仮面ライダーARTHUR 王の名を持つ仮面の騎士 作:名もなきA・弐
それでは、どうぞ。
祐花はスマートフォンの画面に映る写真を見つめていた。
そこに映るのは幼い我が子たちと愛する妻の笑顔…そして気恥ずかしそうにはにかむ自分を眺めながら、ある種のホームシックが胸を打つがそれを理性でしっかりと押し留めてスマートフォンをしまう。
(…絢花、倫花、乱花)
家族の名前を胸中でそっと呟いた彼は、やがて顔を引き締めると移動を開始した。
ラースが集めた情報では今いる場所…Y国ではAAA機関、すなわち財団Xが中心となって活動を開始しているらしい。
表向きは世界平和・治安維持の為の実行機関だが実態は世界政府に取り入った財団が発足した謂わば世界政府公認の研究部門だ…考えただけでもはらわたが煮えくり返る。
やや治安の悪いここでは追剥ぎや強盗などは日常茶飯事らしく真っ当な人間も泥に染まらなければ生きていけない…そんな連中からしてもこの場を占領している奴らは恐怖の対象なのだろう。
「それにしても」と彼は思う。
例の『ウィルス』は一時期に繁殖したものの、近年になってからはウィルスそのものが消滅する事象が起きている。
詳しいことは分からないが『誰か』がそれを行っていることだけは前回調べた情報で分かった。
ならば自分の役目は奴らの施設を潰す……それだけだ、そのためだけにこの姿を受け入れたのだ。
そして彼は存在感を放つ建物の前で足を止める。
「何だ貴様は?」
そこに現れたのは数人の女性、しかし彼女たちは並の格闘家でさえも圧倒させるほどの殺気を放つ。
しかし、祐花はそれを物ともせずに歩き始める…一歩一歩、少しずつだが確実にこちらへと近づく彼に女性たちは身構えすらせずただ笑うだけだ。
それは当然だ、彼女たちはウィルスの感染者であり機関のソルジャー…男性ましてや年端のいかない青年に負けるなど想像もつかない。
その驕りこそが彼女たちの失敗だった。
彼の首をへし折ろうと女性の一人が腕を伸ばすが祐花はそれを掴み捻り上げる。
地面に倒された女性は突然自分の視界が目まぐるしく変わったことに動揺するが、彼は頭部を踏みつけ意識を奪う。
「なっ!?き、貴様っ!!」
リーダーらしき女性は笑みを消すと残りのメンバーも襲い掛かる、しかし祐花は彼女たちの攻撃は難なく捌き、逆にカウンターを叩き込んで彼女たちの意識を奪う。
やがて最後の一人になったリーダーの女性を睨み、指をくいくいと煽るように挑発をする。
「っ!!」
その態度に女性は怒りで顔を朱に染める…自分はソルジャー、機関の護衛を任されたエリートだ。
それが、こんな少年に良いように挑発されている…こんなことが許されるわけがない。
人間では出せないスピードで女性は祐花に襲い掛かる。
動きを一つすらしない勝利を確信した女性は歪な笑いを浮かべたが、それでも攻撃は届かなかった。
「あっ、え…?」
「遅い」
何時の間にか召喚したエレキノタチの峰部分が彼女の鳩尾に食い込んでいた。
何が起こったのか分からない女性は呆然と、僅かにある意識で彼の武器を見るがそのまま頭部を殴り飛ばされた彼女はそこでようやく意識を失った。
「…獲物を相手に舌なめずりをするのは三流のすることだ」
そう言うと、祐花は扉を斬り捨てて内部へと侵入した。
【侵入者確認、侵入者確認、ソルジャー及び所属者たちは直ちに迎撃せよ!】
けたたましいアラート音とアナウンスを気にせず祐花は足を進めるがやがて白服を男性と女性たちが立ちはだかる。
【M■G■A!】
【■C■AG■!】
渋い男性の電子音声が鳴り響いた化石のようなUSBメモリを頭部、左腕に挿し込むと構成員は流れる溶岩と燃え上がる炎のような身体、溶岩を凍らせたような黒い身体と白い体色の異形へと姿を変える。
残りの女性たちは額に現れた何かの投入口に銀色のメダルを投入すると一瞬だけ包帯と銀色のメダルに包まれてバイソンとシャムネコをモチーフに人間の頭部が埋め込まれた異形へとその身を変えており身体の一部が刃物やらハンマーになっている。
それ以外にも元の服装はそのままに骸骨を模した仮面を装着した異形も複数確認出来る。
『…確認完了。マスター、彼らの中に人間はいません』
「なら、容赦なくやらせてもらう」
祐花はプレイアブルドライバーを装備すると、ラースカセットをコートのポケットから取り出し起動する。
【WRATH!!】
「……変身」
【RIDE UP! WRATH! 憤怒の雷!THUNDER SWORD!!】
ラースカセットをスロットに装填すると、青年は左側のサイドグリップを握ってトリガーを引いて電子音声を鳴り響かせる。
青いスーツの上にプテラノドンを模した金色の霊装を纏い、変身完了したムネノリは襲い掛かってきたシャムネコの怪物を蹴り飛ばす。
合気道にも似た武術で相手を圧倒し、カウンターを主とした戦闘スタイルで相手を圧倒する。
『図に乗るなっ!!』
シャムネコの怪物が刀剣を生やした腕を振り下ろすが彼は両腕の籠手で防御し、空いた手で水色のボタンを押す。
【MAGICAL ARTS! BIRBIRI GASSHA-N!!】
身体中に金色の雷を張り巡らせたことでシャムネコの怪物に何億ボルトの電流が通電するとそれを纏った足で迎撃を行う。
『ミギャアアアアアアアアッッ!!!』
シャムネコの怪物が吹き飛び今度はバイソンの怪物がハンマーを振り下ろすが近くにいたマスクの怪物を盾にして防ぎ、殴り飛ばす。
マグマの怪物と氷の怪物に至っては攻撃すら出来ないまま一方的に蹂躙されてしまい、怪人たちが一か所に纏められた。
【CRITICAL ARTS! COMBO BREAK! WRATH!!】
「はあああああああああああああああっっ!!!」
ラースカセットを必殺技用のスロットに装填し、翼へと変化した白いマントを軽くはばたかせ、必殺の跳び蹴り『雷神脚』を放った。
その一撃は周囲にいた怪物たちも巻き込み、一瞬で全ての怪物たちを殲滅させた。
【ATACK ARTS! RAIKEN SHOURAI!!】
召喚したエレキノタチで扉を斬り裂き、最上階へと乱入する。
道中抵抗する怪人たちはいたがムネノリにとっては雑魚に等しく、武器を使うまでもなくここまで辿り着いたのだ。
そして、広い部屋の中央にある座席には彼に背を向けるように座っている女性がいる。
ムネノリは武器を肩に担いだままゆっくりと進み、一定の距離で止まる。
「良く来たわね、侵入者さん」
鈴の鳴るような声でそう言いながら、その女性は座席を回転させて彼の方向を向く。
サファイアを思わせる長く綺麗な髪をなびかせ、味気なくも一目で高級品と分かる胸元を大きく開いたドレス。
そして、モデルのような長身と豊満な肉体を持った美女が艶やかに微笑む。
「この研究所を潰しに来た」
「直球ね、そんなことして何の意味があるの?」
「答えると思うか?」
構えを崩さないまま、彼女を複眼で睨むが彼女はそれに対して悠然と微笑む。
そして、長い脚を見せつけるように組む。
「そうね、確かにウィルスは消滅する運命かも知れない。でも、必要なサンプルは既に財団が回収済み。あなたや他の連中のおかげで機関は解体されるかもしれないけど意味はない…それなら」
座席からゆっくりと立ち上がり、ムネノリに近づく。
そして白魚のような指で彼の装甲をなぞるように触れ、艶のある視線を向ける。
その声と動作は並の男ならいとも簡単に陥落させられたであろう…しかし。
「お前らの存在は、必要ない…お前の巣食う悪、ここで断ち斬る…!!」
「…そう。残念……ねっ!!」
視線を鋭くした美女はバク転してムネノリの顎にハイヒールを履いた足で蹴り飛ばそうとするがそれをバックステップで回避する。
美女は豊満な胸の谷間から白いドームから赤いボタンが突き出た、持ち手部分が黒いスイッチを手に取る。
【L■ST ■NE…!!】
「ふふっ♪」
瞬間、持ち手が棘状の突起で覆われドームは血走った眼球のように赤くなり、ボタンの位置がドームの中央からずれた形状へと変化したスイッチを躊躇いなく押した。
美女の身体が黒い煙で全身に覆われ、六分儀座の星座が煌めくとそこには青いメカニカルな怪人が現れると排出されるように繭状の白い糸に覆われた美女が倒れる。
背中に六分儀を背負い、右腕にバスターランチャーを装備しておりカブトムシのようにも見える。
しかし、変化はそれだけでは終わらなかった…包まれた美女の身体が粒子状に分解され、その粒子は怪人の身体へと取り込まれていく。
『さぁ。身体が火照るような、熱い戦いを始めましょ』
「ちっ!!」
そう言った瞬間、六分儀座の怪人はバスターランチャーを発射する。
ムネノリは舌打ちと共にそれを回避するが怪人は他の武装を展開して迎撃を開始する。
エレキノタチに雷を纏わせて高圧エネルギーを両断し、死角からの攻撃を行うがバスターランチャーでそれを防ぐ。
ノーモーションかつ防御のそぶりを見せずに急に防いだ六分儀座の怪人にムネノリは驚く物の、すぐにその場から距離を取る。
『酷いわね、レディから離れるなんて』
くすくすと笑いながら六分儀座の怪人は内部にあるエネルギーが零れる。
その頭部は十二個の目が忙しなく動いており恐らくあの目と彼女本人の戦闘センスが相まって先ほどのように斬撃を防いだのだろう。
「なら…!」
【MAGICAL ARTS! BIRBIRI GASSHA-N!!】
エレキノタチを地面に突き立て、荒れ狂う電流が周囲を砕きながら六分儀座の怪人を襲うがバスターランチャーを地面に発射して相殺すると巨体からは想像出来ないほどのスピードで殴り飛ばした。
「グゥッ!?」
壁に叩きつけられたムネノリは衝撃によって視界がブラックアウトするがすぐに正気を取り戻し、横転して彼女の砲撃を躱す。
『そろそろ、フィナーレよ』
余裕のある態度でバスターランチャーを構えた六分儀座の怪人に対して、ムネノリは仮面の下で軽く笑い、黒と紫でカラーリングされたカセットを取り出して起動する。
【HACK!!】
「…大変身」
【RIDE UP! HACK! 相手を侵食!1・2 HACKING!!】
プレイアブルドライバーにスロットを装填してサイドグリップを引いて電子音声を鳴り響かせると、二つの顔を持ったドラゴン型の霊装が代わりに装備される。
『仮面ライダームネノリ ハッキングモード』……多くの戦いを経験していく内にラースカセットが生み出した異なるエラーカセットで変身する強化形態。
『姿を変えても、無駄よ♪』
嘲るように笑いながらバスターランチャーの砲口にエネルギーを溜めるが慌てずに彼は銀色のボタンを押す。
【ATACK ARTS! DOUBLE HACK!!】
「…ハック」
エレキノタチに薄い紫色の電流が蓄積されると刀身を地面に勢いよく突き立てた。
その瞬間にバスターランチャーが発射されるが砲口からは紙テープと紙吹雪が勢いよく舞い散る。
『なっ…!?』
その状況に六分儀座の怪人は笑みを失い、身体に武装された武器で一斉放射を開始するが水色のボタンを押す。
【MAGICAL ARTS! KATAKATA HACKING!!】
「……サードハック」
手元に魔力で生成したキーボード状のモニターを生成し、それに指を走らせる。
すると、先ほどの電流と同じ色のバリアが球状に包まれたエネルギー弾はそれに通過した途端、砂となってムネノリの周囲に散らばる。
『そんな、私の攻撃が…でもっ!』
六分儀座の怪人は指を鳴らし、まだ残っていた部下たちを集めて進撃を開始するが乱入者がその部下たちを追い払った。
『ぎゃああああああああああっっ!!!』
窓を破って侵入してきたスカイプテラーが主を守るかのようにプロペラを回転させながら高速飛行すると、装備された機銃でエネルギー弾を乱射し多種多様の怪人たちを瞬く間に一掃する。
自身のアジトが、城が破壊されていく光景に六分儀座の怪人は現実を受け入れられずに唖然としてしまうがムネノリはそれを見逃すほど甘くなかった。
【CRITICAL ARTS! COMBO STRIKE! HACK!!】
「…ファイナルハック」
エレキノタチを下段に構えたムネノリは強く踏み込んだ途端、その姿がデータ状となって消える。
しかし、それはある意味間違ってはいない。
自分の足場ごと相手の間合いに侵入したムネノリは彼女の胴体に刃を通し、そのまま思い切り振り抜いた。
『あっ、私が…こんな、ところで…!!』
「お前の悪意は、ハッキング済みだ」
『ああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!』
火花を大量に散らしながら、六分儀座の怪人は苦しげな悲鳴と共に爆散した。
爆発を背後にエレキノタチを振るうと、背後から飛んできたスイッチを手に取る…本来ならばこのスイッチを押すことで人間の精神は解放されるが改造を施されていたのだろう。
ある程度まで達したところで排出された肉体を粒子に分解し、『完全に人間へと捨てるシステム』だったのだろう。
怪人へとなってしまった名前も知らない美女に向けて軽く黙とうを捧げると、ムネノリはスイッチを押し消滅させた。
全ての資料を回収し、施設を完全に破壊した祐花はスカイプテラーに乗り下を眺めていた。
ウィルス感染者が減っている…それを出来る力を持った人物がいる、それだけで少しだけ救われる感じがしたのだ。
「だが」と彼は表情を引き締める…自分の敵は財団Xだけじゃない、『大罪』たちも未だ暗躍を続けている。
それまでは絶対に止まれない、止まるわけにはいかないのだ。
人知れず、彼は決意を固めると大空へと消えて行った。
仮面ライダームネノリの新フォームです。モチーフはハッキングで共通能力は機能や怪人の能力を誤作動させたり書き換えるなどが出来る形態です。プレイアブルドライバーを使用している仮面ライダーは「○○モード」となります。
さて、今回ムネノリの口から妻だけでなく娘たちの名前も出ました。知っている方は彼が何者なのか分かります……多分。
ではでは。ノシ