形式番号:GN-010
建造:ソレスタルビーイング
全高:18メートル
全備重量:61.8トン
武装:GNマイクロミサイル、GNホルスタービット×4、GNライフルビットⅡ×4
主なパイロット:ロックオン・ストラトス(2代目)(メイン) 青ハロ、オレンジハロ(サポート)
ソレスタルビーイングがガンダムサバーニャの太陽路とフレームをベースに改修したもの。
パイロットであるロックオンが得意とする早撃ちと弾のバラマキといった戦闘スタイルに合わせて調整されており、全身のGNマイクロミサイルとビットとしての機能が付いたGNホルスタービット、GNライフルビットから歩く武器庫といえるほどの重量を誇る。
それに伴う火器管制の複雑化はサポートメカであるハロを2基搭載することで解決している。
ただし、太陽路そのものの出力に変化がないことから過剰な重量化によって、たとえGN粒子の機体重量軽減効果があったとしても、重力下での活動に支障をきたすようになってしまった。
当初は宇宙でのみ運用することが想定されていたことから問題にならなかったものの、火星の後継者の登場によって重力下での運用が余儀なくされ、結果として搭載する武装を一部取り外すことで重力下での活動を可能にしている。
ちなみに、オレンジハロはロックオンに、青ハロは彼の恋人であるアニューに懐いている。
-プトレマイオス2改 ブリーフィングルーム-
「スメラギさん、こうしてじかにお会いできてうれしいです」
「そうね。でも、せっかく顔を合わせるのだったら、こんな状況じゃないほうがよかったわ」
ブリーフィングルームで、スメラギとルリは2人っきりで会話を始める。
ナデシコBとトレミーは現在、マイトステーションに格納されている。
地球連合軍の傘下にあるナデシコ隊が非合法な私設武装組織ソレスタルビーイングと接触していることを公にするわけにはいかないためだ。
「ですが、そうでなければ会うことができないのも事実です」
「それはそうだけど…」
「ですから、速やかに事態の収束を図り、そのあとでたくさん話をしましょう」
「そうね。それにしても…蜉蝣戦争ではオペレーターだったあなたが今では艦長を。感慨深いものを感じるわ」
当時のナデシコ隊と同行した際、スメラギ達は自分たちの素顔などを見せないように通信を行っており、顔を合わせたことは一切ない。
しかし、アキトやユリカを含めた当時のナデシコ隊の面々の名前や顔はモニター越しで知ることができ、そのころのルリは常にポーカーフェイスの小学生だった。
そんな彼女が若干14歳で艦長デビューし、大きくなっている。
母親というわけではないが、当時のルリを知っている分、大きくなった彼女に何かを感じざるを得ない。
「本当なら、もっと艦長席にふさわしい人がいるのですが…」
「御統ユリカさんね?」
ユリカの名前を聞いたルリは若干顔を下に向けるが、すぐに元通りの表情に戻る。
当時と違い、年相応の少女としての感情を手にし始めていることがわかる。
その分、あのような形でアキトとユリカから引き裂かれたことはつらかったのだろう。
スメラギはブリーフィングルームにあるスクリーンに火星の後継者の中心人物である草壁とその組織が使用している機動兵器、夜天光や積尸気などを表示する。
その下にはアキトやユリカの顔写真も載っている。
そしてもう1人、金髪で白衣を着た30代くらいの女性の顔写真もある。
「あなたから受け取ったレポート、読ませてもらったわ。天河アキトさんに御統ユリカさん。そして…」
「イネスさん。彼女もA級ジャンパーとして、拉致されたものと思われます。イネスさんに関してはさらわれたのか、それとももう既に亡くなられたのかは分かりませんが…」
金髪の女性、イネス・フレサンジュは当時のナデシコ隊の科学・医療クルーで、3年前の蜉蝣戦争における火星での生き残りで、ナデシコに救出されたのが縁で加わった。
ほかにも生き残りがいたものの、戦闘に巻き込まれる形でイネス以外は全員死亡してしまっている。
彼女は非常に複雑な経歴をたどっている人物で、実は3年前にボソンジャンプで20年近く前の世界にタイムスリップしていて、それがなければ、今の彼女の年齢は11歳ということになる。
彼女もまたA級ジャンパーで、そのことからボソンジャンプの中にある時間の概念が証明されることになった。
ただ、イネスはアキト・ユリカ夫妻が行方不明になるのを前後して行方不明となっており、その真相を聞き出すことができていない。
ネルガルなどが現在も捜索しているが、証拠1つ見つけることができていないのが現状だ。
「こちらも彼らのものと思われるテロリストの動きは前から追っているけれど、いろいろと不可解な面があるわ。その中でも資金源と様々な組織を手足のように使える広い人脈。どうやってもそれがわからないの」
そのどちらもが地球連合軍内部の裏切り者、もしくは木連内部でいまだに草壁を信じている人物だけの動きなら、彼らをすべて摘発すれば済むだけの話だ。
しかし、火星の後継者に流れている資金も人脈もその範疇を超えており、複数の国家レベルの支援があると考えなければ説明がつかない規模になっている。
「人脈については、舞人さんも疑問を口にしていました。本来なら、何のつながりもない犯罪者たちが連動して動きを見せるのは不自然だと…」
昨日のように、ピンク・キャットの援護のためにアジアマフィアがやってくるようなことは舞人にとっては初めてのことだ。
鍵となるのはカトリーヌが言っていたスポンサーの存在で、その正体がわかれば、少なくとも人脈面でたたくことができるかもしれない。
「旋風寺舞人…勇者特急隊ね」
「ご存じだったんですね?」
「いろいろと調査したわ。でも、彼の場合は問題ないってことで状況を静観しているけどね。本当の意味での正義のヒーローの邪魔をするのは世界の損失だし」
スメラギは勇者特急隊について調査する中で突然コンタクトをとってきたとある老人のことを思い出す。
彼が自分から勇者特急隊に関する情報をこちらに送ってきて、それと引き換えに彼らに対する武力介入をしないでほしいと依頼された。
彼は育児休暇をとった仲間たちの身の安全を保障してくれていることもあり、その願いをむげにできなかったことも、静観するという判断を出した理由になっている。
「同感です」
フフッ、とルリは思わず笑みを浮かべた。
ナデシコで何度も見ることになった『熱血ロボ ゲキ・ガンガー3』などで出てくるヒーローがそのままテレビか漫画から出てきたような舞人ら勇者特急隊がまぶしく見えてしまった。
きっと、スメラギも同じ感想を持っていたのだろうと思える。
世界を変革へ導くためとはいえ、大きな混乱を起こして人命を失わせてしまったことを考えると…。
「結局、火星の後継者のバッグについては謎のまま。でも、肌で感じるものがある…」
「何者かが、この世界を再び戦いに包もうとしている…ということですね?」
「そのとおりよ。だから、火星の後継者だけじゃなくて、その黒幕も倒さなければならない」
「あの…以前から思ったのですが、ソレスタルビーイングは木連の動きに敏感ですよね?」
当時、ナデシコと一時行動を共にした理由は木連への武力介入のためということで、当時は戦力不足である上に反逆者としてASAに追われる身になっていたことから深く追及することができなかった。
そしていま、こうしてスメラギと話していると、少なくともナデシコ隊が知りえた情報とアキトからもたらされた情報を彼女も持っている。
そうなると、ソレスタルビーイングと木連の関係を疑問に思わざるを得ない。
スメラギもこれは話さなければならないと思ったのか、首を縦に振った後で答える。
「兄弟…いや、いとこのようなものだからね」
「どういうことです…?」
あまりにも抽象的な、スメラギらしからぬ発言に疑問を抱く。
少なくとも、近しい関係であることはその表現で理解することができた。
「ソレスタルビーイングの創設者であるイオリア・シュヘンベルグは木連の協力者でもあったの。正確には火星から逃げ延びた宇宙移民者に対して、だけどね」
「初耳です」
「イオリアは木星でGNドライヴを開発していたから、そのつながりだと思うわ」
現在、ソレスタルビーイングが木星で持っている基地は木連との接触を避けており、スメラギ達もヴェーダを取り戻し、情報を見るまではそのことを知る由もなかった。
しかし、太陽炉も疑似太陽炉も重粒子が必要で、その1つとなりえるヘリウム3は木星でなければ大量に手に入れることができないうえ、太陽炉については木星の高重力な環境でなければ作れない。
そうなると、イオリアが何らかの形で木連と接触したとしても不思議な話ではない。
「もしかしたら、彼の開発した数々の超テクノロジーは木連が木星圏で発見した古代文明の遺跡を利用しているのかもね」
ただ、それはあくまでスメラギの憶測にすぎず、ソレスタルビーイングが持つ技術のどこまでが古代文明の影響を受けたものであるのかはわからない部分が多い。
ハロについてはバッタのような自立型ロボットに関係があるかもしれないが、あちらのロボットと違ってコミュニケーションをとることができるのが大きな違いだ。
また、疑似太陽炉についてはソレスタルビーイング内部の裏切り者がリークしたとはいえ、地球でも作ることができたことから、やろうと思えば太陽炉も含めて作ることができたはずだが、それらも木連オリジナルの技術の情報はヴェーダも入手していない。
実際、イオリア・シュヘンベルグ自身200年以上前の人物であり、その長い時間の間にソレスタルビーイングと木連が関係を持たなくなったように、技術面でもつながりが薄まってしまったのかもしれない。
「では、木連が地球を攻撃することにソレスタルビーイングは責任を感じているのですか?」
「そこまで、はっきりした形ではないけれどね。イオリアの理想や計画については私たちも完全に理解しているわけではないけれど、少なくとも戦争の根絶については同意してる。だからこそ、そのイオリアが協力していた彼らが戦いを起こすなら、それを止めることも私たちの役目だと思ってるの」
「もう1つ、聞かせてください。あなたたちは自らのやってきたことを償うために今でも戦っているのですか?」
アロウズは解体され、イノベイドも滅んだ。
まだ完全なものとは言えないものの、地球もプラントも木連もこれから人類の革新のため、平和のために前へ進もうとしている。
ここを一つの区切りとして、戦いから身を引くという選択肢もあったはずだ。
だが、スメラギたちが今でもなお戦いを続けている理由をルリは知りたかった。
あくまで彼女の見解だが、自分たちの行いが原因で生まれたアロウズとイノベイドを自らの手で滅ぼし、世界を救ったことで償いを果たしているから、その罪にとらわれる必要はないのかもしれない。
ソレスタルビーイングが原因で命を落とした人の関係者がそれを聞いたら激怒するだろうが、ソレスタルビーイングをある程度知っているからこそ、そういう見解を出すことができる。
「そうでもあるし、そうでもないといえるかな…。ソレスタルビーイングの中には過去の贖罪のために戦っている人もいると思う。私も含めて…。でも、私たちが戦う最大の理由は、この世界の未来には平和が必要だと思うからよ。それはソレスタルビーイングが武力介入を始めた時から変わってないわ」
「ありがとうございました、やはりあなたたちはぶれませんね」
その話を聞いて、ルリは安心したかのような笑みを見せる。
スメラギもそれがルリにとって満足のいく答えなのかわからず、不安を感じながら答えていたため、その笑顔を見れたことでうれしく思えた。
そんな和やかな空気を吹き飛ばすかのように、自動ドアの無機質な開閉音が響く。
「スメラギさん、大変です!!」
「どうしたの?ミレイナ?」
「テレビを見てください!始祖連合国がミスルギ皇国のアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ皇女がノーマであることが発表されたです!!」
「なんですって!?」
ミレイナの報告、そして即座にスクリーンに映し出したそのテレビの映像にルリとスメラギの脳裏を稲妻が走る。
その国の皇女の中にノーマが発見される。
しかも、そのアンジュリーゼという皇女は国民から人気と信頼が厚いうえに、兄である皇太子のジュリオ・飛鳥・ミスルギを抑えて時期国王となるのではないかという噂さえある人物だ。
そんな彼女がノーマであると発覚することによる、これから起こる混乱を彼女たちは感じていた。
-ソレスタルビーイング パイロット待機室-
「…アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ皇女殿下はミスルギ皇国第一皇女として洗礼の議を受けていたのですが…」
「ミスルギ皇国…始祖連合国では最大の発言力と歴史を持つ、日本の天皇と同じく万世一系の皇族がいる王国だ」
ティエリアは映像に映る、泣き喚きながら兵士たちに連行される金髪で白いドレス姿の少女とスタジオでそれを無表情で報じる女性アナウンサーを見ながらソウジとトビアのために解説を入れる。
そのミスルギ皇国はおよそ500年の歴史で、公用語は日本語と英語。
2人1組でタンデム式のエアバイクに乗り、1人は操縦、もう1人はラクロスに似たスティックを振るってボールを奪い合い、ボールを相手チームゴールに入れることでポイントを競うエアリアを中心としたスポーツや始祖連合国考古学をはじめとした学問などを中心に栄えている。
それ以上に、栄えている原因が始祖連合国の人々だけが使える能力、マナの存在だ。
意志の力で物理現象に干渉し、物質の浮遊・移動、拘束・防護用の結界の展開、光や熱を発生させられる他、統合システムへのアクセスによる情報共有を駆使してマナ使い間でのコミュニケーションツールとなる。
わかりやすく言えば、超能力者とニュータイプ、もしくはイノベイターのハイブリットというべきで、それによって人々は相互理解を深めて差別や戦争等の諸問題を克服している。
「そこで、ノーマであることが発覚したのです」
だが、それはマナが使える人間同士の話であり、その始祖連合国ではマナが使えない人間を人間として扱わない、とある盛者必衰の理を現した物語に登場するとある一族の男の言葉を使うと、『マナあらずんば人にあらず』という思想が強い。
そのため、ときおり国内で生まれるマナの使えない女性、ノーマは人間として扱われず、始祖連合国から追い出されることになる。
なお、その追い出された女性たちがどうなったかについては一般には公開されていない。
「なお、16歳になる今日まで発見が遅れたのは、父であるジュライ・飛鳥・ミスルギ皇帝陛下によりその事実が秘匿されていたためと推測されています。なお、アンジュリーゼ皇女殿下は逃走を図りましたが、取り押さえられ…逃亡をほう助したとみられる母のソフィア・斑鳩・ミスルギ皇后殿下はその巻き添えに遭い、崩御あそばされたとのことです」
「マジかよ…マナが使えねえってだけでこれかよ…」
図書館で少し情報を知っていたソウジだが、テレビに映るアンジュリーゼと彼女を憎しみを込めて罵倒する人々、そして連行する憲兵を見て、戦慄を覚える。
チトセも口には出さないものの、始祖連合国の人々の異常さに憤りを覚えていた。
「あ…今、新しいニュースが入りました。これは皇帝陛下の名の下での公式発表です」
「皇帝陛下?まさか…ジュライって奴のことか?」
「ライル…奴は失礼よ…」
ロックオンに飲み物を持ってきていて、一緒にテレビを見ているアニューが青ハロを抱きながら彼に苦言を呈す。
大統領や総理大臣に対してはともかく、国王や皇帝とその一族に対してそういう言い方は失礼にもほどがある。
「でも、ジュライ皇帝はアンジュリーゼ皇女がノーマであることを秘匿していたって言っていたから…」
「その人がいきなり公式発表するというのは考えにくいわね」
ノーマを匿うことは重罪であるミスルギ皇国では、赤ん坊や幼年であれば許されことがあるものの、16歳や大人になってから発覚し、おまけにかくまったとなると死刑になってもおかしくない。
それは皇族であっても例外ではない。
「ミスルギ皇国の新たな皇帝陛下となられました神聖皇帝ジュリオ一世は…前帝ジュライ・飛鳥・ミスルギがノーマであるアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギを皇位に就けようとしたことは国家反逆罪であり、許されざることであるとして皇位のはく奪とともに拘束したとのことです。また、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギについては皇位継承権・国籍を剥奪するとともに国外追放したと発表されました。以上、ミスルギ皇国フジミテレビからお伝えしました」
アンジュリーゼに関するニュースが終わると同時に、すぐに次のニュースとしてエアリアのプロリーグに関する報道が始まり、ここからは自分たちにとって関係のない情報と判断したティエリアによってテレビが切られた。
「あの人気者のアンジュリーゼちゃんがな…こりゃ国もひっくり返るわ」
「ノーマって言っても、始祖連合国にとっては異常なだけで、僕たちから見たら何も変わらないはずなのに…」
ソレスタルビーイングと行動を共にしていたトビアは始祖連合国とマナ、そしてノーマについてはティエリアやスメラギ、アニューからあらかた聞いていた。
しかし、彼にとってはマナが使える始祖連合国の人々の方が異常に見えた。
そして、ノーマに対する差別の深刻さが罵倒する人々の姿から生々しく感じられた。
「ずっと、こんな感じだぜ。おまけに知っての通り、始祖連合国は地球連合に加盟していない。スイスやオーブのように永世中立を保っているのさ。オーブとの最大の違いは、外部への徹底的な無関心さだ」
永世中立を保つオーブでさえ、世界の動きに対してアンテナを張っており、中立を維持できるだけの軍事力や外交力を得るために活発的に動いていた。
非公開の情報ではあるが、3年前のオーブ軍が使用していたモビルスーツ、M1アストレイのプロトタイプを地球連合軍が開発していたストライクガンダムをはじめとしたXナンバー5機の技術を盗用する形で開発していたのがその例と言える。
また、中立を保っている間も参戦するまでの間は諸外国と貿易を行っていた。
しかし、始祖連合国については建国からこれまで諸外国と国交を結んだことも貿易を行ったこともない。
地球連合にも加盟しておらず、1年前にユニウスセブン落下によって発生した世界的な災害、ブレイク・ザ・ワールドでも被害を受けなかったにもかかわらず、一切支援することがなかった。
徹底的な外部への無関心ぶりから、各国も始祖連合国を危険視しているが、彼らが持つマナの力は侮りがたく、危害を及ぼさない限りは此方に攻撃してくることはないだろうという判断から静観し続けている状態だ。
「まったく、まるで始祖連合国の民は選ばれし者だって言ってるような感じだな」
「ソウジさんの言う通りです。ですから、マナの使えないノーマは人間扱いされない。それがおかしいと考えている人間は昔からたくさんいます。ですが、地球連合に加盟せず、外交を全く行っていないうえに始祖連合国の人々はだれもそれがおかしいと思っていない。だから、それがまかり通ってしまうんです」
「まるでどっかの洗脳された独裁国家の国民みてーだな」
「あの…国外追放って話がありましたけど、具体的にはどこへ…?」
報道の中で、追放される場所に関する言及がなかったことから、チトセは質問する。
その問いに答えることができる人物は誰もいなかった。
ノーマとなった女性の痕跡は連行された日を最後に一切消えてしまうためだ。
追放、という言葉を使っている以上は殺されてはいないかもしれない。
だが、始祖連合国はノーマを人間扱いしない以上、殺されている可能性も否定しきれない。
沈黙の中、自動ドアが開き、フェルトが入ってくる。
「みなさん。スメラギさんから連絡です。これからトレミーとナデシコBはマイトステーションから出発するため、支度をするように、とのことです」
「おお、フェルトちゃん。俺と君とのデート先が決まったってことか?」
「私たちはこれから、インド洋のエリアDへ向かいます」
サラッと自分の冗談を無視され、凹むソウジの耳をチトセは力いっぱい引っ張り、ナインに限ってはソウジをまるでごみを見るような眼で見ている。
(な、なんでだ??なんでナインはそんな目で俺を見るんだ??)
(仮にも、既に好きな人がいる女性にそれはないと思いますよ?キャップ)
「エリアDか…」
「一体、何のために…?」
エリアDという場所が何か、ソウジとチトセ、トビアには分からないものの、刹那達の反応を見る限り、碌な場所ではないということだけは分かった。
「なあ、エリアDって何だ?」
どうにか解放され、涙目で耳を撫でながらソウジは舞人に質問する。
「飛行機の航路、人工衛星の軌道から外れている、インド洋上のある一帯のことです」
「ルリ艦長から聞いたわ!謎の大陸があるっていう場所ね!」
「実際は地磁気の影響で機械類が正常に動かないために開発が放棄されている一帯だ」
「種を明かせばそんなものか…でも、それだったらモビルスーツとかが動かないんじゃ…」
夢のない現実をティエリアに冷徹に語られ、脳裏に浮かんだ夢のような空間が消えたことを寂しく思いながら、浮かんだ疑問を尋ねる。
彼の言い分が正しければ、機械類に入るマイトガインやエステバリス、モビルスーツにヴァングレイは間違いなくその影響を受けてしまうことになる。
「それについては問題ない。地磁気に対応できるように再整備をした。エリアDでは問題なく動かすことができる」
「でも…そこで何をするんでしょう…?」
「フェルト、ミス・スメラギから目的について聞いたか?」
「人の出入りが少ないから、もしかしたら火星の後継者をはじめとした組織の根城がある可能性があるため、その調査をするって聞いてるわ。ちょうど、そこでオーブからの協力者と合流することにもなっているから…」
「んじゃ、俺たちはナデシコへ戻るかな。じゃあな、トビア」
「ソウジさん、ナイン。戻ったらシミュレーションに付き合ってもらえますか?離れていた分の勘を取り戻しておきたいですから」
「はい!」
「おう、大歓迎だ。チトセちゃん」
ソウジやリョーコらナデシコ所属のパイロットたちは続々と待機室を出ていき、ロックオンとアニュー、アレルヤとマリーも自室へと帰っていく。
「刹那…」
待機室には刹那とティエリアが残っており、難しい表情を見せる刹那をフェルトは外から見ていた。
「刹那、皆にはああ言ったが…」
「ああ。おそらく…この戦いにはほかに大きな意味がある…」
「僕たちはこれから…この世界にとって最大のタブーに踏み込むことになるのかもしれないな」
エリアDは武力介入を開始してからも入ったことのない場所で、各国もその地域での戦闘を避けていた。
おそらく、地磁気の影響という話は嘘で有り、そこには始祖連合国が隠している秘密があるからだ。
ヴェーダで調べてもエリアDに関する情報が入っていないだけでなく、エリアDに遭難した人物がそのまま発見されなかった、もしくは発見されたとしてもその数日後に何らかの形で死亡したという話がある。
(エリアD…まさにこの世界のパンドラの箱だ…)
-インド洋 エリアD-
あの始祖連合国に衝撃を与えたニュースから3日後の朝。
ナデシコBとトレミーは禁断の区域に足を踏み入れていた。
この時代では珍しい、人の手がついていない緑あふれる島がいくつも見える。
「きれい…」
ブリッジから送られるエリアDの映像をヴァングレイのコックピットの中から見ているチトセはそのきれいで幻想的な空間に魅了される。
「ソウジさん、この映像記録していいですか?」
「ま、いいだろうな。いい土産話になる。にしても…」
「どうかしましたか?」
ソウジのバイタルなどの変化に反応し、ナインが専用モニターに表示される。
「いや…なんか変な感じがするぜ。まるでいきなりドンパチが始まっちまうみたいな感じのな」
-プトレマイオス2改 ブリッジ-
「フェルトさん、エリアDに入って既にどれくらい時間が経過しましたか?」
「現時刻で32分が経過しています」
操縦席に座るアニューはまったく動きのない現状を不思議に思っていた。
砲撃席に座るラッセは暇でしょうがないのかあくびをしているのが通信でばれてミレイナに呆れられていた。
そして、いまだにスメラギもルリも偵察のための機動兵器の出撃の命令を出していない。
「磁気反応に乱れはありますけど、機動兵器及び戦艦の運用については何も問題がないレベルです。ただ、レーダーの反応が若干鈍くなってます」
「どう見ても、普通の海ね…」
フェルトは3年前に戦いの合間を縫う形で海で過ごした時のことを思い出す。
その時過ごした場所もエリアDのような場所で、ささやかなものだったが平和な時間だったのを覚えている。
「まぁ、自然環境の保全という意味合いじゃあ地球にこういうエリアがあっても悪くない。だろ?スメラギさん」
艦長席に座るスメラギにラッセからの通信が来るが、彼女は返事をすることなく、じっと海を見ている。
ゆっくりと海を眺めていたいのは皆同じだろうが、今回は観光のためにここへ来たわけではない。
「おーい、スメラギさーん?聞こえてるかー?」
スメラギは通信をトレミーとナデシコB全体に聞こえるように信号を変更し、マイクを取る。
「いい?みんな。これから何が起こっても、決して取り乱さないように」
「おいおい、脅かしっこは無しにしてくれよ…」
「余計な先入観を持ってほしくなかったから黙っていたけど、ここには…」
「スメラギさん!未確認の機体群が接近中です!!攻撃、きます!!」
「GNフィールド展開、急いで!!」
スメラギの命令から2秒も満たずにGNフィールドが展開される。
左側面から飛んできた3つのビームがGNフィールドに阻まれて消滅する。
「火星の後継者か!?」
「モニターに表示します!!」
フェルトは先ほどのビームを逆探知し、位置を特定する。
トレミーのレーダーの範囲内に入っていたことから、攻撃してきた相手の正体を映すことに成功する。
「こいつは…!?」
映っていたのは白いアヘッドやGN-XⅢ、ユークリッドが複数機で、トレミーとナデシコBへ向けて接近している。
「連邦軍のモビルスーツとモビルアーマー!?だが、なんでアヘッドがいんだよ!?」
アヘッドはアロウズの指揮官クラスのパイロットにのみ配備されていたモビルスーツで、その性能はエクシアなどのソレスタルビーイングがかつて使用していたガンダムを超えるとのことだ。
その性質上、アロウズにのみ配備されており、それの象徴ともいえる存在になっていた。
しかし、アロウズの解体と封印されていた情報の拡散によって負の遺産と化し、連邦軍では使用されていない。
使われるとしたら、アングラな市場でそれを手に入れたテロリストか軍閥ぐらいだ。
「識別信号は出していません!」
「こちらの呼びかけにも応じないです!」
「…!水中からも反応!!モビルアーマーです!熱源がナデシコBに!!」
「おいおい、俺たちはともかく、ナデシコは連邦軍だろう!?」
水中からミサイルが飛んできて、それがナデシコBの下部に命中しそうになるが、ルリから命令されたのか、先に出撃したヴァングレイがビーム砲で撃ち落とした。
-ナデシコB ブリッジ-
「ふうう…何なんですか!?あの敵!?いきなり攻撃してくるなんて!」
ミサイルの爆発で揺れが生じ、どうにか落ち着きを取り戻したハーリーは腹を立てる。
「どうやら、先ほどのミサイルはモビルアーマーのものです。97%の確率でそれは…GNMA-04B11トリロバイト…」
ルリは先ほどのミサイルから攻撃してきたモビルアーマーをオモイカネと共に解析する。
前に2本、後ろに4本のアームを持つ、三葉虫のような形の水中専用モビルアーマーで、アロウズがソレスタルビーイングへの攻撃のために投入した経歴のあるものだ。
「トリロバイト…!?エステバリスと勇者特急隊には水中戦闘用の装備はありませんよ!?」
「仕方ありません。ソウジさん、チトセさん、ナインさん。ヴァングレイは水中での戦闘は可能でしょうか?」
「ああ…どうなんだ?ナイン!」
「ビームの使用はできませんが、問題ありません」
「では、トリロバイトの排除をお3方にお願いします。機動部隊は発進してください」
-インド洋 エリアD-
「空中で戦闘できるのはマイトウィングだけだ。やれるのか、舞人!」
「やれるだけのことはやる!マイトウィング、出ます!!」
ガイン達に見送られ、ナデシコBからマイトウィングが発進する。
トリロバイトを除き、攻撃してくる部隊はいずれも空中にいて、地上戦に特化したマイトガインやボンバーズ、ダイバーズでの戦闘が不利になっている。
唯一勇者特急隊で飛行できるのは現状、マイトウィングだけだ。
「あの無人兵器の部隊…きっと、エリアDに入ってきた俺たちを排除するために…」
マイトステーションのデータバンクには、このような白をベースとした自動操縦のモビルスーツやモビルアーマーの部隊に関するデータはない。
誰がこの部隊を編成し、エリアDに配置しているのか…。
舞人はトレミーにGNバズーカで攻撃しようとするGN-XⅢをミサイルで攻撃し、バズーカと右腕を破壊する。
そして、そのままそのGN-XⅢの真上を通過し、宙返りするように戻りながらバルカンを連射した。
後ろからの攻撃に一瞬反応が遅れ、バルカンは頭部と胸部に次々と着弾、爆発とともに海へと落ちていった。
他にもユークリッドなどのトレミーやナデシコBを攻撃しようとするモビルスーツやモビルアーマーがいるが、ユークリッドは2機のエステバリスの機動力に翻弄され、モビルスーツは刹那達ソレスタルビーイングのガンダムによって撃墜されていく。
「よし。太陽炉でもラファエルガンダムは正常に稼働できている」
GNビームライフルを発射して牽制を行うラファエルガンダムはおまけと言わんばかりにGNビッグキャノンを発射し、陽電子リフレクターの展開が遅れたユークリッドを含めた5機の機動兵器を焼き尽くしていく。
元々、ラファエルガンダムはイノベイドが使用していたモビルスーツ、ガデッサやガラッゾなどのガシリーズ技術とソレスタルビーイングのガンダムの技術が併用できるかの検証のために開発されたものだ。
ソレスタルビーイングは過去、ガンダムマイスターを人間にするかイノベイドにするかで計画が分かれていたようで、そのためかヴェーダには人間用のガンダムとイノベイター用で、のちのガシリーズの基礎となるモビルスーツの2つの技術がデータに入っていた。
それが人間とイノベイド、ソレスタルビーイングの内ゲバに使われることになり、自らが戦争の火種になるという皮肉をもたらすことになった。
最初に疑似太陽炉が搭載されたのは中核となる本体の技術の多くがガシリーズ系列のもので、太陽炉での運用を前提としていない技術であったため、太陽炉で運用可能かどうか疑問視されたためだ。
それについては木星で行ったテストや研究によって問題なしとわかったことで換装されることになったが、そのさなかにダブルオークアンタ共々、ヤマトのいる世界へ転移するという事態となり、換装できたのはこの世界に帰ってからとなった。
ただ、バックパックの部分については理由があって粒子貯蔵タンクを搭載している。
「上空のモビルスーツについては問題ない。あとは…」
「水中ですね。ソウジさん…頼みます!」
1機撃破できたからと言って、マイトウィングでは限界がある。
舞人はフロントアタッカーを務めるリョーコのサポートに回った。
-エリアD 水中-
「これが…エリアDの海の中…」
水中へと潜っていくヴァングレイのモニターに映る海底の光景をチトセは驚きとともに見ていた。
魚が泳ぎ、サンゴや貝が静かに暮らす海底にふさわしくない、船の残骸がモニターに映っていた。
一部軍艦やモビルスーツなどの機動兵器の姿もあるが、それよりもボートや漁船などの民間船の方が多い。
「まさか、あのモビルスーツ達が撃墜したってか!?」
トリロバイトから飛んでくるミサイルを回避し、ソウジは反撃としてレールガンを発射する。
しかし、トリロバイトは自身に向けて飛んでくる弾丸を歯牙にもかけず、前方のアームを展開させ、ヴァングレイに向けて直進する。
発射された弾丸はアームに命中するが、傷一つ与えることができていない。
「フェイズシフト装甲!?」
「水中だとビームが使えない!どうやって倒したら!?」
まさかのフェイズシフト装甲搭載モビルアーマーにチトセは戦慄する。
水中では実弾以外の攻撃ができず、ビームは減衰して使い物にならない。
そのうえ、フェイズシフト装甲がついているとなるとまさに鉄壁と言える。
唯一勝つための手段があるとしたら、コックピット付近に攻撃を加えて気絶させることくらいだが、相手は自動操縦であるため、それはできない。
また、ソウジ達は水中戦を訓練程度しか経験したことがない。
レールガンやミサイルの攻撃で発生する泡で視界が隠れてしまい、その間にトリロバイトが別の場所に移動して真上にいる戦艦めがけてミサイルを発射する。
「あの野郎!!俺たちはまだ…!」
トレミーとナデシコBを守るため、ソウジはヴァングレイをトリロバイトに向け、レールガンを連射しながら突撃させる。
先ほど見た、あの船や機動兵器の残骸。
それにはミサイルやビーム、魚雷を受けて撃沈した痕跡が残っていた。
「ああなるわけにはいかねえんだよぉ!!」
「…!!だめ、ソウジさん!!」
何かを感じたチトセはソウジを止めようとするが、その瞬間、コックピットに衝撃が走る。
接近してくるヴァングレイをトリロバイトの後ろの2本のアームがつかんだからだ。
そのアームにも3本指のマニピュレーターが搭載されており、搭載されている3基の疑似太陽炉が生み出すパワーでそのままヴァングレイを握りつぶそうとしていた。
コックピット周辺しかフェイズシフト装甲のないヴァングレイにはそれを受け止めきれる防御力がなく、装甲にひびが入る。
「ちっくしょう!!腕が使えねえ!チトセちゃん、サブアームにビームサーベルを!!?」
「え…でも!?」
「いいからやるんだ!!アームにくっつけて至近距離からビームを展開させろ!!」
「ああ、もう!!わかりました!!」
このままではやられるのは明白であるため、チトセはソウジに従い、サブアームを操作し始める。
サブアームは持っているビームサーベルをヴァングレイを右から握っているトリロバイトのアームに側面から密着させ、そのままビームを展開する。
密着したまま発生したビームがアームを貫き、そのままサブアームの先端を回転させてそれを切り裂く。
「よっしゃあ!!さっきはよくもやってくれたな!!」
片方のアームを破壊したことで、右腕が自由になったヴァングレイは残ったアームにビーム砲を密着させ、先ほどのビームサーベルと同じ要領でビームを発射する。
アームを2つ破壊されたトリロバイトは残り2本のアームに搭載されているGN魚雷で撃破しようとするが、その前にヴァングレイはトリロバイトの真上に飛び乗る。
そして、ビームサーベルを引き抜き、ミサイルポッドのある背中部分に密着させ、そのままビームを展開させる。
ビームは装甲を突き破って内部のミサイルに命中、内部から爆発を起こすトリロバイトにヴァングレイは背を向けた。
「へっ、そんな不愛想なAIなんかより、うちのナインの方が100倍かわいいぜ!」
爆発し、制御を失って迷走するトリロバイトを見ながらソウジは叫ぶ。
「100倍…ですか?」
急にモニターに表示されたナインがソウジに向けて不満げな表情を見せる。
「…1000倍、いや、10000倍ならどうだ!?」
「ええっと、ソウジさん…」
「元が0なら、何倍しても0のままですよ」
「う…!」
チトセが言わんとしていたことを言われ、ソウジは黙り込む。
ただ、あの黙々と仕事をこなす無人兵器のAIにも若干のかわいげがあるかと思ったのだが、どうやらナインにはそんなものが1ミリも感じられなかったようだ。
「でも、かわいいと言ったので、今回は良しとします」
「あ、ありがとよ…。じゃあ、チトセちゃん。海から出ようぜ」
「了解。…ププッ!」
先ほどのソウジの慌てながら1000倍、10000倍と言っていた姿を思い出したチトセは思わず笑ってしまった。
-インド洋 エリアD-
ヴァングレイが水中から飛び出し、同時に爆発によって水しぶきが上がる。
「あー、こちらヴァング1とヴァング2!モビルアーマーの撃破に成功!」
「お見事です、ソウジさん」
「こちらもモビルスーツの大半を撃破した。あとは…!?」
通信する刹那は急に頭痛を感じ、頭を抱え始める。
「どうした、刹那!?って、チトセちゃんも…!?」
「何…この感覚!?頭が痛い…!!」
頭痛と共に吐き気を覚えたチトセは左手で口をふさぐ。
刹那やアムロ・レイのコピーの思念を感じた時とはまるで違う、説明できないようなものを感じていた。
「キャップ!前方に異様な反応があります!きっと、姉さんはそれのせいで…!」
「何!?」
「みなさん、注意してください!磁気異常がど…んどんひど…く…ってい…す!!」
「ハーリー!!ハーリー!!くそっ、磁気異常だと!?」
ナデシコからの緊急で入ってきた通信にノイズが走り、ソウジはナインが表示した座標にカメラを向ける。
レーダーもセンサーも通信も磁気異常のせいで機能せず、唯一無事なのはカメラだけだった。
「ミノフスキー粒子かジャミングかよ!?こいつは…!」
ソウジは前方にある小さな島で発生している、紫色の稲妻が走る青い渦に目を向けていた。
「スメラギさん!!ナデシコや各機動兵器との連絡が取れません!!」
「センサーもレーダーも反応なし!こんなの初めてです!!」
GN粒子にはレーダーを無効化する機能があるものの、センサーに対する影響は微々たるもので、Nジャマーも同じだ。
トレミーのカメラが映しているあの青い渦が発生するのと磁気異常の拡大が同じタイミングで発生しているとなると、犯人はそれだ。
「スメラギさん!!」
(ついに来る…)
アニューやフェルト、ミレイナの声に応えず、スメラギはじっとその渦を見つめた。
「うぐぐ…気を…つけろ…!」
「何か…出てくる!!」
「出てくるって…何がだよ!?」
「あれは!?」
渦の中から5体の緑色の大きな化け物と十数体の10mくらいの大きさでピンク色の化け物が出て来る。
翼をもち、空を飛び、尻尾がある。
ソウジだけでなく、スメラギを除く全員がその化け物に驚きを隠せなかった。
「はあ、はあ…」
渦が消え、頭痛が収まったのかチトセは体を前に乗り出してたっぷり息を吸う。
よほどの頭痛だったのか、体中が汗でぬれていた。
「姉さん、大丈夫ですか?」
「ええ…心配してくれてありがとう、ナイン」
「マジかよ…こりゃあ、ドラゴンじゃねえか…」
アニメや漫画、神話の中でしか存在せず、実在するとは到底思ってもいなかったその化け物にソウジは目を丸くする。
「ドラゴン…形状から見て間違いないでしょう」
「知ってんのか、ナイン」
「おとぎ話やファンタジー世界についての学習もぬかりありません」
「それが現実に現れたのが問題なのよ!」
水筒を手にし、水を飲むチトセが突っ込んでいると、目の前のドラゴン達がヴァングレイ達に向けて飛んでくる。
緑色のドラゴンが口を開き、そこから展開される魔法陣から電撃を放つ。
サバーニャに接近戦を仕掛けようとしていたアヘッドにその電撃が命中し、どれだけの電撃を受けたのかわからないものの、機能を停止して海へ落ちていった。
更に電撃はサバーニャにも飛んできていたが、GNホルスタービットで防御したことで免れる。
「こりゃあ、助けてくれたわけじゃあねえな!!」
ロックオンの言う通り、ピンク色のドラゴンが一番近くにいるX3に向けて炎のように揺らいでいるビームを口から発射する。
直線に飛んできて、発射寸前に何かを頭で感じたトビアは辛くも回避に成功する。
「こいつ…!舞人!こんなのがこの地球にいるのか!?」
「あんな生物、見たことも聞いたこともない!」
舞人もドラゴンについて何も知らず、他の面々もおそらく同じだろう。
図書館でもドラゴンは漫画などでしか出てこず、実在するなんて話は聞いたことがない。
「センサー、レーダー、通信は復旧!しかし…空間の状況、いまだに不安定です、艦長!」
「そうなると…まだ何が出てきてもおかしくありませんね」
ルリが言うのとほぼ同時に、急に近くにある島のそばから水しぶきが上がり、緑色で250メートル程度の長さの潜水艦が現れる。
「船…いや、潜水艦か!?」
舞人は現れた潜水艦を確認するが、そのような形状の潜水艦は今まで見たことがなく、ソウジらと同じく別次元から来たものと思えて仕方がなかった。
-緑色の潜水艦 ブリッジ-
「状況の確認を!」
艦長席で銀色で三つ編みのおさげをした少女、テレサ・テスタロッサが動揺するクルー達に命令する。
彼女の命令を聞いたことで気を引き締めた後、クルーの通信兵の1人が彼女に報告する。
「現在位置は不明です!何よりも…ここは…」
通信兵だけでなく、このブリッジにいる誰もが目の前の光景を信じられずにいた。
「艦長…これは…」
彼女の隣に立っている、軍艦の刺繍の有る帽子をかぶり、180センチ以上の高い身長のある白い肌の男性のリチャード・ヘンリー・マデューカスも普段とは違う驚きの表情を見せていた。
冷静沈着な彼でさえこのような表情を見せるほど、今の彼らには目の前の光景が異様に見えていた。
「海が…青い…」
「まずはクルーとパイロットの確認を!全員、生きているか!?」
即座に浅黒い肌をした、マデューカス以上に大きな身長の誇る男性、アンドレイ・セルゲイビッチ・カリーニンが叫び、ブリッジクルー達は確認のために通信を艦内につなげる。
「全員、無事とのことです!しかし、何なのでしょう!?目の前には未確認の戦艦と機動兵器…そして、ドラゴン!?」
緑色のドラゴンの1匹が潜水艦の姿を確認し、咆哮する。
そして、5匹のピンク色のドラゴンがその潜水艦を撃破しようとビームを発射し始めた。
5発のビームのうちの2発が至近距離弾で、いつあたってもおかしくない。
「ドラゴン、こちらに攻撃を仕掛けています!」
「仕方ありません。AS(アーム・スレイブ)の発進準備を!」
「アイ・マム!”彼”はいかがします…?」
「何が起こるのかわかりません…出撃をお願いします」
「アイ!SRTチームに通達、これより出撃し、トゥアハー・デ・ダナンを死守せよ!!」
-トゥアハー・デ・ダナン 第2格納庫-
「冗談言ってんのか、あいつら!?俺…海が青いって…」
格納庫に入ってきた、金色のロングヘアーの少年、クルツ・ウェーバーは灰色の8メートルくらいの大きさの人型兵器、M9ガーンズバックに乗り込み、先ほどの通信兵たちの言葉を信じられずにいた。
「本当か冗談かは外出てみればわかる!しゃべってないで、さっさとM9をドダイ改に乗せな!」
黒いショートヘアの女性、メリッサ・マオは既にもう1機のガーンズバックに乗り込んでおり、用意されたドダイ改に愛機を乗せていた。
2機のガーンズバックの違いは頭部の形であり、クルツ機のものは丸く、マオ機については鶏のとさかのような形のセンサーが増設されている。
「にしても、あの磁気嵐に巻き込まれたかと思ったらこんな所って…まさか、私ら天国に来ちゃったのかも」
「天国にドラゴンなぞいない。我々がいるのはファンタジックな異世界の可能性がある」
マオ機の前にある、大型のクの字型の刀身の剣を左腰に刺した黒いガーンズバックとも言うべき機体、M9Dファルケに乗っている、辮髪のような後ろ髪をした黒い肌の男性、ベンファンガン・クルーゾーの発言にクルツは彼に聞こえないように笑いをこらえる。
(あのおっさん…もしかして、前にきたディスクに異世界物のアニメがあったから…)
彼について重大な秘密を知っているクルツにはそう思えて仕方がなかった。
一方、ガーンズバックに近い構造ながらも白と青をベースとした機体、ARX-7アーバレストに乗っている、浅黒い肌で左ほおに十字状の傷跡の有る少年、相良宗介はそんな通信を聞いても沈黙を保っていた。
「サガラ軍曹、あなたの見解はいかがですか?」
アーバレストのコックピット内に声が響く。
その声の正体はこのアーバレストに搭載されているAIのアルだ。
他のアーム・スレイブにもAIが搭載されているものの、諸事情によりアルのAIは人間に近いものになっている。
そんな今までにないAIとアーム・スレイブに当初は嫌悪感を感じていた宗介だが、今では愛着のある相棒となっている。
「分からん」
そんな彼の質問に宗介はただ一言、そう返した。
宗介にはこのような現象を説明するだけの学がなく、本人もそれを自覚している。
自分を一人の兵士として認識しつくしており、その観点からこの現状をどう認識するかを問われたら、答えは一つだ。
「だが、映像に映ったあのトカゲ共がこちらに敵意があり、攻撃を仕掛けてきているのは事実だ。ならば、やることは1つだ」
「そう。ここがどこだろうと、敵が来たのなら迎え撃つだけよ!ソースケ、先に出な!」
「了解!相良宗介、アーバレスト出るぞ!」
上部のハッチが開き、アーバレストを乗せたドダイ改が浮上する。
それに追随するように、残り3機のドダイ改も載せているASを戦場を送り届けるために浮上を始めた。
-トゥアハー・デ・ダナン 第1格納庫-
「大丈夫か…?調子は?」
「ええ…大丈夫です。磁気嵐を見たときの頭痛も収まりました。宗介さんも同じものを感じたと聞きましたけど…」
「…彼も、問題ないと言っていた。心配するな」
コックピットの中にカリーニンの声が響き、パイロットは深呼吸をした後でヘルメットをかぶる。
他の4人が真っ黒なノーマルスーツ姿だったのに対し、彼の物はグレーで、胸にはアナハイム・エレクトロニクス社と一角獣のロゴがついている。
茶色い髪と黒い瞳をしており、背丈などから判断すると、年齢は宗介やテレサと同じくらいだ。
「君にはこれを操るだけのセンスがある。だが、サガラ軍曹たちとは違って、経験が足りない。決して、無理をするな。必ず生きて、機体と共に帰って来い」
「はい!そうでないと、これを託してくれた父さんとチェーンさんに申し訳が立ちませんから」
少年はコンソールを撫でた後で、操縦桿を握りしめる。
全周囲モニターに格納庫の殺風景な光景が映り、同時にハッチが開くと共に飛び込んでくる青空と光も映していた。
「青空…か…」
太陽の光に照らされ、その格納庫にある唯一の機体は出撃準備を終える。
灰・青・赤のトリコロールの色彩となっており、30メートル近くもあるそのモビルスーツは作業用アームで運ばれたビームライフルとシールドを手に取る。
「発進タイミングをパイロットに譲渡します!お気をつけて…」
「ありがとうございます。テレサ艦長。Ξガンダム、ハサウェイ・ノア、行きます!」
Ξガンダムのスラスターが起動し、勢いよく格納庫から空へと飛び出していく。
「やっぱり…すごいGだ…!!」
高度とスピードを上げていくΞガンダムから発生するGを感じながら、ハサウェイはつぶやく。
最初にこの機体の存在と自分がパイロットになってこのトゥアハー・デ・ダナンに行くことになると聞いた時はできるかどうかわからなかった。
もしかしたら、それに応じないという選択肢もあったかもしれない。
しかし、そうしなかったのには大きな理由がある。
(でも、やるんだ!クェスの分も生きるって、決めたから!!)
飛んでいるピンク色のドラゴンのうちの1匹に狙いを定め、ビームライフルを発射する。
Ξガンダムと合わせるように大型化したそのライフルから発射されるビームの初速は従来のものの倍近くあり、更に出力も上がっている。
そのビームで撃ち抜かれたドラゴンは転落し、海に沈んだ。
ドラゴンを撃ち抜いた時、一瞬ハサウェイの脳裏に何か電気が走ったような感覚があった。
しかし、今はそれを気にしている状況ではなかった。
トゥアハー・デ・ダナン、ハサウェイの年齢、及びエリアDの場所などは事情により設定が変更されている個所があります。
機体名:トリロバイト改(仮称)
形式番号:GNMA-04B11(推定)
建造:???
全高:6.1メートル
全長:62.2メートル
全幅:20.5メートル
全備重量:102.8トン
武装:GN魚雷、クローアーム×2、リニアスピア、対艦対地ミサイル
主なパイロット:自動操縦
エリアDで遭遇した自動操縦の機動部隊の内、唯一水中から攻撃を行っていたモビルアーマー。
水中専用機で、元となったトリロバイトは元ユニオンの技術者が開発していたことから頭部がユニオンフラッグに近い。
擬似太陽炉を3基搭載した事により水中での機動性が高い。
他にも、アームを前部に2本、後部に4本装備している。
今回遭遇したこの機体は白く塗装されており、後部のアームのうちの2本にはマニピュレーターが追加されているうえ、装甲がフェイズシフトに換装されている。
水中ではビームの使用が制限されることから、防御面では鉄壁に近くなっている。
なお、フェイズシフト装甲はいまだに製造コストに見合わないことから民間で使われることは軍事産業以外ではほとんどない。
ヴァングレイでは一部にとどまったフェイズシフト装甲への換装をすべて完了していることから、その勢力には大きな資金源と技術力があることが推測される。