彷彿させるような白い和服……両肩と胸元を大きく露出させた清楚な雰囲気と艶やかな雰囲気を両立した忍装束に姿を変え、戒も緑色のパーカー型霊装…リズムリンクのアーサーへと変身する。

そして、スナイパーに掴み掛かると病院から離れた場所へと戦いの場が変わった。

 

『どうあっても、邪魔をするか…来いっ!』

 

アーサーを蹴り飛ばして距離を離し、宙に投げたエラーカセットを狙撃すると右腕がライフルと一体化したポーントルーパーが一体召喚される。

スナイパーと共に狙撃を開始するがアーサーは軽快なステップからの横転で、雪泉は魔力で生成した氷の盾で防ぎ、入れ替わるようにアーサーはピアノアローによる斬撃で怯ませると、緑のボタンを押して音楽を流すと攻撃を開始する。

雪泉も得物である扇子を振って日本舞踊に似た動きでスナイパーたちを翻弄させると、隙を狙って氷弾を飛ばす。

 

『……!!』

 

雪泉の方を脅威と判断したポーントルーパーは氷弾を躱すとライフルと一体化した右腕を彼女に向けて発砲するも、それを舞うように避けてから距離を詰める。

がら空きになった胴体に掌底を浴びせてからステップを踏み、脳裏にベートーヴェンやバッハといったクラシック音楽の譜面を思い浮かべながらそれに合わせて扇子や掌底を絡めた攻撃で敵を追い詰めていく。

 

「ふっ!そこです、秘伝忍法『黒氷』っ!!」

『ギィッ!』

 

フィナーレを飾るように精霊術で生成した五つの氷弾を生成すると、それを一つに合わせた鋭い氷塊を前方に飛ばす。

一方でアーサーとスナイパーは射撃戦を展開していた。

 

『そこだっ!』

「おっと、そらっ!」

 

銃器を狙撃銃からピストル、マグナムからショットガン、マシンガンピストルへと立て続けに変えながら発砲されるスナイパーの狙撃弾をアーサーが襲う。

それを横転して躱すと共に、軽快なステップで動くアーサーがピアノアローで撃った矢を彼は召喚した銃器で防ぎそれを足場代わりにして銃撃を開始する。

堅実な動きと確実な狙撃のスナイパーと、スピーカーから流れる音楽に乗ってダンスのような軽快なステップでテクニカル&トリッキーな動きで翻弄しながらも精密な射撃を行うアーサーの戦いは熾烈を極めていた。

すると、曲の終わりと同時に雪泉と戦っていたポーントルーパーが吹き飛ばされる形で乱入するとアーサーはスナイパーもろとも蹴って距離を離した後、ドラゴンカセットを起動させて赤い騎士…ドラゴンリンクへと戻る。

 

「雪泉さんっ!」

「はいっ!」

【MAGICAL ARTS! BOWABOWA KACCHI-N!!】

 

アーサーのやろうとしていることを感じ取った雪泉が返事をすると、緑色のボタンを押して両脚が冷気を纏う。

雪泉は秘伝忍法『樹氷扇』で巻き起こした冷気の渦にアーサーは飛び込むと、巻き込まれたスナイパーとポーントルーパーに赤いドラゴンの魔力を纏った冷気の蹴りによる連撃を浴びせた。

 

「「合体秘伝忍法『暴牙竜氷旋(ぼうがりゅうひょうせん)』っ!!」」

『『ガアアアアアアアッッ!!!』』

 

二人の奥義をまともに受けた二体は渦から弾き出され地面に転がる。

身体中に黒いノイズが走っているが、それでも立ち上がろうとするスナイパーに対してアーサーと雪泉は言葉を掛ける。

 

「……もう、苦しまなくて良いんだよ。これ以上、自分を追い詰める必要もない」

「全ての原因は、田荘たちです。ですから…あなたの責任ではありません」

『っ…気付いていたのか』

 

その言葉にスナイパーは構えていたライフルを下ろす……互いに語らずにいると、スナイパーはポーントルーパーを撃ち抜く。

 

『……ずっと、考えていた。俺に何が出来るのか、な。だからこの道を選んだが…結局は……そうか』

『マスター……』

 

一人で納得すると、スナイパーは武器を消して両腕を広げた。

その姿勢から先ほどのような、敵意や威圧感は感じない……。

 

『負けたよ、仮面ライダー…それと、お嬢ちゃん。俺を、解放してくれ』

『俺からも頼むよ。雇い主が腑抜けたんだ…役目を終えた傭兵はただ消えるだけさ』

「……」

 

彼の言葉を聞いたアーサーはリズムリンクに姿を変えるとピアノアローにセットし、構えると、引き金を引いてシューティングフィーバーを放つ。

美しい七色の音の矢は、まるで孫娘が好きだった演奏と重なって見えた。

 

『…ありがとうなぁ』

 

呟きと共に、スナイパー・エラーの身体は爆散した。

 

 

 

 

 

「すぅー…すぅー…」

 

寝息を立てて眠る戒の腕を自分の首に回して雪泉は歩いていた。

あの戦闘の後…魔力と精神力を使い果たしていた戒は轟の身柄を佑斗に任せると、その場で倒れるように寝てしまったのだ。

恵利奈からも頼まれた雪泉はこうして彼を自宅まで送っている最中である。

ふと、彼の横顔を見ると雪泉は目を逸らしてしまう…もしこの場に第三者がいたら、熱のこもった視線を彼に向けていただろう。

あの時の言葉が、手袋越しでも伝わる温かさが自分の心に小さな微熱を与えていた。

 

(……いつか、もしその時が来たら///)

 

彼の素敵なお嫁さんになりたい……。

そこまで考えた雪泉はすぐにその思考を切り離すも、彼への想いと頬から感じる微熱を消すことなど出来なかった。

そんな考えをしていると、目的の家に着いた…ここが彼の家だろう。

雪泉はインターフォンを押した。

 

「戒ですかっ!?恵利奈から聞きましたよ、また無理をしているって…え?」

 

ドアを開けて出てきたのは当然の如く美緒…しかし、この瞬間彼女の時間は止まった。

なぜなら、彼女の目に映っているのは眠っている息子二号に肩を貸している謎の美少女(しかもGカップ)がいたからだ。

おまけに、彼女の目線からだと眠っている愛息子の顔に胸を押し付けているようにも見える。

 

「……」

 

一瞬の静寂、そして…。

 

「あ、あああ、あなたは誰ですかっ!?私の息子二号に何をするつもりですかっ!乱暴するつもりですね!薄い本みたいに、薄い本みたいにっ!!」

「えぇっ!?あ、あの…」

 

何やらとんでもない勘違いをする彼女に雪泉は誤解を解こうとするが、増々ヒートアップして自分に問い詰めてくる美緒になす術もない。

 

「お、落ち着いてください。門矢さんのお母様、ですよね?私は月閃女学館の…」

「誰が『お義母様』ですかっ!あなたにお義母様と呼ばれる筋合いなんてありませんっ!!」

 

増々誤解を深めてマシンガントークをする美緒に、この後雪泉はしばらく圧倒されるのであった。

To be continued……。




 雪泉がメインのお話でしたが、いかがでしたでしょうか…フラグが立ってしまいましたがカー君は朴念仁ですので気づいてません。
 近いうちに月閃メンバーを出演させて、その後は新フォームのお披露目の予定となっております。次回はコメディチックです。
 ではでは。ノシ
スナイパー・エラー CV大塚明夫・諏訪部順一
元自衛隊員の『轟修吾』が融合した姿。軍隊の特殊部隊のような漆黒の武装に身を包んでおり、照準器のようなモノアイが特徴。
銃器による精密射撃を得意とし、スナイパーライフルからピストル、リボルバーやマシンガンピストルなどの銃器ならば、魔力がある限り無尽蔵に召喚することが可能。
自殺に追い込まれた孫娘の復讐のために、エラーカセットに手を染めたが幹部エラーのことは信用していなかった模様。エラーの人格の方も融合者と意気投合していた。

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