形式番号:AW-GSX232(VV)
建造:アルゼナル
全高:7.4メートル
全備重量:3.65トン
武装:対ドラゴン用アサルトライフル、超硬クロム製ブーメランブレード「ブンブン丸」、凍結バレット
主なパイロット:ヴィヴィアン
アルゼナルが次期エースメイルライダー用パラメイルとして試作したもの。
アーキバスを上回る出力のエンジンが取り付けられ、装甲も機動力確保のため、可能な限り削減されている。
そのため、一撃でも攻撃が命中したら即撃墜の可能性をはらんでおり、おまけに搭載するエンジンのコストの都合から試作機1機を残して開発計画は中断することとなった。
その試作機をメイルライダーの中で特に高機動戦闘で適性の高かったヴィヴィアンが搭乗しており、Dスレイヤーの代わりに1800万キャッシュを即金で支払って購入したブンブン丸を装備している。
なお、ブンブン丸の整備はアルゼナルでもできるようだが、メイ曰く「アルゼナルで作れるものではない」とのこと。
-エリアD 無人島周辺-
「なんだ…!?あの人型兵器は!?」
次々と飛んでくる青いビームをビームシールドで時には受け止めて回避するアスランは目の前の謎の機動兵器に驚きを見せる。
GN粒子を使用せず、Nジャマーやディストーションフィールドを使っているようには見えない。
装甲もEカーボンやフェイズシフトではないようで、もし軍人ではなくただの機械オタクとしてその機体と出会うことができればと思ってしまう。
「くっ…!何よ!?エリアDにはドラゴン以外にも敵がいるってことなの!?」
ラツィーエルでビームを凌ぎつつ敵機に向けて接近するアンジュはその謎の機動兵器とどう戦うべきか考えていた。
スクーナー級のドラゴン程度なら、ラツィーエル1本でもどうにかなるかもしれないが、あの機動兵器は遠距離攻撃主体なうえに機動力は先ほどのスクーナー級よりも上。
「君は下がれ!剣1本だけでは…」
「言っておくけど、私は退くつもりはないわ。彼らを放っておいたら…」
アンジュの視線がうっすらと1週間タスクと過ごした島へ映る。
あの島にはノーマとなり、自暴自棄になった自分にささやかな平和な暮らしを与えてくれた。
そんな島を、王女としてでもメイルライダーとしてでもなく、1人の少女として受け入れてくれた青年の暮らす島を守りたい。
それが自分にとって不利な条件だとしてもだ。
「この反応は…!?」
南から2つの大きな熱源反応を感知し、それがこちらに近づいてくる。
「トレミー!?それに、あの潜水艦は…!?」
トレミーはともかく、同行している大型潜水艦とそこからグゥルのようなサブフライトシステムに乗って出撃する4機のアーム・スレイヴ、トレミーから発進する黒いモビルスーツモドキはアスランにとって知らない存在だ。
(スメラギさん…彼らは何者なんだ??)
何も知らないアスランはその未知なうえに技術系統も異なる機動兵器が混在するソレスタルビーイングに困惑していた。
「やっほー、アンジュ!無事だったんだねー!」
フライトモードのレイザーから身を乗り出したヴィヴィアンが両手を振ってアンジュに声をかける。
「ヴィヴィアン…」
「もう、心配したのよ」
「私を…??」
ヴィヴィアンとエルシャの声が通信機から響き、その声色から彼女たちが本気で自分を心配してくれていたことが分かった。
しかし、こんな自分を心配してくれる理由がわからない。
ヴィヴィアンにはせっかくくれたペロリーナのキーホルダーをぞんざいに扱ってしまった上に、エルシャにはせっかく作ってくれたご飯を本当はおいしかったのに、ノーマの作ったものは食べれないと目の前で捨ててしまった。
そんなノーマというだけでひどい仕打ちをしてしまった自分を許し、助けるためにここまで探してくれた2人に驚くとともに、そんな自分を受け入れてくれることに感銘を受けた。
「言っておくが、俺たちもだぜ!」
「そうそう!せっかくのツボミが開く前に散るのは惜しすぎる!」
「そういった言動がヒルダさんの男性不信を加速させるのです」
「そうだ、ナイン!もっと言ってやれ!!」
「ちっ…」
クルツの卑猥なトークにツッコミを入れるナインとそれを煽るマオがいる中で、アンジュの無事な姿を視認したヒルダは舌打ちする。
本当は救出に行きたくなかったのだが、アンジュの居場所を知ったであろうジルが無理やり出撃を命じられた。
拒否した場合は1か月間ただ働きな上に3人そろって今持っているキャッシュの3分の2を没収するというとんでもない処分が待っていることから、ロザリーとクリスと共にしぶしぶ出撃する格好となった。
「助かったわ、アスラン。あなたがアンジュを見つけてくれたのね」
「お久しぶりです、スメラギさん。現在、俺たちは未確認機と交戦中です。援護を頼みます」
「あれは…!?」
「間違いない」
ティエリアと刹那は見覚えのあるあの青い機体に驚きを見せていた。
別世界の機動兵器のはずのこれらがなぜ、今ここにいるのか?
「アール…ヤブ…?」
ヴァングレイのカメラと網膜投影を行ったナインはその機体の隅に刻まれている、その機体の名前と思われる文字を読む。
文字の種類はデータベースに入っているどの地球圏の文字にも入っていない。
それをなぜ読むことができるのか、ナインにはわからない。
「ティエリアと刹那が旅行先で出会った敵か!」
ロックオンは手始めにGNライフルビットⅡで攻撃する。
発射されたビームを感知したアールヤブは機体前面に青いビームフィールドを展開し、そのビームを受け止めた。
「何!?ビームシールドか!?」
「そんな機能、俺たちが戦っていたときにはなかったぞ!?隠していたのか…それとも」
「スメラギさん、テッサちゃん!あの機体は無人機よ!戦うしかないわ!」
見た目は特に変化のないアールヤブがビームシールドを使ってきたことには驚きつつも、チトセは指揮官2人に情報を提供する。
「エリアD周辺の未確認機なら、私たちにとって敵である可能性が高いわ」
現にアールヤブはヴィルキスを攻撃していた。
ヴィルキスがアルゼナルの所有物であり、アンジュがアルゼナルのメイルライダーである以上、それらを攻撃した時点でここでやるべきことは決まっている。
「機械相手なら遠慮はいらねえ!てめえらに…八つ当たりだ!!」
「援護するぜ、ヒルダ!!」
「あ…当たれぇ!」
ロザリーとクリスが連装砲とリボルバーで援護射撃を開始し、その弾幕の中でヒルダのアーキバスはアサルトモードになって突き進む。
アールヤブの大きさは小型モビルスーツクラスで、弾丸は容赦なくビームシールドで受け止めていく。
本来なら直線で迫ってくるアーキバスをビーム砲で撃ち落とすはずのアールヤブだが、なぜかビームシールドを展開させたまま動かない。
ヒルダはビームシールドを展開した相手に正面から接近戦を挑もうと考えず、死角となる真下に回り、そこからパトロクロスを突き刺す。
一発だけなら、小型機であるが故の悲しさでひびをつけるくらいのダメージしか与えることができないものの、ヒルダは数珠を繋ぐようにそのひびにむけてもう1度突き刺した。
刃は深々と内部に達し、動力源に達したようで、アールヤブの下部が展開していたビームシールドが消えてしまう。
「よし!!」
「駄目だ!ヒルダちゃん!こいつは分離機能がある!!」
ソウジの叫びに前後し、下部パーツを分離したアールヤブは反転してそのまま戦線から離脱していく。
「逃げやがった…。げっ!?」
逃げていく上部パーツを見たヒルダは拍子抜けしたものの、アーキバスのセンサーが熱源が大きくなるパトロクロスを感知したのを見てハッとする。
急いでパトロクロスごと海に投げ込むと、そこから大きな水柱が発生した。
「自爆装置だと…!?よくもあたしのパトロクロスを…!!」
気に入っていた武器を失う原因になったアールヤブに怒りながら、アサルトライフルで近くのアールヤブを攻撃する。
しかし、アールヤブの装甲はパトロクロスでも2度突き刺さないと貫けない硬さで、アサルトライフル程度では傷をつけることしかできない。
「くそぉ!当たりやがれぇ!」
連装砲を何度も発射するロザリーだが、機動力でもスクーナー級を上回るアールヤブには一向に当たらない。
「ちっくしょう!!なんで当たらねーんだ!!」
リボルバーで攻撃するクリスは何発かアールヤブに命中させているのと対照的で、どうしてなのかロザリーには分からなかった。
アルゼナルの射撃訓練の成績ではクリスはロザリーよりも上で、ロザリー本人の成績はどの訓練でもいまいちパッとしない。
「くそ…!こうなりゃあ、こいつも倒したらキャッシュに換えてもらわねーと、割に合わねえぜ!!」
「ロザリー!無駄弾を使い過ぎよ!」
「うるせえ、サリアのくせに…な!?」
苦手なサリアからの通信に腹を立てるロザリーだが、無我夢中で撃ち続けたがために残弾管理を失念していた。
連装砲が弾切れになっていて、いくら引き金を引いても弾丸が出ない。
「アルゼナル組はやる気ね」
「やる気なのはいいけどよ、火力がなぁ!!」
ポジトロンカノンの照準を定め、アールヤブに向けて発射する。
小型機であるパラメイルとの火力の違いを証明するかのように、発射された陽電子がアールヤブに命中すると同時に大きく膨張する。
周囲にいた2機もその光に巻き込まれ、ビームシールドを展開して受け止めはするものの、威力を軽減するにとどまるだけだった。
光が消えると、ポジトロンカノンが直撃した機体も姿を消していた。
「ヴィヴィアンとエルシャはアンジュの援護に回って!アンジュはエルシャからライフルを受け取って!」
「アンジュちゃん!」
エルシャがリボルバー砲で牽制射撃をしつつ、アンジュにアサルトライフルを手渡す。
アサルトライフルを手にしたとしても、アールヤブを撃墜することはできないが、それでも牽制することくらいはできる。
「…ありがとう、エルシャ」
「あら?」
通信機からアンジュの感謝の声が聞こえたエルシャは彼女の変化を感じていた。
この1週間の間に何があったのかはわからないが、そこで何か彼女に大きな影響を与えるようなことがあったのかもしれない。
それが何かを考えるためにも、今はこの状況を打開する必要がある。
「ライフルが効かないなら、これでどうだぁぁぁ!!」
ヴィルキスに接近しようとしているアールヤブに向けて、レイザーはブンブン丸を投げつける。
パトロクロス以上の強度と切断力を誇るブンブン丸は回転しながら飛んでいき、アールヤブの上部パーツに深々と刺さる。
上部パーツが破壊され、残った下部パーツは制御を失ったのか、そのまま上部パーツと共に海に落ちていく。
「やばいやばい!!ブンブン丸回収しないと!」
慌てて落ちていくアールヤブを追いかけ、刺さったブンブン丸を取り戻したヴィヴィアンだが、その間に側面に2機のアールヤブが迫り、ビームを発射してくる。
「あ…!」
気づいたヴィヴィアンは急いで機体を上昇させようとするが、それよりもビームの方が早く、このままでは命中してしまう。
眼を閉じかけたヴィヴィアンだが、ヴィルキスが割って入り、ラツィーエルでビームを受け止める。
岩が川の流れを両断するように、ビームはヴィルキスがいる場所から左右に分かれていき、レイザーには当たることはなかった。
「アンジュが…あたしを助けてくれた!?」
あれほど排他的だったアンジュがノーマである自分を、仲間として認識していない自分を助けてくれたことにびっくりするヴィヴィアンだが、無性にうれしかったようで、アンジュに向けて笑顔で手を振る。
「まったく…戦場なのに何してるのよ、ヴィヴィアンは…」
「ビンゴぉ!」
クルツのガーンズバックから発射される狙撃用ライフルの銃弾がアールヤブのビーム砲の砲口に吸い込まれていく。
アールヤブの装甲をパラメイルのアサルトライフルで貫けなかった以上は、こうした装甲がない場所を狙って射撃する以外にダメージを与える方法がない。
最も、ビームシールドを展開されてしまったら、一か八かの接近戦を仕掛けるしかなくなるが。
「軍曹殿。未確認機の…とりあえずはビームシールドと呼称しますが、長時間の展開は難しいようですね」
「そうだな。だが、そういうタイプの敵とは戦った経験がある。そうだろう」
「肯定。ラムダ・ドライバを使いましょう」
「問題はこいつか…」
ドダイ改に備え付けられている、脇抱え式の大砲に目を向ける。
これはダナンに積み込まれている試作兵器の1つで、通称はプロトデモリッションガン。
ASで運用可能な最大サイズの火砲であるライトメタル製90mm狙撃砲を上回る火砲で、ラムダ・ドライバ搭載機の対艦戦闘用装備として開発されたものだ。
シミュレーション上、その破壊力は戦艦を一撃で撃沈させることができるほどだ。
ただ、ミスリルが所有するラムダ・ドライバ搭載機は現状アーバレスト1機のみ。
おまけに取り回しが劣悪なうえに弾倉が1つだけで、アーバレストには予備弾倉を取り付けるラックがないため、実質発射できるのは4発のみ。
更に、ドダイ改がない状態で出撃する場合は専用のラックを背中に装着する必要があり、アサルトライフルやハンドガン、ボクサーのような追加の銃を同時に装備することが不可能になる。
「だが、今回ばかりはやむを得ないか」
相手が正体不明の未確認機である以上、あらゆる可能性を考えて行動しなければならない。
実戦で使用したことのないこの大砲も、この機体相手に役立つかもしれない。
ラムダ・ドライバを起動し、背中の放熱板が展開していく。
プロトデモリッションガンを手にし、ドダイ改の角度を調整しながら照準補正していく。
(クルツ程ではないが…)
こういう対物ライフルやスナイパーライフルによる狙撃はクルツの仕事だ。
訓練の際にクルツと共に狙撃訓練をしたことがあるが、クルツの狙撃能力はミスリルではナンバー1だ。
生身でも1km以上離れた500円玉をドーナツ状に射貫くことが容易で、おまけにクルツのガーンズバックには本人が邪魔だからという理由で照準補正機能がない。
なお、同じ距離から狙撃する場合は人間の体のどこかに命中するだけでも奇跡な話で、それだけでクルツの恐ろしさがよくわかる。
アルの手を借りて照準を合わせていき、3機が連結したアールヤブに向けられる。
「ロック完了」
「当たれぇ!!」
引き金を引き、プロトデモリッションガンから擲弾が発射される。
発射された擲弾を感知したアールヤブが連結している2機のエネルギーも受け取り、大出力のビームシールドを展開する。
擲弾がビームシールドに接触するとラムダ・ドライバの影響を受けているのか、青い大きな爆発が発生し、その中で3機のアールヤブが消滅する。
「未確認機3機撃破確認。お見事です、軍曹殿」
「そうか…だが、やはり扱いづらいことには変わりないな」
「ですが、データを集めれば、より扱いづらい制式なデモリッションガンの開発が可能になります」
「俺たちの世界に戻ることができれば…の話だがな」
「…僕たち共々次元転移してやってきた、という可能性は薄いか」
GNビッグキャノンを最大出力で発射するティエリアはアールヤブの集団がここに現れた理由を頭に浮かべる。
ヴェーダで調べてはいないものの、これまで集めた世界中の報道からはこのような機体が現れ、襲撃を受けたという話は聞かない。
仮に自分たちと一緒にこの世界に飛ばされたとしたら、それからかなり1週間以上経過しているため、彼らが何らかの事件を起こしたとしてもおかしくない。
仮に報道規制をかけたとしても、その場合は地球連合軍が動きを見せるはずだが、それも見られない。
ビームが消え、射線上にいた5機のアールヤブは消え、接触した3機は破損パーツを放棄して離脱していく。
「パラメイルやアーム・スレイヴの火力では奴を倒せない。モビルスーツでやる!」
MAに変形したハルートがパラメイルを上回る機動力でアールヤブを翻弄する。
アールヤブの唯一の武装であるビーム砲は下部パーツについては正面しか発射できず、上部パーツの左右のものは背後に砲口を向けることができない。
それに加えてハルートには超兵であるアレルヤとマリーが乗り込んでいて、更にモビルスーツほどではないが運動性もある。
背後を取られた時点で勝敗は決したも同然で、GNソードライフルで撃ち抜かれるか、両断されるかを待つしかなくなった。
1時間の戦闘でアールヤブの多くは残骸となって海を漂い、残ったアールヤブは撤退していった。
トレミーとナデシコBが逃走経路を熱源探知で調べたものの、400メートル先で急に熱源が消えてしまい、追跡が不可能となった。
「この機体…なぜ僕たちを攻撃した?」
比較的損傷の少ないアールヤブの1機をGNクローで回収したティエリアは今回の戦闘の原因について考える。
少なくとも、アールヤブは今いるメンバーの中で交戦経験のあるティエリアや刹那、ソウジ、チトセを狙うのではなく、アンジュとアスランに攻撃を仕掛けていた。
まるで、自分たち以外を無差別に攻撃するようプログラムされているかのように。
「ナデシコがあれば、オモイカネを使って解析できるかもしれないが…」
「ティエリア、回収した機体をダナンに入れて」
「了解」
浮上したダナンがハッチを開き、アールヤブの受け入れ準備を開始する。
「モビルスーツでもASでもねえ…といっても、戦闘機にも見えねえ。そんなもんがこの世界にあるとはなぁ…」
整備兵を指揮する、TDD-1と大きく書かれた青いキャップをつけた髭面で恰幅の良い体をした男性で、兵站グループ第11整備中隊の指揮官であるエドワード・"ブルーザー"・サックス中尉はこの平行世界にはないまた別の世界の兵器に驚きを覚えた。
だが、ミスリルに加わり、AIらしくないAIであるアルとラムダ・ドライバという現実とは思えないようなシステムを搭載したアーバレストのような機体とかかわったうえ、次元転移などというおとぎ話のような出来事の当事者になったことで、どこか感覚がマヒしているのか、子供のような好奇心がそれを上回っている。
「サックス中尉、あの機体の解析は可能ですか?」
「うーん、どうでしょうな。俺は整備はできても、解析についてはからっきしですからなぁ」
「私もお手伝いいたしますし、ティエリアさんとイアンさん、リンダさんもお手伝いすると言っています」
「うーん、ま、整備がてらでよろしいのでしたら」
上官であるテレサの頼みであれば断れないが、ここにノーラがいてくれればとついないものねだりしてしまう。
ノーラ・レミングはミスリルの研究部に所属する、テレサによって直接スカウトされた研究者だ。
ラムダ・ドライバの研究者の1人で、その特殊なシステムを組み込んだアーバレストを巡ってよく衝突したのを覚えている。
ダナンが飛ばされたときは研究のために別行動をとっていたため、一緒に巻き込まれずに済んだことを安心したが、今ではこういう面では一番頼もしい彼女に助けを求めることができないことを残念に思っている。
「何をしている!?もうすぐパラメイル部隊とウルズチームも戻ってくる!早く受入と整備の準備を始めろ!!」
アールヤブに夢中になっている兵士たちを叱りながら、サックスは今後のスケジュールを考え始めていた。
「さてっと…」
敵機の反応がなくなったことを確認したアンジュはサリア達がダナンへ帰投しようとする中、再び無人島へと飛んでいく。
「どこへ行くの?アンジュ」
「ちょっと用事を済ませてくる。先に帰還しておいて」
「私は司令からあなたとヴィルキスを連れ戻すように命令されているのよ!?そんな勝手な…」
再会した際はエルシャとヴィヴィアンへの態度が軟化していたため、少しは変わっただろうと期待していた。
だが、指揮官であるサリアの命令を無視するところは変わっておらず、ジルの命令に背くわけにはいかないことからつい強い口調になってしまう。
追いかけようとするが、そんな彼女を止めるようにエルシャのハウザーがサリアのアーキバスに手を置き、接触回線を開く。
「大丈夫よ、サリアちゃん」
「エルシャ…でも…」
「そうそう、アンジュは必ず帰ってくるよ」
「そ、そう…」
アンジュと一番仲良くしようとしていて、排他的なヒルダ達を除くと一番アンジュのことを分かっているであろうその2人の言うことをサリアは無視できなかった。
自分の命令を無視する彼女が本当にちゃんと帰ってきてくれるかは不安だが、2人がそういうなら、その言葉を無下にすることはできない。
「…ありがとう」
通信機にアンジュの予想外の声が聞こえ、それを聞いたエルシャとヴィヴィアンは嬉しそうに笑い始める。
「アンジュさん…今、ありがとうと言いましたね」
「ああ…」
「この1週間、アンジュにとっていい時間だったみたいね」
「タスクの影響か…」
ヴィルキスが着陸し、コックピットから出てきたアンジュをタスクが出迎える姿がジャスティスのカメラに映る。
最初に会ったときは空気の読めない発言を連発した挙句、カガリにとんでもないことをして激怒させ、ボコボコにされていた。
だが、そんな彼のどこかのんびりとしたところが戦ってばかりの自分を馬鹿らしく思うきっかけになり、やがてそれが敵味方に分かれてしまった親友との和解につながった。
「相変わらず…おかしな奴だ」
「ザラさん、トレミーが収容します。着艦をお願いします」
「了解だ、ミレイナ。ジャスティス、これよりトレミーに着艦する」
-エリアD 無人島-
「あのドラゴン…」
「え…?」
戻ってからしばらくは互いの無事を喜び合ったタスクとアンジュだが、海に浮かぶドラゴンの死体を見て目の色を変えた瞬間から空気が変わったような感じがした。
殺したことへの嫌悪感ではなく、何かの疑念がその眼に宿っていた。
「あのドラゴン、きっと仲間を取り戻しにやってきたんだと思う」
「取り戻すって…?」
「この島の近くで、始祖連合国は大型ドラゴンの死体を回収しているんだ。これを見て」
タスクはポケットから出した写真をアンジュに見せる。
画質は荒いものの、全身を防護服で纏った人々がドラゴンの遺体を回収していることは理解できた。
そして、回収している輸送機はザフトの大型輸送機ヴァウファウで、側面にはミスルギ皇国の国章が刻まれていた。
「何のために…?ドラゴンの生態を研究するために??」
直感でそんな予想をしたアンジュだが、すぐにそれはあり得ないかもしれないと思った。
そのような研究データを借りに得たとしても、それを有効活用できるのはドラゴンと戦うアルゼナルくらいだ。
それに、始祖連合国の人間たちはドラゴンと戦わないし、アンジュリーゼだったころは見たことも聞いたこともないうえに回収していたという話を聞くのは初めてだ。
嘘だろうと思い、タスクの眼を見るが、彼の眼はまっすぐアンジュに向けられていて、嘘を言っているように見えない。
「分からない…。でも、彼らにとってドラゴンの回収は重要なことなんだと思うよ」
「あなたは、それを確かめるためにこの島に…?」
「…そういうわけじゃないよ。俺は…只のタスクだ」
「そう…」
再び2人の間に沈黙が流れる。
静寂の中でアンジュはこの島でのタスクとの暮らし、そしてドラゴンと戦っているときの血の昂りを思い出していた。
「…このまま、島に残らない?」
「…」
「君は…ちょっと乱暴だけど、その…きれいだし、かわいいし、美人だし…君の、裸を見ちゃったし、あんなこともしちゃったし、責任を取らないと!!」
「私…帰るわ」
「え…?」
もしかして、裸を見たとかあんなことをしたといったから気を悪くしたのか。
自分の言葉選びの下手さを自覚するタスクに、アンジュは笑みを浮かべる。
「今の私には…あそこしか、戻る場所がないみたいだから。それに、やられたら、やり返さないと!」
「そっか…」
アンジュは自分のやるべきことを決めて、戻る決心をつけた。
そうなった以上、引き留めるわけにはいかない。
残念に思いながらも、タスクはアンジュの思いを尊重することに決めた。
「…ありがとう。私1人じゃ、死んでたから…」
「ごめんなさい、一緒にいられなくて。でも…」
だんだんアンジュの顔が赤く染まっていく。
ここに来て急にタスクから受けた仕打ちが次々と頭に浮かび上がってしまう。
「いいこと!?私は、あなたとは何もなかった!!」
「ええ!?」
「何も見られてないし、なにもされてないし、どこも吸われてない!ましてや…その、一線も越えてない!!すべて忘れなさい!!いい!?」
「は、はい!!」
アンジュのすさまじいプレッシャーに押されたタスクは『はい』と言うことしかできなかった。
はあはあと荒くなった息を整えていき、アンジュはもう1度先ほどのような笑みをタスクに見せる。
「アンジュ…」
「え?」
「アンジュ…私の名前よ。タスク」
「…いい名前だね。アンジュ、また会おう」
「うん」
アンジュを乗せたヴィルキスが離陸し、フライトモードに切り替わってダナンへと飛んでいく。
そんな彼女の後姿をタスクは浜辺から見守っていた。
ヴィルキスを収容したダナンは海中に消え、トレミーはアルゼナルへと帰っていく。
その姿が見えなくなるまで、タスクはじっと見ていた。
「アンジュ…君が…ヴィルキスに認められたのが君なら、僕の生き方も決まった」
タスクは森の中へ入っていき、邪魔になるツタをナイフで切りながら奥へと進んでいく。
罠にかかった猪を無視し、どんどん進んでいくと、開けた場所に出る。
そこには木でできた粗末な墓が並んでいた。
ナイフで削って墓の主に名前を刻み、手直しがされていないためか、すっかりボロボロになっていて、文字も読めなくなっている。
タスクは一番奥にある2つの墓に触れる。
「父さん…母さん…たくさん迷って、逃げてしまってゴメン。俺、行くよ」
幼いころに死んでしまった両親に詫びの言葉を残し、タスクは広場の背後にある岩山に偽装されたガレージに目を向ける。
ガレージを開くと、そこにはピンクに近い赤紫のアーキバスがフライトモードの状態で保管されていた。
-アルゼナル 格納庫-
ダナンに収容されたパラメイルが運び込まれていき、出撃していたメイルライダー達とアンジュが集まる。
「おかえり、アンジュ!」
「アンジュ…よかった、無事に見つかって!」
「おなかすいてない?お弁当あるけど、食べる?」
ヴィヴィアンとナオミ、そしてエルシャが1週間ぶりにアルゼナルに戻ってきたアンジュにこれまで通りのおせっかいな対応を見せる。
「ありがとう、ヴィヴィアン、ナオミ。エルシャ、お弁当もらうわ」
エルシャから受け取った楕円形の弁当箱を開けたアンジュはその中にあるハンバーグを口に含む。
アルゼナル周辺の海で釣れた魚で作った魚肉ハンバーグで、王女時代に食べた最高級の豚のハンバーグほどではないものの、アンジュの口に合っていた。
「ふふ、この1週間いろいろあったみたいね」
「べ、別に何も…」
「だが、確かにお前は変わった」
背後からタスクに似た声が聞こえ、アンジュはお弁当を落とさないように気を付けながら振り返る。
もしかしてタスクがアルゼナルに来たのかと一瞬思ってしまったがそんなはずがなく、そこにいたのは刹那だった。
「…」
「何だ?」
少し残念そうな表情を見せるアンジュが気がかりで、彼女の眼を見ながら刹那は問いかける。
うっすらと笑みを浮かべたアンジュは目を閉じ、数回首を横に振った後でもう1度刹那を見た。
「あんたって、いい声してるね」
「え…?」
褒め言葉なのは確かだが、それがどういう意味かまるで分からない刹那は困った表情を見せる。
悪い気はしないが、そういう褒められ方をされたことがないため、何と言えばいいのかわからなかった。
だが、ヒルダ達3人はそんなアンジュを面白く感じていない。
「けっ…帰ってきて早々に男に色目かよ」
「ブス雌豚の色ボケ…」
「仲間にそんな言い方はないんじゃないか」
格納庫に入ってきたアスランが偶然耳に届いた、アンジュへの悪口をやんわりと注意する。
アンジュを守るようなその口調が気に入らず、反論しようとするロザリーとクリスだが、アスランの顔を見た瞬間、ボーッとしてしまう。
「ど、どうした…?」
(い、いい男…)
(かっこよくて…優しそう)
ソウジや刹那、舞人にクルツと、この短期間で多くの男性を見た2人だが、アスランは2人にとって別格だった。
ヒルダが男性不信ゆえにロザリーやクリスに男を信じるなと注意していたが、アスランを見ているとそんな言葉も消えてしまう。
(こんな男もいるなんて…)
(ごめん、ロザリー、ヒルダ…。あたし…あたし…)
「お、おい…!?どうしたんだ、二人とも!?」
「あらあら…男の人に免疫のない2人にオーブの赤い閃光は刺激が強すぎるみたいね」
エルシャはにこにこ笑いながら、すっかりアスランに惚れてしまったロザリーとクリスを見る。
「赤い閃光…!?じゃあ、こいつが噂のアスラン・ザラか!?」
ヒルダは時折ジャスミンモールを通じて入ってくる外の世界の話の中にあった、オーブのエースパイロットの話を思い出す。
アルゼナルには始祖連合国とは違い、外の世界の情報が入ってくることがある。
店主であるジャスミン、もしくはそこで働く店員が情報を仕入れるようで、ヒルダはその中でもパイロットの話に強く興味を抱いていた。
ただ、あくまで小耳にはさんだ程度の話であり、大抵の場合はそれに尾びれがつくことが多い。
それを知っているヒルダはオーブの赤い閃光がハンサムだという話もその尾びれの1つだとばかり思っていた。
ちなみに、プラントではなくオーブの赤い閃光と呼ばれているのは、彼が3年前の戦争でオーブに寝返ったからだ。
地球とプラント、双方を滅ぼしかねない戦争を止めるために行動し、結果としてその戦争におけるザフトのガンマ線レーザー砲、ジェネシスを破壊して地球を救った。
なお、1年前の戦争では諸事情でザフトに復帰せざるを得なくなり、しばらくはザフトの精鋭部隊であるミネルバ隊に所属していたが、当時にザフトの指導者であるギルバード・デュランダルの方針に反発して脱走した。
その際に追撃部隊に機体を撃墜され、深手を負ったところをソレスタルビーイングに救出された。
なお、その時のソレスタルビーイングはアロウズと戦っており、低軌道オービタルリング上に建造された巨大自由電子レーザー掃射装置、メメントモリ1号機を破壊し、そのまま地球に降下したばかりだった。
また、これは公式には表明されていないが、オーブは3年前に壊滅したソレスタルビーイングの生き残りをネルガル重工と共に匿い、偽の戸籍を与えるなどして保護していた。
その縁でソレスタルビーイングと協力関係ができたのがアスラン救出の理由の1つとなっている。
その後はザフトのオーブ侵攻時にソレスタルビーイングが武力介入を行う際にそのままオーブに舞い戻った。
複雑な経緯をたどり、結果として生まれ故郷であるプラントを2度裏切る形となったため、プラントではアスランへの評価が大きく分かれている。
裏切り者として処刑すべきという声もあるが、彼は一切弁解することなく、ただひたすらに地球圏の平和のために行動し続けている姿から、若干軟化している。
「まさか、そんな2つ名がついたいたとはな…」
「有名人なんだな、あっちの彼」
「そりゃあそうさ。2度の地球とプラントの戦いを止めたクライン派のエースだからな。英雄みたいなものさ」
「よしてください、ロックオンさん。俺にはその資格はありませんよ」
「でも、その彼がどうして…?」
「地理的な事情もあり、アルゼナルの事情を知った代表の方針で、ひそかに支援をしていたからです。オーブにとって、差別と偏見は見逃せないものですから。ジル司令の依頼で、俺も当面はアルゼナルに駐留することになりますので、よろしくお願いいたします」
「ナデシコの代わりということか、頼むぜアスラン」
アスランの実力は一時行動を共にしていたこともあり、人柄も含めてよく知っている。
そんな彼と共に平和のために行動できることをロックオンは純粋にうれしく思った。
「火星の後継者の一件もあります。オーブも世界に対してできることをやるつもりです」
「オーブの赤い閃光…」
「かっこいい…」
すっかりアスランにメロメロになっている2人の目線はじーっとアスランに向けられている。
「ちっ…!」
自分の大切な友達をアスランに取られるような形になったヒルダは面白くないようで、舌打ちした。
「ほらほら、ヒルダちゃん。ロザリーちゃんとクリスちゃんほどじゃなくても、もっと愛想よくてもいいんじゃない?」
「あたしは男が信用ならないんだよ!!」
この空間にいることが我慢できなくなり、ヒルダは捨て台詞を残して格納庫を飛び出してしまう。
アスランはそんなヒルダの後姿を驚きながら見ていた。
「…何か、悪いことをしてしまったみたいだな」
「気になさらないでください。ちょっと今、ナーバスになっているだけですから」
「それより、早くパーティーしようよ!!アンジュ帰還記念の!もちろん、アンジュのおごりで!」
「え…?私がお金を出すの??」
「それくらいしても、バツは当たらないんじゃない?」
ヒルダ達3人はともかく、ヴィヴィアンやエルシャ、ナオミにサリア、それにソレスタルビーイングもミスリルもこの1週間、必死にアンジュを探していた。
その感謝を示すのであれば、パーティー代で済むのであれば安上がりだ。
「仕方ないわね…その代わり、ヴィヴィアン…ペロリーナのキーホルダー、1つくれる?」
「いいよ!どれがいい!?いっぱいあるぞー!!」
ヴィヴィアンは急いでレイザーのコックピットに飾ってあるペロリーナのキーホルダーを全種類アンジュに見せる。
それらの中で目に留まったのは、なぜか片目が紫になっているペロリーナだ。
その眼の色がタスクと似ているように思えた。
「じゃあ…これ」
「はい、大事にしてね!!」
「それじゃあ、パーティーの準備をしましょうか。腕によりをかけてごちそうを作らなきゃ」
「エルシャ、私も手伝いわ!ヴィヴィアンはサリア達にも伝えておいて」
「合点承知!」
ヴィヴィアン、エルシャ、ナオミがパーティーの準備のために格納庫を出ていく。
そんな仲間たちがいることを嬉しく思い、アンジュの表情が柔らかくなる。
「アンジュ、タスクのことだが…」
「分かってる。誰にも言うつもりはないわ」
タスクのことを知っているのは、現状アスランとアンジュだけだ。
それに、タスクは始祖連合国が抱えている秘密を探ろうとしている。
そんな彼の邪魔をしたくないし、アンジュも生まれ故郷にそのような秘密があるのを気持ち悪く感じた。
アンジュはタスクから受け取ったままになった写真を見る。
「それに…」
「それに?」
「あいつの生き方…邪魔したくないから」
「あいつのこと、理解しているんだな」
「どうかな…」
理解、というところまで認識が言っているのかは自信がないが、彼が正しいことをしようとしていると思っている。
アンジュは写真を懐にしまう。
そして、ノーマとなった自分に素敵な思い出と時間をくれたタスクのことを思った。
(ありがとう、タスク…そしてごめんね…一緒にいられなくて。でも、ここが私の帰る場所だから)
-トゥアハー・デ・ダナン 第1格納庫-
「フェイズシフト、トランスフェイズ、Eカーボンにガンダリウム合金…すべてのバージョンのデータを照合したが、やはりどれも該当しない…」
アールヤブの装甲の解析を行うティエリアはパソコンに映る映像を見ながら、この未確認機の未知の技術を感じていた。
金属は少なくとも、地球や火星、月には存在しないもの構成されていて、サックスとイアンが取り出したエンジンの構造もまったく見たことがないものだった。
「相転移炉であることは間違いなさそうだが…まさか、太陽炉と同じく推進剤無しでいけるなんてな…」
「しかし、太陽炉と違い、電波障害を発生させる機能はありません。純粋にエネルギー源としてだけ機能する相転移炉というべきです」
「分かるのはそれだけか…」
アルゼナルでパーティーが開かれている間、整備班とティエリアが総出で解析したが、分かったのはそれだけだった。
今後も出会うかもしれない相手で、もう少し何か弱点を得ることができないかと思ったが、なかなかうまくいかない。
「だが、分かったことはある。これは…地球圏の兵器ではない」
その答えはティエリアやイアン、テッサ、サックスの共通したものだった。
-アルゼナル 食堂-
エルシャとナオミが料理の支度をしている間、アスランは使われていない席に座り、1人で休憩を取っていた。
最初は手伝おうかと思ったが、2人から丁重に断られ、他に休憩できるような場所が思いつかなかったため、仕方なくそこにいる格好だ。
「カガリから聞いていたが…本当に女性ばかりなんだな…」
食堂まで行く間、出会ったのはノーマの女性ばかりで、中には興味津々に見ている女性もいた。
アマゾネスの世界に迷い込んだのではないかと錯覚するが、ここが現実世界であり、2度にわたる大戦でも注目されなかった場所だ。
「アスランさん…」
「な、なんだ!?」
急に目の前にナインのホログラムが出現し、びっくりしたアスランは立ち上がってしまう。
「驚かせてしまい申し訳ありません。今、あなたの顔を解析させてもらっています」
「俺の顔を!?」
「私は『いい男』の定義という物がわかりません」
アンドロイドであるナインにはロザリーとクリスがなぜアスランがいい男だと思ったのかを理解することができなかった。
ならばと思い、こうして彼の顔を解析するところから始めている。
「姉さんに将来、その『いい男』と付き合うことができるように、男性について研究したいと思ったのです。合理的に。キャップだけではサンプル不足ですので…」
「は、はあ…」
「キャップと比較致しますと、肌の色や髭の有無、瞳の色や肌のうるおいなどに違いがあります」
「好きに調べてくれていいよ。その代わり、あとで君のことも少し調べさせてほしいな。君に興味があるんだ」
「…!!」
アスランの言葉に無機質な白だったナインの顔が真っ赤に染まる。
「す、すまない!!何か気に障ったみたいで…」
「自分に何が起こったのか、よくわかりませんけど…」
少なくとも、思考に鋭い電気が走ったような感じがした。
その感覚をナインには理解できず、答えも出てこない。
だが、アスランの言葉が原因ということは分かる。
「これが…ロザリーさんとクリスさんを襲った赤い閃光なんですね…!!」
「はあ…!?」
何を言っているのか全く分からないアスランはただ頭を混乱させるしかなかった。
だが、カガリにこのことを聞いてはいけないことはわかった。
機体名:グレイブ ヒルダ・カスタム
形式番号:AW-GBR115(HL)
建造:アルゼナル
全高:7.6メートル
全備重量:3.85トン
武装:対ドラゴン用アサルトライフル、可変斬突槍「パトロクロス」、凍結バレット
主なパイロット:ヒルダ
アルゼナルの第1中隊副長であるヒルダが使用するパラメイル。
ベースとなっている機体は新兵用のグレイブだが、エースパイロットであるヒルダの適性に合わせてリミッター上限が引き上げられており、機動力ではアーキバスに匹敵するものとなっている。
また、可変斬突槍であるパトロクロスが装備されており、接近戦での柔軟な対応が可能。
カラーリングはヒルダのパーソナルカラーである赤となっている。