スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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ペロリーナについて
西暦世界において、一昔前に流行したというマスコットキャラ。
外見は全身ツギハギだらけの熊で、大きさの違う両目と口から長く垂らした舌が特徴。ツギハギの身体も部位ごとに色や柄が異なっている。
しゃべれる設定で、語尾に「ぺろー」がつくらしい。
3年前の大戦がはじまった頃には既にブームが過ぎ去っていたものの、再び始まった大戦やいまだ混迷する世界の不安の中で子供たちの心をいやす存在として再注目されており、スメラギはペロリーナグッズを育児休暇中のリヒティとクリスに送ったこともある。
外界から隔離されたアルゼナルにおいてはヴィヴィアンをはじめとした一部にコアなファンがいるのみ。
なお、現在のアルゼナルのブームはミスリルからもたらされたボン太くんで、現在マギーの店では新たなツテ(弱みを握ったことで)で手に入れ、大量にコピーした別世界の日本で毎年公開されていたという某アニメ映画監督のレトロ作品と共に高値で取引されているという。


第63話 スーパー着ぐるみ大戦

-陣代高校 グラウンド-

かつては生徒たちの笑顔と汗で包まれており、現在は生徒たちが不在となったことで静寂に包まれていたはずのグラウンド。

だが、静寂というものは非日常がわずかに侵食しただけで簡単に壊れるものだ。

ドドドドドド、ドカーン、バチバチバチバチ!!!

アサルトライフルの薬莢が落ちる音と発砲音、手りゅう弾やグレネードランチャー、地雷の爆発音に高圧電流。

数々の戦場では聞きなれた数々の音がグラウンドから響き渡る。

そして、その光景を生み出しているのは2匹のマスコットだ。

「一体、なんなの、これ…」

かなめにとっては見慣れた2匹のマスコット。

1匹は軍隊用のベストとヘルメットをつけ、目つきが鋭くなったうえに頬に十字の切り傷がついたボン太くんで、もう1匹のマスコットであるペロリーナに情け容赦のない攻撃を繰り広げている。

恐ろしいのは使われている武装は舞人が対人戦で使うゴム弾ではなく、すべて実弾であること、そしてペロリーナはいくつか被弾はしているものの、ハチの巣になるほどのものではなく、生きて逃げ回り続けていることだ。

当然、物騒な物音に気付いた面々が集まっている。

「着ぐるみ同士が戦っている…?」

「これが、宗介さんが言っていた面白いこと…??」

困惑する甲児とさやかに対して、シンジはこの理解が追いつかない状況に目を丸くするだけで頭の回転が止まっている。

「た、確かにすごい光景だがよ…」

「かわいい…」

「うん…」

「モフモフしたくなる…」

「あ…お嬢さん方にはそういう風に見えるのね、あれ」

チトセらならともかく、やはり感性は少女ということなのか、ナインも魅了されている様子だ。

ただ、ソウジも理解不能ではあるものの、それでも見てしまう。

着ぐるみというどう見ても多くの動きが制限される装備であるにもかかわらず、激しく攻撃を加えるボン太くんにそれをかわしていくペロリーナ。

明らかにその動きは素人の物ではなく、特にボン太くんの動きについてはミスリルとの合同訓練で見た動きに似ている。

「もしかして、あの中には…」

「中の人はいない」

「アキト…」

「いいじゃありませんか。ナインさんたちの夢を壊さないために」

口を挟んだアキトと冷静なルリの様子から、きっと二人も正体に気づいているのだろう。

そして、少女の姿ではあるが、高性能なAIであるナインもいずれは気づくかもしれない。

だが、異世界に飛ばされた上にそこで行われた連日の戦いで披露している彼女たちにわずかでもオアシスで過ごす時間を与えるのも悪くはない。

たとえそれが半分蜃気楼であったとしても。

「ま、それも、そうだ…な」

「一歩間違えれば、地獄絵図だと思いますけど…」

きっと、このオアシスの水は数分後には血の池に変わることはシンジには容易に察することができた。

こんな実弾と爆薬、火薬、電撃のハーモニーのどこがオアシスだとでもいうのか。

脳裏にむせるポエムが聞こえた気がしたシンジだが、やがてボロボロになったペロリーナが尻餅をつき、そこにショットガンを手にしたボン太くんが接近する。

「待って、ちょっとやめてったら!!」

さすがにこれ以上はシャレにならないとかなめがボン太くんを止めにかかる。

そんな中で校門から車が突っ込んできて、グラウンドに突入してくる。

ペロリーナの近くで停車した車からモモカとヴィヴィアンが飛び出した。

「やっと見つけました!」

「このドロボー!ペロリーナを返せー!!」

「アンジュリーゼ様の癒しのために原田さんと森さんも手伝ってくれたんです!それなのに、こんなにボロボロに…」

こんな姿では敬愛するアンジュをいやすことはできないと嘆くモモカ。

純粋な奉仕の心を踏みにじった泥棒を許すことができないモモカの手にはフライパンが握られていた。

モモカとヴィヴィアンの登場はペロリーナにとってはボン太くんによる攻撃以上の衝撃があったのか、腰を抜かしたことを忘れて立ち上がり、あろうことかボン太くんの後ろに隠れるように走る。

「こら!逃げるなー!!」

「おとなしくし…キャア!!」

突然、町から聞こえてくる爆発音と空に上がる煙。

かなめの視線は一瞬ボン太くんに向けられたが、彼は目を丸くしていた。

「まずい…」

「アーム・スレイヴが来るぞ!!」

ビルに隠れているものの、かすかに見えるアーム・スレイヴの頭部。

どうやら学校のみで終わるはずだった非日常はそこだけでは飽き足らず、町にも侵食したらしい。

 

-陣代高校周辺-

モスグリーンのブッシュネルと黄土色のサベージの大群が町を攻撃し、周辺の基地から出動した連邦軍のジムⅡやネモと交戦する。

「クソッ!テロリストのアーム・スレイブ部隊か!!」

「ジオンのこともあるってのに、なんでまたこの町に!!」

ここにいる連邦軍の兵士の中には、先日この町で発生した事件を目撃している兵士もいる。

彼らは学校を占拠して何か要求をするわけでもなく、戦略的な価値も薄いここをピンポイントに攻撃し、やがてはミスリルと交戦したのちに撤退している。

何を目的にこんなことをしているのかわからず、パイロットは今の機体で戦えるのかを不安視する。

Gハウンドやジオンとの前線で戦っている部隊とは異なり、トリントン基地をはじめとした戦略的価値の薄い地域や基地においてはジェガンやリゼルのような新型量産機が配備されることは極めてまれだ。

ネオ・ジオン戦争においてジェガン以前に配備されたジムⅢが配備されるならいい方で、ここにいるネモや下手をするともう既に存在価値が皆無な水陸両用モビルスーツであるアクア・ジムが配備され、それをわざわざ水中戦用機能を排除して運用するなどという悲しいケースまである。

ジオンとの戦いに偏重した結果、旧型モビルスーツでテロリストをはじめとしたジオン以外の勢力と戦うことになり、パイロットの技量でどうにか補うしかない状況となっている。

「おやおやおや…生真面目だねえ…。ここ、もう人がいないのに、わざわざモビルスーツを出してさあ…け・ど、そういう連中は…馬鹿を見ちゃうんだよなあ!!」

建物の上から、ゲイツが乗り込んでいるエリゴールが自分が雇ったテロリストたちと戦っている様子を見ている。

大きく跳躍したエリゴールがラムダ・ドライバを起動すると、バックパックから出したガトリングガンで上空から指揮官機であるネモに攻撃を加える。

ラムダ・ドライバによって急激に破壊力が高まったガトリングガンはあっという間にネモをハチの巣にしてしまった。

「た、隊長!?」

「赤いアーム・スレイブ!?赤い彗星の真似事かよ!!」

隊長の死で動揺するジムⅡのパイロット達だが、今エリゴールは上空にいて、バックパックにブースターが装備されているようには見えない。

回避できないとみてビームライフルを放ち、ビームは直撃コースを進む。

「ざんねーん!今日の私のモミアゲはいい感じの出来なんだよ!そんなビーム…ぶった切ってしまうよー!!」

ガトリングガンを捨て、単分子カッターを抜いたエリゴールが直撃寸前のビームに向けて刃を振るう。

ラムダ・ドライバの青い光を帯びた刃はビームに接触したと同時に青い光の剣閃を生み出し、刃はビームを両断しながら地表のジムⅡを襲う。

ビームが斬られるというわけのわからない状況に一瞬反応が遅れたが、それで死んでいるようでは今この場にはいない。

後ろに飛び、光の刃の射程から逃れようとする。

だが、光の刃はあろうことか動くジムⅡの動きがわかっているかのように軌道を変えていく。

「何!?」

「言ったでしょう?馬鹿を見る…って」

縦一文字に光の刃で斬られ、刃は地表に当たると同時に消滅する。

地表にも確かに光の刃は命中しているはずで、刃は建物も巻き込んでいるはずだった。

だが、斬られたのはモビルスーツ、そしてパイロットのみだった。

左右に分かれたジムⅡは左右に倒れた後で爆発し、残るジムⅡは動揺している中、背後からブッシュネルのショットガンの連射を受けることとなった。

「さーあ、エンジェルがいるという情報が間違いなければ、あの学校に…ううん?」

着陸し、サベージから無理やりマシンガンを取り上げたゲイツは校門から飛び出してくる着ぐるみの姿に目が留まる。

着ぐるみがボン太くんというマスコットキャラなのは知っているゲイツだが、問題なのはなんでそんな着ぐるみ姿で出てきて、しかも手に銃を持っているのかだ。

「ま、いいや。撃っちゃおっと」

何者かはわからないが、命令ではここにいる目撃者は全員殺すことになっている。

このわけのわからない着ぐるみ姿の中の人も例外ではない。

バンッと1発だけ弾丸を放ち、それは一直線にボン太くんへと飛んでいく。

だが、ボン太くんは大きくジャンプして弾丸を避け、着地するとともにバタバタと脚を動かして接近してくる。

「避けたぁ!?この私の必殺ショットを!?生意気ーーー!!」

なら、加減は無しと連射を開始するエリゴールのマシンガン。

加減しないと言いつつも、やはり心のどこかに油断があるもので、ラムダ・ドライバを使っていない。

次々と飛んでくる弾丸を走る軌道を変える、命中コースの物をライフルで撃ち落とすといった動きを見せるボン太くんは被弾することなく、ついには一番近くにいるサベージの足元に到達する。

「き、着ぐるみ!?」

「ふも!!」

草むらに手を突っ込んだボン太くんが出したのはロケットランチャーで、発射される弾丸がサベージの胴体に突き刺さる。

対アーム・スレイブを想定されたそれの破壊力は通常の人間用のロケットランチャー以上であり、直撃したサベージの胴体に穴が開き、四肢が吹き飛んでしまった。

「すごい…ボン太くんが、アーム・スレイヴを」

「おおーーー!!かっちょいーーー!あたし、一発でファンになっちゃった!」

「頑張って、ボン太くん!」

「いやいや、ありえねえだろ!?着ぐるみでアーム・スレイヴをぶっ壊すって、どんな世界だよ、これ!」

確かにアーム・スレイヴとの戦闘を想定した装備はあるとはいえ、それでもほぼ白兵戦でアーム・スレイブを破壊するのは正気の沙汰ではない。

おまけに体の動きが大きく制限されているであろう着ぐるみでだ。

まさか着ぐるみの姿をしたゲッターロボとでもいうのか。

「ナデシコから連絡がありました。対応のために動くと。私たちは避難しましょう」

「よ、よし…頼んだぜ!ええっと…ボン太くん!」

一瞬、中にいるであろう人物の名前を口に出そうとしたソウジだが、どこからかわからない圧によって止められ、ひとまずは仮の名前で声をかけた後でチトセらと高校を後にする。

彼らと共に避難するかなめの脳裏に浮かぶボン太くんの動き。

相手がアーム・スレイヴであるのはともかく、その動きは見覚えがある。

(ひとまず、あいつの正体についてはみんなには黙っておこう。それにしても、ペロリーナはどこへ行ったんだろう…?)

 

-陣代学園付近 裏路地-

「はあはあはあはあはあ、もう…もう冗談じゃないわ…!!」

騒ぎに乗じてどうにか逃げ切ったペロリーナの中から出てきたアンジュがあまりの疲労で崩れるように倒れこむ。

中があまりにも熱く、とても服を着た状態で着ることなどできるはずもないことから、今はもう下着だけの状態になっている。

そして、あのボン太くんによる苛烈な攻撃から逃れるために激しく動いたためにもう汗で全身がぬれていて、下着が透けるほどだ。

「あいつよ…絶対、絶対あいつよ!!どうにかして…どうにかして、お返ししてやるわ!!!」

拳を握りしめ、脳裏に『あいつ』の憎たらしい顔を思い浮かべる。

決してボン太くんが犯人ではない、犯人は『あいつ』。

世界を壊してでも逃げ延びた楽園を地獄に変えた『あいつ』を決して許さない。

そんな黒々とした感情の奔流に反応するかのように指輪が光り、その光がアンジュの体を包み込んだ。

 

-陣代高校 周辺-

「ど、ど、どうなってるんですか、隊長!あの着ぐるみ、正気じゃありませんよ!!」

「ほ、ほーぉ、たかが着ぐるみにもう倒されたアーム・スレイヴは10機も。これは…計算外もいいところ。し、かーし、私の部隊のアーム・スレイヴは旧型の第2世代や、私のエリゴールだけではないのだよ!」

「ふも…!」

ブッシュネルをハチの巣にし、機能停止したのを確認したボン太くんの鼻の部分がピクリと反応する。

このなじみのある匂いから近くにいる敵機の正体に気づく。

ゲイツのエリゴールの左右を挟むように出現したのは2機のガーンズバックで、姿を現すと同時に匂いが薄まっていく。

「ハハハハ!まさか、着ぐるみ風情にこれを見せることになるなんてなあ!!」

 

-ナデシコB 艦橋-

「ボン太くんからの映像!ガ、ガーンズバック!?」

モニターに表示される2機のガーンズバックとそれと戦うボン太くんの姿。

さすがに第2世代までのサベージやブッシュネルと比較すると多機能かつ新型であるガーンズバックを相手にするには厳しいのか、ボン太くんは建物の陰に隠れるなどして攻撃をやり過ごしつつ、グレネードを使って攻撃しては離脱を繰り返す戦術をとっている。

だが、ハーリーにとって驚きなのはアマルガムがガーンズバックを運用しているということだ。

オモイカネで照合を行った結果、この2機のガーンズバックはミスリルが運用しているE系列のものだという結果が出た。

現在避難中のルリに代わり、単独で操艦をすることとなったハーリーではオモイカネの運用は限定的であるものの、間違いないといえるだろう。

ガーンズバックにはA系列からE系列のものまでが存在し、ミスリルが運用しているE系列とクルーゾーのファルケに使われているD系列はミスリルにとってはなじみがある。

それ以外の系列については連邦軍でようやく運用が開始されたものとなっており、非常にピーキーな調整がされているD系列とE系列とは異なり、一般兵でも運用が可能となるようにデチューンが施されている。

そのことから性能面ではミスリルのガーンズバックと比較するとあまりにも低く、おまけに連邦軍はそんなお粗末なガーンズバックの無印機をオリジナルガーンズなどと呼んでいる。

ミスリルがあくまでも非公式な軍事組織であり、そこで運用されているガーンズバックについては認知していないことからそう呼称しているのだが、ミスリル内部でそんなポンコツを呼ぶ人間は一人もいない。

特にミスリルでガーンズバックの設計にかかわったマオに至ってはガーンズバックであることさえ認めておらず、呼ぶとしたらスクラップらしい。

そんな高性能なミスリルのガーンズバックは外部に流出することがないように厳重に管理されている。

それをあろうことかアマルガムが運用していることはあまりにも衝撃的だ。

「ええっと…各機は発進準備をしてくだ…え、ええ!?ヴィルキス!?いつの間にここに…??」

矢継ぎ早に発生するよくわからない事態、そしてルリの不在で混乱するハーリーにできるのはせめて早急に現場にナデシコBを到着させ、勇者特急隊とミスリル、メイルライダーを出撃させることだった。

 

-陣代高校 周辺-

「ふも!?」

急に現れたヴィルキスに気づいたボン太くんが彼女から向けられるアサルトライフルの銃口に目を丸くしていた。

ヴィルキスから警告なしに放たれる直撃コースへの実弾の数々をボン太くんは体を転がせながら回避していく。

ある程度撃って、少しだけ気持ちが晴れたアンジュは次にガーンズバックに目を向ける。

ミスリルに雇用されてからの模擬戦で彼女は何度もクルツやメリッサのガーンズバックとクルーゾーのファルケ、宗介のアーバレストに辛酸をなめる結果となった。

乗っているパイロットは違うが、ある意味アンジュにとってはリベンジマッチということになる。

(それにしても、今のって一体?それに…)

汗だくの下着姿だったはずのアンジュがノーマルスーツで身を包んだ状態となっており、まるで既に十数分前からコックピットに乗り込み、戦闘準備を整えていたかのような状態だ。

ヴィルキスが自分から跳躍し、同時に自分がコックピット内へ転送されたような非現実的な状況。

「よくわからないけど…けど、今は!!」

「どういうカラクリかは知らないが、このゲイツ様に歯向かうならば…容赦はしないぞー!!」

ラムダ・ドライバ起動と共に再び火を噴くガトリングがヴィルキスを容赦なく襲う。

メリダ島での戦闘において確認されたこの空飛ぶアーム・スレイブといえる機動兵器の装甲が紙レベルであることはデータから判明している。

故に今回のガトリングについては破壊力を強化するのではなく、弾速を早めるイメージを使った。

圧倒的なスピードで飛んでくるその弾丸はたとえ機動力の高いヴィルキスであっても回避しきれない。

「ふもももーーー!!!」

これでは当たると動揺するボン太くんだが、アンジュはこのような攻撃に対してもどこか冷静になっている自分が感じられた。

この状況はまさに先日の赤いパラメイルとの戦闘で、初めて跳躍を行ったときと似た状況だ。

ラムダ・ドライバを搭載したゲイツのエリゴールを撃破することは現状のヴィルキスでは厳しいかもしれない。

だが、少なくともガーンズバックを倒すことができれば。

「いくわよ…ヴィルキス!!」

操縦桿を握りしめるアンジュの指輪が光り、同時に装甲を青く染めたヴィルキスが姿を消す。

レーダーからもヴィルキスの反応が消え、アマルガムのパイロット達の中に動揺が広がる。

「くそ…どこに消えた!?」

「ここよ!!」

ガーンズバックの背後から胸部を貫くラツィーエルの刃。

血とオイルでぬれた刃を引き抜き、血振りをした後でコックピットを失ったガーンズバックがグラリとうつぶせに倒れる。

「くそ…なんだあの機体は!?うわっ!!」

相方のガーンズバックが一瞬でやられたことに動揺する中でも、最大の脅威となったヴィルキスを排除しようとしたガーンズバックの右手に爆発が起こり、握っていたアサルトライフルを落としてしまう。

いつの間にビルの屋上にいたボン太くんがバズーカを手にしており、それでガーンズバックのマニピュレーターに攻撃を加えていた。

更にボン太くんはトランシーバーを手にすると、どこかに通信を入れる。

「あの着ぐるみがあ!!…な、なんだ、これは!?」

「嘘だろ…この数は!?」

次々とモニターに表示される新たな敵の反応の数々。

それは数多くのブッシュネルやサベージを撃破したあの着ぐるみと同じもの。

「もっふーーーー!」

「もっふーーーー!」

「もっふーーーー!!!」

無人の家やガレージ、物置小屋などから次々と出てくる灰色のボン太くん軍団。

アサルトライフルや2丁のバズーカ、スナイパーライフルにハリセンと様々な種類の装備をした彼らはまだ生き残っているアマルガムの部隊に攻撃を仕掛ける。

あのボン太くん1機だけでも一方的に破壊されてしまったアーム・スレイブではそんな集団を前にどうすることもできず、次々と蹂躙されていく。

「何ぃーーー!!これは私も想定外だぁ!!」

「よそ見をしてるんじゃ…ないわよ!!」

まさかの軍団の登場にびっくりした様子のゲイツに切りかかるアンジュだが、やはりラムダ・ドライバを搭載しているこの機体には生半可な攻撃が効かないのは確かで、青いバリアで受け止められてしまった。

放熱板さえ破壊することができれば、ラムダ・ドライバを使うことができなくなることは既にメリダ島での戦いで証明されており、そこを攻撃されることはゲイツも警戒していた。

「もう少し、遊びたいところだが…どーも、そういう状況じゃあないみたいだ」

つい先ほど送られてきた暗号通信から、ナデシコがミスリルとアルゼナルの部隊と共にここにもうすぐ到着することがわかっている。

今回は新たに雇い入れた傭兵たちの訓練、そしてターゲットであるエンジェル、かなめの存在を確かめること。

傭兵の損失は痛いが、この荒廃した地球においては失業者やならず者があふれており、すぐに補充が効く。

最低限の任務を達成していて、更に駆けつけてくる援軍を単独ですべて破壊できると考えるほどゲイツは傲慢ではない。

「では、そこの白いパラメイルに、クマネズミ君!私のもみあげが肩まで伸びたら結婚しよう!!」

「誰が!!」

切りかかろうとするヴィルキスだが、撃破されている付近のアーム・スレイブの残骸からバコンと奇妙な音が発生するのを感知する。

ボン、ボン、ボンと甲高い音と共に煙幕が発生し、それが街を包み込んでいく。

「煙幕!?待ちなさい!!」

ラツィーエルを振るうヴィルキスだが、もうすでにゲイツのエリゴールはビルからビルへと飛び移る形で移動していき、他の生き残りのアーム・スレイブ達も後退していく。

煙幕が晴れたときには既に残っているのは撃破されたアーム・スレイブの残骸のみとなっていた。

「くぅ…逃げられた!!」

もう追跡できない敵機に対して悔しがるアンジュは拳をたたきつける。

その直後にナデシコBが到着し、発進した勇者特急隊が消火や残骸の撤去を開始していく。

ルリ達を乗せた車両がナデシコBの近くまでたどり着き、通信可能となったことでルリが通信をつなぐ。

「ハーリー君、お疲れさまでした」

「艦長、ご無事でよかったです。それにしても、こんなにあっさり後退するなんて思いませんでしたが…」

「駆けつけてくれたアンジュさん、そしてボン太くんに感謝ですね」

「え、ええ…」

ナデシコBのモニターにもボン太くん軍団が表示されており、大雑把に解析されるその情報にハーリーは苦笑いする。

その1機1機の性能はガーンズバックには及ばないものの、第二世代のアーム・スレイブに対しては互角以上にわたりあうことができるらしい。

あの着ぐるみのどこにそれほどの強さがあるのかはわからないが、ハーリーはこの世界の技術力の恐ろしさを感じずにはいられなかった。

「ねえねえ、あれだよあれ!!ボン太くん!!」

「引っ張るなってヴィヴィアン!マジかよ…」

ナデシコBから降り、ヴィヴィアンに無理やり引っ張られたヒルダが見たのは戦場と化した街中には不釣り合いな服装と武装を手にしたボン太くんの姿。

「あらあらー」

「なんだろう…胸が、キュンキュンする…」

「こいつ…とっ捕まえて部屋に飾りたいぜ!」

あまりの場違いなボン太くんに動揺するヒルダとは異なり、エルシャ達はすっかりボン太くんに魅了されているようで、ナオミはそんなボン太くんの写真を撮る。

(この写真はきっといいキャッシュになる…!アルゼナルに帰った時に売りつけて、少しでも借金返済の足しに…!)

(あれはふもふもランドのマスコットキャラクターのボン太くん!そのつぶらな瞳と愛らしい動きで老若男女に愛されるキャラクター!非番の時に見に行こうと思っていたけれど、まさかこんなところで会えるなんて…!)

ダナンにあるサリアの個室には宇宙世紀世界の日本で手に入れたボン太くんグッズが数多く置かれている。

ふもふも谷のぼん太くんを初めて見たときからサリアはすっかりボン太くんの虜となっていた。

なお、そうなってからは元同居人であるヴィヴィアンを含めて、サリアは誰一人として仲間を部屋に入れることはなくなったという。

(どうするかしら…今すぐにでも捕獲して私だけのものに…!ダメだ、それだと私もロザリーと同じに…!)

「ふも!!」

「あ、ちょっと待って、ボン太くん!!」

急にジタバタと走り出したボン太くんが圧倒的なスピードで消えていき、サリアは思わず声を上げ、手を伸ばして追いかけかけるが、もうすでに追いつけないくらい距離が離れていた。

いつの間にか他のボン太くん達もいなくなっていた。

入れ替わるようにヴィルキスが戻り、降りてきたアンジュがサリアを見る。

「あ、あのさ、サリア…素が出てるよ…」

「ア、アンジュ!!」

カァッと顔を赤く染めたサリアだが、もうすでに全員からその様子を見られており、隠せるはずもない。

魔法少女衣装姿を見られた時以上の恥ずかしさを覚える。

「それにしてもすごいわ、アンジュ!跳躍を使いこなせるようになったなんて」

「見直したわ、アンジュちゃん」

「ア、アハハハ…」

さすがにペロリーナに入って逃げ回り、ボン太くんに襲われ、その怒りでヴィルキスを召喚しただけなどとは口が裂けても言えるはずがなかった。

「今の内に盗まれたペロリーナを探さないと!ヴィヴィアンさん、手伝ってください!」

「ラジャー!待ってろー、ペロリーナー!」

モモカとヴィヴィアンが再び街中へと向かう中、その後に続くようにかなめも歩き出す。

「どうしたの?かなめちゃん」

「ああ…実は高校に忘れ物が…取りに行ってくる」

 

-ナデシコB 格納庫-

「ううーー、ペロリーナがボロボロー」

「無理もありません、ヴィヴィアンさん。あんな戦闘が起こったのでは…」

ボン太くんにやられた箇所もあるが、それ以上にアマルガムとの戦闘に発展したことで、それに巻き込まれたと思われるダメージが大きく、グチャグチャにならなかっただけでも奇跡といえるだろう。

だが、原田達の協力でせっかく作ったペロリーナがこんな状態では、アンジュをいやすことなどできない。

「せっかくアンジュのために作ったのに…泥棒、許すまじ!!」

もう1度あの街へ戻って、泥棒に倍返ししてやろうと誓うヴィヴィアンが走り出そうとするが、ヴィルキスから出てきたアンジュを見て動きを止める。

「ありがとう、モモカ、ヴィヴィアン。2人の気持ちはちゃんと伝わったから」

「アンジュ…」

「アンジュリーゼ様…」

「おかげで元気が出たわ。それに…なんだか、コツみたいなのをつかんだ気もするし…」

とても抽象的な言葉で、アムロや刹那達のような感じになってしまうのがシャクではあるが、それでもアンジュにとっては今回のヴィルキスの召喚は大きな一歩に感じられた。

ヴィルキスそのものへの謎は深まったといえるが、それは西暦世界に戻ってジルに直接問いただせば済む話。

「じゃあじゃあ、今度はもっともっと大きな着ぐるみを作ってあげるね!もっともっとアンジュが元気になるように!!」

「それは遠慮する!もう騒動はこりごりだから」

「えーーー!」

 

-陣代高校 グラウンド-

スパアアアアン!!

強烈なハリセンの音が硝煙の香りが残るグラウンドで響く。

右手にハリセンを握るかなめの視線が冷や汗まみれの宗介に向けられていた。

「ソースケ…」

「すまない、千鳥!!どうやら…あのペロリーナというとやらは只の着ぐるみだったらしい!こちらと同じコンセプトの都市型の超小型サイズアーム・スレイブだと思ったのは俺の勘違いだった!!」

そもそも、人のいないこの街で着ぐるみを着た人間が現れるのは不自然ではあるが、それでも着ぐるみを彼の言う都市型の超小型サイズのアーム・スレイブとみるのは宗介以外にいないだろう。

ひとまず、彼自身の弁論としてはこのようなアーム・スレイブが今後現れる可能性があり、その対策が必要だという判断で作ったという。

香港での戦いでアマルガムが使用した人間サイズのアーム・スレイブであるアラストル。

機銃に自爆装置、人間を上回る身体能力と標準的な歩兵用の銃器に耐える高い耐久性を生かした格闘戦を行えるそのアーム・スレイブは柔軟な状況判断を行えるようにプログラムされているおり、一般の歩兵にとっては厄介な相手と言える。

ミスリル内部でも単独でアラストルを撃破できる兵士は宗介やクルツを含めても少なく、可能であれば相手にせずに機動兵器に任せるようにと言われている。

ただし、それは機動兵器の運用ができる戦場でのみ可能であり、戦艦内や閉所ではそのようなことはできるはずがない。

そこで、宗介が考えたのは超小型アーム・スレイブであり、平たく言えばパワードスーツだ。

機銃に耐えうる超アラミド繊維を使い、指向性マイク・サーマルセンサー・暗視システムなどを採用、指は着ぐるみのものとは見た目は変わりないものの、アーム・スレイブの操縦系統であるセミ・マスター・スレイブ・システムを取り入れることで人の手と大差ない動きと精密さを獲得し、先ほどのように銃火器を使用できるようにした。

今回の戦闘ではっきりわかったことは、着用した人間次第ではアラストルのみならず、通常のアーム・スレイブとも互角以上に戦えるということだ。

その結果には満足しており、かなめも助かったことからそれについては文句はない。

だが、致命的な問題なのはデザインと言葉だ。

相手を油断させるためなのかどうかはかなめにはわからないが、まさかマスコットキャラクターであるボン太くんの着ぐるみ姿である上に会話は「ふもふも」としかしゃべれない。

言葉の問題については宗介がプログラムを組んだ際、なぜかボイスチェンジャー機能をオンにしなければならず、オフにするとシステムダウンをしてしまうためだという。

これについては何度もプログラムの見直しなどを行っているが、いまだに解消されていない。

ちなみに、灰色のボン太くんたちは量産型ボン太くんで、西暦世界のエリアDにおける無人機との戦闘の中で思いついたらしく、ボン太くんによる制御を行うことで自動で動いてくれるのだという。

今日プログラムをインストールし、今日テストを行おうと考えた中で今回の戦闘となった。

ぶっつけ本番ということになったが、うまくいって何よりだ。

だが、やはり軍人としての生き方しか知らない己のこの行為はかなめをはじめとした一般の人々にとってはこの上ない非常識。

覚悟を決める宗介だが、かなめはハリセンをしまうと笑顔を宗介に見せた。

「ありがとう、ソースケ」

「え…?」

「あれ…あたしを元気づけるために用意してくれたんでしょ?その気持ちだけで十分だよ、ソースケ」

「まだだ…もう少し調整を加えれば、あれは完ぺきになる。今回は地上戦だったが、宇宙空間や水中での戦闘も可能にしなければ。そうすれば、どこであろうと君のガードや救助において、大きな助けとなる。まずは火力のアップだ。あの女が入っていたとはいえ、ただの着ぐるみですら完膚なきまでに破壊できないようでは、アマルガムの相手は…」

「い、いいから!そういうのは!!」

自分のことを考えてくれるのはうれしいが、やはりボン太くんをそういう形で使うのははっきり言って間違っている。

せめて、ヤマトのデータの中で見たアメリカのヒーローが身に着けるパワードスーツくらいにしてほしいと願わずにはいられない。

「よくはない、俺は君を守るためにも…」

「あたしはソースケがいれば、それで十分だから」

「千鳥…」

「あ…相良君と千鳥さん!?」

「お前ら、いたんだなー!!」

「その声…」

学校を離れてから長らく聞くことのなかった声が2人の耳に届く。

陣代高校でのクラスメートだった風間信二、小野田孝太郎、工藤詩織やかなめの親友である常磐恭子の姿もあった。

「久しぶり、カナちゃん!」

「よかった!こっちで戦闘があったから、心配したのよ!」

「みんな、なんでここに…?」

「驚いたか?相良」

「僕たち、クルツさんから連絡もらってたんだ。今日、二人が陣代高校に来るって!」

「ほれ、前にあの人たちと温泉に行ったとき、連絡先を交換したからな」

まだ二人が学校に通っていた時、テレサが学校に興味を持ち、短期間だけ通った時期がある。

ウィスパードであり、幼少期にからミスリルに入隊していたこともあり、年ごろの少女としての時間を過ごすことができなかった彼女にとって、日常というのはとても興味のある存在だった。

また、当時は同年代である宗介に思いを寄せており、彼と一緒に過ごしたいという願望もあった。

学校で友たちと一緒に過ごし、ある時にみんなで温泉に行くことになった。

その時にマオやクルツといったダナンのメンバーの一部も参加することとなり、その際に発生したのが温泉のぞき見事件だ。

風間はムッツリスケベな一面があり、かなめの部屋に侵入して下着を盗む、かなめにいかがわしい撮影を要求するなど重症で、変態なクルツとは馬が合った。

それに小野寺も巻き込んでともに温泉に入っているテレサやかなめをのぞこうともくろんだが、そこで邪魔をしたのが宗介とマオだ。

二人が仕掛けたセントリー銃や地雷といった罠の数々によってクルツと小野寺は葬られた。

だが、風間はなぜか覚醒して銃弾をまるで見えているかのように回避し、罠を次々と破壊してついに女湯にたどりつく。

そこから何が起こったかについては想像に任せよう。

なお、風間が起こしたこの不可解な覚醒について、クルツがキラ達に質問したことがある。

一時的にニュータイプになったのか、それともSEEDの遺伝子があるのか、いずれにしてもこんなあまりにも特定のタイミングでの覚醒については誰も真似をしたくないだろう。

「クルツの奴…」

「粋なことをしてくれるじゃないの」

「カナちゃんも陣代高校の制服を着てきたんだね…」

「私たちは宝来学園に編入になったけれど、二人はどこの高校に通ってるの?」

「遠いところだ」

「でも、大丈夫。二人とも、元気にやってるから」

宗介とかなめにとって彼らは在りし日の平和な日常の象徴だ。

離れ離れになってしまったけれども、彼らが元気でいてくれていることが分かり、彼らと顔を合わせることができたのが今日の何よりの収穫といえる。

だが、果たしてすべてが終わった後、再びあの日々へと帰ることができるだろうか。

きっと、そうはならないだろうと宗介には思えた。

軍人であり、平和な日常になじむことができないことを自覚した宗介とウィスパードであるという消えない事実を抱えるかなめ。

かつてはサイド7で機械いじりを趣味とした内向的な少年であったアムロも、グリーン・ノアで両親の愛を受けることができず、幼馴染であるユイリィに世話を焼かされていたカミーユも、シャングリラで仲間と共にジャンク屋をしていたジュドーも、誰も一つの大きな戦いを終えたとしても、元の日々に戻ることはかなわなかったのだから。

それは巻き込まれ、己と仲間を守るためとはいえ、多くの人々を傷つけ、罪に対する罰なのか。

「それならいいけど…」

はぐらかされたと感じる詩織だが、二人の笑顔を見て、ひとまず詮索しようという気持ちをとどめる。

そして、恭子がかなめのそばへ行き、こっそりと耳打ちをする。

「どう?カナちゃん。あれから少しは相良君との仲は進展した?」

「それは…内緒…」

「なあ、せっかく集まったんだから、遊びに行こうぜ!」

「そうだ、おはいお屋さん、第三東京市でやってるんだって!一緒に行こうよ!」

「クルツさんが車使っていいって言ってたしな!みんなで行こうぜ!」

クルツが用意してくれた車が校門近くに来てくれる。

小野寺らとともに向かう宗介の表情は少しだけ緩んでいた。

「いいものだね…友達って…」

「碇君にも、いるでしょ…?」

宗介らをうらやましそうに眺めるシンジ。

学校ではあまり会話をしていないレイだが、シンジが第三東京市で暮らす中で友人ができたことは知っている。

シンジにとっては、孤独な日々を過ごす中で初めてできた友達だ。

「トウジとケンスケ…どうだろう?きっと、僕のことなんて…」

シンジにとっては大事な友達だが、二人がどのように思っているのかはシンジにはわからない。

他のクラスメートと一緒に過ごしたきた時期の方がシンジと共に過ごした時期よりもはるかに長い。

短期間した一緒にいなかったうえに、急に離れ離れになったのだから、もしかしたら忘れているかもしれない。

「何を言っとるんや、お前」

「お前さ、あんなにインパクトを与えておいて、忘れるとでも思うか?」

「トウジ…ケンスケ…!どうして??」

「へへ…サプライズ大成功!」

「ミサトさんが連れてきてくれたんや。お前に会えるって言うてくれてな」

驚くシンジの顔を見て嬉しそうに笑う二人の少年の姿にレイがかすかに笑みをうかべる。

レイから見て、シンジが学校でかすかに見せるその表情を見るのは久しぶりで、それだけで彼女の中で暖かな何かがあふれてくるのを感じていた。

それが何かは言い表せないが、幸せなのは確かだ。

「はあ…全くお前っちゅう奴は、サヨナラも言わんと勝手に行きおって…。行くんなら、あいさつに来んかい」

「ミサトさんから聞いたぜ、あのエヴァンゲリオン…ってやつ?あれに乗ってたの、シンジだって」

「…。そうだよ、それで、二人に…」

初めての出撃とEVA1号機が暴走していたため、仕方がなかったかもしれない。

だが、シンジにとってその暴走に2人を巻き込んでしまったことが苦々しい思い出となっている。

もし鉄也と甲児の助けがなかったら、この手で2人を殺してしまった可能性だってあり得る。

謝っても、許されることではない。

「気にするなって、シンジ!あれは俺らが避難勧告を無視したから悪いんだって」

「お前のおかげで、みんな助かったんや。胸を張れ、シンジ」

「トウジ…ケンスケ…ありがとう…」

「それは、俺らのセリフだって」

「さあ…またしばらく会えんのじゃ!その前に、東京見物や!」

「うん…」

 

「さあてっと…作戦成功を確認しました!!」

「ご苦労!速やかに打ち上げへ移行!」

「では…乾杯!」

「ご相伴にあずからせていただきます!」

宗介とシンジの楽しそうな様子を眺めるクルツとミサト、マオ達の表情が緩むとともに早速手にしている飲み物で幸福をかみしめる。

いつの間にか用意されたブルーシートの上にはヤマトで用意した弁当や飲料も置かれていて、大人たちが酒を飲む中でチトセら未成年者はお茶やジュースを口にする。

まだガレキの撤去作業を行っている面々については終了後に合流する、もしくはヤマトで改めて打ち上げを行う手はずとなっている。

「いろいろありましたが、これで一件落着」

 

「そういえば、ソースケ。ボン太くんは?」

「あれは校舎の中に隠してある。あとでメンテナンスしなければな」

「メンテナンスって…ま、まあ…あんなの欲しがる人なんていないか…」

 

-陣代高校 部室-

「やっと、二人っきりになれたわね…ボン太くん」

華やかな飾り付けがされた部屋の中、戦闘を終えた後とは思えないほどにきれいになったボン太くんが椅子に座っている。

机にはケーキや紅茶、菓子類が置かれていて、彼に対面するように一人の少女が椅子に座る。

「さあ、始めましょう…。プリティサリアンの幻想王国、秘密のお茶会の幕が、今上がる…」

 

 

-ヤマト 展望台-

「…」

「…」

陣代高校での騒動から数日。

誰もいない展望台に宗介とアンジュが対峙する。

今日がいよいよ、西暦世界組が跳躍を行うこととなっている。

成功した場合、アルゼナル第一中隊とミスリルの契約については一時的に凍結されることになる。

次に会うとなれば、西暦世界で今回行った跳躍について解析し、安定して並行世界間の跳躍が可能となった時だ。

だが、二人ともその別れの挨拶をする雰囲気ではない。

「…いろいろ、言いたいことがある」

「俺もだ」

「でも、みんなの夢を壊したくないから、今回だけは黙ってる」

「そうしてくれると助かる」

「じゃあね、ふも野郎」

挨拶もなしに立ち去っていくアンジュを見送る宗介。

可能であれば、あの時の決着をつけたいと思っているが、それは次の機会までのお預けだ。

「…借りを作ってしまったようだな」

「アンジュさんもペロリーナの件をモモカさんたちに知られたくないでしょうし…イーブンでしょう」

「ナイン…いつの間に」

「先日のお二人の戦闘パターンはとても参考になりました。このデータであれば、ボン太くんのパワーアップ、そして可能であればペロリーナのアーム・スレイブ化も可能でしょう。ついでといっては何ですが、例のものは修理し、量産型のものも一部のみではありますが、回収しました。戦力として使うことが可能です」

「すまんな、ナイン。あれがあれば、いざというときに必ず役に立つ」

「ですが、着脱には十分ご注意ください。あの愛らしいボン太くんから宗介さんが出てきてはすべて台無しですから」

「…了解した」

そうならないように、わざわざボン太くんたちを格納庫ではなく、倉庫の一角に隠すように置いておいた。

たとえ見つかったとしても、赤道祭のようなイベントの出し物ということにしておけばいい。

「私…今回ばかりは自分のセンサーの優秀さを呪わしく思いました…」




機体名:ガーンズバック(アマルガム仕様)
型式番号:M9
建造:???
全高:8.4メートル
全備重量:10トン
武装:12.7mmチェーンガン、ワイヤーガン×2、単分子カッター(大型のものと選択可能)、対戦車ダガー、40mmライフル(57mm滑腔砲、 57mm散弾砲、76mmAS用対物狙撃砲、9連装ミサイルランチャーと選択可能)
主なパイロット:アマルガム兵および傭兵

陣代高校での戦闘において確認されたガーンズバック。
ヴィルキスから収集した戦闘データ、およびオモイカネによる照合の結果、ミスリルで採用されているE系統と同等であることが判明している。
その戦闘で確認されたのは2機のみであるものの、ミスリルから流出した可能性が否定できず、今後もアマルガムに関連する組織で配備されていく危険性が高いことから、各地の生き残っているミスリルの部隊に警戒を呼び掛けることとなった。
現在、エコーズの協力の元、設計データ等の流出の可能性を調査しており、疑惑の目は上層部にも向けられることとなるという。

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