―第三特殊戦略研究所外、大和の残骸前-
「いよいよ、ヤマトは出港か…」
研究所近くにあるヤマトの残骸を見ながら、ソウジはそれに向けてビールで乾杯する。
ただし、これから軍務があるため、中身はただの水になっているが。
昨日、すべての地球や月、火星、及び生き残っているコロニーにイズモ計画の破棄、並びに波動エンジンという新型エンジンを搭載した、恒星間航行可能な宇宙戦艦ヤマトを使い、1年以内にイスカンダルへコスモリバースシステムを受け取り、地球へ帰還するという新たなプロジェクトが発表された。
イズモ計画とは、遊星爆弾によって大気が人類や地球の動植物にとって有害なものとなった地球を捨て、それの代わりとなる新たな惑星を探し、生き残った人々を入植させるというものだ。
ただし、メ号作戦の英雄として賞賛を集めている元キリシマ艦長であり、ヤマト艦長である沖田十三自らがそれの破棄を宣言した。
それと同時に、メ号作戦がイスカンダルからの使者を迎えるための陽動作戦であったことが判明し、そのメッセージの中にイスカンダルの女王であるスターシャが波動エンジンを搭載した艦でイスカンダルへ来たら、地球を再生する機会であるコスモリバースシステムを渡すという言葉があることが公表された。
しかし、イスカンダルへは地球から16万8000光年の距離がある。
人類が生存することだけを考えたら、イズモ計画のほうが現実的で、現に地球連邦軍上層部が強く推進してきた。
だが、地球を取り戻せる可能性が見えたことにより、上層部は地球再生を求める声を無視できなくなった。
だから、二つ返事でヤマトによるイスカンダルとの往復を容認したのだろう。
ちなみに、イスカンダルからの使者は1年前にも訪れており、その使者から贈られた資料を基に、波動エンジンが作られている。
「にしても、チトセちゃん…。元気になっただろうかな…」
ヤマトによる1年がかりの合計33万6000光年の旅に際し、沖田はイズモ計画のために訓練された兵士たちを連れていくことを決定している。
チトセは地球を救う力になりたいとヤマトの乗員に志願したものの、拒否されている。
実戦経験がなく、雑務しかこなしていない兵士を連れていくわけにはいかないとのことだ。
イズモ計画のメンバーは皆、通常の兵士の数倍以上の訓練を受けているため、たとえ自分が志願したとしても、彼らにはかなわないだろうとソウジは感じている。
だから、自分はヤマトが帰ってくるまでできることをしようと考え、チトセにもそうアドバイスした。
そして、今できることはヤマトを見送ることだ。
休暇をもらったため、文句を言う人はだれもいない。
「ま、彼女には底力がある。きっと大丈…!?」
急に目の前のヤマトの残骸の周辺、及び研究所付近で爆発が起こる。
爆発に巻き込まれないよう、伏せながらソウジは上空を見る。
「く…よりによってガミラスかよ!?」
上空にはガミラスの対地用航空機であるメランカ4機が飛行し、ミサイルを発射している。
(こんな何もないような場所に航空機をただ飛ばすだけっというほどガミラスは馬鹿じゃない!目的は…!)
ソウジの脳裏に遊星爆弾の姿が浮かぶ。
少数の航空隊による攻撃はあくまで露払い。
本命は地球を改造するために冥王星から打ち込む遊星爆弾。
地球とコロニーに住むあまたの人々の命を奪った悪夢の兵器。
「そうだ…チトセちゃんや研究所の奴らは…!!」
このままではここが危ないとソウジは急いで炎に包まれた研究所へ走る。
―第三特殊戦略研究所-
ミサイル2発をモロに食らったせいで、自分が使う航空機のある格納庫を含めてほとんどががれきの山と化していて、その中には研究員の死体が見える。
「くそ…俺の機体がこれじゃあ、みんなを…」
「ソウジさん!!」
「チトセちゃんか!?大丈夫か!」
格納庫からチトセらしき声が聞こえ、急いでそこへ向かうと、航空機の残骸の下に隠れた状態のチトセの姿があった。
「ソウジさん!ほかのみんなは…!」
「あいつらは…」
チトセに対して、ソウジは何も答えることができなかった。
研究所にいる人員は自分とチトセを含めて8人。
チトセを見つけるまでに見た死体の数は6人。
つまり、生き残ったのは自分たちだけということになる。
「くそ…!ガミラスの野郎、好き勝手やりやがって!」
家族、友人、恩師、仲間…。
そのすべてをガミラスによって奪われたソウジの怒りがこみあがる。
そして今、チトセの仲間を皆殺しにした。
(俺に力があれば…!これ以上、何も奪わせない力が!!)
「ソウジさん…あそこ…!!」
ソウジのジャケットを引っ張り、チトセが格納庫の南側にある、まだ機能が死んでいない自動ドアを指さす。
航空機の整備のため、ソウジとチトセは何度も格納庫を行き来していたが、この扉は今まで見たことがない。
そして、2人とも操作しておらず、接近したわけでもないのに扉が開いた。
「おい、チトセちゃん…なんだよ、こいつ…」
「そんな、モビルスーツを持っているなんて聞いたこと…」
扉の向こうにある黒いモビルスーツらしき人型兵器を見たソウジとチトセは困惑する。
確かに所長から、この研究所の戦力は1週間前にソウジが持ってきた自分の航空機だけだと説明されていたし、研究しているのはERS-100だけとも聞いた。
モビルスーツを研究しているとは一言も聞いていない。
「もしかしたら、重要機密だったのかもな。だが…!」
自分たちに伝えられていないということは、重要機密かここの誰かがひそかに研究していたものかもしれない。
しかし、ガミラスからチトセとどこにいるかわからない希望を守るにはそれが必要だ。
それを守れるなら、軍法会議でも何でも受けてやる。
そう決心したソウジは人型兵器の前に立つ。
すると、再びあの自動ドアと同じようにコックピットが開いた。
「こりゃあ…」
コックピットは広々としており、全周囲モニターとリニアシートが完備されている。
パイロットスーツなしでも問題なく扱えるものの、気になったのはもう1つのリニアシートだ。
なぜかパイロット用のリニアシートの後部に置かれており、まるでもともと単座型だったのを複座型に強引に改修したようにも見えた。
「チトセちゃん、悪いが君はサブシートに乗ってくれ!俺がパイロットをやる!」
少なくとも、ソウジはモビルスーツでの戦闘は2年前の木星戦役のころからこなしており、キャリアはチトセよりも上だ。
モビルスーツと思われるこの人型兵器を使うとしたら、少しでも経験のある人間がパイロットを務めるべきだろうと考えた。
だが、問題はサブシートの配置だ。
「ええっ!?…ああ、もう!!仕方ありません!!」
再び起こった爆発の揺れから、もう一刻の猶予もないことを悟ったチトセはやむなく同意し、2人でコックピットに乗り込む。
パイロットシートに座ったソウジが上を見上げると、チトセの姿が見え、まるでソウジがチトセを肩車しているような状態だった。
「おお、チトセちゃん、胸大きいんだな」
真下から上を見上げているため、チトセの胸の大きさをより間近で見ることとなったソウジがそう漏らすと、チトセの顔がトマト以上に真っ赤になる。
「もう、見ないでください!!サ、サブシートからはサブアームの操作と出力の調整が行えます!!」
「了解だ。操縦は任せとけ!で、こいつの名前は…ヴァングレイ?」
コックピットが閉まると同時にパイロットシートの前に現れたコンソールを見たソウジはそれに表示されている名前を口にする。
(グレイが灰色で、ヴァンが英語で車、フランス語でワイン…。灰色の車って意味か??)
そんなことを考えている間に、格納庫の真上に設置されたハッチが開き、外の景色があらわとなる。
「ソウジさん!」
「ま…考えていても仕方ねえ。ヴァングレイ、借りるぜ!!おわぁっ!!」
スラスターに火が入り、急激に速度を上げながら上空へ飛び出す。
体を襲うGで体に痛みを覚えながら、チトセは必死にコンソールを操作する。
(この出力じゃ、私たちがきつい!落ち着いて、訓練は本番のように、本番は訓練のように…!!)
―大和の残骸前―
「なんだ!?地下から増援の機体だと!?」
メランカの1機が熱源反応を探知し、驚きながらその場所へと向かう。
到着すると同時に、その場所の地面が爆発したかのように吹き飛び、そこからヴァングレイが姿を現す。
右手に装着されたレールガンが発射され、思わぬ事態に動揺したメランカを炎の華へと変えた。
「あ、当たった…!?」
「今のがレールガンか…」
いきなりのことだったが、敵機の撃破に成功し、サブパイロットであるものの、初めての敵機撃破にチトセはうれしさを感じた。
「なんだ?この武器庫に手と足をつけたようなヘンテコな人型兵器は!」
「テロン人の考えることは分からん!だが、早々に撃破しろ!!」
「了解!」
奇妙な人型兵器の登場に首をかしげたものの、その機体に仲間を倒されたことに怒った3人がヴァングレイに向けて機銃を撃ちながら接近する。
「おわああ!?」
機体を横にわずかにそらして回避しようとしたが、なぜか大きく左へ飛んでしまい、あやうく岩に激突しそうになる。
なんとかサブスラスターを使って体勢を立て直すが、出力と機体そのもののバランスの悪さのせいでそれだけでも一苦労だ。
「へっ…どうやら、相手は機体に慣れてねえようだなぁ!!」
このまま正面からミサイルで仕留めようと1機のメランカが正面から接近してくる。
両手のレールガンでは6発のミサイルや機銃をさばききれない。
「チトセちゃん、こいつの武器はほかにないか!」
「待ってください!!ええっと、ここを見れば…」
出力調整を終えたチトセがコンソールを動かし続けていると、ヴァングレイの姿が表示され、武装となる部分が青く光る。
「おお、いいのがある!こいつで!!」
両肩の砲身が動き出し、それが接近するメランカに向けられる。
チトセによって誤差の修正が行われた状態でそれらからビームが発射される。
ビームはミサイルを貫き、そのままメランカの両翼を貫いた。
「何!?く…ガーレ、ガミロン!」
自分の死を悟ったメランカのパイロットはガミラスの栄光を叫びながら地面に墜落し、機体と運命を共にする。
「お、失敗作かと思ったら、中々使えるじゃねえか、ヴァングレイ!どうせこんな世の中だ…ちょっとはスリルのある機体を…」
「ソウジさん!まだ2機残っています!」
―宇宙戦艦ヤマト 第一艦橋内-
「なんだ、あの人型兵器は…」
戦術長としてヤマトのクルーとなった古代、そして航空隊長の加藤がヤマトの残骸の周りで戦うヴァングレイに驚きを感じている。
ここの近くに研究所があることは知っていたが、モビルスーツがそこにあるとは聞いたことがない。
形状はともかく、機動力と運動性はかなりのもので、あのガミラスの戦闘機と対等に渡り合っている。
「すごい…また1機落としたぞ!」
「あのモビルスーツの援護を無駄にするな。発信準備を急げ!観戦している暇はないぞ」
艦長席に座る沖田の一声でクルーの気が引き締まり、黙々と発進準備を進めていった。
―大和の残骸周辺―
「よし!あと1機だ!!」
レールガンでメランカを撃墜したソウジはすぐに最後の1機を探し始める。
すぐにその機体を発見することはできたものの、その場所はヴァングレイの真後ろであり、さらにその機体はリミッターを解除しているのか、ほかの3機とは比べ物にならないスピードでこちらに迫っている。
接近しているにもかかわらず、ミサイルを発射していないことから、敵のやろうとしていることが瞬時に分かった。
「特攻!?」
「母艦に帰るだろ、普通!!」
おそらく、こういう航空機には帰るための母艦が近くにあるはずだ。
すでに仲間をすべて失い、1機だけで勝てるはずがないと分かれば、帰って味方に報告するはずだ。
だが、この機体は帰ろうとせず、さらにリミッターを解除し、ヴァングレイと刺し違えようとしている。
敵のパイロットの事情は分からないが、このように命を粗末にするような行為をソウジもチトセも許せなかった。
「だが…俺たちはここで死ぬ気はねえ」
背面に懸架している大型の陽電子衝撃砲を右腕に装着させたソウジは振り向きながら銃口をメランカに向ける。
「ソウジさん!このポジトロンカノンの弾速なら!!」
「恨むなよ…そこの航空機のパイロット!!」
最後の願いをかなえさせることができないことを詫びながら、チトセが照準補正を済ませたポジトロンカノンを発射する。
レールガンや腕部のビーム砲を上回るスピードで、球体型に圧縮されたビームがメランカに命中する。
そこを中心に、圧縮されたビームが爆発するかのように膨らみ、メランカをパイロットごと蒸発させていった。
「…ポジトロンカノン、冷却します」
「ああ、頼む…」
チトセの操作で、ポジトロンカノンの砲身の強制冷却が始まる。
計算が正しければ、5秒で冷却が完了し、そのあとで元の場所に戻るようだ。
「さて、あとは…」
ヤマトを探そうと、メインカメラの操作を始めようとすると、新しい熱源反応を2つ感知する。
「熱源!?まさか…あれから!!?」
熱源は大和の残骸から発せられていて、もう1つはその残骸に向けて飛んでくる遊星爆弾だった。
遊星爆弾は並みの兵器では破壊できない強度であるだけでなく、たった1発で都市を一つ破壊できるほどの威力で、さらに同時にばらまかれる惑星改造用植物の種子によって大気が汚染されてしまう。
下手に破壊してしまうと、人類滅亡の手伝いをすることとなってしまう。
「くそ…チトセちゃん!さっきのポジトロンカノン、発射できるか!?こいつに威力なら、爆弾を蒸発させることも…!」
「駄目です!冷却完了と粒子圧縮まであと30、いえ20秒時間がかかります!」
「発射までのタイムラグ込で24秒ってとこか!くそ…!」
あの爆弾の速度だと、あと20秒で地表と接触・爆発する。
自分たちが生き残るためには、ビーム砲で破壊するしかないのか。
そんなことを考えていたら、大和の残骸にひびが入り始める。
「大和の残骸が…!まさか、あのヤマトっていうのは!!」
残骸が粉々に砕け散り、その中からその残骸に似た構造で、灰色が基調の戦艦が出現・離陸を始める。
今までキリシマやユキカセのような戦艦しか見たことのなかったソウジにとって、その無骨な大艦巨砲主義の戦艦がまるで地球を救うために太平洋戦争の時代からタイムスリップをした大和に見えて仕方なかった。
「あれが…人類の希望…」
その戦艦の勇姿にチトセが見とれる中、宇宙戦艦ヤマトは遊星爆弾に向けて主砲を発射した。
機体名:ヴァングレイ
形式番号:AAMS-P01
建造:第三特殊戦略研究所?
全高:16.4メートル
全備重量:28.2トン
武装:電磁加速砲「月光」、可変速粒子砲「旋風」×2、大口径陽電子衝撃砲「迅雷」、多連装型ミサイルポッド「鎌鼬」×2、脚部ミサイルポッド×2、小型シールド、サブアーム×4
主なパイロット:叢雲総司(メイン)、如月千歳(サブ)
第三特殊戦略研究所で開発されたと思われる対異星人戦用試作機動兵器。
高機動、重装甲、高火力といった異なる三つの要素の並立をコンセプトとしており、ガミラスの航空機や戦艦を同時に相手にできる設計となっている。
しかし、実際は既存のフレームにありあわせの装備をとりあえず付けた程度の急造品であり、手足はあるものの腕がないことから、モビルスーツに分類されるかどうかも難しい。
各種パーツの耐久性、パイロットへの負担、そしてバランスの悪さから完成度の低さがうかがえる。
なお、コクピット周辺は全方位モニターやリニアシートを採用しており、パイロットスーツ無しでも問題ないが、なぜかサブシートがメインパイロットシートの後ろについており、メインパイロットがサブパイロットを肩車しているような構造となっている。
また、精密な動作が可能なサブアームが搭載されており、パーツやサブパイロットがいれば、簡単な修理や部品の組み立てを行うことができるらしい。
この機体の存在は同研究所防衛隊員であるチトセも把握しておらず、ソウジは研究所の所長が勝手に作ったか、重要機密の兵器と予想している。