スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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機体名:百式
形式番号:MSN-100
建造:アナハイム・エレクトロニクス社
全高:18.5メートル
全備重量:54.5トン
武装:60mmバルカン砲×2、多目的ランチャー、ビームサーベル×2、ビームライフル(ビームバヨネット内蔵)、クレイ・バズーカ、メガ・バズーカ・ランチャー
主なパイロット:ビーチャ・オーレグ

宇宙世紀世界におけるグリプス戦役初期にアナハイムが開発した攻撃型モビルスーツ。
元々は零式という名前のモビルスーツであり、装甲の色も赤であったが、度重なる改修を受けたことによって機体の姿が変化し、装甲も微弱な対ビームコーティングが施されたことで金色になっている。
なお、改修の際にはエゥーゴが鹵獲したガンダムMk-Ⅱのデータも参考となっている。
元々は可変機として開発されていたもので、高い運動性によって攻撃を回避することが前提となっていることから、シールドが装備されていない。
また、強度の問題が解決されなかったことから変形機構は見送られた。
ビーチャ・オーレグが搭乗しているものはグリプス戦役後に消息不明となったものをマイナーチェンジしたものであり、ジェガンなどの現行のアナハイム製モビルスーツの武装の使用も可能となっている。


第44話 狂気の鳥

-衛星軌道上 ラプラス宙域-

「くそ…!こんなところで出くわすなんてな!木星帝国め!」

加藤が乗るコスモファルコンのミサイルがヤマトを狙うペズ・バタラの側面を捉える。

敵機の爆散を見届けることなく、加藤は睨むように周囲に散らばる残骸たちを見る。

この宙域に漂っているのは全滅したという艦とモビルスーツ達だけでなく、これまでの戦いの中で撃墜されたザクやジムなどの古いモビルスーツや戦艦もさまよい続けていた。

「まるで、リアルな戦争博物館といえますね、隊長」

「軽口はいい、篠原!だが…ガミ公の姿がないぞ…どういうことだ?」

ガミラスの従属化になったらしい木星帝国のモビルスーツがこの世界にいるとなると、セットでガミラスも存在する可能性が高い。

そして、それらはすべてあそこから転移してきた部隊。

メルダにとっては仇と言える部隊だ。

「ヴァングレイが修理中で出られない以上は俺たちでヤマトを守るぞ、トビア!!」

「はい、キンケドゥさん!」

「クロスボーン・ガンダム…やはり貴様らも!」

「ドゥガチ総統の仇、我らの手で討ってくれる!!」

出撃した2機のクロスボーン・ガンダムを見つけた木星帝国側のモビルスーツ達がターゲットの優先度をその2機に高める。

キンケドゥとトビアがヤマトから少しずつ離れていき、狙ってくる敵機を誘導する。

「よし…そうだ。ヤマトをやらせるわけにはいかない。来るというなら、俺たちのところへ来い!!」

 

-トゥアハー・デ・ダナン 格納庫-

「νガンダム、救助したジェガンを収容します!」

「手ひどいやられようだな…。ジャッキを用意しておけ!自力で出られないかもしれんぞ!」

ノーマルスーツ姿のサックスの命令と共に整備兵たちがあわただしくモビルスーツ収容の態勢を整えるとともに、νガンダムの手でジェガンが降ろされる。

「こちらはこのままダナンの直掩につく。相良軍曹、出られるか?」

「ハッ、ラムダ・ドライバ起動しました。アル、いいか?」

「肯定。いつでもどうぞ、軍曹殿」

「アーバレスト、出撃する!」

ラムダ・ドライバによって放熱板が光り、それが推進剤替わりとなってアーバレストが飛翔していく。

アムロと宗介が飛び去っていき、整備兵たちがジェガンに近づいていく。

「ジェガンのパイロット!生きているか?コックピットを開けてくれ、開けられないなら叩いて知らせろ!!」

バンバンと装甲を叩きながら聞こえてくる声に反応したヨナがコックピット周辺の機器に手を伸ばす。

「くっそ!開かない!ダメージのせいで馬鹿になったか!!」

自力での脱出が不可能であるとわかり、ヨナがコックピットハッチを叩く。

「やはり開かないのか…?こじ開けろ!!!」

整備兵の1人が持ってきたバーナーで装甲を切り、ジャッキで開いていく。

メキメキと愛機の悲鳴に耳をふさぐヨナはようやく外の景色が見え、自分ひとりが出られる大きさの穴ができたのを確認すると、整備兵の手を借りて外へ出る。

「はあ、はあ、はあ…トゥアハー・デ・ダナン…ミスリル…初めてだな…」

「災難だったな。けがはないか?」

「ああ…だが、仲間が…くそぉ!!」

ようやく一息つくことができたのはいいが、同時によみがえってきたのは自分だけ生き延びてしまった罪悪感だった。

死んだ仲間たちのことを思い、涙を流すヨナだが、今彼の懺悔を聞くほどの余裕は今の彼らにはない。

「ヨナ・バシュタ少尉だったな?カリーニン少佐から呼ばれている。部下が案内する、ついて行け」

「…はい」

 

-衛星軌道上 ラプラス宙域 ???艦内-

「ええい、くそ!わけのわからんところへ飛ばされたと思ったら、野蛮な兵器たちが飛んでいたうえに、ヤマッテまでも!!」

唾を飛ばすほどの喚き声が艦長席から響く中、周囲のクルーは彼に目を向けることなく、目の前のコンソールと仕事に集中する。

この戦艦での世渡りがそれで、少しでも不機嫌な顔を見せたり嫌がるそぶりを見せたら、彼に目をつけられてしまう。

しかも、ここは祖国が存在しない異世界で、そこで仮に捨てられたとなったら、生きていくことはできない。

「ふん…何をそこまで動揺する必要があるのだ?ゲール艦長殿。敵であるヤマトが目の前にいるこの状況はまさに僥倖というべきではないかな?」

ゲルガメッシュ艦橋に入って来た、紫色のポニーテールをした、左半身が黒い肌で右半身が真っ白な肌をしたノーマルスーツ姿の狂人の姿を見た瞬間、クルー達の表情が凍り付く。

ゲールもその不気味なまでにスルリを撫でるような声に身震いするとともに、その男をにらみつける。

ここへ飛ばされる前、木星帝国の勢力を吸収したことを報告した際に、デスラーから直々に言われた言葉を思い出す。

(ゲール君。君の進言の通り、彼らの受け入れを認めよう。しかし…気を付けたまえよ。あのテロン人…いや、ズピスト人というべきか、彼らは進化したと言っているが、それと引き換えに退化したものも多い様だ。特にあの双子…。あの2人に寝首をかかれるようなことがないことを願うよ)

「要望通り、ガミラスの軍勢は下がらせてくれたかな?」

「ふ、ふん!!その通りだ。今は貴様らズピストどもが戦っている!何をしに来たというのだ!!」

「許可を…求めに来たのです。私の出撃を。貴方様の艦に受け入れてもらってからも開発を続けた例のモビルスーツで…」

「うん…ああ、あの気持ち悪い機体か。ふん!ズピストの感性はテロンよりマシかと思っていたが、とんだ見当外れだったようだ!!」

先日格納庫で見せられたあの左半分が白で右半分が黒い装甲をした、鳥を彷彿とさせるモビルアーマーの姿が頭に浮かぶ。

それのカタログスペックも見せてはもらっているものの、ゲールにはその機体が本当に実用性があるのか信用できなかった。

ズピスト人が作ったものであることもそうだが、それ以上にモビルスーツからも戦艦からもかけ離れた外見のそれがとても普通に戦えるものとは思えなかった。

「果たして本当に見当はずれか、そして我々が信用できるパートナーたり得るかどうか…この戦いで見せて差し上げましょう。私が…いや、私たちカリストが」

「ふん!勝手にするがいい!!貴様のような人間を後継者としたクラックス・ドゥガチなどという男はよほど人を見る目が…!?」

最後に捨て台詞のように口にした言葉が耳に届いたカリストが柔らかにあざ笑う表情が一気に変わり、憤怒の色に染まった状態でゲールの胸ぐらをつかみ、持ち上げる。

「ひ…っ!!」

「私たちへの非難の言葉は甘んじて受け入れよう…。だが、総統を侮辱する言葉は受け取れない…気を付けろよ、クズが」

ブルブルと震えあがるゲールが勢いよく首を縦に振る。

失望するかのようにカリストはつかんでいるゲールを投げ捨て、艦橋を後にする。

ハアハアと情けなく息を整え、伸びる鼻水に目もくれず、ゲールは出ている彼を見送る。

そして、彼の視線に投げられる自分の姿を見ていたクルーの姿が映る。

「な、な、な、なにをしている!?よそ見をせずに敵機が来ないか確認しろ!いつでもワープ可能な状態にぃ!!」

 

-ゲルガメッシュ 格納庫-

木星帝国兵から受け取ったヘルメットを装着し、カリストがゲルガメッシュ格納庫にある愛機の元へ向かう。

当然の話ではあるが、ガミラスの戦艦にはモビルスーツを搭載する能力はない。

そのため、亡命した木星帝国軍が持ってきた戦艦に搭載しており、それでも収まりきらない分は増設した臨時格納庫に搭載する形になっている。

ワープを行う際にはガミラス艦の後に続くように動くことになる。

また、ゲルガメッシュは機動兵器の有用性を認めていないことから当初はそうした臨時格納庫の増設も認められないはずだったが、カリストの要請によって、彼らの機体だけという条件で認められている。

(ふふふ…すまないな、弟よ。あのような俗物との交渉に行かせてしまった)

カリストの脳内に、自分と同じ声が聞こえてくる。

「いいさ、兄さん。奴は愉快な奴だよ。おまけに…悪運も強い」

(ヤマトがこの世界にいる…つまりは、私たちの世界にはいない。これで地球滅亡への道が更に縮まった…)

「総統閣下、コルグニスの準備は既に完了しています。しかし…あのような複雑化したものを…」

「私なら心配ない。しっかり、データを収集したまえよ」

整備兵に一瞥もすることなく、カリストがコルグニスと呼ばれたモビルスーツに乗り込む。

「カリスト…我らの2人の総統にして、ドゥガチ総統の後継者…。彼らの力は認めるが、だが…これは何だ…?」

光のカリストと影のカリスト。

2人の総統は彼らタカ派の木星帝国がリーダーとして祭り上げた。

彼らの手腕によって、木星帝国の軍備は回復し、一時はコロニーレーザーによる地球への直接攻撃を計画できるところまでになった。

しかし、ガミラスの遊星爆弾によってその作戦が意味をなさなくなり、そこから選んだ道がガミラスとの合流で、しかもそれは2人の独断だった。

一部反対する兵士もいたが、それをした兵士たちは殺されたため、従うしかなかった。

そして、2人はどんなに離れていても意識を共有することができる。

それができる理由として、兵士たちの中で出ている憶測の一つがある。

元々、カリストは出産したときは一人だったが、ドゥガチ総統の命令によって半分ずつに切り離された。

そして、それによってなくなった体の半分を人為的な細胞増殖によって補い、結果として体の半分ずつの肌の色が違うグロテスクな容姿と、このような能力を手に入れることができた。

あくまでも憶測であるが、現実味も感じられる嫌な憶測として、現在ではタブーとなっている。

「キンケドゥ・ナウ…トビア・アロナクス…我らが総統を殺した憎き男たち…」

敬愛するドゥガチの悲願である地球への核攻撃は彼らによって阻まれた上に、ドゥガチ本人まで殺されてしまった。

身が引き裂かれるほどの痛々しい彼の無念を感じ、カリストはその意思を継ぐことを決心した。

そして、地球再生を目指すヤマトを倒すことがその最短の道だと考え、ガミラスへと身を移した。

この1年に間に合わなければいい。

1日でも遅れれば、地球は滅亡する。

それさえできれば、地球の抹殺というドゥガチの願いを叶えられる。

そのための邪魔になる者たちは排除する。

不意に、木星を出ていくときにそこに残した唯一の肉親のことを思い出す。

自分に反発するため、殺すことも考えたが、それよりも木星に残る臆病者どもと共に見届け人になってもらう方がいい。

彼女との血のつながりが、たとえ次元を隔てたとしても地球が滅亡する光景を見届けてくれる。

それだけしてくれれば、彼女はもう用済みだ。

「コルグニス、出るぞ!」

スラスターに火が付き、狂気の鳥がゲルガメッシュから飛び立つ。

総統が乗り込んでいるにもかかわらず、護衛らしき機体を引き連れることのないままコルグニスはヤマトに向けて飛んでいった。

 

-衛星軌道上 ラプラス宙域 ヤマト 第一艦橋-

「ガミラスに動きなし…か」

「現在、確認できる敵機動兵器は木星帝国のモビルスーツのみ。ガミラス艦の反応…つかめません」

クルーの報告を受ける沖田は記録でしか見ることのなかったラプラス宙域の景色に目を向ける。

宇宙ステーション首相官邸ラプラス、人類が宇宙移民を成し遂げ、人類規模初の統一政権である地球連邦政府発足とともに新たなステージに立ったことを証明するため、そして首相自らもまたその宇宙移民と共に生きることを示すため、地球低軌道上に作られたコロニー。

沖田が軍学校にいたときにその写真を見たことがあるが、現存するデータはすべて崩壊した後のものになっており、在りし日の写真データは1つも残っていない。

その新しい時代の象徴となるはずだったラプラスは初代首相であるリカルド・マーセナスと共に、新しい時代の憲章たる宇宙世紀憲章発表、及び新時代到来演説の始まりと同時に砕け散ってしまった。

宇宙世紀世界にも同じような事件が起こったようで、この似通った2つの世界に共通して起こった悲劇に中に沖田はこの世界に隠れる魔を感じずにはいられない。

(しかし…我々にはイスカンダルへ向かい、地球を再生するという責務がある。今その魔に取り込まれるわけにはいかんのだ…)

「これは…アンノウンキャッチ!機動兵器データ照合…いずれにも一致しません!」

「新型機か…!?」

「ビーム、来ます!」

「波動防壁を展開しろ!!」

真田の一声と共に、ヤマトが青いバリアに包まれ、側面から艦橋めがけて飛んできていたビームが阻まれる。

「この出力…メガ粒子砲か!?」

「位置は逆探知した!航空隊は排除に向かえ!」

 

-衛星軌道上 ラプラス宙域-

「了解だ!お前ら、用心しろ!相手は何者かわからないぞ!!玲はヤマトの直掩だ!」

「了解…!お気をつけて」

ヤマトから受け取った位置情報、及びメガ粒子砲の出力を確認した加藤が3機のコスモファルコンと共に向かう。

キンケドゥとトビアはひきつけてくれた敵機のおとりとなっており、今動けるのは自分たち。

加藤の脳裏にこれまでの戦いの光景が浮かぶ。

(航空隊隊長を任されて…ソウジ達が来て…それから俺たちはヤマトを守るので精いっぱいだった…)

彼らの帰る場所を守る中、ソウジ達は前線に出て戦い続けていた。

そんな彼らの後姿を見送ることしかできない自分が歯がゆかった。

(だから、今ヴァングレイがいないこの間だけでも、俺たちが…!)

「隊長、敵機を確認!な…なんだこの速さは!?」

一番最初に敵を見つけた航空隊の佐々木はその機体が見せるスピードに翻弄される。

直線に猛スピードで飛んでいるだけであれば、予測ポイントにビームやミサイルをばらまくことができる。

実際、彼はそれに従うように撃っているが、当たらないばかりかその予測ポイントと敵の動きが一致しない。

まるでヴァングレイのような出鱈目な、しかしどこか意図的な変則さがそれにはあった。

その姿は加藤のコスモファルコンのモニターにも映った。

戦い続けてきた加藤の本能がその危険性を警告する。

「くそぉ!見失った!ど、どこに!?」

「佐々木、後ろだ!逃げろぉ!!」

加藤の目に移ったのは、佐々木のコスモファルコンの後ろをいつの間にかとっていたコルグニス。

それは右手先端からビームクローを展開し、コスモファルコンをコックピット諸共縦に真っ二つに切り裂いた。

真っ二つになったコスモファルコンは制御を失い、コロニーの残骸に衝突するとともに爆発した。

「佐々木ぃーーーー!!」

「貴様、よくもぉ!」

「安藤、桑田!よせ!!」

仲間の敵を討つべく、連携した2人のコスモファルコンがコルグニスに向けて機銃で十字砲火を放つ。

飛んでくる銃弾にカメラを向けたコルグニスが右腕と右足のみを入れ替えして、同時にスラスターを吹かせて回避行動をとる。

(あのモビルスーツ…モビルアーマーへの変形を部分のみでもできるというのか…?)

変則的な機動の正体はまさにそれであり、それがスラスターの向きを調整して、普通ならできない動きを可能にする。

それが正確なはずの予測を大きく狂わせる。

そして、そのような機動を成し遂げることができるのはパイロットの技量も大きい。

「ふん…その程度で。ああ、退屈だなぁ。だから、消えろよ」

時代遅れの戦闘機のようなつまらない相手と戦うつもりはないが、狙ってきているならば殺すのみ。

モビルアーマーに変形し、わざとコスモファルコンの正面に接近していく。

「正面!笑わせるなぁ!!」

可変機の弱点な整備コストの高さと操縦の複雑さ、そして脆弱さ。

特に変形箇所が多ければ多いほど、その脆弱さが顕著になる。

その個所にミサイルを一発でも撃ち込むことができれば…。

安藤はためらいなく、両翼のミサイルを発射する。

「はははははは!!」

カリストのあざ笑う声が響く中、再びコルグニスの両腕と両足が回転するように入れ替わり、同時にミサイルを避ける。

そして、既に手持ちのビームライフルから展開したビームアックスがコックピットを叩き潰していた。

「あ、ああ…」

爆発することなく、コックピットがない状態でまっすぐに飛ぶだけとなったコスモファルコン。

あっという間に安藤も佐々木もやられ、動揺する桑田の動きが止まってしまう。

「くそ…!桑田!動け!死ぬぞ!!」

「隊長…隊長、でも、でもぉ!!」

「くっそぉ!よくも佐々木と安藤をぉ!!」

動かない桑田をかばうように前に出た加藤のコスモファルコンが機銃とミサイルをばらまいていく。

可変機の弱点が脆弱性なら、ほんの一発でも受けたときのダメージが大きいはず。

「ああ、そのマーク…ああ、お前は加藤三郎かぁ!!」

手足の位置を調整しつつ、次々と飛んでくる弾幕をかいくぐりながらカリストは笑いながらコスモファルコンのパイロットの名前をいい当てる。

その声はオープンチャンネルとなっていて、加藤のコックピットにも聞こえていた。

「貴様!俺の名前を!?」

「ハリソン・マディンに加藤三郎…海賊と共にドゥガチ総統の邪魔をした部隊…忘れたことはないぞ!まさか、ヤマトと共にいるなんてなぁ!!」

カリストの言葉と共に、加藤は2年前の木星戦役、そして自分が戦った巨大モビルアーマーのことを思い出す。

あの戦いではヘビーガンに乗り、木星帝国のモビルスーツ部隊と戦っていた。

軍学校を卒業していた彼は小隊長となっており、これが初陣だった。

その戦いで彼は地球を攻撃しようとしていた木星の核搭載型巨大モビルアーマー、ディビニダドのうちの1機の撃破に成功している。

執念深いカリストはそれを少なくとも、ディビニダドを倒した部隊の隊長の名前だけは記憶していて、その中でちょうど、加藤の名前もあった。

「フハハハハハ!無様だなぁ!!部下に死なれ、モビルスーツを失って今はこんな安っぽい戦闘機のパイロットになり下がったかぁ!!」

「ふざけたことを言ってるんじゃないぞ!貴様ぁ!!」

「死ねよ」

背筋が凍るほどの冷たい言葉が矢のように突き刺さるとともに、コルグニスのビームクローが加藤に迫る。

刃はコックピットを逸れて、左翼を切り裂く。

「ほぉ…死ぬのは、避けられたか」

「ちっくしょう!!」

左翼を失った愛機の操縦桿を握りしめ、機体を無理やり平行に浮かぶコロニー外壁に滑らせる。

胴体が滑り、衝撃を感じる中で脱出装置を作動させた。

コックピットハッチの上部分が吹き飛び、そこから飛び降りた加藤はコルグニスを見つめる。

「ふん…悪運がいい。今のは本気でコックピットを切るつもりだったぞ。まぁいい…」

「やめろ!貴様ら、まだ地球を…!!」

「地球は消えてしまえばいい。そして、木星だけが繁栄すればいいのだよ」

そう言い残し、通信を閉じたコルグニスが生きている加藤に目を向けることなく、まだ生きているヤマトに向けて飛ぼうとする。

しかし、新たな反応を2つ見つけたことで動きを止める。

「来たな…あの男よりも憎たらしいお前たちが」

反応はスカルハートとX3、キンケドゥ・ナウとトビア・アロナクス。

「加藤さん、無事ですか!?生体反応は…!」

「あの機体…やられたというのか…」

生き残っている1機は既に動きを止めていて、3機の反応はない。

どうにか生体反応で、生き残っている加藤の姿を見つけることはできた。

そして、2機のクロスボーン・ガンダムを阻む狂気のモビルスーツはコックピットを開き、カリストはその姿をトビア達の前にさらす。

「初めまして、キンケドゥ・ナウ…トビア・アロナクス」

「貴様…何者だ!」

姿を見たキンケドゥは粘りつくようなプレッシャーを感じ、冷や汗をかく。

この左右の肌の色が違う醜い容姿とは別に、もっと真っ黒で水気のないシチューのようなおぞましさを感じられた。

「ニュータイプ…なのか??」

「ニュータイプ?ハハハハ、違うな。私は…いや、我々はサイキッカーだ」

「サイキッカー…だと?」

「知らないのも道理だ。ニュータイプとは似て非ざる存在なのだからな。忌まわしき貴様らがまさか、ヤマトと共にいるとはなぁ!!」

コックピットが閉じると同時に再び飛翔するコルグニス。

2機のクロスボーン・ガンダムがそれぞれザンバスターとブラスターガンを放つが、圧倒的な機動力を誇る今のコルグニスをかすめることすらできない。

「速い!あのスピードは!!」

トビアの脳裏に、かつて木星戦役で戦った死の旋風隊の姿が浮かぶ。

木星帝国がクロスボーン・ガンダムに対抗するために作った部隊で、3機による連携を基本としていた。

今、目の前にいるコルグニスはその3機の中でも攻撃を担当するモビルスーツ、クァバーゼに近いように思えた。

その機体の主力武装である鞭、スネークハンドはないものの、頭部に装備されているメガ粒子砲と可変機であることが共通している。

そして、このコルグニスのスピードはそのクァバーゼを大きく上回っていた。

「ハハハハハハ!このコルグニスは貴様らと地球を殺すために作られたモビルスーツなのだよ!死ねぇぇぇぇ!!」

「ぐぅ…!!」

発射されたメガ粒子砲をスカルハートはABCマントで受け止める。

クロスボーン・ガンダムは接近戦をメインとしたモビルスーツであり、射撃攻撃を当てることができない以上は接近戦でなければ決定打を与えられない。

しかし、あのコルグニスのスピードはそのクロスボーン・ガンダム以上であり、容易に接近することもできない。

「こんのぉぉぉぉ!!」

大振りになるムラマサ・ブラスターを捨て、両腰に装備されたバタフライバスターを手にしたX3がビームを連射して牽制しながらコルグニスに迫る。

(連射して接近して、懐に飛び込みさえすれば!!)

「勝てる、とでも?大甘だよ、トビア・アロナクス」

変形機構を駆使しつつ、スピードを落とすことなく回避しきったコルグニスだが、その回避コースだけはトビアの予測通りだ。

一直線に飛ぶX3がバタフライバスターをサーベルモードに切り替え、コルグニスに斬りかかろうとする。

しかし、その変形するわずかな時間が隙となっていた。

斬りかかる直前にモビルスーツ形態に戻ったコルグニスがX3の懐に入り込んでいた。

(嘘だろ…!?クロスボーン・ガンダムの方が、懐に飛び込まれた!?)

「トビアーーーー!!!」

キンケドゥの叫びと共に、コルグニスのビームアックスがX3の胴体をその両腕を巻き添えにしながら切り裂いた。

「うわあああああ!!」

コックピット直前までビームの刃が届き、その熱がノーマルスーツを介してトビアを襲う。

直前にスラスターを前方に吹かしていたためか、切られたX3が後方にあるコロニーの残骸まで飛んでいき、衝突してから動きを止める。

「トビア!!生きているか、トビア!!」

コックピットを横一線に斬られ、両腕を失った無惨なX3がスカルハートのメインカメラに映る。

その一撃が通信機にもダメージを与えたようで、接触回線を開かない限りは通信できない状態になっていた。

「ふん…!これで1機。あとは…貴様だけだ、キンケドゥ・ナウ」

「貴様!一体なんのつもりだ!、貴様らのやっていることは地球の人々の木星人に対する憎しみを深めるだけなんだぞ!!」

木星戦役の後、地球へ核攻撃を起こしかけたことから人々は木星帝国もまたガミラスと同じではないかという考えが広まっていた。

地下でパン屋をしていたときも、ガミラス以外で噂となるとしたら、木星帝国のことだった。

彼らへの憎しみはかなりのもので、もし仮にガミラスの攻撃がなかったとしたら、厳しい制裁をかけられていたかもしれない。

そうなると、水も空気も資源もなく、厳しい階級制でやっと維持することができた木星帝国のライフラインは崩壊し、全員が窒息する。

とても、国のことを考える行動には見えない。

「ハハハハ!同じだ、同じことを言う!!」

「同じ…だと!ならば、なおさら!!」

「分かっていないなぁ。我々はもはや地球を迷惑な惑星としか考えていないのだよ。初めから制圧する気持ちもなければ、かつて総統が言っていたような資源惑星としてすら考えていない。ただ…シンプルに、消えてほしいだけなのだよ。それに…地球人がいくら死のうが関係ないだろう?自らが作り出したコロニーで自らをはぐくむ我ら木星人が…なんでそんなものに配慮する必要があるというのだ?」

「こいつ…!!」

木星の中にも、まともな考えをする人がいるようだが、それすらも吹き飛ばすドゥガチの亡霊をキンケドゥは感じていた。

おまけに、彼の言動はトビアが危惧していたものを感じずにはいられなかった。

(奴は本当に…もう、地球人じゃない何かになり果てているというのか…??)

地球から離れすぎたせいなのか、それともガミラスと共に地球への憎しみを捨てないまま外宇宙へ出てしまったからなのか。

カリストにはもはや決定的に分かり合えないほどの大きな隔たりがあった。

そして、その亡霊にしがみつく彼をこれ以上野放しにすることはできない。

「貴様はもはや、人間であることすら捨てたか!ならば、容赦はしない!ここで…殺す!!」

「やってみるがいい、総統の無念を晴らして…」

(待て、弟よ…)

「兄さん?」

スカルハートが迫る中、コルグニスを操縦しながらカリストは受信したもう1人のカリストからの声を拾う。

(デモンストレーションはこれで終わりだ、それにコルグニスはまだ未完成。完成させ、圧倒的な力でヤマト諸共葬る。確実に奴らに敗北感を与え、みじめに殺す…。その悲鳴と悲劇が総統への鎮魂歌になる…そうだろう?)

「ああ…そうだね、兄さん」

コルグニスがまだ不十分なことは彼も承知しており、実際に何度も行った変形によるフレームへの疲労も無視できず、コンマ一秒程度だが、変形が遅れているところがある。

そのわずかな遅れと見くびりが命取りになることは分かっていた。

「気が変わったよ、どうせ元の世界へ戻る手立てもなければ、スケジュールも刻一刻と迫っている。このまま指をくわえてどこにあるかも知らないあの地球が滅びるのを待てばいいさ。さようなら」

「待て!!」

キンケドゥを無視したコルグニスが再びモビルアーマー形態となり、ライフルを動けないX3に向けて連射する。

両腕のIフィールド・ハンドを失ったX3はそれを防ぐ手立てはない。

先ほどのメガ粒子砲でABCマントを失っているスカルハートはX3の前へと向かい、次々と飛んでくるビームをビームシールドで受け止める。

その間に一気に距離を離したコルグニスはそのまま宇宙の闇の中へと消えていった。

「逃げた…いや、逃げてくれたというべきか…」

(スカルハート!スカルハート!聞こえますか、キンケドゥさん!!)

「その声は…森船務長か!ヤマトはどうなっている!?」

(木星帝国の機動兵器が後退していきます。トビア君と加藤隊長は大丈夫なんですか!通信がつながりません!!)

「X3は敵正体不明機の攻撃によって大破した。加藤隊長も機体を失っているが、どうにか…」

「大丈夫か、トビア!!」

X3にとりついた加藤がビームアックスで斬られたコックピットまで近づく。

その中にはトビアの姿があり、五体満足な姿にほっとする。

だが、コックピットに座る今のトビアには目の前にいる加藤の姿は意識のかなたにあった。

(どうすれば、どうすればいいんだ?どう、戦えばいい…)

トビアの脳を支配するのは2機のクロスボーン・ガンダムですら勝てなかったコルグニス。

認めたくはないが、あのモビルスーツはクロスボーン・ガンダムよりも強い。

今後、ガミラスと戦う中でそのモビルスーツと何度も戦うことになるだろう。

どう戦えば、どう勝てばいい、その考えに飲み込まれながら、トビアは意識を失った。

 

-ゲルガメッシュ ブリッジ-

「ふん…大口をたたいたわりには、ヤマトを沈めることができておらんではないか!!」

ゲールは指揮棒を振り回しながら、目の前にいるコルグニスのパイロットであるカリストとは真逆の肌色をしているカリストに怒りをぶつける。

今、コルグニスはゲルガメッシュに収容されており、整備兵によってデータ収集が行われている最中だ。

パイロットはまだコックピットの中だが、もう1人のカリストである彼がいる以上は何も変わらない。

一方のカリストはそんなゲールの怒りなど蚊ほども痛くはなかった。

「ヤマトは大幅に戦力を伸ばしています。そのことはこの戦闘で確認することができました。最大戦力が分かった今、判断できるのは奴らを仕留めるには全軍をぶつける必要があるということです。それだけでも、大きく貢献できたものとは思いますが…?」

「ふ、ふん!そんなこと…だが、どうするというのだ!!仮にそれでヤマトを仕留めたとしても、我らはジリ貧だぞ!!」

別世界へ来てしまった以上、もはや本国と連絡を取ることはできない。

自らの権限を使い、潤沢に得られるであろう補給物資もない。

そんな中でそんな総力戦を始めれば、どちらも地獄行だ。

「ならば、協力相手を手に入れることから始めましょう。ちょうど、この世界は戦乱の時代を迎えています。見つけることは難しくありません。それに、我々には力がある。それに応じない手はないでしょう」

 

 

-ヤマト 第一艦橋-

「木星帝国は後退し、結局ガミラスも動きを見せず…か」

「奴らめ、ヤマトにはもはや歯牙をかけていないというのか!」

戦闘が終わり、ヤマトは無事だが、誰もそれを喜ぶ様子はない。

元の世界では必死に倒そうとしたガミラスのヤマトへの態度が掌返しのように変わっているように見え、おまけに自らは動かずに尖兵となった木星帝国だけを動かした。

見下されているのか、もはや戦っても価値のないものと思われたのか。

もしそう思われているというならと思うと、怒りがこみあげてくる。

島はやり場のない怒りをどうにかしたくて、操縦桿に額をたたきつけた。

「真田、X3とトビア君の状態はどうなっている?」

「トビア・アロナクス君は収容しました。軽傷ですが、現在は自室で眠り続けています。X3は現在、ヤマトで修理中です」

「そうか…加藤二尉は?」

「医務室で治療中。機体は代替機を用意する予定で、けがの具合を見た結果、すぐに復帰できるものと」

思わぬダメージを負う結果となったが、それでも敵を追い払うことはできた。

「艦長。これからどうしますか?このままでは…」

「テスタロッサ艦長らと協議した結果、ひとまず地球へ降下することが決まった。そこにあるミスリルの本部で補給を受ける」

「地球…あの、赤い地球へ…」

人類の戦争と更には天変地異によって、自分たちの世界のそれとはまた別の意味で死に瀕している地球。

それにヤマトとガミラス、更には西暦世界というイレギュラーが入り込むことで、また混乱が起こる。

そのことは既に西暦世界で嫌というほど学習していた。

 

-ナデシコB 格納庫-

ナデシコBに収容されたエステバリスとブラックサレナが艦内の整備兵たちの手で修理が行われる。

最初は異形な機体であることから戸惑われていたブラックサレナだが、基本的な整備内容はエステバリスと変わらないため、今では受け入れられつつある。

そんな愛機の様子をアキトはじっと見つめる。

「アキト…」

格納庫に入って来た万丈がアキトのそばまで向かい、声をかける。

無表情を貫こうとしていることは分かるが、冷静でないことは既に顔面に光るナノマシンが教えている。

「あの時…確かにユリカの声が聞こえた。そして、言っていた…。必ず、また会えると…」

「そうか。だとしたら、後は君がそれを信じることだ。今の我々にはどうすればいいのかはわからない。しかし、我々には帰らなければならない理由がある。そのためにも、今ここであきらめるわけにはいかない」

「ああ、そうだな…」

「アキト、元の世界へ帰ってからのことは君が決めればいい。だが、今の僕たちには君が必要だ。だから…」

「分かっている。…少し、休んでくる」

万丈とすれ違い、艦内に用意されている自室へと戻っていく。

彼の後姿を見ずに、万丈は整備されているブラックサレナに目を向ける。

(黒百合…アキトの愛と復讐心を象徴するあだ花。僕には、憎しみと復讐のむなしさを説く資格はない。僕も…アキトと同じなのだから)

 

-トゥアハー・デ・ダナン 艦橋-

大気圏突入のための準備が始まる中、ダナンの艦橋にはなぜかヨナの姿があり、彼は通信機の操作を行っていた。

「艦長…よろしいのですが、彼はただのパイロットのはずでしょう?」

本来の自分の席を使う彼を見た通信兵は戸惑いながらテレサに目を向ける。

既に事情は聴いているが、それでも彼の身の上を中々信じることができなかった。

「カリーニン少佐が尋問し、裏付けもできています。もしかしたら、ヤマトをはじめとした異世界の機動兵器と戦艦の存在をミスリル1つでかばいきれない可能性があります。それに、戦闘を行った以上、既に知れ渡っている可能性も…」

この世界にも、ソウジ達がよく知る2つの巨大な企業が存在する。

そして、彼に通信させようとしているのはその1つの企業だ。

1年戦争末期の混乱と災害によって壊滅状態となった中国大陸でかろうじて治安と経済を維持している香港を拠点とした企業。

地球における政治経済への影響力を強く持つフィクサー。

そこと彼はコンタクトを取ろうとしている。

「よし…つながった」

「この通信コード…もしかしてヨナ、ヨナなの!?」

耳に当てているヘッドフォンに懐かしい女性の声が聞こえてくる。

ようやく声を聞くことができたという安心感が胸からあふれ始めるが、今は感傷に浸っている時間がない。

「ヨナ、良かった…。あなたがいる艦が沈んだっていう情報が入ったから、どうしたのかと思って…」

「心配かけてごめん、リタ。ミシェルと…ミシェル・ルオと連絡はとれるかい?ルオ商会の力を借りないといけないことが…今、起こっているんだ」




機体名:コルグニス
形式番号:EMS-VSX5(推測)
建造:木星帝国
全高:17.3メートル
全備重量:不明
武装:ビームライフル(ビームアックス内蔵)、メガ粒子砲、ビームクロー
主なパイロット:カリスト

木星帝国が開発した総統専用試作モビルスーツ。
木星戦役の際に奪取したクロスボーン・ガンダムX2のデータと死の旋風隊が運用していたクァバーゼの技術が組み込まれた機体である。
クロスボーン・ガンダムから手に入れた技術データを積極的にアレンジしており、それによって総合性能をクロスボーン・ガンダム以上のものへと引き上げている。
特に腰部中央の軸を中心に推進機関の集中する脚部と攻撃の要となる腕部のレイアウトを変更する独特な可変機構は、大気圏内における飛行を想定したものであったが、パイロットであるカリストの技量によって、最も効率の良い位置にスラスターの向きを変更させる事で変則的な機動を可能としており、それに伴い機体そのものがクロスボーン・ガンダムのフレキシブル・ブースターだと言っても過言ではない。
元々はX2の再現ともいえる機体、アマクサ完成後に開発が行われる予定であったが、ガミラス帝国との合流によって資材の目途がついたことから開発が前倒しされている。

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