スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

46 / 65
機体名:メッサー
形式番号:Me02R
建造:アナハイム・エレクトロニクス社
全高:23.0メートル
全備重量:68.8トン
武装:バルカン砲×2、ビームライフル、ビームサーベル、グレネードランチャー、スパイクシールド
主なパイロット:ネオ・ジオン兵

宇宙世紀世界において、ネオ・ジオンが運用する新型主力モビルスーツ。
ギラ・ドーガをベースとして再設計されている点では、同時期に開発されたモビルスーツ、ギラ・ズールと大差ないものの、汎用性を維持したそれと比較すると、重力下での近接戦闘を重視されている。
特に、右肩のスパイクシールドを利用した突撃によって敵モビルスーツを吹き飛ばすことができるほどのパワーを誇っている。
新正暦世界ではマフティーによって運用されていた当機もまた、宇宙世紀世界の戦いの渦に飲み込まれ、ネオ・ジオンの量産型モビルスーツとして連邦に牙を向く。


第46話 巨人の影

-オーストラリア北部 珊瑚海上空-

「もうすぐ、オーストラリア…。ジオンの罪の象徴にたどり着く、か…」

ブリッジから外の景色を見つめる青黒の髪をした青年が愛用する軍服と腰に差している乗馬鞭に触れつつ、赤い海と廃墟の大陸を見つめる。

彼を乗せているのは黒と赤をベースとした色彩をした、両翼を含めて500メートル以上の幅を持つ巨大輸送機だ。

ガルダ級超大型輸送機の1機であるそれはかつて、先代のものではあるが、同系機6機を利用して地球の防空圏を割り切ったモビルスーツ派遣体制を目指していたようだ。

一年戦争時に連邦が辛酸をなめたジオンのガウへの対抗意識を感じさせるそれはグリプス戦役とネオジオン戦争の中でスードリは沈み、アウドムラとメロゥドが行方不明となった。

そして、新造された7機目のガルダ級、シムルグは彼が指揮する部隊のためだけに回された。

彼自身、去年のネオジオン戦争までは宇宙でモビルスーツパイロットとして活躍していたが、最終盤であるアクシズでの戦いで自分では越えられない大きな壁を感じてしまった。

多くのパイロットがあこがれるアムロ・レイ『中佐』と彼が駆るνガンダムは頼もしかったが、ネオ・ジオンが駆り出したモビルスーツであるヤクト・ドーガやモビルアーマーであるα・アジールによって次々と討ち取られていく仲間たちを見ていた。

どんなに血反吐を吐くほどの努力をしたとしても、オールドタイプである自分はサイコミュなんて代物を操ることはできず、積み重ねてきた経験も圧倒的な性能を誇る存在によって蹂躙される。

そんな苦い経験で彼はモビルスーツパイロットを捨て、地球への配置換えを求め、それが叶った。

(あの戦いで戦争が終わったなら、つまらん新型モビルスーツの開発を気休め程度に手伝って、退役するつもりだったがな…)

ガルダ級というだけあって、シムルグには数多くのモビルスーツとドダイ改が積まれていて、その中には彼が開発にかかわったモビルスーツも存在する。

それの世話をしている中で辞令が届き、この艦と大佐という地位が与えられた。

なんでも指揮官としての適性が認められ、グリプス戦役前には当時は中佐であったブライト・ノアからの薫陶を受けた経験もあったためだろう。

地球連邦軍総司令直属の精鋭部隊というのは聞こえがいいが、やっていることは市街地への被害を考慮に入れない、ジオン殲滅のための戦い。

一般市民やスペースノイドを中心に嫌われ者である部隊だが、そんなことは彼、ケネス・スレッグにとってはどうでもいいことだった。

赤く染まった地球と同様に腐っていく自分を吹き飛ばすような刺激がほしかった。

「出撃したジェリドとヤザンは?」

少し前に救難信号を拾ったケネスは既に自身の部下である2人の元ティターンズのパイロットを出撃させている。

彼ら以外にも、この部隊には元ティターンズの将兵が数多く存在し、それもまた嫌われる理由になっている。

30バンチ事件やジャブローで起こった核爆発、フォン・ブラウンへのコロニー落としにコロニーレーザーによる民間コロニー攻撃など、ティターンズが起こした事件はアースノイド、スペースノイド問わず、大きなトラウマを残しており、彼らへの怨嗟の声は今も絶えない。

グリプス戦役で敗北し、ティターンズが崩壊してからは生き残った元ティターンズ将校は地球連邦軍に居場所が与えられず、与えられても閑職に追いやられた。

居場所がない者は本来討つべきであるネオ・ジオンに流れてしまった者がいれば、宇宙海賊に身を落としてしまった者、最悪の場合はティターンズであったという理由だけで死刑となるものもいた。

元ティターンズという消えない汚物のような経歴を持つ彼らを受け入れたこの部隊、Gハウンドは彼らにとって唯一の居場所であり、這い上がる部隊だった。

「到着し、交戦に入りました。それから、司令…。ネェル・アーガマも救難信号を拾い、向かっているようです」

「ロンド・ベルが…。そういえば、最近ネェル・アーガマが地球へ降りたという情報はあったが…」

エゥーゴとカラバが合併し、外郭部隊として再編制されたロンド・ベルの主な戦場は宇宙であり、地上での戦闘を旧カラバとミスリルに任せている状態であるため、ネェル・アーガマが地球へ降下することはあまり考えられないことだ。

ただ、最近ガンダムチームやミスリルの一部が消息不明になるといったアクシデントがあり、地上の戦力が足りなくなっていると考えたら説明はつく。

ただ、そのネェル・アーガマの艦長はブライトではなく、オットー・ミタス中佐。

無能ではないが、先代艦長であるブライトとよく比較されるかわいそうな立場にある彼をケネスは陰ながら同情してきた。

おまけに、艦長になって初めての任務である新サイド4密閉型工業用コロニーであるインダストリアル7での偵察任務で、戦力の大半を失うという洗礼を受けることになってしまったという。

コロニー内での戦闘にならないように注意を払ったが、敵わずにコロニー住民を巻き込む形となった。

結果として、民間人にも多数に犠牲者を出し、そのことから地球連邦政府に対して損害賠償や遺族への謝罪を求める声も出ている。

その背景にはセカンドインパクトとゲッター汚染による地球への被害により、地球はコロニーからの物資や資源を求めざるを得なくなり、それ故にコロニーの発言権が強まっている今の時世もある。

一年戦争時には泣き寝入りしていただろうが、コロニーなしでは地球の現状を維持することさえ不可能になる今の状況では、そうはいかない。

それ故に現在ではコロニー内部での戦闘は原則禁止となっており、万が一にも外壁に穴をあけるような事をすれば、いかなる理由があったとしても、『鬼畜以下』の烙印を押されることになる。

その場合、発砲してしまった軍人は銃殺刑となり、上官に対しても降格や更迭もあり得る。

そのことから連邦軍全体にもそのことへの注意喚起は徹底されており、敵モビルスーツよりも先に戦闘開始の挙動を見せた場合でも弾劾や処罰の対象になる。

インダストリアル7での戦闘の詳細は分からないが、先にコロニー内部での戦闘に発展する要因を作ったのがロンド・ベルの場合は最悪の場合、ロンド・ベルの解散があり得るだろう。

そして、ロンド・ベルに所属している面々は元ティターンズと同じ運命をたどることになるだろう。

「本来ならそのネェル・アーガマはロンデニオンでクルー共々謹慎するはずだが、どういうことだ…?」

 

-クックタウン-

オーストラリアの空を2機のモビルスーツが飛行する。

そのうちの1機である、足のないイカかエイともいえる風貌をした青いモビルスーツが地表の様子を5つのモノアイで確かめていく。

グリプス戦役のことから使っているその愛機、ハンブラビの風貌はいろいろと変わってはいるが、それでも自分を満足させる性能を未だに見せてくれている。

2年前のグリプス戦役から着慣れた黒のノーマルスーツ姿で色黒の肌をした金のリーゼントの青年、ヤザン・ゲーブル少佐は少年時代から変わらない地球の廃墟とそれに紛れたように存在する味方モビルスーツの残骸に眉を顰める。

「ちっ、ネオ・ジオンにやられたか。おい、ジェリド。どうなんだ?トリントンの連中からの貰いモンの出来は」

今回の出撃での相方である灰色でほっそりとした3本爪付の腕と脚、そして胴体には不釣り合いなほどの大きな両肩をしたその奇妙なモビルスーツの中で、ヤザンと同じノーマルスーツを着用し、育ちのいい顔立ちで金髪白肌、青い瞳をした青年、ジェリド・メサ大尉は操縦桿を握りしめる。

だが、その顔の右上部分には大きな火傷の痕があり、それで伸ばした前髪で隠している。

更には操縦桿を動かす右手からはかすかに金属音が鳴っている。

「悪くありませんよ、ヤザン大尉。トリントンの仲間に礼をしておかないと」

「おい、ジェリド。大尉じゃねえ。Gハウンドに配属されてからは少佐だ、間違えるな」

「失礼しました、少佐」

かつて、ティターンズが開発していた試作モビルスーツ、バイアランを改修したこのバイアラン・カスタムにはジェリドをはじめとしたトリントン基地所属の軍人たちがかかわっている。

単独で大気圏内飛行可能な非可変モビルスーツのコンセプトで開発されたそれは戦闘時に行う、サブスラスターを併用した旋回・回避行動があることから飛行時間が短く、3本爪のマニピュレーターであることから使える兵装が内蔵式のメガ粒子砲とビームサーベルのみで汎用性が低いことから正式採用されなかったものだ。

かつてはそのバイアランに乗っていたジェリド、そしてヤザンは元ティターンズだ。

2人はグリプス戦役で自機を失いながらもどうにか生き延びることができた。

しかし、元ティターンズである彼らに待っていたのは転落の日々だった。

ヤザンは自機が撃破されたときに辛くも脱出したものの、脱出ポッドを味方に発見してもらえず、そのまま漂流することになった。

幸運か不幸かはわからないが、彼が流れ着いたのはサイド1にある、史上初のシリンダー型コロニーであるシャングリラで、そこにはグリプス戦役を生き延び、傷ついたエゥーゴの旗艦であるアーガマが傷をいやすために駐留していた。

そこで彼は生活のためにジャンク屋を営む少年少女を利用して、そのアーガマを撃破し、それに搭載されているモビルスーツを奪おうと画策したが、失敗した。

その少年少女がジュドー達であり、噂では彼らはそのままエゥーゴ、ロンド・ベルに所属し、活躍していると聞いている。

一方、たくらみに失敗したヤザンには一文無しで、裏の仕事で食いつないでいくしかなかった。

元ティターンズであることから危険な仕事をとにかく押し付けられ、おまけにそのことから因縁をつけられて喧嘩を吹っ掛けられ、何度も死にかけた。

落ちぶれて、ボロ雑巾のようになっていく中でどうやって自分を見つけたのか、シムルグの艦長席に座る若造に拾われて、今ここにいる。

彼の下で働くことになるのはシャクだが、それでもゴミのような日々を過ごすよりはマシだとヤザンは考える。

自分と対等の実力を持った相手との殺し合いができる場所を用意してくれるなら、気に入らない生意気な男の命令だって聞く。

少なくとも、かつて自分が謀殺したあの長細い頭でチョビ髭をした陰湿尊大男と比較すると何百倍もマシで、かつて自分が出会った面白い男ほどではないが、中々の面白さもある。

ジェリドも、かつては士官学校の適正テストで優秀な成績を収めたことでティターンズにスカウトされ、エリートコースを歩むはずだったが、グリプス戦役に敗れ、その中で彼は師匠や戦友、おまけに恋人をもあるニュータイプの少年との戦いで失い、自身は乗機を撃破されながらもどうにか生き延びたが、その時に右腕を失い、顔や体にも大きな火傷を負うことになった。

屈辱だったのは助けられたのがティターンズの残党ではなく、生き残りのエゥーゴの艦であり、そこの軍医からはあと少し回収が遅れたらもう死んでいたとさえ言われた。

そして、治療を受けた後はフォン・ブラウンへ送られ、そこから連邦軍総司令部であるラサへ連行され、軍事裁判を受けることになった。

罪状はグリプス戦役初期に自分が起こした、試作モビルスーツの飛行訓練中に起こした墜落事故や無抵抗な民間人を人質に取り、その人質を殺害するという虐殺行為、フォン・ブラウンへのコロニー落とし未遂やサイド2への毒ガスによる大量虐殺未遂など大小様々。

何もかもを失ったジェリドは心の底では死刑を望んでいたが、下されたのは上等兵への降格とトリントン基地への転属だった。

実質、軍人をやめろとも言われるに等しい懲戒人事だが、ジェリドは軍にしがみつく以外の道はなかった。

傷痍軍人として除隊したとしても、元ティターンズである自分には退職金は出るはずもなく、恩給や年金もないだろう。

民間で雇ってもらえるはずもなく、運よく傷痍軍人用の自立支援施設に入ることができたとしても、待っているのは元ティターンズ兵に対する壮絶ないじめだ。

トリントン基地へ移ったジェリドは失った右腕を義手に替え、リハビリをしながらこの厄介払いのための基地で飼殺される日々を過ごした。

戦略的価値がゼロで、ジオンにとっても攻撃する価値もないその基地は元ティターンズ軍人をはじめとした問題児や厄介者、旧型を含めて使用価値がほとんどない兵器を押し付けられるだけの、まさに落ちこぼれの巣窟だった。

唯一楽しみがあったとすれば、そこの整備兵を務めていたドナ・スターが提唱したモビルスーツ単独飛行能力向上計画だ。

彼の経歴はよくわからないが、噂によると遊び半分で上官を撃ってしまったために飛ばされたらしい。

そんな噂が真実なはずはないと誰もが分かっているはずだが、そんなブラックな笑いが必要とされるほど、トリントン基地は暇で、彼の熱意に押される形で基地の人員の大半がその計画に参加した。

当初、ジェリドはそんなことをしても何も意味はないと無視を決め込んだが、その計画の対象となったモビルスーツがトリントン基地に眠っていた2機のバイアランであり、それに登場した経験のあるパイロットが基地の中ではジェリド1人だったこと、パイロットとして復帰するためのリハビリにということで、半ば強引にテストパイロットに任命されてしまった。

計画に必要な資材についてはそれぞれの軍人が持っているルートから余剰品や廃棄が決定したパーツ、旧式で使うあてのないものなどをかき集め、それを用いて作られたのが今、ジェリドが乗っているバイアラン・カスタムだ。

乗り気でなかったジェリドも、かつての愛機であり、落ちぶれた自分と似たものを感じたのか、テストと改良を重ねるうちにこの機体に愛着を持つようになり、Gハウンドに配属された際に条件として提示したのは、搭乗するモビルスーツをこの機体にすることだった。

「熱源反応…!?」

余韻に浸るジェリドの脳裏を冷やすように、コックピットに警告音が響く。

地表から次々とビームや対空ミサイルが飛んできて、センサーが拾う敵モビルスーツの数が増えていく。

「ちっ…ミデア1隻を襲うだけにしては多い。狙いは…俺たちだな」

4本脚の赤い亀のような形のサブフライトシステム、ギャルセゾンに乗るメッサーがビームライフルを撃ってくるとともにギャルセゾンに搭載されているメガ粒子砲が火を噴く。

Gハウンドに所属し、いくつか地上でジオンと戦ってきたことで、ティターンズの落胤ともいえる自分たちを目の敵にしたのだろう。

次々と飛んでくるビームをかいくぐりながらメッサーの側面を飛ぶ。

「ずいぶんとでかくなったみてえだが!ハンブラビと比べりゃあ動きが鈍いんだよぉ!!」

モビルスーツ形態へと変形し、急旋回するハンブラビが手に持つフェザーインライフルを放つ。

通常のビームライフルよりも射程や出力が高いそれだが、やはり最新型というべきなのか、シールドを吹き飛ばすことができたとしても撃破には至らない。

かつてはビームライフルに対して守る手立てがないと言われていたが、それも今では過去の話なのだろう。

「へっ…ジオンめ、うっぷん晴らしをさせてもらう!!」

ジェリドの叫びと共に、バイアラン・カスタムの両腕に内蔵されたメガ粒子砲が発射される。

出力が低下しているのと引き換えに、ビームマシンガンのように連射することが可能となっているそれはメッサーの装甲を傷つけることができても、破壊には至らない。

だが、それでも相手へのプレッシャーになり、そしてメッサーと比較すると装甲のもろいギャルセゾンに損傷を与える。

スラスターにも異常が発生し、動きが鈍くなったところをメガ粒子砲から直接出力されたビームサーベルで両断した。

「へっ…いくら新型でも…」

「油断するんじゃねえ、ジェリド!熱源が来るぞ!」

「何!?うおおお!!!」

地上から突然襲い掛かる光の奔流をすんでのところでのけぞらせてよけるジェリド。

その出力は戦艦の主砲に匹敵するもので、機体表面に強い熱がこもる。

「へへ、ジオンにもまだまだいいモビルスーツが残ってるみてーだなぁ」

 

「ちっ…厄介だな。飛行するモビルスーツが2機、おまけに…犬共か」

二門のビームキャノンを備え付けたかのような大型のバックパックに、腹部に取り付けた大型ビームライフルを取り外すと、底に隠されていたメガ粒子砲2門が露となる。

全身が薄緑色をした20メートル級で一つ目のモビルスーツの両腕にも、袖を模した装飾が施されている。

モニターに2機のGハウンドのモビルスーツを捉えて、両肩と胸部にプロテクターがついた袖なしで茶色のジオン軍服を身に着けた、グレーの顎髭と角刈りをした男性の目がそれらの動きを見る。

動きを封じるべく、今度はバックパックに内蔵されているミサイルランチャーを上空に向けて発射する。

火力一辺倒に見えるこのモビルスーツ、ドーベン・ウルフはネオ・ジオン戦争時にはジオンの次期主力モビルスーツとして量産を視野に入れて開発されたものの、中盤に起こったグレミー・トトの反乱によって、グレミー派が使用することになったものだ。

グレミー・トトはネオ・ジオン戦争時に新兵としてハマーンの配下となり、そこから急激に頭角を現し、古参の軍人を数多く従えるほどの力を発揮した。

そんな彼がネオ・ジオン戦争中盤、地球への恫喝として行われたダブリンへのコロニー落としの少し後で、自らが従えた兵士たち、そしてとあるニュータイプの少女から作り出した数多くのクローンによるニュータイプ部隊と共に反乱を起こした。

その際に、彼がザビ家の血を引く、ジオンの正統な後継者であることを大義名分としたが、彼が本当にザビ家の血を引いていたかについては分かっていない。

ギレン・ザビとニュータイプの素質のある女性との遺伝子で人工授精された結果生まれた試験管ベビーで、例のニュータイプ少女とは異母兄妹である、デギン・ザビの隠し子であるなど数々の仮説があるらしい。

元々、グレミーは孤児であり、後継ぎのいない没落貴族であるトト家の養子だ。

だが、彼が養子となってからはトト家の金回りが良くなり、そのことからザビ家の血を引いているのではないかとささやかれたという話まである。

結果として、その反乱によってグレミー派、ハマーン派、エゥーゴの三つ巴の戦争へと発展し、グレミー派は敗北したものの、その反乱によってジオンは戦力の大半を失うことになり、エゥーゴに敗れた。

その時の反乱によってドーベン・ウルフのほとんどが既に失われたものの、このパイロット、ラカン・ダカランなどの少数のベテランパイロットが現在でも運用している。

「犬どもめ、貴様らを叩き潰して、我が武功とさせてもらう!!お前たちはランゲ・ブルーノ砲でプレッシャーをかけろ!」

「ラカン、俺の出番はないのか?」

指示を出す中で、突然男の通信が入る。

その声の主である男に対して、ラカンはどうしても好きになれない。

後方にはロケットランチャーを担ぎ、両肩や足などに短剣をいくつも装備している紫色のモビルスーツが待機していて、彼はそのモビルスーツに乗っている。

「ふん…貴様のような男に出番などない。貴様程度の機体で何ができるというのだ?」

17年近く地上に潜伏しているジオン部隊からは腕の立つ男として認められているようだが、ラカンには彼を認めることができない。

同時に、ラカンにはどうしても武功を挙げなければならない理由がある。

彼は前述のグレミーの反乱に加わった過去がある。

グレミーから武功を建てた暁には地球の支配権を渡すという条件を出されたことが大きい。

反乱時には一時的にハマーンと共闘したジュドーのZZガンダムに撃墜されてしまった。

辛くも生き延びたものの、シャアが指導者となったジオンではグレミー派だった兵士に対しても帰順が認められたものの、反乱に加担したことから冷遇されることになった。

それでも、ラカンをはじめとした実力のある軍人については取り立てられたが、ネオ・ジオン戦争が終わり、シャアも行方不明となってしまったことで再び冷遇されることになってしまった。

ラカンをはじめとした鼻つまみ者は地球の戦略的価値のない地域に無理やり降ろされた。

そんな自分を冷遇する存在を見返すこと、そして自分を転落させる原因を作ったジュドーをはじめとした、今ではロンド・ベルを叩き潰すことが彼の動力源となっている。

重量のあるドーベン・ウルフだが、その分高い出力もあるため、たとえ重力下であってもある程度の高さまでは飛行できる。

先ほどのミサイルランチャー、そして地上に配備しているギラ・ドーガが放つランゲ・ブルーノ砲が2機の動きを封じ、そこに追い討ちをかけるようにドーベン・ウルフのバックパックからワイヤー付きのビーム砲が射出される。

円型の中継器を中心として動きが変化し、ビーム砲がバイアラン・カスタムとハンブレビを襲う。

「ええい、火力が多すぎるぜ」

「大佐は…シムルグはまだか!?」

シムルグが到着すれば、この程度のモビルスーツ部隊は一掃できる。

後退するという選択肢は残念ながら、続々とやってくるジオンのモビルスーツが封じている。

「いつまでも空にいるわけにはいかねえが…うん?接近する戦艦、こいつは…」

ジオンが地上に戦艦を運用することはかなり稀で、今近くにいるであろうシムルグ以外の戦艦を考えると1つだけ頭に浮かぶ。

2年前のグリプス戦役でZガンダムと共に煮え湯を飲まされた戦艦、アーガマの流れをくむネェル・アーガマ。

その顔触れは大幅に変わっているとはいえ、それでも嫌いな戦艦であることには変わりなく、なんとなく予測はしていたが、その戦艦がやってくることに嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

 

-ネェル・アーガマ改 艦橋-

「Gハウンドのモビルスーツ部隊の状況は!?」

「地表、及び上空の敵モビルスーツ部隊と交戦中!着地することができない状況のようです」

茶色の連邦軍服で身を包んだ小柄な女性軍人、ミヒロ・オイワッケン注意の言葉に黒い艦長帽とコート姿をし、口ひげを生やしている中年男性、オットー・ミタス大佐は艦長席に座った状態でため息をつく。

友軍救出の命令を受け、向かったと思ったら、まさかロンド・ベルとは犬猿の仲と言えるGハウンドをたすけることになるとは思わなかった。

「艦長、今付近にいる友軍は我々だけです」

薄紫の短い髪で、並の男性以上の身長をした女性、レイアム・ボーリンネア中佐の言葉が崖際のオットーの背中を冷たく押す。

今の自分たちはインダストリアル7での一件で立場が悪い状態にある。

戦力としては残存のジェガンにリゼルが数機、そして地球降下の直前に補給として送られた試作モビルスーツであるデルタプラス、同じくインダストリアル7で合流することになった独立部隊エコーズが所有する専用のジェガンとモビルスーツというよりは兵員輸送指揮車という趣の強い12メートルクラスのモビルスーツのロト数機。

地球降下完了時にロンド・ベル本隊から援軍として派遣された3機のモビルスーツにインダストリアル7で回収した曰く付きのモビルスーツ1機。

数は相手が勝っているが、戦えない数字ではない。

ただ、本来所属しているはずのモビルスーツとパイロットの大半が行方不明なうえに、いるのはインダストリアル7へ向かう際に代替として編入されたに過ぎない。

だが、そんな事情があったとしても、たとえ助ける相手がGハウンドであったとしても、助けなければ余計に立場が悪くなる。

「やむを得ん…。クックタウンへ向かえ。モビルスーツ部隊を出撃させろ!エコーズにも出撃要請を!!」

「了解。リディ少尉、聞こえますか?デルタプラス発進、トライスターと一緒に動いてください!」

「おい!!なぜユニコーンを出さん!?」

自動ドアが開くとともに、茶色い左右に分かれた髪をしている太った男性が入ってくる。

インダストリアル7で拾った、紫のスーツを着たこの厄介者にオットーはフウとため息をつく。

もし彼がこの世界のアナハイムの重役、アルベルト・ビストでなければ、独房にぶち込んでおきたかった。

彼の言うユニコーンとは、同じくインダストリアル7で回収した試作モビルスーツであり、連邦宇宙軍再編計画であるUC計画の最終段階となる存在だ。

「ユニコーンガンダムの地上戦闘データを集めろ!そのための戦闘対象がいるではないか!」

「確かに…本部からその話は聞いている。無論、本来ならユニコーンにも出撃させるが…」

オットーにとって、問題なのはそのユニコーンのパイロットだ。

ユニコーンのパイロットは子供であり、更には起動時にバイオメトリクス認証がされてしまったようで、彼以外にそれを稼働させることができない状態になっている。

どうにかネェル・アーガマのメカニック達がそれを解除するために動いでいるが、ユニコーン自体が複雑怪奇な構造の塊であるために不可能に近い。

「何をのんきなことを言っているのだ?コロニーが落ち、地球が赤く染まり、ゲッター線で汚染されてから、女子供が戦いに巻き込まれずに済んだ、戦わずに済んだ話があったかね!?」

「救援を送るには戦力が多すぎるのだよ。現に、合流した部隊も数字に入れると、無理にユニコーンを運用せんでもいい状況だ。それとも、何だ?そんなにあの子を戦わせたいのか?」

ジロリと目を細くして、軽蔑するかのようにアルベルトを見つめる。

言葉を挟まずにいたレイアムも同じようで、艦橋の中の刃のような空気がアルベルトの腹に刺さる。

チッと舌打ちをしたアルベルトはそそくさと艦橋を後にする。

だが、アルベルトの言う通り、女子供が戦争に巻き込まれる、戦うことになる話は掃いて捨てるほどある。

今、ネェル・アーガマにはユニコーンのパイロットになってしまった少年をはじめとして彼のクラスメートである少年少女が何人も乗っている。

彼らは軍の重要機密であるユニコーンを見てしまったことから、ネェル・アーガマから降ろすことができなくなった。

そのうちの数人は戦いに巻き込まれ、友人や家族の死を見てしまったことによるPTSDを発症している子供もいて、軍医によるケアがされている。

慰めがあるとすれば、そんな悲劇が起こったにもかかわらず、気丈にふるまい、メカニックに教わりながら機体整備の手伝いをしてくれる子供もいることだろう。

ようやく厄介者が離れてくれたとため息をついたオットーは続けて指示を出す。

「トライスターが先に出る!エコーズ及びデルタプラスはその後だ。ロメロ5及びジュリエット1から4はネェル・アーガマの直掩をせよ!水中から攻撃される可能性もある。くれぐれも用心しろ!」

 

-クックタウン 近海-

「やれやれ、曰く付きのネェル・アーガマに来て早々、戦闘とはな」

縮れた髪をヘルメットで隠した浅黒い肌のパイロット、ダリル・マッギネス中尉を乗せた、かつてのティターンズのモビルスーツに近い黒いジェガンと言えるモビルスーツがあらかじめネェル・アーガマのカタパルトに待機させているドダイ改に乗る。

彼が乗るモビルスーツ、ジェスタは基本構造としてνガンダムが採用されており、性能面だけを見るとサイコ・フレームがない状態のνガンダムの9割に達すると言われている。

ダリルの乗るジェスタについては増加装甲が脚部スラスターが追加装備されており、バックパックも大型化されているうえに、追加装甲まで装備されている。

また、黒いスパイクシールドが左腕の装着されている格好だ。

そして、後方のドダイ改にはダリル機と同じく増加装甲を装着したジェスタが既に待機していた。

「やれやれ、あいつらいつまでこんなことやんだ?地球もめちゃくちゃだってのに」

ダリルよりも若干濃い黒の肌をした、大きな鼻とのっぺりとした顔立ちが独特な男、ワッツ・ステップニー中尉がその機体、ジェスタ・キャノンに乗る。

バックパックにはビームキャノンとマルチランチャーを装備しており、砲撃支援用に見えるものの、性能そのものは彼曰く、接近戦でもいける口らしい。

「プライドとか、まだ負けてないとか、そういうのじゃないか?付き合ってられないな」

「ダリル、訓練にはなかった新装備だからっつっても、撃墜なんて冗談はなしだぞ!?」

「ああ…分かっている!」

今のダリル機の装備は確かに機種転換訓練の中にはなかったもの。

接近戦特化装備ともいえるそれは有用性は認められてはいるものの、エースパイロット専用のもので、一年戦争時にはそれとほぼ同じ装備をしたジムが敵側へ廻ったガンダムタイプを撃破しているという話も聞く。

「無駄口はそこまでだ。ダリルはクックタウン到着後はドダイを降りて地表の敵の制圧を行え。囚われた小鳥を逃がしてやるんだ」

「うへえ…ティターンズの落胤のモビルスーツが小鳥って…」

ネェル・アーガマの中央カタパルトにノーマル装備のジェスタがドダイ改の上に乗り、そのコックピットの中で薄緑色の七三分けをした髪形をした優男が操縦桿を握る。

彼、ナイジェル・ギャレット大尉とダリル、ワッツの3人組はロンド・ベルでも指折りのエースパイロット部隊として有名で、トライスターと呼ばれている。

グリプス戦役から3人ともエゥーゴに所属し、多くの戦果を挙げている。

また、アムロとの模擬戦が行われた際には3機のコンビネーションで互角に渡り合っている。

その鍛え、生き抜いた腕前には3人とも自信を持っている。

「ナイジェル機、ダリル機、ワッツ機、発進タイミングを譲渡します!」

「了解だ。トライスター、出撃する」

ドダイ改のスラスターに火がともり、3機がネェル・アーガマから飛び去っていく。

白い木馬が3つのカタパルトを全面にかついでいるような形をしたネェル・アーガマ。

ネオ・ジオン戦争を生き抜き、新造艦に旗艦の座を明け渡したはずの戦艦もまた、大きな時代の荒波に巻き込まれていく。




機体名:シムルグ
形式番号:超大型輸送機
建造:地球連邦軍
全長:317メートル
全幅:524メートル
最大積載量:9800トン
武装:対空機銃、12連装ミサイルランチャー、メガ粒子砲
主なパイロット:ケネス・スレッグ

地球連邦軍がネオ・ジオン戦争後に新造したガルダ級超大型輸送機。
Gハウンドは連邦司令部直属の特務部隊であることから作戦行動範囲に制限がなく、大規模の戦力を自由に地球上を移動させること、そしてジオンへの恐怖の象徴となることを期待され、ガルダ級に白羽の矢が立った。
なお、それ以前に開発された6隻のガルダのうちの1隻は既に失われており、2隻については行方がいまだにつかめておらず、現在もエコーズによる調査が行われている。
極秘情報によると、アウドムラはロンド・ベルとかかわりのある部隊が、メロゥドはおそらくは完全にジオンによって秘匿されている可能性が高いという認識だ。

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