形式番号:RGZ-95
建造:アナハイム・エレクトロニクス社
全高:20.5メートル
全備重量:60.5トン
武装:60mmバルカン砲、グレネードランチャー(ビームサーベルと選択可能)、シールド(ビームキャノン内臓)、ビームライフル(メガビームランチャーと選択可能)
主なパイロット:地球連邦軍(宇宙世紀世界)兵
宇宙世紀世界における地球連邦軍で正式採用された量産型可変モビルスーツ。
正式名称は「リファイン・ゼータ・エスコート・リーダー」で、ZⅡの量産型にあたる。
かつて、Zガンダムの量産型として開発されたものの、高コストとピーキーな操縦性を解消できなかったリ・ガズィの失敗を反省し、一部内装をジェガンと同規格としたうえで、ZⅡに近い変形機構を採用したことでコストダウンに成功、限界性能抑制用のリミッターと新型OSによるコントロールサポートを取り入れたことで新兵から熟練兵も調整したうえで運用できる懐の広さを獲得した。
なお、新正暦世界でも運用されている記録があるものの、正式採用が第2次ネオ・ジオン戦争と前後しており、当時が大規模な戦闘が起こらなくなった時期となり、軍縮が加速していた時期であることからジェガンと比較すると運用された記録が少ない。
-オーストラリア クックタウン近辺-
「へえ、ロンド・ベルとGハウンドが食い合いか…。ま、水と油じゃあぶつかり合うのも必然だな」
偵察から帰ってきた部下からコーヒーと一緒にもらったタブレット端末で戦闘を行う2つの部隊の姿を見るフレッドはあまり驚いた様子がなく、むしろ楽しそうにしている。
上層部から白眼視され、かつてのエゥーゴとカラバが発展したロンド・ベルとティターンズの再来といえるGハウンドは2年前にグリプス戦役でぶつかり合ったことでいがみ合っていることは明白だ。
ジオンにとってはどちらも敵であることには変わりなく、互いにつぶしあってくれることは都合のいい話だ。
「ラカン、漁夫の利を得るにはいい状況じゃないか?上からの援軍も到着したんだ」
「貴様に言われんでもわかってる!多くの同胞の命を奪い、我々を抑え続けたロンド・ベルもGハウンドもここで始末してくれる」
「血気盛んなのはいいことだが、それだけじゃあ勝てねえよ」
「なんだと!!」
「やめろ、馬鹿ども。いい年齢をして喧嘩なんて情けないことをするな。部下にみられるぞ」
このままでは取っ組み合いを演じかねない2人にため息をつき、顎と口元に分厚く髭を生やし、日焼けした肌の大柄な男が制止をかける。
軍服を身にまとうラカンとノーマルスーツ姿のフレッドとも異なり、茶色いコートと緑の分厚いダウンを重ね着した様相をしていて、見てくれだけを見ると軍人とは思えない姿だ。
最も、彼が運用している航宙貨物船も軍艦には見えず、民間の輸送艦に偽装していることからこのほうがちょうどいいのかもしれないが。
「ふん…!インダストリアル7で任務に失敗したうえ、護衛を行っていた姫様を奪われる失態を犯した貴様が援軍とはな。スベロア・ジンネマン大尉」
にらみつけたうえで悪態をつくラカンはジンネマンという男を好んでいない。
艦長、白兵戦、ゲリラ戦における優秀な指揮官であり、ラカンと同じく一年戦争の時代から戦い続けた猛者であることはラカンも認めている。
だが、彼が運用する輸送艦であるガランシェールが前線向きの艦ではないことから潜入や輸送、攪乱といった正攻法で戦うものではない。
そして、ラカンが何よりもジンネマンを嫌っているのは自分と似たものが感じられないこと、そして彼にそばにいる女性の存在だ。
長い栗色の髪と蒼い目をしたその少女、マリーダ・クルス。
彼女を見ると、ラカンは嫌でも2人の少女の姿と重ねてしまう。
どちらもスペースノイド独立の力となりえる存在であったにもかかわらず、ジュドーに心奪われ、あろうことか連邦に寝返ったうえに、アクシズ落としにおいてもエゥーゴの部隊の一員として戦っていたという。
彼女たちとマリーダはあまり似ているようには見えないが、なぜか彼女は危険だと直感が警告している。
「そう言ってくれるな。『大佐』からその失態を払しょくするチャンスを与えてくれた。足は引っ張らん」
「ふん!どうだろうな。その女なしでは何もできん分際で」
「貴様…」
ジンネマンを侮辱されたことに腹を立て、前に出ようとするマリーダをジンネマンが腕で阻み、制止する。
「ラカン、俺よりも気にすべき援軍がいるだろう。緑の戦闘機と戦艦、そして分けのわからんモビルスーツたちの存在を忘れるな」
作戦を立てるため、マリーダとともにガランシェールへと戻っていく。
ジンネマンの後ろ姿に舌打ちするラカンだが、ジンネマンのいう通りだということも分かっていた。
衛星軌道上で交戦していた連邦と同胞双方を攻撃し、全滅させた謎の艦隊。
『大佐』とその艦隊の指揮官がどのような話をしたかはわからないが、こちらの部隊を全滅させた彼らをどうしても信用できないのは確かだ。
協力関係となったにもかかわらず、彼らの部隊の全容をほとんど知ることができない。
ラカンとフレッドはつい先ほどまで、その艦隊の艦の一隻に入ることができた。
だが、案内されたのは格納庫のみで、見ることができたのは彼らの一部隊というモビルスーツのみだ。
連邦のものとも、ジオンのものとも違ういびつな構造のモビルスーツの姿に、住む世界が違うとモビルスーツもこれほどまで違うのかと驚いたことを覚えている。
何よりも気になるのは鳥のような姿のモビルスーツ、コルグニスだ。
その機体についての説明はほとんどなく、総統専用のモビルスーツであることだけ言われている。
その総統といわれるカリストというのは強化人間かと予測したが、彼を実際にこの目で見ることはかなわなかったことからそう憶測することしかできない。
「気になるが、これからは嫌というほど見ることができるんだろうな…。奴らの戦いというやつを。できれば、こいつらと一緒に宇宙に来い、なんていうのは御免だぜ。俺のイフリート・シュナイドは地上専用だからよ」
「ふん…貴様と宇宙など、いやな冗談だ。もうすぐ作戦時間だ。せいぜい遅れるなよ」
そう言い残し、ラカンは愛機であるドーベンウルフの整備が行われているガランシェールへと向かう。
一人残ったフレッドはコーヒーを飲み干し、愛機に乗り込んだ。
-オーストラリア クックタウン-
「くははははは!!ようやく地獄に帰ってきたかぁ!カミーユ・ビダン!!」
「カ、ミーユ…さん??」
雑音の中から聞こえるヤザンの声から聞こえたとある男の名前にジュドーは驚きを隠せない。
そんな中で、ZZを拘束していた海ヘビがビームによって断ち切られる。
「ちいい…あと少しというときに!」
「動けるか!?ジュドー・アーシタ!」
「刹那さんか!?悪い、助かったぜ!!」
海ヘビの呪縛から解放されたZZが反撃と言わんばかりにハンブラビに向けてミサイルを放つ。
「けっ…さすがに2機相手は分が悪いか」
おまけに増援としてやってきたダブルオークアンタが盾からナイフのような形をした奇妙なファンネルを射出してきている。
ファンネルへの対抗策の少ないハンブラビでは鴨葱になる。
接近戦に持ち込むにしても、剣を大っぴらに持っているうえに、そのファンネルの形状から見ると、おそらくはファンネルそのものが接近戦が可能な設計となっているはず。
ヤザンの脳裏に勝つイメージがわかない以上は相手を変えるだけ。
モビルアーマー形態に変形したハンブラビがその場から離れていく。
「下がっていく…」
「ジュドー!!」
ドダイ改に乗った百式とMk-Ⅱがやってきて、Mk-Ⅱが接触回線を開く。
「悪い…相手は、ヤザンさんだ…」
「ええ…!?本当にあれがヤザンさんなの?信じられない…」
「ああ、けれど…それよりも信じられないのは…」
「カミーユ…本当にお前なのか?」
アムロの脳裏に残るカミーユの最後の姿は心を砕かれ、虚ろな表情でどこか遠くを見ていて、誰の声にも反応しない様子だった。
カミーユ・ビダン、3年前のグリプス戦役で地球圏の偵察という名目でエゥーゴに参加していたシャアから期待された史上最高のニュータイプ能力を持つ少年。
その力を持って、現在はルーが乗っているZガンダムのバイオセンサーを介して圧倒的な力を発揮して見せた。
しかし、カミーユにとって不幸だったのは両親との関係が最悪だったこと、そしてグリプス戦役で多くの悲劇を目の当たりにしてしまったことだ。
仕事人間の夫婦であるフランクリン・ビダンとヒルダ・ビダンの間に生まれ、サイド7のグリーン・ノアで生活していた彼だが、彼には両親との温かい思い出がほとんどない。
あるとしたら、幼いころに母親に公園に連れて行ってもらうなど、かわいがってもらっていた時くらいだ。
フランクリンはマルガリータという愛人を作り、ヒルダは仕事の邪魔をされたくないとそれを知りながら黙認するありさま。
挙句の果てに2人とも家に帰ってくることがめったになく、時折帰ってきたとしても自室で仕事をする毎日。
家で一人でいる時間が多いことを不憫に思ったユイリィの両親の世話になることが多かった。
おまけに学校では自分の中性的な容姿からレズビアン呼ばわりされたうえ、カミーユは女の名前だと馬鹿にされる毎日。
そんな鬱屈とした毎日の中でカミーユの繊細で起伏の激しい性格が形成されていき、空手や一人用飛行機であるホモアビス、ジュニア・モビルスーツといった男性的な趣味に走っていた。
それができたのは両親から小遣いとして普通の子供に対しては考えられないくらいの金をもらっていたからで、これは両親からの自分たちに口出しせず、反抗させないための枷という一面もあったことは想像に難しくない。
ささやかな抵抗として、カミーユは両親がいない時間に彼らの部屋に入ることがあり、そこで彼らが開発にかかわっているMk-Ⅱの存在を知り、その操縦方法などを把握していた。
そして、そんな普通の少年少女とは違う日常を送っていたカミーユの日常を一変させたのは当時ティターンズの士官だったジェリドと出会ったことだ。
Mk-Ⅱのテストパイロットとしてグリーン・ノアにやってきたジェリドは偶然、当時はテンプテーションという連絡船の船長という閑職に左遷されていたブライト、そして彼からサインをもらおうとユイリィとともに軍港にやってきたカミーユと鉢合わせとなる。
ティターンズに入り、Mk-Ⅱのテストパイロットとなったことで調子に乗っていたジェリドはカミーユを妨害し、ブライトよりも自分のサインの方が価値があるなど、ブライトを馬鹿にする発言をした。
ジェリドの脳裏にそれへの反撃としてカミーユが言っていた言葉がよみがえる。
「優れているのは戦闘技術だけで、人格は問われないんですね」
「そうだ…カミーユ、女みたいな名前だと馬鹿にした俺に、こいつは…!!」
おまけに、横暴なティターンズをグリーン・ノアの人々も嫌っているといわれ、ついに我慢が限界に達したジェリドはカミーユを殴ろうとするが、それをかわされた上にカウンターで腹にきつい一撃を浴びる羽目になった。
そのことにより、カミーユはMPに拘束され、ユイリィも巻き添えとなってしまった。
当初は軍人であるジェリドに一撃を浴びせたことや男性的な趣味からエゥーゴとの関係性が疑われ、暴力を受けながらの尋問となったが、フランクリンとヒルダがティターンズに協力していたことから釈放されることになった。
だが、軍とかかわりのないユイリィに対してはひどかった。
調べるためといわれて衣類をすべてはぎとられた状態で尋問を受け、体を触られた。
もし、ジェリドがMk-Ⅱの墜落事故を起こし、さらにはシャア率いるエゥーゴのモビルスーツ部隊の襲撃による混乱が起こらなければ、ユイリィは慰み者にされた上に別の軍施設へ連行されていたかもしれない。
脱出した2人は混乱の中で墜落事故を起こした責任を問われ、別のコロニーへ連れていかれたジェリドに代わってMk-Ⅱに乗り込んだ彼の友人であるカクリコン・カークラーによって、ブライトが殺されそうになっているところを目撃。
ブライトを救うため、カミーユは格納庫に置かれたままになっていたもう1機のMk-Ⅱに乗り込んでブライトを救出、同時に遭遇することになったシャアたちと成り行きで協力することになり、そのままエゥーゴに参加することとなった。
資料を盗み見していて、Mk-Ⅱそのものの操縦性が良好であったとはいえ、ティターンズをはじめとした一般兵をはるかに上回る操縦センスの高さやシャアが潜入時に感じたニュータイプとしての感覚から、アムロの再来として期待された。
だが、この行為がきっかけとなってヒルダが人質にされ、カプセルに入れられた状態で宇宙空間に放出されてしまう。
カミーユが助けに行ったとき、彼女の入っていたカプセルを爆弾だと聞いていたジェリドによってヒルダは殺害され、間を置かずに今度はフランクリンの死を目撃することとなってしまった。
冷たかったとはいえ、それでも肉親であった2人の理不尽な死を目撃したカミーユは心に深い傷を負い、同時にティターンズへの深い憎しみを抱くこととなった。
そこから、エゥーゴに協力していき、ジャブロー奇襲作戦やグラナダへのティターンズによるコロニー落としの阻止、キリマンジャロ基地攻略作戦、ダカール演説支援などの数多くの作戦に参加し、多くの戦果を挙げることになった。
しかし、その中で敵味方関係なく大勢の人の死を感じることになり、敵兵の死を悲しむことができてしまうカミーユの心は疲弊していく。
そして、ティターンズの強化人間であったが、成り行きでカミーユと心を通わせることとなったフォウ・ムラサメやロザミア・バダムの死もカミーユの心を容赦なく壊していく。
それがよくわかるエピソードとして、これはユイリィ達は知らないことだが、元ティターンズであった女性軍人で、エゥーゴに参加したエマ・シーンが思いを寄せていた男性であるヘンケン・ベッケナーが戦死したことで、戦場にいるにもかかわらず呆然としていたところを助けに来た時だ。
宇宙空間に出て、エマに声をかけていたカミーユはあろうことか息苦しいからと自身のバイザーを上げるという危険な行動をした。
目の前でそれを見たエマは確かに正気に戻ることができたが、カミーユのその異常な行動からこのままでは彼が限界に来てしまうことを感じただろう。
そして、カミーユはグリプス戦役の黒幕の一人であり、木星資源採掘船ジュピトリスの艦長であるパプテマス・シロッコを討ち取った際、彼が放つ強烈な思念によってとどめを刺されることになり、カミーユの精神は崩壊した。
そして、シャングリラの病院へ連れていかれることになったカミーユとアーガマへ向かおうとしていたジュドー達が出会うこととなった。
「あのモビルスーツ…Zガンダムもどきが、隠し玉がロンド・ベルにあったというのか!?」
このままではその機体によってジェリドが撃墜されてしまうと思ったレーンはアムロとハサウェイを無視し、ZⅡの元へと飛んでいく。
ペーネロペーに対して、アムロは何発かビームライフルを撃つものの、圧倒的なスピードと高度の前には太刀打ちできなかった。
「くそ!!」
「ヴァングレイで奴を追います!アムロ大尉はハサウェイを!!」
機動力のあるヴァングレイでも、Ξガンダムやペーネロペーにはかなわないが、何もしないわけにはいかない。
ソウジ達が追いかけるのを見送ったアムロは傷ついたΞガンダムに近づき、接触回線を開く。
「大丈夫か!?ハサウェイ!ハサウェイ!!」
「アムロ…さん…」
とっさに片腕でコックピットブロックを守っていたおかげか、その部分は傷ついていない。
戦闘継続するとしても、この傷ついた機体では持ち味である高機動力を発揮することは難しい。
「ハサウェイ、一度ネェル・アーガマへ戻るぞ。立てるな」
「は、はい…すみません、Ξガンダムを…」
「相手が相手だ、やむを得ないさ。だが…うん??」
νガンダムのセンサーが別方向からの新たな部隊を補足する。
Gハウンドの増援かと思ったが、次々と現れる反応がその判断を一変させる。
「これは…!!全員聞け!ジオンと…ガミラスが来る!!」
「何!?」
「ガミラスが…!?」
南方からやってくるドーベン・ウルフとイフリート・シュナイドを中心としたジオンのモビルスーツ部隊が地上から進軍し、その上空にはメランカやツヴァルケといった戦闘機にポルメリア級、デストリア級といった戦艦の姿もある。
「艦長!!」
「ガミラスめ…よもや、ジオンと手を組むとは…」
衛星軌道上で連邦とジオン双方を攻撃し、皆殺しにしたガミラスがジオンと組したことは沖田の中にあった最悪のパターンだ。
物量では相対的に現状の連邦軍を上回りながらも、連邦にとどめを刺すに至っていないジオンにとって、ガミラスの力はさぞ魅力的に見えたのだろう。
先行するメランカが空対地ミサイルを発射し、地上にいるロンド・ベルとGハウンドのモビルスーツ部隊を襲撃する。
ミサイルの雨の中でグスタフ・カールやジェガンが炎の中で爆散し、その残骸をジオンと木星帝国のモビルスーツが踏みつける。
彼らよりも後方にはジンネマンがいるガランシェールの姿があり、格納庫からはゲルググに似た頭をした四枚羽根が両腕部分についた緑色の大型モビルスーツが降下の準備を終えていた。
「いいか、マリーダ。今のクシャトリヤの装備はデータ不足の試作品だ。ファンネルミサイルは大丈夫だが、それ以外に不具合があると感じたらすぐに下がれ、いいな?」
「了解です、マスター」
「マスターはよせ」
「出撃準備よし、降下、いつでもいけます!」
「了解、マリーダ・クルス。クシャトリヤ、地上装備で出撃する!」
クシャトリヤがガランシェールから発進し、ある程度高度を下げた後で4枚羽根のバインダーを展開し、飛行を開始する。
「…!?この感覚は…」
ユニコーンガンダムで出撃し、地上からハイパーバズーカで接近してくるGハウンドを迎撃するバナージに覚えのある感覚が襲う。
インダストリアル7で感じた2つの感覚。
1つは今はネェル・アーガマに乗っている、自分の運命を動かした少女。
もう1つは彼女と街を歩いているときに遭遇した、彼女を連れ戻そうとした女性、そしてユニコーンガンダムに初めて乗った時に戦ったモビルスーツ、クシャトリヤから感じたもの。
「え…?プル、プルツー…」
「どうしたの!?ジュドー!」
ジュドーもまた、近づいてくる感覚から2人の少女が頭に浮かぶ。
成り行きでZZのパイロットとしてエゥーゴに参加したばかりの頃、とある事件がきっかけでジオンにつかまってしまった妹のリィナを助けるため、ジュドーは彼女がいるであろうアクシズに単独で侵入した。
その時に出会ったエルピー・プルは10歳の少女で、アクシズで生まれ育ったニュータイプだった。
偶然の出会いだったが、プルはジュドーに懐くことになり、そのことがきっかけで後にネオ・ジオンが起こした地球降下作戦の際にジュドーと戦場で再会したとき、様々な要因があったとはいえ、彼に保護されることになり、そのまま表向きは捕虜として、実質的にはガンダム・チームの一員としてエゥーゴに寝返ることになった。
そして、地球各地での戦いでジュドー達をサポートし続けた彼女だが、ダブリンでの戦いでもう1人の自分といえる存在であるプルツーと出会い、戦うことになる。
実をいうと、プルはアクシズでひそかに行われたニュータイプ部隊計画の核といえる存在で、ニュータイプとしての素質を持つ彼女のクローンが少なくとも11体作り出されており、プルツーはその1人だった。
己のクローンと戦うことになり、ジュドーをかばう形で命を落としかけたものの、アムロに助けられる形で間一髪、一命をとりとめることになった。
その戦いはプルツーにも影響を与えており、もう1人の自分といえるプルの存在、そして彼女と戦ったことがプルツーの心に強烈な何かを残した。
そして、何度も戦場でジュドー達とぶつかり合うことになったが、最後はエルピーの説得によってジュドーの元へと向かった。
なお、プルツーはあくまでもコードネームに近いことから新しい名前を考えようということになっているが、呼ばれ慣れていることや平和になってから考えたいという理由で現在は保留になっている。
その2人はここにいるはずがない。
チェーンから聞いた話が正しければ、今は2人とも、ブライトやネェル・アーガマの元クルーとともに新型艦のところへ行っているはずだ。
だとしたら、この感覚はエルピーのほかのクローンのものなのか。
ジュドーは機体のダメージをチェックする。
ダブルビームライフルの機能は回復していないが、それ以外の兵装はどうにか使える状態だ。
「エル、ビーチャ!2人はネェル・アーガマの直掩に!ヤバイのが来る…!」
「やばいのって…いったいどうしたの!」
「いいから戻れ!ネェル・アーガマの守りを厚くするんだ!!」
そう言い残したジュドーはZZをジオンとガミラスの部隊のいる方向に向けて飛ばしていく。
おいて行かれた2人はやむなく、ジュドーの言葉に従う形でネェル・アーガマへと向かう。
(ジュドー…死ぬなよ!)
(Gハウンドにジオン、そしてガミラスっていう軍隊…。私たちの世界、いったいどうなっちゃうの!?)
「敵部隊を沈黙させる…!」
上空を飛ぶクシャトリヤが左腕に装着されているビームガトリングガンをロンド・ベルとGハウンドのモビルスーツ部隊に向けて発射する。
ビームの弾幕にさらされ、ジェガンとグスタフ・カールは突然の攻撃に対応することができないままサブフライトシステムともども火を噴き、地上へと落ちていく。
「よし…ビームガトリングガンの状態は良好。あとは試作バインダーの状態だな…」
重力下で使えないファンネルを排除し、熱核ジェットエンジンの機能を追求した新たなバインダーの力によって獲得した飛行能力。
ロンド・ベルとGハウンドがそれぞれ1機ずつ所有しているというミノフスキークラフト搭載モビルスーツには負けるが、それでもバイアラン以上の速さと飛行能力は手に入れている。
それに、ファンネルを使わない分、マリーダ本人への負担も軽い。
「インダストリアル7の四枚羽根!?仲間の仇を!!」
ロンド・ベルのスタークジェガンがハイパーバズーカを放ち、ドダイ改に乗った状態でクシャトリヤに接近する。
インダストリアル7で多くの仲間を彼女によって討たれており、彼にとっては敵討ちのチャンスであった。
見慣れないバインダーを持っている様子で、先ほどの戦闘を見るとあれほど多用していたファンネルを使っていない。
サイズは同じだが、やや大振りな動きを見せる相手。
小回りの利くジェガンであれば、あるいは。
ドダイ改のスラスター出力を最大に設定したうえでスタークジェガンが飛び出していく。
軽くなったドダイ改は一直線にクシャトリヤに向けて飛んでいく。
「ちぃ…!!」
頭部のバルカンを放ち、突っ込んでくるドダイ改を鉄くずに変える中、真上をとったスタークジェガンが両肩のミサイルポッドを全弾発射しつつ、右手のビームサーベルを突き出してクシャトリヤに迫る。
やった、と勝利を確認したスタークジェガンのパイロットはニヤリとする。
これで仲間の仇を打てると確信した彼だが、彼の機体は側面からやってくる光に包まれ、彼の意識もそこで消えてしまう。
「マリーダの頭を狙った奴の撃破、成功しました」
「よくやった。引き続き、スキウレで警戒にあたれ」
「了解」
ガランシェールのモニターで、マリーダの無事を確認したジンネマンはほかのジオン、およびガミラスの部隊の動きを確認する。
先ほどのスタークジェガンはガランシェールに搭載されているスキウレ砲による狙撃によって静めることができたが、彼女の近くにはガミラスの戦闘機やジオンの地上部隊もいた。
地上部隊については対空装備を持つ機体が少なく、助けづらい事情があったかもしれない。
だが、ガミラスについてはマリーダがピンチであることがわかっていただろうにもかかわらず、助けるそぶりを見せなかった。
今回はどうにかなったとはいえ、もしそれでマリーダが死ぬようなことがあればと思うとぞっとする。
「キャプテン、奴らは…」
ガランシェールの操縦士を務める褐色の肌をした老け顔の男、ギルボア・サントをはじめ、クルーもまたガミラスに対して信用できないものを抱いている。
異星人だからということもあるかもしれないが、それ以上に彼らのこちらを見る目が気に食わない。
まるで、自分たちを劣等種であるとみなしているかのようで、どうでもいい存在だと思っているのだろう。
そんな彼らを戦力になるからと受け入れた彼の判断を疑ってしまう。
「警戒はそのままだ。さて、味方はともかく、問題はシムルグか…」
ガランシェールの最大攻撃力は今使ったスキウレ砲で、それだけではシムルグを沈めることができない。
おまけに直掩として上空を舞うケッサリアとグスタフ・カール、そしてアンクシャの対空防御が分厚い。
それに、シムルグがあとどれだけの戦力を腹の中にためているのかもわからないうえ、ロンド・ベルにはガンダム・チームやアムロもいる。
どう動くかの算段を立てつつ、ジンネマンは入ってくる情報に耳を傾け続けた。
「くそ…ガミ公め!!火事場泥棒をするつもりかよ!!」
ヤマトから発進したコスモファルコン隊が横やりを入れてきたガミラスの戦闘機と交戦する。
自機をコルグニスとの戦闘で失っている加藤は古代から借りたコスモゼロで出撃していて、既にGハウンドやガミラスの機体を沈めている。
彼が気になったのはコルグニスの存在だ。
衛星軌道上での戦闘では大して損傷を受けていないその機体がここで出撃してくることを恐れていた。
どうにか奴に殺された部下の仇を打ちたいという気持ちはあるが、それ以上にトビアやキンケドゥを手玉に取ったあの機体によってさらに被害が広がり、事態が悪化することを恐れる気持ちがあった。
「にしても、あんまり記録の残っていないグスタフ・カールとか、ペーネロペーもいる…これは、帰ったら自慢できますねぇ」
「無駄口をたたくな、篠崎!」
-オーストラリア北東部 グレートバリアリーフ-
かつて、広大なサンゴ礁のある海として、宇宙からも観測することのできたグレートバリアリーフ。
その美しい海も、セカンドインパクトによって赤く染まり、象徴であったサンゴ達は姿を消している。
岩と砂、そして赤い水だけの無機質な海をグレーのマッドアングラー級、グレービビアンがクックタウンを目指して進んでいく。
艦長席の隣に設けられている予備椅子に腰かけるミシェルは1時間前に届いた暗号文がかかれた黄色い紙を握りしめていた。
「リタの感じていた嫌な予感はこれのことだったのかしら…」
ヨナを保護したという異世界の戦力とロンド・ベルがGハウンドと戦闘状態に入り、おまけに正体不明の艦隊と手を組んだジオンによる介入。
クックタウンの廃墟で繰り広げられる三つ巴の戦いはミシェルが思い浮かべる中でも最悪のシナリオだ。
「艦長!スピードは上げられないの!?」
「冗談言わないでください!補給物資を積んでいて、これでも精一杯です!必ず間に合わせますので、いましばらくの辛抱を!!」
「お願いよ…」
おそらく、ヨナも出撃しているだろう。
己のエゴになるが、せめてヨナだけでも逃がせればと思ってしまう。
(問題はユニコーンガンダムね…。サイコミュは暴走の危険だってあるんだから…」
グレービビアンに乗せた補給物資の中にあるやせっぽちなモビルスーツがミシェルの脳裏に浮かぶ。
アナハイムで初めて開発された、サイコフレーム搭載モビルスーツ。
半年前、ビスト財団の二代目当主であったカーディアス・ビストがミシェル・ルオに譲渡したものでもあるそれはνガンダムよりも前に、サイコフレームそのものの性能を評価するためだけに生産されたモビルスーツだ。
兵器として運用するには明らかに貧相なそのモビルスーツが本当に今のロンド・ベルに必要なのか。
(まったく、わかったようでわからないものね…ニュータイプというのは!)
-オーストラリア クックタウン近辺-
「ジェリド中尉!!」
ジェリドと対峙するカミーユのZⅡをビームライフルでけん制しつつ、ペーネロペーがビルを枕にしているバイアラン・カスタムのそばに行き、片腕をつかんで接触回線を開く。
「ジェリド中尉、ご無事ですか!?」
「ああ、無事だよ…くそっ!カミーユ・ビダンめ!!」
「カミーユ・ビダン!?あのZもどきに乗っているのが??」
ジェリドが生きているのを確認したレーンだが、ジェリドのその言葉が信じられなかった。
精神崩壊を引き起こし、呆けた少年が再び戦場に戻ってくるとは思えない。
それを言っていたのはほかならぬジェリド本人だ。
「ソウジさん!あの機体、味方を助けに!!」
「あんまりやりたくないが…俺たちも精一杯なんだよ!」
ペーネロペーもバイアラン・カスタムも、自分たちにとっては脅威となるモビルスーツ。
特にΞガンダムを完封し、ヴァングレイでは追いつけないスピードを持つペーネロペーに勝てるイメージがうかばない。
それに、どちらの機体もいくつもロンド・ベルのモビルスーツを撃破しており、戦死者も出ている。
容赦するわけにはいかず、ペーネロペーに向けてレールガンを発射する。
「く…!ここはシムルグへ戻りますよ、中尉!!」
「戻るなら1人で戻れ!俺はカミーユを倒さねばならん!」
「今のその機体では…」
「黙れ!カクリコン、ライラ、マウアー…俺からすべてを奪った奴を!!」
「ジェリド・メサ中尉、執念だけではガンダムには勝てんぞ」
急にケネスが通信に割り込んできて、その言葉にジェリドははっとする。
グリプス戦役では、ジェリドはモビルスーツを変えながら、何度もカミーユと戦ってきた。
しばらくはパイロットとしての技量の差があり、善戦することが多かった。
時には性能差での有利も絡んでカミーユを追い詰めることができた時もある。
だが、何度交戦してもカミーユを殺すことができず、仲間や師匠、恋人になるかもしれなかった女性を次々と失う羽目となった。
そして、自分も心だけでなく、体にまで一生癒えることのない傷をつけられることになった。
その原因を生み出し、己を戦いに駆り立てたカミーユが憎くて憎くて仕方がない。
だが、今の自分ではその壁を越えることができないことも分かっていた。
「くっ…!レーン、俺をシムルグへ…!」
「了解!」
「逃がすか…」
「キャップ!ガミラスの戦闘機が艦に近づいています。そちらへの対処を!」
「く…了解だ!」
逃げていく相手よりも、まずはこちらに明確な攻撃を仕掛けてくるガミラス。
思考を切り替えたソウジはペーネロペーに見切りをつけ、ヴァングレイをガミラスの戦闘機部隊へ向かわせ、損傷したバイアラン・カスタムを抱えたペーネロペーはシムルグへと引き上げていく。
その間、ペーネロペーは攻撃をすることはなかった。
「ジェリド…やはりあいつも戦場に…」
ジェリドを見送るカミーユは逃げていく彼らの後姿を見ることなく、ネェル・アーガマに近づく敵機をビームライフルで撃墜していく。
分離していたメタスも合流し、ZⅡの背中を守る。
「カミーユ…相手が多すぎるわ。このままだとみんな…」
「ああ…。それに、強化人間が乗っているモビルスーツもいる。それに、この感じ…おそらく、あの機体は…」
カミーユが感じるクシャトリヤからの気配。
その気配の中に、アクシズショックをテレビで見たときに感じた何かが混じっているように感じた。
精神崩壊から回復し、リハビリを受ける中でウォンから受け取った記録の中にあったサイコフレームのデータ。
アクシズショックの中心となったνガンダムに搭載されたもの。
それと同じものが、おそらくはその機体に搭載されている。
(サイコフレーム…。アムロ大尉が起こした奇跡。それを見ても、まだ変わっていないな…。でも…)
だからといって、絶望して立ち止まってしまってはアクシズ落としをしたシャアと何も変わらない。
それが生み出す最悪の未来を回避するために、カミーユは再び修羅場へ戻ってきた。
「カミーユ…」
「大丈夫だ、ユイリィ。もう、俺は俺自身を見失ったりしない」
「うん…」
精神崩壊したカミーユを毎日看病してきたユイリィはずっと後悔していた。
もっと自分がカミーユのことを見ていたら、もっと声をかけていたら、こんなことにはならなかったかもしれないのにと。
傲慢かもしれないが、それでもカミーユにはこのような状態になってほしくなかった。
グリーン・ノアで暮らしていた時のような、怒りっぽくて繊細だけれども優しいカミーユに戻ってほしかった。
だから、回復したカミーユが再び戦場に出るといったとき、ユイリィは迷うことなくともに行動すると決めた。
(私がカミーユをつなぎとめる…。今度は私がカミーユを守るから…)
シロッコと戦っていたカミーユがニュータイプとしての力をZガンダムを通して発現したとき、彼がつながっていたのは生きていた人ではなく、既にこの世にいない人々。
彼らに己の体を貸して、より精神が死者の方向へ引っ張られた。
その時、幻覚でも意識だけの存在でもない生者の力を感じることができれば、何かが違ったかもしれない。
だから、自分がカミーユにとってのそれになるとユイリィは誓っていた。
「こいつ…空を飛んでる!!」
地表からダブルビームライフルを発射するジュドーだが、上空で蛇行飛行するクシャトリヤに命中せず、胸部から発射される拡散メガ粒子砲が地上に向けて降り注ぐ。
降り注ぐビームをウイングシールドで防御するジュドーだが、その周辺にいたロンド・ベルやGハウンドのモビルスーツが巻き込まれている光景を目の当たりにする。
「これは…ZZ!!」
地表でメガ粒子砲をかろうじて防御したその機体を見たマリーダは操縦桿を握りしめる。
かすかに残る記憶の中に浮かぶ、ガンダムへの、特にZZへの怒りがふつふつとよみがえってくる。
「貴様は…ここで倒す!!」
右手でビームサーベルを握ったクシャトリヤが己が優位なはずの上空から降下していき、ZZに迫る。
「接近してくる!けど…これは!!」
無謀な突撃をしているように見えるクシャトリヤだが、なぜか機体が次第に紫の炎を放ち始め、それを鎧のように自身に包ませているように見えた。
何かを感じたジュドーはダブルビームライフルを連射する。
だが、クシャトリヤを包む炎が圧倒的な火力のはずのダブルビームライフルのビームをすべて弾いていく。
「嘘!?」
「はあああああ!!!」
マリーダに呼応するかのように出力が上がっていくビームサーベルが太くなっていき、それがZZに迫る。
ハイパービームサーベルを抜く暇がないダブルゼータはやむなくダブルビームライフルの砲身で受け止めざるを得ず、ビームサーベルを受け止めることのできる堅牢さを持つはずの砲身が右腕もろとも切り裂かれる。
「あ、ああ…」
切り裂かれた右腕をかばい、ミサイルを放ちながら後ろに下がっていくジュドーは斬られたときに感じた強烈なプレッシャーに動揺せざるを得なかった。
かつて、ネオジオン戦争で当時の首魁であったハマーン・カーンと何度か白兵戦やモビルスーツ同士で戦うことがあった。
そこでも、苛烈な彼女のプレッシャーを感じながら戦っていたが、今感じているプレッシャーはそれとは違う。
純粋に怒っている、いや、憎んでいる。
その憎しみは確かにZZに、そしてジュドーに向けている。
「何をしているマリーダ!!機体を上昇させろ!!クシャトリヤの今の装備は…!」
「ガンダム…倒すべき、敵!…仇!!」
通信機から聞こえるマスターたるジンネマンの声はマリーダに届かず、ビームサーベルを握るクシャトリヤは炎に包まれながら、ZZに迫る。
ZZから発射されたミサイルを何発か受けているはずだが、やはり損傷は全く見られなかった。
そして、マリーダの声がかすかにジュドーの脳裏に響く。
「敵…仇…俺が!?」
本気の殺意が伝わるとともに、ジュドーの脳裏にカミーユと会ってからこれまでの戦いの光景が駆け抜けていく。
多くの戦いに参加し、その中で多くのモビルスーツをこの手で撃破してきた。
それは同時に、多くの人をこの手で殺してきたという意味でもある。
殺された人々の大切な人の恨みがいずれ己に襲い掛かる。
そのことは心のどこかで理解していた。
だが、それが今ここで来ているとわかると手が震える。
「終わりだ…ZZ!!」
「ジュドーさん!!!」
大出力のビームサーベルを振り下ろそうとするクシャトリヤと呆然とするZZの間にユニコーンが割って入り、両腕に搭載されたビームトンファーでそれを受け止める。
「くっ…ZZではない、ガンダム!インダストリアル7の…!!」
「バナージ!?」
「ジュドーさん、大丈夫ですか!?」
意識が憎むべきZZからユニコーンへと向いたことで、ほんの一瞬だけ憎しみが薄れたのか、クシャトリヤのビームサーベルの出力が弱まり、その身を包む炎が若干弱まる。
そのおかげか、両腕のビームトンファーでかろうじて受けることができている状態だが、それでも出力ではクシャトリヤが上回っていて、ジリジリと押されている状態だ。
「バナージ、下がれ!押されているぞ!!」
「どきません!!嫌なんですよ!!人が死ぬのも…自分が死ぬのも、冗談じゃないんだ!!」
インダストリアル7でロンド・ベルとジオンの戦闘に巻き込まれ、その中で多くの関係ないはずの人々が死んでいくのを見た。
そして、その中で思い出したのは今は亡きバナージの母であるアンナ・リンクスの最期だった。
病気でしんどいはずなのに、一人残してしまう最愛の息子の幸せを願いながら、安らかな表情を浮かべて逝った母。
本来、死ぬとしてもそれは安らかなものであっていいはずなのに、戦争は無残な形で、しかもなんの唐突もなく、心の準備もできないまま死を招く。
それを自分の目の前で引き起こされるのが嫌だった。
「どけ、ガンダム!!ZZをこの手で…!!」
「させない…させるもんか!!」
邪魔をするユニコーンへの怒りで再びビームサーベルの出力が上がっていく。
そのままでは両断されて、バナージも無事では済まない。
「逃げろ、バナージぃ!!このままじゃ…」
「それでも…それでも!!」
バナージの叫びとともに、コックピットのモニターが赤く光る。
同時に表示される『NT-D』という文字。
これはインダストリアル7でクシャトリヤが放つファンネルの猛攻を受け、死を覚悟したときにも表示されたもの。
そして、そこから始まるのが何か…。
「…!?くっ!!」
「おい、チトセちゃん!?どうしたんだ!?」
突っ込んでくるツヴァルケをビーム砲で攻撃するソウジは突然、苦しみだしたチトセに意識が行く。
同時にコックピットに衝撃が走り、ナインの遠隔操作でヴァングレイの動きが制御される。
「キャップ、よそ見しないでください。コックピット周辺をフェイズシフト装甲にして正解でした」
「わ、悪い…!」
「何かが…大きな力が、出てくる!ユニコーンガンダムから!」
「何…!?」
ユニコーンガンダムが全身をサイコフレームで作った機体であることはすでにアムロから聞いている。
その時のアムロのそれを恐れる表情はソウジもよく覚えていた。
チトセをはじめとして、ユニコーンガンダムから始まる予兆を感じる人がいる。
「なんだ、この張り詰めた感覚は!?それに…νガンダムのサイコフレームが反応しているのか?」
「始まる…」
「バナージ…」
アムロやカミーユ、そしてその予兆を目の前で見ているジュドーはユニコーンガンダムから飛ばされる何らかの思念を受け取り、恐れとそれとは別の何かを感じ始めていた。
「…バナージ」
ネェル・アーガマの一室、見回りのロンド・ベル兵士に守られている部屋の中で、薄オレンジ色の髪と緑色の瞳をした少女はバナージから何かを感じ取っていた。
彼女こそがインダストリアル7で偶然バナージと出会い、彼の運命を変えてしまった少女、オードリー・バーン。
彼女はインダストリアル7で同じことが発生しているユニコーンを目撃している。
部屋のモニターには純白であるはずのユニコーンの装甲の隙間から赤い光が発生しているのが見える。
「…ガンダム」
「これは…!!」
鍔迫り合うマリーダは危険なものを感じ取り、クシャトリヤを上昇させてユニコーンと距離をとる。
それと同時に装甲が展開していき、隠されていたサイコフレームの骨格が赤い光を放っている状態でその姿を見せる。
そして、一角獣を連想させる一本角のブレードアンテナが二つに開くとともに、マスクで隠されていたガンダムとしての素顔がさらされる。
「ユニコーンが…変身した。こいつが、ユニコーンの本当の姿なのか?」
「うおおおおおお!!」
バナージの雄たけびとともに、ユニコーンが赤い光を放ちながら地面を蹴り、スラスターを吹かせて上空のクシャトリヤへ跳躍する。
目の前でそれを見ていたジュドーだが、あまりにも一瞬で跳躍し、高度を上げていったことから、それがユニコーンではなく、赤い光だったのかと誤解しそうになる。
光のように飛ぶユニコーンは両腕のビームトンファーでクシャトリヤに切りかかる。
「く、うううう!!うあああああ!!」
かろうじてビームサーベルで受けることに成功したマリーダだが、それをいつまでも維持することができるかわからない。
どんなに推力のあるモビルスーツでも、いつまでも飛行し続けることはできない。
クシャトリヤやΞガンダム、バイアラン・カスタムのような飛行時間を延長できる装備を持たないモビルスーツでは、重力に逆らいきることができずに落ちることになる。
だが、飛行能力を持たないはずのユニコーンはフルサイコフレームの力によるものなのか、その高度を維持し続けている。
一度距離をとったクシャトリヤを追いかけている。
「なんなんだ、あのガンダムは…!!」
「みんなを…傷つけさせるものか!!」
「ユニコーンガンダム、全身をサイコフレームで包んだ異端のガンダム、か…」
2機のモビルスーツの戦闘、というよりもユニコーンによる一方的な攻撃を見ることになったケネスの脳裏に浮かぶのは昨年のアクシズ落としで見た、νガンダムが放っていた光だ。
同じサイコフレームで生み出したはずの光だが、その光から感じるものが全く異なっているように思えた。
光の目的やモビルスーツとパイロットが違うということが大きいかもしれないが、ユニコーンから感じる光は何かが違う。
だが、その本質まではわからない。
「そして、デストロイモード…か」
ジェリドとヤザンが帰還してからロンド・ベルに勧告を行うまでの間に司令部ととある財団の当主との話を思い出す。
アナハイムの陰の実力者であり、連邦政府官僚の天下り先としても機能するとともに、世界のありとあらゆる経済界の黒幕であるとも言われている王国、ビスト財団。
一年戦争とその末期に起こった2つの惨劇によって、地球の経済は壊滅的な被害を受けることになり、その余波をアナハイムとともに受けることになったビスト財団だが、既にコロニーとも関係を持ち、裏ではジオンとも取引する関係となっていたことでそのダメージを最小限に抑えることに成功している。
だが、ビスト財団そのものは黒幕として積極的に表舞台に出ようとはせず、それゆえにメディアで時折その名前が出ることはあるものの、知名度はそれほど高いものではなかった。
だが、そんな陰に徹していたはずのビスト財団がユニコーンガンダム、そしてUC計画については積極的に動き、特にユニコーンガンダムについては財団が作り上げていて、一部がブラックボックスになっている。
そのブラックボックスの一部をビスト財団の現当主である女性で、アナハイム創業者一族であるカーバイン家に嫁いだことで『表』と『裏』で絶大な力を得るに至った月の女帝、マーサ・ビスト・カーバインから教えられた。
「NT-D…デストロイモード。アナハイムでさえ解析不能のシステムか」
戦闘を行う相手のニュータイプや強化人間の感応波を感じ取り、それをせん滅するためにユニコーンガンダムをしかるべき姿であるデストロイモードへと変貌させ、性能やサイコフレームの力を高めるシステム。
「そして、何の因果なのだろうな。その、ユニコーンガンダムのパイロットは…」
エコーズから受け取ったユニコーンガンダムの情報の中にある、バイオメトリクス認証によってそれの主となった少年、バナージ・リンクス。
一年戦争開戦とほぼ同時期に生まれたその少年の身元は今は亡きビスト財団当主であるカーディアス・ビストと彼の愛人であったアンナ・リンクスの間に生まれた少年。
アンナ・リンクスについては経歴だけを見ると、一時期アナハイムに勤めていたものの、10年前に退職していること以外はいたって平凡そのもの。
生活環境も中の上くらいで、バナージ本人も父親がいないことを除くといたって平凡な生活をしていたといえるだろう。
そんな彼女と、既に妻がおり、その間に子供を授かっていたはずのカーディアスがなぜ愛人関係となり、バナージを産むに至ったのかの理由は彼の妹であるマーサも分からないという。
政略結婚で結ばれた女性よりも、純粋に愛した愛人に思いを寄せるという話は古今東西よくある話ではあるが。
戦闘だけでなく、サイコフレームを介した感応波を互いにぶつけ合う形となったユニコーンとクシャトリヤ、バナージとマリーダ。
その余波は2機の周囲にも及んでいた。
「なんだ…!?これは!?」
ツヴァルケに乗るガミラス兵は一時機体のコントロールが乱れ、モニターにもいくつもノイズが生じるなどの異常に困惑する。
「テロン人のモビルスーツの力だというのか!?」
ヤマトといいコルグニスといいサイコフレームといい、下等生物であるはずのテロンがなぜこのような力を持っているのか、ガミラス兵には理解できない。
その理解できないフィールドに立つ2機のぶつかり合いだが、やがてユニコーンのビームトンファーがクシャトリヤのバインダーの一部を切り裂いたことで勝負が見えてくる。
「くそ…!」
「マリーダ、後退しろ。今のクシャトリヤでは勝てん」
「しかし…」
「従え、マリーダ。それに、今のロンド・ベルはもはや、連邦からも追われる身だ。倒すチャンスはいくらでもある」
「…了解」
バインダーが損傷したことで、飛行能力と機動性に制限が出ているが、それでもユニコーンと距離をとることくらいはできる。
距離をとったとしても、今のユニコーンであれば短時間で距離を詰め、ビームトンファーで切りかかることができるが、そのわずかな時間だけ稼げればいい。
「逃がさない!!!」
距離を詰めようとするユニコーンめがけて、クシャトリヤの胸部の拡散メガ粒子砲から青い拡散ビームが発射される。
網のように襲うビームから発する殺気を感じ取ったバナージの脳波を受けたユニコーンは高度を大きく下げる。
その間にクシャトリヤは後ろへと下がっていく。
「はあ、はあ、はあ…」
「バナージ!!」
損傷したZZが地上へ降りたユニコーンの元へと向かう。
「はあ、はあ…ジュドー、さん…」
「お前、大丈夫なのかよ!?それに、ユニコーンが変身して…」
バナージの疲労、そして遠ざかっていくクシャトリヤ。
ユニコーンガンダムのサイコフレームから光が消えていき、その色が黒くなっていく、というよりも戻っていく。
そして、デストロイモードから元の姿へと戻っていった。
「あのモビルスーツ…元の姿に戻ったぞ」
「ガンダムめ…!ここで沈めてやる!!」
地上へと降りたところを集中攻撃しようとする上空のギャルセゾンに乗ったメッサーがメガ粒子砲やビームライフルで攻撃を仕掛ける。
彼らの中にはこれまでガンダムと戦い、乗機や仲間を失いながらも生き延びたパイロットもいる。
ガンダムのせいで、かつてのネオ・ジオンの指導者であったハマーンやシャアが討たれることになった。
スペースノイドの独立を阻む戦場の壁であり、絶望の象徴であるガンダムをここで撃破しなければならない。
「くっそ!もうこっちには弾薬が…!」
損傷しているうえに、ミサイルも残弾がわずか、おまけにダブルビームライフルを失っているZZはダブルキャノンで迎撃する。
「ジュドー!!」
「バナージ!」
2機を襲うメッサー達にビームが襲い掛かり、ジュドー達の通信機にはビーチャとリディの声が響く。
後方からはデルタプラスに乗った百式とドダイ改に乗ったMk-Ⅱの姿があり、3機がビームライフルで攻撃を仕掛けていた。
「大丈夫か!?おいおい、ZZがボロボロじゃねーか」
「悪かったって、相手が悪かったんだっての!」
「こりゃ、アストナージさんに怒られちゃうかもね。あ、それよりも2人とも、撤退の準備をして!」
「撤退…?」
「もうすぐ到着するの!ルオ商会が!」
「ルオ…商会…?」
「クソ…!どれだけ数がいるんだよ!それに、Gハウンドも正気かよ!!」
ネェル・アーガマにあった予備のジェガンを借りて出撃しているヨナは地上から攻撃を仕掛けるGハウンドのジェガンやグスタフ・カールをほかのロンド・ベルやエコーズのモビルスーツ部隊とともに迎撃する。
こうして近くで戦っている中で、いやでもヨナは自分と彼らとの実力の差を感じてしまう。
ヨナは何度もビームライフルを発射することで、どうにか相手のジェガンを戦闘不能に追い込むことができるが、どうしてもコックピットを直撃させるような射撃をすることができない。
それに、何発も射撃が外れているうえに相手の攻撃を受けたことですでにシールドは破壊されてしまっている。
その一方で、ロンド・ベルはやはりティターンズやジオンとの最前線を戦い続けたエゥーゴやカラバを母体としているだけあるのか、パイロットの水準は今までいた部隊を上回っている。
また、エコーズについても特務部隊の名前は伊達ではなく、統率の取れた動きな上に的確に相手の戦力や機体をつぶしに動いている。
パイロットとしての技量が一般兵から抜け出すことができていないヨナにはできない芸当だ。
それに、ヨナはたとえ相手がGハウンドであるとはいえ、同じ連邦軍の兵士と殺しあうことにどうしてもためらいを覚えている。
元々、兵士としては致命的な弱点である敵機の撃墜に対する抵抗感が人一倍強かったヨナにはこの状況は酷といえる。
たとえ、その行為が殺人ではなく、戦場での自分や仲間を守るための防衛行為だということを頭で理解できていたとしても。
「1機突っ込んでくるぞ!!」
味方の声が聞こえるのと前後し、ジェガンのセンサーがビームサーベルを手に接近してくるグスタフ・カールの存在をヨナに伝える。
ライフルを握っているヨナはそれを発射するが、至近距離に近いものであるにもかかわらず、撃つことができたのは胸部ではなく足で、しかもそのビームはかすっただけになった。
覚悟を決めなければならないこの時になっても、ヨナは奥歯をかみしめる。
(優しすぎるのよ、あなたは…。その優しさがあなたを殺さなければいいけど…。正直、軍人なんて似合わないわ)
シドニーがまだあって、小学校に通っていたころのヨナは気弱で、よくいじめのターゲットにされていた。
しかし、どんなに傷ついてもやり返すことはしなかった。
ミシェルからそんなことを言われるのはこういった部分もあるのだろう。
「何をしている、ヨナ少尉!」
コックピットにサーベルを突き立てようとしたグスタフ・カールが盾を構えたエコーズのジェガンが突進をして突き飛ばす。
突き飛ばされた先のビルの屋上にはビームガンを装備したジェガンがいて、突き飛ばされたモビルスーツの頭部とサーベルを握る右手をそれで撃ちぬいて見せた。
視界と武器を失い、戦闘能力を失ったグスタフ・カールは武器のない左腕を振り回し、なおも抵抗しようとするが、突き飛ばしたジェガンのシールドから発射されたミサイルが撃ち込まれる。
腕と脚は無事なものの、多重に受けたダメージで核融合炉を停止させたグスタフ・カールは動きを止め、その様子をヨナは息をのんでみていた。
「ネェル・アーガマより全機!これより、スモークが発射される。これから退避行動を開始するため、帰投してください!繰り返します!全機、帰投してください!!」
「スモーク…!?」
「聞いたな、全機戻れ!殿は俺たちが行う!」
「こちらが足を止めます!」
ビームガンを装備したジェガンが接近しようとする地上のモビルスーツ部隊に向けてハンドグレネードを投げつける。
通常の爆発が2つ起こったと同時に、残り1つのグレネードからはババババと激しい音とともに強い光が発せられる。
あまりのまぶしさに敵モビルスーツはマニピュレーターでメインカメラを守り、その間にロンド・ベルとエコーズの部隊は後退を開始する。
光が収まると同時に、海からはミサイルが発射され、それが地面やビルに命中すると同時に煙幕が発生する。
「煙幕…!奴ら、逃げるつもりか!?」
煙幕に紛れ、逃げていくロンド・ベルの部隊を見たヤザンは舌打ちし、フェダーインライフルを背中を向けているリゼルに向ける。
引き金を引こうとする彼だが、急にケネスの通信が割り込む。
「深追いするな、捨て置け」
「しかし、このままだと逃げますぜ?」
「ジオンと正体不明の部隊への対応が最優先だ。奴らと戦う機会はまだあるというものだ」
「ちっ…了解だ」
因縁のあるジュドーとカミーユを逃がすのは気分が悪いが、ケネスの命令には逆らうことはできない。
それに、ジオンとガミラスの部隊への対応が必要なのも事実だ。
現に彼らはすでにロンド・ベルからGハウンドへ攻撃の比重を傾けていた。
「バイアラン・カスタム!コックピットが開かないぞ!」
「ジャッキを持ってこい!ジャッキを!!無理やり開けるんだ!」
「衛生兵も呼べ!パイロットが負傷しているかもしれないぞ!」
シムルグの格納庫に、ペーネロペーの助けを借りて収納されたバイアラン・カスタムに整備兵が集まり、深刻なダメージへの対応とパイロット救出に忙殺される。
外の激しい声や音はコックピットのジェリドには届かない。
操縦桿を手放した彼は両手を握りしめる。
「カミーユ…カミーユ・ビダン…!!」
もう戻ってくることはないはずの彼がまたここに来た。
親友や師匠、恋人になるはずだった女性、ティターンズとしての輝かしいはずの未来、何もかもを奪ってきた男が今度は自分から何を奪おうというのか。
「もう…貴様からは何も奪われてたまるか!!奪うというなら…奪うというなら、今度は俺が貴様のすべてを奪う!!」
-オーストラリア北東部 グレートバリアリーフ-
戦場を離脱したヤマトをはじめとした艦隊は前方でわずかに浮上している、ルオ商会の潜水艦とダナンの先導を受けながら進んでいく。
既に機動兵器は収容され、おそらく整備兵たちはそれらの整備に忙殺されていることだろう。
「カミーユさん、ユイリィさん、どこへ行っちゃったんだろう…?」
ハンブラビとクシャトリヤとの戦いで損傷しているZZの整備されている様子を見ながら、ジュドーはここにいない2人の身を案じる。
確かに煙幕の中で離脱を開始したときは2人の姿があったが、なぜか2人ともはぐれてしまった。
2機の反応もなく、取り残されたのかと思ったが、カミーユと彼と一緒にいるユイリィに限ってそれはあり得ない話だ。
「すみません、チェーンさん。Ξガンダムをボロボロにしてしまって」
損傷し、傷ついた装甲パーツが取り外される様子を見ていたハサウェイは自分にこれを預けてくれたチェーンに己の力不足を詫びる。
相手が正規パイロットであり、Ξガンダムと同じくミノフスキークラフトを搭載したモビルスーツであったとはいえ、もっと上手にこの機体を使いこなすことができれば、ここまで傷つくことはなかったと考えてしまう。
おまけに、そんな同じタイプの機体を前に足を止めてしまったことも彼にとっては大きな反省点だ。
「仕方ないわ、それよりも、あなたが無傷で済んだのはΞガンダムのおかげね。私に謝るよりも、まずはあなたを守ってくれたガンダムにお礼を言わないと」
「そう、ですね…。Ξガンダム、ありがとう…」
力不足な自分がまたΞガンダムに乗れるかどうかはわからない。
もしかしたら、ビーチャやエルといったほかのパイロットのほうがふさわしいかもしれない。
だが、それでもやれるというなら、やり遂げたいとは思っている。
そうでないと、クェスをはじめとした死んだ人たちに顔向けできないのだから。
「それに、早く気持ちを切り替えないと、お父さんを心配させてしまうわよ」
「父さん…まさか、ラー・カイラムが!?」
「そうよ、間もなく合流するわ」
2隻の潜水艦に先導される先にある孤島の上空にはサラミスかマゼランに近い形の戦艦が待機しており、ベースジャバーに乗ったジェガン2機が直掩している。
艦長席からその姿をみた沖田はフゥと深く呼吸する。
「連邦の名艦の一隻、ラー・カイラム。別世界のものとはいえ、こうして実物をこの目で見ることになるとは、な…」
機体名:メタス
形式番号:MSA-005
建造:アナハイム・エレクトロニクス社
全高:21.8メートル
全備重量:52.4トン
武装:アームビームガン×2(ミサイルランチャーと選択可)、ビームサーベル×6、
主なパイロット:ファ・ユイリィ
Zプロジェクトの一環として開発された試作モビルスーツ。
モビルアーマー形態への変形が可能で、機動力が高い。
可変モビルスーツの弱点といえる整備性を解消すべく、変形機構はシンプルなものとなっているが、それと引き換えに機体強度が落ちた上に格闘戦に不向きな構造となっている。
そのため、弾薬の補給や損傷機の回収といった支援機として運用されていた。
現在、ファ・ユイリィが乗っているこの機体は2年前のグリプス戦役で運用されたもので、現存するメタスはこの1機のみとなっている。
また、ZⅡをはじめとしたアナハイムの可変モビルスーツとのドッキング機能が追加されており、それによってサブスラスターとしての運用も可能となっている。