形式番号:GAT-04(推定)
建造:不明
全高:18.67メートル
全備重量:58.2トン
武装:M2M5トーデスシュレッケン12.5mm自動近接防御火器、ES04Bビームサーベル×2、Mk315スティレット投擲噴進対装甲貫入弾、M9409Lビームライフル、A52攻盾タイプE
主なパイロット:自動操作
エリアDに出没する謎の勢力が運用している機動兵器。
元々、1年前の大戦で疑似太陽炉搭載型モビルスーツのGN-XⅢと次期主力モビルスーツの座を争っていた機体で、旧ユニオンが強く肩入れしていた。
その理由はストライクダガーやユニオンフラッグを中心としたソルレシーブド・ヴィリアブルシリーズを供給していた旧ユニオンがGN-X、GN-XⅡなどの疑似太陽炉搭載モビルスーツによって失った市場を取り戻すためらしい。
また、疑似太陽炉搭載機と比較するとバッテリーや軌道エレベーターの太陽光発電システムから電力を無線供給する外部電源方式を搭載した機体の方がコストが安く、GN-Xシリーズで課題となっていた機体全体を覆う装甲が採用されている。
しかし、各パイロットによって微調整が容易となっているGN-XⅢが高い評価を受けたために結局敗れることとなった。
しかし、GN-XⅢなどの疑似太陽炉搭載モビルスーツの大半がアロウズに配備されたことで、棚から牡丹餅な形でほかの部隊に供給されることになった。
今回、エリアDで出現したこの機体はおそらく、アロウズ解体と共に疑似太陽炉搭載モビルスーツの供給が容易となったことで不要になり、払い下げられたものであると思われる。
-エリアD ポイント320-
「もうもう、何なのよ!あのモビルスーツは!!」
次々と飛んでくるビームを避けながら、アンジュは乱入してきた謎の勢力に悪態をつく。
あの白とオレンジのカラーリングの機体の部隊については既にスメラギ達から聞いている。
どういう目的で攻撃を仕掛けているのかは分からないが、ここで自分たちが死ぬ理由もない。
ヴィルキスはアサルトライフルを接近するウィンダムに向けて発射するが、倍以上の大きさと質量を誇るウィンダムの装甲に傷が入るだけだ。
「くそ!!モビルスーツ相手にパラメイルじゃあ分が悪い!」
「みんなは下がれ!ここは俺がどうにかする!!」
パラメイルでは勝てないと考えたアスランは前に出ると、ブレイドドラグーンを発射する。
(あの機体はどれも自動操縦…だとしたら、動きは読みやすい!!)
ブレイドドラグーンがアンジュ達に向けてビームを撃ち続けるウィンダムの腕と首を切り裂き、腹部からバックパックを貫く。
更に、ビームライフルを2発発射して、ザムザザーの直掩をしている2機のウィンダムのコックピットを撃ち抜いた。
あっという間に3機のウィンダムが撃破され、残りのウィンダムは攻撃目標をアスランのジャスティスに定めていく。
「アスラン様!!」
「ヒルダ、アンジュ、ナオミ!!みんなを下がらせろ!残念だが…パラメイルでは足手まといだ」
「く…!」
足手まといという言葉にヒルダは唇をかみしめるが、相手はドラゴンではなく人型機動兵器。
考えようによってはドラゴン以上に性質の悪い相手と戦って死ぬことを選択するほど、ヒルダも馬鹿ではなかった。
「ロザリー、クリス!下がるぞ!ここはアイツに任せるしかねえ!!」
「ヒルダ…!」
「そんな…」
愛するアスランを置いて逃げなければならない非力さに涙するクリスだが、今は逃げることしかできない。
ウィンダムの注意がジャスティスに向く中、アンジュ達は後退していった。
「よし…いいぞ。来るなら、俺のところへ来い。すべて撃破する」
おそらく、あの機体たちはアンジュ達を狙っている。
パラメイルのスペックではウィンダムのような現行のモビルスーツを倒すだけのスペックはなく、いくらアンジュとヒルダがいたとしても、全滅する可能性が高い。
ウィンダムはどうにかなるとして、問題はザムザザーだ。
陽電子リフレクターと4本脚についているビーム砲のおかげで、攻撃力も防御力も高い。
しかし、アスランは既にザムザザーの攻略法を知っていた。
ビームライフルの出力を絞り、ザムザザーの周辺を飛びながら連続発射していく。
うっとうしいコバエを払おうと、単装砲を次々と発射する。
ヴァリアブルフェイズシフト装甲を採用したモビルスーツに実弾は効果が薄いものの、戦艦の主砲レベルのそれを受けた場合はフレームや電子系統が持たない。
更に、パイロットがその衝撃で死んでしまう可能性もある。
だが、追尾性もない直線的なものであるため、簡単に回避できた。
その間に発射していたブレイドドラグーンがザムザザーの真下に到達する。
(いまだ!!貫け!)
アスランの意思に応えるように、ブレイドドラグーンが真上に向けて飛ぶ。
しかし、急に機体周囲をオレンジ色のフィールドが包み込み、ブレイドドラグーンを阻んだ。
「何!?GNフィールド!!あの機体には疑似太陽炉が搭載されているのか!?」
ブレイドドラグーンの持続時間を考え、アスランは一度それをファトゥム02へ戻す。
アヘッドやGN-XⅢ、トリロバイトなどの疑似太陽炉搭載機を使っていた部隊と同じ可能性が出て来て、そう考えるとあのザムザザーもそれを搭載できるよう改造されていたとしても不思議ではない。
もはや隠し立てする必要がないと判断したのか、ザムザザーの背中の装甲が開き、4基の疑似太陽炉がむき出しとなる。
そこからはオレンジ色のGN粒子が散布され始めていた。
そして、4本脚から一斉にオレンジ色のビームがジャスティスに向けて発射される。
スピードが速いものの、直線的であることに変わりないため、ザムザザーの真上へ行くように移動してやり過ごそうとする。
しかし、ビームはまるでその動きを呼んでいたかのように曲がり、ジャスティスに迫っていた。
「何!?」
ザムザザーがフォビドゥンのような曲がるビームを発射してきたことにアスランは驚きを隠せなかった。
かつて、アスランが戦ったことのあるゲシュマイディッヒ・パンツァー搭載モビルスーツのフォビドゥンはそれを利用してビームを曲げることができた。
見た限りでは、ザムザザーは改良されているとはいえ、それを搭載しているようには見えない。
考えられたのはかつて、刹那らソレスタルビーイングのガンダムが交戦したことのあるアロウズ、正しく言えばアロウズを操っていたイノベイド達が運用していたモビルアーマー、レグナントに搭載されていた技術だ。
レグナントはデストロイに相当する驚異的なモビルアーマーで、その機体はGNフィールドの近似技術で一本にまとめられた三本のビームが、互いに干渉しあうことで軌道の変更を可能にしている。
ただし、イノベイド達もその技術が利用されることを恐れていたのか、連合軍がイノベイドの根城と化していたソレスタルビーイングを接収した際には高度の暗号によって、それをはじめとしたイノベイドが開発したモビルスーツなどに使われた技術が解析できなくなっていた。
先ほど書いた原理についても、アニューが言っていただけで彼女は情報収集型のイノベイドであるとはいえ、そのような高度な技術のほとんどをリボンズが独占していたために再現できていない。
曲げることができる上に出力とスピードに変化がなく、避け切れないと悟ったアスランはすかさずビームキャリーシールドを出力最大にして受け止める。
機体全体を覆うようにビームシールドが展開され、直撃するはずだったビームを受け止める。
「ぐう、うう…!!」
機体のエネルギーのほとんどをビームシールドに回さなければならず、果たして発生器がそれに耐えられるかどうかが不安だった。
兄弟機であるストライクフリーダムの場合なら、両腕にビームシールドが搭載されているため、仮に同じ状況であれば負担が分散できるように両腕で同時にビームシールドを展開してガードしていたかもしれない。
動かすことのできる頭でザムザザーを見ると、GNフィールドが消えており、ザムザザーもこのビームを発射するために出力を回していることが分かる。
だが、少しでもビームシールドの出力を弱めると機体が焼かれるうえにビーム主体となっているジャスティスに対して、攻撃側に回っているザムザザーには単装砲などの実弾武装がある。
単装砲の砲身がゆっくりとジャスティスに向けられる。
更には動けないジャスティスを後目にウィンダム達が再びアンジュを狙い始める。
「く…!!」
動けないアスランは苦い表情を浮かべながらその単装砲を見る。
しかし、真上から海へ落ちるように飛んできた一条のビームが単装砲を撃ち抜く。
「はあああああ!!!」
「あの機体は…!」
アスランとほぼ同時に新たな機体の存在に気付いたザムザザーはビーム発射をため、その機体をカメラで確認する。
AI操縦であるザムザザーは機体の存在をカメラやセンサーで確認しなければ特定できないが、アスランにはその機体が何かをもうすでに感じていた。
「デスティニー…シンか!!」
上空でデスティニーはアロンダイトを両手で構え、ザムザザーに向けて突撃する。
ジャスティスへの攻撃でビーム砲にインターバルが発生しているザムザザーはイーゲルシュテルンと単装砲で攻撃する。
だが、光の翼を展開したデスティニーはミラージュコロイドとの応用によって、残像を生み出していき、銃弾は残像に当たるだけでデスティニー本体に命中しない。
「疑似太陽炉搭載のザムザザー!?いったいどこの誰がそんなものを!?」
シンはその改造され、カラーリングも別物に変えられたそのモビルアーマーに嫌な予感を感じていた。
デュランダルが死に、ロゴスが解体されたことで混乱する地球とプラント。
その混乱に乗じて、また多くの人々が死んだ戦争を再び起こそうとする存在の影。
戦争によって家族を失い、妹と共に心に深い傷を負っただけでなく、戦争を陰で操ったデュランダルに踊らされたシンだからこそ、その存在を許すことができない。
「また戦争がしたいのか、あんたはぁ!!」
叫びと共にアロンダイトのビームの刃が形成され、槍のようにザムザザーを突き刺そうとする。
再びGNフィールドを展開するザムザザーだが、ブレイドドラグーンを上回る質量のアロンダイトとぶつかり合い、しばらく鍔ぜりあう。
しかし、アロンダイトはそのオレンジの障壁を貫き、そのままザムザザーの頭部を貫いた。
甚大なダメージを負ったザムザザーのGNフィールドが消滅し、その巨体に隙ができる。
「うおおおおお!!!」
アロンダイトを下に振りぬいたデスティニーはとどめの一撃として更にビーム砲を撃ちこむ。
思わぬ奇襲でダメージが限界を超えたザムザザーはオレンジの粒子をまき散らしながら爆散した。
「シン…来てくれたか!」
「お久しぶりです、アスラン。けど、今のはカッコ悪かったですよ」
「言ってくれるな…」
モニターに映るシンの顔を見て、アスランは少し安心していた。
去年の大戦で、アスランが抱えることになった後悔の1つの中にはシンがある。
自分も迷いを抱え、苦しんでいたとはいえ、部下であったはずのシンの心の傷や思いを理解することができず、彼が自分の守りたいものを守るための手段として力に傾倒していった際には上官としてではなく、敵として否定することしかできなかった。
きっと、今彼がこうしてここに来ることができたのは、恋人となったルナマリアと唯一の肉親であるマユの回復が大きいだろう。
「そうだ…ここを突破したウィンダムは!?」
「大丈夫。ルナが行っています!」
「ルナマリアが…」
「これなら…どう!?」
ナオミのグレイブが自分たちを襲うウィンダムの1機にレールガンを撃ちこむ。
脆弱性のある首の関節に命中したことで頭部を失い、メインカメラのないウィンダムは攻撃する術を失っていた。
「攻撃できなきゃ、ただのカモだ!!」
攻撃できないウィンダムめがけてヒルダのグレイブが突撃し、パトロクロスを何度もコックピットに突き立てる。
4回目でようやくコックピットを貫通し、機能停止したウィンダムが海へ落ちていく。
パトロクロスには赤い液体がついていないことから、ヒルダは改めて無人機と戦っていることを実感していた。
パラメイルの中では最大火力のレールガンを関節部に命中させることでようやくダメージを与えられるが、今の出撃メンバーの中でそれを持っているのはナオミのグレイブだけだ。
砲撃支援ができる3機の火力でさえ、モビルスーツに傷を与えることしかできない。
「くっそおおお!!イタ姫と付き合って、今度はアタシらまで死ぬのかよ!?」
「黙れ!!死にたくないなら、戦え!!」
今はロザリーの泣き言など聞きたくないアンジュはそう叫ぶとともにアサルトライフルを連射する。
だが、ドラゴンとの戦闘でも弾数を使ったこともあり、弾切れが発生する。
もはやストックのマガジンもなく、アサルトライフルは無用の長物と化していた。
「くそ!!」
アサルトライフルをウィンダムに投げつけるが、軽々とシールドで受け流される。
そして、ラツィーエルを抜く間もなく、ウィンダムはヴィルキスに肉薄した。
(まずい…!!)
パラメイルでは、モビルスーツに一発装甲で殴られるだけでも致命傷。
このままでは自分もヴィルキスごとバラバラにされてしまう。
自分もゾーラのような死に方をするのか。
アンジュは目をつぶり、覚悟を決めようとする。
だが、攻撃しようとしたウィンダムはいきなり真上から飛んできたモビルスーツによって海に蹴り落とされた。
「ねえ、そこの白いええっと…パラメイル、大丈夫!?」
「え…?あなたは…?」
「味方よ。私はルナマリア・ホーク。アスランって人からのお願いできたの」
「アスランの…?」
そのようなことをアスラン本人から一言も聞いていないアンジュは目を丸くする。
だが、まだウィンダムは何機か残っていて、アンジュ以外のパラメイルを狙い始めていた。
「さあ…この装備の全力、出してあげる!」
「まさか…たった1機であのモビルスーツと戦う気!?」
「大丈夫。私だって…『赤』なのよ!」
2本のムサシを手にしたインパルスがナオミらを狙うウィンダムに向けて突撃する。
側面からの敵の反応に気付いたウィンダムはビームライフルをインパルスに向けて発射する。
だが、こちらへ向けて飛んでくるビームをインパルスはムサシを盾替わりにして受け止めた。
シールドを排除した代わりにムサシには対ビームコーティングが施されており、それを盾替わりにすることでビームライフル程度の防御が可能になっている。
「ええい!!」
ビームの刃を形成したムサシでウィンダムを一刀両断する。
味方機1機の反応が消えたことで、他のウィンダムもインパルスの存在に気付く。
スティレットやビームライフルがインパルスに向けて飛んでくる。
さすがにこの弾幕ではさばききれないため、ルナマリアはインパルスのスラスターを全開にしてその場から離れる。
いきなりの急加速はフォースインパルスに乗っている間、何度か経験したものの、近代化整備によって性能の上がったこのスラスターのせいで意識を持っていかれかける。
しかし、これで相手の攻撃から逃れることができたインパルスは2丁のショートビームライフルを手にし、連射を始める。
2機のウィンダムがビームの雨に飲み込まれ、1機は左腕を失い、1機は関節や胴体を次々と撃ち抜かれて爆発した。
(『赤』っていうのは分からないけど、やれるようね)
その色の意味は分からないアンジュだが、少なくとも彼女がヤワではないことは分かった。
ただ、アスランの時といい、やはり赤はいい気持ちにならない。
なお、彼女が言っていた赤というのはザフトの一部の兵士にのみ着用が認められた制服の色で、プラントの士官学校の卒業成績上位20位以内の兵士だけが着用できる。
プラントで毎年どれだけの士官学校卒業生が輩出されるのかは分からないが、少なくとも優秀だということは分かる。
なお、ザフトは士官学校が存在するにもかかわらず、職業軍人で構成されている組織ではないために階級制のない義勇軍という奇妙な存在となっており、たとえ赤服を手にしたとしても、ザフト内では一般の緑服とは平等だ。
しかし、3年前の大戦で赤服のパイロットがかつて地球連合軍が開発した5機のガンダムのうちの4機を奪取するという大きな戦果を挙げたことからザフト内ではエースパイロットの1つのステータスとなっている。
そのためかルナマリアも赤服には誇りを持っており、同時にその重圧も感じていた。
だが、戦争が終わり、平和のためにシンと共に戦う道を選んだ彼女にとっては些細な問題だった。
そんな中ショートビームライフルの弾幕から生き延びたウィンダムの1機がビームライフルをインパルスに向ける。
だが、そのウィンダムはこちらへやってきたデスティニーのビームライフルを受けて爆散した。
すべての無人機の撃破に成功し、アスラン達を安堵の空気が包む。
「よ、よかった…生き残れた…」
クリスはほとんど無抵抗な状態で大きなモビルスーツに襲われた恐怖で震え、生き延びたことを実感する。
ロザリー達も口にはしていないが、今回は本当にアスラン達の助けがなかったら全滅していたかもしれず、こうして危機が去ったことへの安心感を抱いていた。
だが、その空気はアスランとルナマリアと同じ『赤』によってぶち壊される。
「…。だがよ、アンジュ!」
ヒルダは通信をヴィルキスとつなげ、アンジュをにらみつける。
モビルスーツとの戦いの前に、自分がとどめを刺そうとしたガレオン級をかっさらったことへの怒りがここでよみがえっていた。
「何よ?私は普通に戦っていたつもりだけど?」
不敵な笑みを浮かべるアンジュはヒルダが何を言いたいのか分かっていた。
だが、自分を殺そうとした彼女がどんな文句を言おうと、彼女にとっては知ったことではない。
「しらばっくれてんじゃねえよ!この泥棒猫が!!」
「メス豚よりは、泥棒猫の方がちょっとマシね。その泥棒猫に負けたあなたたちは猫に狩られる薄汚いドブネズミってところ?」
笑みを崩さないアンジュはさらに畳みかける。
ガレオン級を倒したのは自分であり、格の違いをさらに強調するために。
それがヒルダだけでなく、ロザリーとクリスの怒りの導火線に火をつける。
「く、悔しい…」
「ちっくしょおおお!!こんな結果、認められるかよ!」
「な、なんていうことだ…」
「ますます関係が悪くなっちゃった…」
アスランとナオミはさらにこじれた関係になったアンジュ達に頭を抱える。
今回の戦闘で、可能な限り彼女たちの関係をよくしたいと思ったが、本人たちにそんな気がさらさらない以上はどうにもならない。
どこか強制力のあるもので縛り付けるしかないのか?
「な、何なんだ、こいつら…」
彼女たちの通信が聞こえていたシンはこのドロドロした口喧嘩に恐怖を覚える。
アルゼナルについては既に出撃前にカガリから聞かされており、アルゼナルと闘いしか知らない彼女たちの特異な環境も理解しているが、自分の考えている以上に彼女たちはとんでもなかった。
いざ弱みを見せたら、身ぐるみをはがされそうな感じで、とても気を抜くことができない。
(もしかして、アスラン…ドラゴン達じゃなくて、この子たちが手に負えなくて私たちを…?)
高性能なモビルスーツであるジャスティスを操るアスランであれば、ドラゴン相手に後れを取ることはないだろう。
アスランの彼女たちにたじたじとした対応をしているのを見ると、どうしても戦い以外の理由が頭に浮かんでしまい、うろたえる彼に思わず笑いかけてしまう。
だが、警告音が鳴り響くとともにモビルスーツの反応が出る。
「これは…みんな、警戒しろ!まだ戦いは終わっていないぞ!」
今度は東方向からGN-XⅢとアヘッドの混成部隊が15機近く現れる。
「またモビルスーツ!?」
「まだ私たちを狙うつもりなのかよ!?」
「ちぃ…!奴らは何が目的で彼女たちを狙うんだ!?」
ジャスティスなどの反応を感知したアヘッドが配下のGN-X2機と共にGNビームライフルを発射しようとする。
しかし、その前にライフルを速度の高いビームで撃ち抜かれ、更にコックピットもわずかなタイムラグで飛んできたビームに撃ち抜かれて消滅する。
「このビームは…サバーニャの!?」
「正解だ。遅れて悪かったな、アスラン」
ロックオンの声が聞こえ、西方向からトレミーがやってくるのが見えた。
ハッチが開き、そこからヴァングレイと共にサバーニャを除くソレスタルビーイングのガンダム達、そしてサリア、エルシャ、ヴィヴィアンのパラメイルも出撃した。
「ふん…増援なんか来なくって、私1人で…」
「だったら1人で勝手にやってろ、イタ姫!!」
「そんなに報酬を独り占めしたいのかよ!?モビルスーツに蹴っ飛ばされて死んでしまえ!!この守銭奴!」
「守銭奴はどっちよ!?私が報酬をかっさらった程度でネチネチと…」
「うるさい!!あんたなんかに貧乏のみじめさがわかるもんか!」
「不幸自慢なんて聞くつもりもないわ!だいたいあなたたちは…」
アンジュもコバエみたいなロザリー達の暴言をこれ以上我慢できず、戦闘を放置して口喧嘩を始める。
設定が面倒なのか、オープンチャンネルで行っており、戦っているアスラン達にもしっかり聞こえている。
「ほんっとうに、あいつらは…!」
彼女たちの醜態にサリアはもう我慢できず、操縦桿に力が入る。
こうなったら、思い切ってこちらも言ってやろうと思い、口を開こうとするが、その前に別の女性の声が割り込んだ。
「いい加減にしなさい!!!!!」
キーンとスピーカーから響くほどのスメラギの怒声で、アンジュ達は沈黙する。
トレミーのブリッジクルー達はダイレクトにその声が聞こえてしまい、思わず耳をふさいでしまう。
(ス…スメラギさん、かなりストレスがたまっていたみたい…)
アニューはアルゼナルでメイルライダー達とかかわってから一段とスメラギの飲む酒の量が増えたことを思い出した。
医者の勉強をしたことのあるアニューは彼女の酒の量の管理をしており、健康とこれからのために何度か指導しているが、一向に治る気配がない。
人の上に立つ人間の大変さを感じる一方、総司令であるジルがなぜこれを放置しているのか、彼女にはわからなかった。
「アンジュ!あなたが決着をつけるというから、わざわざジル司令に頼んで許可してもらったというのに、どういうこと!?余計悪化しているじゃない!!」
「でも…」
「アスラン!!あなたがついていながら、これはどういうことなの!?」
アンジュの弁解など聞きたくないスメラギの怒りが今度はアスランに飛び火する。
1年前の大戦で曲がりなりにもモビルスーツ部隊隊長を務めた彼が少しも問題を収束できていないことに彼女は腹を立てていた。
そんなスメラギの剣幕を前にアスランは何も言うことができなかった。
「もういいわ!!あなたたちの言い訳なんて聞きたくない!!」
「で、でもよ…スメラギさんよ…もとはと言えばアンジュが…」
「黙りなさい!!」
「ひっ!」
空気を読まずに口答えしてしまったヒルダは思わずひるんでしまう。
怒りの表情を変えず、目線を向けられたフェルトは大急ぎでアルゼナルに暗号通信を送る。
とても今のスメラギの顔を見ることができなかった。
「はっきり言うわ!この原因はもっと別のところにあるわ!!もう、あなたたちに任せておけない!私が解決する!!これより、アルゼナル第1中隊はソレスタルビーイングが買い上げます!!」
「な、何だって!?」
「買い上げって…」
「ここからは私が説明しますね」
スメラギのまさかの言葉にロザリーとクリスは驚きを隠せない中、今度は通信機からテレサの声が聞こえてくる。
ダナンは現在、調整とアーム・スレイブ、サブフライトシステムの部品製造のためにアルゼナルに残っていた。
「これより、パラメイル第1中隊への報酬は基本的に給料制とします。中隊長であるサリアさんが中尉、副隊長のヒルダさん、ヴィヴィアンさんが少尉、曹長にはエルシャさん、ロザリーさん、クリスさん、アンジュさんとします。また、給料は基本的にキャッシュではなく、アースダラーで支払、キャッシュ・アースダラー間での両替は無料でこちらで対応します」
これはノーマであるアンジュ達をあくまで1人の人間として扱う上で雇用するためにスメラギと協議して決めたことで、円とアースダラーのどちらを使うかについては意見が分かれた。
旋風寺コンツェルンのおひざ元、ヌーベルトキオシティが基本的には拠点になる可能性が高く、アンジュ達が仮にそこで外出することがあった場合、円の方が扱いやすい。
だが、国際通貨がアースダラーで、これからどう動くことになるかわからないことから、アースダラーでの支払いという形となった。
「給料は基本給にプラスして私とスメラギさんで行う査定結果に応じて毎月支給します。なお、査定には戦果だけでなく、チームワークや素行も対象となります」
「チ、チームワーク!?」
「素行!!」
あくまで戦果を重視していたアルゼナルと全く異なる査定システムにロザリーとクリスはもう何度驚くことになったかわからなくなっていた。
だが、撃墜数偏重ではなくなるため、もしかしたらヒルダをサポートし続けることによる動きも評価されるかもしれない。
そんな淡い希望を抱く中、テレサは笑みを見せる。
「このシステムはミスリルで採用されているものをそのまま使ったものになります。なお、基本的な飲食費や光熱費、機体整備費用はすべてこちらが負担します」
「嘘…!?」
「やったー!タダで食べれるのー!?」
アルゼナルではキャッシュがなければ満足に食事もとれないうえに弾薬も機体修理、改造にも金をとられていた。
それが当たり前の環境で育ってきた分、そんなおいしい話があるのかと逆に警戒してしまう。
だが、ヴィヴィアンは飲み食いが保証されることに喜んでいて、次に買うペロリーナグッズのことを頭に浮かべていた。
「なお、特別な戦果を挙げた方には給料とは別にボーナスも支給します。詳しいことは戦闘終了後にお話しいたしますね」
「そんなの、認められるかよ!?」
虫のいい話だが、よそ者であるスメラギやテレサにシステムまで変えられることにはヒルダは納得できない。
そんなヒルダの言葉を無視し、スメラギはフェルトから返信の書類を受け取った。
それは第1中隊売買に関する契約書であり、即座にスメラギは自分の名前をサインする。
「ジル司令は喜んで売る…とのことです」
「決まりよ!これで、あなたたちは私たちの物よ!!契約書もある!!戦いが終わって、キャッシュを払えば終わり!」
「け、契約書!?」
「ノ、ノリエガさん!キャッシュなんて、ソレスタルビーイングには…」
「問題ないわ!もうラッセが動いてる!」
スメラギの言葉の意味が分からず、フェルトたちは首をかしげる。
そういえば、今日アルゼナルから発進する際にラッセはスメラギから何かを言われ、アルゼナルに残っていた。
そのため、今はイアンが代わりに砲撃手を勤めている。
彼がソレスタルビーイングに入る前はマフィアだったことは知っているが、その立場はソレスタルビーイングでもアルゼナルでも意味のない肩書だ。
「さあ、ここからはあなたたちは私たちの指揮下に入る!いいわね!」
「イエス・マム!」
ただでご飯が食べられるなら文句はないヴィヴィアンはあっさりとスメラギの命令に応える。
とはいえ、パラメイルでモビルスーツを倒すにはコックピットや関節をピンポイントで狙わないと難しい。
また、ダブルオークアンタなどのモビルスーツが存在することから直掩に回り、持っているアサルトライフルでトレミーに向けて飛んでくるミサイルを撃ち落とすことに徹した。
「フフ、頑張らなきゃね」
「え、ええっと…」
「あきらめろ、スメラギ・李・ノリエガはこうと決めるとテコでも動かない」
長年一緒に戦い、彼女の押しの強さを知っているティエリアはやんわりとアンジュの言葉を封じる。
その中でも、トレミーへ飛んでくるビームをGNフィールドで受け止め、GNビッグキャノンのチャージを始める。
ハルートとサバーニャ、ヴァングレイが次々と発射するビームとミサイルでモビルスーツ部隊が徐々に射線上へ誘導されていく。
「いいぜ、ティエリア!」
「了解。GNビッグキャノン、発射!」
トリガーを引くとと同時に高濃度圧縮粒子が解放され、射線上のモビルスーツはその圧倒的な火力のビームの中で爆発を許されずに消滅していく。
「ナイン、敵機の反応は?」
「ありません、ティエリアさんが撃破したもので最後のようです」
「はは、エースパイロットまみれじゃあ、俺たちの出番もなくなるな」
助っ人でやってきてくれた2人とアスラン、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターにミスリル。
ヤマトとはぐれてから、これだけのエースパイロットが集まり、ソウジは彼らとの差を感じずにはいられなかった。
(こりゃ…もっと強くならなきゃあな)
「戦闘終了ね…サリア!!じゃじゃ馬たちをトレミーに戻しなさい!」
「イ、イエス・マム!」
契約が成立している以上、ジルの顔に泥を塗るわけにはいかず、サリアは疑問を押し殺しながら命令に応じる。
「で、アスラン。ザフトの青い稲妻を含めたあの2機は味方ってことでいいんだな」
「ええ。俺が呼びました。彼らの着艦許可を」
「構わないわ。あなたが呼んだというなら、信じられる」
「ありがとうございます、スメラギさん」
トレミーのハッチが開き、パラメイルとモビルスーツは帰投していく。
「ソレスタルビーイング…」
「シン…」
「俺たちは、確かに議長の指示であいつらと戦ったことがある…」
1年前の大戦で、シンとルナマリアは復活したソレスタルビーイングと交戦したことがある。
最初に戦ったのはエンジェルダウン作戦の時だ。
その作戦はアークエンジェルとフリーダムを撃破する作戦で、その時は地球にいたソレスタルビーイングはカタロンと共にアークエンジェルの救援を行っていた。
クラウス・グラードら穏健派のカタロンはアロウズの強引な行動に懸念を抱いていたカガリやクライン派から支援を受けており、アークエンジェルとも共に戦ったこともあるため、彼らを失うわけにはいかなかった。
ソレスタルビーイングはアロウズと戦う傍ら、イノベイドや議長の思惑を探っており、アークエンジェルとクライン派とも協力関係にあった。
そこでシンはダブルオーライザーと戦うことになり、フリーダムを撃破してすぐの連戦となったこと、ダブルオーライザーの性能がストライクフリーダムやインフィニットジャスティスに匹敵していたこともあり、当時のシンの愛機だったインパルスは大破してしまった。
しかし、ダブルオーライザーは撃破されたフリーダムのパイロットの救出を優先させたために命を拾った。
その後はオーブでデスティニーで戦い、互角に渡り合った。
ただ、一度だけ共闘したこともあり、ダイダロス基地でソレスタルビーイングと共にロゴスのリーダーであるロード・ジブリールを討ち取った。
ソレスタルビーイングは本当にロード・ジブリールを討ち取るべきかは疑問を抱いていたようだが、彼がダイダロス基地で巨大ビーム砲と、月の周辺に配置された複数の廃棄コロニーから成る軌道間全方位戦略砲、レクイエムを発射したことで、討ち取ることを決定した。
そこから発射されたたった1発のビームのせいで、ヤヌアリウス・ワンからフォーに直撃し、 その崩壊に巻き込まれる形でディセンベル・セブン、エイトが壊滅、合計6基のプラントが崩壊し、150万人以上の住民が死亡したからだ。
彼の虐殺を止めるには殺すしかなかった。
そのたった1度の共闘で、シンはソレスタルビーイングが本当に敵なのかわからなくなった。
メサイヤ戦の前に、デュランダルとそのことについて話したが、彼からはソレスタルビーイングは将来、デスティニープランで障害となる存在であり、オーブとも連携しているから討てとだけ言われた。
戦闘中は盲目的にその言葉に従ったものの、もう戦争は終わり、デュランダルもいない。
「俺は…俺の眼であいつらがなんのために戦っているのかを確かめたい」
「ええっと…アスカさん、ホークさん、2番ハッチから入ってくださいです!」
「了解」
ミレイナの通信とガイドビーコンに従い、シンとルナマリアはトレミーに着艦した。
全機帰投したトレミーは反転し、アルゼナルへ向かう。
その中で、スメラギは再びダナンと通信を繋げた。
「テッサ。ありがとう。あなたが提案してくれた作戦、うまくいったわ」
今回の第1中隊買い上げ作戦の立案者はテレサで、査定システムがミスリルとほぼ同じになっているのも彼女の存在が大きい。
「いえ、私たちも傭兵ですから。報酬で動く人間の気持ちは分かるつもりです」
本当はミスリルが買い上げる形を取りたかったものの、テレサ達は別次元の人間であり、同行も元の世界へ帰るめどがつくまでということになっている。
それよりは同じ次元の組織であるソレスタルビーイングが買い上げたほうが都合がいい。
「報酬…3年前を思い出すわ…」
3年前、武力介入を始めたばかりの頃のソレスタルビーイングはメンバー全員に自分たちの過去について守秘義務が課せられており、給料もヴェーダの査定を元に支払われていた。
そのため、気質としては傭兵に近かった。
(クリスも、よく給料が出たとき散財してた…。子供ができたから、少しは改善されてたらいいけど…)
フェルトは今は日本にいる自分の姉貴分のような存在、クリスティナ・シエラと3年前、地球でよくショッピングに連れまわされたことを思い出す。
1年前、イノベイドの根城となっていたソレスタルビーイング号への最終決戦に臨む際、クリスが当時のトレミー操舵手であったリヒテンダール・ツエーリ、愛称リヒティの子供を妊娠していることを告白した。
そのことはリヒティも知らなかったことで、自分の子供ができたことが信じられず、喜びのあまり大泣きしていた。
彼は2度にわたる大戦よりも前に発生した太陽光発電紛争で重傷を負い、体の半分を機械にして生き延びていた。
そのことから自分の体にコンプレックスを持っており、更にそのことを周囲に知られたくないことから服も水着もすべて全身を覆うものになっていた。
3年前のフォーリン・エンジェル作戦の時で、GN-Xがガンダムの守りを突破してプトレマイオスに攻撃した際にブリッジに残っていたクリスをかばったのが関係が深まるきっかけだ。
攻撃をまともに受ける形となったリヒティの機械の体はボロボロになり、クリスも重傷を負った。
しかし、将来を見据えてソレスタルビーイングと関係を作ろうともくろんでいたネルガルによって救出されたことを2人は一命をとりとめ、そこから彼らは恋人同士となった。
1年前の大戦を前に回復した2人はソレスタルビーイングのメンバーとして共に戦い続けながらも、恋人としての時間も過ごした。
その中でリヒティは半分機械であることを強く自覚し、子供のことをあきらめていたため、余計嬉しかったのだろう。
無事に双子が生まれたことから、ネルガルの庇護の元、日本で育児休暇を取っている。
先日、ルリから送られたデータの中にはクリス達の写真も入っていて、幸せそうな姿を見て安心した。
-トゥアハー・デ・ダナン 第2格納庫-
「メリッサ、どうかしら?」
格納庫に入ったテレサはガーンズバックの中で作業をしているマオに声をかける。
年が離れているものの、同じ女性であり、気が合うためか友人のような関係になっている。
彼女のガーンズバックには先日撃破した謎の勢力のモビルスーツの残骸が接続されている。
イアンとサックスの頑張りで、別次元の機体同士の接続ができたうえ、OSが無事であることも分かった。
マオは電子戦のスペシャリストで、彼女のガーンズバックが電子兵装と通信機能が強化された指揮官機であるため、解析には自信があった。
「ふうう…出たわ、テッサ。この機体…エリアDに入ってきたものを攻撃するようプログラムされていて、中には気になるのもあったわ」
「気になる物…?」
「ええ。なんでも、ドラゴンの死体を回収して、指定されたポイントまで移動するプログラムも込みでね」
ガーンズバックから出たマオは手持ちの端末とガーンズバックを接続し、テレサに見せる。
端末にはエリアDの地図が表示されており、指定されたポイントの座標もある。
「ドラゴンの死体の回収…移動…。でも、どうして?」
「さあ?そこまでは分からなかったわ。もし、この世界の言語はまったく違っていたらお手上げだったかも。ついでに調べたけど、どうやらこの機体…出所は始祖連合国みたいよ」
「始祖連合国…」
GN-XⅢやトリロバイト、アヘッドなどの機動兵器を仕入れ、整備するだけの財力とアスランが交戦した疑似太陽炉搭載のザムザザーやフェイズシフト装甲付きのトリロバイトを作るだけの技術力。
火星の後継者がそれだけの財力や技術力があるとは思えず、そうなると始祖連合国が一番に頭に浮かぶ。
だが、なぜドラゴンを回収しなければならないのかが分からなかった。
「どうもキナ臭いわね。また何かわかったら言うわ」
「ええ。ありがとう。それからこのことは…」
「分かってる。アンジュには言わないようにしておくわ。必要な時が来るまでは…だけど」
-アルゼナル 第1滑走路-
「そろそろ定期便の時間だ」
飛行機が下りてくるのを見たジルは隣にいるモモカに目を向ける。
これからどうなるか分かっているはずなのに、彼女は変わらず笑みを見せていた。
「お世話になりました。わずかな時間でしたが、とても幸せでした。アンジュリーゼ様にお伝えくださいますか?」
「…分かったわ」
エマは定期便である飛行機から降りてきた3人の警備兵に目を向ける。
これからモモカは彼らに連行されて飛行機に乗る。
そして、始祖連合国の途中で殺害されて海へ落とされる。
これが始祖連合国でのルールだ。
モモカは自分の信念に従って行動したことからそのことに悔いはなかった。
だが、気になるのはアンジュだ。
自分の死後、アンジュはちゃんとご飯を食べられるのか、訓練をさぼらないか、他の人と仲良くできるのかが心配だった。
「待ちなさい!!」
アンジュの声が滑走路に響き、警備兵の進路をふさぐように定期便の入り口前に立つ。
格納庫から大急ぎでここまで来たためか、息を切らしていた。
「アンジュリーゼ様!」
「ノーマ、邪魔をするのか!?」
「黙りなさい!この子は…モモカは私が買うわ!!」
アンジュは肩にかけていたカバンを投げる。
エマが急いでカバンのチャックを開け、中を確かめると、そこには百万単位のキャッシュが入っていた。
確かに、アルゼナルではキャッシュがあれば人身売買のように別のノーマを奴隷のように使役することさえ良しとしている。
しかし、違法にアルゼナルに入ってきたとはいえ、人間を購入することなど前例がない。
「待ちなさい!!人間を買うなんてことが許されるわけが…」
「キャッシュならある!!報酬として3日の戦闘で手に入った140万キャッシュに、スメラギさんから前借した210万。合計で350万!!相場なら調べた!足りてるはずよ!」
「ほう…本当にそれだけの金があるのか」
「ジル司令…?」
ジルはカバンの中のキャッシュを手にし、アンジュの眼を見る。
殺気スレスレの鋭い目線で、何が何でもモモカを買い取ろうとするだろう。
たとえジル達を殺してでも。
フッと笑みを浮かべたジルはキャッシュをカバンに入れる。
「いいだろう。荻野目モモカは今から彼女の所有物だ。そうなった以上、ここからの措置は中止となる」
ジルの言葉にエマは困惑し、警備兵たちも首をかしげながら互いの顔を合わせる。
「金を積めば何でも手に入る。それがアルゼナルの決まりだ。それに、人間を買ってはいけないという取り決めはないでしょう?」
「それはそうですが…」
人身売買もある程度は認められているアルゼナルだが、人間を購入することは想定されていない話であるため、規定すらされていない。
ジルの言い分では、法律にない以上は止めることはできないということだ。
法定主義の立場を理解しているエマは仕方なしにため息をつき、警備兵と話を始めた。
「ただし、彼女の生活の面倒はアンジュ、貴様が見るんだな」
「そのつもりよ」
買い取りが成立し、緊張の糸が切れたアンジュはフウウと息をついてその場に座り込んだ。
そんな彼女と彼女に駆け寄るモモカをテレサとスメラギは遠くから見ていた。
「間に合ってよかったわね」
「ええ。彼女はそのために強引な手段を使ってまでキャッシュを集めていたのですね」
今回のガレオン級の討伐報酬で、アンジュは140万まで貯金することができた。
だが、この日がモモカが輸送される日であり、このままでは間に合わない。
あと210万を手にするにはもはや借金するしかない。
あてがないことはないが、エルシャは幼年部の子供たちに、ヴィヴィアンは機体改造とペロリーナグッズ購入に、ナオミは借金返済のために多額のキャッシュを使っているため、期待はできない。
そのため、唯一あてにできるようになったスメラギに頭を床にあててまで前借を頼んだ。
少なくとも、彼女の元で雇用される以上は食事などとは保証されるため、最低限の生活についてはどうにかなる。
「それだけ、あのモモカって子のことが大事だったのね」
「人は変わっていく。きっと、彼女も…」
思えば、ノーマであることを知り、皇女から突き落とされたアンジュは自暴自棄とプライドの高さからどうしようもない女性になっていた。
だが、タスクとのかかわりやエルシャやヴィヴィアン、ナオミといった仲間の存在などによって少しずつ変わっていっている。
そんなアンジュをほほえましく思っていた。
「アスラン…?」
その空気に似合わない、トゲのある声が背後から聞こえてくる。
そこにはトレミーを降りたばかりのシンの姿があり、怒っているように見えた。
「あんた、あのとんでもない女たちの相手をさせるために俺を呼んだんですか!?」
ザムザザーの時は危なかったとはいえ、よほどの敵でない限りはアスランだけでもどうにかなる。
だが、アンジュとヒルダが始めたあの辛辣な大喧嘩とそれを止められないアスランを見て、ようやく目的が見えてきた。
返答次第ではアスランをぶん殴って、さっさとルナマリアと一緒にオーブへ帰ろうとさえ本気で考えていた。
だが、安心してほしいのはちゃんとそのとんでもない女たちに見る目があることだ。
「うぬぼれんじゃねえ!!」
「あんたみたいな奴が…アスラン様の代わりになるもんか!」
「何だと!?俺だって、お前らの相手なんかごめんだ!!」
アスラン程少女の扱いが上手ではなく、子供っぽいところのあるシンにはロザリーとクリスの悪口を受け流す技量はなく、正面からケンカ腰で言葉を発する。
「うるせえ、クソガキ!!さっさとあのルナマリアって彼女に甘えてろ!!」
「駄目か…?ロザリー、クリス。シンも格好いいと思うが…」
やはり、シンに自分がどうにもできない分を押し付けようという魂胆があったようで、自分の言葉に素直に従ってくれるロザリーとクリスを誘導しようとする。
しかし、彼女たちの脳内のランクではアスランが最上位で、シンはソウジについでのブービーだ。
「駄目駄目!アスラン様とは比べ物にならないですって!」
「うん…やっぱり、アスラン様じゃなきゃ…」
「アスラン…あんた、モテ自慢をするために俺を呼んだのか!?」
「ち、違う、シン!!断じて、そんなことはない!!」
ロザリーとクリスには眼中にない扱いされ、彼女であるルナマリアの前で男としてのプライドをズタズタにされたシンはどうやらロザリーとクリスに好意を寄せられているのだろうアスランへの怒りを爆発させており、あまりのプレッシャーにアスランはひるんでしまう。
あの戦いで成長したシンだが、そのキレっぽいところは変わらないようだ。
「あんたって人はぁぁぁぁぁ!!」
ここからアスランとシンの追いかけっこが始まり、アスランは追いつかれたら殺されてしまうかもしれないという恐怖をひしひしと感じながら走り続ける。
さすがはコーディネイターで軍人というだけあって、彼らの走るスピードは常人の比ではない。
そんな2人をルナマリアはチトセと共に微笑みながら見ていた。
「いいの?ルナマリアちゃん。あっちの短気な彼、恋人なんでしょう?」
トレミーで機体から出たとき、チトセはシンとルナマリアが一緒に話している姿を見ていた。
楽しそうにしていて、時折手を握ったりしているのを見ると、誰だって彼らが恋人同士だということが分かってしまう。
「いいんです。シンがあんな風に素直に感情を出すの、久しぶりだから」
「そうか…」
「あいつも、いろいろあったんだな」
刹那とロックオンは敵として戦ったことのあるシンの人となりを自分の眼で感じていた。
ダイダロス基地で一度だけ一緒に戦い、それ以外の戦場では敵同士だったが、こうして生身のシンを見るのは初めてだ。
シンとルナマリアも同様で、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターが自分たちとあまり変わらない人間だとは思いもよらなかった。
しばらくして、追いかけっこを終えたシンが刹那の元へやってくる。
「シン・アスカ…」
「刹那・F・セイエイ…」
互いに相手の名前を呼び、そこから沈黙が続く。
沈黙の中、ルナマリアはシンがちゃんと彼と話すことができるのを信じた。
一度は敵となったアスランとさえ和解できたのだから、きっとそれができる。
「俺は…最後までザフトとして、オーブと…そして、お前たちと戦った」
「ああ、分かっている」
シンの人となりを見て、少なくとも彼が戦いを好む人間ではないことは分かっている。
おそらく、彼は彼なりにザフトに、デュランダルのデスティニープランに正義があると信じて戦っていたのだろう。
だが、それはこうして顔を合わせて話さなければわからないことだ。
「それと…もしかして、あんたか?3年前、ガンダムエクシアに乗っていたのは」
「ああ…そうだ」
「そうか…はは、だったら、悪い奴じゃないよな…」
緊張の糸が切れたかのように、シンは軽く笑い始める。
刹那を警戒していた自分を馬鹿に思っているかのように。
「どうした…?」
「きっと、覚えていないだろうな…。俺とマユは…3年前、オーブでエクシアに、あんたに救われた…」
3年前、それはユニオン・AEU・人革連連合軍による(実質的にはその中にある反コーディネーター圧力団体のブルーコスモスのシンパを中心としたものだが)オーブ解放作戦の際、当時オーブ国民だったシンは妹のマユ、そして両親と共に避難船に向けて逃げていた。
実を言うと、シン達は避難の準備が遅れてしまっており、それ故に避難船には最終便で乗り込むことになってしまった。
別に彼らだけの不始末かというとそうではなく、長い間オーブは永世中立を維持し続け、他国からの侵略行為を受けていなかったことから、どこか攻撃されることはないという一種の安心感に浸っていた。
そのため、シン以外にもいくつもの世帯で脱出が遅れたケースは珍しくなく、有事の際にこのようなことが起こらないように現在、カガリは国民に対する災害や有事の際の避難訓練の定期的な実施を呼びかけている。
そこで、連合軍のモビルスーツの流れ弾が自分たちに飛んできた。
その時に助けてくれたのは刹那が乗るソレスタルビーイング第3世代モビルスーツ、ガンダムエクシアだ。
エクシアは自らを盾にすることでシンとマユをすくったものの、彼らの両親を救うことはできなかった。
もし、彼に助けられなかったら、きっと自分も死んでいたかもしれない。
マユは両親の無残な死を見てしまったことで重度のうつ病になり、再びオーブで暮らすようになるまでは大変だったが、それでも生きているか死んでいるかでは大きく違う。
「そうか…すまない、俺はそのことについては何も…」
だが、刹那はこのことをすっかり忘れたいた。
ソレスタルビーイングとしての闘いに専念していて、その戦いの中でシンとマユをすくった記憶が押し流された。
感謝の言葉を言ってくれたシンに何と返せばいいのか分からない刹那は口ごもる。
「まぁいいさ。マユを…妹を助けてくれてありがとう、刹那。俺はあんたを信じる、あんたの闘いで、俺に信じさせてくれ」
「ああ…よろしく頼む。シン・アスカ」
シンと刹那は握手を交わし、互いに笑みを見せる。
2人の打ち解けた姿を見て、ルナマリアは安心するように笑みを浮かべていた。
「それにしても、あんたっていい笑顔になるんだな。アスランからは無表情で口下手って聞いたけど」
「誰とでも分かり合える自分に変わりたい…そう思っているからな」
「変わりたい…か。俺も、1年前から変われてるかな…」
「変わってるわよ。今は自分の意思で戦っているじゃない」
ルナマリアにポンと背中を叩かれ、シンは困ったような笑みを見せる。
デュランダルが示した正義ではなく、自分が自由に信じる正義のために戦う。
そして、その正義を貫くために運命をつかみ取る。
それが1年前の戦いで学び、平和のために自分がなすべきことを考えたシンの答えだ。
「まぁ、あの人の女難は相変わらずだけど」
「はあ、はあ…誤解だ、シン。分かってくれ」
追いかけっこで精神的にかなり消耗したアスランは懇願する。
自分は何もしていない、なぜかロザリーやクリスに言い寄られているだけだ。
きっと、シンや刹那達なら分かってくれる、察してくれる。
だが、現実はそうはいかない。
「分かりあいたいなら、言葉を尽くすんだな」
「刹那の言う通りですよ、アスラン。俺だけじゃなく、アスハ代表にも言い訳の限りを尽くしてください」
「うちのメイリンにも、ですよ」
恋人であるカガリはともかく、ルナマリアの妹であるメイリンも実はアスランに心奪われた少女の1人だ。
一目ぼれしたようだが、ルナマリアとは違い引っ込み思案な彼女は中々アプローチをかけることができなかった。
だが、エンジェルダウン作戦後、ザフトの駐留基地であるジブラルタル基地が大きなターニングポイントとなった。
アスランはそこで再会したデュランダルにエンジェルダウン作戦をはじめとした彼の性急すぎる動きへの疑問をぶつけた。
そこでデュランダルは正論で返すだけでなく、アスランを不穏分子として極秘裏に排除しようとし始めた。
そのことで、デュランダルは障害となる可能性のある者はどんなに自分に尽くした相手であってもためらいなく排除する男だということを確信し、脱走を決めた。
アスランはデュランダルによる追手をかいくぐる中、偶然メイリンの部屋にもぐりこんでしまった。
そこでメイリンはアスランのために基地内にある使えるモビルスーツを検索し、彼を格納庫まで案内した。
すべてはアスランのために。
だが、それ故に彼女も追手に殺されそうになり、そのままアスランと共に脱走することになってしまった。
それからは彼女もソレスタルビーイング、そしてオーブとアスランと共に行動し、終戦まで戦い抜いた。
ただ、脱走兵であることからザフトには戻れず、現在はオーブ軍に所属している。
ルナマリアとは休日によく行動していて、ルナマリアはメイリンが今もアスランのことが好きだということを知っている。
だから、こういう女性をその気にさせるアスランのある意味では魔性の魅力にくぎを刺しておきたかった。
「…どうして、こうなるんだ…」
こんなことをどうやってカガリやメイリンに言えばいいのか。
多分、言ったらメイリンは泣くだろうしカガリからは鉄拳制裁を食らうだろう。
最悪、カガリに別れを切り出されたらもう立ち直れないかもしれないし、だからといってロザリーとクリスを傷つけるようなことを言いたくもない。
八方美人、八方ふさがり。
どこか、こんな自分にいい解決法を教えてくれる人はいないかと探そうとするが無駄なことだった。
「アンジュリーゼ様…」
アスランが苦しむ中、これからもアンジュと共にいられることを嬉しく思うモモカはじっとアンジュを見る。
髪を切り、メイルライダーとなったことで言動がきつくなり、王女の頃のようなおしとやかな部分が消えてしまっている。
しかし、根っこのやさしさは決して変わっていない。
敬愛するアンジュリーゼのままだ。
「何?モモカ…」
「ここは確かにひどいところかもしれませんが、にぎやかな場所ですね」
城とは段違いに清掃が行き届いておらず、絵画も像も壺もない。
おけいこのピアノも、豪華なドレスも教科書もない場所だが、ここには生きるために戦う仲間がいる。
アルゼナルの外から来た愉快な人々もいて、モモカはここでもアンジュとやっていけるように思えた。
アンジュも、少しずつだがここも悪くない場所のように思えた。
だからこそ、もっと強くならなければならない。
これ以上、ゾーラのようなことを繰り返さないためにも。
「そうね…ここも、悪くない」
「私はアンジュリーゼ様と一緒なら、地獄でも生きていけますけどね」
「モモカ、今の私はアンジュよ」
「はい、アンジュリーゼ様!」
やはり、呼び方は簡単に変わらないかとため息をつくが、そういうところもモモカらしいと思い、アンジュは笑みを浮かべた。
-トレミー 格納庫-
「はあ…もうちょっとここのOSがどうにかなったら…」
滑走路から戻ったシンはルナマリアと共にデスティニーのチェックを始めていた。
元々は別のデスティニーのパーツを使ってニコイチ整備した代物で、元々のデスティニーと反応速度に差が出ることは事前に説明を受けていた。
戦闘中もそのことは感じており、早急にOSなどの調整を済ませたいと思っていた。
このままのデスティニーでは、ジャスティスやフリーダムのような相手と戦って生き残ることができない。
だが、元々のデスティニーのOSをすべて確実に覚えているはずもなく、試行錯誤を重ね、自分の体に問いかけるしかない。
「シン、そろそろ休憩に入ったら?」
「ああ。そうする…うわぁ!!」
「シン!?」
デスティニーのコックピットからシンの悲鳴が聞こえ、ルナマリアは慌ててデスティニーの元へ向かう。
シンの目の前にはナインの姿があった。
「な、なんだ…君は!?」
「ナインです、以後お見知りおきを」
「ナインちゃん…?ああ、もしかして、ソウジさんとチトセさんが言っていた…」
ナインのことは既にソウジとチトセからあらかた話を聞いている。
アンドロイドであり、人間のことをもっと知りたいらしく、時間があれば協力してほしいとも頼まれている。
「びっくりさせるなよ…なぁ、俺に何か用があるのか?」
「はい。あなたはルナマリアさんと恋人同士ですよね?」
「あ、うん…」
「そのあたりについて、聞かせてもらおうかと思いまして」
「そのあたりって…?」
「馴れ初めとか、告白の状況とか、デートの行き先とか、結婚後の人生設計に男女のいと…」
「あーー!!それ、ぜひ私も聞いてみたいです!!」
ひょっこりとどこからともなくミレイナが現れ、ナインと共にじーっとシンを見る。
ミレイナは男女の恋愛に強い興味を持っており、ロックオンとアニューはしっかり見てきたため、新鮮なものを求めてシンとルナマリアをロックオンしていた。
「私も!後でサリアに教えてあげるんだ!」
更にヴィヴィアンまで現れ、3人の少女にシンは追い詰められる。
「そ、そ、そんなこと…話せるかよ!?」
「そういえば、ザフトのアカデミーで知り合ったとのことですので、もしかしてそこであったときからルナマリアさんのことを…」
「トレミーではアスカさんとホークさんは相部屋です。もしかしたら…」
「うおおーー、サリアにいっぱい話せるーー!!」
「う、うわああああ!!!」
これ以上いたら、どんなことを聞かれるかわからないと、シンは悲鳴を上げてデスティニーから飛び降り、格納庫から脱走する。
彼氏が逃げ出したのなら、次は彼女。
ミレイナはルナマリアに目を向ける。
「そのあたり…どうなんです?ホークさん」
「な、内緒よ!!」
オーブで一緒に寝たときのことを思い出してしまったルナマリアは顔を真っ赤にしていた。
-アルゼナル 司令室-
「ほぉ…まさかこちらの言い値の2000万キャッシュ、本当に出してくれるとはな」
司令室の客人用ソファーに座るスメラギとその後ろに立っているラッセとロックオンを見てジルは笑みを浮かべる。
ジルとスメラギの間には大きな四輪カートが置かれていて、その上には2000万以上のキャッシュが置かれていた。
ジルはそのキャッシュを手にし、ニヤリと笑う。
「まさか、ここまで精巧だとはな…本物に見えても仕方あるまい」
このカートにあるキャッシュが贋金であることはジルには分かっていた。
ラッセはソレスタルビーイングに入る前はマフィアをやっていて、そこで贋金ビジネスにも関わっていた。
そのため、贋金づくりには多少なりとも覚えがあり、これまでは使うまいと思っていたが、スメラギにごり押しされてこれだけの贋金を作った。
ロックオンと共にカートでここまで運んだ時はまるで上納金を納めるときのようで、マフィア時代に戻ったかのような感じがした。
「でも、ここで彼女たちの問題を解決したら、あなたにとっても利益があるでしょう?」
「ふっ…そうだな。いいだろう。差額はあるが…その分で整備士とパーツについては融通を利かせておこう」
だが、仮にこの買い上げによって彼女たちがより強力な部隊となったら、ジルにとってはかなり安い買い物になる。
煙草を吸いながら、ジルは契約書にサインをした。
機体名:デスティニーガンダムリペア
形式番号:ZGMF-X42SR
建造:ザフト→オーブ
全高:18.08メートル
全備重量:79.44トン
武装:MMI-GAU26 17.5mmCIWS、MMI-X340パルマフィオキーナ掌部ビーム砲×2、M2000GX高エネルギー長射程ビーム砲、RQM60Fフラッシュエッジ2ビームブーメラン×2、MA-BAR73/S高エネルギービームライフル、MX2351ソリドゥス・フルゴールビームシールド発生装置×2、対ビームシールド
主なパイロット:シン・アスカ
1年前のメサイヤ戦で大破したデスティニーをザフトが死蔵していた別のデスティニーガンダムのパーツでニコイチ整備したもの。
元々、デスティニーは少数量産機として位置づけられており、それぞれの機体がそれぞれのパイロットに合わせて細かいパーツまで管理したうえで開発された特製品となっている。
そのため、同じデスティニーのパーツだが別機体も同然で、そのために主に反応速度で難が生じている。
現在、OSを中心に失った反応速度などの性能を取り戻すべくナインの協力も得る形で奮闘している。