スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第5話 偽りの白い流星

-木星軌道上 暗礁地帯-

「こいつで、どうだぁ!!」

木星軌道上の暗礁地帯で、ヴァングレイのポジトロンカノンが発射される。

発射された圧縮ビームに直撃したペズ・バタラを中心にビームが膨張し、周囲の隕石もろとも3機のバタラが巻き込まれ、消滅する。

「く、くそぉ!!」

残る1機のアラナのビームライフルは既にスカルハートのビーム・ザンバーで切られており、左腕のビームシールドも基部が破壊されたために展開できない。

「ソウジさん、トビア君!これで残ったのは目の前のアラナだけよ!」

「動くな…!あんたに聞きたいことがある!」

ザンバスターの銃口を向けつつ、アラナのパイロットにオープンチャンネルで通信を送る。

「ついてるわね!偵察部隊に遭遇するなんて。これなら、基地に行く前にある程度情報が…」

「いや、そうとも限らんぜ…」

「ソウジさん」

「あのパイロットがこちらに投降してくれるような奴かどうか…」

木星戦役終盤、ドゥガチが倒された後の追撃のことをソウジは思い出す。

その時、自分は1機のバタラを戦闘不能に追い込むことに成功し、そのパイロットを投降させようと接触回線で通信を送った。

だが、その通信で聞こえたのは…。

「俺を…捕虜にするつもりか」

「え、ええ!最低限のルールとして、命だけは…」

「フ、ハハハハハ!!バカめが!!」

チトセの言葉をヴァゴンのパイロットが笑いながら拒絶する。

「何がルールだ!地球人が作ったルールに従うものか!地球人の捕虜になるくらいなら…」

「くそぉ!!」

ヴァゴンがあの時のメランカのようにヴァングレイに向けて特攻を仕掛けてくる。

やむなくソウジは加速砲を発射し、弾丸がコックピットを貫く。

「ジ…ジーク、ジュピ…!!」

祖国をたたえる言葉を言い切る間もなく通信が切断し、目の前のモビルスーツが爆散した。

「どうして、こんなことを…」

「…クラックス・ドゥガチの命令です。地球人の捕虜となるくらいなら死を選べ…と」

「でも、それは木星戦役での話でしょ!?クラックス・ドゥガチはもう…!!」

「ドゥガチ1人死んだとしても、彼の言葉に盲信する奴らは変わらず…ってことだろう。あのパイロットのように…」

ソウジがあの時の通信で聞こえたのはモビルスーツの駆動音、そして一発の銃声だった。

彼はすぐに当時の愛機であったジェガンを出て、バタラのコックピット内を調べた。

そこにいたのは自ら拳銃で頭を撃ち抜いて死んだ木星帝国軍のパイロットだった。

もう従う必要のない男の言葉に縛られ、自分の命の価値を見失う。

そんな彼らのことを悲しく思いながら、チトセはヴァングレイのセンサーを調整し、敵基地の特定を急ぐ。

「これは…ソウジさん、トビア君、ありました!!木星帝国の基地です!!」

広範囲に広げた熱源センサーがキャッチした座標をスカルハートに送信する。

「ここから距離は離れてない…。スカルハートとヴァングレイなら、すぐに行ける距離です!」

「まずは敵の規模をつかまねーとな。行くか!」

 

-木星軌道上 暗礁地帯外-

「ここがヴァングレイが特定した座標か…」

暗礁地帯を出て、西へ30キロ進んだ場所にポツンと存在する大きな隕石。

熱源はここから出ており、おそらくそれは基地の動力源だと思われる。

「だが、問題はあいつらがこの中で何をしてるか、だな」

「ええ。結局見つけた偵察部隊はあれだけですし、何も情報をつかめていませんからね」

2人が話していると、ヴァングレイとスカルハートから警告音が鳴る。

「敵機!?」

「隕石から出てきてます!」

チトセの言う通り、隕石から3機のバタラと1機のアラナ・バタラが出てくる。

「モビルスーツが4機だけ!?」

「これだけしか戦力が残ってないのか、それとも時間稼ぎか…」

「仕掛けてきますよ!!」

トビアの声が聞こえると同時かそれよりも前にバタラのビームがヴァングレイの装甲をかすめる。

「撃ってきた以上はやるしかねえ!俺らはこんな奴らにさける時間がほとんどねえからな!!」

両肩のミサイルポッドからミサイルがばらまかれる。

バタラ1機とアラナ・バタラはビームライフルで撃ち落とす、もしくは避けることで難を逃れるが、残り2機のバタラはミサイルから逃げられず、撃墜されていく。

「このぉ!!」

ミサイルを撃ったヴァングレイに注意を向けすぎていた1機のバタラの頭部にスカルハートのスクリュー・ウェップが突き刺さる。

刺さると同時に開店をはじめ、バタラの頭部パーツが底を中心にバラバラに砕かれていく。

「まったく、いい加減邪魔ばっかりしてんじゃ…ないわよーーー!!」

アラナ・バタラのパイロットであるカマーロ・ケトルがお姉言葉をしゃべりながら激高し、ヴァングレイに接近する。

レールガンやビーム砲でけん制するも、左右にバッタのように飛びながら回避し、手に持っているモゾー・ブレードのセーフティを解除し、ビームサーベルを発生させる。

「接近されます!!」

「わかってるって!ビームサーベルがねえなんてな…」

肉薄したアラナ・バタラのモゾーブレードによる近接攻撃を後ろへ期待をそらしながらかわしつつ、再びミサイルを発射する。

「甘いわ!!」

左手に持つストリングスガンが発射され、ワイヤーに接触したミサイルが爆発し、アラナ・バタラは爆風から逃れる。

「ソウジさん、チトセさん!!」

ソウジの援護のため、トビアがビームサンバーを装備した状態で接近する。

「邪魔するんじゃないわよーーー!!」

自由になっている右手でモゾーブレードを握り、スカルハートとつばぜり合う。

「く…!ビームザンバーよりも出力が…!!」

「モゾーブレードはあんたたちのクロスボーン・ガンダムの武器を再現したもの!簡単にはぬかせは…!!」

「こんのぉぉぉ!!」

2機の攻撃に対処し、身動きが取れないアラナ・バタラにスカルハートが頭突きする。

「な…乙女の顔面に頭突きするんじゃないわよー!!」

頭突きの影響でメインカメラに不具合が生じ、一部のモニターが砂嵐映像となってしまう。

「今だぜ!!」

動きが止まったアラナ・バタラから一気に距離を放す。

「チトセちゃん!ポジトロンカノンだ!」

「はい!ポジトロンカノン、セット!」

「身動きを止めます!!」

ヴァングレイ必殺の一撃を援護するため、トビアがザンバスターを連射する。

右腕や頭部、脚部に次々と着弾し、モゾーブレードが破壊される。

「ウフフ…アハハハハハ!!同志よ、十分時間は稼いだわ!私はドゥガチ総統へ勝利の報告へ向かうわよーー!!」

「ポジトロンカノン、発射準備完了!」

「いっくぜーーー!!」

ポジトロンカノンが発射され、ダメージで動かなくなったアラナ・バタラがカマーロもろともビームの中で消滅していった。

「ふぅー…木星にまだあんなパイロットがいるなんてなー」

「ええ。おそらく、彼(?)がこの基地のエースだったんだと思います。あとは…!?ソウジさん!!」

「どうした、トビ…」

言い終わらぬうちに、スカルハートがヴァングレイの前に出て、腹部の1機のモビルスーツの蹴りを受けてしまう。

「トビア君!!」

「モビルスーツ!?急に出てきやがった…!!」

あまりのスピードでまったく気づくことができなかった2人。

もしトビアが気づいていなかったら、この蹴りを自分たちが受けていることになったかもしれない。

初期のモビルスーツと同じ18m級の大きさで、バタラに似た色彩のガンダム。

「あれは…ガンダム!?」

「た、多分…木星帝国が奪ったX2をベースにした機体です…」

「トビア君!?大丈夫なの!?」

「はい…。まだ、戦えます!」

トビアはヘルメットを取り、鼻のあたりにできた切り傷をテープで止血する。

先ほどの一撃でヘルメットにひびが入り、その破片が刺さったためだ。

即座にコックピット内に酸素を充満させておいたため、継続戦闘に問題はない。

「ハハハハハ!!完成したぞ、われら木星帝国の最終兵器、アマクサがアムロ・レイが!!」

オープンチャンネルで基地内の木星帝国兵が3人に目の前のモビルスーツの正体を教える。

「アムロ・レイだと!?」

トビアにとどめを刺そうと、シールドクローを叩き込もうとする。

ヴァングレイはスカルハートをつかみ、上へ飛んで攻撃から回避する。

「ソウジさん!アムロ・レイって、まさか!」

「ああ…チトセちゃん。100年前に行方不明になったニュータイプだ」

アムロについてはソウジもチトセも座学で学んでいる。

100年前最強のパイロットであり、ニュータイプ。

第2次ネオジオン戦争でシャア・アズナブルが起こしたアクシズ落としを愛機であるνガンダムで防ぎ、そのまま機体と共に行方不明となった。

仮に今生きているとしても、年齢は129歳。

コールドスリープやサイボーグ手術を受けない限り、とても先ほどのような動きを見せることはできないし、その前に老衰か病気で死んでいる。

それに、百歩譲って生きているとしても、地球を滅ぼそうとする木星帝国に味方するようなことを彼がするはずがない。

「まさか…バイオ脳!?」

トビアの脳裏に浮かんだのはドゥガチが作った10個のバイオ脳。

ドゥガチは10体のバイオ脳を自らの分身として、地球滅亡計画を進めていた。

バイオ脳については倫理上の問題から地球では禁止されているもので、現在は木星帝国でしか作られていない。

「だがよ、どうやってアムロ・レイのバイオ脳を…!?」

「冥土の土産に教えてやろう。我々は連邦軍の基地からアムロ・レイの戦闘データを手に入れた!そして、我々はいくつものバイオ脳を作り、アムロ・レイのコピーを作るための研究を始めた…。幾百、幾千ものバイオ脳で研究し、ついに完成したのが…このアマクサ、最終兵器ならぬ最終兵士だ!!」

「1年戦争時代の…冗談きついぜ、こいつは!!」

真上から冷却が完了したポジトロンカノンをすぐに発射する。

だが、死角から攻撃したにもかかわらず、頭上に目がついているかのようにあっさりと回避し、ビームライフルで反撃を仕掛ける。

「ぐおおおお!!」

「キャアア!!」

左手のシールドで受け止めるが、X2をベースとしたモビルスーツだけあって、その出力は並みではない。

受け止めることができたとしても、振動が襲い、シールドにも大きなダメージが発生する。

「ライフル1発でこれかよ!?」

「次が来ます!!」

チトセの言葉と同時に、シールドに内蔵されたハイパーハンマーが襲い掛かる。

「ソウジさん!!」

「まっずい!」

ハンマーが向かう先には左肩に搭載されているミサイルポッドがある。

直撃したら誘爆し、ヴァングレイもただでは済まない。

「ミサイルポッドをパージします!」

やむなく、ミサイルポッドがアマクサに向けて射出される。

ハンマーと接触し、爆発でアマクサの目つぶしをしている間にヴァングレイがアマクサを離れ、スカルハートのもとへ向かう。

「くっそぉ…あれがアムロ・レイかよ!?」

「このままだと、私たち…」

2人の脳裏に全滅という二文字がよぎる。

ここにいる2機だけではない、ヤマトもアマクサの前では歯が立たないだろう。

しかし、2人とは異なり、トビアはまだ勝利への道筋をあきらめていない。

「ソウジさん、チトセさん、ここはひとつ勝負に出ませんか?」

「勝負…!?トビア君、何を!?」

「いいぜ、トビア。ここはお前に乗ってやるぜ!」

「何も聞かずに、乗るんですか!?」

「ああ…。俺のカンピュータがささやいてんだよ。お前にのりゃあ勝てるってな!」

「カンピュータって…」

聞いたことのない言葉に2人は首をかしげる。

だが、そうしている間にもアマクサが2機に向けて接近してくる。

可能であれば鹵獲したいのか、ビームライフルを背中のハードポイントに収納し、ビームサーベルを抜いたうえで。

「チトセさん!ヴァングレイの姿勢制御をカットしてください!」

「ええ!?でも、そうしたら動きが出鱈目に!」

「いいんだよ、それで!!」

アマクサの狙いは近接戦闘に弱いヴァングレイ。

ビームサーベルで確実にコックピットを貫こうとするが、一気に機体を右へもって言って回避する。

「く…うううう!!ほらほら、来るんなら俺んところへ来い!!ついでだ、リミッターの上限を引き上げろ!」

「もう…どうなっても知りませんよ!」

もうどうにでもなれと言わんばかりに、チトセがコンソールを操作する。

リミッターが解除され、出力が引きあがったことでさらにバランスが悪化し、動きが出鱈目になっていく。

姿勢制御パターンを無視したその動きを見たアマクサの動きがわずかに鈍る。

「見えた…!!そこだぁ!!」

トビアにとって、それだけで十分だった。

ビームザンバーをアマクサに向けて投げつける。

熱源反応をキャッチしたアマクサはシールドでビームザンバーを弾き飛ばす。

だが、トビアの狙いはその先だ。

「こいつでぇぇぇ!!」

シザー・アンカーを伸ばし、弾き飛ばされたビーム・ザンバーをつかむと、そのまま大ぶりで薙ぎ払う。

まさかの攻撃に反応が遅れたアマクサの左腕が切り裂かれる。

「や、やった…!」

「ふへえ…有効打、だな…」

あまりの加速と出鱈目な動きをし続けたせいで、ソウジとチトセは疲労を隠せなくなっていた。

だが、左腕を失ったとはいえ、まだアマクサは戦闘不能となっていない。

先に倒すべきはスカルハートと判断し、ビームライフルを手にする。

しかし、頭上からビームが降り注ぎ、やむなくアマクサは攻撃をやめ、回避に専念する。

「油断するな!まだ奴は動いているぞ!」

トビアでもソウジでもない、別の男性の声が2機のコックピットに聞こえる。

「その声…それに、あのビームって!!」

トビアはビームが発射された位置を逆探知し、特定したポイントにメインカメラを向ける。

そこにはトビアにとって、見覚えのあるモビルスーツの姿があった。

「あれは…X3!?」

かつて最終決戦を共に戦った愛機の名を驚きと共に口にする。

クロスボーン・ガンダムX3はクロスボーン・バンガードが地球振興を始めた木星帝国軍を負うために地球圏へ戻ってきた際にシェリンドンから譲渡されたモビルスーツだ。

とある偶然から当時はルーキーであったトビアがマニュアルなしで乗ることになり、試作兵器ばかりであったために当初は扱いに四苦八苦していたが、次第にものにしていき、最後はコアファイターを残して撃破されてしまったものの、ドゥガチ打倒に多大な貢献を果たした。

その、かつての相棒のX3がそこにいるのだ。

だが、カラーリングについてはX3のもので統一されているものの、よく見ると頭部が新造されたX1のものとなっていて、腰から下がフリントのものとなっている。

「今の攻撃はよかった。だいぶ力がついたんじゃないか?トビア」

「その声…まさか、キンケドゥさん!?」

「久しぶりだな、トビア!」

キンケドゥと呼ばれたX3らしきモビルスーツのパイロットがトビアに声をかけ、スカルハートにそのモビルスーツを接近させる。

「キンケドゥさん!?どうしてここへ…それに、このX3は!?」

「こいつはX3パッチワーク。サナリィからもらった余剰パーツで組み立てたものだ。それよりも!!」

X3パッチワークのIフィールド・ハンドが起動し、アマクサが撃つビームを弾いていく。

そして、搭載されていたコアファイターが分離する。

「久々だが、使ってみるか?」

「…当然です!X3は俺のクロスボーン・ガンダムですから!」

スカルハートのコアファイターも分離し、2機は入れ替わるようにそれぞれのクロスボーン・ガンダムとドッキングする。

「さあ、もう一度頼むぞ。X1!」

「もう一度一緒に戦えるなんてな…俺のX3!」

「そうか…あいつがX1の…」

2人のこれまでの会話を聞いた、ソウジはX1のパイロットがキンケドゥであることに気付く。

「やるぞ、トビア!これ以上バイオ脳とはいえ、アムロ・レイを縛り付けるな!」

「はい!!」

2機のクロスボーン・ガンダムが散開する。

X3パッチワークのブラスターガンとスカルハートのザンバスターの十字砲火がアマクサを襲うが、やはりアムロ・レイのコピーは伊達ではないということか、先読みしているかの如く、カメラを向けないまま次々と回避していく。

「だったら、こいつもおまけだぜ!」

ヴァングレイもビーム砲を銃身が焼き付くまで発射し続ける。

さすがに3機による集中攻撃にはかなわないのか、徐々に命中し始めており、ついにスラスターにビームが命中、スピードが低下する。

「トビア!!」

「キンケドゥさん!!」

ビームサーベルを展開させたムラマサ・ブラスターを投げつける。

それが深々とアマクサの腹部に突き刺さると、その持ち手をスカルハートのシザー・アンカーがつかむ。

「なんとぉぉぉぉ!!」

そのまま先ほどトビアが見せたような薙ぎ払いを見せ、アマクサが真っ二つに切り裂かれた。

致命的なダメージを負ったアマクサは爆発しなかったものの、メインカメラの光が消え、機能停止した。

「よし、アマクサは停止した!」

「あとは基地の中のバイオ脳だ!一つ残さず破壊するぞ!」

「ソウジさんたちは外で見張っていてください!バイオ脳をもって脱出するかもしれない敵を…!」

「んじゃあ、お言葉に甘えて…」

「気を付けてね、トビア君!」

先ほど、ビームを撃ちすぎたせいか、銃身が焼き付いてしまい、もうビーム砲は使えなくなっていた。

レールガンの残弾もわずかで、ポジトロンカノンについては加減が利かない。

ここは2人に任せるほかなかった。

 

-木星帝国軍残党秘密基地 内部-

2機のクロスボーン・ガンダムのザンバスターがバイオ脳製造プラント及び保管庫をビームで焼き尽くしていく。

「よし!これでもう、アムロ・レイのコピーは…」

「聞こえるか!木星帝国残党!!もう、お前たちに抵抗する手立ては残っていないことは承知している!速やかに投降しろ!」

キンケドゥがオープンチャンネルで基地に残っている兵士たちに勧告する。

無駄だとはわかっているものの、クロスボーン・バンガードの先代の指導者であり、自身の恋人であるベラ・ロナの思いを、可能な限り相手を殺さないという彼女の理想を貫きたかった。

そんな彼らの前に傷だらけの木星帝国兵が出てくる。

ノーマルスーツは血でべとべとになっており、手には銃が握られている。

「おのれ…海賊め!!またもや、またもやわれらの…ドゥガチ総統の理想の邪魔を!!」

「もうやめろ!ドゥガチはもういないんだぞ!」

「こうなれば、貴様らも道連れにしてくれる!!」

その言葉と同時に、基地内に激しい揺れが襲う。

「く…まさか、貴様!!」

「ハハハハ!!もうすぐこの基地は自爆する!!もう脱出路もふさいだ!ともにドゥガチ総統のもとへ参ろうぞ…ジーク・ドゥガチ、ジーク・ジュピターーーー!!」

ドゥガチの妄執に取り憑かれた哀れな兵士が崩壊する基地のがれきの下敷きとなり、息絶える。

「バカ…野郎が!!」

おそらく、基地の中の兵士や研究員も全員死んでいるだろう。

悔し気にキンケドゥはコックピットの壁に拳をたたきつける。

「ここまでなのか…ベルナデット…。え…??」

もはやこれまでかと思ったトビアの脳に直接誰かが語り掛けてくる。

言葉になっていない、わけのわからない声だが、その意味ははっきりと分かった。

「トビア、どうした!?」

「キンケドゥさん!こっち…こっちです!!」

 

-木星軌道上 暗礁地帯外-

「基地が爆発する!!」

「急げ、トビア!!キンケドゥの旦那!!」

爆発し、崩壊していく基地を見ながら、ソウジは必死に叫ぶ。

「…え、何…??」

そんな中、チトセの脳裏に誰かが語り掛ける。

トビアが聞いたのと同じように、言葉になっていない声だ。

「ソウジさん、ポジトロンカノンを!!」

「な…何言ってんだチトセちゃん!?そんなことをすりゃあ…」

「いいから!!」

ポジトロンカノンがセットされ、チトセが出力調整を始める。

「ポジトロンカノン出力…照準補正…これで、これでいいのね…?」

「一体どうしたんだよ…」

誰かに確認するかのようにしゃべるチトセを見て、ソウジは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

「まだね…もう少し…もう少し…今よ、ソウジさん!!」

「よくわからんが、ここはチトセちゃんと俺のカンピュータを信じるぜ!」

チトセを信じることにしたソウジはポジトロンカノンを発射する。

ビームは崩壊しつつある基地の巨大な破片を吹き飛ばし、そこから2機のモビルスーツが飛び出してきた。

「旦那、トビア!!」

「ああ…よかった!!」

2機がスカルハートとX3パッチワークであることを確認した2人は安どする。

「よく無事だったな!!」

「導いてくれたんです。あのバイオ脳が…」

「あれが…?」

4人は崩壊する基地のそばに漂うアマクサの上半身を見る。

「私も…聞こえた気がしたんです。それはたぶん…」

「え…?チトセさんも!?」

チトセのまさかの言葉にトビアが驚く中、アマクサの上半身はそのまま基地の爆発とともに消えてしまった。

「反応、消失か…」

「お礼を言うこともできずってとこか…」

(あの声…確かにあのバイオ脳から聞こえた。もしチトセさんが聞こえた声も同じなら…)

 

-ヤマト 格納庫-

基地でそのまますぐにヤマトとエオス・ニュクス号と合流した3機のモビルスーツはそのままヤマトに収容される。

そこで待っていたベルナデットはX3から出てきたトビアの鼻のテープを外す。

もう傷はふさがっているものの、傷跡はすっかり残ってしまっていた。

「傷…残っちゃうみたいね」

「更に海賊らしくなったよ」

「トビアったら…」

トビアらしいポジティブな言動に笑いながら、一安心する。

そんな2人をソウジとチトセはヴァングレイのそばから見ていた。

「今回はトビアのお手柄だな」

「そうですね。でも、もう2度とアムロ・レイと戦うのは御免です」

「そりゃそうだ。もう1度戦って勝てって言われても、無理だ」

アマクサとの戦いを思い出しつつ、くたびれた表情を見せるソウジ。

そんな2人の元へ、トビアが歩いてくる。

「それにしても、なんでアムロ・レイのバイオ脳は俺とキンケドゥさんを助けてくれたんでしょう…」

トビアの中に残った疑問がそれだった。

ただ戦闘データをコピーしたに過ぎないバイオ脳にそのようなことができるはずがない。

もし、それが可能だとしたら、あのバイオ脳は本当の意味でアムロ・レイの生き写しと言える存在となってしまう。

「…そういやぁ、アムロ・レイにはあるエピソードがあったな。ニュータイプの力で、燃え盛る宇宙要塞から仲間たちを脱出させたって…」

一年戦争終盤の宇宙要塞ア・バオア・クーでの話だ。

宿敵であるシャア・アズナブルとの戦いで傷つき、ガンダムも大破したアムロはニュータイプの力を最大限まで開放。

彼の思念がオールドタイプ、ニュータイプ問わず、彼の仲間たちすべてに伝わり、そこからの脱出に貢献した。

それはホワイトベースのクルー、及び彼らを救出したサラミスのクルーや目撃者の証言だけで証拠は残っていない。

そのため、今では伝説として語られるのみとなっている。

「じゃあ、トビアが聞こえた声は、あのバイオ脳がアムロ・レイの真似をしたってことですか?」

「多分…な」

「信じられないわ。あれはアムロ・レイの完全な戦闘力のコピーのはずなのに…」

「チトセちゃん。仮にあれがアムロ・レイの完全な戦闘力のコピーだとしてもだ、そのどこからどこまでが力でどこから先が気持ちなのか、なんてのはだれにもわからないかもな…。おっと、らしくない話をして悪いな」

フッと笑いながら、3人に詫びるものの、彼らはみんなソウジの話にびっくりしていた。

「ソウジさん…何も考えていないと思ってたのに…」

「私、今日初めてソウジさんのこういうすごくまじめな話を聞いた気がする…」

「なぁ、泣いていいか…?」

「まあ、その話は置いておいて…。これで、帝国の戦力も削れたと思います。あとは…」

「その必要はないと思うわ」

格納庫に入ってきた女性がトビア達にそう語る。

ソウジとチトセはだれの声かわからなかったが、トビア達にはわかっていた。

「ベラ艦長!?」

「久しぶりね、2人とも」

「ああ…すみません、もうベラ艦長じゃありませんよね…?」

「いいのよ、トビア。私はまだベラ・ロナを名乗っているから」

「木星帝国との戦いが終わっていない以上、彼女はベラ・ロナ…そして俺はキンケドゥ・ナウだ」

スカルハートから出てきたキンケドゥがベラの隣に立つ。

「ベラ艦長、さっき帝国をたたく必要はないとおっしゃっていましたが…」

ベラの言葉がベルナデットには引っかかっていた。

まるで先ほどの戦力が最後であるかのような言い草だったためだ。

「それに、どうしてお2人はヤマトに…それに、エオス・ニュクス号まで…」

地球圏にいるはずの2人と再び現れたX3、そしてベラの言葉。

どうしてこのようなことになっているのか、トビアには全く分からなかった。

「順を追って説明するわ」

「2か月前、地下都市で生活していた俺たちのもとへ木星の亡命者が尋ねてきたんだ」

「亡命者…?」

木星帝国からの亡命者は木星戦役終結後は別に珍しい話ではなかった。

ドゥガチの死後、ドゥガチの行動に疑問を持っていた人々が中心となって木星帝国を離れる動きがあり、ヘリウム船団を使って地球や火星へ逃げてくる人々がいる。

おそらく、キンケドゥらのもとに来た亡命者もそういう形での亡命者だろう。

「木星帝国の軍部が再び地球侵攻を始めようとしていたの。そこで、元クロスボーン・バンガードの私たちの居場所を突き止めて、協力を要請してきたの。ドゥガチを止めたあなたたちなら、軍部の暴走と止めることができるって…」

「俺たちはすぐにシェリンドンに協力を頼んで地球を出た。そして、サナリィ第2月面開発実験所に依頼してこのX3を用意してもらった。まぁ…ほとんど押し付けに近かったが…」

「ああ…」

キンケドゥの言葉を聞き、トビアはそこの責任者であるオーティスのことを思い出す。

彼はクロスボーン・バンガードにクロスボーン・ガンダムを提供してくれた人物で、それと引き換えに戦闘データを提供することとなっていた。

なお、その簡易生産型であるフリントは入手した戦闘データをもとに開発したもので、F-97として連邦軍に売りさばき、ゆくゆくはソウジ達が乗るかもしれないモビルスーツとなっていた。

しかし、木星戦役の戦火が地球圏にまで飛び火し、非合法の宇宙海賊であるクロスボーン・バンガードとの関係を隠ぺいするため、販売を断念することとなった。

そのことが原因で、更に決戦のためにという理由で完成していたフリントまで持って行ったことも手伝い、オーティスから疫病神、泥棒猫と目の敵にされ、トビアもキンケドゥから受け取ったX1をスカルハートに回収するため部品を買いに来た時はすごい剣幕でスパナを投げつけられた。

仮にクロスボーン・バンガードのメンバーの1人が元サナリィのアイドルであったオンモ(現在はリトルグレイ艦長)でなかったら、門前払いされていた、もしくは殺されていたかもしれない。

キンケドゥが来たときもあいさつ代わりにスパナを投げつけ、そのあとで交渉の末に廃棄予定だったパーツを譲り受けることとなり、木星圏への移動中にそれらを組み立ててX3パッチワークとなった。

「そのあとは木星のレジスタンスと行動を共にして、その中でアムロ・レイのバイオ脳の情報をつかんだ。あとはお前たちの知っての通りだ」

「…どうして、頼ってくれなかったんですか?」

「トビア…」

トビアは平和な生活に戻ったキンケドゥとベラにはあのまま地球で暮らしていてほしかった。

後の問題はこのまま自分たちに任せてくれてよかった。

だが、キンケドゥ達は再び戦場に戻ってきてしまった。

再会できたことは喜ばしいのだが、それは望んだ形ではなかった。

「…木星帝国との戦いは、先代である俺たちの手で決着をつけるべきなんだ。それに、お前たちにはそれ以上にやるべきことがあるはずだろう」

「俺の…やるべきこと…」

「俺たちがお前たちと合流している間、シェリンドンが沖田艦長から話を聞いてくれた。地球をよみがえらせるために、イスカンダルへ行くと。それから…今日落とした基地で木星帝国残党の戦力はなくなった」

「…ええ!?」

いくら木星戦役で大きな損害を受けたとはいえ、木星帝国に残っている戦力を考えると、とてもあの規模で終わりだとはトビアには思えなかった。

「ってことは、まさかこれで木星帝国残党は壊滅ってことか?キンケドゥの旦那」

「事実上は…」

「正確に言えば、木星圏から姿を消した…が正しいわね」

「それって…!?」

「まさか、地球へ向かったんですか!?」

仮にそうだとしたら、それはそれで一大事だ。

ディビニダドがないとはいえ、木星帝国は核を保有している。

それを使って、地球を壊滅させることも可能だ。

そうなると、もはやイスカンダルへの旅どころではなくなってしまう。

しかし、現実はそうではなかった。

「彼らは外宇宙へ向けて出発した」

「は…外宇宙??」

「一体、何のために…?」

彼らの行動が理解できないソウジ達は首をかしげる。

必死に住める環境を作った木星を捨てるとは考えられないし、外宇宙へ行ったとしても、地球のような人の住める星を見つけるのは至難の業だ。

「…ガミラスの攻撃で滅亡の時を待つ地球に興味を失ったのかもな」

木星戦役はガミラスの遊星爆弾攻撃が始まる前の出来事だ。

あの戦争の後から、遊星爆弾攻撃が始まり、コロニーと地球の主要都市が壊滅し、海が干上がった。

青かった地球は赤く染まり、核の冬以上の最悪な状態となっていた。

そうなると、もはや地球を攻撃する理由もないのかもしれない。

だが、木星の人間でない以上、彼らの真意を知ることは難しい。

ドゥガチの娘であるベルナデットですら理解できないのだから、なおさらだ。

「木星帝国についての話はここまでだ。ここからはヤマトにとって重要な話になる」

「ヤマトにとって…?」

「ああ。この木星圏にガミラスの基地がある」

「ガミラスの基地…だって!?」




機体名:クロスボーン・ガンダムX3パッチワーク
形式番号:XM-M3P
建造:サナリィ
全高:15.9メートル
全備重量:24.8トン
武装:頭部バルカン×2、ビームサーベル(ビーム・ガン)×2、ヒート・ダガー×2、シザー・アンカー×2、ザンバスター(ビーム・ザンバー、バスターガン、グレネードランチャー)×2、ブランドマーカー(ビームシールド)×2、Iフィールド発生器×2、ガトリングガン×2、ムラマサ・ブラスター
主なパイロット:キンケドゥ・ナウ→トビア・アロナクス

サナリィから提供されたクロスボーン・ガンダム(F97シリーズ)のパーツをキンケドゥらの手によって組み立てられたもの。
頭部はX1のものを使用し、コアファイターはX2、胴体と両腕はX3、腰から下はフリントとこれまで作られたクロスボーン・ガンダムすべてのパーツが使用されている。
なお、カラーリングはX3のもので統一されており、性能そのものはX3とは大差ない。
また、Iフィールド発生器については技術革新があったためか、展開時間が105秒から110秒に伸びており、無防備になる時間がわずかに縮まっている。
当初はキンケドゥが使用していたが、木星圏でトビアと合流した際にコアファイターを利用して機体を交換した。
ちなみに、なぜ疫病神であるクロスボーン・バンガードの一員であったキンケドゥにそれを提供したのかは不明。
一説によると、地球連邦軍にクロスボーン・バンガードとの関与が疑われ、その証拠を可能な限り消しておきたかったというサナリィ側の事情があるとかないとか。

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