スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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第36話 エースのジョー

-ヌーベルトキオシティ-

「マイトガイン!!」

戦闘機形態の飛龍でマイトガインに迫るジョーは操縦桿代わりとなっているハンドルのクラクション部を鳴らし、エネルギー弾を発射する。

飛龍のコックピットはエレキカーである隼号となっており、その都合上ハンドルで操縦することになる。

モビルスーツの操縦に慣れていたジョーは最初、そうした操縦が苦手だった。

話によれば、ウォルフガングは飛龍を開発する際にインパルスとマイトガイン、ガンダムキュリオスをモチーフとしたようだ。

どちらも分離合体機能がある点は共通しており、それに可変機能をも取り込もうとしていた。

ジョーはモビルスーツをハンドメイドで組み立てたことはあるが、専門家程詳しくなく、そうした複数の機能が搭載されると整備性が複雑になり、維持に大きな課題が出る。

そのため、合体機能を本体と隼号に分けて単純化することで変形機能の組み込みに成功させたようだ。

なお、飛龍の完全量産型といえるメガソニック8823は変形機能のみが採用され、合体分離は排除されている。

「舞人!!避けては、町に被害が!!」

発射されたエネルギー弾の出力はビルや車両を焼き払うのには十分すぎるほどだ。

避けることを頭からかなぐり捨てた舞人はフェイズシフト装甲にエネルギーを回し、エネルギー弾を受け止める。

出力が上昇したフェイズシフト装甲のおかげで、エネルギー弾のダメージは最小限の抑えることができたが、わずかに後ろへ下がってしまう。

「ちっ…!フェイズシフト装甲か…重量がある分、耐久性はある。だが…!!」

ギアチェンジを行うと同時に、飛龍の姿が人型形態に変化する。

そして、ビームライフルをマイトガインに向けて発射しようとする。

「別の反応か!?奴との1対1の勝負の邪魔をするな!!」

側面モニターに映る、ビーム砲を連射してくるヴァングレイにジョーが激昂する。

ヴァングレイが発射したビームは飛龍の装甲に接触すると同時にはじけ飛ぶ。

「対ビームコーティング!!これだとビームが!!」

「なら、こいつがある!!」

レールガンを発射するが、再び戦闘機形態に変形した飛龍はゆうゆうとその場から一度離脱して回避する。

ビルに当たらないように計算して発射されたものの、やはり通過するだけで付近のビルのガラスが割れてしまい、着弾した道路には大きなクレーターが出来上がる。

「くそ…!このまま戦い続けたら、町にも被害が…うおっ!!」

徹甲弾がヴァングレイの装甲をかすめ、コックピット内が大きく揺れる。

「ううう!!ソウジさん、4時方向に大砲を付けたモビルスーツが…!」

「アジアマフィアか…くそ!!」

その方法にいる機動兵器の正体がヴァングレイのモニターに映る。

ザフトのサブフライトシステムであるはずのグゥルとそれに乗る長距離射撃型のティエレンが映っていて、更には護衛用のユニオンフラッグ2機がモビルスーツ形態で飛行している。

おそらく、徹甲弾を発射したのはティエレンだろう。

その機体をどうにかしなければ、舞人の援護に向かうことができない。

「援護する!!」

刹那の声が聞こえるとともに、ティエレンを乗せているグゥルをビームが側面から撃ち抜く。

グゥルが爆発し、乗っていたティエレンが転落していく。

ユニオンフラッグがビームを撃ってきた機体を攻撃しようとわずかにヴァングレイから注意をそらしてしまう。

「よそ見してんじゃねえぞ!!」

ソウジが叫ぶとともに2門のビーム砲が連射される。

次々と発射されるビームがユニオンフラッグをハチの巣にし、上空で炎の華を咲かせた。

「新手!?ちっ…ユニオンフラッグか!?」

「旋風寺舞人!ここで奴を暴れさせるな!海へ誘導しろ!!」

「了解…!エースのジョー、俺と戦いたいなら、ついてこい!!」

舞人はマイティバルカンで飛龍を牽制しつつ、後ろへと下がっていく。

「この場で戦うつもりはないか…いいだろう!!」

ライフルを1発撃った後で、再び飛龍と戦闘機形態に変形させ、マイトガインを追跡する。

その2機を追いかけるように、青いユニオンフラッグが飛んでいく。

「あの機体…刹那が乗ってるのか?」

「確認したところ、装備しているのはGNコンデンサー搭載型のGNソードⅡ改と内蔵型リニアキャノン、加速用追加ブースターを装備しています。装備の違いがあれど、性能面は旧型のユニオンフラッグと同等ですが…」

「乗ってるのがイノベイターなら、段違いってことか…。げっ、まだ反応があるのかよ!?」

今度は地上で、武装ロボットたちが動き始める。

ニンジャや赤い仁王型の大型武装ロボット、おまけにティーゲル5656やフロマージュとジャック・オ・ランタンをモチーフにしたと思われる大型武装ロボットの姿まである。

「犯罪者のオンパレードってところか!!」

「赤い機体は俺たちに任せろ!!」

「第1中隊は小型機を狙うわ!ロザリー、エルシャ、クリスはキャノンで遠距離支援を!ビームを撃たせないで!!」

「了解、ロザリーちゃん合わせて!!」

「ああ、クリス!!分かってるよな!!」

「うん…!!」

クリスとエルシャのハウザーのリボルバー砲から赤い弾頭がニンジャめがけて発射される。

「ふっ…!その程度の飛び道具で止められる我らではない!!」

影の軍団にとって、ただ一直線に飛ぶだけの弾丸はわけもない。

大江戸ランドを隠れ蓑として昼は従業員として接客をし、夜は忍者としての過酷な訓練を積んできた。

そして、その訓練を武装ロボットで生かすためにバイオフィードバックシステムを採用した。

そのおかげで、ニンジャ達は鋭い反応速度で飛んでくる弾丸を回避しようと動きだす。

「避けるんだろ…?だったら、こいつならどうだぁ!!」

動き出すのが見えたロザリーはガトリング砲を発射された弾丸に向けて発射する。

ガトリングを受けた弾丸からはピンク色の煙幕が放出され、それがニンジャ達を包み込んでいく。

「これは…GN攪乱幕!!これではビームが使えん!!」

攪乱幕でモニターがピンク一色となり、通信機も雑音だらけで使えなくなる。

こうなると、取るべき手段は2つ。

ニンジャの1機が口の火炎放射で攪乱幕を焼き払おうとする。

だが、火炎を放つ前にアサルトライフルの弾丸が正面から襲い掛かり、頭部が吹き飛ぶ。

「何ぃ!?」

「あたしの前で足を止めるなんて…いい度胸だなぁ!!」

頭を失い、カメラが使用不能になったニンジャをゼロ距離まで接近したヒルダのグレイブがパトロクロスで横一閃に切り裂いた。

真っ二つになったニンジャはグレイブが離脱するとともに爆発し、その影響で粒子が拡散する。

「何だと!?うおおお!!」

「まったく…悪趣味な機体よ!忍者なら、しっかり忍んで戦えばいいのに」

ヴィルキスがラツィーエルを頭上から突き立ててもう1機のニンジャが戦闘不能に追い込み、もう1機はブンブン丸で真っ二つにされる。

だが、撃破したのはまだ3機で、ニンジャはまだまだ残っているうえにデカブツも残っている。

「ええい、よくも我らが同胞を!!ミフネ様、あの機体…パラメイルです!!」

「パラメイル…むぅぅ、年端もいかぬ女子と戦うのは気が引けるが…」

パラメイルとメイルライダー、そしてノーマについてはミスターXからの情報でDG同盟のメンバー全員が知っている。

ミスターXの命令の中にはナデシコ隊や勇者特急隊に協力している彼女たちも倒すことも含まれている。

女と戦うことは信条に反するが、スポンサーの命令であれば仕方がない。

「パラメイルは装甲が薄い。一撃でも当たれば大きな打撃となる!!面で制圧せよ!!」

「御意!!」

4機のニンジャ達が飛び立ち、そのうちの2機がヒルダのグレイブに向けて鎖鎌を投げつける。

「へっ…!そんな古い武器でやろうだなんて…!?」

鎖をパトロクロスで切り裂こうとしたヒルダだが、分銅部分についているブースターが点火し、大きく加速する。

「フフフ…ミスターXの支援でパワーアップしておるのだぁ!!」

もう1機のニンジャの鎖鎌の分銅もブースターで加速し、2つの鎖で両腕が封じられる。

「しまった…!ちくしょお!!」

ヒルダのグレイブにはマニピュレーターを使わずに攻撃できる装備がなく、無理に動こうとしたら両肩の関節部が悲鳴を上げる。

だが、このままにしていると正面からニンジャの一撃を加えられ、お陀仏だ。

「せめてもの情け…一撃で冥府へ送ってやろう!!」

「ヒルダ!!」

ナオミの声と2発の発砲音がヒルダの耳に届く。

弾丸が鎖を撃ち抜き、グレイブの両腕が自由になる。

「ちっ…ナオミか!?」

「その舌打ちは何なの!?せっかく助けてあげたのに!!」

「うるせえ!!ああ、くそ!!さっきはよくも!!」

アンジュ程嫌いというわけではないが、エルシャと同様にアンジュと無理やり仲良くさせようとするナオミのこともヒルダにとってはあまりいい印象がわかない。

そんな彼女に助けられたとなると不愉快だ。

その怒りをぶつけるかのように、ヒルダはニンジャの1機に正面から突っ込んでいく。

「正面!?血迷ったか!」

驚いたものの、正面から来た彼女に向けて火炎放射を放つ。

このままなら、方向転換が満足にできず、自分から丸焼きにされるだけのはずだ。

だが、彼の判断は謝っていた。

ヒルダは体にかかるGなどお構いなしに急に真上に向けて機体の機動を変えさせた。

「何!?」

「そんな炎、ドラゴンが出す炎に比べちゃ、なんてこともねーんだよ!!」

真上からニンジャに向けて凍結バレットを発射する。

着弾と同時にそこを中心に急速の冷却されていき、ニンジャのコックピット内の気温も急激に下がっていく。

「機体を氷漬けにするだと!?ええい、やむを得ん!!」

ガレオン級を氷のオブジェに変えるほどの冷却能力を持つ凍結バレットを前にしては、ニンジャの火炎放射器では対抗できない。

やむなくニンジャのコックピットを開き、脱出する。

パイロットを失ったニンジャは氷のオブジェと化し、コックピットの中も氷漬けとなった。

仮に彼が脱出を決めていなかったら、彼もまたニンジャと同じ運命をたどっていたかもしれない。

「むぅぅ…うるさいコバエめ!!このショーグン・ミフネが落としてくれよう!!みよ、我が武装ロボット、ニオーの力をぉ!!」

ニオーが起動し、胸部装甲を展開する。

そして、そこからミサイルを次々と発射する。

「ああ、もう!!こんなに数を撃ってきて!!」

パラメイルにとっては命取りとなるミサイルが次々と発射され、アンジュ達はアサルトライフルでミサイルを撃ち落とすか、回避に徹するしかなくなってしまう。

「この野郎!!ミサイルばっか撃ちやがって!!金持ちかよ!!」

ミサイルを撃ちまくるニオーにキレたロザリーはガトリング砲をニオーに向けて連射しながら接近を始める。

だが、次々と発射されるガトリングはどれもニオーの装甲を傷つけることもできない。

「無傷…フェイズシフト装甲なの!?」

「この程度で我がニオーはやられはせんぞぉ!!」

ニオーの口が開き、拡散するビームが発射される。

ミサイルの次に発射されたビームに思わず反応が遅れ、接近していたロザリーのグレイブの左腕にビームが命中してしまう。

「ロザリー!!」

「うわあああ!くっそぉ!!」

もし少しでも右にずれていたら焼き殺されており、ロザリーはグレイブの左腕を見る。

肘から先が焼き尽くされており、関節部も融解している。

そのせいか、曲げたり伸ばしたりすることができなくなっていた。

こうなると、もう左腕パーツそのものを交換するしかない。

「ロザリーは下がれ!片腕だけじゃあ、ガトリングの反動に耐えられねえだろ!!」

「くそ…!!悪い、後は頼んだぜ!!」

ロザリーのグレイブは戦場に背中を向け、メガロステーションの方向へ交代する。

ニンジャが追いかけようとするが、その目の前にレールガンの弾丸が当たり、クレーターができる。

「うう…ロザリーの…逃げる邪魔はさせない…!!」

 

-ヌーベルトキオシティ港近海-

「ふん…!その程度か!?マイトガイン!」

湊付近の海で、上空で移動をしながら打ち続ける飛龍にマイトガインは動輪剣や装甲で防御するのに精いっぱいとなっていた。

「く…舞人!!」

「まだだ…耐えてくれ…!!」

バッテリーの残量を確認すると、3機分の容量があるため、まだまだ余裕がある、

相手がフェイズシフト装甲を採用しているかどうかは分からないが、ビームをいつまでも打ち続ける余裕はないだろう。

それに、今闘っているのは舞人1人だけではない。

飛龍に向けて別方向からビームが飛んできて、飛龍は1発だけ受けてしまうものの、右腕からビームシールドを展開させて受け止めた。

「ビームシールド!?」

「追いかけてきたか…水色のユニオンフラッグ!そういえば…」

目の前で人型に変形した刹那のフラッグを見たジョーは戦場で一時的に共闘した傭兵から聞いた噂を思い出す。

2か月前、宇宙でヒサゴプラン用のコロニー建造現場にアザディスタン王国第1皇女のマリナ・イスマイールがコロニー公社側が起こしたテロに巻き込まれたという。

実はコロニー公社は建設の際に不正行為を働いていたという黒いうわさがあり、マリナはその真偽を確かめるべく、視察に来ていた。

焦った公社側は市場に流れていたGN-XⅢを3機や傭兵を雇って、彼女を暗殺しようとした。

だが、そこでやってきたのが今、ジョーの目の前にいる水色のユニオンフラッグだ。

その機体1機に3機のGN-XⅢは撃破されてしまった上に、テロリストたちは拘束されることになった。

こんな情報が入ってきたのは、実を言うとその傭兵の友人がその現場を見ていたからとのことだ。

眉唾物な噂で半信半疑だったが、もし本当にいるなら戦ってみたいとも思っていた。

その場合は、自前のフラッグで戦いたかったが、そんな好都合なことは起こらない。

「いいだろう…2機まとめて相手をしてやる!!」

「あの機体…俺にも注意を向けたか」

人型形態に変形し、GNソードⅡ改で飛龍に斬りつける。

トンファーを手にした飛龍はそれで鍔迫り合いを演じる。

1機相手だけならそれでもいいが、今のジョーの相手は2機だ。

その飛龍に向けて、マイトガインがマイティスライサーを投げつける。

「ちぃ…!」

フェイズシフト装甲はあるが、これからの戦闘のことを考えると無駄にバッテリーを消耗するわけにはいかず、後ろへ距離を離して回避する。

その隙に刹那は両肩に外付けしていたミサイル6発を発射し、そのうちの1発をGNソードⅡ改のビームライフルで撃ち抜く。

ミサイルが爆発するとともに、その中にあるスモークが飛龍を包む。

「スモーク…姑息な手を使う!」

広範囲に広がっていくスモークには攪乱幕の反応があり、ビームライフルが使えないことは分かっているジョーはスモークの外へ出るために上昇しようとする。

だが、あろうことか煙を突き破って刹那のフラッグが真後ろから接近してくる。

「何!?」

センサーがあってもこの中で敵の位置を把握し、背後を取るのは至難の業だ。

それをやってのけるとなると、やはり相手はあの噂のフラッグとそのパイロット。

だが、ジョーも伊達に中国の修羅場を生き延びてきたわけではない。

トンファーでかろうじてGNソードⅡ改の刃を受け止める。

「くっ…!」

「刹那さん!!」

マイトガインが動輪剣で背後から飛龍に切りかかる。

だが、その剣もすかさずビームライフルから出たビームジュッテで防がれてしまう。

「く…2人がかりでも…!!」

「貴様の相手は後だ!まずはマイトガインを…何!?」

舞人ら3人に向けて砲弾が飛んできて、イノベイター故にいち早く気づくことのできた刹那はGNソードⅡ改のライフルで2人へ向かう弾丸を撃ち落とそうとする。

2人へ向かう弾丸6つの内の4つを撃ち落とすことに成功するが、残り2発が2人を襲う。

「うわあああ!!」

「何!?この弾丸は…!!」

弾丸は接触すると同時にさく裂し、フェイズシフト装甲で守られているはずの飛龍とマイトガインの装甲にひびを入れる。

「砲撃位置は…あそこか!!」

舞人のモニターに砲撃位置の様子が映し出される。

ダイターン3くらいの大きさを誇る、8門もの砲台を付けた戦車4機が水上をホバー移動していて、その中央には金色の辮髪のような飾りを付けた、緑色で20メートルクラスの大きさの人型兵器がグゥルに乗って移動していた。

「ホイ・コウ・ロウか!」

人型兵器を見たジョーは即座に攻撃してきた犯人をいい当てる。

コックピットのサブパイロットシートには彼の言う通り、ホイの姿があり、その前にあるメインパイロットシートにはチンジャが座っている。

「その通りネ、エースのジョー!」

「あのままマイトガインと一緒にやられておけばよかったものを。これは我々ではなく。ウォルフガングなどという技術者の元へ移った制裁だ」

「何だと!?」

再び戦車の砲弾がこちらへ向けて飛んでくる。

マイトガインと飛龍は互いに別方向へその場を離れて弾丸を回避する。

だが、2機ともここでの真剣勝負のせいで推進剤を消耗しており、仮にガス欠を起こすとあの弾丸の餌食になってしまう。

「舞人、ジョー!!くっ…!!フェルト、あの戦車をヴェーダで照合できるか!?」

戦闘機形態に変形したフラッグでその戦車の元まで飛行し、ライフルで牽制をしながら待機中のトレミーと通信する。

刹那の通信を聞いたフェルトは即座にヴェーダと刹那から送られる機体の映像を確認する。

「刹那、あれはニーベルゲンよ!メガノイドが所有していた大型戦車がどうして…!!」

ニーベルゲンをはじめとした、ダイターン3を除くメガノイド由来の兵器は万丈によってすべて破壊されているはずだ。

水上ホバー機能が追加されていること以外はデータ上のニーベルゲンと大差はないが、問題はなぜDG同盟がそれを持っているかだ。

「マイトガインを倒したことで、組織の主導権はホイ様のものとなる!」

「ぬほほほほほ!!マッドサイエンティストとこそ泥、エセザムライなどと同列にされるとは心外ネ!」

「貴様…!!」

「ウォルフガングから買い取ったこのニーベルゲンでとどめネ!!」

「そうはいくかよ!!」

ニーベルゲンから発射される弾丸だが、上空から飛んできたマイトガインの前へ降りてきた人型兵器が盾となって受け止める。

「お前は…!!」

「フッ、復活したか…」

砲弾を回避したジョーと守られた舞人は現れた人型兵器の正体を見て、安堵の表情を見せる。

その姿はトライボンバーだが、胸部に追加装甲、背中に翼型のバックパック、右肩にミサイルランチャーが装備され、更にはヘルメットをつけており、より重装甲な人型兵器と化していた。

「へっ…そんな弾丸!今の俺様のフェイズシフト装甲では…無意味だぜ!!」

マイトガインと飛龍のフェイズシフト装甲にひびを入れたニーベルゲンの砲弾すら、今のトライボンバーにとっては何のこともない。

「今の俺はバトルボンバー!トライボンバーに更には新しい仲間、ホーンボンバーを加えた猛獣4体合体で復活した!!」

「まさに最高のタイミングで復活したな、ボンバーズ!!」

 

-メガロステーション-

「どうにか…間に合ったな」

「ええ…一時はどうなるかと思いましたよ…」

バトルボンバーがいた格納庫で、大阪と浜田がクタクタに疲れ果てており、閉じたハッチを見ていた。

2人と整備班が総動員でトライボンバーを修理し、更にはその新しい仲間であるホーンボンバーの起動まで行っていた。

ホーンボンバーは元々、ボンバーズのプロトタイプとして開発されたもので、超AIは搭載されていなかった。

しかし、トライボンバーの損傷と宇宙での戦いに備えて、ホーンボンバーの改良と超AIの搭載が急務となった。

そこで、ホーンボンバーをトライボンバーの強化パーツとして位置づける形で回収が行われると同時に、超AIを搭載した。

問題は根本的な改造に伴う不具合で、元々は合体・分離機能がついていなかったため、それに伴うOSの変更が必要になった。

そこで助けになったのはキラで、彼がOSを改造してくれたことで起動することができた。

「だが…これでボンバーズは飛行戦力としても通用する。宇宙で戦える」

「はあはあ…頼んだよ、バトルボンバー。舞人達の力になってくれ…」

 

-ヌーベルトキオシティ港近海-

「グヌヌヌヌヌ!!ウォルフガングめ!とんだ不良品を売りつけおって!」

バトルボンバーに無傷で止められ、腹を立てたホイはウォルフガングに怒りをぶつける。

だが、その原因はバトルボンバーがホーンボンバーの大出力のバッテリーを追加したことによってマイトガイン以上にエネルギーをフェイズシフト装甲に回すことができるようになったためだ。

そのせいで、ニーベルゲンの砲弾が相対的に火力不足になったに過ぎない。

「だ、だが…敵が増えたところで…な!?」

「この反応…奴か?」

「ええい、撃て撃て撃て!!撃ちおとせぇぇぇ!!」

新たな反応が見えたホイは狂ったようにニーベルゲンに命令を出し、ニーベルゲンはその反応が出た方向に向けて次々と砲弾を発射する。

しかし、いくら撃っても反応が消えず、どんどんホイ達の元へ接近している。

更にはホイ達が乗っている人型兵器めがけて大出力のオレンジ色のビームが飛んでくる。

「げええええ!!」

「ニーベルゲンを盾にします!!」

1機のニーベルゲンが自動的にホイ達の盾となり、ビームを受け止める。

巨大戦車というだけあって、装甲の表面が焼かれる程度で済んだものの、仮にそのビームが2人に直撃していたら、あっという間に焼肉にされていただろう。

ホイ達を突っ切っていくその機体はダークブルーのユニオンフラッグというべき姿をしていた。

しかし、腰部には2つの疑似太陽炉を搭載しており、機動力もあのビームの出力も刹那のフラッグとは段違いの、まさに最新鋭のフラッグタイプというべきモビルスーツだ。

コックピットには地球連合軍の正式のものであるライトブルーのノーマルスーツを身にまとい、右目あたりに傷跡を残している金髪で緑色の瞳をした白人男性が座っている。

接近してくる機体を見た刹那は笑みを見せる。

「ブレイヴ…奴か」

「久しいな、まさか君もフラッグを使っていたとは…少年!!こちらはソルブレイヴス隊隊長のグラハム・エーカー少佐だ。勇者特急隊、そしてそこのユニオンフラッグ!これより援護する!」

グラハムが乗るブレイヴはヴェーダを通じて刹那も知っている。

旧AEUや旧ユニオンの技術者たちが集まり、ビリー・カタギリが主任となって開発された試作モビルスーツで、グラハムが搭乗しているのはその中でも指揮官機となることを想定されている。

「グラハム・エーカー…」

突然現れるとともに、懐かしい声を聴いてしまったジョーは動揺を見せながらも、ビームライフルで迫る砲弾を撃ち落とす。

そして、戦闘機形態に変形してニーベルゲンとホイ達のいる場所まで飛んでいく。

「ジョー、いったい何を!?」

「ええい、ジョー!!このホイ・コウ・ロウの栄光の道の邪魔をするなら、諸共撃ち落とす!!」

射線上に入ってきたジョーに構わず、ニーベルゲンに攻撃命令を出し、ニーベルゲン達は砲弾を発射していく。

だが、死角から発射されるならともかく、こうして目の前で撃ってくるというなら、ジョーと飛龍の機動性ならば威力以外に大したものはない。

左右へ揺らすように飛んで交わしていき、ニーベルゲンの1機に肉薄していく。

そして、その場で急速変形するとともにトンファーで砲台の1つを斬りつける。

大型兵器であるニーベルゲンそのものを破壊するのは難しいが、砲台を破壊していくくらいなら容易だ。

実際、トンファーを受けたことで砲台が1つ折れてしまった。

「な、な、な、何をするネ!!裏切ったか!?」

「寝言は寝て言え。先に攻撃してきたのは貴様らだ」

「あの赤い人型兵器…まさか、あれに乗っているのは…」

飛龍の先ほどの動きはグラハムが一番よく知っている動きだ。

自分がユニオンフラッグのテスト飛行の時に披露し、彼の名を一躍有名にした高度な空中変形マニューバ。

それができるのはグラハムやかつてのオーバーフラッグス、そして今彼が所属しているソルブレイヴス隊以外にいるとしたら、彼しかいない。

「ジョー…」

シグナルビームで飛んでくる砲弾を破壊した舞人はジョーの、相手にとっては裏切りと言える行動に驚きを見せる。

先ほどまでDG同盟と共に自分と戦っていたジョーが、撃たれたからとはいえどうして自分たちを助けるような動きをしたのかが分からなかった。

「マイトガイン、貴様との決着は後回しだ。今は俺たちの戦いに水を差した…こいつらを始末する!!」

「俺たちと一緒に戦うのか?」

「そのつもりはない…。だが、一時休戦だ」

「…分かった」

「ええい!!もういい!!これで奴を葬る絶好の口実ができたネ!!チンジャ!シャオマイで飛龍を破壊するネ!!」

「かしこまりました、ホイ様!」

2人が乗る武装ロボット、シャオマイが持っている青柳刀から電撃を放つ。

電撃は飛龍の持つビームライフルを襲い、爆発させる。

「撃ってきたな…。これであとくされなく貴様らをやれる!」

ビームライフルを失ったことを気にすることなく、真上からニーベルゲンの装甲を足を押し付け、パイルバンカーの要領でジャバリンを発射する。

中枢機能を撃ち抜かれたことで、ニーベルゲンは機能停止してしまう。

(ウォルフガングの言っていたことがここで役立つとはな…)

ウォルフガングの世話になっているため、ジョーはニーベルゲンのことを知っていた。

出所は分からないものの、その残骸を彼は手に入れており、それで4機のニーベルゲンの修復に成功している。

ホイのごり押しで無理やり買い取られてしまったことが気に食わなかったのか、先日ニーベルゲンの中枢機能の場所を教えられた。

そして、真上からジャベリンをゼロ距離発射すれば、それを破壊できるということも。

しかし、ジャベリンは2つしかなく、まだニーベルゲンは3機残っている。

この戦い方はあと1回しかできない。

「ふん!!ニーベルゲン1機やられたところで…」

「いいや、あと2機になる!!」

その言葉と共に、どこからか高熱のエネルギーが飛んできて、ニーベルゲンの側面に直撃する。

エネルギーを受けた個所の装甲はまるでマグマを浴びたかのように溶けていく。

「今だ、舞人!!」

「分かりました!!ガイン!!」

「了解、マイティスライサー!!」

飛龍を追いかけていたマイトガインが脆弱化した装甲めがけてマイティスライサーを投げつける。

頑丈なはずだった装甲をたやすく突破したスライサーが中枢機能を破壊し、その1機も機能停止した。

上空にはそのエネルギー弾を発射した犯人であるダイターン3の姿があった。

「万丈か…」

「ニーベルゲンは戦ったことがあるからね」

ダイターン3のサン・アタックであれば、戦艦の主砲以上のエネルギーでニーベルゲンの装甲を劣化させることができる。

そう考え、メガロステーションから緊急発進してここに到着していた。

それに、実を言うとニーベルゲンの1機は破嵐邸に保管されており、世界最大級のラジコンとしてトッポの遊び道具となっている。

さすがに大っぴらに使うわけにはいかないため、敷地内のみでの使用となっている。

同時に解析もしているため、その弱点を知っている。

「くううう…!!だが、あれほどの出力のエネルギー弾を発射したネ!そんなのをそう何度も発射できるわけが…」

「日輪の力を借りて、今、必殺の!!サン・アタック!!」

「な、何ぃ!?」

間髪入れずに再びサン・アタックがもう1機のニーベルゲンに撃ちこまれる。

そして、そこへめがけてダイターン3のドロップキックが炸裂し、ニーベルングの装甲の大穴が空いてしまった。

「な、なぜ!?最大出力で連射するとは…!!」

「ダイターン3も、3年前から少々手を加えているのさ」

ダイターン3のバックパックに外付けされていたコンデンサーが自動的に廃棄され、サン・アタックの最大出力連続発射を終えたダイターン3の額は冷却材を使った強制冷却が始まる。

複数の機体との戦闘で、最大出力のサン・アタックが複数回使わなければならない状況になることを想定して開発したもので、まだ使い捨てなうえに、冷却時間の間ダイターン3が動けなくなるという課題はあるものの、太陽エネルギーの容量を一時的に増やすことができる。

そのおかげで、今回は2回連続の最大出力発射が可能となった。

「ええい!!破嵐万丈めぇ!!」

「奴ばかり見ているとは、余裕なことだな!!」

ダイターン3に注意が向いたことで、飛龍は最後のニーベルゲンに再びゼロ距離からジャベリンを撃ちこむ。

これによって、4機のニーベルゲンすべてが沈黙することとなり、シャオマイが孤立することになった。

「これで、虎の子の戦車はなくなった…。さあ、ホイ。俺たちの勝負に水を差した報いを受けてもらうぞ」

「ぐぬぬぬぬ…!!」

闘わなければならない相手が5機になり、今ここにいるのはシャオマイのみ。

逃げるとしても、既に乗っていた潜水艦は離脱ポイントに向かっており、特にジョーは自分を逃がしてはくれないだろう。

救援を呼ぼうにも、ホイの抜け駆けまがいの行動をウォルフガング達は許すはずがないだろう。

仮に助けられたとしても、その責任を追及され、同盟から追放されてしまう可能性だってある。

しかも、ホイはウォルフガングの部下であるジョーに攻撃してしまった。

言い逃れなんてできる状態ではない。

「アジアマフィアのホイ・コウ・ロウ!!武装ロボットの違法所持と売買、及び密輸の容疑がかかっている!貴様の行動によっては、撃墜許可も出ている!速やかに武装解除し、投降しろ!!」

既にブレイヴのライフルはシャオマイのコックピットに向けられており、グラハムは職業軍人として、ホイとチンジャに警告する。

グラハムは表向きでは、日本のヌーベルトキオシティで攻撃を行う世界的な犯罪組織であるアジアマフィアへの攻撃が任務となっている。

当然、その総帥であるホイは彼にとっては確保しなければならない犯罪者だ。

「ぐぬぬぬ!!!シャオマイはアジアマフィアが開発した最新鋭の武装ロボット!連合も勇者特急隊もジョーの奴も、みんなやっつけてやるネ!!」

「そんな自暴自棄になる必要などありませんよ。総帥」

「何!?その声は…」

「増援か…何!?」

次々と疑似太陽炉で作られたGN粒子がエネルギーのビームが飛んできて、シャオパイに迫る5機をけん制してくる。

そのビームを撃ってきたモビルスーツにグラハムは驚きを隠せなかった。

向かってくるのは10機、しかもそれはすべて赤く塗装されたブレイヴだった。

「あのフラッグタイプ…隊長のものと同じ!?」

(おかしい…。ブレイヴはまだ試作段階で量産も編成も正式には完了していない。それに…ブレイヴは私のものを含めて6機しかないはずだ!それに、ソルブレイヴス隊構想は連合と少年たち以外には一般に公開されていないはず…!!)

ブレイヴは現在の地球連合が行う融和政策に伴う軍縮で誕生した試作モビルスーツだ。

少数の機体で迅速に戦場に展開し、速やかに問題を解決するという戦術要求を実現したものだが、まだどのように運用するかが決まっていないことから試作機の領域から脱しておらず、現在も性能評価の段階だ。

そうなったのは指揮官機をどうするかの意見が分かれているからだ。

グラハムが乗っている指揮官用ブレイヴは今目の前にあるブレイヴとは異なり、疑似太陽炉を2つ搭載している。

そのおかげで、一般機以上のパワーと機動性を獲得したが、現状グラハム以外に使いこなせるパイロットがいない状態だ。

制式化の際には一般機で統一するか、パイロットの熟練度によって指揮官機を用意するか、それを決めるのはソルブレイヴス隊の運用だ。

そんなことから、まだブレイヴを一般公表していない。

しかも、そもそもブレイヴの開発及び製造は主任であるビリーの管理下にあり、アジアマフィアに流れるのはあり得ない話だ。

次々とビームを撃ちながら向かってくるブレイヴのうちの2機がシャオマイを回収する。

同時に、ワックスで光る紫の髪で左目を隠した、胸部中央を露出した黒いミュージシャン服を着た青年がモニターに映る。

「おお、パープルか!!」

「ホイ様、チンジャ様、お助けに参りました。同時に、ミスターXからの命令です。目的を達したので、後退しろとのことです」

「む、うううう!!何を言っているネ!これだけの戦力なら…」

「ミスターXからのご命令です。逆らうわけにはいきませんよ」

シャオパイを抱えたブレイヴは既に離陸を開始しており、他の4機のブレイヴが攪乱のためにフラッシュバンを発射する。

このチャンスを逃すと、もう逃げることができず、マイトガイン達の餌食となってしまう。

それに、今回の独断行動でミスターXからの信用を失っているかもしれない。

ここで更に違反行為を行えば、支援が打ち切られてもおかしくない。

「ホイ様、後退しましょう…。今波風を立てるようなことをしては、アジアマフィアでの立場も…」

「ぐううう!!もういいネ!貴様らが最善と思うことをするネェ!!」

「かしこまりました…」

シャオパイを連れて、10機のブレイヴ達が光りの中で行方をくらます。

光が収まると、そこには5機の機動兵器以外にはだれもいなくなっていた。

「ちっ…逃げ足の速い奴め…!」

もうセンサーには敵機の反応はない。

今から追いかけても間に合わないだろう。

ジョーの視線がモニターに映るマイトガインに向けられる。

「今日は邪魔が入ったが…決着は必ずつけさせてもらうぞ。マイトガイン」

戦闘機形態に変形した飛龍がマイトガインに攻撃することなく、その場から立ち去ろうとするが、その飛龍にグラハムのブレイヴが接触する。

「待て、ジョー。接触回線だ、聞こえているだろう?」

「…」

答える気配を見せないが、少なくとも聞く気があるようで、ジョーはハンドルから手を離す。

「かつての上官の言葉は聞く気があるようだな…。宍戸譲」

「…あなたは、俺に空を飛ぶことを教えてくれましたから」

「そうだ…。だが、3年前のフォーリン・エンジェルズの後で、お前は軍を辞めた。いや、正確には脱走したと聞く…」

ジョーが脱走したことは1年前、ガンダムを倒せるモビルスーツを求めてビリーの元を尋ねた際に彼から聞いていた。

彼が軍の機密情報を盗もうとしたことが発覚したからだ。

しかもそれがアロウズ関連のものであり、ジョーは一般兵だったがために余計に質が悪い。

この場合、アロウズの兵士は裁判にかけることなくその兵士を殺すことができる。

だからか、ジョーは追ってくるアロウズ機を撃墜し、軍を脱走した。

卑怯なことを嫌う彼がそのようなことをするはずはないと、グラハムはそれをアロウズが作った冤罪ではないかと今でも思っている。

アロウズへの転属命令を拒否し続けていたため、彼への印象が悪いのは明白だ。

「答えてくれ、ジョー…。仮に冤罪なら、私が…」

「いいえ、隊長…。機密情報を盗んだのは…真実です」

飛龍のスラスターに火が付き、ブレイヴがそばにいることを無視して一気に加速していく。

すぐさま飛龍から離れるグラハムだが、通信はつなげた状態を維持する。

「ジョー!!目を覚ませ、ジョー!!あのようなアウトローと付き合い続ければ、お前も闇に呑まれるぞ!!」

「…あなたの知っている宍戸譲はもう死んだんです、隊長」

その言葉を最後に、飛龍との通信が切断される。

グラハムはジョーが去っていった方向を見ているしかできなかった。

刹那のフラッグがブレイヴと接触回線を開く。

「グラハム・エーカー…」

「…久しぶりだな、少年。非公式ではあるが、君たちへの助力として、参上した」

「そうか、感謝する」

3年前、そして1年前に殺し合いを演じた間柄であるにもかかわらず、あまりにも短く、あっさりとした共闘の承諾。

だが、世界のために戦っていることをお互いにわかっており、これ以上の言葉は必要なかった。

「舞人。急いで町へ戻るぞ!まだ奴らは残っている!」

「そちらにも増援を送っている。おそらく…そろそろ決着がついているだろう」

「え…?」

 

-ヌーベルトキオシティ-

「くそ…!硬えぜ…!!」

フェイズシフトで阻まれ、ニオーに傷一つ与えることができないまま、パラメイル隊は消耗していく。

前列で戦っているアンジュとヒルダのアサルトライフルは弾切れとなっており、すでに手放されているうえに凍結バレットもない。

ナオミのグレイブのレールガンも残弾1で、ロザリーとクリス、エルシャも弾薬の残りが心もとない。

「アーキバスとヴィルキスの剣でも斬れない。どうすれば…」

ガレオン級のうろこを切り裂くはずの剣も、フェイズシフト装甲の前では意味をなさない。

もうニオー1機で十分と判断されているのか、他のニンジャ達はウォルフガングとビトンの応援に向かったため、ここにはいない。

「ふむ…ぬるい。その程度とは…」

「なんのぉーーー!!」

ヴィヴィアンがレイザーを最大戦速でニオーに接近させる。

そして、ブンブン丸で直接切り付け始めた。

「フェイズシフトだからって…一点集中すればぁ!!」

「無茶よ、ヴィヴィアン!!」

ニオーの頭に取り付き、何度もブンブン丸を切り付ける。

だが、サリアのいう通り無茶なことで、モビルスーツ以上の出力のニオーには意味をなさない。

逆にブンブン丸にひびが入ってしまっている。

「無駄なことをぉ!!」

ニオーの左手がレイザーをつかみ、ビルに向かって放り投げる。

「ヴィヴィアン!!」

受け止めようとヴィルキスが飛び出し、レイザーを受け止めるものの、勢いを抑えきれず、2機とも仲良く背後のビルに衝突してしまう。

「ヴィヴィちゃん、アンジュちゃん!!」

エルシャが声を上げ、2機と通信するが、雑音が聞こえるだけで2人からの応答もない。

ビルに激突した2機は路上に落ちていた。

レイザーはつかまれた部分が大きくへこんでおり、むき出しになったコックピットの中ではヴィヴィアンが頭から血を流した状態で気を失っている。

ヴィルキスもレイザーほどではないものの、装甲にひびが入っているうえに頭部パーツはスパークしている。

アンジュは打撲だけで済んだものの、電子回路に大きなダメージが発生しており、彼女の操縦を受け付けず、通信もつながらない。

「武士の情けよ…一撃で仕留めてくれようぞ!!」

「くっ…!!ヴィルキス、動き…なさい!!」

ゆっくりとこちらへ迫るニオーをにらみながら、アンジュは操縦桿を必死に動かす。

ヴィルキスを捨てて逃げ出すこともできるはずだが、今の彼女にその選択肢は浮かんでいなかった。

今どうなっているかわからないヴィヴィアンを置いていくことができなかった。

「アンジュ!!」

「ヴィヴィアン!!」

サリア達は残ったありったけの銃弾をニオーに浴びせるが、無慈悲にもはじかれるだけで、まったく速度を緩めることもできていない。

ニオーのコックピットにも振動が伝わっていない。

「さらばだ…勇敢なる…むおお!?」

急に別方向の至近距離からの爆発が起こり、ニオーが右に傾きかける。

「爆発!?」

「待たせたな、不死身のコーラサワー、改め幸せのコーラサワー、ただいま参上ーーー!!」

「コーラ…??欧米かぶれの飲み物が何の!?」」

今度はビームが飛んできて、棍を盾替わりにして受け止めながら下がっていく。

モニターには両腕にシールドを装備していて、額にV字アンテナをつけているGN-Xの姿が映っていた。

「あれって…スメラギさんが言っていた援軍!?」

「よぉ、嬢ちゃんたち!助けに来てやったぜ!ほら、さっさと仲間を助けてやりなよ!ここは俺と…このGN-XⅣで犯罪者を…」

意気込んだパトリックは再びライフルを撃とうとするが、その前にニオーが胸部からミサイルを発射する。

ミサイルは一定距離進んだ後で爆発し、その中の煙幕が周囲を包んでいく。

「なぁ…煙幕だぁ!?」

煙幕が晴れると、そこにはニオーの姿はなくなっていた。

助けに来て、ここであのニオーを倒すことでかっこいい姿を見せられると思った分、落胆は大きい。

「はぁ、いいところだったのに。おっと、それよりも…」

パトリックのGN-XⅣが倒れているヴィルキスとレイザーのもとへやってくる。

サリア達も安全を確認しつつ、2人のもとへと飛ぶ。

「ヴィヴィアン!ヴィヴィアン!!」

ヴィルキスから飛び出したアンジュはどうにかレイザーの中からヴィヴィアンを引っ張り出していた。

「こいつはひどい…すぐにメディカルベッドに寝かせろ!ソレスタルビーイングの船は近くにあるんだろ!?」

どうしてまだまだ戦えるはずのニオーが下がったのかはわからないが、それよりも重要なのはヴィヴィアンの容態だった。

 

-カトリーヌ専用輸送艦 グレート・カトリーヌ ブリッジ-

「まったく!!いいところだったのに、なんで引き上げなければならないの!!」

オードリーやほかのキャットガールズとともに戻ってきたビトンは納得できずに机をたたく。

ナデシコ隊のエステバリス3機と交戦していたが、突然の撤退命令がミスターXから出され、逆らえずに帰るしかなかった。

彼女たちとは先日交戦したことがあり、愛機であるフロマージュを破壊されただけでなく、体中を納豆まみれにされてしまった。

そのとき、ビトンはコックが落とした納豆で足を滑らせて転び、頭からかぶるという屈辱を受けた腹いせに納豆殲滅作戦を開始していた。

ちなみの、その作戦内容は以下の通りだ。

 

1.世界中の納豆好きをかき集め、ヌーベルトキオシティに作った納豆地獄に収容し、納豆漬けにすることでトラウマを植え付ける。

2.納豆につきものな卵を排除するため、養鶏所を破壊する。

3.納豆を食べられなくするため、箸が作れないようにその材料となる森林を燃やす。

4.日本中の納豆工場の破壊活動を行う。

 

そのせいで、ソウジ達が日本を離れている間に、日本国内で納豆が100グラム当たり50万円にも高騰するという、空前の納豆バブルが発生してしまった。

このような常軌を逸した作戦に参加していたキャットガールズはいったいどのような心境だっただろうか。

どこかの隻眼の狂犬とは違う、完全に頭のねじが吹き飛んだリーダーの元で働くことに不安を抱いたかもしれない。

だが、勇者特急隊とナデシコ隊がその作戦を叩き潰し、旋風寺コンツェルンが日本が管理する食料加工コロニーから納豆を大量に仕入れたことで、ようやく適正価格に戻りつつある。

なお、この世界の日本は食料自給率改善のため、食料加工コロニーや食糧生産コロニーを建造しており、そのせいか平成27年段階ではたったの7パーセントだった大豆の自給率は今では200パーセント以上になっており、純日本製の納豆が一種のブランド品として海外へ輸出されているらしい。

「カトリーヌ・ビトン様、命令である以上仕方ありません。それに、目標そのものは達成しておりますので、ミスターXからの報酬は確約されています」

「それはいいわ!でも、今一番許せないのは…」

ギリギリを歯ぎしりしながら、ビトンはホイの長くて太い憎たらしい鼻を思い出す。

彼の抜け駆けと裏切りまがいの攻撃はすでにビトンだけでなく、別方面で後退しているであろうウォルフガングとミフネの耳にも届いている。

ビトンもブリッジへ戻ってきた際に、差出人不明の映像でそれを見て知った。

ウォルフガングから無理を言って買ったニーベルゲンをすべて失ったばかりか、情けないことに1機も撃破できずに逃げ帰る醜態までさらしている。

「あの男…あの男がワタクシ達の下僕となればいいのよ!!」

「御心配には及びません。私たちはもう、二度とあの男と会うことはないでしょうから…」

「え…オードリー、それはどういうこと?」

「アジアマフィアからの暗号通信です」

オードリーから手渡された、解読済みの暗号通信が書かれた紙をビトンは読み始める。

読み終えた彼女はざまあみろと言わんばかりに笑みを浮かべ、だんだん抑えられなくなって高笑いを始めた。

 

-アジアマフィア総帥専用大型潜水艦 黒道 総帥室-

「ホイ様…DG同盟の方はいかがいたします…??」

パープルの助けで、ようやく黒道へ帰ることができたチンジャは震える体を押さえながら、ホイの指示を仰ぐ。

「今更どんな顔であいつらに会えばいいネ!?こうなったら、組織の総力を挙げて連中をしたがわせるネ!!チンジャ、本部に連絡するネ!!」

ボロボロになった自尊心をどうにかかき集め、ホイは自分が頂点に立つためのプランを再構築していく。

黒道にはまだまだパオズー5機とパープルが用立ててくれた最新鋭機のグレイヴ10機、そしてシャオマイがいる。

本国に帰れば、ヌーベルトキオシティ支部の何倍以上の戦力があり、ホイの権限で動かすことができる。

それを使えば、彼らを無理やり従わせることができる。

ホイには頭を下げて、彼らと同列であることを認めるなどという選択肢はなかった。

(それにしても、パープルはどうやってこんな機体を10機も…??)

どうにか冷静さを取り戻そうと、ホイにことわって水を飲むチンジャの頭に浮かんだ疑問がそれだ。

パープルがどのような経緯でアジアマフィアに入ったのかはわからないが、北京支部からの推挙で本部に入り、ホイやチンジャらとともに日本へ渡った。

そのあとは表向きは以前から続けているというロックバンドのブランカのボーカル&ギターを務めながら、国内の情報収集や日本での作戦づくりを行っていた。

そんな彼にそれらを手に入れるだけの力はないはずだ。

それに、そうした兵器などの調達があった場合は必ずホイやチンジャの耳に入るはずだ。

不審に思うチンジャをしり目に、ホイはさっそく本部に電話をする。

しかし、受話器を取ってからいつまでたっても繋がらない。

「どうなってるネ!総帥直々の電話の場合はすぐに出ろと何度も…」

「申し訳ありません、ホイ様。本部はもうあなたの電話には出ませんよ」

ドアが開き、ノックもせずに1人の男が入ってくる。

その男を見たチンジャとホイはハトが豆鉄砲を食らったような顔をし、ホイの手から受話器が零れ落ちる。

「パープル…!なぜ黒道の中にいるネ!それに、私を助けたからと言って無礼な…!!」

ホイのいうことを無視し、パープルは持ってきたベースで曲を流し始める。

これは今、ブランカの新曲として披露している曲、『Black Diamond』だった。

「気に入ってくれたかな?これが俺の新たな始まりの曲、そしてあなた方へ贈るレクイエムさ」

恭しいほど丁寧だった言動がきれいさっぱりなくなり、曲を歌い終えたパープルはホイの机に脚を置いてジロリと彼を見る。

「あんたのやり方は美しくない。ホイ・コウ・ロウ…アジアマフィアはこの俺がいただいた」

「き…貴様!!私に忠誠を誓ったのはうそだったのか!?」

「そんな昔のこと、もう忘れたさ…」

「ぐぬぬぬ…!!やつを殺せ!!殺せぇ!!」

狂乱するホイは船内のアジアマフィアのメンバーに命令を出す。

すると、わずか数十秒で警備兵が10人部屋に入ってくる。

しかし、彼らが握っているピストルの銃口はパープルではなく、ホイとチンジャに向けられていた。

「残念だったな、彼らはもう俺の部下だ。さあ…ホイ・コウ・ロウ。あんたのステージは終わりだ。もちろん、アンコールはないよ」

「ぐぬぬぬぬ…!!」

「さあ…美しく、最期を飾って見せてくれ」

 

-プトレマイオス2改 ブリーフィングルーム-

「どうだ…?ビリー、何かわかったことがあるか?」

ノーマルスーツ姿のままのグラハムがモニターに映る茶色いポニーテールをした眼鏡の青年、ビリー・カタギリと通信を繋げている。

最初にアジアマフィアがブレイヴを使っていたという話をした時のビリーは驚きの余り椅子から立ち上がり、しばらく座ることを忘れてしまっていた。

それほど驚いてしまうのも無理はない。

この計画は連合によって厳重な情報統制が敷かれており、情報の流出がないようにビリーをはじめとした研究者は公私ともに監視されている。

ただ、今は2人ともソレスタルビーイングがかかわっているということから、一時的に監視の目を外されている。

「駄目だ…異常なしだ。一体どうやって…」

グラハムから言われた通り、ブレイヴに関するデータの履歴などを厳重にチェックをしたが、情報流出の痕跡は見つからない。

パーツや設計図も流出しておらず、どうしてアジアマフィアがブレイヴを持っているのかはまったく分からずじまいだ。

「グラハム、頼む。おそらくアジアマフィアはあのブレイヴを使ってくるだろう…。すべて取り戻すか、君の手で破壊してくれ。犯罪者に使われて、世界を混乱させるよりはマシだ」

「分かっている。必ずやって見せるさ、友よ」

ビリーがブレイヴにかける思いはソルブレイヴス隊の隊長としてかかわってきたグラハムが一番よく分かっている。

この機体は最小限の被害で戦いを終わらせる切り札。

そして、疑似太陽炉の登場によって衰退してしまったかつての師匠である旧ユニオンの科学者であるレイフ・エイフマンの遺産であるフラッグシリーズを復活させるためのものだ。

それを志のない、欲望に忠実な犯罪者に使わせるわけにはいかない。

「アンドレイ・スミレノフ大尉がマネキン准将と共に動いてくれている。僕も技術者として、できる限りのことはするよ。じゃあ、健闘を祈るよ」

「ああ…また会おう」

通信が切れ、同時に刹那とフェルト、スメラギ、舞人が入ってくる。

フェルトの手にはタブレット端末が握られており、モニターと接続する。

「グラハムさん、受け取った暗号通信の解析、終わりました。これは…火星の後継者に関するデータでした」

解析してもらったのは戦闘終了後、グラハムのブレイヴに送られてきた暗号通信だ。

遠隔通信の痕跡はなく、おそらくはジョーと接触回線を開いていたときに彼から送られた可能性が高い。

モニターには火星の後継者の中枢とされるコロニーや火星の基地、そして戦力が表示される。

「火星の後継者とあの犯罪者たちがつながっていた…」

「この情報は本物の可能性が高い。おそらく、これが彼なりの今回のことの落とし前のつもりなのだろう…」

昔の自分は死んだ、とジョーは言っていた。

だが、どんなに捨てようとしても、良くも悪くも人は自分であることを捨てることはできない。

そのことは1年前、グラハム・エーカーとしての自分を捨て、ミスター・ブシドーとして、イノベイドの傀儡になり果ててでもガンダムを、刹那を倒そうとした彼自身が一番よく知っている。

改めて戦力を見ると、やはり一介のテロリストとしては過剰なほどの戦力を持っている。

積尸気やマジンだけでなく、ザクウォーリアやウィンダムといったモビルスーツまで持っている。

おまけにナスカ級を4隻所有となると、もはや1つの軍だ。

スメラギはこれらの戦力を見ながら、宇宙へ出た後の作戦を考え始める。

そして、グラハムは刹那達と共に入ってきた舞人に目を向ける。

「君か…勇者特急隊隊長、そしてマイトガインのパイロットの」

「旋風寺舞人です」

彼の顔と名前はメディアでよく出ているため、グラハムも知っている。

ただ、旋風寺コンツェルン総帥などという雲の上のような存在である彼がまさか救助活動や犯罪者やテロ組織達と最前線で戦ってきたことには驚いてしまう。

「…ジョーのことか?」

なぜ彼らとともにやって来たのかはもう察している。

それを肯定するように、舞人は首を縦に振る。

「ジョー…宍戸譲はかつて、彼は私の部下だった」

ジョーと出会ったのは4年前で、20年以上にわたって、地球を混乱に陥れた太陽光発電紛争から時期が過ぎたころで、当時のグラハムは上官殺しの汚名から軍の中で浮いていた。

その事件は6年前、当時ユニオンの量産モビルスーツであったユニオンリアルドの後継機を決める模擬戦で起こった。

模擬戦ではグラハムがユニオンフラッグに乗り、相手となったモビルスーツであるユニオンブラストのパイロットを務めたのは彼の恩師であるスレッグ・スレーチャー少佐だった。

彼はグラハムと46回の模擬戦を行い、全勝している不動のエースパイロットだった。

その縁で、かつてグラハムは彼の娘と交際していた時期があるが、パイロットとして空へのあこがれを捨てることができなかったことで別れることになってしまった。

戦闘機形態での機体性能はブラストが上回っていたが、汎用性を含めた総合性能ではフラッグが上回っていた。

スレッグの高い技量によって互角の戦いとなったが、グラハムがグラハム・スペシャルに成功したことで流れをつかんだ。

ここまでなら、高度な模擬戦としてテストパイロットの教科書に残り、語り継がれる名勝負となっただろう。

しかし、そこからが悲劇の始まりだった、

状況が不利となったブラストがモビルスーツ形態となったフラッグに特攻を仕掛けてきた。

グラハムは自衛のため、やむなくソニックブレイドでブラストの主翼を切り裂き、軌道を変えさせた。

自分を超える技量を持つ彼なら、翼を失ったとしても体勢を立て直す、不時着するだけの力があると信じて。

しかし、主翼を失ったブラストは墜落し、スレッグは殉職した。

彼が模擬戦で特攻を仕掛けてきた理由は公式では不明となっているが、グラハムや彼と共にスレッグとかかわりのあったビリーによると、彼の娘の夫が事業の失敗によって多額の借金を背負うことになり、彼は彼女を救うため、多額の保険金を自分にかけて、このような自殺めいた死に方をしたらしい。

実際、彼の死後に莫大な保険金が娘夫婦に降りたと聞いている。

なお、グラハムの行動についてはやむを得ない行動で、その行為以外に自分やフラッグを守る手段がなかったことが証明されていることから、不問として処理されている。

しかし、その事件がきっかけでグラハムは上官殺しの汚名をかぶることになった。

ジョーが彼の元に配属されたのは新人いじめをする先輩兵士を殴り、そこから大喧嘩に発展させたためだ。

同時に、アメリカへ移民してすぐに入隊した日本人であるジョーを扱いにくいという事情もあったのだろう。

「私は彼にグラハム・スペシャルをはじめとして空戦テクニックをすべて叩き込んだ。そして、彼はユニオンでも指折りのエースパイロットとなり、ソレスタルビーイングの追撃作戦にも参加している」

「それほどの人がどうして…?」

「私にも分からない。これ以上は…彼自身の口からきくしかないだろう」

グラハムがソレスタルビーイングと合流したもう1つの理由がそれで、かつての部下であるジョーからその真意を聞き出したいと思ったからだ。

彼らと共に行けば、軍にいるよりも行動が自由になり、ジョーと接触できるチャンスも増える。

何度でも噛みついて、ジョーに説得できる。

彼には自分のように闇を歩かせるわけにはいかない。

「少佐…その役目、俺に任せてもらえませんか?」

「君に…?」

舞人は2度ジョーと戦い、ジョーは舞人を異常なほどに敵視している。

そんな彼がグラハム以上に彼から何かを聞き出すのは難しいように見える。

だが、そんな彼だからこそ、彼の心からの本音をダイレクトに聞くこともできるかもしれない。

「分かった、君に任せよう。彼の君へのこだわり…もしかしたらそれが唯一の手掛かりかもしれん」

「ありがとうございます」

「その代わり…必ず勝て。勝たなければ、彼を救うことができない」

グラハムにできず、舞人にできることといえば、徹底的に敵視されること。

そんな彼と全力で戦い、敗れたなら、今の彼は破壊される。

その時こそが、対話のチャンスであり、彼の心を確かめることができる。

(そのためにも、もっと強くならないといけない。ガインも…そして、俺自身も…)

 

-プトレマイオス2改 医務室-

「ヴィヴィアン…」

メディカルカプセルの中で眠るヴィヴィアンをガラス越しから見つめるアンジュ。

その手には彼女からもらったペロリーナ人形が握られている。

しばらくして、医務室からアニューが青ハロと共に出てくる。

「アニューさん、ヴィヴィアンの容体は…?」

「骨折3か所に打撲多数。だが、内臓が傷ついていない。メディカルカプセルに1週間入れば、復帰できるさ」

「良かった…ありがとうございます!!」

「けど…本当ですか?治療費を取らないって…」

まだまだアルゼナルでのルールが染みついているサリアはこうした治療も自分たちで全額支払わなければならないとばかり思っていた。

ヴィヴィアンは第1中隊ではアンジュやヒルダに匹敵するエースパイロットで、稼ぎ頭でもあるが、収入の大半をレイザーの装備とペロリーナグッズに使っているため、治療費がない。

サリアは何度も彼女に貯金しておけと言ってきたが、まったく聞いていなかった。

「当然よ。困ったときはお互いさま」

「それにしても、すごいですね。アニューさんってなんでもできるんですね」

トレミーの操艦だけでなく、こうした医者としての心得があるうえに整備士、料理人としての顔も持ち合わせるアニューのハイスペックな実力にサリアはあこがれを抱く。

そのまなざしを受けることは別に悪い気分ではないが、少し複雑に思えた。

これらの能力の多くは生まれるときから身に着けており、自分で努力して得たものではないからだ。

「ヴィヴィアンは大丈夫だけど、問題はレイザーね。すっかりボロボロだから…」

回収されたレイザーの惨状はメイルライダー全員が見ている。

フレームがグチャグチャで、虎の子のブンブン丸も折れている。

コックピットは別の機体のものを取り付けるほかなく、レイザーそのものも実質ヴィヴィアン専用機であることからパーツが少ない。

現在、イアンとリンダ、ミレイナも協力して、アルゼナルから出向してきた整備士たちと共に修理にあたっている。

(あの犯罪者連中、覚悟して待っていなさい!!ヴィヴィアンの借りは必ず返して見せるわ…!)

 

-プトレマイオス2改 ティエリアの部屋-

「ああ、くそーー!あの子が大けがだから仕方ないとして…どうしてみんな俺に対しては何にもなしなんだよーー!!」

椅子に座ったパトリックはわめきながら出されたコーラを一気に飲み干す。

コップを置くとともに炭酸のせいで盛大にゲップする。

(なんで、彼は僕の部屋に来ているんだ?)

部屋の主であるティエリアが入ってきたころにはなぜか彼がここにいた。

グラハムとは違い、ソレスタルビーイングのメンバーのほとんどがパトリックのことを知らない様子だ。

唯一、スメラギは彼のことを少しだけ知っており、会った時はすごい剣幕を見せていた。

だから、唯一誰もいない部屋に入り込み、そこで寂しく飲んでいる。

「なんだよ!!不死身のコーラサワー改め、幸せのコーラサワーになったことへのやっかみか!?パトリック・マネキンにプライベートで名前が変わったから、もうコーラサワーでもないってか!?」

今のパトリックにはティエリアの姿など目に入っていない。

完全に寂しいマイワールドの中に埋もれてしまっている。

(こんな男に、僕は一度撃墜されたというのか…?)

3年前のフォーリン・エンジェルズで、ティエリアは自機を相打ちに近い形で撃墜されており、その相手となったのが目の前の彼だ。

一応、刹那にコテンパンに破れたAEUイナクトのお披露目の時まで、2000回以上のスクランブルをこなしたうえに模擬戦では全戦全勝、指折りのパイロットばかりを集めたGN-X部隊にもスカウトされ、何よりも何度も撃墜されても必ず生きて帰ってくることから、実力はあることは間違いないだろう。

だが、もう30を超えたいい年した大人のくせにこんなに子供のように喚き散らしているのを見ていると、とても強いパイロットとは思えなくなる。

同時に、一刻も早く彼に撃墜された事実を記憶から消したいとさえ思ってしまう。

遺恨とは全く別の話で。




機体名:ユニオンフラッグ(ソレスタルビーイング仕様)
形式番号:CBNGN-003
建造:ユニオン→ソレスタルビーイング
全高:17.9メートル
全備重量:77.2トン
武装:GNソードⅡ改、脚部クロー(リニアスピア内蔵)×2、内臓型リニアキャノン×2、ショートリニアキャノン×2、ソニックブレイド×2、プラズマソード、ロケットランチャーパック×2
主なパイロット:刹那・F・セイエイ

ソレスタルビーイングが所有するモビルスーツの1機。
ユニオンフラッグオービットパッケージコロニーガード仕様をフェレシュテがペーパーカンパニーを利用して購入し、ソレスタルビーイングが受領・改修を行った。
疑似太陽炉搭載型モビルスーツが大半を占め、3年間に2度も起こった大規模な戦争の影響で、一気に旧型化したものの、粒子貯蔵タンクを搭載することで短時間ではあるが、GNソードⅡ改を使用することが可能となっている。
その結果、現行の機動兵器と対抗できるだけの攻撃力は手に入れたものの、GN粒子を制御するグラビカルアンテナが存在せず、センサー類も粒子に対応できていないことからライフルの命中率は低い。
また、多くの武装を搭載していることから重量も増しており、素体となったユニオンフラッグオービットパッケージコロニーガード仕様と比較すると推進剤及びパーツの消耗率も高い。
そうした機体で現行の機動兵器に対抗できるのは歴戦の戦士であり、イノベイターとして覚醒した刹那だから可能の芸当と言える。
なお、この機体以外にもいくつかガンダムではない代替機を所有しているようだが、現状トレミーに搭載されているのはこの機体のみとなっている。

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