スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第9話 冥王星

-ヤマト 医務室-

「ふむふむ…よし、2人とも体に異常はないようじゃな」

一通りの検査を終え、診断書を発行した佐渡は2人に異常がないことを確認する。

大気圏のある星とはいえ、地球や火星以外の惑星で一時的に生活した人間に対して、ヤマトではこのように身体検査が行われる。

体内の水分や血圧、心拍数や脳波など、調べる内容は多岐にわたる。

この検査はコロニーや月に人類が住み始めたころにも行われており、もともと地球の生物である人類が別の星や宇宙で生活することへのストレスや地球に似せたとはいえ、やはり異なる部分のある環境での体の変化をチェックするためのものだ。

ただし、今回はそれを含めて、平行世界の人類が果たして自分たちと同じような体の構造なのかを確かめるためでもある。

結果は言わずもがな、だったが。

「当然だろうが」

「まあまあ、異常がなくてよかったじゃないですかー…」

無理やり医務室に連れてこられ、受けたくもない身体検査を受けた竜馬は不機嫌で、そんな彼を原田が落ち着かせる。

「まぁ、そうツンツンするな。ワシは医者としての見地から、そう言っているにすぎん」

「ちっ…あの真田って野郎みてーなことを言いやがって…」

「じゃが、こうして2人の体格を見ても、やはりワシらの世界と君たちの世界の違いというのを感じるのぉ」

佐渡の見解では、2人はこの世界の軍人以上の身体能力と力があり、パイロットにとっては過剰なほどの鍛えられた肉体となっている。

そんな肉体になっているのは2人が乗っているロボットが原因のようで、シミュレーションの結果、並みの兵士には負荷が重すぎて、どちらの機体も竜馬や鉄也のように鍛えられていないと逆に機体に殺されることになる。

「そういえば、ヤマトに乗っているあの2機のその…ガンダム、というのは…」

「ああ、クロスボーン・ガンダムじゃ。といっても、連邦軍が正式に使っているわけではないがの」

「そう、ですか…。(ガンダム?何故か、聞き覚えがある…)」

今まで聞いたことがないにもかかわらず、なぜか聞き覚えがあるように感じたことに違和感を覚える。

似た名前のロボットの名前を間違えて思い出そうとしただけかもしれないと考えた鉄也は深く考えることを辞めた。

「診察は終わりましたか?」

「ああ、古代君。ちょうど終わって、結果を伝えたばかりじゃ」

ノックをし、医務室に入ってきた古代は原田から2人の診断書を受け取る。

異常がないという情報を共有し、資料を返却すると、2人に目を向ける。

「流さん、剣さん…では、僕についてきてください」

「流でいい。俺たちもヤマトと同行すると決めた以上、他人行儀はなしだ」

「俺も同じ気持ちだ。違う世界とはいえ、地球をこのまま放っておくわけにはいかない」

竜馬と剣は既に真田達からガミラスとこの地球のことについて話を聞いている。

違う世界とはいえ、同じ地球が滅亡の危機に瀕していると聞き、黙っていられなかったのだろう。

「ありがとう、2人とも」

「礼を言うのはこっちの方だ。ヤマトが来なければ、餓死していたところだ。おまけに、服まで…」

現在、鉄也が着ている青いジャケットと赤いストールはヤマトで作られたもので、パターンデータを入れることで、実質どんな服でも作ることができる。

このシステムはヤマトで初めて投入されたもので、1年がかりの宇宙での航海をする乗組員たちのためにと特別に用意された。

ただし、偽物を乱発できるシステムであることから、このシステムの仕様については法律で規制されるか、機密となる可能性があるかもしれない。

「ところで、俺のゲッター1の修理は大丈夫なのかよ?」

「今はどうにも言えない…。今は君のブラックゲッター、いや…ゲッター1か。ゲッター1の装甲を調べているが、どのように修復すればいいか、いまだにわからない」

「だろうな。こいつを作るにしても、俺と一緒に転移してきたスクラップを組み立てただけで、ゲッター合金についてのデータバンクが機体の中にあるわけがねえからな」

竜馬がヤマトに来て、懸念していたのはゲッター1の修理のことだった。

ゲッター線を受けなければ動かすことのできないこの機体が動いたことで、この世界にもゲッター線があるということは分かったものの、ゲッター合金の技術は当然のことながら、ヤマトには…というよりは地球連邦軍にはないものだった。

一緒に転移してきたものの中に、ゲッター合金に関する情報の有るデータバンクはなく、竜馬自身は組み立てただけでそれ自体を生産できるわけではない。

こんなことは本来はあり得ないことだとはいえ、自分もこういう生産技術について最低限頭に入れておくべきだったと思ってしまうが、今となっては仕方のないことだ。

「修理ができねえ以上は無理できねー、ってことだな。ま、だとしても戦いになれば、俺は出るがよ」

「だとしたら、メタルビーストの時にように前線で行動してもらうわけにはいかない。後で甲板長にどうにかならないか頼んでみよう」

「ああ、頼むぜ」

 

-ヤマト 航空隊ブリーフィングルーム-

「しっかし、あんたらもついてないね。滅亡しかけの地球のある世界に飛ばされるなんてな」

古代によって、竜馬と鉄也が紹介された後、篠原は2人の迷子の不運さに同情する。

平行世界は数多く存在するにもかかわらず、この世界に来ることになるというのはある意味アンラッキーとしか言いようがない。

「そうでもねえぜ。少なくとも、俺がいた地球も脅威にさらされたことがある」

「え…?」

「あのメタルビーストってグロいモンスターみたいなのにか?」

「そうだ。あれはインベーダーの一種で、宇宙バクテリアがゲッター線に寄生することで進化したものだ」

「ゲッター線…?その、ゲッター線ってお前が乗っていた機械と関係があるのか?」

「ゲッター線は宇宙線の一種で、俺が乗っているロボットはそのゲッター線を受けねえと動かねえのさ」

ゲッター線がある環境であれば、無尽蔵のエネルギーを得ることができ、おまけに形を変えることのできる金属でできたゲッター1。

そういうタイプの動力は核融合炉があるものの、ゲッター合金のような金属の加工技術を見たことも聞いたことのないソウジ達にとって、それはまさに未知との遭遇と言える。

残念なことは、竜馬がそれについてあまり詳しくないということだ。

「で、人類総出でインベーダーと月面で戦い、そして勝った。だが、そのあとに何が起こったのかは、俺も詳しくは知らない」

「え?どういうことです??」

詳しく知らない、という言葉に疑問を持ったチトセが質問し、それを受けた竜馬の表情が固まる。

あまり言いたくないことのようだが、この後で疑われて何度も問い詰められるよりはましと判断した彼は口を開く。

「月面での戦いの後、俺は投獄された。罪状は殺人。もちろん、俺がやったわけじゃねーけど、だれも信じてくれなかった」

「…ごめんなさい」

「気にすんな。司法取引で、パイロットとして再び現れたインベーダーと戦うことを条件に釈放された。その戦いの中で、俺はインベーダーを駆逐するために地球連邦軍が発射した重陽子ミサイルの爆発に巻き込まれて、気が付いたらゲッターの残骸共々、エンゲラドゥスに来ていたってことだ」

「じゃあ、重陽子ミサイルのせいで次元を超えちまったってことだな?」

重陽子ミサイルは分かりやすく説明すると、水爆以上の威力を誇る核兵器だ。

竜馬の話が正しければ、そのミサイルのせいで次元の壁を超えてしまったということになる。

だが、それで次元の壁を超えることができるのだとしたら、100年以上前に使われたソーラ・システムやコロニー落としの影響で次元の壁を超えてしまうという事件も起こるはずだ。

もっとも、それで次元を超えたとして、帰ってきた人間がいなければ、そのようなことを証明できないが。

「わからん…。ゲッター線も何か関係があるかもしれねーが。とりあえず、俺はあそこでスクラップを集めてゲッター1を修理した。ま、そうでもしねーとあそこを出ることすらできねーからな」

「運がよかったな。エンゲラトゥスから地球へ行こうとしていたら、かなりの日数がかかるぞ」

「ああ。レーションも尽きちまったし、その点はラッキーだったかもな。こいつにとってもな」

竜馬は同じ迷子である鉄也に目を向ける。

2,3年がかりでゲッター1の修理をしていて、その間に遭遇したことがなかったことを考えると、おそらく鉄也がここに転移したのはごく最近のことだと思われる。

鉄也が乗っていたグレートマジンガーにレーションや飲料水がなかった。

コックピット内に食べ物のカスが浮かんでいなかったことから、エンゲラトゥスに来てから鉄也は1度も飲食をしていないということになる。

事実として、鉄也は食事が出されたとき、何度もお替りをしていた。

「ああ…。ヤマトがあの星に来てくれて助かった。俺も彼も、地球の危機を放っておけないという点は同じだ。少なくとも、記憶が戻るまでは一緒に行かせてもらう」

「了解だ。お前たちは航空隊に配備されることになる」

「世話になるぜ」

「加藤、航空隊に入隊するメンバーはもう1人いるぞ」

「何?」

古代の言葉に驚きつつ、加藤は彼を見る。

同時にブリーフィングルームの扉が開き、1人の見覚えのある女性が入ってくる。

「あ…!」

「お前…!」

彼女を見たチトセと加藤はじっと彼女を見た。

「説明は不要だな。彼女は今回の処分終了後、航空隊に配属されることになる」

「山本玲です。エンゲラトゥスでの違反の際はご迷惑をおかけしました。みなさん、改めてよろしくお願いいたします」

エンゲラトゥスの時のことを詫びた後で、山本は加藤達に頭を下げる。

「やべえぞ、これ…」

ソウジはビクビクしながら加藤と玲を見る。

加藤に断り1つなく、航空隊へ転属したとなると、今度はビンタでは済まない。

グーで殴られてしまうかもと思い、彼女を心配した。

「玲、お前…」

「主計科に新しい人員が加わったこと、そして彼女の実力や意思を考えたうえでの判断だ。艦長は既に了承済みだ」

古代が2人の間に割って入り、加藤に言う。

ヤマトの最高権限を持っている沖田の了承のうえでのこの転属は拒否することができないということだ。

加藤の握りしめている拳を見た古代はそれで彼の気が済むならと思い、いざというときは玲の代わりに殴られようと考えていた。

彼女の要望があったからといい、彼女の転属の許可を沖田に求めたのはほかでもない、古代自身だからだ。

「…たく」

観念したかのようにため息をついた加藤の拳の力が弱まる。

「お前の覚悟はこの前の行動でよくわかった。お前が独房から出た後、俺から上申しようと思ったが、手間が省けたと思うことにする」

「隊長…」

「これからよろしく、玲!」

「ええ…」

加藤からも認められたことで、これまで固くなっていた玲の表情が柔らかくなる。

古代も無事に済んだことに安堵していた。

「こいつはいいぜ。チトセちゃんと玲ちゃんという2輪の花!ってことで、玲ちゃん。よかったら転属記念で俺と…」

「お断りするわ」

「うぅ…バッサリか」

「ソウジさん!!」

再びナンパを仕掛けたソウジに起こったチトセがグィーっとソウジの耳を強く引っ張り始める。

「痛、痛たたた!!チトセちゃん、耳がちぎれる!耳がちぎれるから…!悪かった、ほんとすみませんでした!もうしませんから、離してくれーー!」

「…加藤、殴らなくていいのか?」

「別にいいさ。如月がきちんと叢雲のストッパーを務めてくれている」

自分がお気に入りの漫画の第1話であった、主人公に耳を引っ張られる金髪元リーダーを思い出しながら、加藤はチトセに耳を引っ張られるソウジとそんな2人を見て笑う玲を見ていた。

「じゃあ、俺と一緒に来てくれ」

「作戦会議か?」

「ああ…。ヤマトは冥王星の敵前線基地を攻撃することが決まった」

「冥王星を…!?」

古代の話を聞いたチトセはソウジの耳を離す。

ようやく解放されたソウジは痛い部分を撫でつつ、真剣な表情になっていた。

(冥王星…月面第25部隊の最期の地…)

ソウジの脳裏にあの地獄の戦いの光景がよみがえってくる。

そして、自分の体に残っている傷跡もわずかにうずきつつあった。

 

-ヤマト 中央作戦室-

「ワシは今まで、イスカンダルへの旅を急ぐため、無駄な戦闘は極力避けてきた」

古代たちは沖田の言葉を黙って聞き続ける。

ヤマトの本来の役目はイスカンダルへ向かい、コスモリバースシステムを地球へ持ち帰ること。

それを1年以内にしなければならないことを考えると、それは極めて合理的な考えと言える。

ガミラスと戦闘を繰り返し、ヤマトが沈んでしまえば、その時点で地球が終わってしまう。

「だが、地球をあのような無残な姿に変え、今も遊星爆弾を発射し続けている冥王星基地だけは見過ごすわけにはいかん」

「では…!」

「うむ、冥王星基地をこれから叩く!」

「了解です!」

「腕が鳴るってもんですよ!」

メ号作戦、そして地球へ次々と遊星爆弾を落とすあの忌まわしき基地をたたくことができると聞いたクルー達の士気が上がる。

「冥王星はガミラスによって環境を操作され、今では海を持つ準惑星へと姿を変えました」

「敵の本丸ですから、かなりの抵抗が予想されますね」

島の言う通りで、ガミラスにとって冥王星は地球に遊星爆弾攻撃ができる唯一の基地だ。

つまり、逆に言うとそこを叩くことで地球への遊星爆弾攻撃を止めることができる。

それで稼げる時間はわずかかもしれないが、それでも遊星爆弾が来ないことで地球の人々に大きな希望を与えることができる。

希望がなければ人は生きられない。

絶望的な状態であっても、何か希望があれば生きる活力が生まれる。

「検証の結果、グレートマジンガーやゲッター1の火力はモビルスーツを上回る。そして、木星での戦闘でモビルスーツによる前線の押し上げと戦艦による遠距離攻撃の融合の実用性が立証できた」

前にも言われていたが、ガミラスの戦艦による高密度な砲撃とそれの強固な装甲によってモビルスーツは戦略的価値を失った。

そのため、地球連邦軍も戦艦主体の戦術へと変化していったが、そもそも戦艦の火力すらガミラスに劣ることから焼け石に水だった。

だが、今は量産を度外視した高性能のモビルスーツとそれを操る強力なパイロットにより、単機でガミラスの戦艦を撃破できることがわかり、それを可能にするための戦術の構築もできた。

それがあれば、ガミラスの艦隊にも対抗できる。

「そういえば、ゲッター1の出撃はどうなるんだ?修理ができないんじゃあ…」

「ゲッター1には後方支援主体で動いてもらうことになる。甲板長がそのための武器を作ってくれた」

「にしても、驚くだろうな。一度は叩きのめしたモビルスーツ達に逆襲されることになるんだからな」

「加藤…コスモファルコン隊はヤマトの直掩と同時により近距離でのヤマトとの連携を受け持つことになるぞ…?」

「了解です。ヤマトの守りは任せてもらいます」

古代の言わんとしていることは加藤も理解できている。

直掩や偵察だけを行っていればいいわけではなくなった以上、パイロットたちへの負担も増加する。

しかし、加藤にもコスモファルコン隊長としての誇りがある。

部下を死なせず、なおかつヤマト防衛という結果を出す。

それが加藤の隊長としての今の務めだ。

「意見具申します!ロングレンジで波動砲を使えば、敵基地殲滅が可能です!」

「南部…波動砲は使わない」

「なぜです!?それでは、宝の持ち腐れですよ!」

「波動砲を使えば、敵基地だけではなく、冥王星そのものまで破壊してしまう。それはできない」

先日の改修により、ある程度波動エンジンの強度も高まり、波動砲の発射も相対的にではあるが、容易となった。

しかし、浮遊大陸を崩壊させてしまうほどの破壊力のある波動砲を使うことはたいへん恐ろしいものだということが判明した。

また、冥王星はアメリカ人が発見した唯一の星であり、現在でもアメリカ人の誇りとなっている。

それを破壊してしまうと、彼らの誇りを傷つけてしまうことにもつながる。

「いいじゃないか!星の1つや2つ!」

「南部君…!それでは、ガミラスと同じになってしまうわ」

「…」

ガミラスと同じになってしまう、という言葉に南部は沈黙する。

理由がどうであれ、一方的な都合で星を破壊してしまうのは遊星爆弾で地球を汚染し、ガミラスフォーミングで冥王星の環境を捻じ曲げたガミラスと何も変わらない。

怪物と戦うときに一番気を付けなければならないことは自分がその怪物にならないこと、というニーチェの言葉がある。

無自覚ではあるが、南部はその怪物に近づいてしまっていたのかもしれない。

「戦術長が決めたんだ。それでいいじゃねえか?」

「…僕は君たち、航空隊の消耗も防げますよと言っているんだ。そもそも、航空隊が必要かどうかも疑問だけどね」

「なんだと!!」

自分たちの誇りを侮辱するような南部の発言に怒りを覚えた加藤が彼の胸ぐらをつかみ、右ストレートを顔面にお見舞いしようとし、古代と島が加藤を抑える。

「やめろ、加藤!戦いを前に仲間割れを…!」

「止めるな!!奴は航空機パイロットの誇りを…」

「やめんか!!」

沖田の一括が中央作戦室中に響き渡り、加藤は南部を解放する。

「波動砲は使わん…これは決定事項だ」

「…はい」

眼鏡を直した南部は静かに沖田の言葉に同意する。

古代と島も加藤を離した。

「では、作戦の最終確認を始めるぞ」

会議が終わり、古代は加藤と共に中央作戦室を後にする。

そして、年甲斐なく怒鳴ってしまったと思いながら帽子を直す沖田のもとに島がやってくる。

「島…どうした?」

「艦長。艦長は第2次火星沖海戦の英雄であり、船乗りとしてあこがれておりました。自分はガミラスが先制攻撃を仕掛けた、この海で父を亡くしております」

島の話を聞いた沖田はその時の戦いを思い出す。

その時の戦いで息子を失いながらも、ガミラスに打撃を与え、地球への直接攻撃の回避につなげることができた。

しかし、メ号作戦や浮遊大陸での戦いを経た沖田はなぜあの戦いで勝利できたのか疑問に思うようになった。

火星沖での戦いよりも、メ号作戦や浮遊大陸でのガミラスの方が圧倒的に手ごわく感じたからだ。

(今思えば…奴らは地球をトレーニング相手としか思っておらんのかもしれんな…)

火星での戦いは新兵など、経験の浅い兵士たちの連度を高めるためのもの。

そして、地球への遊星爆弾攻撃はそれのテスト。

そう考えると、つじつまが合うものの、それはあくまで沖田個人の考察であり、真相は分からない。

また、ガミラスの先制攻撃という言葉を沖田は複雑な思いをしながら聞くしかなかった。

(冥王星…誰にとっても苦い場所だ…)

古代とソウジはその戦いで肉親と仲間を失っている。

また、そこから放たれた遊星爆弾によって数えきれない人命が失われてしまった。

人々の平和と安寧を守る軍人として、この上ない屈辱だ。

(だからこそ、ヤマトはそれを越えなければならん…)

 

-冥王星前線基地-

(なるほど…テロン(地球)の艦はヤマトというのか。しかし、何とも醜い艦だ。美しさのかけらもない)

冥王星前線基地司令のヴァルケ・シュルツから通信と同時に送られたヤマトの画像を見た銀河方面作戦司令長官のグレムト・ゲールが酷評する。

長い砲身に無骨な灰色、おまけに古臭いデザイン(あくまでゲール個人の見立て)はまさに野蛮人が作りそうな艦としか彼の目には映らなかった。

そんな野蛮人の艦に浮遊大陸が破壊され、更にガミラスの戦艦が撃沈させられたという事実があるのだが、それに目をくれることはない。

「ヤマトはおそらく、このプラート(冥王星)に来るでしょう。ひきつけたうえ、ここで叩きます」

(奴がプラートに来る保証はあるのか?)

「彼らの星を、あのような姿に変えた遊星爆弾を落としている唯一の基地だからです」

(なるほど…。では、見事葬って見せろ。これは肌の違う劣等民族の貴様がガミラスに忠誠を示す絶好の機会だぞ)

「帝国への忠誠心では、この基地のザルツ人一同、純血ガミラスの方々に引けは取りません」

(ガハハハハ!それでこそ、栄えある大ガミラス軍人だ!期待しているぞ、ガーレ・デスラー!総統、万歳!)

「…ドメル将軍の元で戦っていたころが懐かしいな」

下品な笑い声と共に通信が切れたのを確認したシュルツが漏らす。

ザルツ人が住んでいる星は戦乱により、滅亡の瀬戸際に立たされていた。

それをデスラーによって併合されたことで結果的に救われた。

だから、自分たちを救ってくれたガミラスや総統であるデスラーに対する感謝や忠誠はある。

しかし、かつてのテロンで行われたとされる白人による露骨な有色人種への差別にも似た偏見の塊であるゲールの言葉には怒りを覚えた。

だが、ゲール以外にもこうしてザルツ人を見下すガミラス人はいる。

自分たちが来なければ、滅亡の道を進むことしかできなかった劣等民族は優良なる青き肌のガミラスに使われるというだけでもありがたいと思え、とさえ言われたこともある。

だが、かつての上官であるドメルはザルツ人とガミラス人を平等に扱い、自分に様々な戦術を叩き込んでくれた上、自身の冥王星司令官着任の後押しをしてくれた。

こことは異なり、戦いに明け暮れる日々だったが、一番充足できた時代だったと思える。

「シュルツ指令…」

作戦参謀のヴォル・ヤレトラーがシュルツの言葉に静かに同意する。

「まあいい、ヤマトが来たら、例の物を使用するぞ」

「反射衛星砲…。身の程知らずのテロン人に我らザルツ人の力を見せてやりましょう」

副指令のゲルフ・ガンツが部下に反射衛星砲の準備を命令し、兵士たちは準備にかかる。

彼らも同じザルツ人で、シュルツ達と同じく、故郷に家族や恋人、友人を残してきている。

冥王星に来たのはここが地球へ遊星爆弾によって直接攻撃できる基地であり、そこで戦うことでザルツ人のガミラスにおける地位を引き上げるためだ。

かつて、アメリカに移民していた日本人たちによって編成され、第2次大戦中にヨーロッパ戦線で多大な犠牲を払いながら戦い続けた第442連隊戦闘団のように。

その祖先である日本人たちが乗ったヤマトと戦うことになるというのは歴史の皮肉だろうか。

 

-冥王星宙域-

「冥王星…あんなに近くに…」

冥王星宙域までヤマトがワープし、肉眼でも確認できるようになったこの星を見ながら、島は口にする。

しかし、真田が言っていたように、冥王星の今の姿はかつてのものではなく、海があり、仮に緑が生まれれば、地球に近い環境になると言っても過言ではない状態だ。

だが、仮にガミラスフォーミングが進み、緑が生まれたとしても、そこで暮らせるのはガミラスのみだ。

(この海で、兄さんは…)

「古代、これで兄さんの敵討ちができるな」

「そのためだけに戦うわけじゃないさ」

地球を出る前の古代なら、素直に敵討ちのために冥王星基地を攻撃しようと考えていただろう。

しかし、今の古代はただ地球を救うために目の前の困難と闘う1人の戦士へと変わっていた。

「まもなく、冥王星基地攻略作戦…メ2号作戦を発動する!総員、最終チェックを!」

 

-ヤマト 航空隊控室-

「…」

「あまり気を張らないほうがいいわ、チトセ」

「それは無理よ。ガミラスから地球を取り戻すための戦いなんだから」

先ほどまでの張りつめた表情を隠し、いつものような陽気な笑顔を玲に見せる。

しかし、ある程度彼女の人となりを理解できていた玲には無意味だった。

「…チトセも、個人的な恨みでガミラスと戦っているの?」

「え…?」

「時々、チトセからも私と同じ空気を感じるときがあるから。それに、叢雲三尉からも…」

「え、ソウジさんからも?」

ナンパ好きな快楽主義者としてのイメージの強いチトセにとって、玲のソウジに対する分析は意外だった。

ただ、浮遊大陸での戦いから、ソウジがそれだけの人間ではないというのは感じ始めていた。

チトセに脱出を求めたときの彼があまりにも必死だったためだ。

「彼…何かあるわね。チトセ…気を付けてみてあげて」

「うん…」

 

-ヤマト 格納庫-

「どうだ?こいつなら、前に出なくても、戦うことができるだろ?」

榎本が竜馬に地球連邦軍が採用しているハイパー・バズーカよりもはるかに大きな、バズーカというよりも大砲というべき大型な武器を見せる。

その大砲のそばには万能工作機で作った複数のハイパー・ハンマーが置かれている。

「ハイパー・ハンマー・ランチャーか…」

「そうだ。ハイパーバズーカ程度じゃあガミラスの戦艦の装甲を破壊できないうえ、射程距離も問題があるからな。ハイパー・ハンマーをレールガンレベルのスピードで発射するのさ。リロードのためにヤマトへ戻らないといけないが…」

「ま…戦えねえよりはましだな。戦艦の中で待っているのは性に合わねーしな」

ハイパー・ハンマー・ランチャーがゆっくりとゲッター1のそばまで移動する。

それを見つつ、ノーマルスーツ姿で遅れて到着した鉄也が視界に入る。

「よぉ、鉄也。前の方が頼んだぜ」

「ん?ああ…。任せてくれ」

短くそう答えた鉄也はグレートマジンガーの頭頂部にあるコックピットに乗り込む。

パイロットシートに腰掛け、コスモファルコン隊のヘルメットを着用した鉄也はじっとゲッター1を見る。

(ゲッター…流竜馬…。俺は、彼とあのマシンを守らなければならない。連れて帰らなければならない気がする…)

なぜそう思うのかはわからない。

だが、このメ2号作戦を成功させなければ、彼を守ることも、連れ帰ることも、ましてや自分の記憶を取り戻すこともできない。

今は目の前の戦いに集中すべきだと考え、鉄也はノーマルスーツや機内の酸素量のチェックを始めた。

 

「叢雲…」

ヴァングレイのメインパイロットシートに座って待機するソウジに加藤が外から声をかける。

「ん?なんすか、加藤隊長。もしかして…玲ちゃんにナンパしたことを…」

「だから彼女をそんなふうに…まぁいい。それよりも…お前、メ1号作戦に参加していたんだよな。それに、お前がいつも来ているジャケット…」

「ああ…25部隊のジャケットのことっすね。それがどうか…」

どうしてそんなことを聞くんだと言いたげな表情をソウジは見せる。

加藤自身、このことを聞くのは彼にとって苦痛になるのではないかと思い、これまで聞くことはなかった。

だが、冥王星に到着し、これから冥王星基地を攻撃することになったことで、どうしても聞きたいと思うようになってしまった。

「お前は…!?!?」

急に格納庫に激しい揺れが襲い、警報音が鳴り響く。

「敵の攻撃か!?」

「けど、出撃指示どころか、警戒態勢への移行も発令されていませんよ!」

X3に乗っているトビアの言う通り、これまでこの2つの命令が発せられていない。

にもかかわらず、敵の手法による攻撃を受けたかのような激しい衝撃が襲った。

波動防壁の展開も間に合わなかった。

「こちらが感知する前に攻撃を仕掛けたということか…」

キンケドゥはコスモ・バビロニア建国戦争中のイルルヤンカシュ要塞攻略戦で行われた、敵モビルスーツ部隊に対するスナイパーでの先制攻撃という戦術を思い出す。

その時の地球連邦軍の作戦立案者は代々軍人であるタチバナ家の当主で、かつてジオンが中心となって使っていたファンネルやビットによるオールレンジ攻撃で『気づいた時にはすでにやられている恐怖』を敵に与えることの有効性を知っていた。

「ソウジさん!!キャアア!」

「チトセちゃん!」

チトセが格納庫についたと同時に再び攻撃が当たったのか、激しい衝撃が襲い、彼女の体がヴァングレイに向けて飛んでくる。

ソウジは飛んでくる彼女の手をつかみ、そのままコックピットの中に引き込んだ。

「大丈夫か?」

「は、はい!今の攻撃は…」

「ああ。どうやら、俺たちは既にあいつらの距離にいたみたいだ…」

 

-冥王星宙域-

「状況報告!」

「敵によるロングレンジ攻撃だと思われます!」

報告する森にも、その攻撃が狙撃なのか、それでもかつてのサイコミュ兵器なのかわからなかった。

サイコミュに似たものをガミラスが使っているのかわからないうえ、ロングレンジだとして、どこから攻撃してきているのか、全く分からない。

「敵影、確認できず!角度から判断して、冥王星からでもありません!」

「どちらの攻撃も左舷十時の空間から行われた模様!」

「回避行動をとれ!取舵いっぱい!発射予想地点の死角に入る!」

「回避行動!取舵いっぱい!」

敵がどこにいるのかわからないが、同じ場所からの攻撃に当たるわけにはいかないと考えた沖田の指示で、ヤマトは回頭し、その場を離れる。

 

-冥王星前線基地-

「初弾及び次弾、着弾を確認。ヤマト、回避行動をとります」

どこから来るかわからない攻撃から逃れようと、移動を始めるヤマトを見つつ、ザルツ人の通信兵が報告する。

「お見事です、シュルツ指令。遊星爆弾の発射システムを転用した反射衛星砲、大成功ですね」

「地表から宇宙空間へ打ち出された砲撃は反射衛星によって角度を変えて、目標へ迫る…。この冥王星周辺に砲撃の死角はなく、敵はどこから攻撃されたのか、分からないまま撃沈されていく…」

「まさに絶対無敵の防衛兵器ですね」

メ1号作戦後、冥王星基地は地球連邦軍が地球生存をかけて、必ず陥落させなければならないものと変わった。

だが、遊星爆弾発射のための整備にはコストがかかり、更に時間もかかる。

木星の浮遊大陸に同じシステムを整備するにも、ガミラスフォーミングが完了するまで時間がかかる。

そのため、冥王星基地には強い防衛力が求められた。

その結果誕生したのが反射衛星砲で、実際に使用されるのは今回が初めてだ。

「発想の転換だよ。戦場では常に臨機応変さが求められている」

「ドメル閣下の教えですね。できれば、一撃で沈めたかったのですが…」

ゲールは見下していたが、ヤマトは従来の戦艦以上に頑丈なつくりとなっているためか、初弾で撃沈させることができなかった。

2発目の攻撃は波動防壁を展開されたことにより、初弾ほどのダメージを与えることができなかった。

だが、波動防壁が長時間展開し続けることができない代物だということは分かっている。

「狩りは楽しみながらするものだよ、ヤレトラー。反射衛星砲、次弾装填!」

「反射衛星、7号!13号、28号!リフレクター展開!」

「フフフ、ヤマトめ…どこへ逃げても無駄だ。反射衛星砲、発射!」

基地に搭載されている大口径長射程陽電子砲が7号リフレクターに向けて発射される。

この砲は遊星爆弾の加速と軌道角調整のための点火システムであるため、そのパワーには余裕がある。

リフレクターによってビームが屈折していき、ヤマトの真上からそれが降り注ぐ。

 

-冥王星宙域-

「ぐ…!」

「先ほどと同じ攻撃です!」

波動防壁が切れたと同時にビームが命中し、上段のショックカノンが破壊される。

ダメージコントロール班が出動し、そこで戦っている兵士の治療や消火が開始された。

「死角だったんじゃないんですか!?」

「レーダー!どこから…!」

確かに2発目まで発射されたと思われる場所から距離を置き、死角になるように移動したはずだった。

だが、今回の攻撃は真上からで、これほどの出力のビームを発射できる武器の大きさとタイムラグを考えても、そこまで移動したとは到底思えない。

「発射位置、特定できません!」

「ぐう…冥王星の重力に捕まる…!」

冥王星の重力に捕まったヤマトが徐々にその青々とした星へと引っ張られていく。

「船体維持!」

「駄目です!推力が低下、操舵不能!」

3発目の攻撃のせいで、エンジンにもダメージが発生してしまったのか、島の操舵にヤマトが応じない。

このまま落下し、地表へ転落してしまうと、いかにヤマトでもただでは済まないし、このままガミラスに袋叩きにされるのは明白だ。

「島!ヤマトを冥王星の海に着水させるんだ!」

「了解!」

冥王星の大気圏に入っていくなか、島はなんとしてでも沖田の命令に応えようと必死にヤマトを操舵する。

「古代…」

「は、はい!」

「お前には別命を与える…」

大気圏に完全に入り、ヤマトはそのまま重力に逆らえずに落下していった。




武装名:ハイパー・ハンマー・ランチャー
使用ロボット:ゲッター1(ブラックゲッター)
ゲッター合金の製造が不可能であるヤマトでゲッター1を運用するため、急造された試作兵器。
ガミラスの戦艦を破壊可能な質量弾として旧来のハイパー・ハンマーをそのまま発射できるようにしている。
弾速はヤマトが発射する三式弾と同等であり、ガミラスの戦艦を一撃で破壊可能。
しかし、あまりにも重量がある上にハイパー・ハンマーの装填に難がある上に、大型であることから敵機に狙われやすい。
しかし、もともと遠距離からの狙撃が苦手な竜馬にとっては遠距離から戦艦を破壊できるこの兵器はいざというときにはハイパー・ハンマー単体で使えることもあって、使いやすい武器となっている。

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