仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士 作:名もなきA・弐
それでは、どうぞ。
「あの、大丈夫?お連れの方」
「あっ大丈夫です。足が痺れているだけなんで」
「嫌でも、白目向いていますけど」
「基本、白目向いているぐらいにお茶目は連中なんで。少ししたら元気になりますから」
前に座っていた男性からの問いに、戒や両備が苦し紛れのフォローをする中で魂を浮かばせて遊んでいる親父を見る。
「半端ない、半端ないよ親父さん…人魂取ったよ」
「ま、待って落ち着きなさい。本当にあいつらの魂なの?……てか、どうして魂に眼鏡がかかっているのよっ!!」
「魂に眼鏡ってよりも眼鏡が魂なんだよ、きっと!!」
ぽつりと呟いた戒を落ち着かせるように、身体が震えている両備が別の可能性を提示するが忌夢らしき魂を見てツッコミを入れる。
それに対して戒が良く分からない理論をぶつけていたが咳払いをして本題へと突入する。
「でも大丈夫だ。お葬式も直に終わるし後は出棺…親族の方々だから俺たちが何かするわけでもない」
一先ずは、親父の機嫌が直って全員の魂を返してくれることを優先して二人は大人しく正座する。
やがて、出棺の儀へと移っていたがここでおばちゃんがあることを親族たちに打ち明ける。
「ごめんなさい、私…腰が今悪くて……そうだ」
どうするか困っていたが、何か思いついたおばちゃんは正座をしていた戒と両備の太刀の方に振り向いた。
「戒君、両備ちゃん。手伝ってくれない…棺桶運ぶの」
その一言を聞いた二人の反応は早かった。
まず戒が左手で自分の右腕を思い切り殴打して捻挫させ、両備は右腕で左肩を外した。
一般人ではまず見えないほどのスピードである。
「あのーすいません、両備は今左肩外していて」
「俺も見ての通り、捻挫してるんですー。ごめんなさいおばちゃん」
「あらそうなの?無理言ってごめんね」
たった今自分で負傷させた部分を見せてそう謝罪するが、当のおばちゃんは「気にしないで」と言いたげに笑みを見せた。
背後では親父が魂をこねていたが……。
「……と、思っていたら気のせいだったぁっ!!やります!是非ともやらせていただきますっ、ね!両備ちゃん」
「いやー!実は一度棺桶持ってみたかったんですよ!ねっ、カー君!!」
凄まじいスピードで棺桶のところまで近づくと、笑顔で親族の人たちに話しかける。
だが、内心では笑顔どころではなかった。
(やっべえええええ!やれるのっ、いけるの両備っ!?たった今左肩を外したばかりなのよっ!!?)
(俺だって、右腕捻挫してるんだけどっ!?超痛いんだけどっ!!)
「じゃあ、門矢君と両備ちゃんは足の方を持ってね。『せーの』で行くから」
激痛が走る左肩と右腕を抑えながら棺桶を持てるか不安を覚えるが、親族が段取りを進めて行くので片腕だけで棺桶を運ぶ覚悟を決めた。
そして「せーの」と親族への合図と共に、片腕に魔力を集中させて息の合ったコンビネーションで棺桶を持ち上げた。
その際、力を入れ過ぎてしまったことで棺桶を男性の方に倒してしまったが…。
「おじさーん!?どんだけバカ力を出してるのっ!!おじさんが挟まってるうううううううううううううっっ!!!」
棺桶の下敷きになっている男性を見て、親族の一人が悲鳴をあげる中で棺桶の窓が開くとエクソシストみたいな態勢にあっている親父の遺体を見て完全にパニックになってしまう。
「やっべ!」と冷や汗を流した戒は両備と共に戻すがまたしても、必要以上の力を入れてしまったため棺桶から親父の顔が飛び出てしまう。
「しまった!戻す、詰め直すわよ!!」
「…くそっ!固くて戻らない……んぐぐぐっ!!」
「嫌、踏んでるからっ!!すんごい罰当たりなことになってるからっ!!」
しかし、死後硬直の影響か中々棺桶に戻らなくなってしまったため、どうにか戻そうと力を込めるが足使っているため絵面的にまずい光景になってしまっている。
足に力を込めて引っ込めることに成功したが今度は親父の脚が飛び出てしまう。
「足出てきたあああああああっ!!?何、三途の川でシンクロでもしてるの親父さんっ!?」
親族のツッコミが響き渡る中、嫌な音をたてながらも脚を掴んで棺桶の中へと詰め戻そうとする。
しばらくしてようやく棺桶の中に入ったが、なぜか親父のナニが棺桶の横から飛び出してしまう。
「何かとんでもない物飛び出たああああああああっっ!!どういうこと!?しかも何でありえない場所からとび出てるのっ!?」
「し、死後硬直じゃないですかね…多分」
「いやっ、死後硬直ってあんなとこまで固くなるのっ!!?」
戒が苦し紛れの説明をする中、両備がふと親父(幽霊Ver)の方を見ると彼は魂でそばを作り始めていた。
それを戒に知らせた瞬間、彼の顔は青ざめる。
「も、もたもたしてられないっ!!さっさと運ぶぞおおおおおおっっ!!!」
「ちょっと!二人ともそんな勝手に…!」
親族の声を無視して片腕を器用に使って棺桶を担いで外に待機してある霊柩車へと運ぼうとするが曲がり角でなぜか引っ掛かってしまう。
「引っ掛かってる!とんでもないのが引っ掛かってるっ!!」
「んぐおおおおおおおおおっっ!!負けてたまるかあああああああ……!!!」
「待ってえええええええっ!折れるっ、折れちゃううううううううっっ!!!」
曲がり角に丁度、親父のナニが引っ掛かってしまい、進行することが不可能になってしまったのだ。
それでも、諦めずに前へ進もうとすると鈍い音と共にナニへのダメージが入ってしまうがそこで落ち着いた声が二人を制した。
「戒君、両備ちゃん。曲がり角は身長にね」
「そうそう。仏様は大切にしないと、無理せずこっちの方から曲がって…」
「じゃあ……折るわねっ!!」
おばちゃんの声に、親族の人も曲がり角の行き方を慎重に進ませようとするがおばちゃんが飛び出ていた親父のナニを蹴って折った。
「『折る』ってそういう意味じゃないからっ!!てか、旦那の大事な物を曲がり角のためにへし折ったよ!?」
「あらっ?釘が抜きかけてる…」
そんな親族の悲痛な叫びを無視して、先へ進むように戒と両備を促すが少しだけ出ている釘に気づいたおばちゃんは先ほど折ったナニをハンマー代わりにする。
「奥さあああああああんっっ!!何か怨みでもあんのっ!?旦那のアナログスティックに怨みでもあんのっ!!?連射が上手くいかなかったのっ!!?」
「ほりゃぁあっ!!」
ツッコミが響く中、おばちゃんがナニを思い切り振り下ろした瞬間棺桶の底から坊主が飛び出してきた。
当然、それに対して親族からのツッコミが入る。
「何で坊主だああああああああっ!!変なお経でも悪ふざけにも程があるだろっ!!?てか、さっきのあれって坊主のじゃないのっ!?あっちの方も坊主になっちゃったんじゃないのっ!!?」
棺桶から飛び出している坊主はヘンテコなお経を続けているが、今度は坊主が引っ掛かって進行を妨げてしまう。
おばちゃんは何の感慨もなく、坊主を棺桶からへし折ったことで通れるようになったが釘が抜けかけていることに気づいた彼女は坊主を使って釘を打つ。
「奥さああああああああんっ!!苛々してたのっ!?変なお経で苛々してたのっ!!もう許してやってえええええええええっっ!!!」
渾身の力を込めて坊主を棺桶に叩きつけた瞬間、親父の遺体は勢い余って飛び出してしまう。
親父の身体はそのまま転げ落ちて行くと近くに止まっていたトラックに突っ込んでしまい、それに気づくこともないまま、トラックの運転手は出発した。
戒や両備たち一同が絶句する背後で、親父がそばにした魂を鍋に入れていた。
戒と両備はおばちゃんを乗せた霊柩車でトラックを追跡していた。
運転は両備が行っておりどう考えても無免許なのだが、ギャグ補正として眼を瞑ってほしい。
アクセルを全開にして霊柩車にあるまじきスピードを出しながらもトラックと並立することに成功する。
両備が運転手に、荷台に親父の遺体が刺さっていることを教えるが大音量で音楽を聴いているためその声は聞こえない。
「両備っ!俺が直接回収するっ!!」
「分かったわ!」
その声を聞いた両備は霊柩車を寄せて親父の遺体に引っ張り出しやすくするが、荷台へと深く入り込んでしまう。
それと、同時に親父のナニが飛び出してきた。
「何でだああああああああっっ!!?」
「どういうことよっ!!一体、中でどんな状況になってるのよっ!!!」
「ち、ちょっと待って!手袋つけても流石にそれは無理っ!!おばちゃん、親父…てよりも親父さんの息子を…」
「えっと、どれ?」
おばちゃんのその言葉に戒は荷台の方を振り向く。
荷台からは無数のナニが飛び出しており、はっきり言ってかなり不気味な光景が広がっていた。
「どうなってんだああああああああっっ!!荷台から無数のナニが広がっているんだけど!親父さん、一体何本生えているんだっ!?どんだけ欲張りなんだっ!!!」
「待って!雅緋から聞いたことあるわ、あれは非合法で養殖されたミル貝の『スーパーミル貝』…見た目はナニと似ているけど、闇市場で売れば値の張る高級珍味よ」
「珍味って言うか、チン味じゃね!?とんでもねーわっ!!」
両備が説明をしたのを戒がツッコム。
恐らく荷崩れを起こしたのだろう、おまけに見た目が似ているためどれが親父のナニなのか見分けがつかない。
どうするか悩んだ時、戒の頭に妙案が浮かぶ。
「いやっ、出来る…!おばちゃんなら出来る…何百回、何千回と親父さんのナニを見てきたこの人なら」
「でも、私…」
「自分を信じろ!自分の信じる親父のナニを信じてくださいっ!!」
「親父のナニを信じるって何?」
戒の発言におばちゃんは視線を逸らす中、戒はシリアスな表情で彼女の両肩を掴む。
両備は冷静に発言していたが…。
「おばちゃん言いましたよねっ!涙なんかより笑顔で迎えたいって…こんな結末じゃ笑えないですよっ!!」
「いやっ、赤の他人が見たら涙流して笑うと思う」
両備の冷めたコメントをスルーしながら戒はおばちゃんに話しかける。
「今なら間に合うっ!葬儀をやり遂げて親父さんを見送ってあげましょう!それが生きる者たちに出来る唯一のことです!」
真剣な表情とその真摯な態度に、不安を覚えていたおばちゃんはゆっくりと息を吸い込んだ。
しばらく眼を瞑ると、やがて開くと態勢を戒と変える。
「分かったわ……視覚情報に囚われては駄目よ、感じるの。思い出すのよ、あの○○を、○○を、○○…○○…」
「すごい生々しいことを言ってるんだけどっ!聞きたくないんだけどっ!?」
両手を合わせて瞑想するおばちゃんの発言に、両備は顔を赤く染めるどころか聞きたくもなかった事実に顔を青ざめてドン引きするしかない。
やがて、開眼した。
「そこだっ!」
叫んだ瞬間、おばちゃんが身体を乗り出すと思い切り荷台に生えていたナニの一つを蹴って折った。
「だから、何で折るんだあああああああああああああっっ!!?ちょっとっ!どんだけ親父さんのナニに怨みを持ってるんですかっ!!落ち着…」
充血させながら荷台のナニを折っていくおばちゃんに戒はどうにか落ち着かせようと羽交い絞めにするがバランスを崩して霊柩車から出てしまう。
何とか支えにしようと咄嗟に荷台に生えていたナニの一つを掴んだ瞬間、荷台から親父が出てきた。
「出たっ!親父さんが出たぁっ!!」
「嫌あああああああああっっ!!離したいけど離せないいいいいいいいいっ!!」
両備が叫ぶ中、戒はとんでもない物を掴んでしまっていることに半泣きになりながらも話すことが出来ずにいる。
しかもおばちゃんも抱えているため、いくら戒でも限界が近い。
彼女が霊柩車をトラックに寄せようとした時だった。
しかし、親父の遺体が出てしまい、戒とおばちゃんが落ちようとした時に定食屋の親父の亡霊が二人を受け止めた。
何が起こったのか呆然とする中、戒と両備の脳内に声が聞こえてくる。
『門矢の坊ちゃん、両姫ちゃんの妹ちゃん…やっぱり君らやみんなは愉快な人たちだねぇ…ありがとよ。涙も引っ込むような賑やかな葬式を…これで後ろ髪引かれることなく安心して逝ける…色々驚かせちまって悪かったな…家内やみんなにも謝ってといてくれ…最後に、オイラの最高の友達に…文字通り魂を込めた料理を送る……』
魂が戻っていた全員がお骨を拾い、葬儀が完全に終了してから戒と両備は定食屋へと再び訪れていた。
店内のカウンターには肉うどんと天玉うどんがあり、それが親父の作った物だとはっきり分かる。
二人はそれに対して、何か言うこともせず両手を合わせて「いただきます」と一言。
そしてうどんの麺をすすり始めた。
変わらないあの味に涙を零す中、無事にうどんを平らげたのであった。
底に入っていたスーパーミル貝が発見次第、親父の写真に叩きつけたのは完全な余談である。
自分は一体、何を想ってこれのパロを書いたのだろう?何も思い出せません、ただ無表情でキーボードをカタカタしていたのは覚えています。
ではでは。ノシ