スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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お気に入りが3桁となり、大喜びしているナタタクです!
改変設定ばかりで、下手であるにもかかわらず、お気に入り登録してくれた読者のみなさん、ありがとうございます!
今回も性懲りもなくオリジナル設定が入っていますよー!
読者の方で、機体などにアイデアの有る方は活動報告やメッセージへどうぞ!


第19話 化石の軍隊

-ヌーベルトキオシティ 市街地-

マイトステーションを離れたソウジは舞人と共に市街地を歩いていた。

以前戦った大阪重工やメガロステーションからは距離があり、人々は先日の2つの戦闘を新聞やニュースで既に知っている。

先ほど、ソウジが拾った新聞には武装ロボット犯罪を抑えるために警察へ回す予算を増額する法案を巡って、与野党が争っているという記事が書かれていた。

警察が過度に武装ロボットを持つと軍隊と変わりなくなり、自衛隊の存在意義が失われるのではないかというのが野党の主張で、彼らは自衛隊予算にそれを入れ、いざというときには警察と一緒に犯罪者の武装ロボットと戦うべきだという提案がなされている。

一昔前は無責任に批判ばかり繰り返す野党がいたようだが、時代の変化によって駆逐され、現在ではまっとうな野党と与党による建設的な論争が続けられているとのことだ。

「悪いな、舞人。買い物に付き合ってもらって」

「気にしないでください、ソウジさん。こうして街を歩くといい気分転換になりますから」

「少年社長は随分と庶民派だな」

勝手なイメージではあるが、ソウジは舞人がこうして街へ出るタイプではないと思っていた。

有事に備えて社長室や自分の家で仕事をしながら待機しているのが、旋風寺コンツェルン総帥として、そして勇者特急隊隊長としては正しい行いだろう。

ましてや、勇者特急隊隊長の素性は世間では知られていないため、仮に街に出歩くことで知られる可能性もあり得る。

しかし、舞人は町を出歩くのを楽しんでおり、移動店舗で売られているたこ焼きを狩ったときは嬉しそうにそれを口にしていた。

そう考えると、彼はヒーローである前に1人の普通の少年なのだと思える。

「社長って言っても、会社そのものは両親から受け継いだものですから」

「親父とお袋さんは?」

話を聞いている中で、ふと浮かんだ疑問を舞人にぶつける。

旋風寺コンツェルンにもマイトステーションにもいなかったため、もしかしたら彼が住んでいる家にいるのではないかと思ったためだ。

もしくは舞人のサポートのためにヌーベルトキオシティから離れているとも。

「3年前に事故で…」

少し表情を曇らせ、舞人は答える。

葬儀の後、2人の棺を一緒に運び、遺骨を拾ったときのことが今も忘れられないのだ。

「…すまんな」

「気にしないでください。それに、父と母のことは、自分なりに乗り越えましたから。それから、言っておきますけど、俺はお飾りの社長なんかじゃありませんよ。俺が経営を指揮するようになった旋風寺コンツェルンの各部門の業績はうなぎ登り、前年比の200%の利益です」

「大したもんだ。その噂の旋風寺舞人が選んだプレゼントなら、チトセちゃんも元気を出すだろう」

明るい表情に戻った舞人を見て、一安心したソウジはこの散歩の目的を思い浮かべる。

自分たちの素性を明かしたせいなのか、チトセは昨日からソウジ達と話すのを避けるようになった。

今日も朝早くに仕事探しをすると言って家を出てしまっており、どこにいるのかはわからない。

「チトセさん、大丈夫でしょうか?」

「ま、いろいろあるさ。いきなりあと1年で滅亡って地球から、平和で豊かな地球に飛ばされたんだしよ」

「ソウジさんは、そういうのはないんですか?」

「俺か…?そうだな、俺は何かに期待するって生き方を忘れちまったからな…」

「え…?」

ソウジの予想外の解答に驚き、一瞬それがどういう意味なのか分からなかった。

とても陽気でポジティブな彼らしからぬ答えで、やはり彼もまたその世界で傷を負った人間なのだということを再確認することになった。

もしかしたら、チトセとは違う何かを背負っているのかもしれない。

ソウジは体中の傷跡を思い浮かべながら、言葉を続ける。

「だから、失望したり、落ち込んだりってのはないかもしれない…」

「ソウジさん…」

いつもとは違う、シリアスな硬い表情を見せるソウジ。

だが、すぐにふざけた笑みを浮かべ始めた。

「なーんて、シリアスぶったりしてな。悪いな、舞人」

「い、いえ…」

「んじゃあ、少年社長ご推薦のプレゼントを聞こうじゃないか」

「そ、そうですね…やっぱり、女の子へのプレゼントといったら、花ですよ」

いつもとは違う一面を見た舞人は彼への疑問で頭がいっぱいになってしまい、彼からの女の子へのプレゼントが何がいいかという質問が頭から抜け落ちてしまっていた。

即答できたのは、それが王道の解答だったからに過ぎない。

しかし、ソウジはそれを満足げに聞いていた。

「花ね…。ド素人の俺なんかより、女の子への扱いに慣れた紳士の言葉だ。信用するか!」

舞人の答えが正解だと言わんばかりに、ちょうど近くに花屋の姿が見え、2人はそこへ向かう。

日本各地から仕入れた花々の匂いに包まれていて、セーター服の少女がエプロンをつけて手入れをしていた。

「あ、いらっしゃいませ!どんなお花をお探しですか?」

「君は…!」

その少女を見た舞人は驚きを見せる。

しかし、足に巻かれている包帯を見て、間違いないことを理解した。

彼女は昨日、舞人が助けたサリーという少女だった。

「あれ?どうか…しましたか?」

「いや…」

やはり顔を隠し、ボイスチェンジャーを使っているせいか、サリーは舞人を見ても、彼が昨日助けてくれた男だとは思っていない。

感情を顔に出してしまったことを反省しながら、ほんの少しだけ彼女が自分を知らないことを残念に思いながら、本題に入る。

「実は、俺の知り合いが花を探していて…。ソウジさん、何かいい花が見つかりましたか?」

店に入り、難しい表情で花とにらめっこをするソウジに聞く。

花に関する知識がゼロのソウジであるため、直感で決めようと考えたが、どの花もピンとくるものがなかった。

「いや…どれもいい花なのはわかってるが、どうもイメージに合わないな。俺がチトセちゃんに贈りたいのは、もっとこう…派手じゃなくても一生懸命咲いている花だ」

ソウジにとって、チトセは力がなくても、それでもどうにかしようと一生懸命な少女だ。

そんな自分らしさを取り戻してほしいという願いを込めるのであれば、そのような花に込めたい。

しかし、残念なことにこの店にはそのような花がないためか、彼の直感に響かない。

「では…少し歩くことになりますけど、そういう花がある場所へご案内します。よろしいでしょうか?」

「え…?」

「ん、まぁ…そこにあるなら、それでもいいけどよ…」

 

-ヌーベルトキオシティ 市街地付近-

「これです!こちらの花はいかがでしょうか!?」

市街地から少し離れたところにある野原で、サリーがソウジに提案する。

黄色い花びらで、柔らかな葉と細いもののしっかりとした茎の花だ。

花の種類や名前も何も知らないソウジだが、それを見ると、チトセをイメージすることができた。

「これこれ、これだ!これこそが俺が求めていた花だ!!」

「お役に立てて、この子も喜んでいると思いますよ」

サリーは傷つかないようにその花を摘んで、ソウジに差し出した。

「この花は?」

「私…ここ一帯の地主のおじいさんと知り合いで、ここで花を育てる許可をもらっているんです」

「え…?いいのか?そんな大切な花を…」

「そのチトセさんっていう人が元気になるなら…」

屈託のない、天使のような笑みを浮かべながら、サリーは素直に言う。

それを見た舞人は一瞬ドキッとしたが、同時にこの空間には場違いな殺気を感じた。

「…!?危ない、サリーちゃん!!」

「え…!?」

舞人はサリーを押し倒す、

彼女の胸部へ向かうはずだった銃弾がそのまま当たることなく飛んでいき、後ろにある木の幹に命中した。

「舞人!こいつは…!」

ソウジも舞人と同じように、殺気を感じ始めていた。

サプレッサーがついているのか、銃の音が聞こえなかった。

「い、今のはいったい…!?」

「動かないで、このままじっとしているんだ」

先ほどよりも殺気が強くなり、草むらや木の陰から男が1人、また1人と出てくる。

胸部に♂マークが大きく描かれた、赤とベージュが基調の制服を着ており、目つきはどれも一般人の者とは思えない。

「何なんだよ、お前らは」

ソウジは訓練で学んだ日本軍徒手格闘の構えを見せる。

日本拳法をベースとし、200年以上にわたって改良されながら受け継がれてきた軍人の格闘術だ。

この集団のリーダーと思われる眼鏡の男がソウジの前に立つ。

「そこの男、一緒に来てもらおう」

(日本語…?だが、少し訛りがあるみたいだな…)

英語のような抑揚がわずかに感じられるしゃべり方にソウジは疑問を感じる。

日本人の発音はあまり抑揚がなく、あっても少ない方なのが特徴だ。

だが、目の前の男のしゃべり方を英語並みの抑揚を抑えながらしゃべっている感じだ。

少なくとも、ヌーベルトキオシティでそのようなしゃべり方をする日本人はいない。

「俺をご使命か…しっかし、強引なナンパだな。誘い文句が直球過ぎだ。それに、ここはそこにいる女の子の秘密の楽園だ。お前らみたいな陰湿な奴らは消え失せろ」

「隊長!あの少年は…」

立ち上がり、空手の構えを見せる舞人を見た制服の男の1人が声を上げる。

「間違いない、旋風寺コンツェルン総帥、旋風寺舞人だ」

「ええ…!?」

舞人の正体を知らなかったサリーはびっくりしながら彼を見つめる。

確かに彼からはほかの同年代の少年とは違う何かを感じたが、正体がそれだとは夢にも思わなかった。

「ちょうどいい。我々の崇高な理想実現のための資金源になってもらう」

「ま、舞人さん…!」

だんだん怖くなってきたのか、サリーの体が震える。

足もすくんでしまったのか、立ち上がろうと思っても足に力が入らない。

舞人は彼女の前に膝をつき、肩に手を当てる。

「大丈夫だ、俺が君を守る」

「え…?」

自信たっぷりに、まるでアニメなどで見るヒーローのような発言を笑顔で言う舞人を見たサリーの心がら不安が消えていく。

同時に、何かときめきのようなものを感じ始めていた。

「こいつらが悪党なのは確定だ。遠慮はいらねえぞ、舞人!」

「では…行きましょう!」

「奴らを捕らえろ!!」

十人単位で男たちが2人に襲い掛かる。

「柔道に近い構え…だがなぁ!!」

足を使って相手を地面に倒し、利き腕に向けて関節技を決める。

後ろから襲ってきた男に対してはひじ打ちを鳩尾に決め、ひるんだところを背負い投げた。

「抵抗してきたぞ!!」

「銃を使うな!殺してしまっては、元も子もないぞ!!」

先ほどの発砲は利用価値のないサリーを殺すためのもので、彼らは全員銃とナイフを持っている。

しかし、乱戦となってしまったことでそれらを使用することができず、殺してしまっては元も子もないことから、昔取った杵柄ともいえる柔術で対抗するしかない。

だが、ソウジは国連軍で鍛え上げた軍人で、舞人は勇者特急隊として戦うために訓練を欠かしていない。

「誘拐犯が…ごちゃごちゃ言うなってんだよぉ!」

巴投げで倒れた男に向けて、自分に向けて突進してきた男を投げ落とす。

最後に残った眼鏡の男については舞人が地面に倒し、押さえつけていた。

「く、くそ…!!」

「答えろ!お前たちは何が目的で俺だけじゃなく、ソウジさんまで捕まえようと…!?」

押さえつけた男に質問をぶつける舞人に背筋が凍るような寒気が襲う。

今度は赤と黒の三度笠をかぶり、マントで体を隠した男たちが現れていた。

先ほどの制服の男たちとは異なり、彼らからは明確なプレッシャーが感じられる。

「ソウジさん…」

「ああ。こいつらは本当にヤバイ奴らだ…」

「おお!!助けてくれるのか、同…!?」

バンッという発砲音と共に、舞人が抑えていた男に脳天に銃弾が突き刺さる。

頭から血を流しながらこと切れた男から舞人は離れる。

「あ、あああ…」

目の前で人が射殺される光景を見てしまったサリーは両手で顔を隠し、ショックのあまり動揺してしまう。

「奴ら…味方を!!舞人!そこの女の子と一緒に逃げろ!」

「しかし…!」

あの三度笠の男たちは6人で、いずれも手練れにしか見えない。

そんな彼ら6人の相手をさすがのソウジでもできるとは思えない。

舞人が加勢しても、有利になるかどうかは分からないものの、少なくともソウジ1人で戦うよりはましになる。

「早くしろ!こいつらはシャレが通じない!」

「…わかりました!サリーちゃん!!」

「はあ、はあ…はい…」

サリーをお姫様抱っこした舞人がその場を離れていく。

さすがに舞人を狙うのはまずいと思ったのは同じなのか、彼らは邪魔をすることなく、黙って2人が逃げるのを許した。

「あの小僧はおまけに過ぎない」

「われらに必要なのはこの男のみ」

「俺の…何が狙いだ」

ソウジのみを狙うのに心当たりがあるとしたら、別次元から来た人間であることとヴァングレイの存在だ。

少なくとも、この次元でヴァングレイに乗っているのはソウジ1人で、浜田やウォルフガングのような技術者にとって、そのモビルスーツモドキは興味深い逸品だ。

だが、それでもソウジ1人を捕まえるのにはメリットが少ない。

ソウジは技術者ではないし、あの次元の産物で手元にあるのはこのジャケットだけだ。

「A級ジャンパーはすべて我々が独占する」

「は…?ジャンバー?悪いが、このジャケットはお気に入りでな、だれにも渡すつもりはねえよ」

「この期に及んでふざけるとは、肝が据わった男だ」

「腕や足をもいだとしても、生きてさえいれば、問題はない」

6人からカチャリと銃の安全装置が外れる音が聞こえた。

先ほどの制服の男たちとは違い、彼らは平気で銃を使う分性質が悪い。

(ちっ…こいつら6人と戦うには…)

勝つための散弾を考え始めたソウジに発砲音が聞こえる。

「むっ…!?」

三度笠の男のマントに弾丸が当たるが、それは弾かれたかのように跳ね、地面に落ちる。

「あ、あやつは…!」

発砲音が聞こえた方向に目を向けると、そこには黒いコートで身を包み、黒いバイザーで目を隠した青年の姿があった。

大きなリボルバーから放たれたその弾丸は、発砲音も大きいうえに威力も巷の銃とはケタ違いだ。

それから放たれた弾丸を受けて無傷であるため、マントの中に何を隠しているのかとソウジは恐れを抱く。

「ククク…いい機会だ。われらの邪魔をする者には…」

「死、あるのみ!」

ソウジを狙っていた6人が黒衣の男に狙いを定め、銃を向ける。

「われら北辰衆…その暗殺術を見せてくれる!」

6人がマントで銃を持つ手を隠し、男を包囲し、時間差をかけて接近する。

マントで隠れているため、どのタイミングで、そしてどのようなところから発砲してくるのかわからない。

しかし、彼は放たれる弾丸がまるで分っていたかのように避けると反撃のためにねげ技を決めたり、蹴りや拳で決めてくる。

「何!?この動きは…!」

「木連式・柔…」

「すげえ…」

黒衣の男の動きを見たソウジは今日何度目かわからない驚きを感じた。

あれほどプレッシャーを放っており、実際に自分が見てもかなりの技量のある6人を無傷でダメージを与えていっている。

おまけに銃を使わずに、だ。

このままでは勝てないと踏んだ6人は距離を置く。

「だが、天河アキトよ、貴様の進む先に待つは冥府だ!」

6人はその場を離れていく。

去っていく6人をにらむ黒衣の男の元へ、ソウジは駆け寄る。

「冥府か…だが、今よりはマシだろう」

「あんた、助かったぜ。礼を言わせてくれ」

「あんた…生まれは火星か?」

黒衣の男、アキトはくぐもった声でソウジに質問する。

宇宙放射線で日焼けしている肌であるため、火星生まれの人と誤解されたことはよくある。

どういう意図でそういう質問をしているのかわからないが、ソウジは答えることにした。

「話せば長くなるが、俺は火星出身じゃない」

「ならば、なぜ奴らはあんたを…?」

「さっきの連中、ジャンパーとか言っていたが…」

「どういった事情か分からないが、あんたは奴らにジャンパーと誤認されたみたいだ。だとしたら、奴らはまた来る。…?どうした?」

バイザーの右端に指をあてたアキトは誰かからの通信を聞いていた。

同時に、南の方角からいくつもの機動兵器が現れるのが見えた。

「あれは…木連の機動兵器!?」

ソウジは図書館で見た記録映像を思い出す。

かつての木連が使用していた無人兵器であるバッタ多数と『熱血ロボ ゲキ・ガンガー3』の主役ロボ、ゲキ・ガンガー3をモデルにしたジンシリーズの1つであるマジン4機の姿が見えた。

「確か、ここの南には使われてない工場があったな…」

「もしかして、そこがあの♂制服と三度笠の奴らのアジトか!?」

「奴は…」

機動兵器の中に見える6機の足のない茶色いボール型のものが見えた。

それを見たアキトの顔に光るラインが何本も出てくる。

「逃げるぞ!あのバッタ、俺たちを狙ってきている!」

数機のバッタがアキトとソウジを視認したのか、こちらへ向けて接近してくる。

モビルスーツやエステバリスといった機動兵器と比べるとかなり小型だが、それでも生身であるソウジとアキトにとっては脅威だ。

ソウジは光るラインのことを気にしないようにしながら叫ぶ。

しかし、アキトはそれらをただ見ているだけで、その場を動こうとはしない。

「俺は…もう逃げない…」

「ん…この音は…!!」

無理やりにでも逃げさせようと、アキトをつかむソウジだが、急に聞こえてくる大きなエンジン音に驚く。

聞こえた方向に目を向けると、剣のように艦首がまっすぐに突き出している形の白い戦艦が浮かんでいて、そこから黒い重装な装甲に包まれた機動兵器が出撃し、アキトの目の前に降りてくる。

それに気を取られ、力が抜けているのを見計らったアキトはソウジから離れ、その黒い機体に乗り込む。

「下がっていろ、ラピス」

乗り込んだアキトがつぶやくと、その白い戦艦は反転し、その場を後にする。

マントを取った彼は操縦桿を握り、同時に背中についている卵型のインターフェイスをコックピットに接続した。

「リアクトシステム…起動。網膜投影、開始」

コックピットが閉まり、アキトの眼にその機体のメインカメラに映る光景がそのまま映る。

両手のハンドキャノンがその場で火を噴き、近づいてくるバッタ達をそこから発射される質量弾が破壊する。

「この黒いのは…!」

「ブラックサレナ…出る」

黒い機動兵器、ブラックサレナが浮上し、バッタの軍団に向けて突撃していく。

「な…待てよ!?1機だけでそいつらは…!!」

今残っているバッタは10機以上存在し、集中砲火を受けたらどうなるかは目に見えている。

ブラックサレナを見たバッタ達は背中に搭載されているミサイルを発射する。

しかし、ブラックサレナはミサイルとミサイルの隙間をまるで先読みしたかのように飛んで回避し、マニピュレーターの代替品として尻尾のように装備されているマジック・アンカーがバッタをつかみ、別のバッタに向けて投げつける。

更に、ミサイルが町へ行くのを避けるため、ハンドキャノンを連射して次々と破壊していった。

「愚かにも独りで我らに挑むか」

「天河アキト、その業、ここで払ってもらう!」

「黙れ…!」

この世界でのミノフスキー粒子ともいえるNジャマーが展開されていないため、彼らの言葉がブラックサレナにダイレクトに伝わる。

バッタをある程度撃破したアキトは操縦桿を握る手の力を強め、ブラックサレナにディストーションフィールドを展開させる。

正しくはスペース・タイム・ディストーション・フィールドと言われる、相転移エネルギーを利用し、周囲の空間をゆがませるそのフィールドに包まれたブラックサレナが一点突破せんとばかりに後方にいる茶色い機動兵器たちに向けて突撃する。

「やらせるかぁ!!」

1機のマジンがブラックサレナの前に立ち、胸部に搭載されている重力波砲、グラビティブラストを発射する。

「邪魔だ…!」

ブラックサレナは避けずにそのグラビティブラストを貫くかのように直進していく。

ブラックサレナのディストーションフィールドの出力がマジンのグラビティブラストを上回っているが故にできる芸当だ。

「馬鹿な!?奴は鬼?いや、悪…」

最後まで言い終わらないうちにブラックサレナのディストーションフィールドによって、パイロットはコックピットもろとも押しつぶされていく。

ブラックサレナに貫かれたマジンは頭と手足だけを残り、胴体はバラバラになっていた。

「やりおる。だが…」

「われらの六連、そして傀儡舞に勝てるとでも?」

あの三度笠の6人が乗っている茶色い人型兵器、六連が足代わりに搭載されている回転ターレットノズルを利用して、パターンの読めない機動を見せ始めた。

ブラックサレナが回転しつつ、ハンドキャノンを発射させたり、マジック・アンカーをヒートロッドのように振り回したりするが、当たる気配がない。

あと少しで当たるところを、まるで風に乗った埃のようにフワリとかわしていく。

更に、持っている錫杖で攻撃を加えていて、ブラックサレナの装甲を傷つけている。

「まずいぜ、こいつは…!」

数は相手が上なだけでなく、六連の不可解な動きにアキトはついていくのが精いっぱいだ。

攻撃は当たらず、逆に相手の攻撃に何度か当たっている。

まだ生き残っているマジンやバッタがおり、彼らに合流されたら、それこそピンチだ。

「申し訳程度にしかならないかもしれないが、俺もヴァングレイで…!」

携帯を出し、ヴァングレイを預けている大阪重工に連絡しようとしたが、そんな彼に2機のバッタが飛んでくる。

捕獲のため、背中にネット弾を装着しており、ソウジに狙いを定めていた。

まずいと思ったソウジだが、後方から飛んできた2つの弾丸がバッタを貫く。

「あれは…!」

後ろを向き、その弾丸を放った黒い機動兵器、ヴァングレイを見たソウジはびっくりする。

まさか、2日前と同じことがまた起こるとは思わなかった。

ヴァングレイの手に乗り、コックピットに入る。

その時にサブパイロットシートを見たものの、やはりそこにチトセの姿はなかった。

「お待たせしました」

メインパイロットシートの前に追加された小型モニターにナインの姿が表示される。

「ナイン…本当だよ。来るんなら、もっと早くしてくれ…って、冗談だ!悪かった!!今回は本当に助かったぜ!」

ムッとした表情を見せるナインに態度を一変させ、平謝りする。

「まぁ…いいですけどね」

「そういやぁ、どうして俺がピンチだってことがわかったんだ?」

「キャップの脈拍、呼吸、その他のバイタルから異常を感知しましたから」

「こいつは…おちおちトイレにも行ってられんな」

これはもはや四六時中ナインに監視されているのと同じ意味だ。

仮にトイレに駆け込んで、そこで解放感に包まれている間にヴァングレイが天井を突き破って登場したとしたら、シャレにならない。

そんなことを考えていると、バッタのミサイルが飛んできて、それを左腕のシールドで受け止める。

「と…そんなこと考えてる場合じゃなかった!今からあの黒い機体を援護する!」

ビームサーベルでバッタを切り捨て、ブラックサレナの近くで飛び回る六連に向けてガトリング砲を発射する。

あたりはしなかったものの、これでブラックサレナから引き離すことができた。

「おい、そこの黒いの!援護するぜ!!」

ブラックサレナの背中を守るように立ったヴァングレイからミサイルが発射され、グラビティブラストを放とうとしたマジンのメインカメラを破壊する。

そのあとで、両腕のビーム砲を発射するが、割って入った別のマジンが放つディストーションフィールドによってビームが歪み、消滅した。

「ビームが効かない!?ディストーションフィールドってやつか!」

マイトステーションでこの世界の機動兵器を調べた中で、ディストーションフィールドの項目を見たことを思い出す。

機体周囲もしくはその一部の空間をゆがめることで、攻撃を軽減するバリアであり、重力波をエネルギーとした機体にしか現状では搭載できない。

特にビームに対して効果があり、フェイズシフト装甲の登場で下火となろうとしていた実弾兵器が再注目されることになった。

実弾兵器や重力波を利用したグラビティ兵器がそれに対して効果があるためだ。

ただし、グラビティ兵器は技術的な課題が多く、小型化が難航している。

マジンは確かにグラビティブラストを搭載しているものの、その威力は戦艦に搭載されたものほど高いものではなく、ディストーションフィールドを搭載した戦艦へ攻撃しても効果がない。

そのことも、信頼性の高い実弾兵器がいまだに使用される大きな理由になっている。

マジンの両腕が発射され、ヴァングレイの胸部に命中する。

「うわああ!!ロケットパンチか!?さっきのは!」

(問題ありません。コックピット周辺についてはフェイズシフト装甲に換装しましたから)

「それは助かるけどなぁ、この揺れはどうにかならねえのか?」

(なりません)

「即答かよ…」

「油断するな」

ヴァングレイにとどめとして頭部ビーム砲を発射しようとしたマジンの背後に回り込んだブラックサレナがハンドキャノンを連射し、マジンをハチの巣にする。

そして、アキトは回線を開き、ヴァングレイと通信をつなげる。

互いのモニターに、互いの機動兵器のパイロットの姿が映る。

「やはりお前か…。なぜ戻ってきた?」

狙われているのがわかっているのなら、アキトにすべてを押し付けて逃げることもできたはずだ。

野暮な質問だと苦笑しつつ、ソウジは答える。

「元々、あいつらの狙いは俺だからな。降りかかる火の粉ぐらい、俺がどうにかするさ」

「…好きにしろ」

回線を切り、背後から飛んでくるミサイルをよけたブラックサレナが六連の軍団に向けて突撃する。

一方的に切られたものの、こちらが戦うことを拒まれなかっただけでも、ソウジにとっては儲けものだった。

「さてっと…じゃあ、ナイン。チトセちゃんがいない分、サポートを頼むぜ」

(あの6機の機動兵器は脅威です。早々に周辺の機動兵器を叩き、援護をしないとあの黒い機体の負けです)

「6機…。三度笠野郎のか。なら、さっさと借りを返しに行くか!」

工場から更に2機のマジンと5機のバッタが出撃し、ヴァングレイに向けて攻撃を仕掛けてくる。

「残弾よし…。俺を狙ったことを後悔させてやるぜ!」

 

-ヌーベルトキオシティ 市街地付近の空き地-

「よし…ここまで来れば…。サリーちゃん、大丈夫かい?」

「はぁ、はぁ…は、はい…」

たっぷりと深呼吸をし、落ち着きを取り戻したサリーはうなずく。

ここまで取り乱してしまうのも無理はない。

当然のことながら、彼女はあのような光景とは無縁の世界で育ってきた。

3年前の舞人と同じように。

勇者特急隊を結成し、各地で犯罪者やテロ組織と戦ってきた舞人は当然のことながら、あのような光景は何度も見てきた。

最初はかなり動揺したが、今では慣れてしまっている。

このようなものを慣れてしまうのはいいことなのか、それとも悪いことなのかはわからないが。

安心した舞人の胸ポケットの中の携帯が鳴る。

浜田からの電話で有り、先ほどの事態もあるため、舞人は迷うことなく電話に出る。

「舞人、大丈夫!?君がいる場所の近くに武装ロボットの軍団が現れたって情報が入ったけど…」

「ああ、こっちは心配ない。ガイン達は!?」

「今そっちへ行ってる!そこを離れないで!」

「分かった。感謝するよ!!」

今はつけていないが、ズボンのポケットの中には勇者特急隊のバッジがある。

それによって、舞人の位置がマイトステーションに伝わるようになっている。

しかし、分かるのは居場所だけで、武装ロボットの出現についてはニュースや警察が得た情報、旋風寺コンツェルンが管理しているカメラによって把握するしかない。

今回はソウジのバイタルの異常から、ナインが伝えてくれたようだ。

「あの、舞人さん…どうして、私の名前を…?」

「え…?」

サリーの質問を聞いた舞人はハッとする。

彼女は自分が昨日助けた人間だということを知らず、花屋で会った時もまだ自己紹介をしていない。

緊急事態になってため、すっかりそのことを失念していた。

「それに、あなたって、もしかして…」

その疑問が波紋となり、だんだんと彼へのさらなる疑問が浮かび始める。

訓練を受けた大人たちを倒す身体能力と、それに対して動揺を見せない態度。

おまけに彼の背丈は昨日助けてくれたあの男とほぼ同じだ。

そうだとしたら、思い浮かぶのは…。

「舞人!今来たぞ!!」

「ガイン!?」

ガインとマイトウィングが飛んできて、マイトウィングが舞人のそばに着地する。

驚きにより、その場に立ち尽くすサリーをよそに、舞人は急いでマイトウィングに飛び乗り、ヘルメットをつける。

「ガイン、ボンバーズとダイバーズは!?」

「彼らは現場へ先行している。ロコモカイザーも彼らと一緒だ!」

「了解!現地でマイトガインに合体だ!」

「あ…舞人さん、待…!?」

離陸していくマイトウィングを見たサリーはコックピットの舞人を見る。

バイザーによって彼の顔は完全に隠れ、それを見たサリーは確信する。

彼が勇者特急隊の隊長であり、自分を助けてくれた男であることを。

空き地をガインと共に離れていき、ソウジ達が戦っている場所へ向かうマイトウィングに浜田から再び通信が入る。

「どうした!?浜田君!」

「ソウジさんが戦っている場所へ向かっている戦艦がある!ナデシコタイプだ!」

「ナデシコ…?もしかして、独立部隊の…!?」

ナデシコという名前を聞いた舞人は3年前の木連との戦いを終結へ導いた戦艦のこと、そして去年できた新型のナデシコのことを思い出す。

地球連合軍では主流であるモビルスーツではなく、エステバリスを搭載した、ネルガル重工の息がかかった曰く付きの戦艦。

そして、その戦艦の艦長が電子の妖精という二つ名を持つ少女、星野ルリ少佐であることを。




機体名:ブラックサレナ
形式番号:不明
建造:不明
全高:8メートル
武装:ハンドキャノン×2、マジック・アンカー(先端にクローを搭載)、ディストーションフィールド
主なパイロット:天河アキト

黒ずくめの青年、天河アキトが搭乗する正体不明の機動兵器。
黒い重装甲とは裏腹に、高い反応速度と機動力を発揮しており、火力を除いては、コンセプトはヴァングレイに近い。
火力そのものはかなり低いものの、ディストーションフィールドの出力は従来機よりも高く、マジンのグラビティブラストを完全に防御しつつ、そのまま体当たりで撃破できてしまうほどだ。
また、手足を固定することで防御力を高めており、それによって使用できなくなっているマニピュレーターの代わりとしてクローを装備したマジック・アンカーが搭載されており、その精密性はマニピュレーターを上回る。
なお、リアクトシステムという機能を搭載しており、パイロットの背中についているインターフェイスを経由して接続しており、それによって反応速度の強化や網膜投影が可能となっているようだが、主な詳細は不明。

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