全高:不明
全備重量:不明
武装:光線(目)、光の槍(両腕)
第三新東京市に襲来した最初の使徒であり、シンジが初号機で初めて戦った使徒。
大型化の進むモビルスーツをはるかに上回る巨体を持ち、目から放つ光線は戦艦の主砲に相当する破壊力を持っている。
両手から射出される光はATフィールドをも突き破るほどの破壊力を持ち、実際にそれを受けた初号機は大きなダメージを受けることになった。
暴走した初号機の猛烈な攻撃によってコアを破壊されたことで撃破されたものの、仮に暴走という事態が起こらなかった場合、この使徒によって第三東京市は壊滅したものと思われる。
なお、NERV本部の秘匿資料によると、第4の使徒についてはサキエルというコードネームが書かれており、おそらくはほかの使徒についてもコードネームが記載されていると思われる。
-第三新東京市-
「おおおおおお!!!」
マジンガーZの拳がエヴァ初号機の顔面に叩き込まれ、手加減なしの全力の一撃はそれを大きくゆがませる。
だが、そんな一撃を受けてもなお倒れるそぶりを見せず、牛のようなうなり声をあげて威嚇してくる。
「まだ暴走すんのかよ!?甲児、大丈夫なんだよなぁ!?」
「んなのわかるわけねえだろ!!にしても、ATフィールドってのが厄介だぜ。あれを突破して、パイロットに響かせるくらいの何かがなけりゃあ…!!」
マジンガーZの持つ最大火力が今装備しているゴッドスクランダーを使ったビッグバンパンチだ。
周囲に被害を与える恐れのあるブレストファイヤーよりも、ピンポイントに破壊力をぶつけることができる。
だが、そのためには上空でエヴァ初号機の足を止めた状態を作る必要がある。
それに、万が一それが命中したことで最悪、エヴァ初号機を破壊してしまうなんてことも避けなければならない。
「甲児君!高速でこちらに接近してくる機体があるわ!…嘘、これって!?」
「どうしたんだよ、さやか!味方か!?」
「それは…」
「なんとか言えよ!!うわああ!!」
蹴り飛ばされたマジンガーZがビルに激突する。
どうにか立ち上がろうとしたが、そこでエヴァ初号機の右手がマジンガーZのパイルダーをつかんでくる。
メシメシと悲鳴を上げる音とパイルダー周辺の装甲がひび割れる音がじかに響く。
「ま、まずい…!パイルダーオフも、これじゃあ…!!」
このまま何もできないまま死ぬのか、そんな可能性が脳裏をよぎるが、急にエヴァ初号機がパイルダーから手を離し、大きく跳躍してその場を離れていく。
その直後にどこからか飛んできた剣がズガンとエヴァ初号機のいた場所に深々と突き刺さった。
「動けるか!?そこのマジンガーのパイロット!!」
「あ、ああ…!助かった…!?」
幸い操作系統などへのダメージがなく、問題なくマジンガーZを動かすことができる。
起き上がり、助けてくれた機体を目を向ける甲児だが、その機体に驚きを隠すことができなかった。
大型のブースターが背中に装備された、マジンガーZによく似た人型機動兵器。
「マジンガー…??」
「マジンガーZ、兜甲児…!?そ、そうか…俺、は…!!」
通信機を介して甲児の声が耳に届き、マジンガーZの姿を見たことが鉄也の脳を強く刺激する。
脳裏に浮かぶのはどこかの施設で行われたであろう訓練の日々、クトゥルフ神話の邪神を彷彿とさせる気色の悪い生体兵器や鎌を手にしている半人半蛇の巨人をはじめとした巨人の軍団。
そして、最後の浮かんだのは目の前にいるマジンガーZの姿がゆがんでいき、最期は世界を滅ぼしていく光景だった。
突然流れ込んできた情報の嵐に脳がパンクしそうだったが、どうにか飲み切ることができた。
失ったと思っていた記憶すべてが戻ってきた。
「だが…今は!!」
懸念すべきマジンガーZよりも前に、まずはこの暴走中のエヴァ初号機をどうにかしなければならない。
地面に刺さっているマジンガーブレードを引き抜いたグレートマジンガーのモニターに映ったのはズシリ、ズシリと何かを追い詰めているエヴァ初号機の姿だった。
「一体、何を…!?」
「甲児君、エヴァ初号機を止めて!!あそこに人がいるわ!」
「んだって!?避難したんじゃないのかよ!?」
「あ、ああ、ああああ…」
ガタガタと震えるケンスケの手からカメラが落ち、早くこの場から走って逃げないとというのはわかっているが、すくんだ足がそうさせてくれない。
「はよぉ立ちいやケンスケ!!早く!!」
「あ、ああ、ああ…ちゃんと、避難しとけばよかった…」
今まで何度も避難訓練をしてきて、シェルターへ行くのについても日常のようになっていた。
そして、今回の初めて本格的な戦闘がこの第三東京市で行われることになり、その戦闘の光景を写真に撮ろうと思ってこっそりシェルターを出たのがまずかった。
一年戦争よりも後に生まれ、グリプス戦役とネオ・ジオン戦争の時期を日本で過ごしていたトウジとケンスケはこの時代では珍しくまともな戦闘を間近で見たことがない。
その軽率な好奇心がこうした危機を招いていた。
「まずい!!」
グレートブースターが火を噴き、急激な加速をしたグレートマジンガーが2人に迫るエヴァ初号機に迫る。
「お前たち、伏せろぉおおおおおおお!!!!!」
分離したグレートブースターがエヴァ初号機にぶつかると同時にその巨体を大きく突き飛ばした。
町の外に出て、ゴロゴロと転がってやがて山の中であおむけに倒れた状態で止まる。
最後の最後にグレートブースターの一撃を受けたことが響いたのか、それからエヴァ初号機は起き上がることはなかった。
「シンジ君…。回収班は急ぎ、エヴァ初号機の回収を!!」
ミサトの指示が入り、NERVから発進した白いネモ複数機が山中のエヴァ初号機の元へ向かう。
既に旧型化も著しいネモだが、それでも優秀な設計のモビルスーツであることには変わりなく、NERVのパイロットもある程度訓練を積んでいることもあって速やかにエヴァ初号機を回収していった。
「暴走は収まったか…。だが、今の資材ではグレートブースターもこれが限度か」
ATフィールドを突き破り、エヴァ初号機を大きく吹き飛ばしたグレートブースターだが、損傷も激しく再合体についてももうできない。
ヤマトに持って帰れば、今回の戦闘データを元に改良ができるだろうが。
「なあ、あんた…。そのマジンガーは、何なんだ…?」
戦闘が終わったことで、こうして問いただすことができる。
現在、さやかが弓教授と連絡を取っているが、彼もこのマジンガーの存在はわからないという。
「このマジンガーは…」
「各機に通達、各機に通達!高速で第三新東京市に接近する集団あり!至急、迎撃態勢を!!」
「接近する物体…画像をもらえるか!?」
「了解、画像を送ります」
NERVから送信された画像を見た鉄也の表情が凍り付く。
だが、そんな動揺する時間すらその存在は待ってくれない。
「マジンガーZ、第三新東京市を守りたいならば、今は何も聞かずに戦ってくれ。これからお前は見たことのない敵と戦うことになる」
「何を…言って…?」
「これが、これから戦うやつらの姿だ」
先ほどNERVからもらった画像をマジンガーZにも送る。
緑や赤、大小さまざまなバリエーションを持つ生物の集団だが、その姿はかつてゲッターチームが戦っていたというインベーダーではない。
もっと、ファンタジーに出てくる生き物に近い。
「ドラゴン…!?」
-NERV 本部-
「ドラゴン…Dimensional Rift Attuned Gargantuan Organic Neototypesというべきか」
2機のマジンガー、そして遅れて合流してきたロンド・ベルが先日遭遇したと思われる機動兵器たちがドラゴンと交戦する様子を見つめるゲンドウ。
手元にある資料の中には、ドラゴンの写真も数枚入っている。
「一年戦争…いや、早乙女博士の反乱の直後、ほんのわずかに確認された未確認生物。こうしてわずかな写真と証言があるだけで、結局は戦後復興の嵐の中では眉唾物のデマとして追いやられたが…まさか、こうして我々の前に姿を現すとはな。そんな存在が今、この第三東京市で姿を現した…となると、奴らの目的も、同じかな?」
スケジュールが乱れ、今日になってようやく出現した使徒。
そして、襲来したドラゴン。
もはや自分たちでは制御が全く追いつかないほどに事態は混とんとしている。
「零号機の出撃準備はどうなっている?」
「ハッ!出撃準備は整っていますが…出すのですか…??」
「いや、今ではない。おそらく…そろそろ来るだろう。もう1体が…」
-第三新東京市-
「くっそ!!なんで宇宙世紀世界にまで、ドラゴンがいるんだよ!!」
すれ違いざまにビームサーベルでスクーナー級を両断し、ガレオン級に向けてガトリング砲を放つ。
バリアを展開するガレオン級に対してガトリングでは傷一つ与えることはできないが、それでも注意を向けることはできる。
「よし…いけ、アンジュ!」
「言われなくても…大物は、私の手で!!」
死角から一気に懐へ飛び込んだヴィルキスがラツィーエルで切りつけ、さらにはゼロ距離から凍結バレットをガレオン級に向けて打ち込む。
ラツィーエルによって開いた体内を急速に凍結されることになったガレオン級は動けなくなり、、第三東京市に落ちると同時に粉々に砕け散った。
「こんなところで戦っても、全然キャッシュにならねえんだよぉ!!」
「数は多くないわ。それに、ガレオン級のさっきアンジュが倒したものを含めても3匹しか…!?」
ドラゴンとは違うまた別の反応をサリアのアーキバスが拾う。
それと前後するように、こちらに先ほどまで攻撃を仕掛けていたはずのドラゴンたちが攻撃をやめ、その反応があった方向に向けて飛ぶ。
紫色のイカというべき外見で、左右には赤いビームの触手をつけた異形の化け物の姿がそこにはあり、ドラゴンたちはその化け物に向けて攻撃を仕掛けていた。
「あれが…」
「気をつけろよ、あいつはきっと、使徒って野郎だ」
「使徒!?確か…出撃前にテッサちゃんが言っていたな…」
「NERVが戦っている、第三新東京市に侵攻を目指している謎の存在です。こうして改めてみると、インベーダーとも違う感じがしますが…」
「なんだろう…?ドラゴンがあの化け物に対して、怒ってるみたい…」
「ヴィヴィちゃん?」
使徒と戦っているドラゴンたちの姿を見るヴィヴィアンはなぜかあれを見ると全身から鳥肌が立つような感覚に襲われる。
口では説明できないが、言えることは一つある。
あの化け物を決して生かしてはいけない、ここで殺さなければならない。
だが、次の瞬間に感じたのは強烈な殺気だった。
「ダメ…ダメ!!みんな、逃げてー---!!」
「ヴィヴィちゃん!?」
「おい、お前何を…」
まるでドラゴンに伝えたいかのように叫ぶヴィヴィアンだが、次の瞬間に見たのは目をそむけたくなるような光景だった。
しなやかに、新体操のリボンのように美しく振るわれた触手が花を摘むようにドラゴンたちの肉体をバラバラに切り刻んでいく。
スクーナー級だけでなく、巨大なはずのガレオン級の肉体すら、触手の前には無力だった。
赤い海はドラゴン達の血肉によってより赤く染まり、触手を収納した使徒の肉体もまた、暗い輝きを見せていた。
「嘘、だろ…?」
「あれだけのドラゴンを…こうもあっさりって…」
パラメイルに乗り、ドラゴンと戦ってきたヒルダ達メイルライダーにはこの目の前で起こった虐殺劇がとても現実の物には思えなかった。
それはきっと、ドラゴンと戦ったことのある誰もが同じ思いだろう。
下手をするとフェイズシフト装甲を切り裂く刃となりえる翼に高い再生能力を持つ肉体。
ビームに匹敵する炎や特にガレオン級やアンジュが倒した初物であるビックホーンドラゴンが持っているような特殊能力。
人知を超えるといえる力を持つドラゴンがあの使徒に何もできないまま、おそらくは何が起こったのかすらわからないまま殺されていった。
そんな化け物とこれから戦わなければならない。
-NERV 本部-
「やはり来たか、こうして連続で現れるとなると…もう、このスケジュールは無意味だろうな」
冬月の手によって、『スケジュール』と称されたデータが端末から削除される。
ゲンドウがそれを止めるそぶりを見せることはなく、モニターに映る初号機の修繕される光景を見つめている。
「初号機は出撃可能か?」
「可能です。ただし、応急処置となるため、完全な回復とはいきません」
「出撃できるならいい」
「碇指令!!シンジ君は戦える状態ではありません!!先ほどの暴走のことでショックを…」
「そのために零号機にフォローさせる。2機で戦うならば、問題あるまい」
「しかし…」
「これは命令だ。もう1度言う。初号機と零号機を出撃させろ」
ゲンドウの命令にミサトは唇をかみしめる。
ネモに抱えられて戻ってきた初号機から出てきたシンジのあのショックを受けた顔。
あそこで鉄也が助けてくれなかったら、自分の手で友達を殺していたかもしれないのだ。
そんな事態になったというのに、そのショックから回復できていない今戦わせようというのか。
「…初号機、零号機、発進させて!!」
だが、NERVという組織にいる以上はゲンドウの命令は絶対であり、ミサトの良心など些細なことでしかない。
-NERV 格納庫-
初号機のコックピットに再び座らされたシンジ。
脳裏には死への恐怖におびえるトウジとケンスケの姿が浮かび、もし暴走が止まらなかったらどうなっていたかを考えるだけで吐き気がこみ上げてくる。
「シンジ君、大丈夫?」
モニターに心配そうな表情を見せるミサトが映る。
その顔を見ているだけで、シンジにはこの出撃命令が彼女にとって不本意だということがわかってしまう。
自分だって、こんな状態で戦えるとは思えない。
「もし、無理なら…」
無理なら降りていい、そう言ってくれるのはうれしいし、できるならシンジもそうしたい。
だが、それがもうできない理由もある。
「僕は…友達を怖い目にあわせました…。トウジも、ケンスケも…転校してきた僕にやさしくしてくれたんです。でも…僕は、あいつらを殺そうとしてしまった…。だから…」
こんなことが罪滅ぼしになるのかはわからないし、自己満足でしかないかもしれない。
けれど、彼らと彼らの暮らしているこの町を守りたい。
あの日常を守りたい、そう思えた。
「だから…行きます」
「…わかったわ、必ず生きて帰ってきなさい、シンジ君!」
「はい、ありがとうございます」
「初号機に近接戦闘用装備を!この戦い、ナイフでは難しいわ!!」
リツコの指示によって新たに初号機にもたらされたのは紫色の鞘に納められた太刀といえる武器で、初号機の左腰に追加されたハードポイントに装着される。
モニターには装着されたその装備のデータが表示される。
「日本刀…マゴロク・E・ソード…??持ち手のところが変な感じだけれど…」
「マゴロクソードよ!試作段階だけれど、今は使ってもらうしかないわ!」
「ありがとうございます、リツコさん!」
「出撃よ!全員下がって!!」
-NERV 本部-
整備兵たちが下がっていき、再び発進する初号機。
その様子をモニターで無表情のまま見つめるゲンドウの肩に冬月が手を置く。
「これも、君の計算のうちかな?」
第三新東京市にやってきたシンジにこちらから接触することなく、ミサトと同居させ、その状態で学校に通わせたことは確かに彼にプラスに働いている。
ミサトという良識のある大人の保護を受け、学校でもそれなりに友人と関係を築いている。
これはここに来るまで、シンジにはできなかったことだ。
それが彼にとっての暖かい日常となり、それを守ることを戦う理由にする。
もしそれを計算してやったとしたら、ゲンドウはかなりの狸だろう。
もっとも、どちらかを答えられるはずの彼が沈黙している故、想像するしかないが。
「それにしても、本来なら使うはずのないマゴロクソードも持ち出すしかなくなるか…。あとは、成り行きとなるかな」
-第三新東京市-
地上に上がった初号機の前には既に出撃済みの零号機が待っている。
初号機と違い、黄色と白のカラーリングで、一つ目のような顔をした
そして、初号機を待ちわびたかのように先ほどまで暴走した初号機を止めようとしてくれたマジンガーZがやってくる。
「こんなめちゃくちゃな目に遭っても、こうして出撃するなんてな。ガッツがあるな、お前」
「え…あ、その…」
モニターに映るマジンガーZのパイロットの表情はバイザーで顔の上半分が隠れているせいか、よく見えない。
口元は笑っているように見えるが、先ほどまで自分のせいで死にそうな目にあったという罪悪感がのしかかる。
「名前は?」
「シンジ…碇、シンジです。その…さっきは、ごめんなさい!!!!」
「気にすんなよ、誰も死ななかったんだ。それより、あいつを倒すぞ!俺らがフォローすっから、思いっきりやれ!!」
「そ、そんな!さっきの戦いでその機体は…」
「心配すんなよ、マジンガーZは鉄の城だ!これぐれえのダメージ…大したことないぜ!!」
使徒に向けて真っ先に飛び立っていくマジンガーZ。
それを見るシンジの操縦桿を握る手に力が入る。
(今の人…軍人じゃない。それに僕と、そんなに年の変わらない…)
「碇君」
「綾波…君もエヴァのパイロットなんだね」
「ええ。私も援護するから、心配しないで」
「う、うん…ありがとう…」
彼女もまた、シンジと同じ年齢だというのにいくつもの実戦を重ねてきたためなのか、それとも素なのか、怖がる様子もなく、いつも通りの平常心のままだ。
先行する彼女についていくように、初号機も走り出す。
(やるんだ、僕も…ここを守るために。そして、父さんに認めてもらうためにも…)
-ヤマト 第一艦橋-
「第三新東京市に到着しました。使徒と言われる敵性生物、レーダーで捕捉!」
(まさか…別の世界とはいえ、日本に帰ってくることになるとはな)
到着したヤマトから機動兵器が発進していく中、沖田は一部の地区が血のように赤く染まっている第三東京市を見る。
ソウジ達がいた西暦世界の日本はガイゾックとの戦いの傷跡や機動兵器を使った犯罪者集団の存在があるものの、それでも平和そのものといえる様子だったという。
沖田はまだこの世界の日本のすべてを見たわけではないが、赤い海となったことで沿岸部がかなりさびれていて、この第三新東京市も今はとても平和とは言えない状況に見えた。
「艦長、NERVから敵性生物の情報が届きました。コードネームは使徒、第5の使徒です!また、ATフィールドというバリアによって、通常の兵器は通用しないと…」
その証明は同じATフィールドを持つエヴァと交戦したグレートマジンガー、そしてマジンガーZが証明しており、戦闘映像でもストライクフリーダムやデスティニーのビームをATフィールドで弾く第5の使徒の姿が映っている。
(あの使徒という魔物、そしてそれに対抗するための兵器であるエヴァンゲリオン…。何か、違和感を感じずにはいられんが…)
「森君、ヤマトのショックカノンではATフィールドを突破できないのか?」
「試算しましたが、不可能です。ビームによってATフィールドを突破する場合、必要なエネルギーの数値は…一億八千万ワット。日本全国を停電させなければ賄えない数値です。それでも、おそらくは最低限の数値かと…」
「そんな…じゃあ、ZZのハイメガキャノンでも無理ってことじゃないか!!」
新正暦世界のデータ資料におけるZZの出力は7340キロワット。
宇宙世紀世界のZZの性能はスカルハートなどのヤマトの現行の機体にも対抗できるくらいの性能であることから、その数値で比較するのは不適切かもしれないが、それでも森がたたき出したその数値の前では半分にも満たない数字だ。
なお、ハイメガキャノンの出力は50メガワットで、コロニーレーザーの5分の1の出力として換算できるとのことだ。
そこから換算すると、ATフィールドをビーム兵器で突破しようとした場合、波動砲のようなコロニーレーザーレベルの出力のビームを使う必要があるということになる。
ただし、そんなビームを放って仮に使徒を倒したとしても、その結果として地球にもたらされるであろう被害を考えるととても現実的とはいえない。
-第三東京市-
「フィールドを突破できないとしても!!」
第三新東京市の近海まで到達したダナンから発進したアーバレストがラムダ・ドライバを起動し、ボクサーを第5の使徒に向けて放つ。
ラムダ・ドライバの力によって上昇した破壊力をもってしても、ボクサーの弾丸はATフィールドによって阻まれる。
(軍曹殿、アーバレストであのフィールドを突破するのは不可能です)
「ならば、あのバリアを突き抜ける!!」
宗介の脳裏には香港でゲイツを倒した時のあの攻撃が思い浮かんでいた。
宗介に追い詰められたゲイツが乗るコダールiは損傷していたクルーゾーのファルケを盾にすることで状況を打開しようとした。
だが、ラムダ・ドライバの使い方を完全につかんだ宗介はそのエネルギーをためた右拳をファルケに向けてふるい、当たる寸前のところで止めた。
そして、放たれたエネルギーはファルケをすり抜けてコダールiを襲い、見事に撃破した。
(ATフィールドの原理はわからんが、バリアであることには変わりない。実体がない分イメージは難しいが、やりようはあるはずだ!!)
もう無用の長物であるボクサーを投げ捨て、乗っているドダイ改から飛び降りる。
両足にラムダ・ドライバの光が宿り、海上を走り抜けていく。
小型機の不審な接近に気づいた第5の使徒の触手がアーバレストを襲うが、サイズ差とアーバレストそのものの運動性、そして宗介のパイロットとしての技量によってかわされていく。
「はあああああ!!」
アーバレストの光る右拳が第5の使徒を襲う。
ATフィールドとぶつかり合い、そこからすり抜けたエネルギーが本体を襲う。
宗介のイメージはそれだった。
だが、その行動の結果は宗介もアルも予想できなかったものとなる。
(な、なんだ…これは!?)
ATフィールドに触れたとほぼ同時に流れ込んでくる何か。
殺意、恐怖、拒絶、憎悪、苦しみ、恨み…。
どの言葉にも掲揚できないようなドロドロとした、しかし明確なマイナスの力が濁流のように襲い掛かってくる。
「あ、あ、が、あ、ぁぁ…!!」
(軍曹殿、どうされましたか?心拍数上昇、異常値が出ています、軍曹殿)
激しい頭痛とこみ上げてくる吐き気に苦しみ宗介にはアルの質問に返答するだけの力がない。
我慢できなくなり、胃の中のものをすべて放出したかと思うほどの嘔吐で正面モニターが汚れていく。
それだけでなく、右の鼻からは血が流れ出る。
(軍曹殿の体調が危険水準。これ以上の戦闘続行は不可能です。アーバレストを後退させます。援護を)
「どうしたというのだ、軍曹!ハサウェイ!!アーバレストを回収しろ!」
「了解です!どうしたというんだ、宗介さん!!」
宗介の異変によってラムダ・ドライバが停止し、赤い海へと沈みかけたアーバレストを抱えたΞガンダムがファンネルミサイルを放ちつつ後退していく。
接触回線とアルのサポートによってコックピット内を見ると、そこには白目をむいた状態で、口からは唾を流し、鼻血を垂れ流し続ける宗介の姿が映っていた。
(どういうことなんだ…?いったいどうしたというんだ…宗介さん!!)
「くっそぉ…俺たちじゃあ足止めくらいにしかならねえってのは…辛いぜ」
「仕方ありません。ATフィールドを突破するには、同じATフィールドを持つエヴァという兵器でしかほぼ不可能という話ですので」
いくらガトリングを撃ち込んでも、ビーム砲やレールガンを放っても、ATフィールドがそのすべてを受け止めていく。
だが、ヴァングレイだけでなく、ストライクフリーダムなどの数多くの機動兵器による攻撃のおかげで、ナインのいう通り第5の使徒の進行を止めるだけはできている。
第三東京市への侵入を阻止し、このまま海上で撃破するところまでもっていけばいい。
「ソウジさん!エヴァっていう機体2機がこちらに来ます!」
「本命の登場ってわけか…頼むぜ!こっちも弾薬が無限ってわけじゃないからな!!」
赤い海をサブフライトシステムなしで進む2機のエヴァ。
そのうちの初号機が腰に差しているマゴロクソードが収まっている鞘を左手で支える。
「碇君、使徒には赤いコアがあるわ。それを破壊することで使徒を倒すことができる。私たちが注意を引くから、あなたはコアを見つけて破壊して。その刀なら、できるわ」
「う、うん…。刀、か…初めて使うけれど…」
少なくとも、第4の使徒との戦いではパレットライフルとプログレッシブナイフを使ったものの、それらはあくまでも引き金を引く、包丁や果物ナイフのように斬るというシンジにとっては比較的にシンプルな操作で済んだものの、刀となると事情が若干変わってくる。
剣道をしたことない上、刀そのものも漫画や学校のクラスメートに見せてもらった昔の任侠映画や時代劇の中でしか見たことがない。
そんなものを、機動兵器で使えるのかという不安もある。
「大丈夫、失敗しても再挑戦できるようにはする。私が守るから」
「綾波…」
「いくわ」
零号機が離れていき、第5の使徒の前に躍り出る。
周囲のうっとうしい機体たちの攻撃をATフィールドで阻み続けてきた第5の使徒の目らしき部分が明らかに零号機に向けられる。
パレットライフルを持つ零号機は海に使って若干鈍い動きをなっている脚を動かしつつ、第5の使徒に向けて発射する。
ATフィールドを中和できるエヴァでも、遠距離では中和することなどできず、当然パレットライフルの銃弾はATフィールドに阻まれ、つぶれた弾丸が海へ落ちていく。
普段であればただ無駄な攻撃をするだけの相手に対して、第5の使徒は歯牙にもかけない。
若干の足止めになるだけで、この触手で切り刻めばいいだけの話だ。
だが、問題は攻撃を仕掛けている相手で、その相手からはここまで戦ったものとは違う『何か』を感じる。
本能がこの機体が危険だと訴える。
触手がパレットライフルを撃ち続ける零号機に向けてふるう。
パレットライフルを投げ捨てた零号機が両腕に装着されている展開型シールドを開き、さらにATフィールドを展開して触手を受け止める。
ATフィールドの中和は当然、使徒によるエヴァへの攻撃に対しても効果があり、ATフィールドを通過してシールドを襲う。
高い強度を誇るそのシールドは触手による攻撃を防いで入るものの、それでも一撃一撃を受けるたびに傷が増えていき、ヒビも入っていく。
(長くはもたない…シンジ君)
今なら初号機は動きやすい状態になっている。
零号機と離れているシンジだが、モニターに映る防戦一方の零号機を見て、脳裏にやがて触手によって叩き潰される零号機をイメージしてしまう。
「綾波…綾波!!」
「しっかりするんだ、君が今見るべき相手は別にある!!」
第5の使徒の頭上に大出力のビームが降り注ぎ、ATフィールドでそれを受け止めるとともに触手の動きが鈍くなる。
上空にはトランザムを発動したラファエルガンダムの姿があり、GNビッグキャノンの最大出力を放っていた。
当然、ヤマトで計算されたATフィールドを突破可能なエネルギー量には届いていないが、それでもその出力はATフィールド展開に集中させるだけのものがある。
「シンジ君!相手のコアの場所がわかったわ!場所の映像を送るわ!とどめを刺して!!」
ミサトから送られた映像によって、第5の使徒の腹部にある肋骨まみれの部分の中で異様な輝きを見せる赤いコアを知ったシンジは持ちにくいマゴロクソードを抜く。
初号機と似たカラーリングの刀身が鈍い輝きを見せ、初号機の視線は第5の使徒の腹部に向けられる。
周囲にはバラバラにされたドラゴン達の死体が転がり、赤い海によって徐々に消えていってはいるものの、それを見たことでシンジにはこの赤い海がすべて死んだドラゴン達の流した血と錯覚しかける。
「うわああああああ!!!!」
初号機を走られるシンジはこみ上げてくる恐怖を押し隠すように叫びをあげる。
接近してくる初号機に偶然目が入ったのか、第5の使徒のもう1本の触手が初号機に向けてふるわれる。
しかし、とっさに飛んできたX3がビームを展開したムラマサブラスターで受け止め、わずかにそらせる。
道ができた初号機は懐に入り込み、力いっぱい跳躍する。
だが、弱点であるコアを無抵抗なままさらすほど使徒も甘くはない。
周囲にある肋骨部分がワシャワシャと動き、同時にとがっている部分がいくつか発射される。
思わぬ攻撃に驚くシンジはマゴロクソードをとっさに盾替わりにする。
発射された骨のうちの2本は刀身にぶつかり、残りがATフィールドの展開が間に合わなかった初号機の体に刺さる。
実際に足に1本は当たってしまったが、それ以外はすべてATフィールドによって受け止められ、初号機に当たることなく海へ落ちる。
どうしてという疑問が浮かびかけるがそれを打ち消し、隙だらけのコアに向けてマゴロクソードを振るう。
このATフィールドは初号機ではなく、マゴロクソードが初号機のエネルギーを使って生み出したものなのだが、それを今のシンジが知る由もないし、どうでもいい。
足へのダメージのせいか、海に着地した初号機は体勢を崩してしまい、思わずマゴロクソードを杖代わりにしてしまう。
確かにマゴロクソードを振るったシンジで、確かに手ごたえらしきものは感じはしたものの、それがコアを斬ったものなのかについてはわかるはずがない。
顔を上げたシンジの目に映ったのは、コア部分に縦一文字の傷が入った第5の使徒の姿を映し出したモニターだった。
そこから血のような赤い液体を吹き出した第5の使徒は触手の動きを止め、グラリとその巨体をあおむけに赤い海に向けて倒す。
ひびの入ったコアが粉々に砕けると同時に、第5の使徒の肉体もまた崩壊して赤い液体と化し、一番近くにいた初号機の全身を返り血のように汚した。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ…や、や…やった…」
モニターには触手の執拗な攻撃でシールドが半壊し、本体にも若干ダメージを負ってはいるものの、無事な姿を見せる零号機も映っている。
綾波の無事がわかったシンジは安どの表情を浮かべると同時に襲ってくる睡魔に似た感覚に逆らうことができずに意識を失った。
武装名:マゴロク・エクスターミネート・ソード(試作)
エヴァ初号機に装備された日本刀型兵装で、通称はマゴロクソード。
プログレッシブナイフと同様、超振動によって刀身に触れたものを分子結合レベルで切り裂く力を持つとともに、刀身にATフィールドを展開することが可能となっている。
ただし、本体ではない兵装にATフィールドを展開させること自体が初めての試みであり、試作段階では碇シンジのシンクロ率の高さのおかげでどうにか展開できた状態であり、少なくとも綾波レイのシンクロ率では不可能な状態らしい。
また、シンジ本人も刀を使ったことがなかったことから、今後もこの装備を扱うことを考えると刀の使い方を学ぶのが好ましいものと思われる。
初使用時は柄の調整ができておらず、茎がむき出しの状態で運用されていた。
なお、プログレッシブナイフとマゴロクソードの超振動による切断の技術については似たようなコンセプトを持つモビルスーツのものを扱っているという真偽不明の情報もあるという。