-クックタウン-
「ちっ…!スペースノイドがぁ!!」
地表からビームキャノンを撃ってくるガルスKをメガ粒子砲の連射で仕留めたジェリドだが、バイアラン・カスタムが拾う敵機の反応の数に舌打ちする。
彼が特に警戒するのが指揮官と思われるドーベン・ウルフで、パイロットであるラカン・ダカランの素性についても知っている。
一年戦争からネオ・ジオン戦争まで生き抜いてきたベテランの軍人には警戒心が強まる。
「犬め、いい加減に仕留めたいところだが…ちっ、予想以上に速い救援だな」
新たに拾った敵影とそれらの機体に刻まれているエンブレムにラカンは苦い表情を浮かべる。
先行しているのはドダイ改に乗った3機のジェスタ。
青い大文字のLに鈴。
仇敵であるエゥーゴの後釜であるロンド・ベルだ。
そして、そのうちのダリル機がドダイ改から飛び降り、ショットガンで地表に向けて牽制射撃を行う。
長距離からランゲ・ブルーノ砲を放とうとしたギラ・ドーガの姿もあったが、発射前にジェスタ・キャノンの放ったビームキャノンに撃ち抜かれた。
「へっ、今の俺に近づいたら、大けがするぜ」
地上へ降り、ショットガンを投げ捨てたダリル機が後ろ越しに手を伸ばし、マウントされているツインビームスピアを手にする。
ロッドモードに切り替え、まずは対空攻撃を行うザク・キャノンに一気に接近し、3枚にスライスされた状態でわずかに宙を舞った後で爆発した。
「ロンド・ベルのトライスターか…くそっ!よりによって、あんな奴らに助けられるとは!!」
「ぜいたくを言うなよ、ジェリド。奴らじゃないだけありがてえって思え」
ロンド・ベルの中でも、特に煮え湯を飲まされたガンダムはジェリドもヤザンもいい印象を持っていない。
そのことを考えると、まだトライスターならマシというべきだろう。
そして、トライスターに続いてドダイ改に乗ったジェガンと灰色のウェイブライダーというべき姿の戦闘機に乗ったジェガンもやってくる。
いずれのジェガンも薄茶色の装甲でコックピット部分に増加装甲が取り付けられたもので、ドダイ改に乗っているそれにはバイザーやダガーナイフが装備されているなど、普段目にするジェガンとは大きく異なる装備が施されている。
「Gハウンドのモビルスーツ部隊、生きているか?私はエコーズ920隊司令。ダグザ・マックール中佐だ。これより、ロンド・ベルと共同で貴官らを援護する」
「エコーズ…噂のマンハンターか」
「俺たちの同類だな、こりゃプラマイゼロというべきだなぁ!?」
浅黒い肌をした、薄黒い刈上げの髪をした強面の男と彼が名乗るエコーズという名前にヤザンは思わずせせら笑う。
エコーズについてはケネスから軽く聞いており、秘密主義のマンハンターと噂される連邦宇宙軍特殊作戦群だ。
アクシズ落としの後で編成されたもので、その作戦の多くが重要機密事項となっている。
最低限の伝達を終えたダグザの乗るジェガンはハイパーバズーカを動き出しているドーベン・ウルフを含めたモビルスーツ部隊に向けて放つ。
「コンロイ、しくじるなよ」
「隊長こそ。リディ少尉、ここで降りる。脚替わり、感謝するぞ」
「いいえ、作戦ですから」
大柄な体にダグザとは対照的に人当たりがよさそうな顔立ちのした坊主頭の男、コンロイ・ハーゲンセン少佐が乗るジェガンが降下していくのを見送ったウェイブライダーが変形し、その正体であるモビルスーツとしての姿を見せる。
Zガンダムのシールドを持ったグレーの百式と言えるそのモビルスーツは接近してきたドム・トローベンを右手のビームライフルで頭部を撃ち抜く。
メインカメラを失い、視界を奪われたそのモビルスーツが右手に握っていたラテーケン・バズーカを蹴り飛ばし、戦う術を失わせる。
コックピットにはそのモビルスーツから脱出するジオン兵の姿が映っていた。
「リディ少尉!デルタプラスは重力下でのモビルスーツ形態での戦闘データが不足しています!機種転換訓練をやったばかりですから、無茶をしないで!!」
「分かっているさ!リゼルとは違うってことくらい!」
ミヒロの心配も分かるが、育ちの良さのある整った顔立ちをした金髪青瞳の青年、リディ・マーセナス少尉にとって、このデルタプラスは肌に合うモビルスーツだと自認している。
確かに重力下での可変モビルスーツの運用については訓練でしか行っていないが、1G下でも飛行可能というデルタプラスなら問題ない。
現在では後継機のいない百式をベースとしているために現行機との互換性がほとんどないことは分かっているが、機種転換訓練や先ほどまでのクルージング、そして運用時の柔軟性を考えると現役として通用する。
新兵用にも熟練パイロット用にも柔軟なチューニングが行えるリゼルと比較すると、やはりピーキーなことは承知しているが、使いこなせないほどのものではない。
「それに…地球こそが航空機の本場だろう!!」
元々、航空機へのあこがれを抱いていたリディにとっては地球でも可変モビルスーツの運用は夢のような話だ。
記録映画にあったような青い海広がる平和な地球でないことは残念だが、このシチュエーションはリディの心を躍らせていた。
「白兵戦用モビルスーツが現れたか…ちっ、奴らの相手をするな!下がれ!!」
地上で対空攻撃を行うモビルスーツを失えば、上空のハンブラビとバイアラン・カスタムを自由の身にしてしまう。
そして、ロンド・ベルのトライスターが現れたということは、それが所属しているであろう本隊も合流する恐れがあり、そうなるとパワーバランスが崩れる。
「旗色が悪そうだな、ラカン・ダカラン。手を貸してやろうか?」
苦虫をかむラカンに通信が繋がり、彼の釣りあげている右口元を今すぐでも殴りたいと思ってしまう。
だが、今ここで戦力を過度に消耗させるわけにはいかず、本来の彼の目的であるガンダム撃破が夢と消えてしまう。
「…ちぃ、助力を要請する!リーバー・ザ・リッパー!!」
「へっ…いいぜ。連邦を切り刻んでやるよ」
ラカンの通信に応え、後方に待機していた紫色のモビルスーツが起動する。
他の機体は動く気配はなく、あくまでも飛び出すのはこの1機のみ。
コックピットには紫のノーマルスーツで身を包んだ、赤いバンダナを額に巻いている男が座り、機体の状態の最終チェックを行う。
「隊長!イフリート・シュナイドは万全です!連邦の奴らに目に物を見せてやってください!」
「ああ…分かっているさ」
口元と顎に伸びた髭を撫で、操縦桿を握りしめる。
長年パイロットを務め、戦い続けてきた彼だが、まだ死に場所はここじゃないということははっきりわかる。
今の戦場の空気からはそんなものは感じられない。
「フレッド・リーバー、イフリート・シュナイド…出る」
「うおらあああああ!!」
身を守ろうと盾にしたランゲ・ブルーノ砲共々ギラ・ドーガを切り裂いたダリルのジェスタはツインビームスピアを畳み、周囲の索敵を行う。
地上の対空戦力をあらかた蹴散らしたため、隊長機のドーベンウルフを除けば、あとは自由の身になった2機でもどうにかなるだろう。
「こいつは…気を付けろ、ダリル!!増援の1機が突っ込んできやがるぞ!!」
「何!?」
ワッツからの通信を聞いたダリルにも、その速すぎる動きを見せる反応が分かり、そこへメインカメラを向けると同時にヒートダートがメインカメラに直撃する。
「うわああ!クソッ!カメラがやられた!!」
「援護する、下がれダリル!!」
視界を奪われたダリル機をかばい、ナイジェル機が敵機であるイフリート・シュナイドにビームライフルを放つ。
マシンガンのように連射しているが、イフリート・シュナイドはホバリングを駆使した高速移動を見せつけ、当たる気配がない。
「ちぃ…ワッツ、援護しろ!ダリルを回収する!!」
「了解!調子に乗るなよ、旧型がぁ!!」
ジェスタ・キャノンのビームライフルとビームキャノン、そしてミサイルがイフリート・シュナイドを襲い、さすがの敵機も少しずつ後ろに下がっていく。
その間にナイジェル機がダリル機を拾い、ドダイ改に乗せる。
「くっ…すみません隊長」
「構わんさ。だが…ジオンにもまだまだ脅威となるパイロットがいるということか」
現代機レベルにまで強化されているとはいえ、それでももともとは17年前のモビルスーツであるイフリート。
旧型モビルスーツにも関わらず、エースであるダリルが乗るジェスタを奇襲とはいえ、一瞬で無力化した。
機体以上にパイロットの強さを感じずにはいられない。
「ちっ…腕は立つが、やはり腹が立つ奴だ!!むっ…別方向から敵影?ロンド・ベルめ、もうやって来たのか!?…馬鹿な、このモビルスーツ反応は…!?」
ガンダムだけなら、怒りを感じるだけで、データにない新型機であっても警戒心を強めるだけだったラカンだが、今回は違う。
覚えの有るモビルスーツ反応だが、もはやこの世に存在しないはずのもの。
目を見開いたと同時に、大出力のビームが飛んできて、たまらずラカンはドーベン・ウルフを大きく跳躍させて回避する。
逆探知すると、そこにはウェイブシューターから離脱し、自身のスラスターで飛行するνガンダム・ゼロの姿があった。
「νガンダム!?マイナーチェンジか、それとも…本物か!?」
どちらかどうかは分からないが、アムロとνガンダムの登場によって部隊に動揺が広がる。
それはGハウンドをはじめとした連邦軍も同様だった。
「ロンド・ベルのモビルスーツ部隊…だが、νガンダム!?アムロ・レイ大尉が、生きている…!?」
「消えたはずの白い奴に、よく分からんモビルスーツ…増援はありがたいが、奇妙な感じがするぜ」
「ククク…アムロ・レイか。ジャブローでの暴れっぷりを思い出すぜ!!」
動揺が広がる中で、フレッドだけは笑わずにはいられなかった。
彼はかつて、連邦軍の懲罰部隊に所属していて、ジャブロー攻防戦にも参加していた。
その中で、アムロが乗るガンダムの姿を見たことがある。
重力下であるにも関わらず、バッタのように跳躍しつつ、ビームライフルで次々とザクとグフ、ドムを撃破している姿は今でも覚えている。
そんな彼に血が騒ぎ、若いころはいつか彼と戦いたいと思ってしまい、当時所属していた隊長にたしなめられたことをよく覚えている。
1年前のアクシズ・ショックでシャアと共に行方不明になったことで、彼と会うことはもうないと思っていたが、こうした幸運があるということは、まだまだこの世界には救いがないわけではないようだ。
「ええい、ZZ、ジュドー・アーシタか!!」
「ラカン・ダカラン!まだこんなことをしているのかよ!?」
ジュドーはネオ・ジオン戦争の中で、ラカンと何度も戦っている。
そして、彼はネオ・ジオン戦争中にハマーンが行ったダブリンへのコロニー落としの際、一人でも多くの犠牲者を作るべく、橋を落としたり、赤十字船を攻撃するなどの所業をしていたことは記憶に強く残っている。
赤十字への攻撃禁止は大昔にジュネーブ条約によって中国や北朝鮮など一部を除く多くの国が加盟したことで決められている。
宇宙世紀になり、赤十字もまた宇宙での活動が行われるようになってからは各サイドでも批准の動きがみられた。
ジオン公国となったサイド3は一年戦争勃発時は批准していないが、南極条約にジュネーブ条約の内容が入ったことで実質批准する形となり、終戦後に改めて正式に批准することになった。
「ジュドー・アーシタ!貴様とダブルゼータを倒し、名を挙げて見せる!!」
ここでダブルゼータの首を持ち帰ることができれば、屈辱の日々を清算することができる。
彼の狙いがGハウンドからダブルゼータに移り、接近するその機体に向けて左手に内蔵されているビームガンを発射する。
「いい加減にしろよ!!相変わらず、この地球を見ても、この廃墟を見ても何も感じないのかよ!?」
長い間戦争をしていると、ここまで感覚がマヒするのか。
シャングリラから初めて地球に降りて、この赤い海と廃墟を見たときはあまりにも悲しく感じ、そのことが今でも忘れられない。
そして今、仲間を守るためとはいえ、こうして戦って、死にかけている地球を更に汚す真似をしている。
そのことが悲しくて、怒りを感じずにはいられない。
同じスペースノイドである自分がそんな悲しみを抱いているのに、目の前のスペースノイドにはそれを感じないのか?
「何を言う!?我らの宇宙は連邦が奪ったのだ!そして、地球にしがみつくオールドタイプにはお似合いだろう!?セカンドインパクトがなくとも、ゲッター汚染で自ら地球を汚す真似をしておるのだ!救いがないものだな、アースノイドというのは!!」
「何をぉ!!」
ハイパービームサーベルを引き抜いたZZガンダムがその大出力で重装なドーベン・ウルフを両断しようとする。
しかし、急にそれを保持する左手に衝撃が走り、握っていたハイパービームサーベルを落としてしまう。
「何!?今のは…」
「インコムとはこう使うものだ!!」
左手に気を取られたジュドーに向けてタックルを放つ。
虚を突かれる形となったZZガンダムはあおむけに転倒する。
「うわああ!!」
「ジュドー!奴の言葉に耳を貸すな!」
射出されたインコムをバルカンで破壊し、ジュドーのフォローに入ったνガンダム・ゼロがビームライフルをドーベン・ウルフに向けて連射する。
(ドーベン・ウルフ…。元はガンダムとしているみたいだが)
ティターンズが開発していた強化人間用のガンダムの情報はアムロも耳にしている。
エゥーゴがティターンズから奪取したガンダムMk-Ⅱの汎用性の良さはスポンサーであるアナハイムにも影響を与えており、それを元に次世代機が次々と開発されることになった。
その中で、不採用となったものの『人体の模倣』というMk-Ⅱのコンセプトをさらに推し進めたガンダムMk-Ⅲがある。
Zガンダムをはじめとする可変モビルスーツの台頭によって設計段階で終わった機体だが、オーガスタ研究所がそれの設計データを裏取引で獲得し、現在ドーベン・ウルフに採用されているインコムを試験で気に搭載したガンダムMk-Ⅳを開発した。
そして、ティターンズの依頼でサイコミュ搭載型モビルスーツの開発が行われる際にMk-Ⅳがベースとされ、準サイコミュシステムや装備を更新したガンダムMK-Ⅴが作られた。
ティターンズ壊滅後は連邦軍に接収されたが、ロールアウトされた機体もあるが、その中の1機がジオンへ亡命した研究者の手によって奪取されてしまった。
その機体をベースに開発されたのがドーベン・ウルフであり、ある意味ではガンダムが連邦に牙を向いているという形になっている。
「白い奴め、あのまま消えてくれていればよかったものを…!」
「はっ、そんなんじゃあ、勝ち逃げだろ?首がほしければ、俺が取ってきてやるよ!!」
アクシズでの戦いでシャアが乗っていた総帥用モビルスーツであるサザビーまで討ち取り、ジオンにはアムロを撃墜できるパイロットと機体は存在しないとまで言われてしまっている。
それを否定してやると言わんばかりに、ヒートダートを構えたイフリート・シュナイドがνガンダム・ゼロに向けて突撃する。
「動きの速いイフリート!?邪魔をして!!」
ビームライフルを撃つアムロだが、相手はニュータイプではないがラカンと同じく熟練のパイロットであり、簡単に当てさせてくれない。
上空を飛んでいることなど構わずに跳躍して食らいついてくる。
「くっ…このモビルスーツ、無茶すぎるぞ!?」
「あんたにだけは言われたくないな、アムロ・レイ!!」
「隊長、こちらの部隊の後退は終わっています!『上』からの指示も出ています。一時撤退を!」
「潮時か…まぁ、今の戦力じゃあな」
キイイイインと空気を斬る音が響き、上空には大型のミサイル数発がクックタウンに振ってくる。
「熱が小さい…まさか!!」
とっさにジェリドがメガ粒子砲でミサイルを撃ち、小規模な爆発を起こしたミサイルから煙幕があふれ出る。
着弾、もしくは爆発したミサイルから発生する煙幕が町中を包んでいき、イフリート・シュナイドとドーベン・ウルフなどのジオンのモビルスーツ達は煙の中へと消えていく。
煙が晴れていくと、既にジオンの部隊は姿を消していて、アムロは構えていたライフルをゆっくりとおろした。
「後退した…。もう少し粘ってくると思っていたが…」
「ロンド・ベル、エコーズ。今回の救援、一応感謝しておくぞ」
ヤザンからの通信がナイジェルの元へ送られる。
「ヤザン少佐、シムルグからランデブーポイントが届きました」
「了解だ。じゃあな、次もお前らと共に戦うことができればいいがな」
ハンブラビとバイアラン・カスタムがクックタウンを離脱していく。
彼らがいなくなったのを確認した後で、ナイジェル機がアムロと通信を繋ぐ。
「アムロ大尉、無事で何よりだ。アクシズ共々消息を絶ち、そして今ここへもどってきた。ニュータイプ特有のマジックでも使ったのか?」
「ニュータイプがそんなに便利な存在なわけないだろう?ナイジェル大尉。いいモビルスーツみたいだな」
「ああ…。ジェガンの発展型のジェスタだ。カタログスペックでは、あんたのνガンダムの性能の9割近くまで到達している。並みのモビルスーツに対しては遅れは取らんさ」
「そうか…1年で変わるものなんだな」
ジュドーからも話は聞いていたが、ネオ・ジオン戦争が終わってから従来の主力モビルスーツの座がジム系からジェガンへと完全に変わっているらしい。
アナハイムがこれまで開発したジムとネモの技術を受け継いでおり、カタログスペックでは百式を凌駕するとさえ言われている。
グリプス戦役からモビルスーツが恐竜的な進化を果たしているとはいえ、それでもエゥーゴがロンド・ベルへと発展したことも含めて、わずかの間に時に流れから取り残されている気がした。
「お前たちがここにいるということは、ネェル・アーガマも…ブライト艦長もいるのか?」
「今の我々がいるのはネェル・アーガマだが…今の艦長はブライト大佐ではないぞ。まぁ、詳しい話は中でしよう。ジュドー達のことも含めて、いろいろと聞きたいことがあるからな」
「お、ネェル・アーガマだ!!やっと帰れたぜ!!おーい、こっちだぞー!!」
海から見えてきたネェル・アーガマに百式が両手で手を振り、あまりにも子供っぽく見えたビーチャの所業にエルがコックピット内で頭を抱える。
その周囲には直掩のリゼルやジェガンの姿もあった。
-ネェル・アーガマ 格納庫-
「すげえ、本当に戻って来たんだな…地球を救った英雄、アムロ・レイとνガンダム…!?」
「私、初めて生で見たけど…すごいモビルスーツね…」
整備兵やインダストリアル7から避難してきた少年少女たちが集まり、口々に収容されつつある機動兵器たちに声を上げていく。
一番の注目はやはりνガンダムで、これにはほかのパイロットたちが抑えるので精いっぱいな状態だ。
「大注目だな、アムロ大尉!」
「茶化すなよ、ジュドー」
「早く会ってやりなよ。多分、いるぜ。チェーンさんも」
「ああ、そうだな…」
νガンダム・ゼロが収容され、コックピットから降りるととうとう彼らの周りに人がごった返してしまう。
アムロが生きているのか、もしくはゾンビになってしまったのかと興味本位で集まってくる。
「アムロ・レイ…アムロ・レイ!!本物だ!!肌も普通で、ちゃんと生きてるぞ!!」
「アクシズで消えちゃったみたいですけど、どうやって戻って来たんですか!?」
「一体どうしたというんだ…この艦?なんでこんなに学生がいるんだ??」
まるで、かつてのホワイトベースを錯覚させる光景に事情を知らないアムロは目を丸くする。
その群れの中を無理やりかいくぐり、一人の女性が出てくる。
襟のところまで伸ばした青い髪で、女性と少女の中間と言える顔立ちをした女性。
女性はアムロを見た瞬間、泣きそうな顔になり、彼に思いっきり抱き着いた。
「アムロ…アムロ大尉!!」
「チェーン、チェーン・アギ…」
「アムロ…生きていたのね。私、ずっと…ずっと…」
「すまない、チェーン…。心配をかけてしまった…」
「本当ですよ…!!」
泣きつくチェーンをアムロは優しく抱き返す。
「話では聞いていたけど、チェーンさんって本当に…」
「こら、エスタ。何写真を撮ろうとしているのよ!」
「何をしているお前たち!ここには機密情報があふれているんだ、さっさと戻れ!!」
遅れて戻って来たダグザとコンロイが部下と共に野次馬たちを解散させ、学生たちを指定している部屋まで戻していく。
そして、Ξガンダムを収容したハサウェイもチェーンの元へ戻ってくる。
「良かったですね、チェーンさん」
「ん…ああ、ごめんね、ハサウェイ。あなたも、無事でよかったわ」
アムロから離れ、涙を拭いたチェーンは笑みを見せつつ、ハサウェイに言葉を返す。
「ええ…。お預かりしていたΞガンダム、どうにか持って帰ることができました」
(ハサウェイとチェーンさん…2人はクェスのことを乗り越えようとしているんだな…)
クェス・パラヤは1年前、ハサウェイが戦場で出会うことになった少女だ。
シャアがネオ・ジオンを掌握し、資源衛星である5thルナが地球連邦軍の拠点となっていたチベットのラサへ落ちるのに前後して、当時は地球で母親のミライ・ノアと妹のチェーミン・ノアと共に過ごしていたハサウェイは避難のために家族と共にホンコンの宇宙港まで来ていた。
父親であるブライトの口添えもあり、無事にシャトルに乗れるはずだったが、そこを地球連邦政府の参謀次官を務めるアデナウアー・パラヤに割り込まれてしまった。
ロンデニオンで行われるシャアとの会談に出席するという目的で、その時は彼の現在の妻であるキャサリン・パラヤ(実際に結婚しているかどうかは分からないが、彼とクェスの死後、パラヤ家の遺産は法的に彼女に相続されていることから、ここでは結婚している物として扱う)と娘のクェスも連れていた。
しかし、ハサウェイが述懐するように、彼女は他人の心情を敏感に感じ取る鋭い直感と感受性を持っていると同時に、情緒不安定で感情の起伏の激しい少女で、自分の母親ではないことも手伝って、キャサリンを猛烈に嫌がり、そのことでクェスに愛想を尽かしていたキャサリンは搭乗を拒否して立ち去ってしまう。
それで1人空きができてしまい、そこでアデナウアーは割り込んでしまった詫びとブライトやロンド・ベルに懇意にしている政治家で、国防委員会の重鎮のジョン・バウアーに借りを返すため、空いてしまった席を彼らに返した。
その際にミライに16歳になろうとしていて、まだ宇宙へ出たことのないから、早く宇宙から今の地球を見るべきだと言われ、ハサウェイは1人でシャトルに乗り、宇宙へ出ることになった。
そのシャトルが宇宙へ出た直後、ジオンとロンド・ベルとの戦闘に巻き込まれることになり、そこでネェル・アーガマに回収され、ブライトと再会することができた。
クェスとは同年代であることから、一緒にモビルスーツのシミュレーションをしたり、話をしたりして友人となり、ハサウェイ自身は彼女に好意を抱くようになる。
運命が大きく変わってしまったのはロンデニオンで、アムロとクェスと3人でドライブを楽しんでいたとき、偶然会談を終えたシャアと出会ってしまったことだ。
地球が滅びかけているにもかかわらず、なおも地球に居座り続け、重力に魂を縛られ続けているアースノイドへの強い失望感を抱くシャアと人間の可能性を信じ、地球再建を果たすことができると信じるアムロがぶつかり合うのを見たクェスはシャアに同調し、彼と共に行ってしまう。
これはクェスがアムロに好意を抱いていて、その時すでに彼のそばにいたチェーンに嫉妬してしまったことが大きいだろう。
また、アムロとシャアにはアデナウアーから本来は与えられるはずで、与えられなかった父親としての愛情を求めていたようだ。
ただの情緒不安定な少女なだけなら、シャアも何もすることはなかっただろうが、彼女にはニュータイプとしての才能が存在してしまったことが悲劇へとつながった。
そのままシャアに連れられ、彼にその才能を利用されるかのようにパイロットとなった。
ハサウェイはそんな彼女を救うために、本来ならロンデニオンでほかのシャトルの乗客共々降りるはずだったが、ネェル・アーガマに密航し、発見されてからは艦内の一室に入れられ、そのまま戦場へと向かった。
そして、重力に捕まりつつあるアクシズでの戦いの中でクェスの感応波を感じ取り、止めなければと考えたハサウェイは部屋を抜け出し、無断でジェガンに乗って出撃してしまった。
そして、ニュータイプ専用モビルアーマーであるα・アジールに乗っているクェスを見つけたハサウェイはどうにか彼女を説得しようとするが、同年代の友人に過ぎなかったクェスに拒絶されるだけだった。
そんな中、同じくジェガンで無理やり出撃していたチェーンとばったり会ってしまい、嫉妬を暴走させたクェスは彼女を攻撃してしまう。
事情の分からないチェーンはこのままではハサウェイも死んでしまうと考えてしまい、反撃に出てしまい、そのことが原因でα・アジールは撃墜され、クェスも死んでしまった。
救おうとしていた彼女を殺されたこと、そして死んだように赤く染まった地球をなおもつぶそうとする大人たちのエゴにストレスが爆発したハサウェイはクェスを殺したチェーンを殺そうとしたが、ちょうどそれと同時にアクシズ・ショックが発生し、νガンダムのサイコフレームから発生した光を見たハサウェイは正気に戻ると同時にチェーンへの殺意を捨て、ただクェスを救えなかったことに涙を流すことしかできなかった。
この一件でハサウェイは軍の重要機密に触れてしまったことになり、彼は軍人にならざるを得なくなった。
「チェーンさん、ブライト艦長は?ハサウェイのこともありますので、ちゃんと帰ったって挨拶をしたくて…」
「ああ、そういえばわからないわよね…。実は、ブライト艦長たちはいないのよ。新しいロンド・ベルの旗艦になる新型艦に移って…」
「新型艦…?もう、なのか?ネェル・アーガマも現役そのものだろう?」
ナイジェルからもその話は聞いていたアムロだが、ネェル・アーガマは実戦投入されてからまだ1年しか経過していない。
そんなネェル・アーガマを早々に降ろして、新型艦ができるこの異様なスピードに驚きを覚える。
「ジョン・バウアー殿の手引きもあるが…疎まれているがロンド・ベルの戦力を引き上げて、ジオンと戦ってもらいたいという事情も、あるのだろう」
格納庫にオットーとレイアムが入ってきて、彼らを見た兵士たちが姿勢を正し、敬礼する。
「オットー・ミタス中佐…お久しぶりです」
「アムロ大尉…。無事に戻ってきてくれたか。ブライト大佐が聞けば、喜ぶだろうな」
オットーもレイアムも、エゥーゴに参加していた身で、アムロとは面識がある。
ブライトの陰に隠れがちではあるものの、彼ら2人が有能であることは一緒に戦ったアムロも分かっていることで、新たに彼らが艦長、副長となったことについては否定するつもりはない。
「なら、チェーンさんがここに残っているのは…?」
「実は、この子の面倒を見るためなのよ」
チェーンが見つめるそのモビルスーツはこれまでのモビルスーツでも異質ともいうべき、純白なモビルスーツだった。
一本角を生やし、ツインアイがギリギリ見えるくらいなまでに顔をマスクで隠していて、仮にこのツインアイがかろうじて見えなければガンダムだとわからないほどだ。
「あの一本角のモビルスーツ…」
「ええっと、名前はユニコーンガンダム…かっこいいじゃん!もしかして、アムロ大尉が乗るモビルスーツ?だって、一角獣ってアムロ大尉のエンブレムだし」
興味津々にユニコーンガンダムを見つめるエルたちに対して、アムロはこのモビルスーツに違和感を感じずにはいられなかった。
既視感と同時に、何か底の深い何かおどろしいものが感じられた。
「…このユニコーンガンダムはムーバブルフレームのすべてがサイコフレームで構築されています」
アムロの不安を察したチェーンはあの戦いの後も持ち続けているサイコフレームのサンプルを握る。
当初は従来のサイコミュより受信許容量や速度が大きく向上し、更には機器の安定性を高める効果、フレームに配置することで追従性を飛躍的に向上させる効果しか見られていなかったが、アムロが起こしたアクシズ・ショックがサイコフレームの、開発者でさえ想定していなかったであろう性能を過剰なまでに証明してしまった。
人知を超える力を持つそのサイコフレームがあろうことか機体全体に施されているといっても過言ではないユニコーンガンダム。
それが一体どれほどの力を発揮してしまうのか、恐怖を抱かずにはいられない。
「アナハイムはあの後、サイコフレームの機能を解析したというのか?」
「いえ…アムロが見せた奇跡、アクシズを包んだ光を見た上層部がその再来を願って造られたものです。もしかしたら、この地球を再生することもできるのではないか、と…」
それを本気で考えるようなロマンチストなわけではないが、とため息をつくチェーンだが、アムロにはそんな大雑把な理由でサイコフレームが使われることに違和感を覚えた。
その力がもし、危険な形で使われたらと考えないのか?
もしこれをシャアが発動したら、逆にアクシズによって地球がつぶされていたかもしれないのに。
「すごいもんだな、これ!!じゃあ…νガンダム以上の力を出せるってことか!?」
「それで、そのパイロットは誰なんですか?まさかとは思いますが…」
これほどニュータイプが乗ることを前提としたモビルスーツならば、パイロットになりうるニュータイプでアムロの頭に浮かぶのは1人しかいない。
だが、彼は現在は月で療養生活を送っていて、傷ついた彼を再び戦場に引っ張り出すような真似をする気にはなれない。
もしそのようなことをしたら、彼に期待を寄せていたシャアに対して顔向けできない。
「…詳しい話は、落ち着いてからだ。アムロ大尉とダグザ少佐は我々と来てくれ。その間にチェーン少尉はνガンダム及びユニコーンガンダムの調整を」
「は、はい…」
オットーとレイアムに連れられ、アムロとダグザは格納庫を後にする。
そして、ちょうどデルタプラスから降りてきたリディがジュドー達の元までやってくる。
「ジュドー、ガンダム・チーム!みんな無事で何よりだ!」
「見ない顔だけど…ロンド・ベルの人なのか?」
「ああ、初めましてだな。リディ・マーセナス少尉だ。ロンド・ベル再編成の際にこちらへ転属になった」
人当たりの良い笑顔を見せるリディがジュドーに右手を差し出し、ジュドーも笑顔を見せて握手を交わす。
「もしかして、転属になったのって、俺たちが行方不明になったせい?」
「間が悪かったのさ…。俺やナイジェル大尉を含めた部隊が配属されて、ブライト大佐たちが新型艦へ向かったことでクルーもほぼ総入れ替え。その状態でインダストリアル7へ向かった結果、大勢仲間がやられてしまったが…。でも、気にするなよ。悪いのはジオンで、俺たちは志願してロンド・ベルに入ったんだ。後悔していないさ」
「にしても、この機体…デルタプラスか。俺の百式の進化系!すっげえうらやましいぜ…」
「あんたの場合、可変機能を持て余しちゃうんじゃない?」
「う、うるせえ!もっと訓練しとけば、俺だって…」
聞いた話によると、百式も元々は可変機能が搭載される予定だったが、強度の問題で見送られたらしい。
その問題を解決し、なおかつZガンダムクラスの汎用性を獲得したのがこのデルタプラスで、それをエースであるトライスターではなく、リディに任されているのは破格の待遇といえる。
「そういえば、行方不明になった後、どうしていたんだ?いきなり現れて、ヒーローみたいに助けてくれたことには感謝はするが…」
-ネェル・アーガマ 艦長室-
「ユニコーン計画…ユニコーンガンダム、ですか…」
「そうだ。ジオンとの決戦のための連邦軍再編計画で、アナハイムに委託された。ユニコーンガンダムはそのフラッグシップにあたる」
趣味である紅茶を飲みながらユニコーンガンダムをモニターを使いながら説明するオットーはフウウと深々とため息をつく。
そのユニコーンガンダム回収のためにどれだけの民間人と部下が犠牲となったことか。
それに見合う価値が果たしてユニコーンガンダムには存在するのか。
これから押し寄せるであろう部下や収容した民間人の不満を背負うことになることを考えると、艦長というのは肩身が狭い。
「そして、ユニコーンガンダムのパイロットなのは…彼だ。入ってくれ、バナージ君」
「はい…」
自動ドアが開くとともに、バナージと呼ばれた少年が艦長室に入る。
アナハイム工業専門学校の制服を改造したようなジャケットを身に着け、焦げ茶色の整っていない髪をした少年で、それを見たアムロの表情が曇る。
(また、子供がガンダムに…。嫌なものだな)
「彼がバナージ・リンクス君。インダストリアル7の学生で、実を言うと…ユニコーンガンダムは彼にしか動かせない。バイオメトリクス認証がされていて、チェーン少尉も解除しようとしてくれたのだが…解除できなかったのだ」
「バイオメトリクス認証が…彼が、どうして…?」
「分からん。だが、適性があるのは確かだ。実際に、使って見せていたのだからな。ユニコーンガンダムを…」
インダストリアル7で、ユニコーンに乗ったバナージはビームサーベルとバルカンしか武装がない状態でジオンの強化人間用のモビルスーツを撃退して見せた。
仮に彼がいなければ、ネェル・アーガマは沈んでいたかもしれない。
だが、同時にバナージは軍の最高機密といえるユニコーンに乗ってしまったことで、ネェル・アーガマから降りることができなくなってしまった。
彼だけでなく、生き残り、ネェル・アーガマに収容された民間人もだ。
これ以上の戦闘に巻き込まれる前に引き取り手を探したいところだが、今のネェル・アーガマは悪者の烙印を押されていて、更にはダグザをはじめとしたエコーズもいる。
特務部隊であり、厳格な彼がそれを許してくれるとは思えない。
「それで、話は本当なのだろうな?アムロ大尉。異世界の機動兵器のことは…」
「ええ、ダグザ少佐。私と行動を共にする仲間以外にも、ガミラスと木星帝国が存在します。もし、彼らが介入するようなことがあれば…」
機体名:イフリート・シュナイド
形式番号:MS-08TX/S
建造:ジオン軍(現地改修)
全高:17,2メートル
全備重量:84.4トン
武装:ジャイアント・バズーカ、ショットガン、ヒートダート×14
主なパイロット:フレッド・リーバー
17年前の一年戦争時に使用されたモビルスーツ、イフリートの改修機。
8機しか生産されていないイフリートの現存する珍しい機体で、長年の改修によって、装甲の一部がガンダニウム合金に変更されており、出力については連邦の新型機であるリゼルに匹敵し、改修次第ではビーム兵器の使用も可能になっている。
特徴的なのは機体各部に装備された苦無型武器であるヒートダートで、これはパイロットであるフレッド・リーバーの戦闘スタイルに合わせたもので、投擲や近接戦など幅開く活用することができる。
なお、フレッド・リーバーには新型機の配備が再三にわたり決まっており、返事さえすれば同機以上の機体を手に入れることができるにもかかわらず、本人は思い入れのある機体だからという理由で拒否し続けている。