スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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機体名:ビューナスA
建造:光子力研究所
武装:光子力ビーム、Zカッター、ビューナスミサイル
主なパイロット:弓さやか

光子力研究所で開発された機動兵器の1機。
カウガールとパイロットであるさやかをモチーフとしたと思われる機体で、光子力を動力源としている点はマジンガーZと共通している。
マジンガーZの支援が主な役目で、精密動作性においてはマジンガーZを上回り、単独で機械獣を撃破することも可能となっている。



第64話 つながる世界

-ヤマト 格納庫-

「え…ってことは、俺ら…クビっすか?」

「そういうことじゃない。お前と如月は西暦世界で暮らしていた時間がそれなりにあるからな。それに、ヴァングレイはヤマトでなくても整備ができる。なら、どちらに行くかの選択肢を与えるべきだと沖田艦長が言ってくれたんだ」

「まぁ、確かに…」

先日の騒動のおかげか、より一層特訓に励むようになったアンジュはようやくヴィルキスの転移能力をものにしていき、ルリとオモイカネの解析によってパラレルボソンジャンプが可能という結論が出た。

ただし、あくまでもアキトのサポートという条件付きであり、まだ新正暦世界への道は開けていない。

だが、西暦世界に行けるという点は大きなアドバンテージと言えるだろう。

あとは西暦世界のメンバーを元の世界へ返すだけだが、問題なのは西暦世界の人々と付き合いのあるメンバーだ。

既にトビア達からは残留するという言葉はもらっており、あとはソウジ達のみ。

ソウジとチトセの脳裏には、西暦世界で世話になった辰之進の姿が浮かぶ。

「ソウジさん…よかったら…」

「だな。俺たちは西暦世界へ行きます。ヤマトの代表者として」

「それに、あの世界でお世話になった人たちに会いに行きたいので…」

「了解した。二人とも、必ずまた会おう」

 

-日本近海-

ヴィルキスが出撃し、その背後には西暦世界の戦艦であるトレミーとナデシコ、マサアロケットマイルド、正面にはヤマトとネェル・アーガマ、ラー・カイラム、ダナンが並ぶ。

ナデシコの艦長席のそばにはアキトがいて、ヴィルキスが転移システムを起動するとともにボソンジャンプを開始できるように、モニターにはヴィルキスの姿とパラメータが表示される。

「ヴィルキス、配置につきました」

「アキトさん、準備はよろしいですね?」

「ああ…」

「じゃあ…アンジュ、始めて」

「行くよ…ヴィルキス!」

集中するアンジュの脳裏に瞬間移動する自分とヴィルキスの姿をうかべ、ヴィルキスが青く染まっていく。

解析されるヴィルキスのパラメータが変動していき、やがて次元転移可能な水準へと移行していく。

それを確認したハーリーはオモイカネのサポートを受けつつ、ボソンジャンプの態勢に入る。

「フェルミオン=ボソン変換、順調!シンギュラーとの波形同調率99.9%を突破、パラレルボソンジャンプ、可能です!」

「アキトさん…」

(ユリカ…今、行く)

アキトの脳裏に浮かぶのは西暦世界の、かつてルリとユリカと共に平和に過ごした時間と場所。

西暦世界の日本。

「ディストーションフィールドを展開」

「トレミー、フィールド内に入ります」

「こちらもGNフィールドを展開。万が一に備えて」

当然のことながら、トレミーがボソンジャンプを行うことは初めてのケースであり、これが艦にどれだけの負担を与えるのかもわからない。

この世界へ来る時はユリカの演算ユニットのコピーのサポートがあったためか、艦への戦闘以外のダメージは見受けられなかったが、今回はそれとはまったく別のケースと言っても過言ではない。

ナデシコも、このパラレルボソンジャンプによって大きな負担がかかることは否定できず、万が一の時はこのGNフィールドで自衛する必要がある。

「頼むぜ、ナデシコ。俺たちを連れて行ってくれよ」

「マサアロケットマイルド配置についたわ」

「よし…ルリ艦長。あとは頼む」

「では…ジャンプ」

「パラレルボソンジャンプ、開始!!」

ボース粒子が3隻と1機に集結していき、それがシンギュラーへと変換されていく。

シンギュラーはそれらを飲み込むと、数秒で何事もなかったかのように消滅した。

「消えた…」

「成功したのか…?」

ネェル・アーガマとラー・カイラムからは彼らの反応は消失している。

そして、成功の可否を判断する材料を有するものはここには誰もいない。

「こちらで観測する限りでは、問題ありません」

「ならば、我々も進もう。その先に、どのような戦いが待っていようとも」

Dr.ヘル、使徒、Gハウンド、ネオ・ジオン、アマルガム。

数多くの敵が存在し、新正暦世界への道も見つかっていない。

だが、進むしかない。

その先に待っているであろう、彼らとの再会の道を信じて。

 

-???-

「パラレルボソンジャンプ終了!モニター、再起動します!」

パラレルボソンジャンプが始まり、シンギュラーとボース粒子の中に飲まれたことによって消失したモニターが終了と同時に再起動がかかる。

少しずつ表示されていき、映り込むのは青い海。

だが、青い海だけでは判断材料としては弱く、現在位置の座標の解析も同時に行われる。

「各種センサー確認…間違いありません!ここは…西暦世界、私たちの世界です!!」

「おっしゃあああ!!パラレルボソンジャンプ、成功だぜ!!」

フェルトの言葉でついに感情を抑えきれなくなったラッセがガッツポーズを見せる。

ミレイナも嬉しそうな表情を見せており、スメラギは緊張の糸が解けたかのように背もたれに身を任せる。

きっと、ナデシコも同じような状態だろう。

「帰ってきたのね、私たち…」

ヴィルキスのコックピットから景色を眺め、通信機から聞こえる各艦からの喜びの声にアンジュも少なくともこの世界に戻れたということだけは実感する。

だが、本当にそう思えて、現実へ戻ることになるのは、この世界でドラゴンと戦うこと、そしてアルゼナルに戻ってジルと再会した時だろう。

「お疲れ様、アンジュ。これはあなたがヴィルキスの力を引き出したおかげよ」

「お礼なんていいわ。帰りたいって思いは私も同じだったし」

「アキトさんも、お疲れさまでした」

「俺の力も…こんな風に役に立てるなら…」

「日付を確認したですが、火星での戦いから1か月ほどの時間が経過しているみたいです」

「ということは、時間の流れは宇宙世紀世界と同じ…」

いきなり宇宙世紀世界に飛ばされ、木星帝国やガミラスと戦うことになった。

ロンド・ベルと出会い、彼らと共にGハウンドに追われることになり、ミスリルの拠点の一つであるメリダ島へ逃げ込んだのもつかの間、アマルガムとジオンの強襲を受ける羽目になった。

そして、使徒との遭遇と鉄也の裏切りにDr.ヘルとの戦い、ドラゴンと謎のパラメイルの出現。

これだけのことがたった1か月に立て続けに起きていたことを改めて感じさせる。

「パラレルボソンジャンプによる時間のズレが生じなかったわけですが…」

「艦長、ナデシコBの出力低下!」

「ジャンプユニットを装備したうえでの無理やりのボソンジャンプに加えて、ディストーションフィールドも限界まで使いましたから、無理をさせすぎた結果です」

「ヴィルキスも帰還して、そちらも、どれだけの負荷が機体にかかっているかわからないから」

「了解よ」

ヴィルキスがナデシコに収容され、2隻の進路が日本に向けられる。

現在、舞人が浜田らと連絡を取っており、受け入れと整備・補給の準備を行っている。

ソレスタルビーイングの受け入れも可能な状態だ。

「では、進路は日本のヌーベルトキオシティへ」

 

-日本 ヌーベルトキオシティ 勇者特急隊ステーション内部-

「舞人ーー!!」

「ただいま、浜田君。心配をかけてごめんよ」

「何を言ってるんだい、不滅のタフガイ、旋風寺舞人がやられるはずないだろう。まぁ、別世界に飛ばされて、そこから帰ってきたというのにはびっくりだけど…。それに、だいぶ傷ついているね…」

ステーションに収容される各艦や各機動兵器の姿に浜田は舞人たちがどんな戦いを繰り広げてきたのかを感じずにはいられない。

ヤマトの万能工作機によってパーツの製造を行うことができるため、整備については問題ないかもしれないが、それでも何もなしにパーツの製造ができるわけではなく、資材も安定して確保できるわけではない。

特に戦艦については応急修理等はともかく、しっかりした整備を行うとなると、勇者特急隊ステーションやメリダ島、モルゲンレーテの格納庫のような設備のある基地に収容して行う必要がある。

特にパラレルボソンジャンプを行ったナデシコについてはおそらく再び行われるであろう宇宙世紀世界へのパラレルボソンジャンプを可能にするために、しっかりした整備を行う必要がある。

ヴィルキスにも同じことが言え、現在メイたちアルゼナルの整備班の手によって装甲をはがされた上でもオーバーホールが行われている真っ最中だ。

「心配されていましたよ、浜田君は。そのせいで食が細くなり、体重が5キロ減ってしまいました」

「心配しすぎて、心肺停止なんてことにならなくて、本当によかったです」

「ははは…すみません、心配かけてしまって…」

「まぁ…体重が減ったのはそれだけじゃなくて、忙しかったこともあるけどね」

「となると、あれが…」

「うん。まだ最終調整までは終わってないけど」

「頼むよ、浜田君。まだ全部が終わったわけじゃない。それで、俺たちがいない間のDG同盟の動きは?」

「それが…この1か月、彼らの活動はほとんど見受けられませんでした」

「火星の後継者も舞人様たちの活躍によって壊滅し、世界はそれなりに平穏でした」

最も、異様なほど平穏だったというのが青木といずみの本音といえる。

火星での拠点を失ったとはいえ、草壁らが拘束されたという知らせはない。

ユウイチロウによって派遣された連合艦隊が火星に到着した時には草壁らは行方をくらましていて、今も発見されたという情報はない。

それについては日本へ向かう道中にヴェーダへのアクセスを行って確認もしたため、事実と言えるだろう。

「最も、浜田君が忙しかったのはそれだけではありませんが…」

「え?」

「い、いずみさん!!!それは、ここでは言わないで…!!」

「どうしたんだい?浜田君」

「そ、そのことは今夜話すよ!!パーティーがあるからね!僕…青戸の工場へ行ってくるから!!あ、あと!!サリーちゃんのことだけど、ヌーベルトキオシティのスーパーマーケットで働いているって!!」

逃げ出すようにその場を後にする浜田の様子に舞人はいつもと違う彼に首をかしげる。

サリーのことを教えてくれたことはうれしいが、浜田の身に何か起こったのではないかと心配せずにはいられなかった。

 

-プトレマイオス2改 ブリーフィングルーム-

「話は聞いているわ。別の世界へ跳ばされていたなんて…大変だったわね」

「ええ…でも、よかったです。この1か月、この世界がどうなっているか、心配でした」

キラとアスラン、シン、ルナマリアがブリーフィングルームを借り、通信を行っている妙齢のオーブ軍服姿の女性はキラにとってはなじみの深い艦であるアークエンジェルの艦長であるマリュー・ラミアスだ。

彼女と、彼女の夫であるムウ・ラ・フラガ、そしてアークエンジェルのクルーの面々はキラ達が不在の間の西暦世界防衛のためにオーブに残っていた。

また、今は火星の後継者やDG同盟が表沙汰になっているが、それだけが今の西暦世界の問題ではない。

ロゴスが崩壊したものの、反コーディネイター思想のイデオロギーとしてのブルーコスモスはいまだに根強く残っており、その残党の動きを注視する必要があり、それはザラ派の残党も同様だ。

目立った動きは見られないが、いつか彼らの暴走が始まるかもしれない。

アロウズもロゴスもいなくなり、デュランダルのデスティニープランを否定したこの世界で、ラクスやカガリ、現在の連邦の大統領らが少しでも平和な世界を実現しようと動いているが、それを否定する存在がゼロではないのは確かで、ソレスタルビーイングが1年前の戦いの後も数多くの戦闘に武力介入を行っている。

スメラギらからの話では、たった1年の間にその武力介入を50回は行ったという。

「それで、どうなんですか?例の話は、うまくいきそうですか?」

「そうね…彼女が提唱した世界平和監視機構…議論は進んでいるけれど…」

この混乱以外で、西暦世界で大きな議論となっているのがそれだ。

隠密の武力介入によって、陰ながら世界を支えるソレスタルビーイングや舞人を中心とした勇者特急隊。

彼らの西暦世界における貢献は計り知れないものがあるが、それが永遠に存在するわけではない。

そして、彼らは国家に帰属する存在ではなく、3年前の地球とプラントの絶滅戦争のような事態を防ぎ、発生した時には大規模になる前に鎮静化するにはより大きな力が必要となる。

そこで、ラクスが提唱しているのがマリューの言う世界平和監視機構であり、連邦とプラント、木連、オーブの共同創設を前提としたものだ。

これは相互に抑止を行うことを可能とするためのもので、抑止する存在のないソレスタルビーイングと比較すると、各国からの支持を得やすくするためのものだ。

ただ、問題になるのはその機構がどれほどの戦力を保持するのか、彼らによる介入がどこまで許されるのか、そして各国が機構を抑えるのがどこまで可能なのかの線引きだ。

戦力や技術については各国から供出され、現在ザフトや非政府組織であるターミナルから先行での戦力と技術の提供が表明されているが、提供されるのが現在の正規軍では主流となっている疑似太陽炉搭載型のものではない。

あくまでも、1年前の戦争の頃の機動兵器や戦艦の延長線のものだ。

「そのうちの3機については必要になる可能性があるから、こちらから掛け合って、あなたたちに送るわ。あなたたちはあなたたちの戦いに集中して」

「了解です、ラミアス艦長」

「じゃあ…みんな、無事で」

通信が終わり、送信されたデータをアスランがノートパソコンで開く。

表示される3機のモビルスーツはいずれもキラ達にとっては見覚えのある機体といえた。

「ライジングフリーダム、イモータルジャスティス、インパルスspecⅡ…」

「シン、この機体って…!」

「議長が遺したデータバンクの中に…」

1年前の戦争の後のプラントと地球連合、オーブによる合同によるメサイヤの残骸の調査の中で見つかったデュランダルのデータバンク。

その中身を調査に関わっていたシンとルナマリアも見たことがある。

デュランダルと近しい関係であり、FAITHであったシンが調査に関わることについては当初難色を示されていたものの、アスランとカガリ、キラ、ラクスのとりなしにより、監視をつけるという条件がついたうえで同行が許可された。

データバンクのすべてが解析されたわけではなく、現在もヴェーダを利用してでの解析が行われている。

ライジングフリーダムとイモータルジャスティスはデスティニープランをめぐる反対勢力との戦争が長期化した場合において、エースパイロット向けに量産する予定だったが、早期に終戦したことで一時凍結となり、プラントにも疑似太陽炉の供給が正式に認められたことにより頓挫することになった。

ペーパープランのみと思われていたが、デュランダルが所有していた研究施設で試作機と思われるそれらが発見されたという。

インパルスspecⅡについてはデスティニーとインパルスの蓄積された戦闘データを元に、インパルスをアップデートさせた機体といえる。

「Nジャマーキャンセラーを搭載していないフリーダムとジャスティスか…同じフレームだからか、よく似た格好だな」

「確かに。でも、変形機構がついているのは驚いたよ。それに、シールドが…」

「バッテリー駆動でこの装備は使えるのか?あれは核エンジンでなければ…」

 

-神宮司家 付近-

「うーん、タツさん…かえってこねえなぁ…」

玄関付近に止めた車の中で待つソウジは待ちくたびれたようであくびをし、助手席のチトセは心配そうに神宮司家の玄関を見る。

ナインと共に彼らがここへ来たのは2時間前で、チャイムを鳴らしたが不在だった。

ソウジとチトセがここに滞在している間、時折散歩や釣りのために外出しているのは見ており、数分前はソウジが一人で近くの海岸に足を運んでいる。

だが、そこでも辰ノ進の姿がなく、釣り人達にも尋ねたが、姿を見ていないという。

「郵便受けはたまっていなかったから、帰っては来ていると思うけれど…」

「よろしければ、私が周囲のスキャンや防犯カメラ映像を解析して探りましょうか?」

「いや、いいさ。もしかしたら、どっか遠くへ釣りに行ってるだけだろ。帰って、手紙でも書いて送っとくさ」

既にパーティーの準備がほとんど終わっており、彼らを待たせるわけにはいかないと考えたソウジは車のエンジンを動かす。

メールを送るのもいいが、実際に帰った来たことを証明することを考えると、手紙の方が彼も安心するだろう。

家に一瞥したソウジは車を発進させる。

彼に反対しなかったチトセだが、何か胸にチクリと刺さるものを感じていた。

(なんだろう…この、嫌な予感…)

 

-ヌーベルトキオシティ-

「本当によかった…舞人さんが無事で…」

「ヒーローは不滅だよ、サリーちゃん」

「でも…」

火星での事件は大きな話題となっており、火星の後継者が壊滅したのはいいものの、現地で戦闘を行っていた勇者特急隊が行方不明になったという話を聞いたサリーは不安で夜も眠れなかった。

さすがにソレスタルビーイングやアルゼナル、ヤマトなどの表沙汰にできない戦力については非公表となってはいる。

「ごめんよ、サリーちゃんが心配しているというのにふざけちゃって…。でも、俺は正義を守る者として、悪が滅びるまで死ぬつもりはないよ」

「その言葉…信じます」

「ありがとう、じゃあ…今日はこの…」

「「「キャーーーーーーー!!!!!!」」」

鼓膜がつぶれるというよりも、叩き潰されるほどの黄色い声援が舞人たちを襲い、思わず二人は耳をふさぐ。

「これ…何の騒ぎ!?」

「この先に、パープルが…来ているらしいんです…」

「パー、プル…??」

「この1か月でブレイクしたロックスターなんです、ほら…あそこに」

サリーが指さした方向にはオープンカーに乗っているパープルとそれに群がる若い女性たちの姿が見えた。

女性たちの手にはパープルのファングッズが数多く握られていた。

「さあ、みんな!俺の歌で退屈な世界を…ぶっ壊そうぜーーーー!!破壊の炎と悲しみの涙…その赤と青が交わり、美しい紫の世界が生まれる!!」

「あれが…パープル…」

「過激な歌とパフォーマンスで有名で、人気があるんですけれど…私、ちょっと苦手で…」

休憩時間に見たテレビ番組の中でパープルの特集があり、そこで彼の歌を聴き、こうして頻繁に開かれるゲリラライブの映像を見た。

同僚は歓声を上げていて、もっとやってほしいと煽る人間もいた。

(なんだ…何か、嫌な予感がする。まだ、この世界に平和は戻っていない…。あいつの歌と姿から、そんな気がするんだ…)

 

-旋風寺家 パーティールーム-

「では…諸君の帰還を祝して、乾杯!!」

「乾杯!」

裕次郎による音頭で乾杯し、裕次郎は隣に座るスメラギが入れたワインに舌鼓を打つ。

舞人達にとっては数多くの戦いのせいで自覚があまりなかったが、1か月も行方不明で音沙汰なしとなると、かなり心配させてしまったのがこの豪勢な料理や飲料の数々が教えてくれた。

「いやー、今日はめでたい!舞人が帰ってきたうえに、こんな美人のお酌で酒が飲めるとはー!」

「とことん付き合いますよ、裕次郎さん」

スメラギも高い酒を飲み、久々の酒の味にうれしさを覚えていた。

かつては数多くのストレスが原因でアルコール依存症になっていたが、長い治療によって克服し、現在はこうした時以外は断酒することになっている。

トレミーにある彼女の自室の冷蔵庫に大量に置かれていた酒はすべてロックオンとアレルヤに譲られており、中にあるのはソフトドリンクとノンアルコールのビールだけになっている。

「いやー、惜しい!実に惜しい!!スメラギさんがあと10年…いや、15年若ければ、舞人の嫁に推薦したんじゃがのぉ!!」

「あ、ありがとうございます…(せめて、あと5年はと言ってほしかったな…)」

もうすぐ三十路に入るものの、まだまだ若いスメラギだが、やはりソレスタルビーイングの戦術予報士やこれまでの戦いのストレスで年齢以上に大人に見られたかもしれない。

酒がまわり、酔い始めている裕次郎の言葉を受け流しつつも、友人であるカティの結婚したという報道の記憶が脳裏によみがえって仕方がない。

「すげえ、ごちそうだ!すげえうまい!!」

「こんなの…マーメイドフェスタでも、見たことないよ!」

メイルライダーにとって唯一の公休日であるマーメイドフェスタはロザリーとクリスをはじめとしたメイルライダー達にとってはあらゆる物事から解放される一日であり、そこで出される食事はごちそうだった。

ソレスタルビーイングに買収され、行動を共にする中で出た食事によって、そこで出る食事は本来は当たり前のように出る一般的なものばかりだということを思い知らされたが、ここで更に数ランク上の飲食を楽しめるとなると、もうアルゼナルの食事に戻れなくなる。

「ん…にしても、何か変な臭いがしねえか?」

ステーキを食べ終えたヒルダの鼻孔に伝わる、奇妙な臭み。

さすがにおかしなものはおかれてないだろうと思い、その匂いの発生源に恐る恐る目を向けるヒルダだが、それを見た瞬間、思わず卒倒しかけた。

巨大なボールの中に大量に入った納豆とそのそばに置かれている大きな土鍋。

土鍋の中には炊き立てのご飯が入っていて、それだけを見たら食欲が出るものの、そばにあるもので台無しになっていた。

「裕次郎様の大好物の納豆です。茨城産のおいしい水戸納豆ですよ」

「え、遠慮するよ…」

「なぜ?おいしそうに食べられている方もいるのに」

「マジかよ…」

裕次郎はともかく、ソウジとチトセ、ルリをはじめとしたナデシコ隊の面々にキラ、万丈、宇宙太がおいしそうにゲテモノを食べている様子にヒルダは引いてしまう。

日本のスーパーフードとして認知されている納豆ではあるが、まだまだ納豆をゲテモノ料理や寄食とみなしている人々は多い。

このパーティーで出ているものの中では、生卵やわさび、白子や馬刺しがそれだといえる。

地球連合という形で地球の勢力が一つになり、ワールドワイドになったとはいえ、やはりこうした地域特有のものが世界の当たり前になるのには長い時間がかかるだろう。

「…こうしていると、思い出すな」

「何をだ?」

「アロウズを探るために潜入したパーティーでティエリアが女装したのを」

刹那の口から爆発したまさかの言葉にティエリアは思わず盛り付けていた皿を落としそうになる。

1年前の戦いで、地球連合にとらわれていたアレルヤを救出して間もないころ、ティエリアはアロウズを操っていた存在であるリボンズらイノベイド達の動向を探るために潜入調査を行った。

潜入を志願したティエリアだが、何を思ったのかスメラギによってティエリアのみ女装するハメになった。

一緒にに潜入した刹那の記憶には今も女装姿のティエリアの姿が残っている。

その時との違いがあるとすれば、今のパーティーは和やかなものであり、刹那達も楽しめることくらいだ。

そして、刹那のその話に食いつく人間もいるということだ。

「何それ!?」

「詳しく、聞かせてくれません?」

話を聞いたルナマリアとエルシャが興味深そうに刹那達にたずねてくる。

「何なら、今ここで再現するのはどうだ?」

「ロックオン!!」

「あれは、一度見たら忘れられないね」

「アレルヤ!!」

確かに、戦闘用イノベイトであるティエリアには性別はない。

アニューをはじめとした情報収集型の個体には人間社会に溶け込む必要性から性別が存在するが、戦闘用はその必要性がないことから性別はない。

だが、あくまでもそれは社会になじまなければという話だ。

ティエリアは3年前の戦いからガンダムマイスターとして人間と関わり、それから長い時間を人間と共に過ごしたことで精神的には自らを男と自覚している。

肉体や声については、ナノマシンを利用することで女性的なものへと一時的に変えることはできるが、あくまでもティエリアにとっては今の姿が自分の本体であり、ソレスタルビーイングで戦い続けてきたという自負がある。

それを変えるつもりはなく、よほどのことがない限りは女装するつもりは毛頭ない。

すっかりへそを曲げ、皿に乗せたばかりの料理を口にしていくティエリアの姿に笑いをこらえるロックオンだが、さすがにこれ以上はやりすぎだろうと思い、ここで止めた。

一方、その話に加わらなかったサリアはじっとティエリアの顔を見ていたが、怒りでいっぱいのティエリアは気づかない。

「どうしたの?サリア」

納豆を食べ終え、次の料理を探していたキラがサリアのおかしな様子が気になって声をかける。

キラに対して返事をしないサリアの様子を近くで見ていたアンジュが笑みをうかべ、代わりにキラに答える。

「きっと、ティエリアの女装を想像して、敗北感に打ちのめされたりしていて」

「そ、そんなこと…!!」

「図星だったみたいね」

「アンジュ…!!」

きっと、魔法少女の衣装対決をする機会があったら(そんなこと、一切ないのだが)、ティエリアに完敗する未来が見えるほどに、サリアから見てティエリアの容姿はかなり整っている。

美少年といえる彼へのライバル心が燃え上がった。

「でも、この1か月のことで…」

「一番驚いたのは…」

こういった話に敏感なヒカルとミレイナ。

その視線にあるのは見覚えのない少女の姿。

その少女と浜田の親しい様子だ。

「浜田さんに彼女ができたことです…」

別に浜田を馬鹿にしているわけではないものの、ハーリーには彼に彼女ができる可能性はほとんどないと思えていた。

学校ではどういう生活をしているかはわからないが、同年代の異性と交流する機会があまりない勇者特急隊では、少なくとも彼女ができるような話はない。

まぁ、舞人という例外はあるが。

「えへへ…」

「内藤ルンナです、よろしくお願いします」

浜田の隣であいさつする白とピンクのドレス姿をした少女と照れ臭そうに笑う浜田。

そして、彼女のことを知る人物がもう一人。

青戸工場の制服姿をした恰幅の良い体つきの少年で、勝平の兄である神一太郎だ。

「彼女はアルバイトで青戸工場で勤務しているんだ。明るくて優しくて働き者だから、工場でも大人気なんだ」

「イチ兄ちゃんも狙ってたんじゃないの?」

「そ、そんなことは…」

「はは、いくら一太郎君が包容力の塊でも、今回ばかりは無理だな。彼女は浜田君の大好物の肉じゃがを作ったり、家に押しかけたりして、猛アタックをしたそうだから」

それを繰り返す中でついに浜田が撃墜され、こうして仲睦まじくしている様子を大阪も一太郎もこれでもかというくらい見せつけられることになった。

大阪の見立てでは、そうしたことに縁のない工員のうち、浜田を祝福する者と敵視する者は6:4といったところだ。

「女の子にそこまでさせるなんて、やるな、浜田君」

「浜田君…いやじゃなかった?」

「そんなことないよ!ルンナちゃん!そりゃ、最初は面食らったけど…でも、うれしかったよ」

「ありがとう…」

 

「ほぉー、あの浜田君がなぁ、よかったよかった」

「お似合いって様子ですよね…。ねえ、ナインもそう思うでしょ?」

「ええ…私のフィーリングカップルセンサーでも、お二人の相性はばっちりです」

「へえ、そんな機能もあるのか」

「自分で開発しました」

一体どんな目的でそんなセンサーを作ったのかはわからないが、少なくともナインの見立てでもそういわれるのであれば、きっと浜田とルンナはうまくいく、うまくいってほしいとソウジは思う。

これからどうなるかわからない世界なのだから、そうした小さなことだけでもうまくいかなければ、あまりにも不公平なのだから。

「ルンナ君…これからも、浜田君のことをよろしく頼むね」

「はい…舞人さん」

「ほらほら、舞人の兄ちゃんはサリーの姉ちゃんの迎えに行くんだろ?早く行った、行った!!」

勝平に押される形で舞人が会場から出ていくこととなり、役目を終えた勝平はステーキの置かれているテーブルへと走っていく。

「おーおー、若いっていいな。お前もそう思うだろ?アキト」

浜田達の様子を見て、カティとの結婚生活を思い出すコーラサワーが料理でいっぱいの皿をもってアキトの隣に座る。

味覚がないアキトは食事をとらず、ただこうして会場の仲間たちの様子を見ているだけで、返事をしない。。

そのことを気にせず、バクバクと料理を堪能するコーラサワーと立っているだけのアキトの元にグラハムがやってくる。

「壁の花になるには、君ではあまりに華がない。ならば、輪の中に入ろう」

「そうだぜ、ほら…星野艦長が待ってるぜ」

コーラサワーの指さす方向には、リョーコ達と一緒に食事をするルリの姿があり、アキトの姿が見えると、彼女はわずかに笑みをうかべていた。

「…そうだな」

 

「それで、どうですか?青戸工場での仕事と技術者の勉強は」

「忙しいけれど、なんとかやっている。もっと技術を磨いていかないとな…」

大阪の助手として、彼のもとで学び続けている一太郎だが、まだまだ足りないという自覚もある。

1年前の戦いで父親である源五郎が死んだことで、生計を立てる人間がいなくなる事態となった。

遺族年金が支給されるとはいえ、それだけに頼るわけにもいかない。

ザンボットのこと、ひきこもりになっていた勝平のこと、母親の花江のこともあり、一太郎は大阪工場で働くこととなり、どうにか生活できるだけの給料はもらえるようになった。

だが、まだまだ楽とは言えない。

「ビアル星人の技術の再現は?」

「少しずつ、といったところだな」

宇宙太が思い出したのは、西暦世界を離れる前に勝平と恵子と三人で青戸工場を訪れた際に一太郎が言っていたことだ。

青戸工場で修復されたザンボット3は確かに稼働や戦闘には問題ないものの、当時の性能を取り戻したとはいいがたいといえる。

整備に利用していたキング・ビアルも、それを構成していたビアルⅡ世とビアルⅢ世は失われ、唯一残ったビアルⅠ世も大きく損傷し、完全な修復が難しい状態だ。

データバンクも大部分が失われており、その中で一太郎は既存の技術を流用する形での再現を行うことに決めた。

兵器として使うことがないとしても、ザンボット3のイオンエンジンについては、大きな技術進歩につながる。

「ひとまず、その第一弾といえるものの準備は整った。試運転は必要だが、これでザンボット3のパワーアップができるだろう」

「うひょー!そいつは楽しみだぜ!!」

「ザンボット3って、あの三日月が額にあるロボットよね?」

「知ってるの?ルンナ姉ちゃん」

「浜田君に教えてもらったの」

「へえ、そいつはごちそうさまだな」

「ルンナちゃんはいろいろなロボットの中で、特にザンボット3がお気に入りなんだって」

「そいつはうれしいことは言ってくれるぜ!!」

一年前のガイゾックとの戦いにおいては、アロウズの情報操作等が原因でマイナスイメージを持たれ、忌み嫌われることの多かったザンボット3だが、ルンナのように受け入れられていっていることが勝平にはうれしかった。

辛いことが多かったが、それでもともに戦ってきた相棒のロボットが周りから嫌われるよりも、好かれる方がいい。

 

-旋風寺邸付近-

「遅いな、サリーちゃん。バイトが長引いているのかな…?」

家を出て、少し離れたところでサリーを待つ舞人は腕時計で時間を確認する。

もうすでに集合時間は過ぎているが、彼女のことだから故なしに遅れることはない。

まだまだパーティーも続くため、待っていようと決めた舞人だが、背後から鋭い気配を感じて振り返る。

「ほぉ…腕はさびていないな。一か月行方不明になっていたようだが、心配は無用か」

「雷張ジョー…」

「久しぶりだな、旋風寺舞人。パーティーを抜け出しているとは好都合だ。派手に会場に乗り込むことも考えたが、顔を合わせたくない相手もいる。直接、挑戦状を渡せるとはついている」

「挑戦状だと!」

「この一か月、今日という日を待っていた。この日のために修行と準備を続けてきたからな…」

この一か月、DG同盟が動きをひそめる中、ジョーは戦闘データの収集を名目に各地の紛争地帯へ赴いていた。

整備中の飛龍は使えなかったが、その量産型であるメガソニック8823や愛用していたユニオンフラッグ、そしてどうやって調達したのかはわからないが、ユニオンフラッグの血を確かに感じるブレイヴなどの機体を操り、戦ってきた。

日本に戻ってきたのはウォルフガングから知らせを聞いた今日で、その日のうちに敵の中枢を単独で破壊して契約を満了し、戻ってきたばかりだ。

「明日の朝8時…ヌーベルトキオシティでお前とマイトガインに決闘を申し込む」

「一騎討ちでの決着ということか…」

「受けるか?旋風寺舞人」

「正義が悪に背を向けるわけにはいかない!」

「正義…か…」

本気でそう思っているということは、こうして舞人の目を見るだけで分かる。

だが、そういう目を持つ男でなければ、こうして決闘を申し込む意味はない。

「お前の返答は確認した。明日、また会おう。それまでパーティーを…仲間との別れのパーティーを楽しみにしておくんだな」

「ジョー…」

立ち去っていくジョーはあっという間の夜の闇に消え、携帯を確認するが、先ほどまで会った彼の反応は消えている。

そんな中でこちらまで走ってくる音が聞こえてくる。

「舞人さん!さっきのは…」

「…ジョーが、俺の挑戦状を渡しに来た」

振り返ることなくそうつぶやく舞人に声の主であるサリーの視線が泳ぐ。

舞人の勝利を信じているが、果たしてジョーとは戦わなければならないのか。

サリーにはジョーが倒さなければならない悪とは思えない。

(舞人さんとジョーさん…二人は戦うしかないというの…?)

 

-マイトステーション 格納庫-

(ここね…ロボットの整備が行われている場所は)

物陰から保管されている機動兵器を確認する小さな人影。

ここまでにある監視カメラやセンサーをすり抜け、今ここにいる人物の存在を感知している存在は一人もいない。

パーティーが終わり、気が緩んでいる今が大きく戦力を削るチャンス。

既に目立たない場所を中心に爆弾を設置しており、スイッチを押せばこの場所は崩壊し、ロボット達もがれきの中へ消えることになる。

計算では、ここで起爆させて崩壊が始まるとしても、安全に脱出できるルートは確保されている。

懐から起爆装置を出した人物の視線が保管されているボンバーズとダイバーズに向けられる。

装置を押す手に一瞬のためらいを見せ、だが今度は覚悟を決めて起動させる。

「…どうして?なんで爆発しない!?」

「無駄だ。もうすでに信管は抜いている」

背後から聞こえる男性の声と同時にジャラジャラといくつもの金属が落ちる音が耳に届く。

視線を向けると、そこにはアキトの姿があり、彼の足元には彼の言う通り、信管が散らばっていた。

人影は起爆装置を投げ捨て、アキトを襲うが、木連式・柔の動きにより地面に伏すこととなった。

「ここまでだ、内藤ルンナ」

「くっ…」

アキトの視線に入るのはパーティー会場で見たルンナの姿。

だが、着ているのはかわいらしいドレスではなく、戦国時代のくのいちのような衣装だった。

動きを封じた彼女が隠し持つ苦無を奪うと、アキトはそれを遠くへ投げ捨てる。

「このことは黙っておいてやる。さっさと帰れ」

「天河アキト…」

「やはり、俺の名前も知ってるか。下調べはできているようだな。ショーグン・ミフネの手のものか」

「なぜ…私の正体に気づいた」

少なくとも、浜田をはじめとした面々は怪しむ様子が微塵もなかった。

舞人もわすかしか顔を合わせていないにもかかわらず、信用している様子で、甘さを感じていた。

「お前の舞人を見る目だ。闇に生きる人間の目は、知っているつもりだ」

「くっ…!」

「そして、何より…ヒーローに近づく謎の少女は敵のスパイ。こういうお約束は、よく知っている」

「わけの…わからないことを!!」

もがくルンナだが、大の大人の男性の拘束を訓練を受けているとはいえ年ごろの少女である彼女が解けるわけがない。

「くっ…殺せ!!任務に失敗したくのいちなど、生きている意味が…ない!!」

(内藤ルンナ…やはり、そうか…)

ここに行く前に、アキトはトレミーのターミナルを使用して内藤ルンナの情報を洗った。

確かに戸籍データには彼女の存在はある。

無論、採用の際には大阪や青木らも身元を確認しているだろう。

だが、それが正しいものかについては分からない。

一年前のブレイク・ザ・ワールド事件によって地球に多くの被害が発生し、その際に多くの戸籍データが失われており、現在も完全に復旧できたとはいいがたい。

そのため、免許証などのある程度の証拠があれば、自己申告での戸籍復旧が容易に可能となっており、その際にルンナの戸籍データが『復旧』されたのだろう。

ここからはヴェーダから手に入れた情報に基づくアキトの推測ではあるが、彼女は孤児であり、ブルーコスモスの施設で兵士として過酷な訓練を受けたものと思われる。

当然、その訓練の成果として戦場に出たり、民間人を装った潜入工作やコーディネイターへの襲撃といった汚れ仕事も請け負っただろう。

だが、ロゴスとブルーコスモスの壊滅によって行き場をなくすこととなり、そこでミフネに拾われて、今に至る。

他に行き場所がないルンナには、捨てられた先にある未来など絶望しかない。

「もう一度言う、何もせずに帰れ」

「…」

「今、このことを知っているのは俺だけだ」

「敵に…情けをかけるつもり?あなたのような、人間が…?」

バイザーで隠していても、アキトがあの事件の後で何をしてきたかは知っている。

自分と同じようなことをしてきた人間の言う言葉とは、ルンナには思えない。

「お前のためじゃない…浜田君のためだ」

「浜田君の…」

「命は助けてやる。だが…その代わり、浜田君を悲しませるようなことはするな」

「…」

力が抜け、抵抗する様子を見せなくなったルンナを見たアキトが拘束を解く。

彼女は振り返ることなく走り去っていき、その後ろ姿を見送る。

「内藤ルンナ…失ったものは二度と戻らないんだぞ…」

あとは、ここに誰かが来る前にすべてやることを終わらせなければならない。

アキトはルンナが仕掛けた爆弾を取り外すべく、歩き出した。




ブルーコスモス、およびロゴスにおける強化人間について

遺伝子調整によって優れた能力を得たコーディネイターを従来の人類であるナチュラルが上回るのは難しい。
白兵戦においても、従来のモビルスーツにおいても開戦時からストライクダガーやGN-Xといった最新の主力モビルスーツが誕生するまでは後塵に喫していた中、ブルーコスモスおよびロゴスが行ったのは強化によるコーディネイターへの対抗だった。
電極によるバイオフィードバックによる洗脳や心身に害をきたさない程度の投薬、過酷な訓練のプログラムによってコーディネイターをしのぐ多くの兵士が誕生した。
だが、コーディネイターを圧倒する領域にまで達した兵士が少ないことから次に行われたのは人体改造である。
その極端な例はブーステッドマンであり、脳に人工インプラントをとりつけ、依存性の高い麻薬を投与させることで身体能力や反射神経等を極限まで強化している。
実際に、ブーステッドマンの3人と、彼らの運用を前提に開発されたモビルスーツは、とあるアクシデントでオーブ軍に流れたザフトの新型モビルスーツとスーパーコーディネイターに対して、対等に渡り合うことができた。
しかし、投与した麻薬の依存性とそれによる脳や精神の汚染は大きな問題となった。
そうした精神面の問題の克服を目指したのはエクステンデッドである。
『ゆりかご』という催眠装置を利用した記憶の改ざん等のメンテナンスによって、特定の作戦行動に適した人間に形成し、新たな抑止策として聞くと恐慌状態に陥る単語であるブロックワードを設定されている。
ただし、メンテナンスを長期間行わなかった場合は徐々に衰弱していくこととなり、最悪の場合は死亡する可能性もあるという。

ブルーコスモスとロゴスの壊滅後、数多くの彼らの生き残りが存在しており、中には彼らの残党によって兵器として利用されているという情報もある。
『ゆりかご』等の技術については彼らの壊滅と共に失われているものも多く、彼らの保護とケア、社会復帰等について地球連合政府内において問題となっている。

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