スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第42話 歪みの中へ

-ヤマト 格納庫-

「ったく、別世界の戦場というのは相当過酷なものなんだな…うわあ!!」

被弾と同時に艦内が揺れ、榎本が膝をつく。

波動防壁が展開されているとはいえ、それでも爆発などによる衝撃まで抑えることはできない。

火星の後継者だけでなく、ソウジ達が戦ったというドラゴンまで出てきたとなると混乱という言葉がかわいく思えるくらいだ。

整備兵として、いつ機動兵器が戻ってきてもいいように整備の態勢を整えておくのはもちろんのこと、ヤマトそのもののトラブルがあってもいいように用心しなければならない。

そんな中で、格納庫に来るはずのない人物が入ってくる。

「おい!!ゲッター1の出撃準備をしろ!!俺が出る!!」

「無茶言わないでくださいよ!!ひどい損傷で動かせる状態じゃないってことは前に言ったでしょう!?ギャ!!」

「そんなこと言ってられねー状況だってことは分かってんだろう!!今は一機でも多く出撃したほうが有利なんだよ!!」

静止する警備兵を殴り飛ばした竜馬が格納庫に放置同然となっているゲッター1へと向かう。

ソレスタルビーイングをはじめとした別世界の整備兵たちが知恵を絞った痕跡はあり、破損個所はゲッター合金にやや近い装甲材はできたものの、変形させることは一切できないために傷口をふさぐ程度にしかなっていない。

「腕一本動かせりゃあ、砲台替わりにはなる!!ゲッターマシンガンは直ってるだろ!!」

「あれはまだテストできていな…」

「撃てるんなら十分だろうが!!どけ!!」

「そんな…え、榎本掌帆長!!」

あまりの気迫と身体能力、闘争本能を燃え上がらせる竜馬をどうすることもできず、整備兵が榎本に視線を向ける。

誰も竜馬を止められない以上、他の誰かが彼を制止しなければならない。

しかし、止めるにしても出撃させるにしても、そうした命令を出せるのは戦術長である古代や副長である真田、もしくは艦長である沖田の判断であり、榎本が出すものではない。

榎本が壁に備え付けられている受話器を手にし、そこから第一艦橋と連絡を繋ぐ。

「あー、あー、榎本掌帆長です。流がゲッター1での出撃を希望しています。戦闘が難しいと伝えてはいますが、まったく意に介していない様子です」

「また流か…。艦長、どうします?」

今はジャミングのせいなのか出撃している航空隊と連絡を取ることもできない。

そうなった場合はこちらで判断をするしかない。

竜馬が優れたパイロットであることは分かっているが、それでも今の状況下でボロボロなゲッター1で出るとなると自殺行為としか言いようがない。

「…判断は任せる」

「艦長…!?」

「戦術長は君だ。君が判断を下せ」

何か理由があってそのような判断の委任をするのか、沖田の意図は読めない。

だが、そう命令された以上は動くしかなく、古代はゲッター1に通信を繋げる。

やはり既に竜馬はゲッター1に乗り込んでおり、すぐに通信を繋げ返してくれた。

「…流!仮に出撃するというなら、鹵獲したバタラもある。もっと別の機体で!」

「駄目だ!ゲッター1で出撃する!いや…出撃しなきゃあならねえんだ!!」

「流…」

言葉では説明できない、もっと別の何かに突き動かされているかのような言動。

ドラゴンが出現したことが関係しているのか、別の何らかの要因があるのかは常人である古代には分からない。

これまでは自分にできることをやれるなら構わないとして出撃しなかった竜馬とは別人だ。

「…分かった。だが、ゲッター1についてはこちらでモニタリングをする。何か少しでも異常が発生したら帰還させる。君を元の世界に還せないまま死なせるわけにはいかない!」

「…感謝するぜ、古代戦術長殿。お前ら、さっさとハッチを開けてどきやがれ!!踏みつぶされても知らねーぞ!!」

無事な右手でゲッター1の拘束具を無理やりちぎっていき、整備兵たちが逃げ出すとともに歩き出す。

損傷個所を無理やりなおしただけで、欠損した腕は丸見えな上に両肩に内蔵されたゲッタートマホークはもうない。

今手に取ったゲッターマシンガンも、Eパック方式になり、補給が用意になったとはいえ、実際に撃てるかどうかは分からない。

しかし、武装があるだけでも今のゲッター1の状況から考えたらありがたい。

ハッチが開き、ゲッター1はそこから飛び降りて戦場へと赴く。

「流…死ぬんじゃないぞ…」

 

-火星 極冠遺跡周辺-

「おかしい…ドラゴンはエリアDにしか出現しないはず…!」

迫るスクーナー級をアサルトライフルでハチの巣にしていき、サリアは予想だにしなかったドラゴンとの交戦に不安を隠しきれない。

アルゼナルでは、生き残ったパラメイルからデータを受け取る形で、シンギュラー出現頻度やその大きさ、主痛言したドラゴンの数に関する記録データが残されている。

隊長としてそれらのデータをすべて見ているが、エリアDの外で、しかも火星でドラゴンが出現するのは初めてのことだ。

「何縮こまった動きをしてんだよ、サリア!」

「久々のドラゴンで、エリアDに出ないタイプってことは新種だろ!初物レベルのキャッシュが出るだろ、こいつは!!」

ヒルダとロザリーにとっては今ここで飛び回っているスクーナー級は格好のカモだ。

火星の環境はテラフォーミングされているとはいえ、それでも地球と比べると気温などの環境事情は異なる。

おまけに地球以外にもエリアDのようなドラゴンが現れるポイントがあると分かっただけでも貴重なデータだ。

そして、戦っているドラゴンの戦闘能力はこれまで出会ったドラゴン達と変化はない。

ならば倒して膨大なキャッシュにしてしまうのが賢い。

(こんなの…今までなかった。なんだか、見えない糸で引っ張られているみたい…)

「残弾は…まだ大丈夫!落ちて!!」

レールガンをバリアのもろくなった箇所に向けて発射し、頭部を撃ち抜かれたガレオン級が地面に落ちるのを見たナオミは今度はハンドガンで牽制しつつ、クラブの重い一撃でスクーナー級を倒していく。

「本当の意味の新種がいないなら…!?」

グレイブのレーダーがドラゴンのものとは思えない、機動兵器のものと思われる熱源反応を探知する。

するとすぐにその地点からビームが迫る。

「まずい!!」

殺気を感じたナオミがわずかに機体を上昇させ、飛んできたビームが左足を撃ち抜く。

撃ち抜かれたことで裂かれた左足のパーツが火星の大地へと落ちていく。

もし少しでも動きが遅れていたら、今のビームでコックピットが焼かれて肉体も残らなかっただろう。

メインカメラがビームを撃ってきた機動兵器の姿を映す。

黒い4枚羽根のようなバックパックをつけ、黒を混ぜたピンクの装甲をしたほっそりとしたシルエットで、大きさはパラメイルとほぼ同じと言ってもいい。

右腕には実体剣が備え付けられ、左腕につけられている砲台を見ると、おそらくはそこからビームを撃ってきたものと思われる。

その機動兵器はパラメイルと同じく、フライトモードへと変形していくと、片足を失ったナオミのグレイヴを歯牙にもかけずにヴィルキスがいる方向へと飛んでいく。

「あのパラメイル…ドラゴンと関係があるの…?ああ、アンジュ!!アンジュ!応答して、アンジュ!!」

シンギュラーが収まったにもかかわらず、いまだにジャミングが発生しており、ヴィルキスと通信を繋げることもできない。

(アンジュ…お願い、無事でいて…ごめん!!)

姿勢制御を行いながら、ナオミはあの機動兵器のことを伝えることができないことを心の中でわびた。

 

「よし…!これで5匹目!」

ラツィーエルでドラゴンの心臓部分を一突きしたアンジュは不敵な笑みを浮かべる。

だが、ドラゴンだけでなくここには火星の後継者の機動兵器もいる。

地上からグラビティブラストが飛んでくる。

砲台替わりに配置されたマジンの姿があり、ヴィルキスを撃ち落とすために再びグラビティブラストを発射しようとする。

「まったく、こういうヒーローものを戦いに持ち込まないでよ!…別の熱源!!」

飛んできたビームを横に機体を動かして回避し、流れ弾を受ける形で射線上にいた積尸気が撃ち抜かれる。

「ビーム!流れ弾じゃない…これって!!」

熱源センサーだけで見ると、モビルスーツのビームライフルレベルの火力だが、問題なのは急速に接近してくるその反応だ。

メインカメラで見えたのはフライトモードになっている赤いパラメイルで、一瞬ヒルダのグレイヴかと思ったが、彼女の機体の色と比較するとその色は暗く、彼女のものではないと判断で来た。

それよりも重要なのはその機体がビームを撃ったことだ。

「パラメイルが…ビーム!?」

パラメイルの出力でビームを使うなどありがない話だ。

驚きにより一瞬反応が遅れ、それをつくかのようにそのパラメイルがアサルトモードに変形する。

そして、右腕の剣で切り付けて来て、ヴィルキスと鍔迫り合いを始める。

「パラメイルがなんでメイルライダーを攻撃するのよ!?というより、私たち以外のパラメイルが火星にいること自体…おかしな話だけど!!」

どうにか赤いパラメイルから離れたヴィルキスがアサルトライフルを放つが、ブラックサレナにも匹敵するそのスピードで弾丸を避けていき、ヴィルキスに狙いを定めた2体のスクーナー級が口からビームを放とうとする。

「しまった!!」

やられる、と思ったアンジュだが、2匹のスクーナー級をビームの雨が側面から襲い、ハチの巣になった2匹が地表へと落ちていく。

「黒いダルマ…あの機体、動けたの??」

「はあ…Eパック1つじゃあ、これで弾切れかよ」

空になったEパックが切り離され、予備のEパックを取り付ける。

ドラゴンそのものは初めて見る竜馬だが、月面戦争でそれよりもグロテスクな生物であるインベーダーを見たことがある。

その生き物と比べると、ドラゴンなんてかわいいものだ。

「オラオラァ!いくらでもかかってきやがれ!俺とゲッターが相手になってやる!!」

スラスターを吹かせてスクーナー級に迫り、質量のある拳を叩き込んで粉砕する。

ドラゴンたちを撃破する大型機動兵器に赤いパラメイルの注意が向く。

「よそ見なんて…余裕ぶってんじゃないわよ!!」

その隙にラツィーエルでコックピットを一突きしようとする。

だが、その瞬間赤いパラメイルのメインカメラがアンジュに向き、右手の剣が展開して鞭のようになり、それがヴィルキスの右腕を絡めとる。

「アンジュ!!うおお!!」

拘束されたアンジュに気を取られた隙をつかれ、ゲッター1がガレオン級の体当たりを受けて吹き飛ばされる。

そして、ガレオン級に追随するスクーナー級が3匹一斉にビームを放ち、起き上がろうとするゲッター1を容赦なく襲う。

「うおおお!!」

「くっ…竜馬をやらせるわけには!」

攻撃を受ける竜馬を救援しようとする鉄也だが、彼の周りには多くのドラゴンがいて、彼らへの対応で手いっぱいな状態だ。

とても竜馬を助けに行ける状態ではなかった。

そんな中で、また新しい反応をグレートマジンガーが拾う。

「このエネルギー反応…まさか、アールヤブというやつか!!」

この世界は容赦なく自分たちに試練を与えようとしているのか、前の世界でもこの世界でも遭遇したガーディムの軍勢が火星の大地に姿を現す。

出現したアールヤブ達にドラゴンたちは動揺するが、火星の後継者にとっては味方を殺された因縁の相手でもある。

積尸気やバッタがガーディムの軍勢への迎撃を開始した。

 

「くそ…ガーディムまで登場って、戦争バザーかよ!!」

火星の後継者、ドラゴン、そしてガーディム。

いずれも今の自分たちにとっては因縁のある相手のオンパレードにさすがのソウジも表情が凍り付く。

4つの軍勢が入り乱れ、刃を交える状況で、チトセがあの反応を拾う。

「ソウジさん!来ます、例の機動兵器です!!」

「やっぱり、そうだよなぁ!!」

ビームサーベルを抜くと同時に、急速接近してくる機動兵器に機体を向ける。

やはりまっすぐにこちらへ飛んできたのはブラーマグで、両腕のビームサーベルとつばぜりあう。

最高速度の状態で突っ込んできたこともあり、ヴァングレイが押される形となっていた。

「グーリーか!!」

「覚えていたとは光栄だな」

「悪いが、今の俺たちはテロリストと化け物相手に忙しいんだよ!チンピラは引っ込んでな!!」

頭部バルカンを撃ってカメラに少しでもダメージを与えようとするが、まるでそのことが分かっているかのようにブラーマグが真下へと機体を無理やり移動させてよけてしまう。

「くっそがぁ!!」

「ヤマトを戦闘不能にしろ、というオーダーだ。相手になってもらうぜ…劣等種族」

「まともな自己紹介もできんような奴にはご自慢のスピードで退場してもらうまでだ!!」

「キャップ、姉さん!ブラーマグの装備が一部追加されています。前と一緒だと思わないでください!」

「いけ!!」

ナインの警告が飛んだのとほぼ同時に、ブラーマグの胴体側面の装甲が一部展開し、2本爪のクローが先端についたワイヤーが飛ぶ。

クロー後部には小型のスラスターが取り付けられており、それがヴァングレイに向かって急速に飛んでいく。

クローの1つがビームサーベルの基部を貫き、もう1つがシールドをかすめる。

「ちっ…ヴァングレイのビームサーベルは1本しかないんだぞ!!」

「ソウジさん、ワイヤーを切って!!」

追加武装で、仮にその武器がアンカークローだと仮定するとその貫通力とスピードは大したものだ。

だが、そうした武器はワイヤーが切られると使えなくなるのが関の山。

チトセの言葉通り、ビーム砲を展開し、それで伸びきったワイヤー2本を打ち抜く。

ワイヤーを失った2本のクローは制御を失うものと思われた。

「思わぬ武器でびっくりしたが、これなら…」

「…!違います、キャップ、姉さん!まだあの武器は死んでいません!」

「なに!?うわ!!」

どこからか飛んできたビームがヴァングレイの装甲に命中すると同時に大きな衝撃がコックピットに走る。

ブラーマグとは全く違う方向から飛んできたそのビームをナインが逆探知する。

撃ってきたのはあのクローだった。

「ファンネルだってのかよ!?」

「けど、違います。ファンネルとは…違う…」

「だろうな。あのグーリーって野郎がニュータイプなわけがねえだろうし…」

ストライクフリーダムのドラグーンシステムやΞガンダムのファンネルミサイル、ダブルオークアンタのGNソードビット。

これらのオールレンジ攻撃が可能な兵器が使われたとき、チトセはそれらから思念のようなものを感じ取ることができた。

だが、あの兵器からはそのようなものを一切感じ取ることができなかった。

おそらくはガーディムのこうした兵器はニュータイプのような脳波は必要ないのかもしれない。

「よそ見はさせねえ、俺のスピードで切り刻んでやる!!」

2基のクローを制御しているにもかかわらず、ブラーマグは一切スピードを緩めることなく両肩からビームサーベルを展開し、すれ違いざまのヴァングレイを斬ろうとする。

どうにかレールガンを連射してそらそうとしたが、撃つ前に再びクローのビームが飛んできて、レールガンを破壊されてしまった上に、真正面からのブラーマグの突撃を許してしまう。

「うおおおお!!」

「キャアア!!」

「まだだ!もう1発で!!」

懐に飛び込んで切り裂いたと思ったが、ギリギリのところで左腕もろともシールドで防御をして直撃を免れたようだ。

切り離されてはいないものの、ヴァングレイのシールドと左腕はめった刺しにされたかのようにいくつもの破損個所が見受けられる。

そのせいで左腕がヴァングレイの操作を受け付けない。

期待を急速反転させたブラーマグが再び切り裂こうとするが、どこからか飛んできたビームがそれを妨害する。

「ちっ…」

「ソウジさん、チトセさん!!」

ヴァングレイの危機を見たキラが駆けつけていて、ヴァングレイの周りを飛び回るクローを抑えるためにドラグーンを展開する。

ドラグーンから放たれるビームを2発受けたクローだが、GNソードビットと同じく耐久性も考慮に入った設計がされているようで、それだけでは破壊には至らなかった。

また、ヴァングレイを狙っているのはブラーマグだけでなく、バッタもミサイルを発射しており、キラはドラグーンのビームを使ってヴァングレイを覆うようにビームの網を作り出す。

ビームの網に触れたミサイルは爆散し、クローも網を解除したドラグーンのビームを避けて一度ブラーマグの周辺まで下がる。

「大丈夫ですか、ソウジさん、チトセさん!!」

「キラか!悪い、助かったぜ…」

「気を付けて、キラ君。ブラーマグ、さらに手ごわくなっているわ!」

「クローは僕がなんとかします。お二人はあの機体に集中してください」

ブラーマグの近くまで戻ったクローだが、ストライクフリーダムのドラグーンとは異なり、機体に収容される気配がない。

おそらくはνガンダムのフィン・ファンネルと同じく収容および再充電ができないタイプなのだろう。

だが、そうしたタイプのものは耐久性や稼働時間が長いものになっている場合が多い。

「味方が助けに入ったか…。だが、やることは変わらねえ!まとめてかかってこい!!」

2対1になったとしても、スピードで相手を切り刻んで任務を遂行するというグーリーの流儀に変わりはない。

再びクローがヴァングレイに狙いを定めて飛んでいき、その2基をキラがビームライフルでけん制し始めた。

 

「ヒカル!イズミ!死角を作るなよ、作った瞬間やられちまう!!」

「了解!」

「焦るんじゃないよ、リョーコ」

リョーコを筆頭とした3機のエステバリスカスタムが背中を向けあい、ラピッドライフルで北辰衆を迎撃する。

北辰衆の技量と機体性能については既にルリから聞いているとはいえ、やはりその戦闘能力は実際に戦ってみると嫌というほど感じてしまう。

圧倒的な機動力とまるでこちらの攻撃の勢いを利用しているかのような奇妙な動きでいずれの攻撃も紙一重でかわし続けている。

おまけに、以前アキトとソウジによって2人倒されているはずなのに、この場には再び6機が集まっている。

六連のうちの1機がミサイルを発射してきて、それをヒカルのラピッドライフルが撃ち落とす。

「こんな奴らと戦い続けていたのか。アキトは!そして、こんな奴らのせいで…!!」

改めてアキトの幸せを奪い、まるで自分たちをもてあそぶように戦いを繰り広げる北辰たちへの怒りが燃え上がり、操縦桿を握る手に力が入る。

それもまた相手の意図しているところだというのは分かっているが、それでも怒らずにはいられない。

(悪いな…感情をコントロールできそうにねえ。仲間の幸せを奪った野郎を前に、怒れねえ奴なんていねえ!!)

 

「北辰!!」

「フッ…」

遺跡にほど近いところでは夜天光とブラックサレナがディストーションフィールドをぶつけ合う。

接触したことで回線が開いており、モニターに映る不敵な笑みを見せる北辰にアキトは歯を食いしばる。

「よくぞ、戦いの準備を手伝ってくれた。愉悦きわまる戦場だ…」

「やはりな…この状況を作るためにわざと情報を…!!」

火星の後継者の基地に関する情報は万丈と共に火星で情報収集する中で偶然手に入れたもので、メガノイドの基地の近くに墜落していた無人輸送機の中に残っていた。

盗難防止のための仕掛けもなく、手に入れた時から万丈と共に情報を怪しんでいた。

確かにここに配備されている兵器や人員などは情報通りだ。

そして、今の北辰の言葉で再び自分が北辰の手で踊らされていたことを感じ取ってしまった。

「かつての仲間、ソレスタルビーイング…異世界の兵器たちにドラゴン。この戦いは混沌に満ちている。今のこの世界と同じように。この混沌こそが我らの戦場。我らが愉悦!!」

ガーディムについては想定外だったが、結果として混乱した戦場を生み出す助けとなった。

その中でアキトに必死に自分にしがみつかせ、最後は愛するユリカを救うことができずに絶望のままになおも追い続けなければならない。

生かさず、殺さず、楽しみの道具にする。

北辰にとって、火星の後継者もメガノイドも地球もすべて、何もかもがそれだ。

アキトはその玩具の一つに過ぎない。

「貴様らの戦場など知るものか!ユリカを返してもらうぞ!!」

「フハハハハハ!!天河アキト!もはや貴様は私のものだ!」

距離を置くと同時にミサイルとハンドカノンの応酬が始まる。

近接戦闘でも遠距離戦闘でも有効打を与えることはできない。

いや、本来であれば北辰が有効打をすでに与えているはずだ。

彼の技量は圧倒的で、1対1で戦ったとしても、彼に勝てる保証がどこにもない。

北辰にとって、その殺しあいすら遊びであった。

 

「ヤマトはやらせん!!」

加藤のコスモファルコンからはなられる機銃がヤマトに対艦ミサイルを放つバッタの集団を撃ち抜いていく。

ヤマト周辺には勇者特急隊とクロスボーン・バンガード、そしてヴァングレイを除くヤマト航空隊が防衛に回り、迫るガーディムや火星の後継者、そしてドラゴン達に迎撃する。

小型のドラゴン相手にショックカノンをはじめとした主砲を当てることは難しく、接近される前に機動兵器で倒すのが最善だ。

「ドラゴンのことはトビアから聞いていたが…まさか、ガンダムでモンスターと戦うことになるなんてな!!」

ビームザンバーでスクーナー級の大きな刃物のようになった翼を切り裂き、バルカンで胴体を撃ち抜く。

ドラゴンの返り血が装甲を汚し、灰熱処理と共に主に胸部や首、顔の装甲に付着した返り血を焼いていく。

血に濡れたその姿はまさにクロスボーン・ガンダムの名に似合う、血塗れのドクロと言えた。

「隊長、すみませんね。残弾が少ない。一度戻ります!」

「戻っている途中に撃ち落とされるなよ、篠原!ヤマト!!コスモ・ゼロの出撃準備はどうなっている!!」

「ゼロ2番機の出撃準備は完了している!カタパルトに搭載した!ツヴァルケとのエレメントだ!」

「ツヴァルケ…直せたみたいだな」

加藤の脳裏にスクラップ同然となったツヴァルケの姿と傷だらけになったメルダの姿が浮かぶ。

ヤマトを守るために火星の後継者と戦い続ける姿を見た今なら、加藤達はメルダを信じることができる。

口には出さないが、島も同じで、ツヴァルケの修理に使える資材がないか、アマテラスで探し回ってくれていた。

そして、EX178の生き残りのザルツ人兵士たちも元の世界へ戻るまでになる可能性は高いとはいえ、力を貸してくれている。

今のヤマトには地球とガミラスの垣根はない。

共に生きて帰るために団結していた。

 

-ヤマト 格納庫-

「ディッツ少尉、ご武運を!!」

ザルツ人整備兵たちに見送られる中、赤いツヴァルケが発進準備に入る。

彼らの敬礼したメルダは蘇った愛機の操縦桿を握る。

火星の後継者との戦闘が想定されているためか、両翼の30ミリ機関砲が実弾形式のものに換装されており、若干の機動力が犠牲となっている。

ただ、修理するには元の機体の性能以上にしようという整備兵たちの頑張りやブラックボックス状態で、唯一修理不能となっていたエンジン部分をコスモファルコンの予備のものと交換したことで若干出力が上昇している。

「メルダ・ディッツ、ツヴァルケ改、出るぞ!!」

投下されたツヴァルケがヤマトの前に出て、さっそくボソンジャンプで接近してきた積尸気の対艦ミサイルを機関砲で攻撃する。

発射シークエンスに入っていた対艦ミサイルが爆発し、それに巻き込まれた積尸気も粉々に吹き飛んでいく。

だが、ここにいるのは火星の後継者だけでなく、アールヤブが下部のコンテナをミサイル代わりに射出する。

その破壊力は実際に戦ったことのあるヤマトの面々にはわかっていることで、それはヤマトの1番砲台に向かっていた。

「玲!!」

「分かっているわ!!」

専用カタパルトから出撃済みの玲のコスモ・ゼロが圧縮ビームの機関砲と機銃で一斉射する。

耐久性の高いコンテナだが、地球側では最新鋭機と言えるコスモ・ゼロの一斉攻撃に耐え切れず、わずかにスパークした後で爆発した。

「アールヤブという奴は任せて!メルダは火星の後継者を!」

「分かった!!」

 

「うおおおお!!」

トビアのX3が地上のマジンをムラマサブラスターで両断する。

大型の実体剣を握るX3であれば、ディストーションフィールドで守られているマジンの堅牢な装甲に対抗することができる。

ただ、マジンを守る機動兵器も存在し、火星の後継者が持つGN-XⅢがGNビームライフルを撃ちながら接近してくる。

「くっ…!!」

左手のIフィールドを展開し、避け切れない分を受け止めるが、この混沌とした戦場では少しでも背後に隙ができると命取りになる。

アヘッドが背後に迫り、その手に握るGNビームライフルにエネルギーが収束されていく。

「しまった!!」

X3のIフィールドは背後まで守ることはできない。

通信機にノイズと共に古代の声が聞こえた気がしたが、その内容に集中することはできなかった。

だが、そのビームは放たれることがなく、上から飛んできたビームでGnビームライフルが撃ち抜かれ、爆発する。

「ビーム!どこから…というより!!」

ビームの出力で近いとしたらモビルスーツで、しかもバタラのもの。

メインカメラを上に向けると、そこにはダナンに搭載されていたと思われるドダイ改に膝を乗せる形で乗っているバタラの姿があった。

「トビア・アロナクス…」

「君は、確かエリン・シュナイダー…」

モニターに映る、航空隊のノーマルスーツで身を包んだ彼の姿。

キンケドゥが冥王星で捕虜にした木星帝国の少年兵。

彼の名前や身の上にことは尋問を行った星名から聞いている。

そんな彼がその時に鹵獲し、解析に回されたはずのバタラに乗ってどうしてここにいるのか。

「俺は許せない…。トビア・アロナクス。総統を殺して、姫様を…テテニス様の心を奪った貴様のことが」

木星のタカ派やドゥガチに縛られた人々からのクロスボーン・バンガードへの、特にトビアへの憎しみは相当なものだということはベルナデットから聞いている。

投降を拒否し、差し違える覚悟でキンケドゥの両目をえぐろうとしたのだから、自分たちへの不信感は根強いだろう。

「けれど、ここで殺しあったとしても、地球を滅ぼすことはできない…。総統の意思を叶えることはできない…」

ふつふつと燃え上がる感情を奥歯でかみ砕きながら、エリンは口を開く。

エリンの脳裏に浮かぶのはこの世界にある青々とした自然あふれる地球ではない。

ガミラスの攻撃により傷つき、静かに死の時を迎えようとしている地球だ。

ドゥガチが憎み、滅ぼそうと願った星とは違う。

「そして、俺が帰るためには…お前たちの力が必要だ…だから、今は、帰るまでの間だけは、力を…貸してやる」

噛み砕いた憎しみを唾と共に飲み込み、宣言し終えたエリンはドダイ改を加速させ、上空にいるコスモファルコン達の救援に回る。

(あいつ…)

背を向け、飛び去っていくバタラを見つめるトビアは呆けた様子を見せていた。

あれほど憎んでいた彼が思わぬアクシデントがあったとはいえ、一時的なものになるかもしれないとはいえ、憎しみを飲み込んで矛を収めた。

多くの木星帝国の兵士たちと戦い、妄執に囚われながら死んでいくのを2年前からずっと見続けていたトビアは内心、彼らを変えることをあきらめかけていた。

(人は…変わることができるのか…?)

「トビアさん!」

舞人からの通信が聞こえるとともにボソンジャンプしてきた積尸気がシグナルビームで撃ち抜かれる。

「舞人!?」

「何をやってるんですか!?まだ敵はいるんですよ!」

動輪剣を抜いたマイトガインがまだまだ地上に残っているマジンに斬りかかる。

まだまだ敵が残っている中で、今は感傷に浸っている場合ではない。

トビアは再びモニターに映る周囲の光景に気を配り、撃墜すべき相手にむけてX3を加速させた。

 

「くっ…」

「その程度か?天河アキト。時を重ね、闇と血を重ねてもなお、この程度…」

2機の戦いは続き、次第に旗色が見えてくる。

これまで1人で戦っていた時とは違い、北辰衆についてはリョーコ達に任せていることからアキトは北辰1人に集中することができる。

しかし、それでも北辰の技量は圧倒的だ。

彼の駆る夜天光もまた、北辰専用に仕上げられつつあった。

コクピット周辺にしか展開することのできなかったはずのディストーションフィールドが機体全体を覆えるようになったいる。

「ならば…今の貴様に決して越えられぬものがることを教えてやろう…抹消!」

「何…!?」

目の前の夜天光の赤いボディが徐々に消えていき、赤い大地と同化していく。

モニターにだけでなく、センサーも夜天光の反応が消失していった。

「馬鹿な…ミラージュコロイドだと…!?」

ユニウス条約によって軍事利用に制限がかかっているシステム以前に、アキトはそれが夜天光に使用できているという現実が衝撃だった。

3年前にユニオンが開発したブリッツのようなモビルスーツクラスが膨大な電力を使用しなければ使用できないはずのシステムだ。

その半分程度の大きさでしかない夜天光が百歩譲って使うことができたとしたら、短時間のものになるだろう。

だが、それでも北辰の技量と更に傀儡舞が組み合わさるとどうなるかは明らかだった。

「どこを見ている?」

「ぐっ…!!」

あいさつ代わりと言わんばかりに背後に現れた夜天光が錫杖でまずはブラックサレナのアンカー・クローを基部から斬り飛ばす。

反転したブラックサレナがディストーションフィールドを展開し、突撃しようとしたときには再び夜天光の姿が消え、むなしく空を切る。

更に今度は真下に現れた夜天光がディストーションフィールドを展開して突撃する。

「フハハハハハハハ!!!」

北辰の笑い声と共にコックピットを激しい衝撃が襲う。

展開しているディストーションフィールドのおかげで機体へのダメージは軽微だが、突き飛ばされたブラックサレナが回転しながら火星の地に転落する。

ディストーションフィールドが消えた状態で地面に激突し、警告音がコクピット内で響く。

「くそ…!ここまで来て…!!」

先ほどの激突によってバッテリーに不調が生じ、ディストーションフィールドの展開が不可能となってしまった。

ブラックサレナの最大の武器が封じられ、アンカークローも破壊されている。

残るハンドキャノンでは、夜天光を捉えることはできない。

「これまでのようだな、天河アキト。見てみろ、貴様が導いた者たちの末路を。見ろ、これが貴様が生み出した結果だ」

「これは…!!」

ブラックサレナのモニターに傷つく仲間たちの姿が映し出される。

おまけに再びシンギュラーが発生し、追加のドラゴン達がやってくる始末だ。

「無様だな、叢雲総司、如月千歳!!一度は俺を撤退させた貴様らの実力がこの程度だなんてなぁ!!」

「そんな…あのクローを封じても、これなの!?」

「キャップ!推進剤の残量残り30パーセントを切りました!レールガンの残弾ももう…!」

「くそったれがぁぁぁぁ!!」

腹の底から叫びながら、ソウジは迫るブラーマグにビーム砲を連射する。

しかし、今のブラーマグは機動力も反応速度もヴァングレイを上回っていて、有効打を与えることができない。

「ソウジさん、チトセさん!!くっそぉ!!」

ドラグーンと何度も遭遇してきたキラですら、2基のクローに苦戦していた。

ブラーマグから分離してからそれなりの時間が経過しているにもかかわらず、何度もライフルを受けたにもかかわらず、いまだに飛び続けており、反応速度も高い。

ソウジ達とのスピード勝負に集中しながらのこの制御に、彼の軍人の範疇を越える何かを感じずにはいられなかった。

「嘘!嘘!!なんで、なんで弾が出ないの!!」

何度も引き金を引いているにもかかわらず、バックパックのレールガンから発射されるはずの弾丸が出る気配がない。

既に弾切れになっており、アサルトライフルが残っているが、混乱するクリスにはそれを判断する余裕が残っていなかった。

周囲にはドラゴンや機動兵器が飛び回り、本来ならカバーに入るはずのヒルダも迫りくるスクーナー級たちへの対応に忙殺されていた。

そして、ヒルダ達を突破したスクーナー級が翼を刃にして襲い掛かる。

「キャアアアア!!」

「クリス!!」

済んでのところでジャスティスが駆けつけ、スクーナー級を蹴り飛ばすとビームライフルで撃ち抜く。

「アスラン様!!」

助けられたことに安堵するクリスだが、最悪な状況であることには変わりない。

数を増していくドラゴンに多くの機動兵器。

おまけにドラゴンと共に現れた機動兵器はアンジュに狙いを定めているようで、その機体の性能はヴィルキスを上回っている。

「ディストーションフィールド出力20パーセント低下!!ミサイル残弾残り38!艦長!!」

「トレミーがカバーしてくれています。まだ動けます」

冷静に答えるルリだが、彼女も今の好ましくない状況を覆す手段を出しあぐねていた。

せめて、囚われているユリカだけでも救い出して火星から離脱することだけでも成し遂げたい。

アキトの願いをかなえるためにも。

だが、それすら許されないのか、新たな事態が発生する。

「シンギュラー発生!また新しいドラゴン…いえ、これって!!モニターに拡大します!!」

シンギュラーによって乱れながらも、オモイカネが修正した映像が表示され、そこに映し出されたのは6機の黒いパラメイルの姿だった。

細かい部分までは見ることは難しいが、その姿はヴィルキスそっくりだった。

「これは…一体…」

 

「どうだ…また新たな混沌がやってきたぞ。もはや貴様らに乗り切る術はない。見届けるがいい、天河アキト。仲間たちの末路を…」

「…!!!」

また、あの惨劇が目の前で繰り返されるのか。

次々とテロリストの手にかかって死んでいく人々、実験台とされていき、心を壊され、死んでいくジャンパー達。

思えば、3年前の大戦でも、似たような悲劇と目の前に遭遇し、何もできなかったこと、そして自分たちの手で招いてしまったこともあった。

これ以上、そのような悲しみを繰り返させないために、ボロボロになった体に鞭を打ってリアクトシステムを手に入れ、ブラックサレナを使いこなし、木連式・柔を習得したにもかかわらず、今の自分はどうだ。

北辰1人を討つことができず、ユリカすら救い出すことができない。

「そうだ…貴様は何も変わっていない。今のお前は愛する者を救えなかった時のままだ」

まるで自分の心を見透かしたかのような北辰の言葉に唇をかみしめる。

「あきらめるな、アキト!!」

万丈の声が響くとともに、ダイターンジャベリンが北辰めがけて飛んでくる。

軽々とそれをよけた北辰はジャベリンを投げたダイターン3に目を向ける。

「我を追いかけてきた修羅がもう1人。この男の代わりに私を討つか?」

「本当であれば、そうしたい…。だが、貴様を殺すのはアキトの役目だ。アキト、まだ誰もあきらめていないぞ!君はもう、一人じゃないんだ!」

「万丈…」

 

「どうやら、これで終わりのようだな…。倒れて、もらう!!」

ビームサーベルでコックピットを貫くべく、一直線にブラーマグが突っ込んでくる。

「チトセちゃん、ナイン!!ヴァングレイの装甲と破損した武装をパージ!!」

「ええっ!?そんなことをしたら…」

「動ける最低限の武器と装甲が残ればいい!やれ!!」

「もう…どうなっても知りませんよ!!」

このまま座して死ぬよりも、何か抵抗した痕跡を残すべく、チトセは覚悟を決めてコンソールを操作する。

同時に、ヴァングレイの装甲が次々と排除されていき、吹き飛んだ装甲と武装が周囲に飛んでいく。

「装甲排除!?だが…!!」

今のスピードで少しでも飛んできた装甲をかすめたら機体が損傷する。

しかし、この程度の障害物は多く経験してきたこと。

スピードを緩めることなく、最適なコースを経験とデータから割り出して潜り抜けていく。

そして、肉薄しようとするヴァングレイにビームサーベルを突き立てようとしたが、その刃をビーム砲から展開したビームサーベルで受け流す。

更に、スラスターを全開にしてブラーマグに迫り、鍔迫り合いを演じる。

「やってくれるな…軽くしたことで、スピードだけでも、ブラーマグと互角に…!!」

しかし、ほとんどフレームのみの状態で最大稼働した場合の負荷は大きく、長時間の戦闘に耐えることはできない。

仮にブラーマグをそれで倒すことができたとしても、そこから後が続かないのは明白だ。

だが、今のソウジにとってはそれで十分だった。

「うおおおおお!!」

「いいぜ、いいスピードだ!!」

ブラーマグとヴァングレイのビームがぶつかり合い、距離を置くのを繰り返す。

今のヴァングレイのスピードでは、ビーム砲での攻撃は無意味だと考えているのか、ブラーマグはビーム砲を撃つ気配はなく、ビームサーベルを展開し続けている。

再びぶつかり合おうとする中、急にビーム砲のビームサーベルが消え、それすらも強制排除される。

そして、より自由になった両腕を伸ばし、ブラーマグの両腕をつかんだ。

「ヘッ、だがこれでどちらも…」

「いいや…動きが少しでも止まれば、俺たちの…勝ちだぁ!!」

「何!?」

真上へ飛んだビーム砲を強制排除されていなかったサブアームがつかみ、砲口がブラーマグに向けられる。

そして、残されたエネルギーを充填して、ブラーマグに撃ち込まれた。

貫かれたブラーマグのビームサーベルが消え、ヴァングレイが両腕を離すとゆっくりと地上へと落ちていく。

「おい…てめえら…」

「ハア、ハア、ハア…なんだよ…」

疲れ果て、ヴァングレイもダメージが大きかったためか地上へ降りるとブラーマグから音声のみの通信が流れる。

「いい…スピード、だったぜ…」

通信が途絶するとともに、ブラーマグが爆発する。

ヴァングレイもまた、フレームのみでの最大稼働のツケが回ったのか、各部から警告が発するとともに、サブアームが握っていたビーム砲が地面に落ちる。

ブラーマグをたおしたとはいえ、それを脅威と判断したアールヤブや火星の後継者の機動兵器たちが押し寄せてくる。

両者にとっての脅威であるヴァングレイはいま、動けなくなっている。

倒せるとしたら今を逃してはならない。

暗黙の了解のように双方は銃を向けあうことなく、相手はヴァングレイに集中する。

「くそ…うごけねえか…。ナイン、チトセちゃん!どうなんだ!!」

「だめです…。動きません」

「キャップ、姉さん…」

「できれば、やりたくないけどな…」

ソウジが目を向けたのは操縦桿下に隠されているテンキーだ。

ナインから聞いてことで、これがヴァングレイの自爆装置だ。

最悪これを使って周囲の敵部隊を道連れにすることはできる。

しかし、それにチトセを巻き込むわけにはいかない。

それに、チトセは脱出を拒否するかもしれない。

(何か手があるはずだ…俺たちが無事に出られる手段が…!)

「…なに??声…??」

「どうした、チトセちゃん。またニュータイプの…うん??」

(…ト…守…る…)

通信機からではない、直接脳から声が聞こえてくる感じがした。

最初はチトセしか聞こえなかったが、ソウジにも聞こえてくる。

「女の子の声か…?」

「キャップ、姉さん。どうしたんですか?声なんて聞こえませんよ?」

「ううん、ナイン。聞こえる…聞こえるのよ。女の人の声が!!」

 

「ちぃ…」

北辰の脳裏にも声が聞こえ始め、その声に北辰は珍しく舌打ちする。

一方のアキトはその声に唇を震わせる。

「ユリ…カ…」

もう長い間聞いていないが、聞き間違えるはずがない。

その声はアキトの最愛の女性であるユリカの声だ。

急に視界がコクピットの中から青く光る宇宙へと変わっていき、目の前に青い髪の女性の白い幻影が現れる。

その幻影が両腕を伸ばし、アキトの頬に触れる。

(アキト…私のことをいっぱい守ってくれた…。いっぱい、愛してくれた…。だから、今度は私の番)

「ユリカ…」

(アキトは…私が守るから…)

「ユリカ…待て!?」

急にユリカの幻影が離れていき、立ち上がったアキトが手を伸ばす。

しかし、間近までいたはずのユリカはもう既に遠くに離れており、どんなに伸ばしても届かない。

離れていくユリカのそれでも伸ばそうとするアキトの手。

もう合わせる顔がないと思っていたのに、今の自分はそんな自分をあざ笑うだろうが、今はそんなことは関係なかった。

(大丈夫…泣かないで、アキト。私たちは…必ずまた会えるから…)

「ユリカーーーーー!!!」

一気に視界が冷たいコクピットの中へ戻っていき、それと同時にモニターに映る景色がゆがみ始める。

「これは…なんだ!?」

ビームライフルでアールヤブを牽制するアムロもまた、景色のゆがみと共に何かの思念を感じ取る。

いや、感じ取っているのはνガンダムのサイコフレームであり、それをアムロが認知したに過ぎないのだろう。

その思念と共鳴するかのように、νガンダムの機体各部から緑色の粒子が発生する。

「これは…何だ?ラムダ・ドライバが…!?」

宗介も何か敵意のないものが放たれたと感じると同時に、なぜか動き出すラムダ・ドライバに動揺する。

「これは…アムロ大尉のサイコ・フレームがアキトとユリカ艦長をつなげているのか…!?」

刹那のイノベイターとしての感性がそれが引き起こす事態を訴えるが、その意味を言葉にできず、何が起こるのかすら理解できない。

それを理解できる唯一の人物が、ユリカが眠る演算ユニットの前にいた。

「おお…今、御統ユリカと演算ユニットが完全に一つになる!!」

山崎の言葉通り、演算ユニットが発する波動がサイコ・フレームとラムダ・ドライバによって増幅されていく。

そして、青い波動がそこを中心に広がっていく。

「なんだ…この光は?」

波動を受けた機動兵器たちが次々と機能停止していき、地上へと転落していく。

ドラゴン達もまた、波動を受けたと同時に強烈な睡魔を覚えたのか、眠ってしまう。

そして、夜天光の前に力尽きていたブラックサレナが青い光の粒子となって消えていく。

それはソウジ達も同じだった。

(くそ…何が起こっているんだ??俺たちは…どうなっちまうんだ…!?)

光に包まれ、体の力が抜けていくのを感じる中、チトセ達の安否を気にしながらソウジはその疑問を手放すことができなかった。

 

-プラント アプリリウス市 ラクス・クライン執務室-

「お久しぶりです…ラクス姫」

ノックの後で執務室に入って来た茶髪の青年をラクスは自ら入れたお茶でもてなす。

彼を連れてきたバルドフェルドは席を外しており、今この執務室にいるのは彼女と彼だけだ。

「ようやく、お会いできましたね。しかし、その呼び方はやめてください。父であるシーゲル・クラインが暗殺されたことで、私は継承者としての教育を受けていませんから。あなた方のことはデータで見ていましたが…」

プラントへ戻り、議員としての執務をこなす中、ラクスはオーブにいるカガリと共にそれぞれの父が残したエリアDのデータを確認していた。

万が一に備えて暗号化された上に、各地にばらまかれていて、回収と解読に時間はかかったが、それでもある程度のことを知ることができた。

継承者のこと、タスクのこと、エリアDのこと。

知ったからこそ、ラクスはこうしてタスクと会うことができたことを嬉しく思っている。

「決心するまで、時間がかかってしまいましたけどね。でも、俺も最後の一人としての使命を果たすつもりです」

「ヴィルキスが目覚めたから?」

「それもあります。でも、一番の理由は守るべき人を見つけたからです」

「ヴィルキスという力とあなたの想い…それが一つとなるのですね…」

想いだけでも、力だけでも何も変えることができない。

そのことはこれまでの戦いで嫌というほど痛感している。

そして、目の前の彼はその2つを手にし、使命を果たそうとする。

だとすれば、たとえ継承者としての教育を受けていないとしても、彼らを助けて、その行く末を見届ける。

それがシーゲルへの弔いとなることを信じて。

そんな中、急に扉が開くとともにダコスタが入ってくる。

「し、失礼します!ラクス様!火星が…」

「火星…キラが…!?」

 

-神聖ミスルギ皇国 皇宮内-

「…ここに来る前、プラントのラクスから連絡がありました」

「何と?」

「ナデシコとソレスタルビーイングは火星の後継者の本陣を討つべく、火星へ向かったと…」

窓から外の景色を見つめる、白いオーブの軍服に身を包んだ金髪の少女に緑色のソファに腰掛ける、青い中東系の王族用の民族衣装で身を包んだ黒いロングヘアーの女性が見つめる。

金髪の少女が今のオーブの首長であるカガリ・ユラ・アスハであり、黒髪の女性がアザディスタン王国女王のマリナ・イスマイール。

2人とも、2度の大戦の中で数奇な運命をたどった女性であり、火星へ向かう部隊にそれぞれが身を案じる異性が存在する者同士だ。

ただし、カガリは直情的であり、思慮深く、争いを好まないマリナとは正反対だ。

2人は1年前の大戦後の首脳会談の中で知り合い、互いに国の存亡を担う女性であること、戦い以外で解決する手段を模索する者であることから意気投合し、年齢を超えた友人関係となっている。

「これで…戦いは終わるのでしょうか?」

「マリナ様…」

確かに、火星の後継者を討つことでもう1度平和は戻るかもしれない。

しかし、まだまだ世界は混迷の中にあり、火星の後継者はその中の一部に過ぎない。

力で押さえつけたとしても、第2第3の火星の後継者が生まれることもあり得る。

3年前なら、きっと戦うなと言っただろう。

「私は…戦いを否定していますが、戦うことで平和を守ろうとする人々を否定するつもりはありません」

彼女の脳裏に、刹那の姿が浮かぶ。

3年前、スコットランドで同じ国の人間であると自分が勘違いして声をかけてしまったのがきっかけで出会った。

そこで、刹那が今はアザディスタンに併合されているクルジス出身の少年兵であったこと、そしてソレスタルビーイングのガンダムマイスターであることを知った。

だが、彼が戦うのは私欲ではなく、世界をより良い方向へ変えるために戦っていて、そして罰を受ける覚悟があることを知った。

今、マリナの手がきれいなままなのは刹那のように平和を守るために戦う人がいるからこそ。

今ならそう思える。

「私も同じ考えです。私たちは私たちのやり方で平和へ向けて進みましょう」

一度は銃を手にしたカガリだが、戦いの中で自分にしかできない役目があることを知った。

だから今はモビルスーツではなく、重苦しい政治家の椅子で戦っている。

それが今この瞬間にも戦い続けている彼らへの精一杯の礼儀だ。

「そのためにも、ジュリオ陛下との会談をなんとしても成功させなければなりません」

2人がここに来たのは先代皇帝の処刑の真意を問いただすだけではない。

カガリが手に入れたデータの中にあったノーマとドラゴン、そしてアルゼナルの存在。

その謎を突き止めるために、危険を承知でここにいる。

得体のしれない彼らとの接触は当然、反対する人間もいた。

元カタロンで地球連合政府議員であるクラウス・クラードや彼の妻であり、マリナの親友であるシーリン・バフティヤールはもちろん、オーブ五大氏族の1つであるサハク家当主のロンド・ミナ・サハクからも反対されると同時に警告された。

だが、虎穴にいらずんば虎児を得ずという言葉もあるように、誰かが入り込まなければ手に入らないものもある。

そして、2人はなんとしてもこの虎の胃袋から何かを手に入れなければならない。

「お待たせいたしました」

ノックもせずに、クリーム色の制服で身を包んだ青年が入ってくる。

彼の顔を見た瞬間、カガリとマリナは警戒するような眼で彼を見つめる。

事前情報で見た写真にあったジュリオとは全く違う容姿であり、おまけにそれはよく知っている男だ。

薄い水色の髪と眼をした病的なまでに白い肌をした彼は薄紫の薄い唇を釣り上げ、笑みを浮かべる。

「ロード・ジブリール!!なぜ、お前がそこにいる!?」

1年前の大戦でヨーロッパを焼き、プラントを撃ち、あまたの犠牲者を生み出したロゴス当主であり、ダイダロス基地で死んだはずの彼がなぜいるのか?

そして、なぜこの始祖連合国にいるのか?

大きな疑問を浮かべる2人をジブリールは笑いながら見つめる。

「私は生き延びたのですよ。そして、ここにいるのはジュリオ陛下の代理人」

「代理人…?」

「まさか、始祖連合国はロゴスのバックにいたというのか!?」

「ロゴス…?そんな些細なものにこだわっていていいのですかな?」

「何!?」

ロゴス当主として、多くの罪深い所業を重ねてきた癖にどうでもいいように話すジブリールへの怒りに、カガリは拳を震わせる。

だが、たとえ彼をここで殴ったとしても何の問題の解決にもならず、彼のペースに乗せられてしまう。

どうにか深呼吸をし、手の力を抜いて落ち着かせる。

「それより、いいのですかな?今、報告が入ったのですが、火星極冠遺跡で原因不明の爆発が起こったとか…」

「何!?」

「レディが大声をあげるのはあまり好ましくないな」

ジブリールに続くように、黒い礼服に身を包んだ、薄金色のロングヘアーで長身の男性が入ってくる。

ジブリールは彼に頭を下げた後で引きさがる。

「あなたは…?」

始祖連合国の関係者であることは確かだろうが、彼についてのデータはない。

しかし、彼から得体のしれない何かを感じた2人は身構える。

「お初にお目にかかる。私はエンブリヲ。世界の調律者だ」




武装名:2連装クロービット
ブラーマグの両腰に追加装備されていた武装。
ヴェーダのデータ内にあるザフトのNジャマーキャンセラー搭載型試作モビルスーツであるドレッドノートが装備していたプリスティスに近い形をしているものの、26メートルもの大きさを誇るブラーマグに合わせるかのように大型化している。
プリスティスと同じく、エネルギー供給用のケーブルが接続された状態で射出され、切断されたとしてもコントロールすることが可能。
また、GNファングやGNソードビットと同じくビームクロー、または実体クローで攻撃することも可能であり、それに合わせてユニットそのものも強固な設計となっており、少なくともビームライフルを1発受けたとしても持ちこたえる。
そのような兵装をグーリーが使用できることから、彼がニュータイプやイノベイターのような空間認識能力を持っているかガーディムがそれなしでも動かせるオールレンジ兵器を作り出す技術を持っているかのどちらかになるが、チトセがそれから思念を感じ取ることができなかったことから、後者の可能性が高い。

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