スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第6話 メギドの炎

-ヤマト 第一艦橋-

「これが、キンケドゥ氏ならびにシェリンドン氏から提供された情報及び観測データを基に構成した敵基地周辺部の状況だ」

真田の操作により、床に木星のガミラス帝国基地のある小惑星が表示される。

「小惑星…というよりも浮遊大陸というのが適当だろうな」

島の言う通り、木星の大気圏内に位置する基地の大きさは地球のオーストラリア大陸と同じで、しかもその形から見ると浮遊大陸という表現が適切だろう。

実際にキンケドゥからの話でも、浮遊大陸について言及されており、そこではガミラス人にとって住みやすい環境づくりのために大気だけでなく、ガミラスの植物もあるという。

しかも、その植物は遊星爆弾によってボロボロになった地球に生えたものと同じだ。

「このことからわかるように、この環境は太陽系外から人為的に持ち込まれたということです。将来、地球をガミラスフォーミングするため、大陸ごと移植したと思われます」

「…ガミラスは地球を自分たちの星と同じ環境にするために遊星爆弾を…」

古代は拳を握りしめる。

そのためにどれだけのコロニーが破壊され、どれだけの生物が絶滅し、どれだけの人々が犠牲になったことか。

このような悪魔の所業を許せるはずがなかった。

「身勝手すぎるわよ!移民を希望するなら、正式な交渉をすればいいのに、一方的な攻撃なんて!!」

チトセも古代と同じく、ガミラスへの怒りをあらわにする。

しかし、交渉するには共通の価値観が必要となる。

地球とガミラスの間に共通の価値観があるかわからない以上、交渉をするのは簡単なことではないし、今はもはやその段階ではなくなってしまっている。

「そうだ。問答無用の先制攻撃を仕掛けてきたような連中を許してはおけない」

島の父親はガミラスとの最初の戦闘で命を落としている。

それはガミラスからの先制攻撃によるものだったと聞いており、そのため島もまたガミラスに強い怒りを抱いている人間の一人だ。

艦長席に座る沖田は口を挟むことなく、そんな彼をじっと見ていた。

「あの浮遊大陸にガミラスがいる限り、木星の住民たちに安息がもたらされることはありません。ガミラスはここを拠点に、何度も木星コロニーに挑発的な攻撃を繰り返しています」

キンケドゥと共に会議に参加しているシェリンドンが第一艦橋のモニターにガミラスと木星帝国の戦闘の光景が映った画像が表示される。

いずれも小規模な衝突であるが、木星帝国側に大きな損害を与えている。

現にガミラスの戦艦を撃沈した光景はなく、あるのは次々と撃破されるバタラやカングリジョや木星帝国軍戦艦だ。

なお、ここに映っている木星帝国軍はドゥガチから離脱した派であり、ドゥガチの命令を守ろうとするタカ派は以前にキンケドゥが言ったように、木星から離れてしまった。

「このままじゃあ、木星帝国は完全にガミラスの物になる」

「もしかしたら、それを避けるために奴らは地球圏を出ていったんだろうな」

「この状況を看過するわけにはいかん。それに、ガミラス側もこちらの動きを察知し、仕掛けてくることが予測される。避けられない戦いなら、ここで打って出る」

沖田の言う通り、イスカンダルへ向かう以上はガミラスとの交戦は避けられない。

仮に彼らがコスモリバースシステムのことを知ったら、是が非でもヤマトを鎮めようとするだろうし、ここで木星のガミラスを放置するわけにはいかない。

彼らが木星を征服し、更に遊星爆弾攻撃を活発化させる可能性もあるからだ。

そうなると、1年を待たずに人類が滅亡する。

「了解です。今回の戦闘ではヴァングレイと2機のガンダムが前線を務め、ハヤブサ(コスモファルコン)を直掩としたヤマトは後方から援護射撃を行いつつ、戦線を押し上げます」

これはアマクサとの戦いの後から古代と沖田、真田、加藤とキンケドゥが中心となって練り上げた戦略で、今回の戦闘でそれの有用性が試されることになる。

「機動兵器で前線を支えられるんですか?あの基地の規模だと、戦艦が出ることも予想されます」

戦術科・砲雷長の南部康雄はこの戦略を懐疑的に見ていた。

そう考えてしまうのはいまでは無理もない話だ。

200年近くの歴史を誇るモビルスーツはミノフスキー粒子によって通信障害を生じさせ、レーダーを機能させなくすることで戦艦の攻撃力を封じ、航空機を上回る運動性と機動性を生かして戦場を駆け巡ることで成り立ってきた。

しかし、ガミラスの通信機器やレーダーの構造は当然地球の物とは根本的に異なり、ミノフスキー粒子は彼らに対しては無意味だった。

おまけにガミラスは数多くの戦艦による高密度な砲撃と航空機による雷撃および爆撃を中心とした戦術を取っており、それによりモビルスーツは無力化していき、やがて一年戦争以来の艦隊中心の戦闘へと回帰していった。

メ号作戦で投入された最新鋭の量産型モビルスーツであるジャベリンですら、ガミラスの戦艦を傷つける程度のことしかできなかったことは記憶に新しい。

「クロスボーン・ガンダムとヴァングレイの性能は従来の地球連邦軍の量産モビルスーツをはるかに上回る。運動性も加味すると、その戦闘力は1機につき巡洋艦1隻に匹敵すると言ってもいいだろう」

「お言葉ですが、もうモビルスーツをはじめとした機動兵器の時代は終わりました。今は砲撃が戦いの主役です」

(こいつは…デジャブだな…)

モビルスーツだけでなく、航空機をも無意味だと言っているようにも取れる発言をした南部をにらみつける加藤を見たソウジはそう思わざるを得なかった。

一年戦争からしばらくの間、モビルスーツパイロットと砲撃手はとても仲が悪かったという話を戦争史のこぼれ話で教官から聞いたことがある。

その当時までは主役であり、戦場の華であった砲兵としてのプライドがあり、新参者のモビルスーツに華を奪われたことが我慢ならなかったのだろう。

そして、今度はその砲兵が棚から牡丹餅のような形で再び戦場の華へと返り咲き、それが我慢ならないモビルスーツパイロットが存在する。

こうして歴史は繰り返し、このように砲兵とモビルスーツパイロットの仲が悪くなる。

人間には学習能力がないのか、と一瞬思ってしまう。

「だが、その砲撃をかいくぐる力がクロスボーン・ガンダムとヴァングレイにはある。そして、ビーム・ザンバーとポジトロンカノンのような、敵戦艦の装甲をえぐるだけの火力もある。これなら、話は別になるだろう」

「それが、私たちに求められていることですね」

キンケドゥとチトセの言葉を聞いた古代がハッとする。

そんな彼を見た沖田がフッと笑みを浮かべる中、今度は新見が話を始める。

「ですが、ヤマトの砲撃もまたガミラスに対して有効な戦術と言えるでしょう。艦長…技術科は波動エンジンの膨大なエネルギーを応用した兵器を完成させ、艦首に搭載させることに成功しました」

「兵器…ですか…」

森は若干複雑な表情を見せながら新見の説明を聞く。

地球を救うために、サーシャが命がけでもたらしてくれた波動エンジンを兵器に転用して果たしていいものなのか、という疑問からだ。

それは彼女の魂を冒涜することではないのか?

そう考えている中で、新見の話は続く。

「次元波動爆縮放射砲…」

「長いな…波動砲だな、そりゃ」

「私たちもそう呼んでいます。」

「ところで、波動砲とはどんな武器なんです?」

「簡単に言えば、波動エンジン内で解放された余剰次元を射線上に展開、超重力で形成されたマイクロブラックホールが瞬時にホーミング輻射を放ち…」

「それって巨大な大砲ってことじゃ…」

彼女の説明を聞いていた南部は驚きながら彼女に尋ねる。

その説明が正しければ、ヤマトのショックカノンをはるかに上回る戦略兵器であることを意味する。

ただ、技術科も完成したとは言うものの、その破壊力については実際に撃たなければわからず、協力した徳川もいまだに首をかしげている始末だ。

「波動砲はいずれ試射をしなければならないでしょう」

「いずれの話だ。今は機動兵器による雷撃戦でいく。よいな?」

沖田の結論に対して、反対の声はなかった。

内心、今回の戦闘で試射をしようという意見が出なかったことを沖田は安どしていた。

(波動エンジン…果たしてこのような形で使うことが許されるのか…?)

 

-ヤマト 航空隊控室-

「頼むぞ、叢雲!如月!」

「りょ、了解です…」

「ぜ、全力を尽くすことを誓います…」

「お前らは航空隊の代表だ!南部の野郎にパイロットの意地を見せてやれ!特に叢雲!お前はいつもヘラヘラしているから、大砲屋になめられるんだ!!」

「うげえ、ここで八つ当たり…」

加藤がいつも以上の気迫でソウジとチトセに発破をかける。

彼の両拳には包帯がまかれており、あの会議の後、腹立ちまぎれにまた壁かロッカーを殴り、原田に治療されたことがよく分かる。

「これは…南部砲雷長の言い方が癪に障ったな…」

3人の姿を遠目で見ていた篠原が苦笑する。

そんな中、玲が控室に入ってくる。

「チトセ」

「玲…」

「出撃するって話、聞いたわ。気を付けて」

「ありがとう、玲。わざわざ励ましに来てくれて…」

チトセは嬉しそうに笑いながら玲に礼を言う。

2人は一緒に主計科の仕事をやっていくうちに仲良くなった。

「ありがとさん、玲ちゃん。で、俺のほうは…」

「今日はちょうど、非番だったの」

「う…無視された。ガード固いなって痛てて!!」

いきなりチトセに耳をつねられたソウジが涙目になって痛みに耐える。

本当はソウジにゲンコツをお見舞いしようと思っていた加藤だが、チトセが制裁しているのを見て十分だろうと考え、殴るのをやめる。

玲もソウジによる相変わらずの下手なナンパにはあきれはしたものの、2人のやり取りを見て、クスリと笑ってしまう。

「…やっぱり、まだ航空隊に未練がある?」

「え…?」

「ごめん…。加藤隊長から、あなたがもともと航空隊志望だったって話を聞いて…」

「…未練がないと言えば、嘘になるでも今は、ヤマトの乗員として自分の任務を果たすだけよ」

そういうと、玲は控室を出ていった。

加藤は出ていく彼女の後姿をじっと見ていた。

「それぞれが自分の役割を全力で果たす…。玲ちゃんを見習って、俺らも頑張りますか!」

「その意気だ、叢雲…だが」

自分が言いたいことを代弁したソウジに感心するが、一つだけ気に入らないところがあったのか、ソウジの胸ぐらをつかむ。

「…二度と彼女を玲ちゃんと呼ぶな。ナンパしたら、その顔面に10発叩き込んでやるぞ…!」

「…了解」

 

-ヤマト 格納庫-

「そうですか…やっぱりチトセさんもあの声が…」

「うん。本当かどうかわからないけど…」

キンケドゥとソウジが出撃準備をする中、チトセはトビアに木星帝国残党の基地で聞こえた声について話していた。

トビアがあのバイオ脳の声を聞いたということをキンケドゥから聞いたため、もしかしたらと思いながらも、これまでタイミングを逃してきたため、今になってしまった。

「その…もしかしたら、ですが…チトセさんはニュータイプじゃないかなって思います」

「ニュータイプ?私が??」

現在、ニュータイプは他者の感情の動きさえ読み取る、広範かつ鋭敏な感覚の持ち主と解釈されている。

その他者というのは人間だけでなく、動物の感情の動きまで読み取れる可能性があるとさえ言われており、もしかしたらバイオ脳の声が聞こえたのはそのせいかもしれない。

なお、キンケドゥも同じニュータイプではあるが、彼曰く『長い間戦ってきて、余計なしがらみを抱えて、目の前の物を素直にとらえられなくなったせいか、落ちてしまった』とのこと。

「でも、ニュータイプってスペースノイドから生まれるものでしょ?私は生まれてからずっと地球に…」

「ジオニズムではそうなるでしょうね。けど…ニュータイプは、本当にジオニズムで語られたニュータイプと同一の存在でしょうか?」

「それは…」

それについてはチトセには何とも言えなかった。

ジオニズムの提唱者であるジオン・ダイクンもニュータイプの実在を見ることなくザビ家に暗殺(これについては諸説ありで、現在でも歴史研究家による研究の的となっている)されたため、不明だというのが現在の正論だ。

チトセ自身、バイオ脳の声を聞き、そしてトビアと話したことで、自分がニュータイプかもしれないとは思ったものの、それでも特別な人間だとは思えなかった。

「僕はある人に『あなたはニュータイプだ』って言われたことがあります。その人はニュータイプを進化した、選ばれた人間だと言っていました。けど…僕は進化した、選ばれた、なんて自覚はこれっぽっちもありません」」

「あ…!それ、私も同じ。だって、バイオ脳の声が聞こえたってだけで進化したってちょっと結論が乱暴じゃない?」

「確かに、そうですね。それに僕たちはそれ以前に地球のことも人間のこともよく知らない。だから、まずはそれを知る必要があって、そのうえで人である間にできることをすべてやるべきなんじゃないかなって思います。ニュータイプとか進化とは言う前に…」

「トビア!そろそろ出るぞ!X3に乗れ!」

「はい!今行きます!じゃあ、チトセさん」

そばに浮いているヘルメットをつかんだトビアはX3へ向かって飛んでいく。

彼の後姿を見ながら、チトセは彼との会話を思い返した。

(ニュータイプを言う前に、人である間にできることを全部やる…か)

「チトセちゃん!早く来てくれよ、出撃できないぞ!」

「すみません、ソウジさん!」

自分がニュータイプなのか、という疑問がばからしくなったチトセは笑顔で応え、ヴァングレイに乗り込む。

「…どうやら、悩みは解決したみたいだな」

「え?」

「あの基地での戦闘からずっと、悩んだ顔ばっかり見せてただろ?どういう悩みかはわからないけど、解決できてよかったな」

「ソウジさん…」

「さあ、まずは俺たちから出撃だ…」

コックピットが閉まり、同時にハッチが開く。

(ソウジさん、チトセさん!木星の重力は地球よりも重いです!大陸への必要以上な接近は避けてください!)

木星圏で戦った経験のあるトビアとキンケドゥは木星の重力について、よく理解していた。

あの重力に捕まると、木星に飲み込まれて、二度と宇宙へ戻ることができなくなる。

浮遊大陸のおかげで、それだけは避けることができるが、墜落した場合には機体が損傷し、今度はガミラスの餌食になってしまう。

(叢雲、如月!命ではなく…)

「敵を落とせ…でしょう、加藤隊長。了解だ。叢雲総司、如月千歳、ヴァングレイ出るぞ!」

ヴァングレイがハッチから飛び降り、続けて2機のクロスボーン・ガンダムもヤマトを降りた。

 

-ヤマト 第一艦橋-

「モビルスーツの出撃、完了しました」

「了解だ。シェリンドン・ロナ殿。これから我々は戦闘に入る。そちらは後退を」

(わかりました。健闘を祈ります)

エオス・ニュクス号は通信を切ると、後退を始める。

マザー・バンガードとは異なり、武装のないエオス・ニュクス号がいても、足手まといになるだけだ。

それ以前に、軍人ではないシェリンドンらを巻き込みたくないというのが本音ではあるが。

「航空隊はヤマトの直掩に当たり、モビルスーツ隊が撃ち漏らしたガミラスの航空機の撃破を行え!」

古代が格納庫で待機する航空隊に命令する中、沖田はじっと浮遊大陸を見ていた。

あの大陸がもしかしたら、将来ガミラスフォーミングされるかもしれない地球の景色となるかもしれない。

それは46億年かけて作り上げてきた地球が失われることを意味する。

(ガミラス…貴様らに地球は渡さんぞ)

 

-木星 浮遊大陸-

ヤマトの接近に気付いたのか浮遊大陸上空には3隻のボルメリア級と1隻のデストリア級が飛んでおり、既に20数機のメランカを発進させている。

ヴァングレイと2機のクロスボーン・ガンダムの接近に気付いたメランカ5機の機銃攻撃を合図に、ほかのメランカも攻撃を始める。

「ソウジは後ろへ!俺とトビアが前に出る!」

「了解だ、頼んだぜ!」

肉薄された際の対抗手段の乏しいヴァングレイがレールガンを連射しながら後退し、スカルハートとX3が前に出る。

「2人とも、ガミラスの戦闘機の運動性はモビルスーツと同じレベルだ!見た目に騙されるなよ!」

「了解だ!」

機銃をビームシールドで防いだスカルハートはザンバスターを発射し、更に未来予測地点にバルカンの弾幕をはる。

だが、やはりソウジの言う通りで、メランカはその地点から上もしくは横にずれて動いて回避する。

これをはじめとするガミラスの戦闘機の運動性はこれまでの航空機との戦闘データは役に立たない。

頼りにできるとしたら、対モビルスーツ戦闘のデータだ。

「この程度のスピードで!」

また、キンケドゥ達はその戦闘機以上に速い相手と戦った経験がある。

2機のクロスボーン・ガンダムがシザー・アンカーを展開し、それぞれ1機ずつメランカをつかむ。

「な、なに!?」

「鋏がついたアンカー!?野蛮な武器を!!」

「死にたくなければ」

「飛び降りろぉ!!」

2機がメランカをつかんだままのシザー・アンカーを振り回し、パイロットはやむなく脱出する。

そして、それらのメランカは正面から激突しあう形で撃破された。

「こっちも負けてられないぜ、チトセちゃん!」

「はい!」

高高度での飛行を維持しつつ、ヴァングレイが両腕のビーム砲を連射し、両肩のミサイルを発射する。

ガミラスがやった高密度の艦砲射撃とはいかないが、数多くの火器によるビームと鉄の嵐は何機かメランカを炎の華へ返るか、損傷させ、浮遊大陸に墜落させる。

「ええい、なんだあのモビルスーツは!?」

ボルメリア級の艦長は次々と撃墜されていくメランカを見つつ、これまでとは違う破格の性能を発揮するモビルスーツについて部下に尋ねる。

彼がこれまで見たモビルスーツはバタラやジェガンなどの量産モビルスーツばかりで、クロスボーン・ガンダムのようなモビルスーツの存在は寝耳に水だった。

「ちょ、長距離からビーム、来ます!!」

「な、なんだとぉ…!?」

次の瞬間、ボルメリア級の艦橋が青いビームの砲撃で焼き尽くされていく。

コントロールを失ったその艦もまた撃破されたメランカと運命を共にする結果となった。

 

「ショックカノン、命中。ボルメリア級1隻の撃沈、確認!」

「どうだガミラス!ヤマトの主砲の威力は!!」

森からの敵艦撃沈の知らせに南部が喜びを見せる。

「まだ戦闘は終わっておらん。警戒しつつ、時には三式弾による攻撃を混ぜて敵をかく乱しろ!」

(モビルスーツの運動性とヤマトの火力の融合…!これが、俺たちの新しい戦術…!)

量産機の規格を超えたモビルスーツ、そして波動エンジンの搭載によって従来の戦艦をはるかに上回る火力と強度を得たヤマト。

どちらかが駆けていては成立しないこの戦術が今、ガミラスを撃破している。

知らされた戦果はボルメリア級1隻とメランカ数機だけだが、それだけでも古代達の大きな自信につながった。

「ヴァング1から入電!撃ち漏らした戦闘機3機がこちらに!」

「ここはハヤブサで迎撃させます!Bravo1、いいか!!」

「了解だ、お前ら!戦術長直々のご指名だぞ!」

格納庫から4機のコスモファルコンが発進し、それと同時に一気に上昇する。

木星の高重力を考えると、無駄に下へ行くわけにはいかない。

だが、それ以上にメランカには真上へ攻撃するためのオプションがない。

「くらえ、ガミ公!」

「受け取れぇ!」

真上からコスモファルコンの機銃の雨が降り注ぐ。

ヤマトに気を取られていたメランカはコスモファルコンの存在に失念していた。

次々と撃破され、残った1機のメランカもミサイルを撃った後で撃墜されるが、そのミサイルも第三艦橋が制御する波動防壁によって無効にされた。

 

「くっそぉ、なんだよあのモビルスーツ!?ぐおおお!!」

「こんな地表すれすれでどうしてこんな動きを…!!」

スカルハートが浮遊大陸の地表スレスレで高機動戦闘を繰り広げており、地表に背を向けた状態でザンバスターを連射している。

従来のモビルスーツを上回る出力と大型可動式スラスターの採用により、クロスボーン・ガンダムは木星の高重力下でもこのような芸当が可能となっている。

「とらえたぞ、ガミラス!!」

ザンバスターにグレネード弾を詰め、もう1隻のボルメリア級に向けて発射する。

グレネード弾はその戦艦に命中し、わずかな時間差で爆発した。

真下に大口径レーザー砲を搭載していたボルメリア級はその爆発によってそれが破壊されただけでなく、機関部まで損傷し、航行不能となる。

「使える…このグレネードは」

今回キンケドゥが使用したグレネードはヤマトが搭載している三式融合弾を小型化したものだ。

小型化の代償として、ヤマトが使用するそれほどの威力を発揮することができないものの、それでも脆弱な箇所に命中させることができれば、このように一撃で戦艦を撃沈させることができる。

「うおおおお!!」

トビアのX3も左手のIフィールド・ハンドを起動させながら、デストリア級に向けて接近しつつ、攻撃してくるメランカをガトリングガンとブラスター・ガンで撃破していく。

「突っ込んでくるぞ!撃て、主砲で撃ち落とせぇ!!」

デストリア級がメランカでは排除できないと判断し、主砲でX3を撃ち落とそうとする。

だが、X3のIフィールド・ハンドによって発射されたビームがかき消されていく。

「なぜだ!?なぜ奴に主砲が効かない!?」

「魚雷で排除しろ!」

「ま、間に合いません!!」

デストリア級はゲシュタム・ドライブという、ヤマトが搭載している波動エンジンに相当するエンジンが装備されており、それにより主砲のビームはほかのガミラスの戦艦を上回る威力を発揮している。

だからこそ、メ号作戦などで数多くの地球連邦軍の艦隊を圧倒することができた。

しかし、その結果として実弾攻撃の必要性が失われ、搭載されている実弾は魚雷のみとなっている。

仮に発射したとしても、誘導性がないことから、今のトビアになら簡単に避けられてしまうだろう。

セーフティが解除されたムラマサ・ブラスターは巨大なビームソードへと変貌し、デストリア級を両断した。

「さっすがガンダムだ。もう2隻沈めてるぜ」

2人に近づくメランカをレールガンやビーム砲で対処しながら、ソウジは2機のガンダムの戦いに舌を巻く。

宇宙海賊として、長い間戦いを経験してきたためか、教科書で教えられている戦い方をいい意味で無視している。

(こういう性能のモビルスーツが配備されていりゃあ、あいつらも死なずに済んだんじゃあ…)

「…!ソウジさん!ヤマトの左舷にガミラスの増援が!」

森からの通信を受けたチトセがソウジに報告する。

キンケドゥとトビアが前に出ている以上、一番早くそちらへ到着できるのはヴァングレイだ。

「今すぐ行く!敵の数は!!」

「それが…デストリア級1、ボルメリア級1、メランカ4!」

チトセの報告を聞いたソウジの操縦桿を握る手の力が強くなる。

コスモファルコンなら4機のメランカを対処できるかもしれないが、ボルメリア級にはまだ何機メランカが残っているかわからない。

おまけに戦艦の宿命として、回頭には時間がかかる。

その間に攻撃を受けたら、主砲の照準合わせに時間がかかってしまい、その間に続々と攻撃を叩き込まれたら、いくらヤマトでも持たない。

波動防壁は20分しか持たないうえ、Iフィールドとは異なり実弾にも対処できるが、それを受け続けるたびに消耗していってしまう。

ボルメリア級1隻ならどうにかなるかもしれないが、デストリア級が入ってくると話が変わってしまう。

「…チトセちゃん、君はいつでも脱出できるようにしておいてくれ」

「え…!?」

「ちょっとばかし今回は腹をくくらないといけないらしいからな!」

最大戦速でヤマトの元へ戻り、左舷のボルメリア級に向けて突撃する。

「ヴァングレイ、デストリア級へ突撃していきます!」

「ヴァング1、ヴァング2!無茶をするな!!」

「無茶でも何でも、やらなきゃ地球が終わっちまう!」

古代からの通信に反論しつつ、ビーム砲とレールガンで続々と出撃してくるメランカを倒していく。

ポジトロンカノンでならボルメリア級を一撃できずめることができるかもしれないが、メランカによる抵抗のせいで照準を合わせることができない。

「あとは俺がやる!さっさとチトセちゃんは脱出を…」

「バカを言わないでください!一緒に戦わないと、ヴァングレイの性能を…!」

「チトセちゃん…けどよぉ…!」

ソウジの脳裏にメ号作戦、そしてそれ以前の記憶がよみがえる。

次々とガミラスの攻撃により散っていく仲間たちと彼らの断末魔の声。

自機が撃破され、自分自身も負傷で動けなくなった中で見たユキカゼの姿。

そして、メ号作戦以前に上官から聞いた肉親や恩師、友人らの死。

あの戦いの後、必死に封じ込めようとしていて、少なくとも戦場ではよみがえらせまいとしていた記憶がよみがえっていき、体中に残る傷跡がうずき始める。

「くっそぉ!!もっと早く動け、ヴァングレイ!!」

(パイロットの要請を受諾します。FCSと姿勢制御のアシストをサブパイロットと共に行います)

「何!?」

急にヴァングレイに聞こえた、少女に似た声にソウジは驚く。

また、チトセの左右にあるディスプレイに新しい戦術プログラムが書き込まれていく。

ソウジの目の前のディスプレイにも同じものが表示された。

「こいつは…!」

「ソウジさん、この戦術プログラムは…!?」

「予行練習無しのぶっつけ本番だ、前に教えた25部隊の十八番戦術をやってみるか!?」

「…はい!」

返事をしたチトセはすぐにFCSと姿勢制御の補佐を開始する。

先ほど聞こえた声が言った通り、システム側からもアシストされているおかげで、前よりも制御が簡単になっていた。

「よし…行くぜ!!」

両肩からミサイルを発射し、そのミサイルの中をヴァングレイが飛び回る。

ソウジのディスプレイにはミサイルの起動予測とヴァングレイの移動ポイントがリアルタイムで更新・表示されている。

次々と発射されるミサイルにメランカが撃墜されていき、ヴァングレイ自身はその中を飛び回っているにもかかわらず、一度もミサイルに接触していない。

「お次はこいつだぁ!!」

ヴァングレイを急速停止させ、レールガンを発射する。

レールガンは前にミサイルを貫通し、デストリア級の主砲の1つに着弾する。

貫通したミサイルから爆発が起こり、その周囲のミサイルが次々と誘爆し、それによる閃光がデストリア級の視界を封じていく。

一方、ヴァングレイは間近で閃光を見ているにもかかわらず、カメラ自身が自動で対閃光防御をしたため、ソウジやチトセに影響を与えていない。

「チトセちゃん、タイミングは任せるぞ!」

「は、はい!!」

更にミサイルを発射しつつ、ヴァングレイはデストリア級の周囲を飛び回りながらレールガンとビーム砲を連射する。

追加のアシストのおかげか、これまで以上の動きを見せるヴァングレイにデストリア級は翻弄されており、動きを止めてしまう。

「ここで!!」

タイミングを見切ったチトセは操縦桿の引き金を引く。

すると、急にデストリア級の後部スラスターにミサイルが直撃する。

先ほどの円を描くような軌道をやっている間に、ミサイルポッドを1つパージしており、ヴァングレイ側の操作によっていつでも発射できるようになっていた。

スラスターが爆発し、その影響で艦内部が次々と誘爆していく。

外側からも爆発が肉眼で見ることができるようになった段階では既に艦橋も炎に包まれており、制御不能に陥っていた。

たった1機のモビルスーツの猛攻により、かつては地球連邦軍艦隊に対してはまさに無敵を誇っていたデストリア級が浮遊大陸へ墜落し、大爆発とともにその姿を消していった。

「バカな!?デストリア級が…!」

「よそ見してんじゃねえぞ、ガミ公!!!」

デストリア級撃沈で動揺するメランカをコスモファルコン隊と戻ってきた2機のガンダムが各個撃破していく。

そして、回頭を終えたヤマトのショックカノンによって母艦であるボルメリア級も沈んでしまった。

「すごいぞ、ヴァング1、ヴァング2!今の攻撃は…」

「はぁ、はぁ…25部隊の十八番戦術、烈火っすよ。本当は複数のモビルスーツでやるんですがね…」

増援部隊全滅を確認したとき、既にソウジの傷跡の疼きがなくなっていた。

(すべては、私のアシストによるものです)

「お前は…一体…??」

再びヴァングレイから聞こえた少女の声にソウジが質問する。

(私はシステム99。ヴァングレイのメインOSです)

「メインOS…ってことは、最初っからいたじゃない!?なんで今のタイミングで!?」

チトセの言う通り、メインOSであるということはこのAIはいつでもこのようにしゃべることができたうえ、こうして2人をアシストすることができた。

場合によってはチトセがサブパイロットをやらずに済んだかもしれない。

(…作戦行動中につき、不必要な情報提供をするつもりはありません)

「…かわいくない」

声は少女であるにもかかわらず、あまりに機械的な反応にソウジは口をとがらせる。

ナンパ相手ならとにかく、こういうタイプのAIとはあまり仲良くなれなそうだと思った。

「やった…敵艦隊全滅だ!」

先ほどの増援部隊を撃破したことで、浮遊大陸から敵の反応が消えた。

ガミラスに勝利したことに、南部が素直に喜びを見せる。

「いや、まだだ…」

「レーダーに反応!新たな敵艦隊、確認!」

「数は!?」

「デストリア級3、ボルメリア級4!」

森から伝えられた新たな敵艦隊は先ほど全滅させた敵艦隊を上回る規模の物だった。

ボルメリア級に乗っているメランカを考えると、これ以上の戦闘は厳しい。

3機のモビルスーツも補給が必要となっており、帰投した場合は前線をコスモファルコン隊が代わりに努めなければならなくなる。

「…古代、機動部隊を全機収容せよ」

「了解です!全機、直ちに帰投せよ!」

沖田の命令の意味が分からないものの、すぐに古代はソウジ達に命令する。

「そんな…ヤマト単独で!?」

「すぐに戻るぞ。さっきのでガスが厳しくなってきた」

「…了解!」

モビルスーツ及びコスモファルコンが相次いでヤマトに帰投していき、ヤマトはその間に浮遊大陸からゆっくりと距離を置いていく。

「回収、確認しました!」

「島、最大船速で浮遊大陸外縁部まで後退しろ」

「了解!」

ハッチが閉じると同時に、ヤマトが最大船速で浮遊大陸の外へと出ていく。

「大陸外縁部に到着しました!」

「このまま180度回頭。古代、波動砲で浮遊大陸を撃て」

「え…!?」

「波動砲の試射を兼ねて、敵基地をここでたたく!」

「波動砲の威力は未知数です!効果が不確定な状況での使用はリスクが高すぎるのでは…」

真田の言う通り、波動砲の威力はいまだに不明で、敵艦隊や敵基地を撃破できるかどうかわからない。

そんなテストをされたことがなく、信用性がいまだに確定されていない兵器を使うのは戦場ではナンセンスなことだ。

「…やってみようじゃないか、真田君。ここでダメなら、先へ行ってもダメなんだ」

徳川は既に発射のための準備を開始していた。

波動砲以外の兵器で敵艦隊を全滅させることは難しい状態で、おまけに波動防壁も冷却完了まで時間がかかる。

仮にそれだけで戦い、勝利したとしても、大きな損害を受けて間に合わなくなるのがオチだ。

だとしたら、波動砲にかけるしかない。

「総員、準備にかかれ!艦首は浮遊大陸に向けよ!」

「艦内の電源を再起動時に備えて、非常電源に切り替える!」

反対していた真田だが、すぐに気持ちを切り替え、副長としてなすべきことを為し始める。

同時に艦内のクルーたちも非常電源に切り替わったヤマトの中で走り回り、波動砲発射に備える。

「森!浮遊大陸の熱源は!?」

「大陸中心部の盆地に集中しています!」

「座標を送れ、古代!」

「了解!艦首を大陸中心に向けます!」

既に島から操艦を回されていた古代の手で、ヤマトの艦首が大陸中心部へ向けられる。

その間にも、敵艦隊はヤマトを沈めるために主砲を発射し、メランカも発進準備を整えている。

「敵の攻撃にかまうな!敵基地が我々の狙いなのだ!」

接近しながらの砲撃のためか、まだヤマトに至近弾は来ていない。

技術班からの情報が正しければ、至近弾が来る前に準備が整うはずだ。

ヤマトの窓が閉じられていき、強制注入機が作動する。

波動エンジンの最終セーフティが解除され、艦首の砲門が開く。

「薬室内、タキオン粒子圧力上昇!」

「ターゲットスコープ!オープン!照準補正開始!」

ターゲットスコープによって、ヤマトの艦首の位置が微調整されていき、その間にも砲門に膨大な波動エネルギーが集まり、青く光り輝く。

「総員、対ショック、対閃光防御!」

沖田の指示で、全員がゴーグルを着用する。

「照準補正完了。照準固定!」

「発射まで3…2…1…」

「波動砲、発射!」

「てぇーーーー!!」

ターゲットスコープの引き金が引かれ、青い大出力のビームが砲門から放たれる。

あまりにも膨大な出力により、ビームが激しくスパークしていて、浮かんでいるメランカの残骸がそれに触れた瞬間次々と爆発を引き起こした。

ビームは浮遊大陸の植物、そして大地をえぐっていき、熱源を貫いていく。

熱源が波動砲の熱で急速に加熱されていき、大爆発を引き起こした。

敵のある艦は波動砲のビームでそのまま蒸発していき、ある艦は爆発によって吹き飛んだ大地が直撃していき、ある艦はその混乱の中で仲間の艦に激突する、またはされる形で次々と沈んでいった。

波動砲が収まり、閉鎖された窓が開いていく。

「浮遊大陸…完全に崩壊しました…」

あまりの光景を見た森が震えた声で沖田に報告する。

沖田はただじっと崩壊した浮遊大陸と沈んだガミラスの艦を見つめ、波動砲の破壊力をその眼に刻み込んだ。

「これが…波動砲…」

恐ろしい光景に言葉を失った古代はその引き金を引いた自分の手を見る。

その手はあまりのことで震えており、汗でびしょびしょに濡れていることに気付いた。

「すごい武器だ!これさえあれば、ガミラスと対等に…いや、互角以上に戦える!」

南部はただ、波動砲がもたらした勝利に喜びを見せていた。

これさえあれば、地球を死の星へ変えようとしたガミラスを返り討ちにできる。

その手段が今、この手にあることがとてもうれしかったのだ。

「…いや、我々はガミラスの基地さえつぶせば、それでよかったはずだ。しかし、波動砲はそれどころか大陸すら破壊してしまった…」

表情を変えない真田だが、波動砲の恐ろしさに恐怖しているのか、若干声に震えがある。

使いどころを誤れば、一年戦争でジオンが起こしたコロニー落としによるシドニー消滅(皮肉なことに、シドニーの地名は遊星爆弾攻撃による海の蒸発と共に、現地に建設された地下都市の名前として復活している)以上の惨劇が引き起こされる。

「我々の目的は敵の殲滅ではない。そして、ヤマトの武器はあくまで自身と人々を守るためのものだ」

「でも、この武器さえあれば…!」

「戦うための力は武器だけではないぞ、南部。核兵器が誕生したときからの歴史を思い出せ」

「…戦術長。加藤隊長が格納庫へ来てほしいとの…」

重々しい空気に包まれる中、相原が古代に伝言する。

「何かあったのか?」

「キンケドゥ氏とトビア君が今後のことで話がしたいとのことです」

「わかった。すぐに行くと伝えてくれ」

キンケドゥとトビアはあくまで軍人ではない。

彼らは好意でここまで同行してくれたに過ぎない。

だから、こうして目的が達せられた以上はヤマトを降りる権利がある。

戦闘終了と共にこちらへ来ているエオス・ニュクス号、そしてヘリウム船団があれば、地球圏へ戻ることができる。

できれば共闘したいが、彼らが出ていくのを止めるわけにはいかない。

そう思いながら、古代は格納庫へ向かおうと席を立つ。

「古代…返答は任せる」

「はい」

沖田に敬礼し、古代は第一艦橋から出ていった。

(宇宙さえ滅ぼしかねない力…か…)

スケールが違うものの、そのような武器はこれまでの歴史で何度も姿を見せてきた。

核兵器がそのもっともな例で、最近ではコロニーレーザーもある。

これらは下手をすると地球をも滅ぼしかねない力があり、その恐怖を間近に触れることになったのが木星戦役だ。

1機1機に地球を滅ぼせるだけの力がある巨大モビルアーマー、ディビニダドを間近で見たときの恐怖は今も忘れられない。

(我々は、禁断のメギドの炎をまたしても手に入れてしまったのだろうか。いや、今は何も思うまい。これが試しであるならば、我々はその行動で良き道を示していくだけなのだ。正しき道を進めば、そこに正しき力が集う…。彼らが、その力なのだとワシは信じている…)

 

-ヤマト 格納庫-

「何!?このままヤマトに残る…!?」

キンケドゥとトビアの話を聞いた古代は驚きながら、彼らを見る。

ヤマトを降りる話になるだろうとばかり思っていた分、その驚きは大きい。

「人類の生まれた星が滅ぶのをこうして指をくわえてみているのは我慢ならないからな」

「申し出はうれしいんだけどよぉ、キンケドゥさん。あんた、ベラさんはどうするんだ?トビアもベルナデットがいるだろう?」

一緒に話を聞いたいた加藤が2人に尋ねる。

恋人や家族、友人を地球に残して旅をすることの大きさをヤマトのクルー全員が理解していた。

その大きさに耐える覚悟があるのかを問いたかった。

「ベラ艦長とベルナデットは残った木星の人たちをまとめてくれています。だから、僕たちは僕たちでできることはやります」

「少しでも動ける人間なら特に…な。だから、それを終えるまではまだ俺たちはこの名前を名乗り続ける」

「…了解だ。ヤマトは君たちを歓迎する」

「いいのかよ、古代!?独断で決めて…」

「すでに艦長から返事は任されているからな。それに、これが艦長の意思でもある」

古代は沖田の南部に言っていた言葉を思い出す。

戦うための力は武器だけではない。

もしかしたら、今のキンケドゥとトビアがそれの答えなのかもしれないと…。

 

-ヴァングレイ コックピット内部-

「なぁ…そろそろ返事してくよ、システム99」

「あなたにお礼が言いたいのよ」

2人はシートに座ったまま、何度もシステム99に声をかける。

だが、沈黙を保っており、うんともすんとも返事が返ってこない。

「女の子なのに、だんまりなんだな」

(女の子…?)

奇妙な言葉に驚いたのか、ようやくシステム99が声を出す。

「お、ようやく反応してくれたな」

「私もそう思う…。AIに性別はないのかもしれないけど、私もソウジさんと同じで、あなたが女の子かなってなんとなく思ったの。どう?」

チトセが明るく声をかけるが、再び彼女は沈黙してしまう。

「どうやら、疑似人格型AIってわけじゃなさそうだ。詳しい話は明日にするか…じゃあな、今日はありがとよ」

「あ、ソウジさん!じゃあね、システム99!これからもよろしくね!」

急に出ていったソウジを追いかけるように、チトセもコックピットから飛び出していった。

(…よろしく、叢雲総司。如月千歳)

無人のコックピットの中で、彼女は静かにそういった。

 

-ヤマト 下士官用居住部屋-

「どうしたんだよ、チトセちゃん。そんなに血相を変えて」

格納庫から出たソウジはチトセに引っ張られる形で自分が寝泊まりしている部屋に連れていかれる。

最初は逆ナンパかと思ったが、彼女の起こった表情を見るとすぐにそうではないなと確認した。

「ソウジさん…どうしてあの時、私だけ脱出しろって言ったんですか?」

「ん…?いや、まぁ…いろいろと。別にいいだろ?現に俺たちは生き残ったんだから…」

「よくないですよ!」

あいまいに答えてその場をしのごうとするソウジに一喝する。

彼女の言葉にソウジも黙るしかなかった。

「サブパイロットだとしても、私はヴァングレイのパイロットです。ソウジさんと一緒に戦うって決めたのに…」

「チトセちゃん…」

「そんなに私が頼りないですか!?私だって…」

悲しげな表情を浮かべたまま、チトセは部屋を出ていった。

1人になったソウジは背中を壁につけ、上を向く。

「そうじゃない…そういうことじゃないんだ…チトセちゃん…」

もう聞こえないだろうと思いつつ、小さな声でそう言ったソウジは懐から煙草を出す。

「おっと、そういやぁ、喫煙室へ行かねえとダメだったっけな…」

喫煙室以外での喫煙が禁止だということをすっかり失念していたソウジは部屋を出て、喫煙室を探しに向かった。




機体名:ヤマト
分類:地球連邦軍超弩級宇宙戦艦
建造:地球連邦軍
全高:99.34メートル
全長:333メートル
乗員:999名(叢雲総司、如月千歳らの乗艦があることから、1000人以上の収容が可能と思われる)
武装:ショックカノン×9(三式融合弾との切り替え可能)、20サンチ三連装副砲塔×6、パルスレーザー近接防御砲×90、垂直ミサイル発射管、魚雷発射管、94式爆雷投影機、波動砲、波動防壁、ロケットアンカー、重力アンカー
主なパイロット:沖田十三

「イズモ計画」の一環として、人類の居住可能な新たな星への輸送船として開発された艦をイスカンダルから供与された波動エンジンを搭載することで地球人類史上初の恒星間航行用宇宙船へと改造したもの。
クラップやサラミス、キリシマなどの地球連邦軍の従来の戦艦とは大きく異なる、昭和時代の日本の戦艦に似た外見をしており、波動エンジンの搭載により、これまでの地球連邦軍の戦艦をはるかに凌駕する出力と耐久性などを発揮している。
特徴的なのは艦首に搭載されている波動砲で、ガミラスの浮遊大陸を一撃で崩壊させるほどの破壊力を秘めており、その恐ろしさから、沖田によりやむを得ない状況を除いて基本的には自主封印されている。
また、艦内には万能工作機をはじめとした工場の設備もあり、弾薬やヤマトのパーツだけでなく、データさえあればありとあらゆるパーツを作ることが可能となっている。
ただし、資材の原材料については敵基地や敵艦、敵機動兵器のスクラップを回収する形で確保する必要がある。
ちなみに、ヤマトの食料はOMCSという供給システムによって賄われているものの、動物性たんぱく質の供給については知らないほうがいい方法が使われており、それを知っている兵士はOMCS製の肉や魚を口にすることを拒否する人もあり、そういう面々はカロリーブロック、もしくは地球連邦軍特製のまずいレーションを口にすることが多く、そうした兵士の味覚が地球帰還前に破たんするか否かの賭けが始めってしまう始末(真田に関しては破たんするが優勢となっている)。

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