スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第57話 始まる運命

-太平洋 公海 日本領境界付近 ネェル・アーガマ改 格納庫-

薄緑色の皿を背負った亀のような不格好さが目立つ飛行機にマリーダを乗せたベッドが運ばれ、アルベルトの部下も乗り込んでいく。

一年戦争までは早期警戒機として開発されたその飛行機、デッシュはミノフスキー粒子散布化では優れたレーダー機能を発揮することができず、遠距離索敵性能を生かした要人用高速連絡機として活用されている。

モビルスーツが主流となり、戦闘機などの旧来の兵器が次々と退役となっていく中、デッシュにはその機体にしかない能力の存在故に、現在でも細々と運用されている。

このデッシュはミスリルで運用していたもので、メリダ島脱出の際に運び込んでいた物資の一つだ。

「…では、アルベルトさん。お元気で」

「うむ…。あの捕虜の強化人間については私が責任をもって、しかるべき機関に引き渡そう。モビルスーツについては好きにしてくれて構わん」

ぎこちなく、社交辞令のような挨拶を交わすアルベルトとオットー。

ようやく厄介者を追い出せる安心感と連れていかれるマリーダに待つであろう運命。

それらが交錯し、オットーの表情は固まる一方だ。

だが、アルベルトはあくまでもロンド・ベルが起こした厄介ごとに巻き込まれただけの被害者。

そして、これからとある要請に従って日本に入ることになる前に火種を残すわけにはいかない。

「…言いたいことがあるのかね、バナージ・リンクス」

「マリーダさんは…やっぱり、捕虜なんですね」

「当然だ。だが…南極条約がある。それに基づいた治療を行うためにも、整った施設に搬入する必要があるのだ」

「我々は連邦軍の厄介者、そしてGハウンドの獲物になった存在だ。あんたまで巻き込まれるいわれはないさ」

「ああ…。ユニコーンについては引き続きロンド・ベルに預ける。取得したデータは可能な限り、こちらへ送ってほしい」

「わかりました。それについては善処いたします」

「では…頼むぞ、チェーン准尉」

お尋ね者になったとはいえ、ロンド・ベルはたとえ命令がなくともジオンと戦闘を行うことになる。

そして、数多くのニュータイプを抱えるこの部隊以上にユニコーンのデータ収集のできる絶好な部隊は存在しない。

そして、何よりもそうすることで得られる新しいデータもある。

そのためにもユニコーンには引き続きロンド・ベルで頑張ってもらう必要がある。

その後はゆっくり休んでもらえばいい。

「じゃあな…アルベルトさん。お達者で」

「あのマリーダって子にひどいことしないでよね」

「それだけは約束してくれ」

ジュドー、そして彼を慕う二人の少女の視線がアルベルトに突き刺さる。

目を細め、わずかに首を縦に振ったアルベルトは部下に促されてデッシュに乗り込む。

ハッチが開き、浮上を開始したデッシュがネェル・アーガマを飛び立っていく。

遠くなっていくその飛行機をバナージはずっと見つめていた。

 

-デッシュ 機内-

「では…アルベルト様。マーサ様の指示の通り…」

「ああ…わかっている」

遠ざかっていくネェル・アーガマを見つめ、うわごとのように返事を返すアルベルトをよそに、部下たちは通信機で連絡を取り始める。

話声が耳に届く中、アルベルトの脳裏に浮かんだのはバナージの目だ。

(カーディアス・ビスト…彼とそっくりだ…)

自分を生んだ親にして、最も憎んだ男の息子であり、自分とは何も面識のない兄弟。

カーディアスと過ごした記憶もほとんどないはずの彼の目は父親とよく似ていて、そのくせまっすぐだ。

後継者としてしかるべき厳格な教育を受ける中でねじれ曲がってしまった己と対照的に。

だが、まっすぐな目をしていたのはバナージだけではない。

ジュドーらガンダムチームやプルとプルツー、そしてこの事態を打開しようともがく彼らロンド・ベルもまた、その目は未来に向けてまっすぐに向けられている。

(もう…あの目を見ることはないのだろうな…)

いずれ彼らは政治と戦略に押しつぶされ、朽ち果てていく運命。

だが、そんな末路をたどるであろう彼らを思い浮かべると、胸が痛くなる。

そんな自分を押し殺すかのように、アルベルトは目を閉じた。

 

-ネェル・アーガマ改 格納庫-

「行っちまったな…」

「うん」

「結局、オードリーって子のことも分からずじまいね」

「そっちはリディ少尉がどうにかしてくれるさ。あとはあの人の連絡を待とうぜ」

「…」

リディについていき、自分の元から去ってしまったオードリー。

彼女とリディを信じたいという気持ちはある。

だが、離れることになるなら一言言ってほしかった。

せめて離れるまでの心の準備をする時間をわずかでも与えてほしかった。

今、バナージが持つオードリーへの負の感情はそれだけだ。

「落ち込んでる暇はないぜ、バナージ。俺たちは俺たちでやらなきゃいけないことがあるんだからよ」

「そうだ。我々は日本へ向かい、ある機関の援護をする必要がある」

「もしかして、光子力研究所か!?あのマジンガーZの!?」

日本にあるロンド・ベルに協力的な機関で思い浮かぶのはそれだけだ。

富士山の裾野に位置するその研究所は一年戦争の少し前に新たな元素及び鉱石であるジャパニウムが発見された。

金属結晶の原子の並び方に乱れがないその鉱石は堅牢な装甲となる超合金Zを作ることができ、それを元に開発されたのがマジンガーZだ。

また、超合金Zを精錬する際に生まれる光は光子力エネルギーとして完全無公害かつ驚異的なパワーを生み出せることから一時は夢のエネルギーと称された。

そのジャパニウムの発見により、一時は各地でジャパニウムが採掘できる土地を探し、一時はヨーロッパの古代エーゲ島にあるバードス島が有力視されていたものの、一年戦争とセカンドインパクト、そしてゲッター線汚染などの影響によってとん挫することとなった。

結局、富士山でしか採掘することができないうえに超合金Zと光子力を生産するためのコストが高いことから連邦軍での運用は断念され、結局それらが活用されているのは光子力研究所のマジンガーZをはじめとした機械のみとなった。

「いや、我々が向かうのは光子力研究所ではない。我々が向かうのは…」

 

-第三東京市 市立大壱中学校1年生教室-

「よし、ホームルームは終わりだ。今日は部活休止の日だ、全員さっさと帰れー」

教師が教室を後にし、生徒たちは友人をしゃべりながら帰り支度を始める。

日本のささやかな平和のひと時で、誰も口にはしないが、この日本もいつ戦場になってもおかしくない環境だということは変わらない。

最近では機械獣という謎の兵器が現れるようになり、それを光子力研究所の機動兵器や日本に駐屯している連邦軍が対応している様子だ。

まだこの町に機械獣が現れたという話はないが、それでもテレビやネットで何度もその話や戦争の話を聞いているとこの平穏もいつか簡単に壊れてしまうように思えてしまう。

「よぉ、シンジ。ここには慣れたか?」

茶色い髪にそばかすのある顔で、眼鏡をかけた少年、相田ケンスケが1か月前に転校してきたばかりの友人に声をかける。

その少年は同年代の男子と比較するとほっそりとした体な上に顔立ちも整っているが、やや陰気な上に出会った当初はあまり感情を見せることがなかった。

こうして気軽に話せるようになったのはついこの間で、それからその少年、碇シンジはようやくクラスの一員となったように思える。

「そういえば、そうだね…」

「で…どなんや?親父さんには会えたんか?」

日焼けをした肌で体育や部活の時間でもないにもかかわらずジャージ姿をした、身長もシンジと比べるとやや高く、いかにも体育会系といえる少年、鈴原トウジの言葉にシンジは首を横に振る。

「そうかぁ…1か月も経つのに、薄情なもんや」

「よくわかんないよなぁ。だって、お前をここへ呼んだのは親父さんなんだろ?」

「父さんの知り合いの人が世話をしてくれるから、特に問題はないんだけどね」

父親の顔は覚えている。

だが、過ごした記憶は幼少期のわずかしかない。

物心ついた時には親戚のもとにいて、そこからいくつもの親戚の元を転々としながら育った。

今世話になっている人は父親の部下を名乗る女性で、彼女の暮らしているマンションに同居している。

今まで過ごしてきた大人たちと比べると信用できる人ではあるが、問題なのは彼女の生活能力で、料理はまずい上に部屋も汚いことからシンジが家事の手伝いをしている。

たらいまわしされる生活の中で培った家事能力がここで役に立つとは思わなかったが、今までの生活と比べると、こうして友人ができ、世話になっている人とも悪い関係ではないことから恵まれているとシンジは思っている。

父親といまだに会えないことに違和感は覚えているが、もう10年以上もこういう生活をしているため、別に違和感は抱かない。

「まあええわ。困ったことがあったら、なんでもワシらに言えや」

「俺ら、友達だろ?」

「ありがとう、トウジ、ケンスケ」

笑顔で礼を言うシンジの脳裏に、ここに来た初日にその女性、葛城ミサトから言われたことを思い出す。

彼女曰く、本当ならすぐに父親と会う予定になっていたものの、スケジュールが大幅に乱れたことからそうはいかなくなったという。

修正が終わり、会えるようになったら父親に元へ連れていくと。

最初の一週間は仕事から帰ってくる彼女に父親と会えるか尋ねたことはあるが、もうすっかりやめてしまった。

父親が呼んだ以上、おそらくは当分ここで過ごすことになる。

この悪くない生活を続けるのも悪くないだろうとさえ思っている。

(それにしても、父さんとあの人…ミサトさんがいるNERVって、何をしているんだろう?)

第三東京市に本部を置く連邦直轄の特務組織であるNERV。

セカンドインパクトで赤く染まった海の調査とそれを元に戻すための活動、そしていずれ起こる可能性のあるサードインパクトを防ぐことを目的として設立された機関ということは聞いているが、それ以上のことは何も教えてくれない。

「あ、碇君!」

同じクラスでシンジと同じくらいの身長で薄茶色のツインテールの少女、鈴木ヒカリがカバンを持ったまま教室へ戻ってきた。

他の女子生徒と一緒にもう帰ったものだと思い、3人の視線が彼女に向けられる。

「どうしたの?」

「迎えが来ているわ。ええっと…ミサトさんって人が。伝言を頼まれたの。綾波さんも待ってるから、すぐに来てって」

「綾波が…?」

シンジよりも数か月先に転入してきた少女、綾波レイとはシンジはあまり接点を持たない。

酒を飲んだミサトの愚痴を聞いている際に彼女の名前が出てきたことはある。

その時、彼女は綾波のことをレイと呼んでいて、近い関係であることは感じられた。

クラスも同じだが、彼女とはあまり話す機会がない。

水色の髪に赤い目をした彼女は口数が少なく、ポーカーフェイスなために一部の男子からはアイドル視されはするものの、友人がいないようで一人でいることが多い。

そんな独りぼっちな雰囲気の彼女を最初に見たとき、その髪の色と顔立ちのせいか、幼少期に死んだ母親、碇ユイのことを思い出した。

(なんだろう…これって…)

カバンを手に立ち上がったシンジだが、次の瞬間学校中を警報音が響き渡る。

ここで暮らす中で何度も聞いた避難訓練の警報音。

ジオンも手を出すことの少ないこの町で週に1回は発生するこの警報音はすっかり第3東京市の名物となっていて、軍の命令ということから町の人々は消極的にこの訓練に参加している。

「急いだほうがいいんじゃない?碇くん」

「う、うん…」

いつもの日常と化したこの警報音の中でそんなことを言われたシンジは教室を出る。

シンジにとっても日常になりつつあったこの警報音だが、今日に限ってはそれが重々しく感じられた。

 

-第3東京市-

「はあ、はあ、はあ…」

白いノーマルスーツ姿のシンジはコックピットのモニターに映る化け物の姿を見つつ、こみ上げる吐き気と恐怖を必死に抑えようとする。

コックピットの中はLCLなどという液体でいっぱいになっていて、ヘルメットをつけていない状態では窒息してしまうと思われるのに、なぜか呼吸ができるという違和感でいっぱいな液体だ。

血のような暗い赤の玉石を胸部に着け、細長い手足と白いカラスのような仮面を顔に着けた人型の化け物の手から光の槍が出現し、コックピットに直接突き刺そうとしてくるのが見えた。

「応戦して、シンジ君!!」

モニターに同居人である紫のロングヘアーの女性、ミサトが映り、彼女の言葉と正面からの攻撃に反射するようにシンジが操縦する機動兵器がナイフで受け止める。

(どうして…どうしてこうなっているんだ…??)

ミサトにつられて、綾波と一緒にNERV本部へ向かい、そこでようやくモニター越しではあるが父親である碇ゲンドウと再会することができた。

だが、彼から言われたのは直ちにノーマルスーツに着替えてエヴァに乗れという言葉だった。

何もわからないままミサトに更衣室へつられて、ノーマルスーツを着用させられたと思ったら無理やりエヴァなどという機動兵器に乗せられ、そのまま出撃して目の前の化け物と戦っている。

機動兵器と呼んでいるものの、このエヴァがそう形容するのが正しいのかどうか、シンジにはわからない。

各部に緑色のパーツがついた紫で一本角のついた人型の化け物と思えるそれは従来のモビルスーツの倍近い大きさを持ち、背中にはNERV本部と接続するためのケーブルが存在し、それがこのエヴァに電力を供給してくれる。

「戦いなさい!戦わなければ…死ぬわよ」

「どういうことなの?何もわからないよ、説明してよ父さん!!」

「説明はした」

モニターにオレンジのサングラスをかけ、シンジとよく似た顔立ちをしているが、皺と髭によって男らしさが強調されたようなものになっている男、碇ゲンドウが息子が防戦一方となっているにもかかわらず、無表情のまま言葉を切る。

シンジにはエヴァ初号機に乗ってもらう、そしてこれからやってくる敵と戦ってもらう、それを伝えれば彼にとっては十分な話だ。

そのために、ミサトの元で居候になっている間は時折暇つぶしと将来のための勉強という名目でシミュレーターで訓練をしてもらった。

これでエヴァの操縦もできるはず。

だが、シンジには何も納得できる説明をもらっていない。

「どうして僕が乗らなきゃ…戦わなきゃいけないんだ!?」

「それがお前の使命だからだ」

「そんなの…!!」

「シンジ君!!」

「あ…!?」

化け物は決して待ってくれない。

動揺するエヴァ初号機の頭部をつかんだ化け物は手の甲から生み出している光の槍をパイルバンカーのように打ち込む。

頭部に大きな穴が開いたエヴァ初号機があおむけに倒れ、その姿がNERV本部のモニターにも映る。

「頭部破損!損害不明!!」

「活動維持に問題発生!」

「状況は!?」

「シンクログラフ反転、パルスが逆流しています!!」

「回路切断!せき止めて!!」

左目の下に泣きホクロのある白衣の女性、赤木リツコの脳裏に最悪の事態がよぎる。

確かにゲンドウが指名したパイロット、シンジにはエヴァ初号機に乗るだけの素質はある。

エヴァにはパイロットとの神経接続することで同調し、反応速度の向上や精密な動作を可能としている。

だが、すべての人間がそれが可能かと言えばそうではなく、少なくともこれまでエヴァ初号機についてはシンジ以外に同調することができず、シンクロ率0%だった。

シンジの場合のシンクロ率は43%で、それだけでも彼にはエヴァ初号機に乗る素質があることがわかる。

だが、素質があったとしてもこれまで実の父親と切り離されて育ち、これまで普通の少年として生きてきた彼がそれを発揮できるわけがない。

そして、シンクロ率は感情によって大きく変化することになる。

恐怖にとらわれ、精神が不安定な状態になるほどエヴァとパイロットにどのような影響を与えるのかわからない。

最悪の場合、暴走の果てに自爆なんて言うこともあり得る。

それを食い止めるべく、リツコの指示でオペレーターたちはエヴァ初号機の遠隔制御を試みる。

「ダメです…エヴァ初号機、信号受信できません!拒絶されています!!」

「シンジ君は!?」

「モニター反応なし、応答ありません!生死不明!!」

モニターにはエヴァ初号機にとどめを刺すべく、両手の光の槍を展開した状態でゆっくりと接近する化け物の姿が映る。

(水の天使サキエルの名をつかさどる第4の使徒。だが、この程度を倒せないのでは意味がない)

ゲンドウの計画では、本来ならもっと早く現れるはずだった第4の使徒。

そう、本当ならシンジが第三東京市にやってきた日に。

それが何を意味するのかは分からないが、これから襲う敵のことを考えると、この程度の障害は乗り越えてもらわなければ困る。

「シンジ君!シンジ君!!敵が迫っているのよ!!目を覚ましなさい!!」

ミサトが必死にシンジに通信を送るが、返事が返ってくることはない。

肉薄した第4の使徒が光の槍で頭の上から串刺しにしようとする。

だが、何かを感じたのか、視線を正面のエヴァ初号機から東へ向ける。

同時に飛んできた薄いオレンジ色のビームが彼を襲うが、オレンジ色の八角形のバリアがそれを受け止めた。

「くそっ!光子力ビームでも破れないのか!このATフィールドってのは!」

ジェットエンジンを2つつけた蝙蝠の羽根のようなブースターを背中に取り付け、グレートマジンガーと比較するとより筋肉質で太い造形となっているマシン、マジンガーZが放つ光子力ビームはピンポイントでの破壊力ではほかの兵装を上回るが、それを前もって聞いていたATフィールドが受け止めてしまった。

マジンガーZにはほかにも武装があり、光子力ビーム以上の攻撃力を誇るものもあるが、町への被害を考えると制限されるものも多い。

マジンガーZに遅れて、赤と白のカウガールというべき姿の機動兵器、ビューナスAと黄色いばねで覆われたかのように長い手足と相撲取りのような大柄な胴体を誇る人型兵器、ボスボロットもやってくる。

「ATフィールドを破るためには、それを上回る出力の攻撃を加えるか、ゼロ距離攻撃しかないけど…」

ビューナスAに乗る茶色いロングヘアーで白いライダースーツ姿の少女、弓さやかは出撃前に光子力研究所の所長であり、父親である弓弦之助から聞いた話を思い出す。

目の前の化け物、使徒が第3東京市の中枢に到達した時、再びセカンドインパクトが起こるという。

さやかが生まれて間もなく起こったそれを見た記憶があるわけではないが、彼から時折その当時の話を聞いており、どれほどの惨劇だったのかは理解できる。

「おいおい!!あの紫のロボット…でいいのかよ?あれは…やられちまってるぞ!!」

ボスボロットの頭部にあるコックピット、強いて言えば口元にある隙間から外の様子を見ている大きな図体で学生服姿をした少年もエヴァの話は多少聞いていたが、対使徒用の新兵器という話は聞いていたため、簡単にはやられないだろうという願望があったが、この目の前の状況がそれを打ち壊した。

「まずいっすよ!あのロボット、やられちゃう!!」

「ボス!早く助けないと!!」

隙間から双眼鏡を使って偵察をする、ボスと呼ばれた少年と同じ制服姿の少年二人が操縦桿であるハンドルを握るボスをせかす。

鼻水を垂らしている方にヌケ、小柄な方のムチャは2人ともボスの舎弟のような存在だ。

「速くって言われても、こいつの足じゃ…!!」

「だったら!!」

オレンジと茶色のノーマルスーツを身にまとった逆立つ黒髪の少年、兜甲児はマジンガーZを第4の使徒に接近させる。

追加ブースターであるゴッドスクランダーのおかげで飛行が可能になった今のマジンガーZが3機の中では一番速い。

町へ与えてしまう被害を考えると、接近戦を仕掛けるのが得策だと甲児は考える。

超合金Zで覆われた鉄の城たるマジンガーZであれば、簡単に破壊されることはない。

甲児の予想通り、マジンガーZの至近距離からのパンチは使徒に効果があり、超合金Z製の強固な拳を受けた第4の使徒の仮面に大きなひびが入る。

「まずは彼らが来てくれたか…」

ゲンドウの隣で今の戦場を見守るグレーのオールバックをした老人、冬月コウゾウは普段のようにポーカーフェイスでマジンガーZの戦いぶりを見る。

念のためにあのお尋ね者となったロンド・ベルにも要請を出しているが、もしかしたら彼らが来る前に終わるかもしれない。

だが、既に大きく乱れた計画とスケジュールの中ではこの先の状況などゲンドウにもコウゾウにもわからない。

「今のうちにエヴァを戻すのよ!パイロットの保護を!プラグを引き抜いて!!」

エヴァには白色の細長い円筒状コックピットであるエントリープラグシステムを採用しており、コアファイターのようにパイロットを脱出させることもできる。

こちらからの通信を使えば、エントリープラグを強制排出させることができるはずだった。

「そんな…エヴァ初号機、プラグ排出できません!」

「嘘だろ…制御から外れます!!」

「なんですって!?」

光の槍を受けた頭部でかろうじて残っている片目が赤く光ると同時にエヴァ初号機が起き上がる。

起き上がったエヴァ初号機が牛のような鳴き声を上げ、それが第三東京市中に響き渡る。

「何…これ…」

「機械が鳴いている…?うわああ!!」

起き上がったエヴァ初号機が第四の使徒と交戦しているマジンガーZを蹴り飛ばし、それは地面を転げまわった後でビルにぶつかってようやく止まった。

「甲児君!」

「大丈夫だ!くそ…どうしたってんだよ、これは…」

幸い超合金Z製の装甲のおかげでダメージは軽微で済んだが、それよりも甲児が驚いたのは今目の前で繰り広げられているエヴァ初号機による肉弾戦だ。

ただ殴りつけているだけならいい。

だが、獣のように口を開いてかみつくなど、その姿はもはや機動兵器の範疇を超えているように甲児には見えた。

「勝ったな…」

コウゾウの言葉にゲンドウは何も言わず、ただ目の前に映る光景を見つめるだけ。

第四の使徒のATフィールドを中和し、最後はコアと思われる胸部の赤い玉石を両手で力任せに引きちぎると、そのままそれを握りつぶすように砕いた。

コアを破壊された第四の使徒はわずかな時間だけ動きを止めた後で、肉体が粉々に砕け散り、周囲とエヴァ初号機を鮮血のような赤い液体で染め上げた。

血みどろになり、全身を振るわせながら呼吸しているような動きを見せるエヴァ初号機の姿にさやかの鳥肌が立つ。

「いとも簡単に使徒を…」

「これが…エヴァ、エヴァンゲリオン…」

エヴァの持つ力でATフィールドを侵食、突破してコアを破壊する。

その構想をもとに開発されはしていたものの、こうして実戦でそれが通用するかまではわからなかった。

だが、これではっきりした。

モビルスーツなどの従来の機動兵器では倒せない使徒をエヴァなら殺すことができる。

「うへえ…血みどろだぜえ」

「よかったぁ、近くにいなくて」

「近くにいたら、俺らまでベトベトだぜ」

「でも、これで世界は守られたってことでいいんだよな?兜!!」

「いや…まだだ」

確かに使徒は倒されたが、まだ終わりではない。

自分の中の勘が警告してくる。

先ほど、マジンガーZをこうして蹴り飛ばした犯人がエヴァ初号機であり、制御されているようにはとても思えない。

第四の使徒を殺したエヴァ初号機は血塗られた目で甲児たちを見ると、鳴き声を挙げながらとびかかる。

「う、うわあああ!!」

「待ってくれよぉ!!俺たちは味方だぞ!!」

とびかかるエヴァ初号機を拘束すべく、ボスボロットの両腕が伸びる。

スクラップの寄せ集めであるボスボロットだが、それでも光子力研究所で作成されたロボットだけあって、単純なパワーだけならマジンガーZに匹敵する。

そのパワーを持つ腕でエヴァ初号機を拘束する。

己の倍以上の大きさを誇るエヴァ初号機をからめとることには成功したものの、問題はそれがどれだけ持つかどうかだ。

「コックピットを引き抜かないと!教えてください!エヴァ初号機のコックピットの位置を!!」

「画像を送るわ!その位置にエントリープラグがあるから、引き抜いて!!」

耐久性の低いボスボロットでは長くエヴァ初号機を拘束できない。

さやかはビューナスAをエヴァ初号機の背後に回らせ、ミサトから送られた画像を元にエントリープラグの位置を特定する。

パワーのないビューナスAではあるが、精密な動きについてはこの中では一番で、背中の装甲を両腕に装備しているZカッターで切り開き、そこからエントリープラグを引き抜くだけのことはできる。

だが、そんなさやかに待っていたのはゴキゴキと嫌な音を立てながら首を180度回転させたエヴァ初号機の血塗られた顔で、それがZカッターを振るおうとしたビューナスAにかみついた。

「さやか!!」

「な、なんだってんだ!?これはあ!!」

「ああ、ボス!ボロットのパワーアームがぁ!!」

ムチャの叫びの直後にボスボロットのパワーアームが砕け、エヴァ初号機が自由の身になる。

かみつかれたビューナスAの超合金Z製の腕には深々とした歯型ができていた。

「嘘…超合金Z製なのに!!」

「さやか!!」

ビューナスAに狙いを定めつつあるエヴァ初号機に向けてロケットパンチを放つが、ATフィールドに阻まれる。

それでも、彼の狙いをさやかからマジンガーZに向けるだけの効果はあった。

その証拠に、両腕を失ったボスボロットと傷ついたビューナスAを無視して、エヴァ初号機はマジンガーZに向けて歩き始めている。

「そうだ…そうだ。来るなら、俺に向かってこい!!」

 

-太平洋 伊豆諸島付近-

「光子力研究所から連絡が入りました!第三東京市にて異常事態発生、救援求むと!!」

「了解だ。先行できる機体を出撃させろ!」

ブライトの指示により、Ξガンダムをはじめとする機動兵器の一部が出撃準備に入る。

ヤマトでは、ヴァングレイにプロペラントタンクが装備され、バックパックにはポジトロンカノンの代わりにガトリング砲が装着される。

「ナイン、ヤマトからかなり離れることにはなるが、サポートは大丈夫だろうな?」

「問題ありません。たとえ地球の裏側まで離れても、完全なサポートができます」

「頼もしいぜ!お…グレートも出るのかよ?」

「ああ。沖田艦長には許可を取った。あそこにマジンガーZがいるというなら、俺の記憶の手掛かりにつながるはずだ」

「今頃、竜馬が悔しがると思うぜ」

「なら、もっと悔しがらせてやるさ。グレート、出るぞ」

ヘルメットを装着し、先にヤマトから出撃したグレートマジンガーを第三東京市へと飛ばす鉄也。

今のグレートマジンガーのバックパックにはコスモファルコンから機首部分が取り外されたかのような形状の追加ブースターが装着されており、これによって長距離への飛行が可能となっている。

操縦する鉄也の脳裏に浮かぶ朧げな記憶。

そして、誰かが伝えてきた言葉。

(俺が…俺とグレートマジンガーがこの世に存在する理由…。マジンガーZ…あれさえ見れば、すべてが埋まるはずだ。だが、ゲッターロボはなぜそれにかかわるんだ…?)




武装名:グレートブースター(レプリカ)

グレートマジンガーへの追加装備として、撃破されたコスモファルコンの残骸を用いてヤマトの万能工作機で建造されたもの。
グレートブースターの設計そのものは鉄也が万丈の元にいた時期によみがえった記憶の中に存在していたものの、グレートマジンガーを出撃させる機会が少ないことから建造は見送られていた。
今回建造されたのは宇宙世紀世界で連邦とジオンの双方と戦う可能性があり、なりふり構っていられないという消極的な状況下での出撃可能な機動兵器の戦力アップが目的となっている。
この装備によって、元々空中戦闘が可能なグレートマジンガーはΞガンダムに匹敵するスピードを獲得することができ、緊急時には翼部のビーム砲による攻撃や分離して相手にぶつけることもできる。
ただし、鉄也の記憶が正しければ、グレートブースターもグレートマジンガーと同じく超合金ニューαで建造する必要があり、それを使うことでグレートブースターはたとえ分離して相手にぶつけたとしても、損傷が軽微な上に再合体も可能になるということらしい。
そのためこちらのグレートブースターはあくまでもレプリカといえ、スピードそのものはオリジナルに近いものの、分離後の再合体は不可能な上に急増品であることから使用できるのは一度きりになっている。

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