だいたいこんなもんだろうと勝手に想像しているだけで、正確ではありません。
何か意見がある人は参考にしたいので、感想かメッセージで教えてください。
なお、アンジュの歌に関しては若干設定が変化しています。
ドラゴン(現在判明しているデータのみ)
全高:15~20メートル(スクーナー級)100メートル以上(ガレオン級)
主な攻撃手段:ビーム、翼、電撃(ガレオン級のみ)、魔法陣バリア(ガレオン級のみ)
アルゼナルに所属するノーマたちが戦っているこのドラゴンは一般に公開されておらず、アルゼナルでもその正体をつかむことができていない。
正式名称は「Dimensional Rift Attuned Gargantuan Organic Neototypes」(次元を越えて侵攻してくる巨大攻性生物)で、ドラゴンはその略字。
その名前の通り、エリアDに発生するシンギュラーと呼ばれる空間の穴から出現している。
特徴としては、肉体を形状記憶合金のように大型化したり形状を変更することができること、巨大なドラゴンの場合は高い再生能力を持つことが挙げられる。
また、口から発射されるビームはモビルスーツのビームライフルに匹敵する出力がある。
そんなドラゴン達に対抗するためにパラメイルが開発され、マナを使えない女性であるノーマがその兵器に乗って今なお戦い続けている。
-アルゼナル周辺-
「シンギュラーから機動兵器!?まさか、こいつらも…!」
目の前に現れたモビルスーツに驚いたロザリーは背部2連装砲を発射しようとする。
「待ってください、彼らは敵ではありません!!」
Ξガンダムがロザリーの前に出て、再び現れた3機のモビルスーツと3機の航空機を見る。
そして、オープンチャンネルにして通信を繋げる。
「ジュドーさん…まさか、ZZに乗っているのはジュドーさんですか!?」
「ハサウェイ!?ハサウェイ・ノアなのか!?」
すぐさまΞガンダムのモニターにオレンジのラインのある白いノーマルスーツ姿で、茶色い髪をした緑色の瞳の少年の姿が映る。
彼がコアファイターのパイロットであるジュドー・アーシタで、話を聞いているとハサウェイとは戦友の間柄のようだ。
「た、助かったぁ…」
戦闘機、コアトップに乗る茶色いおかっぱ頭で、黄色いノーマルスーツを着た少年、モンド・アガケが安心したようにため息をつく。
しかし、ドラゴン達はアルゼナルの戦力の間に割って入ったジュドー達を敵と認識したのか、ビームを発射してくる。
「うわああ、まずい!ビーム攪乱幕を!!」
重爆撃機、コアベースに乗るジュドーのものと比べると薄めの茶髪で2人を比べると少し色白な肌をした少年、イーノ・アッバーブが急いで両サイドに装着されている追加バックパックからビーム攪乱幕を展開させる。
それが功を奏し、Mk-Ⅱや百式に当たるはずだったビームがかき消された。
「助かったぜ、イーノ。けど、なんだよあの化け物!俺たちまで攻撃してきたぞ!?」
百式に乗っている、耳を完全に隠した茶髪で、3人の少年とは違い、顔にそばかすを付けた少年、ビーチャ・オーレグがよくわからない状況に困惑する。
ハサウェイに会えたのはうれしいものの、あのドラゴン達が何なのか、そして一緒にいる見たことも聞いたこともない小型の機動兵器や戦艦、そしてモビルスーツが何なのか、疑問が次々と頭に浮かび上がる。
「ああ、もう!!こうなったらやるしかないわね!」
金色のふんわりとしたポニーテールをした少女、エル・ビアンノはやるしかないといわんばかりにドダイ改もろともMk-Ⅱを反転させ、ハイパーバズーカから散弾を発射する。
拡散して飛んでいく弾丸は反応が遅れたドラゴンの翼や体を穴だらけにした。
「こちら、ロンド・ベル所属のモビルスーツ部隊、ガンダムチームです!応答願います!」
Zガンダムに乗っている青いロングヘアーでジュドー達と比較するとやや長身な少女、ルー・ルカが見えている戦艦及びハサウェイがいることから近くにいるかもしれないトゥアハー・デ・ダナンに通信を送る。
ハサウェイのことを知っていて、なおかつシンギュラーから出てきたということが何を意味するのか、ルリにはすぐに理解できた。
「テッサ艦長。彼らは…」
「はい、我々の世界の人間とモビルスーツです。こちら、トゥアハー・デ・ダナン艦長のテレサ・テスタロッサ大佐です。状況の説明は後にしますので、まずはドラゴンの迎撃に協力してください。ダナンを浮上させ、コアファイターの回収準備を!」
「…!!待ってください!水中から大型の生物反応…水の中にドラゴンが!」
「何!?」
「モニターに映します!」
モニターにはライトブルーで100メートル以上の大柄な体をした大蛇のようなドラゴンが映っていて、口から青いビームが発射された。
「急いで浮上を!」
「了解!!」
ダナンが浮上し、その装甲の下をビームがかすめる。
かすめた装甲とビームが通過した水は氷漬けになっていた。
「危ないところでした。あのドラゴンのビームに直撃していたらどうなっていたことか…」
「あれがドラゴン…彼らの法則にしたがうとしたら、サブマリン級と呼ぶのが妥当でしょうか」
このドラゴンはジルから提供された情報の中にはなかったドラゴンで、仮に浮上したとしても、あのドラゴンが追いかけてくることは明白だ。
どのように倒すべきか、テレサがプランを練る中でダナンが水中から姿を現し、発進口を開いた。
「よし、モンド!イーノ!やるぞ!!」
「いつでもいいよ、ジュドー!」
「後は頼んだよ!!」
ジュドーは操縦桿の近くにあるZZと書かれたレバーを力いっぱい動かす。
すると、コアトップとビーム攪乱幕を出し尽くし、燃料も残り少なくなっていた追加ブースターを強制排除したコアベースからビームキャノンなど装備されていた武装やパーツが分離し、武装がなくなった2機はガイドビーコンの誘導に従ってトゥアハー・デ・ダナンに乗り込む。
そして、ジュドーが乗るコアファイターを中心に分離した装備が装着され、1機の20メートル近い大型モビルスーツへと姿を変えていく。
「こいつは…!?」
「あれって…もしかして…」
「あれは第1次ネオジオン紛争で活躍したガンダムチームの主力モビルスーツ、ZZガンダムですね」
「いや、分かってるが、問題はそこじゃあないだろ」
ナインの無機質な説明にツッコミを入れたソウジだが、Ξガンダムに続いて目の前に現れた過去のモビルスーツに驚きを隠せなかった。
赤・白・青のトリコロールでガンダム、Zガンダムと異なり、重装で高火力な上に合体機能まで取り入れた、モビルスーツ開発史の中では大型化・複雑化による恐竜的進化の象徴ともいわれるZZガンダム。
データの中でしか見ることはないと思っていたそんなモビルスーツと、何よりも大昔の人物であるはずのパイロット、ジュドー・アーシタがいることが信じられなかった。
「青い海…追ってくるドラゴン。とにかく普通じゃないことは理解した!だけど…おとなしくやられるつもりはないんだ!!」
合体を終えたZZガンダムのスラスターに火が付き、水上を低空飛行し始める。
そして、機体を反転させて水面すれすれの状態を維持したままZZガンダムの主力武器であるダブルビームライフルを発射する。
1門だけでもZガンダムの最大火力であるはずのハイパーメガランチャーに匹敵するそのビームはバリアの展開が遅れたガレオン級の腹部から背中を撃ち抜いたが、ガレオン級は痛みで大きく体勢を崩すだけで絶命には至っていなかった。
「いっけぇー、ブンブン丸!!」
パラメイルのなけなしの装甲をさらに削ったピンク色のパラメイル、レイザーに乗るピンクのライダースーツ姿で、左耳の前に短い三つ編みのおさげのある赤いショートヘアで、アンジュやサリア達と比較するとさらに幼い少女であるヴィヴィアンが腰に装着されている超硬クロム製ブーメランブレードを傷ついたガレオン級に向けて投擲する。
これはアンジュが初陣する前の日に1800万キャッシュというメイルライダーにとってはとてつもない大金を一括で出して購入したもので、彼女はそれをブンブン丸と命名している。
なお、ドラゴンを倒した際の相場はある程度決まっているようで、スクーナー級の場合は1匹撃破で5000キャッシュ。氷漬けにするなどして傷をあまりつけずに倒した場合は7000キャッシュ。
ガレオン級の場合は撃破が難しいことから12000キャッシュで、傷をあまりつけずに倒した場合は18000キャッシュになる。
また、ドラゴンを退治するだけでなく、それをサポートした場合もその内容に応じてキャッシュの支給がある。
ただし、アルゼナルではそのキャッシュを使って生活していくことになり、機体整備や弾丸の補給、おまけに改造や新武器の入手についてもキャッシュがかかる。
1日の食費がおよそ1000キャッシュ必要で、手に入れた報酬のおよそ3割は機体整備と補給のために消えることが多く、1階の出撃で確実に支給される1000キャッシュだけでは足りない。
改造したり、大きく損傷した場合は余計にかかってしまう。
だから、指で数える程度のエースくらいしかこれほどの大金を稼ぐことは難しい。
装甲が削られ、被弾した裸足撃墜される可能性が高いうえに出力もピーキーなレイザーに乗っていること、おまけに莫大なキャッシュを持っていることから、ヴィヴィアンがこのアルゼナルのエースだということがよくわかる。
なお、キャッシュは基本的にアルゼナルでしか使えないため、今の価値に換算するのが適当であるかはわからないが、1キャッシュ=1円と考えられる。
そんな大金を払いて手に入れたブンブン丸はガレオン級の太い首を両断した。
「うふふ、さすがはヴィヴィアンちゃんね」
大物を仕留めたヴィヴィアンを褒めたエルシャもアサルトライフルで誘い込み、肩部リボルバー式大口径砲でスクーナー級を撃ち落としていた。
(上空のドラゴンはどうにかなるが、問題は水中だ…)
GNビッグキャノンで5匹のスクーナー球を消し飛ばしたティエリアだが、水中のサブマリン級がいまだに手付かずな状態であることが気がかりだった。
トゥアハー・デ・ダナン単体であのドラゴンを対処するのは難しいうえに、機動兵器の中で水中でも活動可能なのはヴァングレイだけだ。
だが、仮にサブマリン級にガレオン級レベルのバリアと再生能力がある場合、それだけで倒すのは難しい。
メイルライダー達もパラメイルには水中戦闘用の装備がないことから、超大物である初物を倒すのは無理だと割り切り、上空のドラゴン達の相手をしている。
「どうにかして、攻撃できる環境を…そうだ、ジュドーさん!!」
ハサウェイはガレオン級をファンネルミサイルで牽制しつつ、ジュドーを通信を繋げる。
「どうした、ハサウェイ!!」
「ハイメガキャノンの発射は可能ですか!?」
「あ、ああ!だけど、今のZZのエネルギーじゃあ最大出力でも1発だけだ」
「構わない!海に向けて発射してください!テレサ艦長、ZZに水中のドラゴンの位置情報を!!」
「海へ…!?ZZは空を飛べないんだぞ!?」
Ξガンダムとは違い、ZZは空を飛ぶことができない。
おまけにドダイ改やZガンダムが変形したウェイブライダーにも、重量のせいで乗ることができないため、Gフォートレスに変形しない限りは無理だ。
百歩譲ってGフォートレスになったとしても、ハイメガキャノンがそれでは使えない。
「大丈夫です!!」
ライフルをウェポンラックに納めたΞガンダムはZZガンダムを両手でつかみ、ビームバリアを上へ展開させた状態で上昇していく。
ZZガンダム以上に大型化し、ミノフスキークラフトを搭載したΞガンダムだからこそできる芸当だ。
しかし、ドラゴン達の中にはこの行動を不審に思った個体もいたようで、スクーナー級5匹が2人を仕留めようとビームを発射してくる。
Ξガンダムのビームバリアはあくまで空気抵抗軽減のための低出力なもので、防御に転用できるものではない。
「ハサウェイ!」
Iフィールドハンドを展開し、ドラゴンとΞガンダムに飛び込んだX3がビームを受け止めていく。
「感謝するぞ、トビア!!」
上昇を終えたΞガンダムはZZを上空で離し、ジュドーはZZのスラスターを全開にして可能の限り長く飛べるようにする。
そして、ダナンから待ちに待ったサブマリン級の位置データが送信される。
「位置は分かった!信じてるぜ…ササウェイ!!」
落下していく中で、ZZガンダムの照準設定を始まる。
グラグラと揺れる中、設定が終わる。
「いっけぇ、ハイメガキャノン!!」
移動している間、ハイメガキャノンのチャージを行っていたZZガンダムの額から大出力のビームが発射される。
コロニーレーザーの20%近くというモビルスーツには破格の出力のビームが海を貫き、海水を蒸発させていく。
減衰していくとはいえ、そのビームは確かにサブマリン級に命中した。
サブマリン級にもバリアを展開する能力があり、減衰していることもあり、それを貫くことができない。
しかし、それで十分だった。
「艦長!」
「はい。ダナン、ビームバリアを展開し、最大船速で接近!!」
「アイ・マム!ビームバリア展開」
トゥアハー・デ・ダナンの前方にビームバリアが展開され、バリアを展開させたまま動けないサブマリン級に突撃していく。
65ノット以上という、小型高速艇を上回るスピードで移動できるトゥアハー・デ・ダナンだが、Ξガンダムと同じくビームバリアを展開することで水の抵抗を減らしてさらに加速することが可能だ。
ただし、そのスピードはクルーにとっては危険になるため、全員が着席する必要があり、格納庫付近には整備兵が避難できる部屋が増設されている。
Ξガンダムのものと違いがあるとすれば、そのバリアをある程度防御にも転用できるところだ。
戦艦の主砲やメガ粒子砲を防ぐことはできない、前方にしか展開できない、核融合炉への負担もあり、制限時間が5分程度と弱点がいくつかあるが、モビルスーツ部隊を一点突破するのに適している。
「魚雷、発射!」
「魚雷発射、アイ!!」
そのままのスピードを維持したまま艦首に搭載されているADCAP魚雷が発射され、一直線にサブマリン級に向けて飛んでいく。
バリアをハイメガキャノン防御に集中していたため、多方向へのバリアをおろそかにせざるを得ないサブマリン級は口から冷凍ビームを発射し、海水諸共魚雷を氷漬けにする。
トゥアハー・デ・ダナンは徐々に深度を下げていき、冷凍ビームを真下を通る形で回避し、サブマリン級の真下に到達する。
真上への攻撃手段を持つトゥアハー・デ・ダナンに対して、サブマリン級にはその手段がない。
「トマホーク、発射!!」
垂直発射管扉が開き、トマホーク巡航ミサイルが発射される。
先ほどの魚雷を上回る破壊力を持つトマホークがサブマリン級の腹部に突き刺さり、大爆発を起こす。
そこを中心に蛇のような体が真っ二つになり、ドクドクと出ていく血が海水を赤く染めていく。
しかし、さすがはドラゴンというべきか、それでもなお生き続けており、その証を示すかのように真上に向けて冷凍ビームを発射する。
それを最後に、真っ二つになったサブマリン級は生命活動を停止させ、より深く沈んでいった。
「ビームバリア解除、速度調整を…」
テレサの命令と共にバリアが解除され、速度が徐々に元に戻っていく。
「サブマリン級の撃破、確認しました」
後方の状況を確認した通信兵の言葉に、クルー全員が安堵する。
彼が見るモニターにはドラゴンの地で一部赤くなった海が見え、それを見た彼は複雑な表情を浮かべていた。
「艦長、仮に再びサブマリン級と戦うことになる可能性があります。戦闘終了後、対サブマリン級の戦術構築を」
「はい…。これはギリギリの勝利ですから…」
これはハイメガキャノンを持つZZガンダムとそれを持ち上げるだけの出力を持つΞガンダムがいたからできたことで、それでも一歩間違えるとトゥアハー・デ・ダナンが氷漬けになり、沈没する可能性の高い敵だった。
カリーニンの言葉も一理あるため、テレサとマデューカスは静かに首を縦に振った。
「はあはあ、ハサウェイ…やった後で言うのもなんだけど、今のは無茶苦茶だぜ」
ハイメガキャノン発射によるエネルギー不足で動けなくなったZZガンダムがアルゼナルのデッキに運ばれていき、その中でジュドーがおとなしいハサウェイの意外な大胆さに驚きを感じていた。
「こうでもしないと勝てない…そう思ったからですよ!それに、僕だっていつまでもあなたやみんなに守られるだけの存在じゃあないんです!」
「へっ…言ってくれるぜ、ハサウェイ!」
-アルゼナル 格納庫-
戦闘が行われ、いざというときのためにメイをはじめとした整備兵たち非戦闘員は退避し、いつもならけたたましい機械音と彼女たちの声に包まれていた格納庫は嘘みたいに静寂に包まれていた。
その格納庫に、ジルと彼女によって無理やりライダースーツを着用させられたアンジュが入ってくる。
そして、一つだけ閉鎖された状態のシャッターの前に立ったジルはカードキーを差し込み、それを開く。
中にはひび割れた装甲や露出したフレーム、剣以外の武器が何一つない灰がかった白のパラメイルがフライトモードの状態で放置されていた。
スラスター部分の修理と推進剤の補給は最低限されているものの、ビームを使うドラゴンに対して、剣だけでは死にに行くも同然だ。
しかし、今のアンジュにとっては好都合なことだった。
「これは…」
「お前が乗る機体だ」
「随分…古いうえに壊れかけているように見えますが…」
「老朽化したエンジン、滅茶苦茶なエネルギー制御、いつ落ちるかわからないポンコツだ。死にたい奴にはうってつけのものだろう?更に…だ」
アンジュの腕をつかんだジルは彼女を無理やりそれのコックピットに乗せる。
そして、操縦桿の手前に外付けで取り付けられている手のひらサイズの端末のアンジュの右手のひらを押し付けた。
(これは…??)
右手のひらが置かれた瞬間、端末は起動して乗せている手の持ち主の情報を読み取っていく。
(パイロット認証…アンジュ、登録完了)
「これで、このポンコツはお前の言うことしか聞かなくなった。特攻するように操作したら、迷いなくそれにこたえる。お前だけの棺桶、というわけだ」
ジルの言葉に応える力のないアンジュは右手をその端末から離し、操縦桿に置く。
ハッチがないため、あとは起動させれば外へ飛ぶことができる。
そして、ドラゴンに特攻すれば、ノーマという現実から解放される。
「名は…ヴィルキス」
「戻れるのですね…これに乗れば。戻れるのですね…アンジュリーゼに…」
目の前で死んだゾーラがゾーラ・アクスバリに戻れたように。
たとえ肉体があの墓地に葬られるとしても、魂はミスルギ皇国に、そして最愛の母の元へ帰ることができる。
今のアンジュにとってそれが何よりの願いになっていた。
出撃する決心が固まったのを見届けたジルは懐から薄緑色の指輪を取り出し、それをアンジュに押し付けるように渡す。
「これは…」
指輪を受け取ったアンジュの眼が大きく開く。
「最後の慈悲だ。その指輪を返してやろう」
ノーマとしてアルゼナルに連行されたアンジュはそこで名前も服も、アンジュリーゼとして生きた証をすべて奪うかのように何もかも没収され、文字通り身一つの状態にされた。
その際にその指輪も没収されており、それは洗礼の儀の前に母からもらったものだった。
「行ってこい、そして…戦え!」
ジルの言葉に静かにうなずいたアンジュは左手中指にその指輪をはめる。
そして、ヴィルキスのエンジンが動き出し、ゆっくりと浮上していく。
(お母さま…アンジュリーゼは、もうすぐおそばに行きます…)
-アルゼナル周辺-
「うおおお!?」
スクーナー級3体が一斉発射したビームが融合して襲い掛かる、GNホルスタービットで大型シールドを作って受け止めはしたものの、ビームが当たった個所のそれは使い物にならなくなってしまった。
ガレオン級と比較すると、耐久性も火力もないスクーナー級が数を利用して攻撃する手段であり、スクーナー級であったとしても油断してはならない理由の一つでもある。
スクーナー級は同じスクーナー級同士でなければならないとはいえ、一斉発射したビームを濃縮し戦艦の主砲レベルにまで威力を拡大させることができる。
5体、10体とその数が多ければ多いほど効果が高く、事実としてその攻撃によってエース級のメイルライダーを何人も失う結果になったという。
ガンダムサバーニャも、もしGNホルスタービットの防御が遅れていたら、そのビームに焼かれていたかもしれない。
(ガレオン級、別方向から接近!別方向から接近!)
「何!?」
そのガレオン級は自分たちが戦っているところから見て右側の方向から飛んできており、そこは手薄になっている。
更にその背中からは5匹のスクーナー級が隠れていたようで、ある程度アルゼナルとの距離が狭まると、そこから飛翔する。
「三郎太、クルツ!前は任せる!!」
ロックオンはGNピストルビットを使い、スクーナー級を仕留めることには成功したものの、問題はガレオン級だ。
GNホルスタービットの数がもっとあれば、大出力ビームを発射してバリアを前方に集中させ、その状態で別方向からGNライフルビットで攻撃すればどうにか動きを封じ、撃破することができるかもしれない。
「できる限りのことは…!?」
アルゼナルに到達させないために動こうとするロックオンだが、カメラにアルゼナルから出撃したボロボロの白いパラメイルが映り、しかもそれがあのガレオン級に一直線に飛んでいっているため、驚きを見せる。
「そんなぼろい機体で…死ぬ気かよ!?」
「あのパラメイルは…」
アサルトライフルを撃ち、弾幕を張っていたサリアは新たな機体の反応と、そしてその正体と思われるパラメイルに注意が向いてしまい、前方のスクーナー級を見落としてしまう。
大型化した翼でアサルトライフルを切り裂かれ、驚いたサリアは使い物にならなくなったライフルを捨てて距離を置く。
「私としたことが、油断して…!」
右肩に納刀しているDスレイヤーを抜く時間がなく、サリアは凍結バレットを発射する。
しかし、凍結バレットはパイルバンカーのようにゼロ距離から発射することを前提としたもので弾速がアサルトライフルやハンドガンを比較すると遅く、簡単に避けられてしまい、目標を失った凍結バレットは海に落ち、大きな氷を作り出す。
斬られる、と目を閉じかけたサリアだが、彼女を仕留めようとしたスクーナー級は側面から飛んできた拘束の弾頭に撃ち抜かれ、バラバラになった。
「サリア、大丈夫!?」
その弾丸を発射したナオミのグレイブがサリアのアーキバスに近づき、接触回線を開く。
らしくないミスをしたサリアであるため、何か異常があるかと思い、モニターに映る彼女の様子を確かめたが、別に体に異常があるようには見えなかった。
「何か、あったの…?」
「…なんでもない、それよりもハンドガンを貸して。まだ戦えるから」
「え…?う、うん…」
普段ならお礼を言うはずのサリアであるため、おかしいと思ったものの、ナオミもあのパラメイルが見えていた。
特攻を止めるため、急いでサリアにハンドガンを渡し、そのパラメイルを追いかけた。
(誰が乗ってるの!?ココ、ミランダ…もしかして、アンジュ!?)
他のパラメイルと比較して重量のあるナオミのグレイブでは、ボロボロになっているとはいえ、見かけだけで判断するとレイザーに匹敵する機動性を持つヴィルキスには追いつけない。
通信をつなげようと試みるが、ヴィルキス側から通信を拒絶されている。
可能な限り距離を詰めて、カメラで確認すると、ヴィルキスに乗っているのがアンジュだということが分かった。
「アンジュ!?何してるの!?」
「アンジュ…?あのイタ姫か!?」
ナオミの通信を聞いたロザリーは驚き、その様子を見ようとするが、アサルトライフルの残弾がわずかで、今周囲にいるスクーナー球を対処するまで動くことができない。
「お姉さまの仇…殺す!」
後ろにいたことでドラゴンの攻撃が薄いクリスは向きを変え、キャノン砲の照準を合わせようとする。
ヴィルキスが向かっている先にはガレオン級がいるため、仮にヴィルキスを撃ってしまったとしても狙撃中の誤射、もしくはヴィルキスが通信を拒絶したうえに勝手にこちらの初戦に入ったなどいくらでも言い訳することができる。
「待ちな、クリス」
周囲のドラゴンの掃除を終えたヒルダが周囲には聞こえないように、クリスのハウザーと接触回線を開いて辞めさせる。
「なんださ、ヒルダ!あいつはお姉さまを…!」
「あの様子…あいつ、死にに来たようだよ」
「え…?」
「見せてもらおうじゃないか!イタ姫様の死にっぷりをさ!!」
あえてオープンチャンネルに切り替え、まるでお祭りが始まるかのような楽しそうな声を出して盛り上げようとする。
「うおおお!!なんじゃ、あの機体!?サリア!サリア!あの機体、ドキドキしない!?」
一方のヴィヴィアンはアンジュよりもヴィルキスそのものが気になっていた。
レイザーやハウザー、グレイブのアーキバスと様々なパラメイルを見てきたヴィヴィアンだが、おんぼろとはいえその機体を今まで見たことがなかった。
また、自分の中でその機体に対してわけのわからない高揚感を覚えており、そのはけ口として隊長であるサリアと通信を繋げていた。
しかし、サリアはヴィヴィアンの通信に返事をしなかった。
(ジル…どうして、あれをアンジュに…)
「くそ…!あの嬢ちゃんを止めるぞ!!」
「キャップ、計算しましたが、ヴァングレイでは追いつく前にパラメイルの特攻が完了してしまいます」
「それでも行くんだよ!!」
ソウジはヴァングレイの両肩のミサイルを全弾発射する。
ろくに照準を合わせることなく発射したものの、数を撃てば当たるのは正しいようで、何匹かのスクーナー級を撃ち落とし、ガレオン級はバリアを展開してそれを阻んだ。
そして、空になったミサイルポッドとポジトロンカノンをデッキ上で強制排除し、少しでも軽くして状態でヴィルキスを追いかける。
「ふざけんじゃねえ…ふざけんじゃねえぞ!」
「ソウジさん…」
「生きたくても、生きられなかった奴がどれだけいると思ってやがんだ!!」
ソウジの脳裏にメ1号作戦で死んだ仲間たち、助けることのできなかった人々、そしてヴァングレイ初陣の戦闘で特攻を仕掛けてきたガミラス兵が浮かぶ。
彼らのことを考えると、ノーマであるとはいえ、まだ若くて未来のある彼女の自殺は贅沢に思えた。
「もうすぐ…もうすぐさよならできる…」
アンジュは自分に言い聞かせるようにつぶやき、正面のガレオン級を見る。
迫ってくるヴィルキスを早々に追い払おうと、ガレオン級は口を開き、電撃を放つ。
「まっずい!!」
ヴァングレイは電撃を高度を下げ、海面すれすれを飛ぶことで避けることに成功する。
「チトセちゃん、あのパラメイルは!!」
「大丈夫です!右翼にかすった程度で、まだ撃墜されていません!!」
チトセの言う通り、ヴィルキスは電撃はかすったものの戦闘継続に問題はなかった。
しかし、特攻するはずであるにも関わらず、ガレオン級を左ギリギリを通過してしまった。
電撃を受けて機体が揺れたことと、パイロットの動揺が原因かと思ったが、ひとまずは特攻に失敗してくれたことでほっとした。
「電撃のおかげで助かってくれたか!」
(ううん、違う…。これって、本能…?)
電撃は確かにヴィルキスめがけて飛んでいっており、そのまままっすぐ飛んでいたら守りのないアンジュが感電死するのは目に見えていた。
しかし、電撃が当たる前に機体が左にずれたことで先ほどのような事態になった。
理屈ではない彼女のうちなるものをチトセは感じていた。
「とにかく、ポジトロンカノンを!!」
アルゼナルやアンジュから注意をそらさせるため、ソウジはポジトロンカノンをセットさせる。
「最大出力、セット完了です!」
「よし、行けえ!!」
発射された高圧縮の粒子がガレオン級のバリアに接触するとともに膨張する。
最大出力で発射されたそのビームはハイメガキャノンほどではないものの、それでもガレオン級がバリアの展開と集中に徹さなければならない状況を作るには十分だった。
「いけない!もう1度…」
一方、素通りしてしまったアンジュはヴィルキスを反転させ、再びガレオン級に特攻を仕掛けようとしていた。
電撃を受けたとき、右腕に強いしびれを感じ、右の操縦桿の反応毒度が若干鈍くなっているのを感じたが、特攻をかけるのに関しては特に問題はないと彼女は判断した。
「…!ソウジさん、シールド!!」
「何!?ぐおおお!!」
ビームを受け止め、注意すべきはヴァングレイだと判断したガレオン級は一回転してヴァングレイを尻尾で薙ぎ払う。
チトセの言葉で左腕のシールドで防御したことで、コックピットへの大きな衝撃は避けることができたが、機体は海面にたたきつけられてしまう。
そして、その尻尾は再び特攻を仕掛けようとしたヴィルキスにも迫っていた。
「駄目ぇぇぇぇぇ!!」
通信がつながらないことは分かっているが、それでも止めたいとチトセは叫ぶ。
しかし、ヴィルキスはその尻尾も高度を上げることで回避してしまい、また素通りしてしまう。
「何やってんだ…あいつ…」
2度も特攻を仕掛けようとし、攻撃を受けたら死ねるにもかかわらず、回避したうえに特攻も失敗するアンジュのことをヒルダは理解できなかった。
死にたいのか、それとも生きたいのか。
双方を行ったり来たりして、今のアンジュは宙ぶらりんの状態だった。
「駄目…駄目じゃないの。ちゃんと、ちゃんと死ななきゃ…」
先ほどの攻撃は受けたら苦しむことなく即死できたのに、なぜ避けてしまったのか、アンジュは自分を責め、再びヴィルキスを反転させる。
今度はそんなアクシデントを起こすまいと、ガレオン級に向けてまっすぐ飛べる状態になったのを確認すると、アンジュは操縦桿から手を離した。
「何をやってんだよ、あんたは!!」
エネルギー供給が済み、再び戦線に復帰しようとするZZガンダムのコックピットを開き、ヴィルキスに目を向けたジュドーが彼女に聞こえるように大声で叫ぶ。
通信がつながっていようといまいと、今のジュドーにとっては関係のないことだった。
「死にたいみたいだけど、あんたは本当は生きたいんだよ!だから、体が動くんだよ!」
「この声は…」
ラムダ・ドライバを発動し、威力を高めたボクサーで至近距離からガレオン級の頭を撃ち抜いた宗介の脳裏にジュドーの声が響く。
(いかがなさいましたか?軍曹殿)
「アル、お前は今の声が聞こえたか?」
(声…?通信機からはありませんが)
「…聞き間違いか、忘れてくれ」
アルにはそういったものの、宗介にはその声がとても鮮明に聞こえていた。
気のせいだとは到底思えなかったが、今はドラゴンを倒すことが最優先であるため、直にその疑問を投げ捨てた。
「これって…ZZガンダムから聞こえているの??」
「ジュドーさんの声が聞こえる…」
「これって…アムロ・レイのバイオ脳の時みたいだ…」
チトセとハサウェイ、トビアといったニュータイプ達もジュドーの肉声を感じていた。
そして、それはニュータイプでもないアンジュにも聞こえていた。
「生きたい…わたくしが、生きたい??」
その声の主は聞き覚えがなく、顔を合わせたこともない。
通信も拒絶しているため、今その声が聞こえる状況ではないのは分かっている。
しかし、自分の本心を突きつけるような言葉で、動揺を見せる。
「ジュドー・アーシタの言う通りだ。お前の本能が俺にもわかる。生きたいという思いが…」
イノベイターとして、ジュドーの声を聞いた刹那も彼に同意する。
彼女の動きを見ると、死にたいという言葉の裏にある生きたいという当たり前の願望が見えてくる。
「でも…わたくしは…!!」
「そんなの当たり前だろうが!命ある者がそんなふうに自分の命を捨てるような真似をするな!!分かれよ!!あんた自身の命の重みを!」
ジュドーの叫びに反応するかのように、ZZガンダムを紫色のオーラが包み込んでいく。
「あれは…!?」
ZZガンダムを介して、ジュドーの叫びがより鮮明に聞こえてきた刹那は中継器となっているそのガンダムを見る。
高濃度のGN粒子を使うことなく聞こえる彼の言葉、そしてその言葉を届けるマシン。
刹那の眼にはZZガンダムもまた、ガンダムを超えようとしているガンダムに見えた。
「バイオ、センサー…ジュドー君の声が聞こえる…」
「バイオセンサー?なんだそりゃ」
「搭乗者の意志を駆動システムに反映させ機体の反応速度やコントロール精度を向上させる機能を持つシステムです」
「ってことは…あのZZガンダム、本物ってことか…」
ハイメガキャノンの火力があったとはいえ、あのZZガンダムが本物かどうかはソウジには半信半疑だった。
しかし、チトセのバイオセンサーという言葉、そしてジュドーの声が聞こえるということから、本物だとなぜか確信できた。
ナインの言う通り、バイオセンサーは本来モビルスーツの反応速度とコントロール精度を上げるためのものだ。
ガンダムF91やクロスボーン・ガンダムに搭載されているバイオコンピュータの前身ともいえる存在だ。
言い換えれば、ファンネルやビットのような武装制御用ではなく、機体制御のための簡略化されたサイコミュだ。
しかし、強力なニュータイプ能力を持つパイロットが乗ることで、パイロットの感情の昂ぶりに反応して一時的に許容量以上にビーム兵器の出力を増大化させるなど数々の想定外の現象を発生させている。
とくに有名なのが歴史上もっともすぐれたニュータイプ能力を持っていたカミーユ・ビダンと彼が乗るZガンダムで、ビームライフルの直撃を弾き返すサイコ・フィールドの発生、周辺の敵機の索敵モニターの撹乱、オーバースペックなまでの機体の出力増大、システムを通じ死者の思念との精神的な同化を行い敵機の操縦制御を奪うといった事象を引き起こしたのは今でも有名な話だ。
ジュドーの叫びに反応するかのように、アンジュの指輪が淡く光り、それを介してアンジュにもよりはっきりと声が聞こえてくる。
同時に、自分をかばって死んだ母親、ソフィアの言葉が脳裏によみがえる。
(生きるのです、アンジュリーゼ…)
ヴィルキスはまっすぐにガレオン級に突っ込んでおり、ガレオン級は既に口を開いて電撃を放つ準備を完了している。
それを見たアンジュの中に強い恐怖が芽生えてくる。
「あ、あ、ああああ…!!」
放していた操縦桿を再びつかみ、恐怖で涙が止まらなくなる。
涙と共に指輪の光が強くなり、その光にヴィルキスが包まれていく。
電撃が襲うが、その光がバリアとなって1人と1機を守る。
「これは…!?」
その光を見たナオミはアンジュとヴィルキスに何が起こっているのか分からずにいた。
光の中で、ヴィルキスがフライトモードからアサルトモードへと変形していく。
灰がかった装甲が白く染まり、ひび割れ、朽ちていた装甲が元に戻り、フレームが金色に輝く。
ツインアイが赤く染まり、額に飾られた女神像も美しい銀の光を放つ。
-アルゼナル 墓地-
「あの光…」
墓場からその光が見えたココはそれが暖かく感じられ、じっと見つめていた。
「ココ?どうしたの?」
「あの光…きれい…」
-アルゼナル 司令室-
「司令!ヴィルキスが…変形していきます!!」
豊かに耳を覆うほどの金色のロングヘアーで黒いヘアバンドをつけた少女、パメラの言葉に椅子に座って戦局を見ていたジルはフッと薄い笑みを浮かべる。
癖の強い赤いボーイッシュなショートヘアの少女、ヒカルと緑色のすっきりとしたボブヘアーで黄色の分厚いヘアバンドをつけた少女、オリビエも同様の動揺を見せる中、その様子があまりにも不自然に思えた。
「目覚めたか、ヴィルキス…」
-アルゼナル 上空-
電撃を弾くバリアとなった光が消え、ガレオン級は自分が攻撃したパラメイルの真の姿をその目に焼き付けていた。
同時に、そのようなバリアを作れる敵は危険だと判断し、ヴィルキスにその巨体を利用した突撃を行う。
「死にたくない、死にたくない、死にたくないぃぃ!!」
先ほどとは正反対に制への執着を叫びながら突撃を回避し、装備されている細身で両刃の剣、零式超硬度斬鱗刀ラツィーエルでガレオン級の翼を切りつける。
その名前の通り、ドラゴンのうろこを斬るほどの切れ味をもつその剣で翼に大きな切れ目ができる。
バリアの展開を忘れていたガレオン級はその痛みを感じたのか咆哮し、尻尾で海に叩き落そうとした。
「お、お、お前が…」
今度はガレオン級の体に向けて左腕に装着されているワイヤーアンカーを発射し、その巨体に突き刺す。
そして、ワイヤーがまかれると同時に機体は急速にガレオン級に向けて接近し、尻尾から回避する。
ついにアンジュは心の奥底に隠していたものを吐き出す。
「お前が死ねぇ!!」
ラツィーエルを握ったまま横回転をはじめ、ガレオン級の体を切り裂きながら頭に迫っていく。
すさまじい激痛を感じるガレオン級は正面まで来たヴィルキスを至近距離からビームで焼き尽くそうと既に口にエネルギーの充填を終えていた。
彼女とヴィルキスを生かし続けるのはのちの禍根になると思ったのだろう。
ガレオン級のビームは戦艦の主砲レベルの火力を持ち、通常のパラメイルであれば一撃で破壊されてしまう。
それを防ぐには口を凍結バレットで氷漬けにすることだが、凍結バレットの装填がされていないことは既に分かっている。
「うわあああああ!!!」
アンジュの叫びと共に、ヴィルキスはラツィーエルでガレオン級の鼻から顎まで刃が貫くくらいに深々と突き刺した。
上からの圧迫で首が下に下がり、ヴィルキスが頭上に乗ると同時にガレオン級のビームが下に大きくずれた状態で発射される。
赤と黒が混じったビームは海の中に消えていき、ヴィルキスはラツィーエルを引き抜き、何度もガレオン級の頭にそれを突き刺していく。
ビームを間近で受けたにもかかわらず、元の形状と切れ味を保っているその剣はガレオン級の真っ赤な血で染まっていき、ヴィルキスもまた血で濡れていく。
「死ね、死ね、死ねぇぇぇぇ!!!!」
生命活動を停止したガレオン級の巨体が海へ落下しはじめ、ヴィルキスはゆっくりとそこから離れていく。
「すげえ…」
たった1機でガレオン級を撃破したヴィルキスとアンジュの恐ろしい動きにソウジは戦慄する。
そして、ドラゴンの討滅に完了した機動部隊達がヴィルキスの元へやってくる。
「ふうう、飛び入り参加の嬢ちゃんのおかげで助かったぜ」
「彼女が…アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ…」
舞人は一般に知られているアンジュリーゼと今のアンジュのギャップに驚きを隠せなかった。
気品があり、王女らしいおしとやかな彼女があのような荒々しい動きを見せるとは到底思えなかったからだ。
「よぉ、助かったぜ。アンジュちゃんよ」
ヴィルキスと接触回線を開いたソウジは素直に感謝の言葉を伝える。
しかし、通信機からはすすり泣く声が聞こえてきた。
「こ…んな…」
「ん?」
「こんな…感情の高ぶり、知らない…。違う、違う!!こんなの、こんなの私じゃない!!殺しても生きたい!?そんな汚くて、浅ましくて、身勝手な…!」
今のアンジュにソウジもチトセも返す言葉を見つけることができなかった。
生物の誰にでもあり、極限状態でその真価を見せる生存本能。
その発露と程遠い場所で育ってきたアンジュには受け入れることができなかった。
命を尊ぶことを学び、それを国民に説いてきたアンジュリーゼの行動・意思とは全く違う。
(これが…ノーマ…。だとしたら、私は…)
-アルゼナル 格納庫-
「ジュドーさん、皆さんも!!」
Ξガンダムをダナンに置いてきたハサウェイはモンドとイーノと共にやってきて、そこで待っているジュドー達に声をかける。
そこに機体を収容してもらい、コックピットから出てきたジュドー達はハサウェイの無事な姿を見て笑みを浮かべる。
「ハサウェイ!心配したんだぞ!?…と言っても、お前たちを探している俺たちもどうやら行方不明って奴になっちまったみたいだな」
「君たちは…ロンド・ベルの一員みたいだな、これは一体どういうことだ?」
事情徴収するためにやってきたクルーゾーは目の前にいる、ここにいるはずのないジュドー達に質問する。
ミスリルとは別組織で、別々に行動しているはずのロンド・ベルのジュドー達がなぜここにいるのか不思議で仕方がなかった。
しかも、あのドラゴン達とほぼ同じタイミングでやってきている。
これはエリアDへ自分たちが飛ばされたときとほぼ同じ状態だ。
「俺だってわからないぜ」
「海の上で嵐に巻き込まれたと思ったら、いきなり青い海の上にいたんだから」
ビーチャもエルも、クルーゾーの言葉に何と答えればいいのかわからず、その時の状況を言うしかなかった。
それとこの世界に飛ばされた因果関係は全く分からない。
しかし、探していたハサウェイとミスリルと合流できたのは喜ばしいことだった。
ミイラ取りがミイラになる様な展開ではあるが。
「そういえば、初めてでしたよね。私はルー・ルカ。ネェル・アーガマ所属ガンダムチームのパイロットです」
「俺はジュドー・アーシタ。で、あっちがビーチャとエル、イーノにモンドだ」
「そうか…ガンダムチーム。ネオ・ジオン抗争の中核チームか」
話に聞いていたとはいえ、まさかメンバーが全員16歳近い年齢の少年少女だとは思わなかったようで、クルーゾーは驚きながら彼らを見る。
彼らは宇宙から地球、そしてまた宇宙でネオ・ジオンの主力部隊と戦い、最後はその実質的なリーダーと言えるハマーン・カーンを討ち取ったことで有名になった。
そして、今でも地球と宇宙を行き来しながらネオ・ジオンと戦っている。
「お、俺らって意外に有名人?!」
「僕たちは行方不明になったΞガンダムとトゥアハー・デ・ダナンを探すために地球へ降下して、インド洋まで来たんです」
「その後はエルが言った通り、こんな状態になったってこと」
「ん?ならば、ネェル・アーガマは…?」
「ネェル・アーガマは宇宙で待機しています。私たちはHLVを使って…」
ルーの言葉を聞き、ネェル・アーガマがこの世界に飛ばされるような事態になっていないことがわかり、クルーゾーは安堵する。
しかし、気になるのはどうしてわざわざネェル・アーガマの機動戦力の中核であるガンダムチームに捜索を任せたのかだ。
インド洋であるなら、カリニャークマリ基地もしくは付近の部隊に捜索を依頼すれば済むだけの話だ。
ネェル・アーガマにはガンダムチームのほかに機動部隊がいるため、艦の防衛については問題ないかもしれないが、それでもその不可解さには疑問符をつけるしかなかった。
(ガンダムチームとネェル・アーガマを引き離したい理由でもあったというのか…?)
「僕たちと同じですね。ここは別世界の地球、とのことです」
「別世界の地球…ええ!?」
「分かりますよ。僕も最初に聞いた時は驚きましたから」
驚きを見せるジュドー達にハサウェイは笑みを浮かべながら答える。
ジュドー達の発言が正しければ、その嵐は自分たちの暮らしている世界とこの世界を繋ぐ門なのだろう。
「テスタロッサ大佐も同じ分析だ。加えて、我々が転移した際もドラゴンと遭遇した。ということは、ドラゴンとあの嵐には何らかの因果関係があるとみて可笑しくないだろう」
「で…俺たち、帰れるの…?」
行きについての答えは分かったものの、次の浮かぶのは帰りについてだ。
ここからハサウェイとミスリルと一緒に元の世界に帰ることができれば万々歳だが、そんなにうまい話はない。
ハサウェイとクルーゾーの沈黙から、帰る方法がまだ分からないことがすぐに理解できた。
「おいおい、ガンダムチームもミスリルもいないんじゃあ、ロンド・ベル…いや、地球はどうなっちゃうんだよ!?」
「今は…それを考えても仕方がありませんよ」
「それはそうだけどよぉ!!」
そういわれることは予想できたものの、それでも自分たちの世界の地球が気になって仕方がなかった。
「あの…ソウジさん、チトセさん。これ…どう思いますか?」
距離を置いて彼らのやり取りを見ていたトビアとソウジ、チトセは彼らとそのそばにあるZZガンダムなどのモビルスーツに驚いていた。
「他人の空似…なのか、それとも…」
「でも、こんなに似ていることなんて、あり得るんですか??」
「ZZガンダム、Zガンダム、百式、ガンダムMk-Ⅱ、Ξガンダム…あのモビルスーツは僕たちの世界では100年前の…アムロ・レイの時代のモビルスーツですよ」
「あいつらの機体は知っている。それなりに軍のデータベースで見てきたからな」
もし、違う状況でそれを見ることができたらどんなにうれしいことだったか。
しかし、別の世界に飛ばされたうえにこんな大昔のモビルスーツを見ることになると、素直に喜べるわけがなかった。
むしろ、なぜという感情ばかりが浮かんだ。
「でも、私たちの世界の過去から来たものとは思えない…」
「それは俺も同意見です。あのモビルスーツの性能、今の俺たちの時代のものと互角ですから」
「実は、クルツから聞いたんだけどよ、あいつらの世界の海、赤いんだとさ」
「あ…!それ、私もかなめちゃんから聞きました!」
「海が赤い…?」
ソウジ達はそのような話を聞いたことがなく、仮にそのような話があったとしたら、歴史の教科書に残っているはずだ。
しかし、そんな話を聞いた記憶がないことから、自分たちの世界の過去の人間ではないことが確信できた。
「それにしても、気になりますね。この類似性は…」
「うお、ナイン!?」
背後からナインの声が聞こえ、いつの間にいる彼女にソウジはびっくりして飛び退いてしまう。
ナデシコBに置いてきたヴァングレイの整備を行っているとばかり思っていて、まさかここにいるとは思いもよらなかった。
「ナインちゃん。ヴァングレイは?」
「あとは私がいなくても整備できる状態です。私から判断しても、大きさはともかくとして、あのモビルスーツ達の性能は私たちの時代のモビルスーツとほぼ互角です」
「なるほどなぁ…どういうことなんだ?」
「みなさんも、あたしたちの世界のガンダムとあなたたちの世界のガンダムの類似性が気になるみたいですね」
「ええっと、君は…?」
いきなり現れ、自分たちと同じように2つの世界のモビルスーツを見ているかなめが気になり、トビアは尋ねる。
「あたしは千鳥かなめ。一応、ダナンの戦術アドバイザーってことになってる」
(そんな、アバウトな…)
傭兵とはいえ、軍隊としての規律を保っているミスリルのメンバーとは思えないようないい加減さにソウジとトビアはあっけにとられる。
ミスリルの制服を着ておらず、高校生のような見た目でお世辞にも軍人には見えない。
何か事情があるのだろうと、これ以上追及するのはやめた。
「で、ガンダムの話なんだけど、君はジュドー君たちのガンダムが君のガンダムのベースになっていると考えてるみたいだけど…あたしはその逆で、君のガンダムの性能があたしたちの世界のガンダムに影響を与えているように見えるの」
「それって…どういうこと!?」
かなめのまさかの逆転の発想に驚いたトビアは詰問する。
もしその話が正しければ、彼女たちの世界と自分たちの世界に接点があり、おまけに何らかの要因で自分たちの世界が彼女たちの世界に影響を与えているということになる。
平行世界に関する研究が進んでいるとはいえ、その平行世界を行き来したという記録はない。
だが、かなめの説が立証された場合、記録に残っていないものの、何らかの要因で行き来した、もしくは交流があったことの証明になる。
「ごめんね、あたしも直感で言っているだけだから。でも、なんとなくだけど…君たちのガンダムの前の技術があたしたちのガンダムを作った…という感じに思えるの。2つのガンダムの親となった技術は同じ、かな?」
「何をやっている、千鳥。勝手に出歩くなと大佐殿に言われただろう」
格納庫にノーマルスーツを着用したまま入ってきた宗介がかなめに声をかける。
「ああ、ごめんソースケ。あ、さっきのはあたしが勝手に思ってるだけのことだから、気にしないで!」
「何なんだよ、それ…」
宗介に連れられて格納庫から出ていったかなめを見ながら、しっかりとそれについて談義することができなかったことへの不満を漏らす。
「面白いアプローチですね。技術者としての直感を持っているように見えます」
「真田さんがいてくれたら、詳しく調べてくれるかもしれないけど…」
「やめてくれよ、専門用語ばっかでわけわからなくなる」
真田の畑違いの人間への配慮が欠片もない解説についてはヤマトの乗組員全員が知っている。
能力があり、調べてくれたら何か解き明かしてくれそうだという期待はあるものの、説明については新見か森にしてほしいとソウジは思った。
「ま、あいつらが本当に過去の人間じゃないってことを願うだな…」
「ええ…ハサウェイを見ていると、そう思います」
将来のマフティーとなる彼と共に戦い、本来の彼は温和で人見知りをする、シャイでごく普通の少年だということが分かった。
そんな彼がテロリストになるなんて考えたくもなかった。
「そういやぁ、噂のお姫様はどこにいるんだ?」
格納庫にはヴィルキスを含めたパラメイルが格納されており、メイら整備兵たちが整備を開始している。
なお、ZZガンダムやZガンダムといったモビルスーツはエドワード・ブルーザー・サックス中尉率いるダナンの兵站グループ第11整備中隊でアーム・スレイヴとΞガンダムの整備が完了し次第、整備に向かうことになっている。
彼はアーム・スレイヴだけでなく、モビルスーツ整備の技術も持っている。
問題はパーツや武装で、ダナンにはΞガンダムのもの以外はない。
それを作るにしても、技術レベルの問題でアルゼナルでは無理な相談だ。
となると、望みとなるのはナデシコ隊とつながりのあるネルガルか旋風寺コンツェルンだ。
どちらにしても、本格的にパーツや武装を作り、整備するにはここではなく、日本へ向かわざるを得ないのが彼らの答えのようだ。
格納庫内ではアンジュだけでなく、他のメイルライダーたちの姿もなかった。
「女の子だけの戦闘チームみたいだから、仲良くしたいけどなぁ…」
「そうだなぁ、カワイコちゃんぞろいみた…あー、チトセちゃんにナイン。そのジトーッとした目はやめてくれ。傷つくから」
「ああ、だから三郎太さんとクルツさんが向こうでうろうろしてるんですね」
メイルライダーたちがいないため、彼らは整備中の少女たちに声をかけていた。
なお、クルツについては卑猥なワードが飛び出したせいか、メイにスパナを投げつけられたことは言うまでもない。
-アルゼナル 墓地-
曇り空で、周囲が薄暗くなっている中、アンジュは1人、崖から海を見つめていた。
コンテナに入れられてここまで送られたことからその間どのようなルートで連れていかれたかはわからず、どの方向に始祖連合国があるのかは今のアンジュにはわからない。
しかし、少なくとも海と空はつながっているため、そこを見るしかなかった。
「さようなら、お父様、お母様、お兄様、シルヴィア…」
ナイフを握る右手の力が強まり、始祖連合国での楽しかった記憶に思いをはせる。
しかし、ヴィルキスで戦った時に感じた高揚感から、自分はもうその日常に変えることができないことを認めるしかなかった。
もしかしたら、ジュドーの言葉に逆らって自殺してしまえばよかったかもしれない。
だが、そんなことをしたらソフィアの死を無駄にしてしまう。
「髪と一緒にすべてを捨てます」
だから、今のアンジュにできたのはこれまでのアンジュリーゼとしての自分を捨て去ることだった。
アルゼナルで生きるため、そして自分の心にけじめをつけるために。
アンジュは持っているナイフで透き通った金髪を切っていく。
普段は使用人や御用達の理容師にきれいな鋏で切ってもらっていたため、自分でこうして髪を切るのは初めてだ。
切り落とした髪は風と共に飛んでいき、ショートヘアとなったアンジュは髪と共にアンジュリーゼとしての心が故郷へ帰ることを願った。
「私に残されたのはこれだけ…お母様が教えてくれたこの歌だけです」
アンジュは幼いころからソフィアに聞かされていた歌を歌い始める。
永遠語り、ソフィアの生家である斑鳩家に代々受け継がれた歌だと聞かされている。
いつその歌ができたのか、誰が作ったのかはわからない。
しかし、ソフィアはミスルギ王家に入り、王妃としての重圧を感じる日々をいつもこの歌を心の支えにして生きてきたという。
(進むべき道を示す護り歌…お母様、私にはもう、何もない。何もいらない。過去も、名前も…何もかも…。生きるためなら、地面をはいずり、泥水をすすり、血反吐を吐くわ…。私は…生きる。殺して…生きる!)
これが、王女アンジュリーゼが死に、戦士アンジュが生まれた瞬間だった。
-アルゼナル ロッカールーム-
「ったく、頭来るぜ!あのイタ姫!!」
「あいつ…うざい…」
ロッカールームで制服に着替えたロザリーは先ほど活躍したアンジュに怒りを覚え、拳をロッカーにたたきつけていた。
隊長であるゾーラが死ぬ原因を作ったアンジュがあんなに活躍をし、死ぬことを拒否したことが我慢できなかった。
しかも、ガレオン級を単独で撃破したことから多額のキャッシュを手に入れることになる上に、あのヴィルキスという謎のパラメイルの性能は自分たちの乗っているパラメイルを上回っている。
まるでジルに特別扱いされているように見えて仕方がなかった。
「な、ヒルダもそう思うだろ!?」
「え…!?あ、ああ…」
着替え終えたヒルダはロザリー達の話をあまり聞いていなかったようで、気の抜けた返事をしてしまった。
「ごめん…先に部屋、戻ってる…」
しかし、少なくともゾーラとアンジュについての話だということは分かっている。
今はその話をしたくないヒルダは逃げるようにロッカールームを後にした。
「ヒルダ…」
「そっとしておいてやろうぜ。ゾーラお姉さまが死んで、一番ショックを受けてんだ。お姉さまの仇はあたし達で討つんだ!ヒルダの分も!」
「しかし、仇を討つとしてもそのドラゴンはもう討伐していますよね?それだけでは足りないんですか?」
「う、うわあ!?」
急に背後にあるベンチにナインが現れ、びっくりしたヒルダは背中をロッカーに貼り付ける。
クリスも後ずさりして突然現れた彼女に驚いていた。
扉が開閉した形跡はヒルダの時以外はなく、よく見るとホログラムになっていて、実体はない。
「なんだよお前!?いきなり入ってきて!!」
「ロ、ロザリー…こいつ、外の世界の奴だよ」
「質問に答えてください」
2人のことなど知ったこっちゃないと言わんばかりに、ナインは2人に迫る。
「う、うるせえ!!関係ねえ奴は引っ込んでろよ!!」
「関係なくはありません。私たちは仲間ですから」
共同戦線を張り、そしてアルゼナルとナデシコ隊は連携を組むことで一致している。
となると、ナインの言う通り、これからは共に戦う仲間ということになる。
しかし、あくまでそれは上同士が決定したこと。
現場の人間であり、今までそのような経験のないロザリー達には割り切れないところがある。
「笑わせるなよ!!お前がマナが使えるかは知らねえが、どうせあたしたちのことを人間以下の家畜としか思ってねえだろ!?指令が何を考えてるかはわからねえけど、お前らと絡むつもりはこれっぽっちもねえからな!!」
「そ、そういうことだから…」
ロザリーは思い切りドアを開け、怒りのせいか大きく足音を立ててロッカールームを出ていき、クリスも影のようについていった。
「人間でない人間がいる…?理解不能…」
始祖連合国のシステムとロザリー達ノーマがどのような扱いを受けてきたのかわからないナインにはその言葉の意味が分からなかった。
「やはり、人間は難しい…」
そう言い残して、ナインのホログラムは消えた。
-プトレマイオスⅡ ブリーフィングルーム-
「ようやく、ちゃんと話す機会ができたわね」
スメラギはアサギらオーブから派遣された3人の少女たちと握手を交わす。
近くにドラゴンが現れたことで、しっかり話す機会を失っていたため、こうしてその機会ができたことをスメラギは喜んでいた。
「それで、オーブのカガリ代表は今回の火星の後継者について何と?」
「はい…戦争が終わり、立て直しが行われる中、それを台無しにするような事態はあってはならないとのことです」
「ということは、協力していただけると…?」
「はい。しかし、ボソンジャンプを制御するシステムの存在から、大規模に軍事力を出すことができない状態です。また、近日中にアザディスタン王国皇女、マリナ・イスマイール様と共に始祖連合国の首脳と会談を行うとのことです」
「会談についてはヴェーダで知っているけれど、やはり…」
「始祖連合国が火星の後継者と通じている可能性がある、というのがカガリ様の見解です」
木連のバックアップを受けていない火星の後継者がテロリストの範疇を超えた軍事力を持っていて、足がついていないことを考えると、始祖連合国が彼らの行動をバックアップしていることは考えられる。
また、これは一般には公開されていないが、押収したロゴス関連の情報を調べると、ロゴスを裏で指示を出している存在がいることが判明している。
仮にその正体が彼らだとすると、あれほど外部に無関心だった彼らがなぜそのような行動を起こしたのかが分からなくなる。
(火星の後継者…始祖連合国…もし、つながりがあるとしたら、いったい何のために…?)
ことは火星の後継者を壊滅させるだけでは終わらない。
これまで世界の歪みと対峙し続けたスメラギの直感がそれをささやいていた。
機体名:ヴィルキス
形式番号:AW-CBX007(AG)
建造:アルゼナル
全高:7.8メートル
全備重量:4.3トン
武装:対ドラゴン用アサルトライフル、零式超硬度斬鱗刀「ラツィーエル」、凍結バレット、ワイヤーアンカー
主なパイロット:アンジュ
アルゼナルに死蔵されていた旧型パラメイルが、アンジュの指輪の力で再生したもの。
専用武器として装備されているラツィーエルはガレオン級の固い鱗を切断できるほどの切れ味を誇り、更にはビームを受けたとしてもそれに耐える頑丈さも併せ持っている。
メイによると、アーキバスに装備されているDスレイヤーはこの剣の量産タイプのようなものらしい。
それ以外の武器はほかのパラメイルと共通したものとなっている。
なお、アンジュの指輪とヴィルキスにどのような関係があるかについては不明で、ジルもしくはサリアがそれについて何かを知っていると思われる。
バイオメトリクス認証により、アンジュの生体データを登録しており、事実上アンジュ以外がそれを操ることができない。