スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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機体名:EVA初号機
形式番号:EVA-01
建造:NERV
全高:40メートル
全備重量:700トン
武装:パレットライフル、ガトリング砲、プログレッシブナイフ、肩部ニードルガン、専用拳銃、マゴロク・E・ソード
主なパイロット:碇シンジ

NERVが対使徒用に開発されたエヴァンゲリオンの1機。
零号機と共に戦闘用テストタイプとされていたものの、シンクロ率の問題で稼働できる人員がいなかった。
しかし、碇ゲンドウによって呼び出された彼の息子、碇シンジが搭乗することで起動に成功した。
ただし、同時にシンジの精神状態如何によっては暴走する可能性をはらんでおり、綱渡りな状態であることは否定できない。
対使徒用ということで、装備されている兵装は実弾の物ばかりになっている。
なお、零号機を含めてエヴァの整備についてはNERVから出向した整備兵が請け負っており、関係者以外による整備やデータ収集は禁じられている状態にあり、万能工作機に仕様が必要な場合にのみ、データが提供されている。


第59話 2人の巨人

-NERV 司令執務室-

扉がある壁と天井以外がすべてガラスとなっていて、司令であるゲンドウの机と椅子以外には何もない部屋にブライトが入れられ、ゲンドウの前に立つ。

椅子に座ったままのゲンドウとその隣にいる冬月、そして先ほどまでシンジとレイの指揮をしていたミサトが彼と向き合う。

「では…」

「ああ、現時刻よりエヴァンゲリオン初号機と零号機はパイロットを含めてロンド・ベルへ出向させる」

「我々が総司令部に従わないものとして、いずれは反乱分子として扱われることはご存じでしょう?」

以前であれば、思惑がどうであれコード・エンジェルに従ってロンド・ベルもNERVと共に使徒と戦っていただろうが、今となっては状況が異なる。

バウアーの工作によって、現状は正規軍のままでいるものの、いずれ連邦議会で正式に反乱分子の烙印を押され、討伐されてもおかしくない。

そんなロンド・ベルに肩入れする行為をしたとなっては、NREVも同等の扱いを受けることになってもおかしくない。

「だが、現状では君たち以外ではEVAシリーズの運用、ひいてはこの世界を守ることができないと判断したまでだ」

「安心したまえ、NERVは発足されて以来数多くの超法規的措置が認められている」

「故に、君たちの裁量でEVAを運用してくれて構わん。無論、NERV最大の目的である使徒の迎撃の際には協力してもらうがな」

「あれは…また現れるのですか?」

ブライトの脳裏に、先ほどまでの使徒との戦いの光景が浮かぶ。

初号機が攻撃するまで、総力を挙げたとしてもATフィールドを突破することさえできなかったあの異形の化け物がこれからもこの第三東京市に現れる。

戦うしかないことはわかっているが、ジオンとは違い、正体がまるでわからないことがブライトに恐怖心を与えている。

「我々はそう判断している」

「わかりました、EVAシリーズとパイロットは預からせていただきます」

「今後の手続きは葛城二佐に任せる。彼女およびEVAシリーズのメカニックも数名同行させよう」

「ブライト・ノア大佐、今後ともよろしくお願いいたします」

「ああ、よろしく頼む。それで、碇司令。最後に一つ…。初号機のパイロットの碇シンジ君は司令の関係者なのですか…?」

「…息子だ」

「了解しました、では…失礼いたします」

答えを得るまでにかかったわずかな時間に違和感を覚えつつ、手続きを行う事情のあるミサトと共にブライトは退席する。

冬月がタブレット端末を手に取り、そこに表示されるデータを見つめる。

「いいのか…?この話は予定にないことだぞ?」

本来ならば、ロンド・ベルに対しては今後の協力を条件に補給を行うこととなっていたが、シンジ達を同行させることは考えていないことだ。

それに、この状況となってはいつ使徒が再び現れるのかはわからない。

その予兆はある程度わかるとはいえ、それでもいざというときのためにシンジ達をここに待機させた方がいいだろうと冬月は考えていた。

「…スケジュールはもはやゆがんでいる。要因はわからんが…。ならば、成り行きに身を任せるしかなかろう。地球…何より、セントラルドグマの安全を確保しなければ」

「ジオンが再び隕石やコロニー落としを行うとなれば、そちらの方が困るな」

1年前に起こったネオ・ジオン戦争の終盤に起こったアクシズ落とし。

あれはさすがのゲンドウも冬月も肝が冷えて、それを阻止してくれたロンド・ベルには感謝しかない。

仮にアクシズ落としが成功してしまった場合、セントラルドグマが破壊されることとなり、それが与えたかもしれない影響を考えるとぞっとする。

使徒ではなく、人間自身によって今度こそ人類が滅ぼされてしまったかもしれないのだから。

無論、そんなことはジオンもシャアもあずかり知らぬことだろうが。

「それに、EVAを外に出せば、連中の目をそちらに向けることができる」

「翼の隠者か…。まさか、奴らも動くとはな」

「ゲッター線の照射量が増えているのも、原因の一つだろう」

早乙女博士の反乱とその中で起こった彼の死により、ゲッター線の研究は大幅に停滞することになったが、今でも細々とアメリカで研究は行われている。

新しいゲッター炉心についてはいまだにブラックボックスのままで生産はできないらしいが、それでもゲッター線の計測など、できることはある。

最近アメリカにあるゲッター線研究所から送られた情報、そして先ほど出現した翼の隠者、ドラゴン。

「さらには異界からの使者、か…」

「すべては動き出している。我々のスケジュールの範疇を超えて。座して待っているだけでは、取り残されることになる。ならば、動くしかあるまい。我々の計画のために…」

 

-トゥアハー・デ・ダナン 医務室-

「ぐぉ…ぐうう!!」

「ソースケ!」

「大丈夫だ…今、薬は打った。脳への異常もない。あとはしっかり眠って、回復を待つことだな」

ネェル・アーガマから診察に来たハサンの言葉通り、ようやく落ち着いたのか、宗介がゆっくりと表情を落ち着かせ、眠りについていく。

冷たい汗でぬれた顔をかなめが布で拭き、同時にハサウェイによって連れ戻されたときの宗介の様子を思い出した。

アルがコックピットを開き、サックスが引っ張り出した時の宗介は鼻血を垂れ流し、いくらかなめが名前を呼んでも反応していなかった。

「ハサン先生、ソースケにいったい何があったんですか!?」

「わからん。長年船医をして、強化人間を診たこともあるが…」

ハサウェイとアルの証言によれば、今回宗介に襲い掛かったことの原因は使徒のATフィールドとラムダ・ドライバのぶつかり合いが大きいだろう。

かつて、カミーユはパプテマス・シロッコという木星帰りのニュータイプを倒した際、彼が死に際に放った思念の影響によって精神を崩壊させた。

ニュータイプの力のぶつかり合いを仮に思念のぶつかり合いと解釈するのであれば、シャアに期待されるほどの強大な力をもった通常のカミーユであれば、何らかの影響を受けたとしても、それでも精神の崩壊にまでは至らなかっただろう。

だが、まだ精神的に成熟していない多感な少年であるカミーユを両親をはじめとした身近な人々の死が彼の心を追い詰めたことで、最後に襲い掛かったシロッコの思念に抵抗することができなかった。

ラムダ・ドライバの資料を読んでハサンが思ったのは、ラムダ・ドライバとニュータイプの力はその方向性は違うかもしれないが、力の源泉は同じ思念だということだ。

ラムダ・ドライバは思念を物理的なエネルギーに変換し、ニュータイプは思念を超感覚として発揮する、機械でいうハードウェアとソフトウェアの違いのようなものかもしれない。

今回宗介が陥った状態を考えると、ラムダ・ドライバとATフィールドがぶつかった状況がシロッコがカミーユに思念をぶつけたのと同じ状態かもしれない。

あくまでもそれはATフィールド、強いてはそれを持つ使徒に思念や意思が存在するならの話で、その真相はたとえニュータイプや強化人間を数多く見てきたハサンでもわからないことだ。

「だが、彼は思った以上にタフな男だ。今日はゆっくり寝かせるといい。念のため、明日までは私もダナンにいる」

「わかりました…ありがとうございます、ハサン先生」

かなめもかなめで任されている仕事があり、それをする時間が来ていることから、寝顔を見せる宗介を見た後でかなめは医務室をあとにする。

宗介の様子を見たハサンは手元にある宗介のカルテ、そしてネェル・アーガマから持ってきたカルテを見る。

もう1つのカルテの患者の名前はロザミィ。

グリプス戦役時にカミーユに接近してきた女性で、年下であるはずのカミーユをお兄ちゃんを呼んでいた。

その正体はオーガスタ研究所で調整を受けた強化人間であり、ティターンズのモビルスーツパイロットだった。

エゥーゴに潜入するために彼らによって偽の記憶を植え付けられた彼女だが、その記憶に忠実な子供のような人格となったことから潜入任務を実質放棄した状態となり、それゆえにハサンも嫌がられはしながらも彼女を検査することができた。

そこで強化人間のデータを入手することができた。

なお、ロザミィは21バンチコロニーにおける任務で無理やりモビルスーツに乗り込んで出撃し、そこで目撃した、ティターンズの毒ガス作戦で殺された子供の死体を見たことで使命を思い出してしまい、カミーユの元を離れた。

だが、カミーユと過ごした兄妹としての記憶は確かに焼き付いてしまっており、その状態でティターンズによって強引に再調整されたことで精神を崩壊させ、最期はカミーユの慈悲の一撃によって命を落とした。

そんな彼女のカルテにあるデータと今回手に入れることになった宗介のカルテ。

その中にある共通点にハサンは違和感を覚える。

(相良宗助…まさか、とは思うがな…)

 

-ヤマト トレーニングルーム-

「うわああ!!」

剣道着姿になったシンジが情けない声を挙げながらしりもちをつくとともに、手にしていた竹刀が離れる。

シンジの前にいるのは剣道着姿をしたソウジで、シンジの落とした竹刀を手にする。

「違う違う、そうじゃないぞ、シンジ。そんなへっぴり腰じゃあ、この先戦えねえぞ?」

「はあ、はあ…それは、そうですけど…」

「あの使徒をぶった切った時を思い出せ。体ごとぶつかってきな、ほらよ」

竹刀を受け取ったシンジは少しだけソウジから離れると竹刀をソウジに向けて構える。

その様子とチトセとナイン、そしてレイが眺めていた。

日本での連邦軍の訓練の一環として剣道もあり、ソウジだけでなく古代や加藤らもその訓練を受けている。

宇宙世紀となり、モビルスーツや戦闘機、銃の運用が主体となり、剣道そのものについては剣を使うことが皆無であることから本格的に行われることはないが、精神修行の一環として基礎的なものについては取り入れ続けている。

「おお、やってやがんな、ソウジ」

「竜馬か、お前もどうだ?剣道」

「へっ、俺が剣を使うように見えっかよ。まぁ…ちょいと付き合ってもらうか」

壁にかかっている竹刀を手にした竜馬は面具も道着も身に着けることなく、ソウジと対峙する。

「おいおい、竜馬。道着なしでやるなんて…冗談だろ?」

「んなもんいらねえよ。悪いな、ソウジ。ちょいとばかし、憂さ晴らしの相手になってもらうぜ!!」

そう叫ぶと同時にとびかかった竜馬が力任せに竹刀を振るう。

それを正面から受けることになったソウジは目を丸くするも鍔迫り合いを演じる。

「え、ええ…!?剣道って、ジャンプもありなんですか??」

「ルール上は問題ありません。しかし、一本が取りづらいため、大抵やらないというだけですが…」

瞬間の勝負と呼ばれる剣道において、ジャンプしての攻撃は確かに威力があるかもしれないが、攻撃のパターンが単調な上に見切られやすい。

おまけに、百歩譲ってジャンプ攻撃に成功したとしても、そこから着地した後でたとえ相手が反撃を仕掛けてきたとしても、瞬時に打ち返せる態勢、つまり残心に時間がかかる。

剣道の試合においての一本は攻撃を当て、その後で残心に成功するまでの流れが成立したときにのみ。

最も、竜馬もソウジも剣道の試合をするつもりはない。

竜馬のいう憂さ晴らしにソウジが付き合っているというだけのことだ。

「あんまり派手に動くんじゃねえぞ、竜馬。もし竹刀がぶっ壊れたら、あとで加藤隊長にドヤされる」

「そんなことを言ってる場合じゃあなくなるくらい打ってやるよぉ!!」

両手で握るのをやめ、バンバンと片手で竹刀を振るい始める竜馬。

ルール無用で鬼気迫るその動きを見たシンジはプルプルと震えていた。

(竜馬さん、やっぱり鉄也さんのことで…)

第5の使徒との戦いを終えた後、鉄也は急にグレートマジンガーと共に飛び去って行った。

ヤマトへ帰還せず、ヴァングレイからいくら通信を送っても拒絶された。

新正暦世界からともに戦ってきたというのに、急にいなくなってしまったことが竜馬にとって気に食わない。

それを発散する手段を今の竜馬が求めていた。

(グレートマジンガーと…兜甲児が乗っていたマジンガーZ…。関係がないなんて、ありえねえよな…)

まるでグレートマジンガーの生き写しかのような存在に見えたマジンガーZ。

その存在と鉄也の失踪は偶然とはとても思えなかった。

 

-ヤマト 格納庫-

「これはまた…すごい量が入ってきたもんだ…」

NERV仕様のネモによって続々と運び込まれていくコンテナの数々、そしてミサトから渡された搬入物資のリストに榎本は苦笑いする。

ミスリルでも、ルオ商会の助けもあって多くの物資を補給することができたが、今回のNERVからもたらされたものはそれ以上のものだ。

当然、ヤマトに配備される2機のエヴァンゲリオンの装備や補修パーツなどもあるが、他にもモビルスーツやアームスレイヴの武器弾薬にパーツ、水や食料、果ては嗜好品に至るありとあらゆるものがコンテナいっぱいに詰め込まれ、今ここにやってきている。

ヤマトだけでなく、ラー・カイラムやネェル・アーガマ、ナデシコなどの他の艦も似たような状況になっていて、榎本はNERVの力と得体の知れなさを感じずにはいられない。

「ただより高いものはないというが…気前が良すぎて気分が悪くなるってものだぜ…」

これだけの資材があれば、当面は物資の問題を気にすることなく戦うことができるだろう。

それについては感謝しているが、NERVに心臓をつかまれているのではないかと疑う自分を感じていた。

その中で、NERVの作業員の手によって2機のエヴァのバックパックの換装作業が開始されていた。

「換装完了後はシステム調整よ、少しでも異常があったらすぐに報告を!!」

「了解!!」

指揮するミサトの手にあるタブレット端末には2機のエヴァに搭載される核融合炉の情報が表示される。

この装備によって、2機のエヴァはアンビリカブルケーブルの束縛から解放され、自在に動くことが可能になる。

同時に換装されたバックパックに搭載されているスラスター、そして両腕両足に外付けで追加できる姿勢制御用スラスターがあれば、宇宙空間での運用も可能になる。

最も、これらの装備は1か月前に作成するよう命令が出されたもので、ミサトも宇宙でエヴァを運用することになる可能性が出てきたことは想定外だった。

 

-ネェル・アーガマ改 格納庫-

アストナージの指揮のもと、ガンダムチームおよびνガンダムの総チェックが開始される。

特にMk-Ⅱについては装甲をすべてはがされ、内部のムーバブルフレームとコックピットだけが残るかと思えるほどだ。

いずれも異世界で戦闘を行い、元の世界に戻ってきてからもGハウンドやアマルガム、使徒のゴタゴタできちんとした整備ができておらず、特に経年劣化しているMk-Ⅱと簡単な修理だけにとどまっているνガンダムについてはこうしてNERVからもたらされた資材を最大限利用する形で整備が行われている。

「アストナージさん、Mk-Ⅱについてですが…」

「ああ、言われなくても分かっているさ。限界に近いんだろう?」

西暦世界に飛ばされた際にスーパーガンダムに換装され、それなりの戦いは続けてきたが、それでも限界に近いMk-Ⅱ。

こうしてフレームを点検しているが、損傷が多く、修理痕のない部分を探す方が難しい。

今もどこかで動いているであろうカミーユ、グリプス戦役の終盤に戦死した元ティターンズのエマ、そして今のパイロットであるエル。

多くのパイロットの手で運用され、激しい戦いを繰り広げ続けたMk-Ⅱの歴史がアストナージの脳裏に駆け巡る。

「よく戦ってきたな、Mk-Ⅱ。この状態じゃあ、もうカミーユの全力操縦には応えられないだろうな…」

「アストナージさん、Mk-Ⅱの改修についてですが。ヤマトのスタッフからちょっと提案があるみたいで…」

「提案…ヤマトから?」

 

-バートス島 洞窟内-

ヨーロッパの古代エーゲ海に位置するバートス島。

連邦とジオンが激戦を世界中で繰り広げている中、この島には誰の手も及んでおらず、セカンドインパクトやゲッター汚染からかろうじて生き延びた遺跡の残骸だけが残っている。

その地下に広がる洞窟の中には、そんな島には不釣り合いな機械やカプセルが数多く置かれている。

そして、そこの壁に設置された大型モニターには第5の使徒とドラゴン達の交戦の映像が映っている。

「…まさか、翼の隠者が動くとはな」

真っ白な髪と髭を生やした老人がその映像を眺め、手元にあるドラゴンに関する書類と机に置く。

ゾンビのような紫の肌を黒衣で包んだこの男はDr.ヘル。

この洞窟の主をしている。

そして、この男の背後には軍服姿をした髭面の男が立っている。

いや、立っているのは体の方で、首についてはそのそばにある机に置かれている。

そして首と体の接続部分については機械化されている。

おまけに身にまとっている軍服は連邦軍の物でもジオン軍のものでもない、古い時代の軍隊の物で、胸にはいくつもの勲章がぶらさげられている。

ブロッケン伯爵と呼ばれる彼がそうなる前に身に着けていたもので、勲章についても実際に以前の彼が軍で活躍して手に入れたものばかりだ。

「外界との接触を拒んて来た奴らが、なぜこのタイミングで…」

「おそらくは異世界からの来訪者…そして世界の理を破壊するものを討つためであろう」

「世界の…理…!?」

ヘルの言葉に動揺したのは紫のローブ姿の人物で、体の右半分が男性、左半分が女性というブロッケン伯爵とは別の意味で人間とは思えない姿だ。

あしゅら男爵と呼ばれるこの人物には今、ヘルが発したその言葉にどこか胸騒ぎを覚えていた。

何か、重要な使命が今の自分に合って、それとこの言葉がつながっているような、そんな感覚だ。

「これは凶兆であるやもしれん…。マジンガーZを早急に討たねば…」

ヘルの一派にとっての宿敵であるマジンガーZ。

この島で共にあるものを発見するために尽力してきたかつての同志である男が袂を分かった男、兜十蔵が研究した光子力の産物たるマジンガーZ。

十蔵は既にあしゅら男爵が始末したが、その遺産のマジンガーZが今も生きていて、孫である兜甲児にわたっている。

ヘルはこれまで何度もマジンガーZと戦ってきたが、その度に煮え湯を飲まされてきた。

だが、使徒とドラゴンの登場だけでも十分だというのに、さらなるイレギュラーである異世界の兵器にもう1機のマジンガーZの存在。

まるで何かの重力が形成され、それに引っ張られる形で混沌が生まれているこの状況をヘルも看過できない。

「ハッ、Dr.ヘル様のご意思のままに…」

「Dr.ヘル様に勝利を!奴めの首はこのあしゅら男爵の手で!」

「うむ…だが、気をつけろ。マジンガーZもそうだが、あのグレートマジンガーという存在。あれを光子力研究所で、兜十蔵の手で作られていたというのか…?」

 

「ふん…何が奴らの首はこのあしゅら男爵の手で…だ。貴様に何ができる?」

「何を…!!」

洞窟を出て、ヘルが関知していないところに出たブロッケンがさっそくあしゅらにかみつく。

ヘルのもとに集った同士ではあるが、この二人は犬猿の仲で、ヘルの前では平静を装いつつも、彼抜きではこうしていがみ合っている。

「失態続きの貴様に何ができる?おとなしくここで我が勝利の報を待っているがいい」

「貴様…」

「グールを任されたのだ。これであれば、マジンガーZも異世界の兵器も敵ではないわ!ぬははははは!!!」

新兵器を任された、つまり相手以上にヘルからの信任を得たことを高笑いし、ブロッケンが去っていく。

出撃命令の出ていないあしゅらは両拳を握りしめる。

「私とて…私とて新たな力を必ず手に入れる!!そして、マジンガーZを、兜甲児を始末してくれる!!」

赤い海から飛び立つ、鬣のついたガウというべき大型航空機。

ヘルが開発した機械獣の1機にして、空の要塞と称されるグールはガウの倍以上の大きさを誇り、連邦軍がアウドムラをはじめとした300メートル近い大きさを誇る大型輸送機であるガルダ級を採用するまでなしえなかった補給なしでの戦艦による地球の一周をその3分の2の大きさで達成してなおも継続飛行可能な存在だ。

この兵器があれば、マジンガーZに必ず勝利できる。

その核心が今のブロッケンにはあった。

 

-日本近海 プトレマイオス2改ブリーフィングルーム-

「興味深い話ね…」

「確かに、不自然さは感じられるけれど」

「現時点ではデータ不足ではあります。しかし、もう1度チャンスがあればはっきりするでしょう」

「あとは…彼らが使用する固有の波形さえ解析できれば、理論上では可能です」

「その後は…」

「アキトさん、あなたの出番ですね」

真田とテレサ、ルリ、そしてかなめが解析し、導き出された理論、そしてボソンジャンプ。

それらを統合することで、彼らにとって大きな悲願の一つを為すことができる。

「…」

彼らの視線が集まる中、アキトは拳を握りしめた。

 

-ヤマト 食堂-

「Dr.ヘルねえ、このご時世に世界相手にケンカを売る暇人がいるなんてな」

甲児から聞く彼の宿敵、Dr.ヘルの目的に対してソウジが抱いたのは理解できないという思いだ。

一年戦争、そしてその終盤に立て続けに起こったセカンドインパクトとゲッター汚染。

そして17年近く続く戦争によって疲れ果てた地球にケンカを売って、たとえ勝利したとしても何の足しにもならない。

仮にそのDr.ヘルが地球を改善する手段を何か持っているのだとしたら納得がいくが、甲児の話を聞く限りはそれもなさそうだ。

「確かに、ヘルがやっていることは俺たちにも理解できません。ですが、奴の持つ戦力、機械獣の力は侮れません」

「さやかさんから、これまで戦闘した機械獣のデータを頂きました。いずれも、現行の連邦軍の兵器以上の性能を誇っています」

「そんな兵器を作れる人が、どうしてこんなことを…。それを地球のために使ってくれたらよかったのに…」

ナインに見せてもらったデータを見るチトセの言葉ももっともだが、優れた能力を持って、それを世界のために使おうと考える人間がいれば、己のエゴのためだけに使う人間もいるのは確かだ。

使い方を決めるのがその人である以上、それについてはどうしようもないのかもしれない。

データの中には機械獣が連邦軍のモビルスーツ部隊と交戦する映像もあるが、現行のモビルスーツであるジェガンが集団で1機に集中攻撃したとしても、なかなか倒せない存在だ。

まるでかつてのソレスタルビーイングのガンダムと過去の西暦世界における陣営が使っていたモビルスーツの性能差に匹敵するといえる。

「それで、ロンド・ベルもDr.ヘルとの戦いに協力しているのか」

「まあね。宇宙ではジオン、地上ではそれにプラスでDr.ヘルの相手で大忙しなわけだ」

「しかし、そのDr.ヘルという男、こんな状況で世界を征服して、いったい何が目的だというんだ…?」

「それは…僕も疑問に思う」

「ボロボロな状態でも、地球は人類の故郷だ。そこに王様になりたいのさ。あいつは」

スペースコロニーが生まれ、木星に人が暮らすようになっても、やはり人類のルーツは地球であることには変わりがない。

それが人類は重力に縛られているというのであれば、それでもかまわないと島は思う。

そこを手にし、王様になれるのだとしたら、たとえ無人の荒野であったとしてもうれしいのだろう。

最も、あくまでもこれは島の想像で、島本人としてはそんなのはまっぴらごめんだが。

「権力を手にしたがり、固執するのは悪党のお約束だな」

「だが、地球連邦を倒したとしても、宇宙にはジオンがいる。地球を手にしたとしたら、Dr.ヘルとジオンの戦争になるかもしれない」

「それは…どうだろうな。Dr.ヘルがどういうつもりでそのようなことをしているかはわからない。だが、ジオンは仮に連邦が打倒されたとしたら、地球を無視するようになるかもしれない」

「アムロ大尉、なぜそう思うのです?」

「今のジオンの戦い、特に地球で戦っている奴らは連邦への怨嗟を晴らすために戦っているように見えるからな。その晴らす相手がいなくなれば、もう地球にいる意味もないだろう」

古代とは違い、アムロをはじめとしたロンド・ベルはそうしたジオンの兵士たちの戦いをいやというほど見てきた。

それに、たとえDr.ヘルと地球をかけて戦争をし、勝利したとしても、地球で待っているのは今のコロニー以下の生活だ。

赤く染まった海で海産物がとれず、コロニーの調整された環境と違う厳しい環境が待つこの地球にスペースノイドが生活しようと考えるかは疑問だ。

(そうだ…きっと、その時にはジオンは地球を捨てる。木星帝国の彼らのように…)

トビアの脳裏に浮かぶのは、木星戦役の時に木星帝国の罠にはまり、クロスボーン・バンガードが地球連邦軍と戦うことになった後のことだ。

かつての母艦であるマザー・バンガードの自爆に紛れて離脱したトビアはベルナデット、ベラと共に地球へ降りた。

まだ本格的なガミラスの攻撃が行われておらず、地表にはまだ人々が生活していたころで、降りてすぐに出会った木こりの老人のもとに身を寄せることになった。

コロニー暮らしのスペースノイドであるトビアが彼から感じたのは彼との体力の違いだった。

食料と当時の愛機であるX3の修理パーツを買いに行くため、トビアは歩いて山を上り下りすることになった。

エアバイクでの移動が主であったトビアには考えられないことだが、その老人にとってはそれが当たり前の話。

実際にそれを経験したトビアはクタクタに疲れ、同時にどれだけコロニーが恵まれた環境なのかを思い知ることになった。

また、学生時代に一年戦争で地球に降りたジオン兵の記録を読んだこともある。

彼らも地球の環境の中で苦戦し、コロニーにはいない害虫などに苦労し、早く本国へ帰りたがっていたという。

時代や状況が違うことが大きいかもしれないが、トビアは地球で一時的に生活をしたことで地球で生活する人々への敬意、そしてニュータイプ能力そのものは結局のところ、宇宙という環境に適応する中で手に入れた能力の一部に過ぎず、ジオン・ダイクンのいう人類の革新とは言えないのではないかと思えた。

そういう点では、こうした自分の考えに影響を与えてくれた地球に感謝をしている。

だが、地球に対してネガティブな印象を生活の中で抱いた人々、特に滅亡寸前といえる地球を宇宙から見るだけのスペースノイドはどうだろう?

地球の土を踏みさえしなかった人間はきっと、アムロのいう通り地球への興味を失うのは目に見えている。

「人類は…地球と宇宙に真っ二つに分かれて生きることになるだろうな」

「それは…なんだか悲しいです」

同じ人類だというのに、地球で生まれたか宇宙で生まれたかで真っ二つに分かれる状況。

かつての人種差別に似た、いやそれ以上に種としても分離したとみなされるような未来はとてもバナージには受け入れられないものだった。

「だが、戦争するよりはマシだろうな」

「それを平和と定義できるかどうかは疑問だが…」

加藤も古代も軍人である以上、戦う覚悟はできているが、そうしたことが起こらない方が一番いいことも理解している。

戦争をしない、そのために互いを断絶するというのも一つの手だろう。

だが、その道を選んだ後の未来はどうなる?

コロニーからの救いがなければ復興できなくなった今の宇宙世紀世界の地球は滅亡するだろう。

地球に暮らすすべての生き物やアースノイドを道連れにして。

「だが、確かにジオンが地球という星そのものに関心がなくなっているというのは肌で感じている。セカンドインパクトとゲッター汚染によってな…」

「だから、たとえサードインパクトが起こったとしても、ジオンにとっては構わないということですか??」

NERVからもたらされた情報では、使徒が第三東京市に出現するのはNERVが守っているというセントラルドグマという場所へ向かうためだという。

そして、使徒がそこに到達すると再びセカンドインパクトのような惨劇、いわゆるサードインパクトが起こる。

今の地球にそれに耐えるだけの力はなく、サードインパクトは確実に地球を滅亡させるだろう。

「そうだ。その点ではかつてのアクシズ落としと似ている。地球を死の星に変えるという意味ではな」

「サードインパクトが起こることをジオンは望んでいるのか…??」

「そうではないと信じるさ。アクシズを命がけで押していたジオンの人間を間近で見たからな」

それに、シャアも地球を完全な死の星に変えようとは思わなかっただろう。

シャアは確かに自分との一年戦争以来の決着をつけたかったという思いもあるかもしれない。

だが、同時に人類を宇宙において進化させる、地球を曲がりなりにも存続させたいとも思っていただろう。

核の冬が到来したとしても、人類が存在しない長い時間をかけて地球は環境を再生させていく。

アクシズ落としはあくまでもセントラルドグマの件を抜きにすると、その可能性にかけている節があると冷静になって考えると思えた。

だが、その可能性さえもなくなるのがサードインパクトだ。

(シャア…そうなんだろう?お前の行いを許すつもりはない。だが…お前のことだから、完全に地球を滅ぼしたいなんて思わなかっただろう?)

 

「…」

「どうしたの?シンジ」

「あ…別に」

「隠しても分かるよ。アムロさんの言葉にショックを受けたんだろう?」

日本各地を転々とした、人並みとはいいがたい生活を送ってきたであろうシンジだが、これまで戦争と関わることはなかった。

確かにアクシズ落としの時は地球もろとも死ぬことになる恐怖におびえていたものの、それでもメディア越しでしか地球とジオンの対立を知ることがなく、憎み合っている印象しか抱いていなかった。

だが、生身の体で戦いを続けてきたアムロの言葉には驚きながらも、メディア以上の真実味は感じられた。

シンジのそんなショックを感じたハサウェイも、もし一年戦争やそれ以降の戦いの当事者であるブライト、そしてその妻であり、一年戦争でブライト達とともにホワイトベースに乗っていたミライの子供でなければ、ここでの話で同じショックを感じただろう。

ハサウェイもまた、アクシズを押したジオンのモビルスーツを見ていたのだから。

あの時はクェスを失ったショック、そして彼女を手にかけたチェーンのことで精神的に追い詰められていたが、それがなければきっとあの中に入っていたかもしれない。

もし、戦いがなければシンジが受けるショックはそこまでだったかもしれない。

だが、それ以上にショックなことがある。

「サードインパクトが起こるのを望んでいる人がいるなんて…」

シンジとレイがエヴァに乗るのも、ミサトたちNERVの人々が仕事をしているのも、すべてはサードインパクトを阻止し、地球を守るため。

人類共通の絶対的な正義だと思っていたシンジには、サードインパクトを望む人々の存在が信じられない。

だが、もし阻止しようとするなら、NERVにはジオンも協力しているはずだ。

その協力がないということは、そういうことなのだろう。

「けど、人間はそこまで愚かじゃないよ」

「ハサウェイさん…」

「確かに、スペースノイドの中には連邦を恨んでいる人も少なくない。だけど、アースノイドすべてが滅びればいいなんて思っている人ばかりじゃないはずだ。僕も、アムロさんと同じでそう信じているよ」

「ハサウェイさんって、アムロさんと親しいんですね」

「親父と付き合いがある人だからね。おかげで連邦の白き流星を間近で見ることができたよ」

シャイアン基地で軟禁生活を送るアムロの元へ、母親であるミライと一緒に来たことがあり、その時は機械いじりのやり方やプチモビの動かし方を教えてもらった。

一年戦争の英雄としてではないアムロを知る機会があるから、曲りなりに軍人となった今でもアムロとこうして親しくすることができる。

「そっか…ハサウェイさんのお父さんって、ブライト艦長なんですよね…」

「ああ…」

「お父さんと、どういう感じで話をしますか?」

ロンド・ベルとNERVの違いがあるとはいえ、最高責任者を父親に持っているという点では、ハサウェイとシンジは共通している。

違いがあるとすれば、幼いころに親戚に預けられて以来、シンジは一度も父親と会ったことがないことだ。

ハサウェイも一年戦争後は佐官となったブライトとはなかなか会えない少年時代を過ごしている。

そんな父親と関わるのが少ないハサウェイだから、シンジはそれを聞けるのかもしれない。

「話って…ああ、そういえば…こっちの世界へ戻った時にしたくらいで、最近は全然、口をきいていないな」

「それで…いいんですか…?」

「いいも悪いも、親父は忙しいし…」

自分とテレサのことも、それ故にまだブライトには伝えられていない。

艦長同士でブリーフィングをする機会があるため、もしかしたらテレサが話しているかもしれないが、こういう時は自分から話したほうがいい。

忙しそうにしているが、いつか少しでも暇を見つけたら話そうと決心する。

一方のシンジはそのまさかの回答に驚きを隠せなかった。

せっかくこうして会えたのなら、いっぱい話をしているものとばかり思っていたから。

「それに、親子だからこそ…話さなくてもいいってのもある」

「そういうものなんですか?」

「そうじゃなきゃ、地球と宇宙で離れていたら家族なんて壊れちゃうだろ?」

「話さなくてもいい家族…か…」

似ているように見えたが、全くそうではなかった。

ブライトも顔や口には出していないが、本心では誰よりもハサウェイを信じていて、同時に心配もしている。

ゲンドウは果たしてシンジを置いて行ってから、どう思っていたのか、今のシンジには知りようもなく、ようやく会えた時もあの鉄面皮からは何も感じられなかった。

「シンジ…」

「苦戦しているようだな、ハサウェイ」

「甲児…」

「シンジ…お前の父さんってNERVの司令官なんだろ?」

「はい…」

「ミサトさんから聞いたよ。お前…親父さんに言われてエヴァに乗ったんだってな」

「エヴァに乗ることのできる人間は限られているからって…」

エヴァのパイロットになるための条件について、ミサトに聞いたことがあるが、彼女も詳しいことはわからないという。

一つ言えることは、エヴァ初号機と零号機には人間の言う個性や相性というものがあるようで、シンクロ率にはそれが関係しているらしい。

なぜエヴァにそのようなものがあるのかはわからないが、それがシンクロ率という数値でパイロットと同調する。

大雑把に言ってしまえば、それが高いパイロットは乗っているエヴァと相性がいいということになる。

あの場にいた人間の中で、初号機とのシンクロ率が一番高いのはシンジ。

だから乗って、使徒と戦った。

シンジの意識としてはそれだけのことだ。

かつて、大勢の人の死を目撃し、その惨劇を生み出した敵への怒りからガンダムに乗り込んだアムロと比べるのもおこがましい。

「そうか…頑張っているんだな」

「え…?」

成り行きやあまりにも消極的な理由で乗っただけの自分をほめてくれた。

そのことに驚くシンジだが、不思議とうれしさがこみあげてくるのも事実だった。

「親父さんの期待に応えようとしているんだろう。そりゃ、自慢の息子ってやつだ」

「ありがとう…ございます…」

疎遠だったゲンドウのために戦ったつもりはない。

ただ、ほめてくれたことに感謝するシンジに甲児はニッと笑う。

「戦う理由は人それぞれだ。親父さんに言われて戦うのだって、別に悪いことじゃない。でもよ、いやだと思ったら、ちゃんと言えよ。最後に決めるのは…お前なんだからよ」

ポンッと甲児の拳がシンジの胸に置かれる。

「神にも悪魔にもなれる…。それを決めるのは、お前自身だ」

「それって…どういう意味なんだ?」

「俺がおじいちゃんからマジンガーZを託されたときに言われた言葉だ」

かつて、静岡の熱海で甲児は弟のシローと祖父である兜十蔵の3人で暮らしていた。

両親は幼少期に死別しており、祖父の庇護を受けていた甲児はある時、あしゅら男爵と彼が指揮するあしゅら軍団の襲撃を受けることになる。

救援に駆け付けた連邦軍のモビルスーツ部隊をも蹂躙する機械獣に恐怖する甲児だが、そこで十蔵がひそかに建造していたマジンガーZに乗り込み、あしゅら軍団を撃退することに成功した。

その時に十蔵に言われたのがその言葉で、十蔵はその戦いの中で命を落とすことになった。

それ以降は十蔵の仇であるあしゅら男爵、そしてマジンガーZを狙うDr.ヘルとの戦いに悪友であるボスと幼馴染であるさやかと共に身を投じることになった。

「甲児さん!その…この前はありがとうございました!エヴァの暴走を止めてくれて…」

「いいってことよ。世界を守るための力を悪魔にしたくなかっただけだからな」

得体のしれない兵器であるエヴァだが、シンジがただ破壊のためだけに戦う存在でない限り、その心でエヴァを制御するのであれば、悪魔になることはない。

まだ中学生であるシンジには重たい宿命ではあるが、それでも甲児には目の前の少年がそれを乗り越えることができると思えた。

「あの甲児って奴…勢いだけで突っ走るタイプかなって思ったら、いろいろと考えているんだな」

「当然じゃない。こんな状況なんだから」

甲児とシンジの語り合いを前にしたシンは今だからこそ、その神にも悪魔にもなれるという意味が理解できると思えた。

両親を失い、妹を苦しめた戦争への憎しみ、何も守れなかった自分への憎しみから軍人となり、力を追い求めたが、その手にした力を制御するには当時は心が幼かった。

もしアスランが止めてくれなければ、ルナマリアやステラと出会うことがなければ、もしかしたら甲児のいう悪魔に本当になり果てていたかもしれない。

「トビアやキンケドゥも言っていたが、宇宙世紀世界や新正暦世界と比べると、俺たちの世界はそれなりに平和だったんだな」

「それにたどり着くためには、多くの犠牲があったがな…」

「ああ…」

シンも刹那も、今にたどり着くまでに多くの人の死を見てきた。

その中には当然大切な仲間がいて、本来なら戦いとは無縁の世界にいるはずの一般の民間人もいる。

死んだ彼らはもう戻ってくることはないが、西暦世界の平和が、これから積み重ねられていく平和がその犠牲に報いるだけの価値になってくれると信じたい。

(ロックオン…お前が再び現れたのは、もしかしてまだこの世界に不満があるからなのか?それとも…)

「平和、ね…。薄っぺらい言葉だわ」

「アンジュ…」

「昔の私なら、その言葉にうなずいていたかもしれない。でも、真実を少し知った今なら、あの世界の平和は見せかけの物だって言えるわ」

「平和のために戦った人たちのことを馬鹿にしているのか?」

始祖連合国やノーマ、ドラゴンの存在を知ったことで、見せかけという言葉についてはシンは否定するつもりはない。

だが、それでも平和のために戦い、死んでいった人たちを否定するようなアンジュの言葉をシンは許容できない。

「言葉が悪かったなら、謝るわ。でも…この世界のすべてを、真実を暴くまでは本当の平和は訪れないと思うの…」

「真実…」

(それが、ソレスタルビーイングの最終目的の一つでもある)

ヴェーダに蓄積された、これまでイノベイド達が収集してきたデータでも、そのアンジュのいう真実にいまだたどり着くことができていない。

アンジュも、始祖連合国の外に出たり、タスクと出会うことがなければ、その真実を確かめたいという気持ちにはなれなかっただろう。

だが、平和を享受するかつてのアンジュリーゼにも、自分が生きるためだけにドラゴンを殺す無知なアンジュにも、もう戻れない。

戻れないなら、真実にたどり着くまで前のめりに突き進む。

そうでなければ、満足できない。

「そこまでにしよう、シンもアンジュも」

「キラのいう通りだわ。私たちには元の世界へ帰るすべもないんだから」

キラとサリアが間に入り、そこでシンとアンジュは沈黙する。

お互いに相手の言うことには一理あることは理解できている。

だが、それでも相手の言い分に納得できない部分があることも事実だ。

「みんなは、元の世界に帰りたい?」

「そんなの…当り前じゃないですか」

西暦世界には一緒に戦ってきた仲間、そして最愛の家族が待っている。

そんなシンは迷いなく答えるが、それは帰る理由が存在する人間の話だった。

「…そうでもない」

「え…?」

「あたしもだよ。あっちの世界じゃ、ノーマのあたしたちは人間扱いされないからさ」

クリスやロザリーをはじめとしたノーマにとっては、帰ったとしてもあるのはドラゴンとの血塗られた戦いのみ。

あの地獄のような日々と比較すると、同じ戦いがあったとしても普通の人間として扱ってくれて、金銭的な余裕もある今の生活の方がいいに決まっている。

「別の世界なら…そんなことを気にしなくて済む…」

その思いを抱くのは、サリアも同じだった。

確かに元の世界にいる仲間やジルのことが気にならないわけではない。

だが、人間としての暮らしができる今の環境を知ってしまったサリアには元の世界へ戻るという選択を迷いなくできる自信がない。

「そうだよね…ごめん」

ちょっと考えてみたら、特にアンジュをはじめとしたメイルライダー達がそんな思いを抱くのはわかり切っていたこと。

無神経だったと反省するキラの詫びの言葉にアンジュが首を横に振る。

「気にしないでよ。少なくとも、ここにいる人たちはそういう態度をとらないしね」

「そういうお前はどうなんだよ?イタ姫。お前の言う偽りの平和の世界なんて、もう未練はないのか?」

「私は…帰りたい」

「へえ…」

メイルライダーとなって一番日が浅く、姫として偽りの平和の世界での生活を長らく享受していただけあって、他のメイルライダーとアンジュの答えは違う。

そう思っていたヒルダだが、アンジュの望郷の思いは別にそんなものではない。

「いろいろ、心残りがあるから」

あの日々は両親が死んだあの日にもう戻れないことはわかっているのだから。

だが、まだあの世界に納得できないものがある。

真実を明らかにしなければ、ここから先に進めない気がしていた。

「珍しく気が合うじゃないか。あたしもだよ」

「ほんと、珍しいわね」

反目し合う間柄のはずのアンジュとヒルダが笑い合う。

ほんのわずかに流れる静寂の時間。

だが、それを突き破るような警報音が鳴り響く。

「敵襲か!」

「太平洋のド真ん中だぞ!完全に俺たち狙いか…」

「ジオン…それとも、連邦軍」

「何が相手でも、相手するまでよ…」

帰りたいという願い、そして生きることを阻むのであれば、相手が何であろうと倒す。

アンジュの目には闘争心と生存本能、生物として当たり前の炎が宿っていた。

 

-ヤマト 格納庫-

「竜馬さん、わかっているとは思いますが…今のゲッター1は…」

「んなことわかってる。けどよ、機体を遊ばせる余裕もねえだろうし、整備できねえこいつをいつまでも置いておくってのも、考えモンだろ」

ゲッター1に乗り込む竜馬も今のゲッター1の状況は理解している。

次元転移をしてから長らく戦闘に加わらず、死蔵され続けてきたゲッター1だが、整備兵たちもただ手をこまねいていたわけではない。

オモイカネやナイン、ヴェーダなどを使ってゲッター1を解析し、どうにか整備できないか模索は続けていた。

その結果としてどうにかゲッター合金に近い材質の装甲を作ることができ、それで損傷個所を修復することには成功したが、本来のものと比べるとやはり完成度については6割未満といったところ。

装甲にすることはできるが、ゲッタートマホークをはじめとした武器に使うことはできない状態だ。

仕える武器はもはやハイパーハンマーランチャーと腰の鞘に納められた大型ヒートトマホークのみだ。

「満を持しての出撃だな、竜馬」

「悪かったな、ソウジ。あの後、あの陰湿野郎にしこたま絞られたんだろう?」

「気にすんなよ。それより、大丈夫か?お前」

「ああ…問題ねえ。俺は去るものは追わねえし、来る者は拒まねえ。何が来ても、相手をしてやる」

ソウジとの剣道という名の暴力で気持ちにある程度整理をつけ、食堂での話を聞いた竜馬は拳を握りしめる。

まだ鉄也が出ていったことに完全に気持ちの整理ができたわけではないが、それでも今の方が整理がついていて、鉄也についてはいずれあった後でボコボコにしてから真意を聞いてやろうと思っている。

二人が出撃前の談笑をする中、シンジとレイはミサトから話を聞く。

「2機のエヴァは核融合炉を搭載したわ。重量が増して、背中に違和感があるかもしれないけれど…活動時間については気にしなくていいわ。あとは、スラスターを使う形についてはシミュレーションでやってもらったけれど、何か違和感があったらすぐに戻って」

「わ、わかりました。機械獣…機械獣は人じゃない、人じゃないんだ…」

グリップが装着され、手になじむ形状となったマゴロクソードを腰に差し、背中の重量の増した初号機に先行し、零号機が発進シークエンスに入る。

「シンジ君、一人で戦うわけじゃない。機械獣は使徒と比べたら大したことはない。私も助けるから」

「綾波…」

「零号機、行きます」

ハッチが開くと同時に零号機がパレットライフルを手に飛び降り、スラスターを吹かせて緩やかに着地する。

この上空から地上への降下についてはシミュレーションで何度もしてきたが、それでもやはりハッチから見える地上との距離を実際に見ると恐怖を感じてしまう。

だが、その恐怖は使徒と問答無用に戦わされたときと比べたら大したことはない。

「碇シンジ、エヴァ初号機…行きます!!」

 

-???-

(ロンド・ベルが機械獣と戦闘を開始した。マジンガーZも参戦している)

飛行中のグレートマジンガーに乗る鉄也に男性からの通信が届く。

位置情報も送信され、即座に鉄也はグレートマジンガーに装備されているグレートブースターでスピードを一気に引き上げていく。

今のグレートマジンガーに装備されているグレートブースターはヤマトで作成されたレプリカではなく、正真正銘の超合金Zで作られた本来のものだ。

(間に合ってくれ…。甲児、戦うな!!)




機体名:ブラックゲッター・リペア
形式番号:なし
建造:竜馬によるハンドメイド
全高:38.8メートル
全備重量:283トン
武装:ハイパーハンマーランチャー、大型ヒートトマホーク×2
主なパイロット:流竜馬

次元断層におけるアールヤブの集団との戦闘で大破したブラックゲッターを改修したもの。
ゲッター合金の解析については竜馬がヤマトに乗り込んだ時から開始されていたものの、異世界の兵器であるが故のデータ不足やゲッター線という未知のエネルギーを活用していることから解析が難航していた。
どうにか解析し、万能工作機で開発された疑似ゲッター合金で損傷個所を補っているものの、変形が不可能になっており、それ故に武装に使用することができなかったため、ハイパーハンマーランチャーとブラックゲッターにも扱える大きさに調整して作成された大型ヒートトマホーク2本で武装を補っている。

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