スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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機体名:ガーンズバック
型式番号:M9
建造:ミスリル
全高:8.4メートル
全備重量:10トン
武装:12.7mmチェーンガン、ワイヤーガン×2、単分子カッター(大型のものと選択可能)、対戦車ダガー、40mmライフル(57mm滑腔砲、 57mm散弾砲、76mmAS用対物狙撃砲、9連装ミサイルランチャーと選択可能)
主なパイロット:メリッサ・マオ、クルツ・ウェーバー

主にミスリルで運用されている第3世代アーム・スレイブ。
アーム・スレイヴそのものの歴史はモビルスーツと比較すると数年遅れており、これまでのアーム・スレイヴが地上での運用に特化していた。
ガーンズバックはそんな環境が制限されたアーム・スレイブにとって革命となるもので、ハードポイントに専用スラスターを搭載するだけで宇宙空間での運用が可能となり、駆動系の省スペース化によってペイロードに余裕ができ、電子兵装やウェポンラック、不可視モード実装型ECSを搭載できるようになったことからアームスレイブの歴史の10年先を行く機体と称されるものとなった。
連邦軍のアーム・スレイブ部隊にも配備される予定になっているものの、先んじてミスリルのみが現在運用している状態で、一般兵が扱うにはあまりにもピーキーな調整がされていることから主にSRTチームに配備されている。



第53話 ラムダ・ドライバ

-メリダ島-

「へっ…てめえらザコには用がねえんだよ」

密林の中でアサルトライフルを連射して攻撃してくるミスリルのアーム・スレイブ部隊の攻撃がくる中、コックピットの中でガウルンは不敵な笑みを浮かべる。

頭に浮かぶのはほんの1,2週間くらい前のこと。

それより前の最後の記憶はすっかり変わり果ててしまったカシムの姿。

とある理由で離れ離れになってしまったかなめを殺したとウソをつき、挑発するとあっさり激高して撃ってきた。

呪いをかけてやろうと彼が生き延びる可能性があるとわかった上で自分が殺されたときに爆発するように爆弾もセットしており、それによって自分の体も粉々に吹き飛んでいるはず。

だが、次に目覚めたのはテロリストである彼にはふさわしくない、まるで中世ファンタジーの城の寝室にあるようなベッドの上だった。

失ったはずの腕と脚はまるでそんなのは夢だったかのように再生されていた。

そして、寝室で待っていたのは燕尾服姿をした男。

(ガウルン…。君にはまだ使命がある。その使命のために、生かされていることを忘れないでくれたまえ)

「ふん…使命になんざ興味ねえよ」

甦られたとしても、あの若造のくだらない野心のために使い走らされるのは目に見えている。

そして、あの男からは若造と同じ匂いが感じられ、とても信用ならなかった。

だが、そんな彼のおかげで再び愛しきカシムと殺し合いに興じることができることだけは感謝している。

今のガウルンが乗っているアーム・スレイヴはガーンズバックと比較すると主に上半身が分厚い構造となっていて、ブレード状の放熱板を背中につけている。

そして、細い横一線の割れ目が目の部分についただけの仮面のような顔面をしたそれは最後に宗介と戦った時に使用したアーム・スレイブであるコダールiに似ていて、これはそれをさらに発展させたもののようだ。

「エリゴール…財宝を見つける力を持った悪魔か。へっ…俺にとっての宝は見つかったがな」

「ハハハハ!さっさと行こうじゃないか?こんなにけなげに頑張る奴らがいるんだからなぁ」

「ふん、てめえに関しては殺してやりたいよ。ミスタ・K」

禿げあがった頭とかなり長い揉み上げをした男が乗るもう1機のエリゴールからの通信にガウルンはにらむ。

燕尾服の男もそうだが、同じ部屋のベッドで寝ている人間の中にミスタ・K、ゲイツが混ざっていたことに気づいたときは最悪な気分だった。

彼が何をしたか、自分の部下である2人の少女から少しだけ聞いている。

右目瞼に泣き黒子があり、左右の黒髪を下げた姉の夏玉芳と彼女とは反対に左目瞼に泣き黒子があるショートヘアの妹の夏玉蘭。

2人とも孤児で、幼いころにガウルンに拾われ、戦闘技術を叩きこまれてきた彼の腹心だ。

そのためか、ガウルンには絶対服従で、彼のために一時はアマルガムすら敵に回している。

その際に玉蘭はかなめの暗殺へ向かい、玉芳は香港で宗介と対峙した。

玉蘭はかなめのまさかの反撃を受けたことで暗殺に失敗し、最後はアマルガムの追っ手であるミスタ・Agによって殺害された。

そして、その遺体はゲイツによって引き取られ、香港に乱入してきた彼はあろうことかその遺体を使って人形遊びを始めた。

それが玉芳の怒りを買い、彼女から攻撃されたもののあっさりと返り討ちにし、機体ごとつぶされることとなった。

そして、当のゲイツ本人もラムダ・ドライバを完全にものにした宗介によって機体もろとも消滅することになった。

3人とも、あの燕尾服の男によって甦らされた。

ゲイツがイカれた男だということはガウルンも理解しているが、彼が2人にやったことを許すつもりはない。

それに、甦ったらよみがえったで今度は2人に手まで付けてきた。

無表情・無感情を貫く姉妹だが、このゲイツへの嫌悪感を消すことはできないようだ。

「んもうーー、香港のこととか起きてすぐのこと、まーだ怒ってるの?でも、よかったじゃない!こうしてまた姉妹一緒になれたんだから!感謝しなよ?優しいやさしい組織に」

「もう黙ってろ、イカレ野郎。俺のかわいい生徒をこれ以上汚したら、もう2度とそのもみあげが生えねえようにしてやるからな」

「はいはい、ガウルン先生。ゲイツ様…今は白いアーム・スレイブと遊びたいから」

「残念だな。そいつも俺の獲物だ。てめえはほかのやつらと遊んでろ!」

「来るぞ!!」

「ヴェノムタイプの発展型!?冗談だろ!!」

先行するガウルンのエリゴールに対してミスリル兵が乗るブッシュネルがアサルトライフルを連射するが、ラムダ・ドライバが生み出すバリアが銃弾を弾いていく。

「おいおい、そんなへなちょこ弾にへっぴり腰じゃあ殺せる相手も殺せねえぜ。ほら、まずはしっかり態勢を整える。そして、狙う相手をしっかり見る」

弾丸の雨をものともせず、エリゴールは指を銃に模した形にして銃身部分である人差し指をブッシュネルの1機に向ける。

「そして、ビビらず、視線をそらさず…そして、銃口をしっかり相手に向けて…」

人差し指部分に青い光が集まっていく。

ラムダ・ドライバの斥力がそこに集中していて、久々のこの感覚にガウルンは舌なめずりする。

「撃つ…消える命を見届けてな。バアン!」

光が消えたと同時に、ブッシュネルの胴体がまるで銃弾で撃ちぬかれたかのような大穴が開き、同時に爆発する。

残る1機はラムダ・ドライバが生み出す不可思議な力で破壊された仲間に動揺している中で、背後に現れた青色のコダールiが持つ槍で貫かれる形で破壊されてしまう。

そのそばにいるもう1機の同型機はアサルトライフルを手にして、背後を守っている。

「さあ、今会いに行くぜ…カシムゥ!!」

 

「くそ…!アマルガムだけでも厄介だってのに、この後でジオンも来るのかよ!!」

スナイパーライフルで上空のギャルセゾンを撃ち落とすクルツだが、どんなに狙撃してもまだまだサブフライトシステムもアームスレイブも集まっている。

テレサから聞いた話では、敵の反応の中にはラムダ・ドライバ搭載機も存在する。

アーバレストを除くと最新鋭機であるはずのガーンズバックですら、コダールには歯が立たなかった。

(せめて、テレサ達が開発しているシステムを入れることができれば、攻撃面だけでも…)

「軍曹!敵反応の中に、新型のラムダ・ドライバ搭載機がいる!そちらの対処へ向かえ!!」

「了解…!アル、行くぞ!!」

「了解です、軍曹殿」

追いかけようとするサベージをショットガンでハチの巣にした宗介はアーバレストの放熱板を展開し、ラムダ・ドライバを起動させる。

マデューカスの言う新型機という言葉が正しければ、香港で戦ったコダールi以上の性能を持つのは明確。

「新型機は2機…そのうちの1機は…!」

「落ち着いてください、軍曹殿。熱くなっていては勝てる戦いも勝てなくなります」

「黙っていろ!俺は…熱くなっていない!」

密林を走る中で、新型機付近にいるミスリル側のアーム・スレイブの反応が消失していき、さらには救援に駆け付けていたロンド・ベルのモビルスーツ部隊までもが巻き添えとなっていた。

「へっ…来たかぁ!!」

上空のリゼルを指鉄砲で撃ち落としたばかりのガウルンは接近してくるアーバレストの、カシムの反応に満面の笑みを浮かべる。

そして、エリゴールの単分子カッターを抜くとアーバレストに向けて突撃させる。

ラムダ・ドライバを利用した突撃はあっという間に距離を詰め、宗介は単分子カッターを抜いて対抗する。

刃とラムダドライバのぶつかり合いによって、お互いを隔てるように青いバリアが展開され、衝撃波が周囲に木々を吹き飛ばしていく。

「ハハハハ!!うれしいねえ、ラムダ・ドライバを使いこなせているじゃないか!カシムぅ!!」

「カシムカシムとうるさいんだよ、ガウルン!!」

「へっ…そうだな。てめえは変わっちまったよな…お前からは命を否定も肯定もしないあの時の目が感じられねえ…。だから思い出させてやるよ!てめえは!!本当は!!カシムだって!ことをなぁ!!」

「ぐ…ううう!!」

ガウルンに気おされるかのように、エリゴールが徐々にラムダ・ドライバを強めていき、押されていく。

(く…なんだ、このパワーは!?)

アーバレストとアマルガム製のラムダ・ドライバ搭載機との違いはアルの有無だ。

アーバレストとアルの開発を行っていたのはかつてミスリルで研究員を務めていたバニ・モラウタ大尉で、年齢の近いテレサとも親しい関係だったらしい。

彼が生み出したAIであるアルはほかのアーム・スレイブに搭載されているAIとは大きく異なり、まるでガインらのように自我をもっている状態だ。

おまけに彼と宗介の意識がシンクロを果たした結果としてラムダ・ドライバの力がアマルガムのそれを上回ることになった。

本来は複数機製造される予定だったようだが、開発者が謎の自殺をしたことでとん挫することになった。

そのアーバレストがエリゴールに押されている。

「どうしたどうした!?お前…それが本気じゃねえだろおなあ!?カシムぅ!!」

「相良軍曹!!」

側面から飛んできたビームがエリゴールのバリアをかすめる。

エリゴールのモニターに映るνガンダムの姿にガウルンは舌打ちする。

「くたばり損ないのガンダムか!!」

「アムロ大尉!!」

「相手がラムダ・ドライバ搭載機でも…!」

救援に駆け付ける中で、アムロはアマルガムのラムダ・ドライバ搭載機によって撃墜された味方の残骸を目の当たりにしている。

アーバレストの戦闘記録を見たアムロだが、実際にこうして戦闘を行うのは今回が初めてで、それらを見ることで改めて相手がどれだけ脅威なのかがわかる。

目の前の10メートルにも満たない、νガンダムの半分以下の大きさのエリゴールがそれ以上の化け物のように感じられる。

お互いにその場を動かず、しかしエリゴールは指鉄砲を、νガンダムはビームライフルを構えている格好だ。

「…!!」

何かを感じたアムロが真っ先に発砲し、同時に大きく跳躍してビームを避けたエリゴールが体をねじらせつつ、単分子カッターを握る。

「甘いんだよぉ!!」

「反応が早い…」

上からくるエリゴールに向けてダミーバルーンをばらまいて視界を遮る。

ダミーバルーンを単分子カッターで斬って視界を開いたガウルンだが、その時にはνガンダムは視界から消えていた。

「消えた…いや、こいつは!!」

何か嫌な予感を感じたガウルンだが、その答えとして木々の中に隠されているものに気づく。

ビームライフル用のEパックで、それをライフルやバルカンで破壊した際に大きな爆発が起こる。

モビルスーツを持たないゲリラ部隊がモビルスーツ部隊と戦闘を行うときに使う手段の1つで、Eパック単体なら安価で、戦場跡でいくらでも手に入る。

これに気づかずに爆発されたら、ラムダ・ドライバのバリアが間に合わずに消し炭にされていたところだが、気づいた以上は何のこともない。

だが、次の瞬間に警告音が響く。

「何!?」

気づいたと同時にビームがエリゴールの背中に命中し、放熱板を焼く。

気づいたことで間一髪ラムダ・ドライバを背中に向けることができたが、それでも完全とはいかず、ビームの熱で放熱板がゆがんでいく。

逆探知すると、そこにはライフルを握ったνガンダムの姿があった。

「やってくれたぜ、アムロ・レイ…!こいつじゃあラムダ・ドライバも長くはもたねえか…カシム、勝負は預けるぜ」

ラムダ・ドライバは圧倒的なアドバンテージを与えるシステムだが、発動には多くのエネルギーが必要となり、同時に機体にも強い熱を発する。

そのため、アーバレストのように放熱板によって熱を放出しなければ機体にダメージを与えてしまう可能性がある。

それを壊されたことはガウルンにとっては誤算であったと同時に、いまだ健在なアムロの実力に舌を巻く。

「(だがな、カシム…今のてめえを殺したところで、何も面白くねえ)玉芳、玉蘭、お前らも下がれ」

「「了解」」

「おいおいおい、なあんだよ、もう帰っちまうのかよガウルン先生。つまんないねえ…。だったら、残りはこの私が壊してしまおうかぁ!!」

「ビームが効かないなら!!!」

上空からショートビームライフルで攻撃しても、ラムダ・ドライバのバリアで弾かれる現状を打破すべく、ルナマリアは2本の対艦刀を抜く。

たとえビームを弾かれたとしても、これの質量で無理やりにでも突破できるはずと考えたようだが、それが軽率だということ、そしてミスリルがなぜラムダ・ドライバを脅威としたのかという理由を知ることになった。

振り下ろした対艦刀をゲイツのエリゴールがあろうことか左手1本で受け止めていた。

「おいおい、なんだよこんななまくら刀で斬ろうっての?甘いんだよぉモビルスーツ!!」

バキバキというけたたましい音が青いバリアが発生すると同時に対艦刀から鳴り響く。

「嘘…あの小型機のどこにそんなパワーが!?」

危機感を覚えたルナマリアは対艦刀を手放して距離をとると、手放したそれは粉々に砕け散った。

「そらそらぁ!避けてみなよぉ!!」

エリゴールのバックパックにジョイントされている2丁のマシンガンが展開され、上空のインパルスに向けて発射される。

本来ならヴァリアブルフェイズシフト装甲で守られたインパルスに対しては何も意味がないマシンガンの小さな弾丸だが、ラムダ・ドライバの存在がそれを覆す。

青い光を宿した弾丸の速度は本来のそれを越えており、襲ってくる弾丸は強靭なヴァリアブルフェイズシフトにひびを入れていく。

「キャアアアア!!」

「ルナ!こいつ!!」

窮地に陥ったルナマリアを救援すべく、シンはエリゴールに向けてビームランチャーを放つ。

後ろにわずかに下がってビームを避けたゲイツは横やりを入れたデスティニーをにらむ。

「おいおい、なんだぁ?いまおじさんが正々堂々と勝負してたのに…邪魔しやがったなぁ?」

「大丈夫か、ルナ!!」

「ごめん…気を付けて、シン!あの機体…普通じゃない!!」

「ああ…よくわかってる。こいつ…」

ヴァリアブルフェイズシフト装甲に対して、ビーム以外で対処する方法はいくつか存在する。

かつてユニオンが開発したモビルスーツの1つであるレイダーが装備していた大型鉄球型兵器のミョルニルのような強烈な衝撃によって電子回路を破壊する、もしくはパイロットを気絶させる方法が1つ。

攻撃を受ける際にもエネルギーを消耗することを利用して継続して攻撃をする方法が1つ。

グフイグナイテッドなどが装備している電撃兵器によって高圧電流を浴びせてモビルスーツそのものをオーバーヒートさせる方法やHEIAP弾という装甲目標破壊用の特殊弾頭による攻撃やGNソードなど、現在ではいくつかの対処法が構築されている。

宇宙世紀世界にはフェイズシフト装甲の技術は存在しないものの、ビーム兵器の存在があり、現在ではそれが主流となりつつある中でフェイズシフト装甲はさほど脅威にならないが、ビーム兵器を装備できないアーム・スレイブに対しては脅威のはずだった。

だが、このエリゴールはラムダ・ドライバの力を使ったマシンガンの攻撃で、いともたやすくインパルスのヴァリアブルフェイズシフト装甲にダメージを与えていた。

それに、対艦刀を片手で受け止め、粉砕するといった芸当まで見せている。

「これがラムダ・ドライバなのかよ…もう、魔法か何かじゃないのかよ!?」

ラムダ・ドライバそのものは宗介とアーバレストがやっているのを何度も見ているが、やはり味方として見るのと敵として見るのとでは驚異の度合いが違う。

そんな機械の範疇を越えた兵器と戦わなければならない。

「シン!ルナマリア!」

アスランの声が響き、飛んできたファトゥム02から分離したブレイドドラグーンがゲイツのエリゴールを襲う。

跳躍してその場を離れたエリゴールは撃破したブッシュネルが落としたマシンガンを手にし、それを発射してけん制を行う。

「ああーん、赤いガンダム?赤いのはシャアかジョニー・ライデンで十分だっての!それよりも…」

ブレイドドラグーンとファトゥム02から発射されるビームキャノンを避けつつ、ゲイツは左のもみあげの様子を指で確認する。

(私が初めて戦場に出たのは20年近く前…。インベーダーなんていうふざけた存在相手にセイバーフィッシュなんぞで戦うハメになった。仲間の多くがインベーダーに食われたが、私は生き延びた。なぜなら…もみあげがその時ベストな長さだったからさ!)

機体を撃破され、宇宙空間へ投げ出された若きゲイツだが、もみあげの加護があったためか、すぐに味方のスーパーロボットに救助された。

そこでほかの仲間が全員死んだことを知らされた。

死んだ仲間たちとの最大の違い、それは階級でも人種でも機体の状態でもない。

このもみあげの長さだ。

「(今のもみあげはまさにあの時と同じベストの状態…。つまり、今の私は…)無敵ということだーーー!!」

「何!?」

いきなり大きく跳躍したゲイツのエリゴールがブレイドドラグーンの小さな質量を足場としてさらに飛び上がる。

香港での戦いで宗介のアーバレストが本来ならばありえない道路標識の上への着地に成功したのと同じ理屈だろう。

その時はアーバレストと戦闘を行ったコダールも同じことをしようとしていたが、失敗している。

肉薄しようとするエリゴールに向けてビームブーメランを投げるも、右拳で殴られただけでそれは砕け散ってしまう。

「アスラン!!」

「ガンダム1機、これで撃墜ーーー!!」

至近距離からラムダ・ドライバで強化されたマシンガンで攻撃すれば、そのダメージは先ほどのインパルスが受けたものの比にならない。

コックピットで受けたらどうなるかは想像に難くない。

「くそ…!」

足に装備されているビームブレイドで攻撃しても間に合わない今の状況に唇をかみしめるアスランだが、エリゴールのマシンガンにビームが飛んでくる。

攻撃に集中していたゲイツは身を守るイメージが薄れており、それでも若干ビームはバリアによって弱まったが、マシンガンを破壊するには十分なものだった。

「危なかったな、アスラン」

「ロックオンか!?すまない…奴は危険だ!」

「ああ…アーム・スレイブだったか?やばいのはよくわかるぜ」

結局マシンガンを1丁破壊するのにとどまり、撃墜まで行かなかったことにサバーニャのコックピットの中でロックオンは悔しがる。

早撃ちを得意とするロックオンは狙撃についても仲間から高い評価を受けてはいるものの、それでも双子の兄である先代ロックオンと比べると若干劣っている部分がある。

ロックオンとしてはその一撃でエリゴールを撃破するつもりでいたが、若干ビームがずれてマシンガンに向かった。

モビルスーツの半分程度の大きさのアーム・スレイブが相手だからとしても、ドラゴンなどの小型の相手と何度も戦ってきた以上はそれは言い訳にしかならないとロックオンは考える。

だが、それでもこの狙撃によってアスランを助けることには成功した。

「ハロ、ビットだ!」

「「了解!了解!」」

ハロの制御の元、GNピストルビットとGNホルスタービットが分離し、それらがエリゴールに向けて飛んでいき、ビームを発射する。

次々と飛んでくるビームに対して、ゲイツは防御のイメージに集中することで受けるビームを阻みながらも先ほどと同じように時にはビットを踏み台にすることで避けていく。

「ああ…まったく。なんだなんだ、異世界の兵器っていうのはぁ!」

「くそ…ビットが効かねえのか!?」

相手はニュータイプなのかイノベイドなのか知らないが、死角からも放っているはずのビームさえも避けるか、ラムダ・ドライバのバリアで身を守って防いでいる。

相手パイロットの異常性を感じ始めたロックオンだが、コックピットに警告音が鳴り響く。

「熱源…うわっ!!」

どこからか飛んできたビームがサバーニャの左肩に命中し、コックピットが大きく揺れる。

幸い装甲が焼けただけで済んではいるものの、問題は撃った犯人がどこにいるかだ。

「近くじゃねえ…狙撃か?まさか、もうジオンが来たとでもいうのか…!?」

サバーニャが狙撃を受けたことが影響したのか、ゲイツを襲うビットの動きが鈍り、その間に着地したゲイツは森林の中を走りながら様子をうかがう。

先ほどダメージを与えたインパルスを外しても、相手となるガンダムは3機。

エリゴールであれば、たとえガンダムであっても負けないだろうが3機も同時に相手をするとなるとさすがに分が悪い。

助力となるであろうガウルンはνガンダムとの戦闘で損傷して、部下ともども後退しているという。

「おい、イカれたおっさん。あんた1人じゃあ分が悪い。さっさと下がれ」

「あーん?なんだねぇ?すっごく生意気な感じがするんだがー?」

「ジオンが来る。ジオンの大将がここからの戦いについてはアマルガムには手出しをしてほしくないんだとさ。アマルガムとしても、攪乱させることができたんだから、作戦は成功だ」

「…それは、ミスタ・Agからの命令かな?」

モニターに映る黒がかった緑色のノーマルスーツ姿の男をゲイツはにらみつける。

彼は何も答える様子がなく、ただ沈黙を返してくるだけ。

「…わかったよ。下がるぞぉ!!」

ゲイツの命令を受けた彼の部下が乗るブッシュネルが上空に向けて信号弾を放つ。

すると、先ほどまで戦闘を行っていたアマルガムの部隊が後退を始める。

謎の後退を始めたアマルガムを攻撃しようとする兵もいるが、新たに拾った反応がそれをあきらめさせた。

「ジオンが来るぞ!各機は警戒しろ!」

「このプレッシャー…なんだ?」

アマルガムとは別方向から感じる大きな気配。

それはかつてシャアと戦っていた時に感じていたものとよく似ているが、ただ似ているだけで何かが違う。

それを口で説明できない自分に腹立たしさを覚えた。

「え…リディ少尉、何をしているんですか?まだあなたには出撃命令が出て…」

「ん…?どうした!?」

「艦長!デルタプラスが…リディ少尉が発進します!」

「何!?」

格納庫では整備兵たちがどうにか動き出したデルタプラスを止めようとしている様子だが、人間の手でモビルスーツを止めるなど不可能な話で、デルタプラスはカタパルトへ出ると上昇をはじめ、上空でウェイブライダー形態へと変化する。

そして、ジオンが接近しているのとは逆の方向へと飛んでいく。

「リディ少尉!!どこへ行くのだ!!敵前逃亡するつもりか!?」

「申し訳ありません、オットー艦長!自分は…この場から離脱します!」

「なんだとぉ!?」

リディのその言葉をオットーは信じることができず、一瞬自分が聞き間違えただけなのだと信じたかった。

音声だけでそれを済ませるのは悪いとリディが思ったのか、ネェル・アーガマのモニターにはデルタプラスのコックピットの光景が映る。

そして、そこにいるのはリディだけでなく、オードリーもいることがわかる。

「リディ少尉…バナージとつなげることはできますか?」

「ああ、つなげる」

すぐにモニターにコックピットの中のバナージの姿が映る。

モニター越しにオードリーの姿を見たバナージは驚きを隠せない様子だ。

「オードリー!?なんでデルタプラスに!?リディ少尉と一緒に、どうして!?」

「ごめんなさい、バナージ。私が頼んだのです」

「何のために…!?答えてくれ、オードリー!!」

「それは…答えることができないわ。けれど、私は私の責務を果たすために行動します」

「責務…?」

「もう…時間がありません。さようなら、バナージ」

インダストリアル7で出会い、見ず知らずのはずの自分を信じ、助けてくれたバナージ。

助けたいという一心でユニコーンに乗り、この戦いの渦に巻き込まれてしまった。

きっと、自分に出会うことさえなければ、バナージはユニコーンガンダムに乗ることなどなく、戦闘に巻き込まれたとしても、一般人として行動することができたはず。

その運命をゆがめてしまい、さらには置き去りにするような真似をすることへの罪悪感を抱きつつ、オードリーは自らの手でユニコーンとの通信を切る。

「…行ってください、リディ少尉」

「ああ…。君を必ず親父の元へ送り届ける!」

デルタプラスのスピードであれば、たとえジオンが追撃を仕掛けたとしても振り切ることができる。

戦闘のために満タンまで入れられている推進剤の量があれば、少なくともアフリカまでは行くことができる。

ダカールまで行けるかどうかは不透明だが、それでも行くしかない。

「この戦いを…止めるためにも」

オットー達を裏切ることになることはわかっている。

だが、この行動によってもしかしたらロンド・ベルを救うことにつながるかもしれない。

希望的観測かもしれないが、戦う以上の何かができると信じてリディは突き進む。

(頼むぞ、デルタプラス…。俺たちをダカールへ導いてくれ…)

「デルタプラス…通信、途切れました」

「なんという、ことだ…」

「オードリー…」

彼女が去っていった方向を見るバナージはただ呆然とすることしかできない。

だが、こんな時間をジオンが与えるはずがなかった。

「プレッシャーが近づいてくる…来るぞ!!」

アムロの言葉に前後するように、ヤマトのレーダーが接近するジオンの全容をつかむ。

「森君!ジオンの勢力は!?」

「エンドラ級3隻、輸送艦1隻、ガミラス艦2隻!そして…そんな、レウルーラ級が1隻います!」

「レウルーラ…ジオンの総旗艦か」

モニターには3隻のエンドラに守られるように中央に配置されている赤い大型艦が映り、その後方にはガランシェールとともにメルトリア級が2隻存在する。

ネオ・ジオン戦争後期にジオンが運用し、アクシズ攻防戦ではロンド・ベルの総力をもってしてもついに撃沈させることのできなかった戦艦。

ジオン最強と言われる戦艦が1年の沈黙を破り、再び戦場に現れることになった。

 

-レウルーラ 格納庫-

「メリダ島か…。ジャブローを思い出すな」

ノーマルスーツではなく赤い将官用の軍服姿をした大柄の男が仮面とモニター越しに映るメリダ島の緑に満ちてはいるものの、撃破されたモビルスーツやアーム・スレイブの残骸が生み出す煙が不自然さを演出し、彼の脳裏にかつてのジャブローの戦場が浮かび上がる。

「大佐、親衛隊発進します」

モニターに薄紫の髪をした女性のように整った顔立ちをした男が映り、彼の宣言の直後にギャルセゾンに乗るメッサーとギラ・ズールが発進する。

メッサーはギラ・ズールと同じく濃い緑のカラーリングとなっており、さらにはギラ・ズールとともに白いラインが追加されるなど、派手さが増したものとなっている。

そして、先ほど通信を行った男であるアンジェロ・ザウパーのメッサーは紫で塗装されており、ロングビームライフルを手に取った状態でギャルセゾンに乗る。

「期待しているぞ、アンジェロ」

「ハッ!」

アンジェロ専用のメッサーを乗せたギャルセゾンが発進し、先に発進した親衛隊機とともにレウルーラを離れていく。

地表や上空にはレウルーラなどのジオンとガミラスの戦艦を見つけ、攻撃を仕掛けようとする機体が存在するが、それらの機体はどこからか飛んできたビームに撃ちぬかれて生き、それによって安全が確保されていた。

「アマルガムには後で礼を言っておかなければな…」

「大佐、よろしいのですか?ギャルセゾンなしで発進など…」

「構わんさ。この機体ならばな。それに、この機体の地上戦での戦闘データが欲しいのだろう?」

彼が今乗っている機体にはそれだけの力がある。

かつて、シャアが乗った最後のモビルスーツであるサザビーと似ているものの、バックパックにはファンネルラックが存在せず、翼のようにスラスターとなっており、体格も大柄な彼とは正反対にスマートなものとなっている。

「…了解しました。しかし、シナンジュの地上戦での戦闘力は未知数です。無理はなされないように…」

「ああ…承知している。シナンジュ出るぞ」

カタパルトに乗った赤いモビルスーツ、シナンジュがレウルーラから射出され、上空でスラスターを使って一気に加速を始める。

「赤いモビルスーツが出たぞ!!」

「速いぞ…なんだ、こいつは!?」

上空を警戒していたドダイ改に乗るジェガンがビームライフルで空中を飛ぶシナンジュを攻撃する。

正面から飛んでくるビームをシナンジュはローリングするとともにわずかに機体を左にずらし、ビームが機体を焼くギリギリのところでかわす。

そして、手にしているビームライフルでためらいなくその敵機のコックピットを撃ちぬいてしまった。

 

-ネェル・アーガマ改 艦橋-

「艦長!レウルーラから発進した赤いモビルスーツが高速で飛行し、突っ込んできます!!後続機の3倍の速度です!!」

「赤いモビルスーツだと…!?例のよみがえったシャア・アズナブルか!?」

レウルーラが現れたことで、そのような事態になることは覚悟していたオットー。

気になるのはその彼が乗っているモビルスーツだ。

Ξガンダムやペーネロペーほどの大型機でないにもかかわらず、サブフライトシステムなしで飛行して見せており、そのスピードはそれらの機体に匹敵する。

モビルスーツクラスに小型化したミノフスキークラフトを搭載したとしても、30メートルクラスの大きさが必要となることを考えると、フリーダムやクロスボーンガンダムなどのように別系統の技術を使って空中での戦闘を可能としているのか?

「艦長!あれは…あれはシナンジュだ!!」

急に艦橋に慌てふためきながら入ってきたアルベルトがその機体の名前を大声で伝える。

アルベルトの脳裏に浮かぶシナンジュとは大きく異なるが、間違えるはずがない。

「知っているのか?アルベルトさん」

「ああ…。アナハイムがνガンダムの戦闘データをもとに新たに生産したサイコフレーム搭載機だ!まさか、回収を加えたうえでシャア・アズナブルの手に落ちていたとは…逃げろ!!」

νガンダムの戦闘データを反映し、ニュータイプの感応波を操縦系へ直接伝達できるシステムであるインテンション・オートマチックを搭載したシナンジュはまさにかつてのνガンダムとサザビーを上回る化け物といえる機体だとアルベルトは断言できた。

そのことを証明するかのように、シナンジュ1機によってミスリルとロンド・ベルの機動兵器が次々と、なすすべもなく撃墜されていた。




機体名:エリゴール
型式番号:プラン1065
建造:アマルガム
全高:9.1メートル
全備重量:10.8トン
武装:単分子カッター(太刀と選択可能)、アサルトライフル(AS用対物狙撃銃、マシンガン、ガトリングキャノンと選択可能)
主なパイロット:ガウルン、ゲイツ(現状把握できる範囲のみ)

アマルガムが運用するラムダ・ドライバ搭載型アームスレイブ。
同じくラムダ・ドライバ搭載機であるコダールiを発展させたもので、放熱機能がポニーテール状の放熱索から放熱板へと変更され、ラムダ・ドライバについても各パイロットに合わせて最適化が行われている。
コダールiとの最大の違いはラムダ・ドライバがそうであるように、パイロット1人1人に合わせて装備などを最適化させたうえで運用するという構想になっていることにあり、それゆえにコダール以上にパイロットに左右される機体へと変貌している。

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