スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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機体名:ケッサリア
形式番号:なし
建造:アナハイム・エレクトロニクス社
全高:不明
全備重量:不明
武装:ミサイルランチャー
主なパイロット:Gハウンド兵

Gハウンドで運用されているサブフライトシステム。
連邦で運用されたドダイ改やベースジャバーなどを参考にしつつ、武装の搭載による火力の増強が行われており、下部にミサイルランチャーが追加されている。
また、モビルスーツの大型化に伴う重量の増加に対応するために出力も従来のものから引き上げられている。


第51話 流浪の部隊

-ラー・カイラム 格納庫-

「おい、話は本当なのかよ…!?」

「アムロ大尉なんだろ?幽霊じゃないよな…?だって、ジオンにもシャアの再来の話が…」

「モビルスーツが入る!お前ら、下がれ!!」

アムロが生きていたという話が真実か確かめようと、格納庫に集まったパイロットや整備兵たちをオレンジ色の整備兵の制服を身にまとった男、この艦のチームメカニックであるアストナージ・メドッソ少尉が無理やり彼らをどかす中でハッチが開く。

そこからは行方不明となっていたガンダム・チームのモビルスーツたちが最初に入ってくる。

そのあとで、νガンダムが入ってきて、同時にアストナージ達の視線がそれに向けられる。

(νガンダム…。そして、この中に…)

νガンダムのハッチが開き、その中にいる白いノーマルスーツ姿の男がおりてくる。

降りてきた彼は頭部を隠すヘルメットをはずし、無事な姿を彼らに見せた。

「アムロ!!」

「大尉、よくぞご無事で!!」

「ああ…心配をかけてすまなかった」

「本当ですよ…!隊長、あの後どれだけ探したことか…」

幽霊ではない、ちゃんと足をつけて立っているアムロに金色のショートヘアをした女性パイロット、ケーラ・スゥ中尉は思わず涙を浮かべる。

「ジュドー達も、よく戻ってきたな。話はブライト艦長から聞いているが、まさか別世界に飛ばされていたなんてな、本当にあったことも驚きだが…」

「俺たちだってびっくりしたよ。ま、そのおかげでアムロ大尉とνガンダムと再会できたけどな」

「アムロ…」

整備兵やパイロットにもみくちゃにされる中、アムロの前にやってきたのは彼にとって、20年近くともに戦ってきた戦友の姿だった。

離れ離れになってしまって1年の間も苦労を重ねたのか、若干白髪が増えた黒髪をしていて、細い目はじっとアムロの無事な姿を見つめている。

「ブライト艦長」

「はぁ…探したぞ。いなくなるのはあの時だけにしてくれと思ったが…」

「言うなよ。不可抗力だ」

「だが、まあ…よく帰ってきた」

「驚いたな、もう新型艦ができていて、ブライトがそこに移っていたとは…」

「ああ。ラー・カイラムだ。これがロンド・ベルの新たな旗艦になる」

「ネェル・アーガマもまだまだ旗艦として使っていける艦だが…」

ネオ・ジオン戦争中盤に建造されたばかりのネェル・アーガマはまだ数年は旗艦として使っていけると思っていたが、チェーンから話は聞いていたとはいえ、まさかこれほど早い段階で新型艦が用意されるとは思わなかった。

ラー・カイラムに乗艦する前にあらかた見たが、これまで連邦が建造してきた戦艦であるマゼランやアレキサンドリア、アーガマにドゴス・ギアといった戦艦の長所を組み合わせたようなもので、そんな戦艦がよくロンド・ベルに送られたものだと思えてしまう。

「バウアー議員の口添えもあったからな、ネェル・アーガマにいたクルーのほとんどもここに異動している。ジュドー達も、よく帰ってきたな」

「ああ。そういえば、ブライト艦長は知ってた?カミーユさんのこと」

「カミーユが、どうしたというんだ?まさか…また症状が…!?」

「いやいや、もう元気になってたんだよ。それで、俺たちがクックタウンでGハウンドと戦っていた時に、助けに来てくれたんだ」

「何!?なら、カミーユもいるというのか…」

「それが…いなくなっちゃったんだ。本当に、どこへ行ったんだろう…?」

カミーユの復帰と行動について、もしかしたらブライトなら何か知っているだろうと期待していたジュドーだが、ブライトの反応を見ると、彼も知らないのだろう。

せっかく会えたのに、一緒に来てくれたらと思っていたものの、こうして別れてしまった以上は仕方ない。

生きていたら、きっとどこかで会える。

現にアクシデントがあったとはいえ、生きてアムロとも再会できたのだから。

「ジュドー!!」

「ジュドー!!」

ブライトについてきていた2人の少女が嬉しそうにジュドーの元へかけてくる。

オレンジ色の髪と紫の瞳、幼さのあふれる顔立ちは変わりないものの、1人は薄緑色と黄色をベースとした上下の分かれた薄手の服を身に着けていて、もう1人は赤とムラサキをベースとしたワンピース姿をしている。

「プル、プルツー!」

「どこへ行ってたんだよ、ジュドー!お前がいない間、泣いているプルをあやすのが大変だったんだぞ」

「よかったぁーーー!ジュドー!みんなも!」

「あはは、ごめんごめん。心配かけちゃって」

「もう、大丈夫だからな」

ジュドーに頭を撫でられたプルは素直にうれしそうに笑い、プルツーはほんのりと顔を赤く染めながら視線を逸らす。

「ルオ商会がここをランデブーポイントに指定した。我々はこれから、ダナンとともにメリダ島へ向かう。そこで補給や本格的な整備を行おう」

「メリダ島…ミスリルの本拠地か」

小笠原諸島と北マリアナ諸島のほぼ中間にあたるとだけ聞いているその場所はたとえ同盟相手であるロンド・ベルにも正確な位置が伝えられていなかった。

おまけに、ロンド・ベルと協力関係にあるとはいえ、外部の組織であるルオ商会まで入ってきたうえで、メリダ島を案内するというのは異例だ。

だが、連邦軍と敵対関係となり、駐留できる場所が限られている以上はそんなことを言っていられる場合ではなかった。

 

-グレービビアン ブリーフィングルーム-

「リタ、ミシェル…」

「ヨナ!!」

ヨナ達3人とブリックの4人だけのブリーフィングルームの中で、ふわふわとした長いブロンドヘアーで薄青色をしたシャツと長いスカートをつけたリタが嬉しそうにヨナに抱き着く。

急に抱き着かれたことにびっくりしたヨナはその場でしりもちをついてしまう。

「ヨナ少尉、よくぞご無事で。ミシェルお嬢様とヨナお嬢様も心配しておられましたよ」

「ブリックさん…」

「まったく、こうしてちゃんとこの目で見て安心したわ。けど…まさか、こんな厄介ごとがおまけについてくるなんて…」

ヨナが無事なのはうれしいことだが、ここからの立ち回りをどうすべきか、さっそくミシェルの脳内でそろばんが弾かれていく。

補給物資などは持ってきていて、義姉であるステファニー・ルオと義父のルオ・ウーミンからの許しは得ているため、引き渡しについても問題ない。

だが、まだ正式に認定されていないとはいえ、ロンド・ベルがGハウンドに牙をむいた以上はミスリルともども反連邦分子とされる可能性もある。

「それで、ヨナはこれからどうするの?あなたは巻き込まれただけで、ロンド・ベルじゃない。やろうと思えば、メリダ島で私たちと一緒にルオ商会へ戻って、そこから連邦軍に戻ることもできるわ」

「戻るって…みんなを置いてか?」

「そう、ルオ商会がこれからロンド・ベルとミスリルとどう付き合うかはわからないけれど、あなたは例外よ。確かにGハウンドに銃を向けたかもしれないけれど、あなたはただ巻き込まれただけ。大した罰は受けないはずよ」

ミシェルのいう通り、巻き込まれただけのヨナは彼女たちとともに逃げることもできるだろう。

ロンド・ベルではないヨナがこれ以上彼らと付き合う義理はない。

それに、ここから先も彼らとともに動くということは、より過酷な戦場へ向かうことになる。

それはミシェルもリタも望まないことだろう。

「…ミシェル、気持ちはうれしい。けれど、俺…あの人たちと一緒に行くよ」

「ヨナ…?」

「ロンド・ベルの中にいたバナージって子供が言っていたんだ。みんなが分かり合える可能性のある未来、アースノイドとスペースノイドが殺しあうんじゃない、分かり合える未来を信じたいって。そして、それを現実にするために自分にできることを頑張ってやろうとしている。だから…まぁ、俺なんかにできることなんて、限られているけれど。でも、もう…俺たちのような人間が増えるのは嫌だから、さ…」

「ヨナ…」

ヨナ達の記憶に鮮明に残る最悪な光景、コロニー落としで家族や友達、知人ともども消し飛んだシドニー。

あまりに犠牲者の多さと遺品も遺体も何一つ残らなかった犠牲者も多いことから、結局彼らのために葬式を出すこともできなかった。

そして、シドニーだけではなく、1年前のネオジオン戦争ではダブリンにコロニーが落ちた。

その時はエゥーゴやカラバの活躍で多くの住民が助けられたが、それでも助けられなかった人も数多くいる。

そんな悲劇を未来の子供に残したくなかった。

「まったく、甘いわね。あんた以上の腕の人がたくさんいるのに…」

「ごめん…」

「だったら、強くなってもらうしかないわね。ヨナには。ちょうど、あんたにうってつけかもしれないモビルスーツも持ってきているの」

「俺にうってつけの…?」

「お嬢様が手配したモビルスーツの1機です。アナハイムがネオ・ジオンから提供されたサイコフレームをもとに、データ収集のために初めて建造されたモビルスーツ。RX-9、ナラティブガンダムです」

ブリックの操作によってモニターには格納庫に積み込まれるのナラティブガンダムの姿が映る。

ビームサーベルすら装備されていない、ほっそりとした体つきをしたそのモビルスーツは確かにガンダムの頭をつけてはいるが、その威厳があまり感じられない。

上腕部、大腿部、更にはコクピット周辺の装甲がない上に、コックピットとなっているコアファイターのキャノピーまでもがむき出しとなっている。

その周辺にはルオ商会で運用されているジェガンだけでなく、ゲルググのをベースとしたフォルムをしたダークグレーのモビルスーツであるディジェも存在し、ナラティブガンダムを見たヨナはそれらの機体と比較したその貧弱さに目を丸くする。

「サイコフレームが搭載されている…けど、あまりにもやせっぽっちじゃないか!?」

かろうじてバルカンは装備されているようだが、そんな機体では死にに行くようなものにしか思えない。

確かにブリックの話が正しければ、ZZとνガンダムの間くらいの時期の建造されたように思え、性能は量産機と比べたら高いだろうが、いまいち信用できない。

「落ち着いて、メリダ島でちゃんと装備を整えたうえで、ちゃんと動かしてから判断してくれたらいいわ。それに、あなた一人でそれを使うわけじゃないから」

「え…?どういう…」

「私もパイロットなの、ヨナ。ヨナと一緒にナラティブを動かすの」

「え、えええーーーーー!!!」

当然のことのように言うリタとミシェルの反応がヨナには理解できない。

確かにリタはルオ商会で管理しているモビルスーツのテストパイロットをしているため、操縦については問題ないだろう。

だが、これからヨナが向かう修羅場にリタもついていき、それをミシェルが認めるとはどういうことか。

それに、そもそもそんな旅路にリタを巻き込みたくない。

「待ってくれ、リタはこのまま香港に…」

「もうお義父様から許可は頂いているわ。これはお義父様の命令でもあるの。その意味、分かってる?」

「うぐ…でも、俺は…」

「はぁ…言っているでしょう。強くなってもらうしかないって。ほら、さっさとナラティブに乗って、シミュレーションをして」

「行こ、ヨナ!ヨナなら絶対に大丈夫だから」

「大丈夫じゃないだろ…これ…」

リタにぐいぐい引っ張られ、ブリーフィングルームから出ていくヨナを見送ったミシェルはちょっと困った表情が混じった笑顔を見せていた。

こんな状況でもなお、昔と変わらないヨナを見て、ちょっとだけ安心できた。

「お嬢様、よろしいのですか?」

「今ある装備はヨナ1人で操縦しながら使いこなせる代物じゃないわ。あとは、『あのシステム』が生きるかどうか…それだけね」

「ええ…ナラティブガンダム、いや…サイコフレームとともにあのようなものまで…。カーディアス・ビストはなぜ…」

「問いたくても、もう彼はこの世にいないわ。まぁ、ビスト財団も一枚岩じゃないのは確かね」

当主であるカーディアスの手腕により、ビスト財団は強固な組織となってはいるが、それでも完全に一枚岩な組織や国は存在しないもの。

彼の妹であり、アナハイムの創始者一族であるカーバイン家に嫁いだマーサ・ビスト・カーバインは表向きではカーディアスの意向に従っているものの、裏では当主の座を狙っているそぶりがある。

まだ不確定の情報ではあるが、インダストリアル7での戦闘の混乱の中で、マーサの私兵がカーディアスを殺害した可能性があるらしい。

また、カーディアスの嫡男であるアルベルトとカーディアスには確執があるようで、そう考えると先代当主であるサイアム・ビストが背後にあるとはいえ、カーディアス本人はそれほど盤石なものではなかったのかもしれない。

そんな彼が長年のライバルといえるルオ商会にこのようなものを託すというのは自殺行為だ。

そんな綱渡りをしてまで、どうして託したのか、その意図をまだミシェルにはつかむことができなかった。

 

-ラー・カイラム 艦長室-

「やってくれたな、ブライト大佐。まさか…総司令部直属の飼い犬を噛むとは」

机上にあるタブレット端末から音声のみがつながった状態で通信を行うブライトはおだやかな口調であるものの、どこか非難めいた声を聴く。

端末には通信相手の名前、ジョン・バウアーが表示されており、今の状況を考えると、ロンド・ベルと異世界の仲間たち、そしてミスリルを守るには彼にも声をかけざるを得ない。

補給関係の重鎮である彼は政治家として、エゥーゴであったころから力添えをしてくれていた。

今回の事態はある意味では、そんな彼の顔に泥を塗り、彼の政治生命を脅かしかねない事態でもある。

「申し訳ありません。ですが…Gハウンドと現行の総司令部のやり方ではこの破滅的な状況を覆すことは…」

「ああ…わかっている。私も今の状況や総司令部のやり方が正しいとは思っていない。だが、やはり議会でもジオン憎し、スペースノイド憎しの声が強い。まったく、政治家であればもっと理性を持って動いてもらいたいものだ…」

一年戦争から続く戦争によって多くのものを奪い合ってきたことが戦争だけでなく、政治でも悪影響を及ぼしている。

バウアーのような穏健派はごく少数であり、肩身の狭い思いを続けている。

「今回の件で議会ではロンド・ベルの解散を求める動きがある。これが通れば、ロンド・ベルはすべての権限を失う。そして…Gハウンドだけでなく、連邦軍すべてを敵に回すことになるだろう。どうにかそうならないようにはするが、我々の力だけでそれをするとなると…長く見積もっても半年が限度だろう」

確かにロンド・ベルはGハウンドに、連邦に弓を引くことになったのは事実だが、昨年のアクシズ落としから地球を守ったことも事実。

そのことに感謝している議員も存在するため、少なくとも協力は得られるかもしれない。

だが、バウアーの力をもってしても、無制限に守り切ることはできない。

「それで充分です。政治に関してはお任せします」

「だが…シャア・アズナブルのような過ちだけはしてくれるなよ。私とて、君たちを切るような真似はしたくない」

通信が切れ、無意識に力の入った肩に気づいたブライトは背もたれに身を任せ、力を抜いていく。

天井を見ていて、脳裏に浮かぶのはロンデニオンで生活している妻のミライ・ノアと娘のチェーミン・ノアだ。

一年戦争で運命を共にし、結ばれた彼女と彼女との間に授かった子供たちにはまた苦労を掛けることになってしまう。

これでは、ミライを託してくれた彼女の元フィアンセであるカムラン・ブルームに申し訳が立たない。

ロンデニオンの状況はそこの監察官をしている彼から連絡が入り、今のところは問題はないようだが、ロンド・ベルの宇宙での拠点となっている以上、いつ連邦軍が入ってくるかはわからない。

その時は彼女たちはサイド6へ向かい、そこにいるカムランの親戚の庇護を受ける手はずにはなっている。

ミライだけではない、今回の件でホワイトベースにかかわった面々の大半にも地球連邦の目が向けられる。

必要なのはそれから逃れるための手段を考えるための情報だ。

ブライトは次の通信相手とつなげる。

「へえ、珍しいな。あんたから連絡が来るなんてな、ブライト艦長」

「ああ…。頼みたいことがある。お前にしか頼めないことだ、カイ・シデン」

 

-メリダ島-

北緯20度50分、東経140度31分。

そこには荒れ果てた地球には珍しい緑が広がり、動物たちの鳴き声が聞こえる。

一見すると、ただの無人島でしかないそこにミスリルの基地が存在し、密林の中ではカモフラージュされたガーンズバックやガーンズバックに似たつくりではあるが、全体的に角ばっていて、重量のある体つきとなっているアーム・スレイブ、ブッシュネルなどが監視を行っている。

海岸に秘匿されている格納庫にダナンなどが収容されていった。

「おいおい、報告にあったとはいえ、ダナン込みで戦艦が7隻…。冗談にもほどがあるぞ」

「こりゃ、戦艦メンテ担当が血の涙を流すだろうな」

警備を行うミスリル隊員の口調はどこにでもいる若者と変わらないものであったが、それでもこれが異常事態であることはわかっている。

ダナンそのものが一時的に行方不明になってしまっていたこともあるが、それ以上に地球連邦と敵対に近い形となってしまったこと、そして異世界からの兵器がやってくること、ありとあらゆるところが異例尽くしだ。

「よーし、行くぞ。まずは女神様の船の点検だ。サボんじゃねえぞ!」

「了解ー」

整備兵たちがさっそくダナンへと向かい、メンテナンスを開始する。

手の空いている兵士たちはヤマトやナデシコといった異世界の戦艦に目を引かれる。

「おいおい、なんだよあの戦艦。大昔の戦艦をそのまま今の技術でバージョンアップしたって感じがするぜ」

「じいさんが見せてくれた映画にあったな…確か、ヤマトって。まさか、異世界ではヤマトがよみがえって…」

「真っ二つになってなけりゃあ、あり得ただろうな。ま、俺たちの世界じゃあ無理な話だが」

何度かサルベージの計画が大昔からされていたかつての大和だが、今までの戦争やセカンドインパクトとゲッター汚染、そして長すぎる時間によってもはやサルベージすることはできないだろう。

記録映画でしか見ることはなかっただろう、大昔の日本の戦艦をモデルとした戦艦に興味が向けられる中で戦艦や機動兵器のメンテナンスも始められた。

 

-ネェル・アーガマ 艦長室-

「ううむ、ルオ商会からの補給でモビルスーツの頭数はどうにかなる…が、ここまで手ひどくやられるとは…」

補給物資やモビルスーツのリストと今回の戦闘での消耗を確認するオットーはため息をつく。

インダストリアル7での戦闘後に補給を受けたにもかかわらず、ジオンとGハウンドとの戦いで多くの機体が損傷・撃墜されている。

機動兵器やパイロットのすべてがアムロやキラのように優れているわけではない。

ロンド・ベルとして一般兵以上の訓練を受け、技量の水準も高いものの、それでも一般人から抜け出ているというわけではない。

その中で、Gハウンドとの戦闘が発生し、さらにはジオンの攻撃も受けた。

どうしても戦死・負傷するパイロットは出てきて、その分機体も消耗することになる。

失った機体をどうにかルオ商会から補給されたジェガンやリゼルなどで補うことになる。

中には1年前の機体であるリック・ディアスやディジェもあり、パイロットの中には機種転換訓練を受けさせなければならないだろう。

「彼らにだけ任せるわけにもいかん。我々も我々のできることをやらなければ…」

 

-ヤマト 格納庫-

メリダ島でようやく落ち着きを取り戻した中でも、格納庫では整備兵たちの奮闘が続く。

万能工作機がフル稼働していて、ミスリルやロンド・ベルから提供されたデータをもとにパーツや補充武装を作り上げていく。

「ふうう、にしてもまさか、加藤隊長の機体を一から作ることになるとはな。ま、相手が相手なんだから仕方ないが…」

クックタウンではコスモ・ゼロを借りて出撃した加藤だが、あくまでもコスモ・ゼロ2機は古代と玲の機体。

それに、加藤本人もそれ以上の機体を求めており、メリダ島で落ち着くことになる中で、ようやく建造の場所を手に入れることができた。

ヤマトの万能工作機で部品を作り出し、メリダ島の工房で組み立てていく。

榎本が持っている端末にはその機体の図面が表示されている。

「しかし…この世界のムーバブルフレームには驚いた。まさか、MCA構造が既に組み込まれているとは」

クロスボーンガンダムにも採用されているMCA構造はモビルスーツを構成するそれぞれの部材を単機能にはせず、構造材、電子機器、装甲としての機能を合わせ持つ構造だ。

サナリィがフレームと装甲にそれを採用することで、モビルスーツの小型化に成功しており、その結果として生まれたのがガンダムF90、そしてF91だ。

宇宙世紀世界のMCA構造はクロスボーンガンダムに採用されているほどの完成度ではないものの、それとムーバブルフレームを融合させたものとなっており、おそらくはそれがこの世界に存在するZガンダムなどの性能が新正暦世界のそれらよりも高い要因といえるが、MCA構造の完成度の問題から、小型化までには至っていない。

「この世界のムーバブルフレームもそうだが、私が気になるのはサイコフレームだな」

整備に立ち会っている真田が気になっているのはνガンダムやユニコーンガンダムに採用されているサイコフレームだ。

新正暦世界ではサイコフレームの存在だけはモビルスーツ開発史の教科書には乗っているが、現在ではなぜか製造データが一切存在せず、MCA構造にその名残が残っているだけだ。

チェーンの協力でνガンダムの機体データを万能工作機に入れることで、それを整備することは可能になったものの、その情報だけでは万能工作機でサイコフレームを精製することは不可能だった。

意図的に情報を隠しているのか、そもそもサイコフレームを作る力そのものが万能工作機に存在しないのか。

 

-メリダ島 会議室-

会議室には沖田をはじめとした現在合流している部隊の重鎮たちが集まり、席についている。

ミスリルの一般兵によって配布された資料を手にし、モニターの左半分には地球の地図が、右半分には宇宙の地図が表示される。

テレサとカリーニン、マデューカスが席を立ち、モニターを操作しながら発言を行う。

「メリダ島を出た後の今後の我々の動きですが、現在とるべき道としては2つが存在します。一つはGハウンドからの追跡から逃れるため、一度宇宙へ戻ることです」

「宇宙…ロンデニオンへ向かうということですか?」

「いえ、ロンデニオンについてはロンド・ベルの拠点の一つであり、今回のことで連邦の監視が強まる可能性が高いです。なので、テキサスコロニーを一時的な拠点とします」

「テキサスコロニー…もう二度と行くことはないと思っていたが…」

一年戦争において、軍事的価値が存在しないことから連邦からもジオンからも見捨てられたコロニー。

それが始まる前はミライの父親であり、ヤシマカンパニーのCEOを務めるシュウ・ヤシマが景気悪化によって建設が中断されていたところを私費で購入し、完成させていた。

かつてはテキサスという名前があったように、開拓期のアメリカを彷彿とさせる姿であったが、シュウの死と戦争の激化によって再び放置されることになって荒廃し、終戦後はサイド6条約に基づいてサイド5DMZ化されたことで連邦・ジオン双方の監視下となったが、結局その条約そのものが形骸化したことで再び見捨てられることになった。

隠れることだけを考えると、あまりどちらからの目の届かないそこにいてもいいのかもしれない。

ダナンを宇宙へ飛ばすためのマスドライバーがメリダ島には存在するため、ここからなら宇宙へ向かうのも容易だ。

「もう1つは香港へ向かうことです。そこにもミスリルの拠点があり、ルオ商会の庇護を受けることもできます」

「香港…距離を考えると一番安全ではあるが…」

「テキサスコロニーとは異なり、環境は申し分ありません。ですが、ミシェルさんからの情報では、現在は連邦からの圧力が強まっており、私たちがそこへ向かうことでより圧力を強める口実を与えてしまう可能性があります」

香港にはいつまでもいるつもりはないが、それでGハウンドが入り込む可能性は否定できない。

実際にグリプス戦役では香港で戦闘が発生してしまったのだから。

また、これは非公式の話ではあるが、ミスリルは西暦世界に飛ばされる前に現地でとあるテロ組織と戦闘を繰り広げている。

ルオ商会の本拠地とはいえ、完全に安心できる場所ではない。

「どちらへ向かうとしても、そこで腰をつけるわけにはいかん。我々にはやらねばならぬことがある。これ以上事態が悪化しないためにも…」

ヤマトをはじめとした異世界の兵器も、もはやこの世界の争いと無関係ではない。

そして、今ここで足を止めている間にも地球の寿命は縮まっているのだから。

 

-ガランシェール 艦橋-

「手ひどくやられたようだな、キャプテン」

モニターには映像が映らず、ただ声だけが届く形となっており、ジンネマンはその声の主の言葉を静かに聞いていた。

聞く人間によっては、その声はシャアと同じだという人もいるだろう。

だが、その声色は低く、冷静さやしたたかさが感じられるものとなっていた。

「申し訳ありません。結果としてロンド・ベルには逃げられました」

「気に病むことはない。今回のことを次の糧とすればいいだけのことだ。それよりも…何か不満があるようだな?」

「ええ…ガミラスと木星帝国と手を組んだことです。木星帝国はともかく、ガミラスと…異星人と手を組んだのはなぜです?」

「戦力として有用であり、彼らの技術が興味深い…。何よりも彼らは別世界からの転移というトラブルに遭い、困っているのだ。手を差し伸べるのは当然のことだろう」

「ですが、彼らは我々や連邦と交戦している。ラプラス宙域にいた彼らは皆…」

「それゆえに証明されただろう?彼らの力が。それに、幸い木星帝国は我々と同じ人間…。仲介役となってくれたことで交渉はスムーズに進んだ。もっとも、その異星人のトップが愚物だったということもあるがな」

声の主は通信越しではあるが、仲介役の木星帝国のトップであるカリストとガミラス艦隊ではなし崩しでリーダーとなったゲールと会談を行っている。

会談の中で感じたのはカリストの狂気、そしてゲールの無能さ。

だが、それを差し引いたとしても彼らの力を得たことはジオンにとっては僥倖だと声の主は判断したのだろう。

仮に彼以外が会談に臨んでいたら、このような結果はなかっただろうが。

「あのようなものを頼らずとも、ジオンの勝利は揺らぐことはないでしょう」

「そうやって我々は機会を逃してきた。ハマーン・カーンも、アクシズも…シャア・アズナブルも。これ以上の戦争は地球圏を崩壊させる。故に、もう失敗は許されない。私は全力をもって、この愚かしく続く戦争を終わらせる」

「その先は、どうなるのでしょうか…」

この声の主の手腕と、連邦を上回る力を手に入れたことで、ジオンの勝利は現実のものとなるだろう。

だが、ジンネマンにはその先の未来をイメージすることができない。

一年戦争から17年、ずっとこの戦いの連鎖の中で生きてきたジンネマンはすでにその空気に慣れてしまい、この状況を普通だとさえ思えてしまった。

その空気と狂気を持ち帰ることが嫌だったから、あれからずっと家に帰っていない。

そんな自分が果たして生き残ることができたとしても、その先の未来を『生きる』ことなどできるのだろうか。

「ガミラスと手を組んだのはそれを見据えてのこともある」

「と、おっしゃられると?」

「赤く醜い地球を捨て去ることができれば、我々は宇宙の海へと進出することができる。そのときに彼らの力が大きな助けとなる。そう考えれば、異世界のものであったとはいえ、地球外知的生命体とファーストコンタクトを果たせたのが我々であったのは啓示といえる」

「そういうものですか…」

かつて、青かったころの地球に対して、スペースノイドは嫉妬と憧れを抱いていただろう。

生きるための環境がすべて整っている地球を手にしたいという思いが強かっただろう。

だが、セカンドインパクトとゲッター汚染によってボロボロになった今の地球に対して、スペースノイドは興味を失っている。

それでも、地球の希少性から復興のために力を貸したコロニーも存在するが、ティターンズによる弾圧によって、その恩を仇で返された。

このことから地球をアースノイドともども完全に捨てて、その外に目を向けるスペースノイドも少なくないだろう。

「キャプテン、君にはいつも裏方を任せてしまい、申し訳ない。故に、今回は本音で語らせてもらった。どうだろう?そろそろキャプテンには艦を、できれば艦隊を任せたいのだが…」

長年にわたって指揮官として活躍してきたジンネマンなら、輸送艦でしかないガランシェールよりも戦艦を担うことも難しくない。

また、連邦にはブライトやケネスのような艦隊を指揮できる人材は存在するが、ジオンには相対的にそのような人材が少ない。

それに相当する能力のあるジンネマンがそれをやることができれば、ジオンにとって大きな助けとなり、ジンネマンとその部下の待遇も格段に良くなる。

サイド3に残している家族にも、楽をさせることができる。

「自分にはこのガランシェールがお似合いですよ」

「直接、連邦をこの手でたたくことに興味はないのかね?」

「…泥の中を這いずり回る時間が長すぎたのかもしれません。そのおかげか、前に出ることに億劫になってしまって…」

「無理強いをするつもりはない。その話は、直接会ってしよう」

「総帥が自ら来られるというのですか!?地球へ…」

「姫様のわがままをいさめる必要があるだろう。それに、親衛隊も新型機の試運転を地球でする必要がある。私のシナンジュも含めて。そちら方にはすでにその道のエキスパートを手配しているがな」

「エキスパート…」

「我々の到着とともに、補給を受けてもらう。それからロンド・ベルを追撃する。ガランシェールはこれから指定する座標で待機してくれ。では…キャプテン」

「ふうう…」

通信が切れ、艦長席の背もたれに身を任せる。

座標データが送られると、操舵手はさっそくガランシェールの進路をそちらに向ける。

「補給後に追撃、しかも親衛隊と総帥も同行…。異例中の異例ですな、キャプテン」

黄色いジャケットを着た茶色い若干癖のある髪をした青年、フラスト・スコール中尉にとっても、ガランシェールのクルー全員にとっても、輸送艦風情がこのような作戦に参加することになるのは初めてのことだ。

確かに戦力として、マリーダとクシャトリヤが存在することが大きいかもしれない。

それでも、元々は本隊とは行動せず、ゲリラ戦や回収任務といった作戦にかかわってばかりのガランシェールの部隊が本作戦に参加することは今までなく、ネオ・ジオン戦争中はグレミーの内乱にも、アクシズ落としにもかかわっていない。

そうする価値があると、今のジオンのリーダーとなっているあの男がジンネマンを評価したのか、それとももっと他に理由があるのか。

その答えは彼にしか出すことができない。

 

-メリダ島 地下模擬戦場-

「どうしたヨナ少尉!?この程度の動きではアームスレイヴのいい的だぞ!!」

ウルズチームの4機のアームスレイヴを相手とした模擬戦を開始したナラティブガンダムだが、2機のガーンズバックによるアサルトライフルのペイントが左腕のシールドを汚し、ファルケとアーバレストの接近を許す。

今のナラティブガンダムはジェガン用のビームライフルとシールドを装備し、バックパックには折りたたまれた状態のフィンファンネルというべき兵装2つがそのまま取り付けられている状態だ。

「リタ、インコムを!!」

「うん!」

νガンダムのフィンファンネルと比較するとやや大型化していて、推進剤供給用のケーブルが搭載されたそれがリタによる制御によって射出され、それらが狙撃のために足を止めたクルツのガーンズバックを襲う。

「ハッ、こんなオールレンジ攻撃、かわいいものだよ!」

最小限の出力で発射されるインコムのビームを軽くよけたマオは旋回しようとするインコムにアサルトライフルを撃ち込む。

ターゲットにされていたクルツもためらうことなくスナイパーライフルを放棄してその場を離れていた。

(このインコム…動きがよくない…!)

相手がモビルスーツよりも小型なアームスレイヴであることも大きいかもしれないが、リタにとってこのインコムはあまりできの良くない代物だ。

確かにサイズを大きくし、ケーブルによる推進剤の供給によって重力下でも問題なく運用できるのはいい。

しかし、そのために慣性モーメントの不利が生まれ、おまけにスラスターの位置もこれまで運用されたファンネルやインコムと比較すると限定されている。

そのせいで、ミスリルでも精鋭といえるウルズチームにはこのように簡単にあしらわれてしまう。

仮にサブパイロットなしでヨナが運用したとなったら、接近してくるアーバレストとファルケに気を取られ、より制御が乱雑になっていただろう。

ファルケが振るうクリムゾンエッジをどうにかシールドで食い止めるが、その間にアーバレストに右腕を撃たれてしまう。

(軍曹殿、ヨナ少尉のパイロットレベルは中の上、並のパイロット相手であれば善戦するでしょうが、軍曹殿たちと比較すると、やはり後れを取っているのは事実です)

「そうだな、今のままではとても生き残れない」

(仮に私に権限があるなら、ナラティブガンダムのメインパイロットを彼よりもガンダム・チームのいずれかにするのがよいと判断し、即座に実行しています)

アルのいう通り、ナラティブをノーマル装備にしたうえで、Mk-Ⅱを運用しているエルか、もしくは装備を今のままにしたうえで、かつてキュベレイを操縦したことのあるプルかプルツーにゆだねれば、ナラティブガンダムは今以上の動きになるだろう。

(だが…なんだ?この感じは…。あの機体が近いと、変な感じがする。ユニコーンに近い何かが…)

 

-ネェル・アーガマ 通信室-

「バイオメトリクス認証は解除できませんでした。ですが、ユニコーンガンダムの2つの形態の地上での戦闘データの収集に成功。例のモードについては制御できていないようですが、それでもジオンの強化人間が運用しているモビルスーツの撃退に成功。報告は以上です」

クックタウンでの戦闘から個室へ追いやられていたアルベルトはさっそく手に入れたデータを送信するとともに、通信相手の女性にデータには入れることのできなかった範囲の報告を口にする。

モニターに映るのはやや暗めの薄緑の長い髪をし、必要最小限の化粧でしわを隠しきった女性、マーサ・ビスト・カーバインにとって、この報告の多くが想定の範囲内といえた。

最も、ユニコーンさえ無事であれば、パイロットやロンド・ベルがどうなろうと関係なかったが。

「デストロイモードの稼働を確認できた。これで計画通りにことを進めることができるわ。連邦の総司令部もきっと喜ぶでしょう」

「やはり、あれは…」

マーサと通信をする中で、アルベルトはバナージが操縦する前のテスト中のユニコーンが起こした事故の映像を見せられていた。

インダストリアル7の宙域で極秘裏に行われた模擬戦で、仮想敵であるジェガンと交戦していた。

その時ユニコーンに搭載されたNT-Dは今のものではなく、ニュータイプや強化人間が相手でない状態でも使える、いわば疑似NT-Dといえるものが搭載されていた。

その模擬戦中に疑似NT-Dを発動したパイロットがそれを制御できずに暴走し、相手を皆殺しにしてしまった。

どうにかデストロイモードを解除し、回収されたときにはパイロットも肉体と精神が限界を迎え、既に死んでいる状態だった。

まだデストロイモードを、本来の仕様のNT-Dを制御しきれていないバナージも、もしかしたらそのパイロットと同じ運命をたどることになるかもしれない。

そうなった場合、ミスリルとロンド・ベルも暴走に巻き込まれることになる。

そうなるとどのような事態となるのか、アルベルトの表情が曇るが、マーサにはそのようなことは些末事だ。

「彼らは反逆者よ、そんなに気に病む必要はないわ」

「ですが、バナージは完全とは言えませんが、デストロイモードを制御しています」

「さすがは…ビスト家の人間ね」

「な…!?」

マーサの言葉が一瞬、ただの幻聴だと勘違いしかけるが、彼女の笑みが確かな言葉であることを感じさせる。

確かにバナージには父親の記録は存在しないが、だがバナージがビスト家とかかわりのある人間だとは思えない。

マーサの言葉が真実だとするなら、運命はどれだけ自分をあざ笑うというのか。

「バナージ・リンクスの母はアンナ・リンクス…。アンナ・リンクスはかつて、カーディアスの愛人だった女。そして、バナージ・リンクスは…あなたの異母兄弟よ。まぁ、どういう経緯かはわからないけれど、ユニコーンは彼の手に渡った。あれを使えるというなら、彼にも私のために働いてもらうわ」

きっと、地獄へ落ちたカーディアスは悔しがっていることだろう。

2人の息子が妹であるマーサによって操られ、彼女が望む世界を作る礎となる。

だが、それはビスト財団のさらなる発展のため。

サイアムとカーディアスの時代は終わっている。

「もっとも、あれが本当の力を発揮したその時には、彼という部品も破損することになるかもしれないけれど」

「しかし…そのようなことになったら、ユニコーンを操縦できるパイロットはいなくなってしまいます!!」

「心配いらないわ。強化人間を用意すればいいだけの話。そして…ニュータイプを、スペースノイドをせん滅する力になってもらうの…」

「待ってください、おばさん!!我々の目的はこの戦争の継続のはず!せん滅したら、もう戦争は…」

アナハイムの利益のため、戦争は継続していく。

これはマーサとアナハイムの方針であり、そのために連邦にもジオンにも便宜を図り続けてきた。

その過程で特にジオンからは多くの技術を手に入れることができ、それと引き換えにジオンには兵器生産などで協力してきた。

ジオニック社、ツィマット社、MIPなど、ジオンにも優れた企業が存在し、彼らの力によって一年戦争では数多くのモビルスーツや兵器を生み出してきた。

しかし、企業の規模はアナハイムには劣り、生産量もジオンすべての会社が競合したとしてもかなわない。

だからこそ、アナハイムの助力によって物量の差を埋めていくことができた。

ジオン由来の企業はいい顔をしないだろうが、技術力だけで言えばサイコフレームを完成させたことも考えるとジオンの方が進んでいることは確かなことだ。

その技術を手に入れ、金を稼ぎ続ける今の循環をマーサは叩き潰そうとしている。

そんなことをしたら、アナハイムにとって痛手といえるのに、なぜ。

「方針が変わったの。アナハイムは…連邦につくわ」

「そんな…そのようなことをしたら、『組織』は…」

アナハイムのこのシステムを生み出すことを提案した『組織』の意向をも背く判断をしたマーサが信じられなかった。

『組織』は決して裏切り者を許さない。

マーサも、アルベルトも、最悪アナハイムもいかなる手段を用いてでも排除するだろう。

「いいの。我々は脱退するつもりだから」

「なん…ですと…!?」

「私に…あの若造の下につけ、そういいたいのかしら…?」

マーサの脳裏に浮かぶ、女のような銀髪をしたあの少年。

20にもなっていないそんな少年がネオ・ジオン戦争に突入してから『組織』で頭角を現していき、その勢いはマーサをしのぎかねないほど。

何度も顔を合わせたことのある彼女は彼の目が気に入らない。

何もかもを見下し、格下とみなすその目をつぶしてやりたいと何度思ったことか。

あの目はかつて、ビスト財団のために自分の父親を殺したサイアムと、そのサイアムのために力を尽くし、当主となったカーディアスと同じに見えた。

その怒りが爪が食い込むほどの力を産み、彼女の顔に般若を宿す。

そんな彼女にアルベルトは何も言い返すことができなかった。

「ロンド・ベルもミスリルもいずれ壊滅するわ。あとはイレギュラーを接収して、ジオンとの決戦よ」

アナハイムにすでに技術のある現行の機動兵器や戦艦には興味ないが、それよりも異世界の兵器の技術に関しては興味がある。

それらを手に入れ、その技術を組み込んだ兵器を開発することで、ジオンを完全消滅させることは容易だ。

そして、戦後の体制においてもアナハイムとビスト財団の地位も盤石なものとなる。

「…」

「何も心配いらないわ。いずれ私は『組織』を…アマルガムさえ手に入れるつもりだから。ミスタ・Agの…あの小僧の思う通りにはさせないわ。このミス・Cがね…」

「そう、ですか…。それから、もう1つ報告が、例の消息不明のサイコフレームについてです。RX-9…ナラティブガンダムと名付けられたそれはルオ商会が持っていて、ロンド・ベルの手に渡りました」

「あのテスト機がルオ商会に…?あいつがやったのかしら…?」

ナラティブガンダムの消息が分からなくなったことをマーサらが認知したのは1週間前。

それまでは確かにナラティブガンダムが記録上、フォン・ブラウン支社の倉庫に死蔵されていることになっていた。

だが、そこにあったのはダミーであり、そのことが分かってからは血眼になって捜索を続けた。

あくまでもテスト機であるものの、サイコフレームを搭載しているその機体がほかの勢力に奪われ、なおかつサイコフレームを解析・再現までされてはせっかくの技術的優位を損なう可能性が高い。

アマルガムに技術を回していないため、奴らに奪われた可能性も頭をよぎったが、それがなかったとわかっただけでもマシだ。

だが、どのようにしてルオ商会が手に入れたのかが謎だ。

鍵を握るのはやはりカーディアスだが、彼はすでに死んでおり、彼が所有していたデータバンクにも証拠が何一つない。

(ルオ商会には奇跡の子供たちがいる…。となると、サイコフレームを生かすことができる可能性が…)

「いかがします?必要なら、接収も…」

「問題ないわ。ルオ商会が持っていたということが分かっただけで十分よ。証拠を探さなければならないけど、もうこの機体そのものに価値はないわ。ロンド・ベルと運命を共にしてもらいましょう」

通信が切れ、緊張の糸が切れたアルベルトが背もたれに身を任せる。

後ろめたさはあるが、ロンド・ベルとともにいる義理がない以上は出ていっても問題はない。

それよりも問題なのはアナハイムとアマルガムの関係が切れること。

宇宙世紀が始まる前から暗躍し、地球と宇宙を影で操り続けてきた組織。

マーサを介してその組織について少しだけ聞いているアルベルトさえも、その組織に弓を引くとどのような未来が待っているかはわかる。

(しかし…カーディアス・ビストも面倒なことをしてくれたものだ…)

ナラティブガンダムのこともそうだが、ユニコーンガンダムにあのような細工を施した上に息子であるバナージに生体認証までした上に託すとは。

自動ドアが開き、ダグザが入ってくる。

「話は終わりましたかな?」

「ノックもなしに失礼な…!」

「それは失礼いたしました。何しろ、反逆者なものでしてな」

ギッと奥歯をかみしめたアルベルトは白々しいダグザをにらむ。

彼が率いるエコーズのせいで、さらに事態がややこしくなってしまった。

心変わりなどせずに、忠実に動いてくれればこのような事態を避け、自分は無事にマーサの元へ帰ることができたのに。

「何の用だ!?」

「ユニコーンについて、知っていることをすべて話してもらいます」

「戦局を変えうる力を持つ新型のガンダム…フルサイコフレームの実験機。状況によってはリミッターが解除され、デストロイモードが発動する。私が知っていることはそれぐらいだ!!」

「…」

「君が何を知りたいのかは知らんが、私にできるのはここまでだ!!」

どこまでも見透かすかのような視線に耐えられず、アルベルトが顔を背ける。

視線を維持するダグザだが、彼もアルベルトがここから先のことを話せるほどの度量がないことくらいわかっている。

自白剤を使うことも頭をよぎったが、彼からはそこまでする価値が感じられない。

だが、ダグザは己が感じる矛盾を払しょくすることができない。

(戦力を接収したいはずのロンド・ベルに預けられた新型モビルスーツ、ユニコーン…)

仮にアルベルトが言うだけの力があるというなら、ロンド・ベルではなくGハウンドに預けられてしかるべき代物だ。

パイロットについても、ロンド・ベルと比較するとニュータイプのパイロットが少ないが、ペーネロペーのパイロットであるレーンが乗り込めば、もしかしたら扱えるかもしれない。

(一体、彼らは何を考えている…??)

 

-ガランシェール ブリッジ-

「キャプテン、内通者から連絡です。例のミスリルの拠点の座標が届きました。これから表示します」

フラストの操作で、モニターに地球の地図が表示され、その座標の個所が点滅する。

これで、ミスリルの最高機密がジオンに知られることになり、そこに逃げ込んだであろうロンド・ベルへの攻撃も可能になる。

「それにしても、驚きましたね。ロンド・ベルの協力者であるミスリルの中に裏切り者なんて」

「おかしい話ではないだろう。奴らは傭兵集団だ。俺たちのような軍隊じゃない」

ミスリルには階級制度が存在し、それに基づいて報酬が支給される仕組みとなっているが、その実態はスポンサーであるマロリー財団が世界中からかき集めた精鋭によって構成された傭兵集団であり、国家への忠誠は存在しない。

実際、ミスリルの所属している兵士は表向きではミスリルが用意した数多くのダミー企業のどこかの社員という形となっており、宗介をはじめとした陸戦部隊はアルギュロス警備会社に、艦船のクルーはウマンタック海運会社に所属していることになっていて、下級士官である宗介への報酬は中堅プロ野球選手並だ。

あくまでも金で雇われているだけならば、それを上回る金を渡すことでそのまま寝返る人間がいてもおかしくない。

ただ、国家への忠誠も最近では金で転がるようで、ネオ・ジオン戦争でアクシズを取り戻した時も連邦政府官僚を金塊で納得させている。

「本隊から受け取ったクシャトリヤの新装備については調子はどうだ?」

「問題ありません、あとはマリーダの状態次第です」

「わかった。お前ら、気を引き締めろよ。相手はあのミスリルも入っているからな」

場所を特定できたとはいえ、ミスリルの兵士の実力は下手をすると連邦やジオンのレンジャー部隊以上であり、生半可な兵士では全く相手にならないだろう。

だが、こちらも生半可に17年も戦い続けてきたわけではない。

それに、本気でミスリルをつぶすつもりなのであろう、本隊やガミラス、木星帝国などの多くの戦力が集結している。

(この戦いでロンド・ベルもろともミスリルをつぶす。そして、Gハウンドも…)




機体名:ナラティブガンダム
形式番号:RX-9
建造:アナハイム・エレクトロニクス社
全高:21.1メートル
全備重量:40.2トン
武装:バルカン砲
主なパイロット:ヨナ・バシュタ(メイン)、リタ・ベルナル(サブ)

アナハイム・エレクトロニクス社がシャア・アズナブルから提供されたサイコフレームの実用性の検証を目的に開発したモビルスーツ。
形式番号が通常則から外れている理由もあくまでも戦闘用ではなく、データ収集用であるためで、バルカン砲以外の固定武装が存在せず、コアファイターを搭載しているために全周囲モニターも不採用となっている。
本機で収集されたモビルスーツに搭載した状態でのサイコフレームの稼働データがνガンダムに生かされ、テスト終了後は死蔵されていた。
それをビスト財団当主のカーディアス・ビストが極秘裏にルオ商会のミシェル・ルオに提供し、彼女の手でロンド・ベルに配備された。
なお、サイコフレームを搭載していることからニュータイプによる運用が求められるものの、ヨナでは不十分であることからニュータイプであるリタ・ベルナルがコ・パイとして乗り込むことで補っている。
なお、カーディアス・ビストがどのような目的で本機がミシェルに譲渡されたかは不明であり、ハードウェア・スペック不足については今後オプションパーツの追加・換装によって補うことになっている。

カスタムボーナス
移動力+1、強化パーツのスロット+1

精神コマント
ヨナ
閃き、狙撃、直感、気合、突撃、魂

リタ
先見、祝福、応援、集中、補給、愛

エースボーナス
ヨナ
リタのSP+30、気力150以上でヨナとリタのSP回復量+10

特殊技能
ヨナ
????、援護攻撃L1、援護防御L1、ガード

リタ
ニュータイプ、SP回復

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