スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

40 / 65
機体名:ユーチャリス
分類:ナデシコ級第2世代試作宇宙戦艦
建造:ネルガル
乗員:1名(ラピス・ラズリの搭乗が前提)
武装:4連装グラビティブラスト、ディストーションフィールド
主なパイロット:ラピス・ラズリ

ネルガルが試作した第2世代の試作宇宙戦艦。
星野ルリと同じく、遺伝子操作を受けた少女であるラピス・ラズリがメインコンピュータと連携して単独で制御し、更に戦艦単体でのボソンジャンプを可能にすることを前提とした設計となっている。
そのため、艦内には彼女と彼女と行動を共にする天河アキトの2名しかおらず、食事や整備はすべて小型のバッタが行う。



第40話 伝説との遭遇

-ターミナルコロニー アマテラス宙域-

「敵はSフィールドから一直線に攻撃を仕掛けているが、やっぱりほかのフィールドは平和だなぁ」

「そりゃあ、相手がナデシコとはいえ、数は少数で、こちらは機動兵器だけでも3桁だぜ?俺らがさぼったって問題ないって」

Wフィールドの警備を行う積尸気のパイロット2人が接触回線で無駄話をする。

2人とも、3年前の大戦の後で木連から地球へ出向し、地球連合軍の中で任務に就いていた。

あの戦いの後で、地球と木連が和解したということにはなっているが、個人個人や組織そのものが100%和解できたという意味にはならない。

木連の無人兵器による火星居住区や地球上の都市への攻撃で大切な人を亡くした人も当然存在し、そうした人々は木連の人間に対して白い目を向けていた。

彼らがついていた月面基地再建の際にも、地球出身の連邦兵からいじめを受け、上官に何度も訴えたが、無視された。

そのことが受け入れることができず、火星の後継者に加わったものの、正直に言うと今の状況を作った張本人と言える草壁も気に入らない。

ただ、いじめを受けず、多くの同郷の人間と一緒にいられるだけましだ。

「にしても、どうやってあんなデカい戦艦を用意したんだ?草壁中将にそれを手に入れる力があるなんて思えないけどなぁ」

「クリムゾングループがいいスポンサーだけど、あれだけじゃあなぁ」

ただの軍人であり、軍の予算について詳しい立場ではないが、それでもドロス1隻を建造するのに莫大な費用と資材が必要で、維持するのも容易ではないことは知っている。

クリムゾングループ以外で頭に浮かぶものがあるとしたら、国家レベルで支援しているという始祖連合国だ。

その国の存在を知ったのはごく最近で、味方とはいうものの得体のしれない連中で、油断がならない。

「おい、何をしゃべっている?黙って警備をしろ!」

2機が接触回線を開いているのを見た指揮官機の積尸気が接近し、通信に割り込む。

この隊長に見られた後が面倒くさいため、仕方なく元の位置へ戻ろうと思った矢先、センサーが動きを見せる。

「熱源…?これは、ミサ…!!」

反応の正体に気付いた時にはもう遅く、飛んでくるミサイルの雨に巻き込まれた積尸気がディストーションフィールドを展開することも、ボソンジャンプを発動することもできずに爆散する。

そして、積尸気であった残骸を黒いモビルアーマーが通過していった。

「積尸気2機の反応ロスト!モビルアーマー接近しています!!!」

「Wフィールドから!?まさか、ナデシコがそっちにいるということはないだろうな??」

Nフィールドから届いた情報にはソレスタルビーイングと正体不明の潜水艦による部隊はいるものの、ナデシコやエステバリスの姿はなかったという。

そして、Wフィールドから接近してくるモビルアーマー。

底から思い浮かぶものがあるとしたら、それ以外にはない。

「俺たちであのモビルアーマーを止めるぞ!残りはその先にいるナデシコをつぶせ!!」

「了解!!」

マジンと積尸気、バッタの軍団が一直線にドロスへ向かうモビルアーマー、ヴァングレイへと向かう。

ヴァングレイのコックピットの中では、次々と拾う機動兵器やミサイルの反応のひとつひとつをチトセとナインが対応する。

「後方からバッタ4機が接近、ミサイルが来ます!」

「ガトリングで迎撃だ!正面は…俺がやる!!」

「はい、これで…!」

ナインのサポートを得ているとはいえ、ありったけの武装と増加装甲を取り付けた今のヴァングレイの複雑化した火器管制は経験の少ないチトセにとっては負担の大きいものだ。

サバーニャがその問題を解決するために、ハロをもう1機増やしたように、何か軽減の方法がないものかと考えてしまうが、今の状況ではないものねだりだ。

2基のガトリングが後方に向き、弾丸の雨を放つ。

ナインによる照準補正のおかげで多くのミサイルをバッタもろとも破壊できたものの、うち漏らしたミサイルがヴァングレイに命中し、コックピット内に衝撃が走る。

「損傷は軽い!プロペラント・タンクがぶっ壊されなかっただけでもましだ!」

まだまだタンクの中の推進剤は尽きていない。

ここからドロスまでの距離を考えると、まだ強制排除するには早すぎる。

「突破するぞ!!」

倒しても倒しても、次から次へと機動兵器がやってきて、ヴァングレイをつぶそうとする。

そして、残った部隊はナデシコがいると思われるWフィールドの先の暗礁地帯へと足を踏み入れる。

「反応がない。Nジャマーも、GN粒子も使ってないだろう!?」

この中に隠れているはずのナデシコの姿がなく、他の機体にも通信するが、発見したという連絡は一つもない。

「一体どこにいるんだ…ナデシコは…!?これは!!」

ボース反応を拾った瞬間、後方から飛んできたミサイルの直撃を受ける形で積尸気が爆散する。

いきなり仲間が撃墜され、マジンと積尸気はディストーションフィールドをいつでも展開できるようにしたうえで周囲を警戒する。

「何かがいる…!何かが…!」

「こ、こちらゲイル1!黒い…黒い機動兵器が、うわあああ!!!」

「や、奴だ!奴がここに…ガハァ!!」

「どうした!?応答、応答しろ!!」

次々とロストしていく味方機にマジンのパイロットが動揺する。

彼らが最期に言った『奴』はおそらく、彼しかいない。

冷たい汗が流れるのを肌で感じつつ、センサーの反応に最大限の注意を払う。

(『奴』だ…。『奴』が来る!あの復讐鬼…が…!!)

その瞬間、彼の意識がブラックアウトする。

彼がいた場所にはマジンの残骸が漂っていた。

 

-ターミナルコロニー アマテラス宙域-

「なんだよ!ちょこまかとどんどん数で来やがってぇ!!」

2連装キャノン砲の最後の2発を発射したロザリーはそれで撃墜した積尸気に気をかけることなく接近し、攻撃を仕掛けてくるマジンと積尸気を前に翻弄される。

ドラゴンとの戦いには慣れてはいるものの、十倍単位の機動兵器を前に戦うことはまれだ。

アサルトライフルそのものの弾数は残っているものの、最大火力のキャノン砲が使えないのは痛い。

「ロザリー、補給に下がれ!クリスはまだいけるな!」

「え、ええっと…あ、あと十分くらいなら…」

モニターに表示される残弾数とこれまでの消耗からつぶやくクリスだが、その十分すら持つかどうか気がかりだ。

前衛を買って出ているヒルダのグレイブは何か所か被弾しており、既に凍結バレットも品切れだ。

「穴埋めなら任せてくれ、お嬢さんたち!」

宇宙専用装備のガーンズバックがアサルトライフルでロザリーを狙う積尸気の牽制を行う。

助けられる相手がよりによってクルツだということにいら立ちを覚えるロザリーだが、背に腹は代えられない事情がある。

「くそ…恩に着るぜ!」

「あとでデート、頼むぜ?」

「誰がするか!!」

トゥアハー・デ・ダナンが収容のためにハッチを開き、そのそばでMk-Ⅱと百式が直掩をしていた。

敵の数は圧倒しているものの、パイロットと機体の質と練度ではばらつきがあるとはいえ、こちらが上回っている。

だが、無尽蔵に飛んでくる機動兵器たちをこのまま放置しているわけにはいかない。

トレミーでガンダムの指揮を執るスメラギも時間経過が敗北へのカウントダウンであることを理解していた。

(ヴァングレイの側面攻撃…やはり、相手の数が多い以上時間がかかるわね)

守りが比較的薄いWフィールドからの攻撃をもっても、ヴァングレイの進撃が鈍い。

ドロスを落とすにはヴァングレイが不可欠だ。

(頼むわよ…ソウジさん、チトセ)

 

「タンクを外せ、チトセちゃん!!もう燃料はわずかしか残っちゃいねえ!」

「は、はい!!」

燃料残り10パーセントとなったプロペラントタンクを切り離すとともに、残りはわずかのガトリングの弾丸を撃ち込む。

中の燃料に引火するとともに爆発が起こり、ヴァングレイを正面から攻撃しようとした敵機動兵器の目をつぶす。

機体制御をチトセとナインに任せ、ただひたすらに前へと突き進む。

やがて、本丸であるドロスとそれが守護するアマテラスが対艦ビーム砲の射程内に入る。

側面からグラビティブラストとアサルトライフルの弾丸が飛んできて、装甲や弾切れとなり、強制排除されたガトリング砲をかすめる。

「ソウジさん!敵機の攻撃が…!!」

「この一発目の攻撃に集中する!ナインは照準を!!」

「…分かり、ました!」

ナインの照準補正になり、対艦ビーム砲のターゲットが左コンテナに向けられる。

ヤマトがいて、ターミナルコロニーであるアマテラスを傷つけるわけにはいかない以上、爆発を起こすわけにはいかない。

コンテナを破壊するなどして、無力化していくしかない。

「…!!ソウジさん、真上に!」

「何!」

チトセの叫びの直後で、モニターには真上にいるマジンの姿が映し出される。

既にグラビティブラスト発射の準備を終えており、本体を直接狙おうとしている。

「貴様ら…よくも我が同胞たちを!!」

マジンのパイロットは地球でもヴァングレイと戦ったことがある。

どこから来たのかわからないその機体のために多くの仲間が死んだ。

彼らの仇をこの一撃で討つ。

ヴァングレイは既に対艦ビーム砲の発射状態に入っており、真上を攻撃できる兵装がないため、反撃できない。

勝利を確信したそのパイロットは引き金を引く指に力を籠める。

この一撃が敵を敗北させ、仲間たちの供養となることを願って。

だが、次に伝わった感触は引き金を引くそれではなく、コックピットに伝わる激しい振動だった。

「何だ!?これは…ボース粒子反応!まさか!!」

数分前、暗礁地帯を探っていた味方機がロストしたという連絡が入っている。

最後の通信に聞こえた『奴』という言葉、火星の後継者が最も恐れている呪われた花。

その姿が粒子と共に現れたそれは高機動ユニットを搭載し、黒というよりも紫をベースとした姿となっていた。

現れた瞬間、ベルトマガジンのように巻きつけられた大型ミサイルが飛んできて、そのうちの2発がマジンの両腕をもぎ取り、ボース反応を感知して駆けつけた味方のバッタ3機が爆発に巻き込まれて消滅する。

そして、高機動ユニットが強制排除されるとともに、その中に隠されたブラックサレナが姿を現した。

「こいつは…ブラックサレナ!」

「あれがソウジさんとナインが言っていた…」

「キャップ、姉さん!」

「おっと…そうだったな!いけぇ!!」

チャージを終えた対艦ビーム砲から大出力のビームが発射され、ドロスの左コンテナを襲う。

戦艦の主砲に匹敵する火力のビームが装甲を焼くが、大出力のフェイズシフト装甲が受け止め続ける。

大きく装甲の表面が焼けたが、それ以上の損傷は見受けられなかった。

「最大出力でもこれか…だったら!!」

対艦ビーム砲でも駄目だとしたら、残されたのはハイメガキャノン砲のみ。

出力では最大だが、1発しか撃てない代物。

装甲の表面を焼く程度では、フェイズシフト装甲の防御を低下させることはできない。

しかし、最大出力のハイメガキャノン砲を至近距離から浴びせることができれば。

少しでも多くのエネルギーをそちらにそちらにひきつけることができたら。

ただ、思案している間にもドロスを守るべく機動兵器が集結する。

中には積尸気などの木連由来のもの以外にも、メガソニック8823や赤く塗装されたGN-Xといった機体もいた。

少しでもバランスを崩すことができればいい。

フェイズシフトの守りを信じて、機動兵器たちが不気味な静止をするヴァングレイに向けて発砲する。

しかし、ビームライフルを撃とうとしたGN-XのGNビームライフルがブラックサレナのハンドカノンの連射を受けて破壊され、一部の敵機の注意がブラックサレナに向けられる。

「そうだ…俺を追って来い。あとは…」

こちらへ飛んでくるビームをディストーションフィールドで抑え、バズーカを装備したGN-Xに向けて突撃していく。

「ソウジさん…今です!!」

「頼むぜ、ハイメガキャノン!!」

たった1発の切り札がほぼゼロ距離から発射される。

大出力のビームがフェイズシフト装甲を破城槌のごとく力強く叩いた。

「…!スメラギさん、ハイメガキャノン発射、確認しました!」

「さあ、ここからよ!刹那、ティエリア!」

「了解、トランザム!!」

「トランザム、起動!」

スメラギの通信を聞き、2機のガンダムが一斉にトランザムを起動する。

ダブルオークアンタがGNバスターライフルを、ラファエルガンダムがGNビッグキャノンの発射体勢に入る。

「乱戦中に火力を使うだと…正気か!?うおお!!」

隙を見せる2機のガンダムを攻撃しようとしたメガソニック8823だが、ライフルもろとも右腕をGNシザービットで切り裂かれた挙句、メインカメラがビームで撃ち抜かれる。

「刹那とティエリアの邪魔はさせない、キラ、アスラン!」

「いけるね、アスラン」

「ああ…任せろ!」

GNシザービットとスーパードラグーン、そしてブレイドドラグーンが飛び交い、2機のガンダムを狙う敵機に容赦なく刃とビームを放つ。

やがて、出力調整が終わると同時に大出力のビームが2発同時にドロスに向けて発射される。

進路上の火星の後継者の機動兵器を薙ぎ払い、ビームがドロスのフェイズシフト装甲に命中する。

ハイメガキャノンだけでなく、GNバスターライフルとGNビックキャノンまでも受けることとなったドロスだが、強靭なフェイズシフト装甲は健在であり、なおも受け止め続けている。

「そう…受け止める。これだけの火力でも、ドロスは落ちない」

スメラギの脳裏に浮かぶのは3年前の大戦でザフトが使用した史上最悪の大量殺戮兵器であるジェネシスだ。

その兵器もまた、膨大なエネルギー供給を受けたフェイズシフト装甲によって、複数の戦艦による主砲の攻撃でもダメージを与えることができなかった。

しかし、相手は巨大とはいえ戦艦であり、ダメージを防ぐために大量のエネルギーを消耗する。

ヴェーダを使った計算が正しければ、活路が開く。

「おのれ…!性懲りもなく火力をぶつけて…」

「このままフェイズシフト装甲へのエネルギー供給を続けると、エネルギー切れを起こします!!」

「まずいな…奴らの機体の中には…」

北辰衆からの情報にある異世界からのモビルスーツ、ZZには今ドロスを至近距離から攻撃しているヴァングレイと同じくハイメガキャノンという大出力のビーム砲を装備しているらしい。

ここで更にその攻撃まで受けたら、エネルギー切れする上に撃沈してしまう可能性がある。

しかし、ドロスはアマテラスのすぐそばにあり、爆発を起こした場合、アマテラスの中にいるヤマトなどを巻き込む危険性もある。

相手がそんなリスクを冒すとは思えない。

それに、エネルギー切れを起こしたとしても、ドロスには核融合炉が搭載されている。

この世界では実現していないはずの、Nジャマーキャンセラーを無視できる理想の核エンジンがあれば、ほんのわずかの時間で最低限フェイズシフト装甲を維持できる。

勝利は火星の後継者の物だ。

(僕たちのやるべきことはやった…あとは)

 

「ターゲットはOK、重苦しい武器だな。こいつは…」

戦域から離れた空間で、1機だけ残されたサバーニャが大型GNコンデンサーが内蔵された、身の丈の倍以上の長さと大きさを誇る狙撃銃を手にする。

3年前の大戦の際に起こったコロニー落下事故の際にソレスタルビーイングが使用し、地表からの狙撃でコロニーの一部を撃ち抜き、軽量化させたことによって人命救助を行った実績のある武器だ。

出撃前にスメラギから言われた役目を反復する。

「核融合炉だろうと核分裂炉だろうと、短時間で考えるとエネルギーには必ず限りがある。フェイズシフトダウンを起こしてから、復帰までの数秒間でブリッジをこいつで狙い撃て。タイミングはアニューが指示を出す…ったく、俺は兄さんじゃないっての」

明らかに今は亡きニールの役割を、1年前にアロウズが所有していた巨大自由電子レーザー掃射装置メメントモリの電磁場光共振部を狙撃するという高難度ミッションをまたさせるスメラギの無茶ぶりにため息をつくとともに、そんな無茶ぶりに付き合い続けたニールに同情してしまう。

「ライル、まもなくカウントダウンが始まるわ。もうすぐ、ドロスのフェイズシフト装甲が無力化する。そのときに…」

水色をベースとした塗装に変更され、狙撃銃のコンデンサーとケーブルで接続しているGNアーチャーの中で、ノーマルスーツ姿のアニューがスメラギの連絡を待つとともに、頭部に追加されたバイザー型の望遠カメラでドロスの状況をモニタリングする。

「ああ、わかっている。こいつを一発狙い撃つ。艦橋を直接…だな」

狙撃銃に込められているのは炸薬のない通常弾頭で、計算上は命中したとしても爆発は起こらない。

これで指揮系統を混乱させ、砲台をつぶすことで無力化する。

指揮系統を失い、混乱することを利用して第2ステップに入る。

「はあ、はあ、はあ…」

メメントモリ以来の狙撃の緊張感を覚え、同時にかつてニールとやった競技銃の練習を思い出す。

あの時は優秀なニールに負けてばかりで、それが嫌になって、ニールがやっていない早撃ちと乱れ撃ちを始めた。

サバーニャが完成し、乱れ撃ちメインの機体となったことでもう狙撃をメインでやることはないだろうと思っていたが、まさかこんなに早くその機会が訪れるとは思わなかった。

最も、成層圏の狙撃手という意味である、そのコードネームが変更されない限りはまだまだこうした役目が来るかもしれない。

「大丈夫よ、ライル…。あなたなら」

「アニュー…ああ…」

「…!ライル!」

「わかっている!そろそろだろう!!」

GNアーチャーのモニターにフェイズシフトダウンするドロスの様子が映る。

同時に、サバーニャのモニターではカウントダウンが始まる。

(与えられた時間は10秒…か…)

GNアーチャーのサポートもあり、照準は合わさっており、あとは引き金を引くだけだ。

テレサとスメラギ、そしてキラの計算上、核融合炉を搭載したドロスのフェイズシフトが回復するまでの時間はわずか10秒。

その間に、無防備な艦橋を狙い撃つ。

機動兵器たちはドロスに一番近いブラックサレナとヴァングレイを追い払うべく、そちらにくぎ付けになる。

ハイメガキャノンを撃ち、冷却と強制排除を始めるヴァングレイは少しの間、動くことができない。

「キャアア!!」

「被弾しました!重装フルアーマーパージを始めます!」

「頼んだぜ…ロックオン!!!」

「ライル!」

「狙い撃つぜぇ!!」

叫びとともに引き金を引き、狙撃銃から弾頭が発射される。

その間にもカウントダウンは続き、カウントダウン終了した後でその弾頭が命中したとしても意味がない。

乾坤一擲の一発は一直線にドロスへと向かう。

「黒いモビルスーツと『奴』に部隊を回せ!ナデシコはどこにいるのかはまだ…」

「か…艦長ぉ!!」

「どうした!?これは…!!」

一直線に飛んでくる弾丸が肉眼で見た瞬間、スローモーションで映り始める。

弾丸に気づいた機動兵器もいるが、高速で発射されたその弾丸を打ち落とすことはかなわず、グラビティブラストを進路上に発射するマジンもいるが、発射までのタイムラグのせいで間に合わない。

無敵と信じていたドロスが、ソレスタルビーイングとナデシコをつぶすための艦がこのような形で敗れることなど、信じることができない。

新庄は死を待つかのように、先ほどとは打って変わって落ち着いた様子で艦長席に腰掛ける。

目を閉じ、脳裏に浮かんだのはこのドロスを受領したときの光景だ。

サングラスをかけ、黒いシルクハットとスーツ姿の男が通信機替わりに見せられたノートパソコンの画面。

そこにはただ『X』と大きく書かれているだけで、そこから聞こえたのは青年の声だった。

(正体をさらさぬ奴を信用してはならない…か…)

おそらく、自分たちはその支援者に利用されているだけなのかもしれない。

尊敬する草壁ですらも。

(お気を付けください…あの男に…)

届かぬメッセージを草壁に伝えると同時に弾丸は艦橋を貫いた。

艦橋で小さな爆発が起こり、その光景はトレミーのモニターに映る。

「これで指揮系統は混乱する。今よ…ナデシコ!!」

ドロスとアマテラスの背後でボース粒子が発生し、その中からナデシコとダイターン3が姿を現す。

「なんだ!?なぜナデシコがボソンジャンプを…!?」

「もうA級ジャンパーは奴らの中には…うおお!!」

動揺するマジンがダイターン3のザンバーで両断させる。

確かに、彼らの知る限りのネルガルにいるA級ジャンパーは今この場にいるアキト以外は全員ここにはいない。

しかし、仮に確認できていないだけで正体がA級ジャンパーである人物がいるとしたなら、話は変わってくる。

「…成功してくれて、よかったよ。火星生まれであることがこんな形で役に立つなんてね」

成功するとは思っておらず、仮に暁のプレゼントである小型ボソンジャンプトランスミッターがなければ、調整することができずにどこかへ飛んでしまっていた可能性がある。

「僕の父、破嵐創造とメガノイドは木連に協力しつつ、火星の遺跡発掘にもかかわっていた…。そこから生まれたボソンジャンプが戦いを呼ぶのなら、僕はそれを私欲で使う者を決して許さない!」

「か、艦長…今の万丈さん。少し怖いです」

「メガノイドにかかわっていることが大きいのでしょう…その根深さを完全に理解することはできませんが」

「感謝しますよ。ルリ艦長。こんな無謀な賭けに乗ってくれて。あとは…!!」

ダイターン3が持っているザンバーでアマテラスの艦船用のハッチを切り裂き、切れ目に指を入れて広げていく。

「出入り口の確保は大丈夫。あとは…」

「古代一尉、発進お願いします」

「了解です。いくぞ、森君!」

「…はい!」

ナデシコから発信するコスモゼロがダイターン3が作ってくれた入口に突入する。

同時に、ブラックサレナもまた急旋回した後でその中へ飛び込んでいった。

「アマテラスに侵入された!くそぉ、俺たちはどうすれば…!!」

中に入ったコスモゼロとブラックサレナ、そして門番となったダイターン3に挟み撃ちにされる形となり、火星の後継者のパイロットたちの間に動揺が走る。

「アマテラス!聞こえるか!地球圏にいるすべての戦力を…おい!聞こえているのか!?応答、応答しろ!!」

なぜかノイズが走る通信機にパイロットはこぶしをモニターにたたきつける。

ナデシコではオモイカネとリンクしたルリがじっとモニターに次々と映るプログラム式の書き換えを行っていた。

当然、その中にはドロスのものもあり、ドロスのハッチが開かなくなっていた。

「どうなっている!?手動でも開かないのか!!」

「このままでは出撃できない…くそっ、あの魔女めぇ!!」

「やられましたね…これは」

混乱するアマテラスの中で、山崎だけが冷静で、静かに今の状況の原因を分析していた。

「ドロスの艦橋をつぶし、指揮系統の乱れに乗じてのクラッキング。もう、この基地は死んだも同然ですね」

しかし、ドロスとアマテラスをそろって無力化できるほどのウイルスプログラムを組むことができる人間は限られている。

ふと、頭の中に自分と交渉していた真田の顔が浮かぶ。

「(もしかしたら、彼が用意したのかもしれませんね。この作戦を…)えー、誠に残念な話ですが、アマテラスおよびドロスは敵の手に落ちました。総員、速やかに脱出してください。生きて、火星でお会いしましょう」

いつものテンションで、周囲の兵士たちの様子をうかがうことなく脱出命令を出した山崎はスゴスゴと脱出艇へと向かう。

ヤマトをもう見ることができないことは残念だが、火星には火星で興味深いものが眠っている。

(追ってくるというなら、それ相応の覚悟をしていただきますよ…?ナデシコ、そしてソレスタルビーイング…)

 

-アマテラス 施設内-

「どけ…!」

「無用な殺生はしたくない。だが…抵抗するのなら、容赦できない!」

愛機から降りたアキトと万丈はそれぞれ、ハンドガンとアサルトライフルで進路を阻む火星の後継者の構成員たちを射殺し、前へと進んでいく。

万丈は左手に握る端末で、古代から受け取ったアマテラスの内部データをもとにアキトを先導する。

「ここだ…!ここにボソンジャンプを制御するシステムがある!」

「ユリカ…!!この壁の向こうに…」

「アキト…」

バイザーで目元が隠れているが、もうすぐユリカに会えるかもしれないというのにどこか彼の表情に違和感が感じられた。

訓練していた時も、彼女を救う一心で動いていたはずなのに。

「俺とユリカはボソンジャンプを制御するために、演算ユニットに直接思考を送り込む実験をさせられた。ネルガルに救助され、脱出するときに俺が最後に見たのは思考翻訳機として、演算ユニットと一体化させられたユリカの姿だった…」

「むごいことを…!」

メガノイドに匹敵する鬼畜の所業に万丈はこぶしを震わせる。

だが、今は怒りよりもその先にいるはずのユリカの救出が優先される。

万丈は無力化したコンソールに手元の端末を接続し、扉を開ける。

「これは…」

「ガンダム…なのか?」

扉の先にある、24メートル近い真っ黒に焦げたその機体にアキトと万丈は動揺を隠せない。

このガンダムの情報はアキトも万丈も知らなかった。

バックパックはもう元の形が分からないくらいに炭化したうえに変形し、熱で若干形のゆがんだツインアイとV字アンテナだけがそれがガンダムであることを主張している。

「残念だったな、天河アキト…。愛しき者ではなく、そこにあったのがガンダムで…」

「お前は…!」

「そのガンダムに搭載されたシステムこそが、われらの力となったのだ」

「北辰…!!」

アキトは振り返ると同時に憎むべき男に向けて発砲する。

しかし、弾丸は彼の体に当たる前に目に見えない何かに阻まれる形でへしゃげ、地面にむなしく落ちる。

「あれの意思を伝える力で、我々は思考を演算ユニットへダイレクトに送ることに成功したのだ」

「ユリカはどこだ…!?」

「火星だ。そこで、あの女は演算ユニットのアクセスシステムの中枢となっている」

「…」

「フフフフ!感じるぞ、貴様の無念を!憎悪を!その感情をもっと私に…」

「黙れ!!」

有効でないと分かっているうえで万丈はアサルトライフルを北辰に向けて連射する。

ガガガガと勇ましい射撃音と地面に落ちる金属音だけがこの空間を支配していた。

そして、弾切れになったのか、射撃音は収まり、北辰の周囲にはアサルトライフルの弾丸が散らばっていた。

「そうやって、アキトの怒りと悲しみをあおり、おのれの楽しみへと変えるか…北辰。いや、最後のメガノイド」

「ほう…?」

己の正体を突き止めた万丈に少しだけ驚いたのか、北辰は口元を吊り上げる。

火星の廃棄されたメガノイドの基地を調査し、その地で改造されたメガノイドの情報を突き止める中で見つけたロストナンバー。

「破嵐創造が木連にもたらした忌まわしき技術…だが、貴様が改造手術を受けたかはもはや問題ではない!己の楽しみのために他者の命を奪う者、その肥大化したエゴを…僕は憎む!」

「ふふふふふ!!貴様からも感じるぞ!憎悪を、その仮面に隠した醜いものを!!」

「黙れ!!」

再びアキトが発砲するが、やはり弾丸はディストーションフィールドで阻まれる。

そして、彼の体はボース粒子に包まれていく。

「天河アキト、そして破嵐万丈!この決着はいずれつけよう…」

「待て!!」

「火星で…待つ。跳躍!!」

ボソンジャンプした北辰がいた場所を2人はじっと見つめる。

アキトを誘うため、わざと居場所を伝えたのは目に見えている。

しかし、だからといってアキトには止まれない理由がある。

「ユリカ…」

彼女がそこにいるというなら、どんな罠があろうと行く。

そして、北辰を殺す。

アキトの頭にあるのはそれだけだった。

「破嵐!!」

「古代一尉、作戦は成功したようですね」

アキト達のもとに駆け付けてくれた古代を見て、万丈は作戦の成功を確信する。

「ああ、ウイルスの注入は森君がやってくれた。ヤマトの中にいる構成員たちは追い出した」

特にそこで活躍していたのは竜馬だ。

ゲッター1が再起不能となってしまい、囚われてからはずっと動き回ることのできない日々を過ごしていた。

そのうっ憤を晴らすかのように、ゴーサインが出ると同時にまずはあいさつ代わりと監視していた構成員の首を片手でへし折り、奪った武器で容赦なく撃ちまくっていた。

ヤマトの中にいる構成員の大半が科学者だったため、ろくな抵抗もできずに逃げ出してくれた。

「どうやら、この騒ぎを起こしているのは君たちみたいだな」

「誰だ…!!」

まだ逃げ出していない構成員がいたのか。

振り返った古代は銃を向ける。

しかし、彼を見た瞬間、古代は驚きの余り銃を持つ手が震え始めた。

「ど、どうして…」

「どうかしたのか?俺が…どうかしたのか?」

目の前の彼、そして古代以外の人間にはどうして彼がここまで動揺するのか分からない。

だが、古代には彼がここにいることが信じられなかった。

薄茶色の癖のある髪で、東洋系の茶色に近い黄色の肌で、オレンジのラインの入った白いノーマルスーツ姿。

その姿を古代は見たことがある。

軍学校の教科書にあった肖像画と彼が乗っていたモビルスーツの名前は連邦軍にいるものならだれもが知っている。

100年以上前、アースノイドとスペースノイドの戦いの中で生まれた白い悪魔。

たった1機のガンダムで地球へ落ちようとしていたアクシズを押し返し、ライバルであるシャアと共に行方をくらました伝説のパイロット。

「アムロ・レイ…」

 

-ヤマト 格納庫-

「おいおいおい、いったいどうなっているんだ!叢雲!如月!!」

「感動の再会の第一声がこれかよ…」

ようやく再会できたのもつかの間、さっそく始まったのが加藤を中心とした航空隊や甲板部のメンバーからの質問ラッシュだった。

彼らが殺到するのも無理もない。

ヤマトの格納庫に運び込まれているのが彼らから見たら100年以上前の機動兵器と言えるZZガンダムとZガンダム、おまけに黒焦げのνガンダムなのだから。

「おまけにΞガンダム…一体どういうことなんだ!?」

「おっと、Ξガンダムまで知ってるとは、さすが加藤隊長」

「茶化すな!100年前のモビルスーツとパイロットがどうしてここにいる!?俺たちは夢でも見ているのか!?」

「お、落ち着いてください!加藤隊長!!私たちもよくわからないんですよ」

「おそらく、彼らは俺たちの世界の過去の人々とちょっと違うみたいです」

「少し聞いただけなんスけど、連中は俺たちと同じような歴史を歩んでいるみたいですが、いろんなところで食い違っているんですよ」

詳しく聞いたわけではないが、そのもっともたる例がデラーズ紛争らしい。

ソウジ達の世界でのデラーズ紛争は一年戦争終戦から3年後に起こった事件で、ジオン公国軍であったエギーユ・デラーズ大佐(紛争時は中将を自称)が率いるジオン残党、デラーズ・フリートが起こした一連の事件である。

連邦軍が行っていたガンダム開発計画の一環として開発された核弾頭ミサイル搭載型モビルスーツであるサイサリスをデラーズ・フリートのアナベル・ガトー少佐がオーストラリアのトリントン基地で強奪したことから始まった。

強奪されたサイサリスはガトーと共にアフリカのキンバライト鉱山からHLVで宇宙へ輸送され、コンペイトウ(旧ソロモン)基地で行われた観艦式で、搭載された核弾頭ミサイルを発射し、3分の2の艦船を消滅させた。

しかし、これはあくまでも陽動にすぎず、目的はコロニー落としであり、そのさなかに2基のコロニーを強奪、それらをあえて衝突させることでそのうちの1基であるアイランド・イーズを北米大陸の穀倉地帯に落とし、地球の食糧の自給自足体制を崩した。

この一連の事件は地球連邦政府によって隠蔽され、コロニー輸送中の事故として処理されていたが、地球連邦政府の改革事業の一環として行われた情報公開によって真実が伝えられるようになった。

なお、ジュドー達の世界におけるデラーズ紛争の内容は大きく異なるとのことだが、その内容はまだ聞かせてもらっていない。

その話題の中心となっているアムロ達はソウジ達とは別に集まって、これまでのことの情報交換を行っていた。

「じゃあ、アムロさんは…」

「ああ…。アクシズを押し返すサイコ・フレームの光に包まれて、次元の壁を越えたらしい。気が付いた時には、火星の後継者に捕えられていて、奴らの研究に協力させられた」

「ボソンジャンプを制御する演算ユニットにダイレクトに思考を伝達するための実験ですか…」

甲板部によって、整備されるνガンダムを見ながら、真田は古代とソウジ(というよりは大部分を作ったのはチトセとナイン)の報告書の内容を頭に浮かべる。

サイコフレームは真田も名前だけは聞いたことがある。

しかし、100年前に締結されたというサイコ・フレーム禁止協定によってそれを搭載したモビルスーツ及び技術に関するすべてのデータが封印されることとなり、今ではロストテクノロジーと化している。

アクシズショックのように、巨大な隕石の軌道をそらしたり、推進剤が尽きた状態にもかかわらず、『異界』のエネルギーを利用した年単位で宇宙を飛行し続けたという話もあり、そのような人知を超えたものを持つサイコ・フレームなら、おそらくはそれも可能かもしれない。

なお、現在アナライザーによって、今ある機動兵器と戦艦のデータがヤマトの万能工作機に組み込まれている。

これで補修パーツを作ることができるようになり、νガンダムなどの整備も可能となった。

しかし、出自不明のグレートマジンガーとゲッター1については今もパーツが作れない状況であることには変わりない。

「νガンダムに搭載されているサイコ・フレームには人間の感応波を増幅する効果があります。連中は演算ユニットへのコンタクトのために、意識を同調させることのできる特殊な人間を使っていたようです」

「いわゆる、A級ジャンパーですね」

「その補助としてサイコ・フレームを用い、よりダイレクトに思考を伝達させることに成功したのだと思われます」

そして、アムロはニュータイプとしての高い感応波を持っている。

だからこそ、実験体として高い価値を持っているから、こうして生き延びることができた。

「それにしても、アムロ大尉だけじゃなくて、俺たちもこの世界に飛ばされるなんて…」

「大佐殿が言っていたが、この世界と我々の世界は平行世界の中でもつながりが強い様だ」

どうして、そういう繋がりができたのかはわからないが、そのおかげでバラバラの世界へ飛ばされることなく、こうして再会することができた。

「テロで社会の転覆を企てる連中に俺たちの世界の技術を使わせるわけにはいかない。それに、助けてもらった恩もある。俺も一緒に行くぞ」

現在、沖田とルリ、スメラギ、テレサの4人で今後の方針の話し合いが行われている。

大方の予想では火星にいる火星の後継者を攻撃するということで決まりになると思われる。

アムロもそれには賛成している。

「もちろん。俺たちも同じさ。あんな奴らにあの平和な世界を好きにさせるかっての!」

「でも、アムロ大尉。νガンダムって、修理は間に合うんですか?」

大気圏で焼かれ、1年近く放置されたνガンダムはたとえパーツを確保できたとしても、修理完了までは時間がかかる。

不幸中の幸いで、コックピット周辺に搭載されたサイコ・フレームは無事であるため、フィン・ファンネルは搭載することができれば使えるはずで、最悪の場合はΞガンダムのファンネルミサイルを使ってもいい。

甲板部が優秀なメカニック集団であることは分かっているが、そんな彼らでも火星到着までに修理を終えることができるかは分からない。

「俺も協力する。このνガンダムは俺も設計にかかわっているからな」

 

-プトレマイオス2改 ブリーフィングルーム-

4人の艦長、万丈、アキトがいるブリーフィングルームで、ミレイナがイアン達整備兵からの報告を口にする。

「ヤマト、トレミー、ダナン、ナデシコの整備及び補給はあと6時間で終了するです。機動兵器の修理と補給については、移動しながら行うことを考えれば、その時間ですぐに出航できますです!」

「連合軍とも連絡がついたわ。ミスマル中将とカティが後始末をしてくれるわ」

これで、ソレスタルビーイングなどが関与したという証拠は消える。

火星へ出発することになるが、ここで問題になるのはどうやって火星へ向かうかだ。

ヤマトのワープシステムを使うとしても、そのワープシステムそのものは単艦での運用が前提のもので、複数の艦と一緒にワープすることはできない。

万丈のボソンジャンプを使うとしても、曉からもらった端末は壊れており、使い物にならない。

「ボソンジャンプなら、使えます。彼が…アキトさんがいますから」

ルリ達の視線が一斉にアキトに向けられる。

作戦会議とは無縁である自分が呼ばれた理由はおそらくそれだろうと、薄々と感じていた。

ボソンジャンプを使えば、数カ月かかる火星への道をほんの一瞬で済ませることができる。

そうなると、パイロットの休息の時間も作ることができる。

「あなたの力を貸してください、アキトさん」

「頼むよ、アキト。僕はこういうシステムがなければ、満足にボソンジャンプを使うことすらできない」

「だが…俺は…」

ソレスタルビーイングのように、世界のために戦ったわけではない。

アキトは復讐のために、大勢の人を殺してきた。

そんな自分を、変わり果てた自分と一緒にいることでルリ達を傷つけてしまう。

そうなるくらいなら、たった1人で戦って、そして姿を消す。

その方が、誰も傷つかずに済む。

「君はメガノイドになるな」

「万丈…」

「復讐を止める気はない。だが、それだけに縛られてはいけない。それはエゴに縛られ、他のすべてを捨てるメガノイドと変わらない」

最後のメガノイドである北辰がまさにそれだ。

万丈はアキトが北辰を殺すことにこだわるあまり、彼と同じ化け物になってしまうことが嫌だった。

アキト本人も、少なくともそうなってしまうことは望まないはずだ。

「君にはまだ優しい心が残っている。戻る場所もある。頼む…」

だからこそ、ガイゾックとの戦いで死にかけた勝平たちを助け、死んだ神ファミリーのために墓参りに来た。

そして、その心があるからこそ、ルリの元から離れようとしている。

だが、その優しい心が取り返しのつかない未来をもたらすことがある。

まだ引き返すことができる。

「…分かった。だが、火星についてからは…」

「その後のことは、あなたにお任せします」

「すまない…ブラックサレナを見てくる」

そうつぶやくと、アキトは1人ブリーフィングルームを後にする。

「…謝らないでください…本当に、かっこつけて…」

表情を変えないルリだが、かすかに体が震えていた。

 

-火星 火星の後継者施設内-

「…天河アキト。来るがいい、自らの闇で仲間を集めて…」

真っ暗な部屋の中、北辰は目の前に置かれている6つのカプセルを見る。

その中には北辰衆が入っており、アキトとソウジに倒されたはずの2人も中に入っていた。

「貴様らは死ぬことはない。何度でもここでよみがえり、そして我と共に死地へと赴く。天上人よりもたらされし技術によって…!」

ソレスタルビーイングが持っていたイノベイド製造技術。

木連でも、無人兵器以外に戦闘用の人間を製造しようと山崎が研究を行っていて、火星の後継者の中でもそれを続行していた。

北辰衆がそのプロトタイプといえる存在で、肉体はあくまでも入れ物に過ぎない。

こうして肉体を製造し、意識データを入れることで何度でも蘇る。

メガノイドとイノベイド、人間から外れた存在だからこそ、真実の意味で外道となることができる。

蘇る2人を見つめる北辰の義眼が怪しく光る。

「新たなる夜天光で相手となってやろう、そしてその力で無様に朽ち果てるがいい」




機体名:GNアーチャーリペア
形式番号:GNR-101AR
建造:ソレスタルビーイング
全高:16.9メートル
全備重量:25.7トン
武装:GNバルカン、GNライフルビット×4、GNホルスタービット×4、GNシールド(プロトGNソードビット×4内蔵)
主なパイロット:アニュー・リターナー

1年前のイノベイドとの戦闘で損傷したGNアーチャーを修復したもの。
元々はアリオスガンダムの支援用として開発されたものだったが、後継機であるガンダムハルートがアレルヤとマリーの複座式となったために不用のものとなった。
当初はダブルオークアンタ及びガンダムサバーニャに装備されるビット兵器の試験用として木星で用いられ、テスト終了後はアニューの希望でガンダムサバーニャの支援用に改修された。
装備されているGNライフルビット及びGNホルスタービットはガンダムサバーニャと同規格となっており、相互で融通することが可能となっている。
また、プロトGNソードビットにはダブルオークアンタのGNソードビットでは採用されなかったビーム砲が1基1基に内蔵されている。
頭部にはバイザー型の望遠カメラが外付けされており、これを用いてガンダムサバーニャの観測手を務める。

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