スーパーロボット大戦V-希望を繋ぐ者   作:ナタタク

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今回もいろいろとオリジナル設定があります。


第18話 新しい生活

-ヌーベルトキオシティ メガロステーション付近-

「く…ジャミングミサイルが効かんじゃと!?ならば、これならどうじゃあ!!」

パワーを生かした接近戦に持ち込むため、ドリルアームを起動したティーゲル5656がホバーで移動しながらマイトガインに向けて接近する。

「あのロボットの相手は俺とガインでやります!ソウジさんはガードダイバーとトライボンバーとともにショーグン・ミフネの一味を倒してください!」

「おいおい、舞人!一人で大丈夫なのかよ!?」

先ほど、ウォルフガングのティーゲル5656と戦ったソウジはその機体が持つパワーを肌で感じたばかりだ。

いくら合体して、パワーアップしたとしても、マイトガインの性能を知らないソウジは心配する。

「ご心配なく。それから…一つ訂正させてもらうと、戦うのは俺1人ではありません。俺とガインの2人で、です!」

腰にさしてある両刃剣を抜いたマイトガインが正面からティーゲル5656に向けて接近する。

「ここはお二人に任せて、あの忍者型ロボットの撃破を優先してください」

「ああ、わかった!!頼むぜ、舞人!!」

ニンジャ達はこうしている間にも街や救助活動を行っているガードダイバーと彼を守るトライボンバーに攻撃を仕掛けている。

いくら頑丈なトライボンバーでも、何度も攻撃を受けて無事で済むはずがない。

ソウジはヴァングレイを飛行させ、上空からレールガンによる攻撃を開始する。

ニンジャは地上での戦闘を重視した設計となっており、見た限りは空中や宇宙、海での戦闘には対応していないように見えた。

レールガンで片腕が破壊されたニンジャは上空を飛ぶヴァングレイを鉄砲型ビームライフルで攻撃しようとするが、その前に時間差をつけて発射されたガトリング砲で撃破されることになった。

「き、貴様!空を飛ぶなど卑怯なり!!」

「地上へ降りて、正々堂々と戦えーー!それでも日本男児かぁーー!!」

撃破された仲間を見た影の軍団がヴァングレイに鉄砲型ビームライフルで攻撃を加えつつ、抗議するようにオープンチャンネルで通信を入れる。

日本人であるのは確かだが、そんなことを彼らに名乗った覚えがなく、おまけに時と場合を全く考えない上に、自分たちの立場を棚に上げた言動にソウジはあきれ果てる。

「テロリストに言われたくないぜ。それから…お前ら、俺だけ見てて大丈夫かよ?」

「なに…!?グワア!!」

飛んできたミサイルを受けたニンジャの1機が大破し、さらにもう1機は大量の水流を受けて吹き飛ばされる。

びしょぬれになって倒れた時にはパイロットが気絶したせいか、動きが止まっていた。

「今度は横槍!?とことん卑怯な!それでも正義の味方か!?」

「お前らに説教させる筋合いはねえ!!」

「救助完了しました。覚悟していただきます!」

ミサイルを撃ったトライボンバーと水を発射したガードダイバーが残るニンジャを撃破するため、スラスターを聞かせて接近を始めた。

 

3機がニンジャと戦っているころ、マイトガインとティーゲル5656は剣とドリルでつばぜり合いを演じていた。

「ウォ、ウォルフガング様!パワーは相手のほうが上です!!」

「なんじゃと!?このティーゲル5656のパワーを上回っている…!?」

ティーゲル5656とマイトガインの共通点は旧世代のモビルスーツの延命措置として採用された新型バッテリーであるパワーエクステンダーで稼働しているところだ。

問題は持っているバッテリーの数で、ティーゲル5656は頭部ビーム砲の使用を考慮した結果、2つ搭載されているのに対して、マイトガインの場合はマイトウィングとガインのものを含めて3つ搭載されている。

そのため、運用できる時間もパワーもマイトガインが上回っている。

現に、マイトガインの剣がティーゲル5656を押し始めていた。

「おのれぇ!!ワシのロボット以上のパワーなどぉ!!頭部ビーム砲でその頭を…!!」

「させないぞ!!」

ビーム砲に向けて、マイトガインが頭突きを炸裂させる。

頭突きされた頭部ビーム砲はへしゃげてしまい、発射が不可能となる。

しかし、マイトガインも無事では済まなかったようで、額に搭載されているシグナルビームに不具合が生じてしまう。

「ぐぬぬ…ここまで近づかれては、ジャミングミサイルも撃てん!!」

「よし…!シグナルビームを使う!」

「何を言っているんだ、舞人!先ほどの頭突きで損傷しているぞ!!」

シグナルビームはザフトで昨年採用されたガナーザクウォーリアに装備されているM1500オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲に匹敵する出力のビームを発射することができる。

あの兵器とは異なり、シグナルビームは比較的小型になっており、マイトガインの機動性を殺さないように設計されている。

しかし、その分繊細な出来となっており、仮に損傷した状態で最大出力の発射を行うと、暴発して頭部が爆発し、パイロットである舞人はただでは済まない。

「わかってる!!ただ…こうすればいい!!出力を15から20パーセントに調整!!」

「そうか…!」

舞人の手でシグナルビームの出力が調整され、彼の意図を察したガインは照準を合わせる。

照準が固定されると、シグナルビームが発射されるが、収束機能も破損してしまっているのか、発射と同時に拡散する。

拡散したビームはティーゲル5656の装甲に命中するが、出力不足故に全くと言っていいほどダメージを与えることができていない。

しかし、舞人の目的は別にあった。

「うわああ!!前方が見えませーん!!」

「おのれ、マイトガイン!!目くらましじゃとぉ!?」

シグナルビームの光から腕で目を隠したウォルフガングは想定外の攻撃に動揺する。

光りが消えると、正面にはマイトガインの姿はなかった。

「おのれ、マイトガイン!!どこへ!!」

「ウォ、ウォルフガング様!!上です!!」

「な、なんじゃとぉ!?」

球体型センサーが上へ跳躍したマイトガインの姿を見つけたが、時すでに遅し。

両手で握られた剣がエネルギーチャージを終え、オレンジ色に発光している。

「くらえーーー!縦一文字斬りぃ!」

「てぇーーーい!!」

真上からの落下しながらの一刀両断という単純かつ効果的な一撃がティーゲル5656に叩き込まれ、真っ二つになる。

「な、なぁぁ…!?」

コックピットも2つに割れ、何が起こったのかわからずに若干ぼんやりとしていたウォルフガングが3人の部下によって引っ張り出された。

真っ二つになったティーゲル5656は爆発することなく機能を停止させる。

「このぉ、よくもワシのティーゲル5656をーーーー!!覚えておれ、勇者特急隊!!もっと強いロボットを作って、貴様らを倒してやるぞーーー!!」

「ウォルフガング様!そんなこと言ってる場合じゃありませんよ!!」

「警察が来る前に逃げましょう!!」

「走れ走れーーー!!警察を撒くまで走れーー!!」

イッヒ達に持ち上げられたウォルフガングは舞人に向けて捨て台詞をはきながら運ばれていく。

地面に刺さった剣を抜いたマイトガインは速やかにそれを納刀した。

「悪の科学者、ウォルフガング…か…」

「あいつが、どんなロボットを作り上げたとしても、それが悪である限り、俺たちが打ち破って見せるさ」

「そうだな、舞人。あとは…」

「よぉ、舞人にガイン!聞こえてるか!」

「ソウジさん!!」

「あの忍者ロボットの軍団は全機倒したぜ!犯罪者は全滅だ!」

ソウジから送られた通信と共に、撃破されたニンジャ達の映像が送られる。

警察が到着しており、逃げ遅れた影の軍団が逮捕されている。

「にしても、あのショーグン・ミフネの野郎、正々堂々と戦えってんだ!」

戦闘でできたガレキを改修するトライボンバーはニンジャが全滅した後の彼の行動に対して愚痴をこぼす。

彼はニンジャが全滅したのを確認すると、この捨て台詞を残して逃げてしまった。

 

「おの~れ~!マイトガインと勇者特急隊、覚えておれよ!日の本を立て直すため、このショーグン・ミフネ、必ず貴様らを成敗してくれるぞ!」

 

「ショーグン・ミフネと影の軍団、面倒な相手ですね…。ああいうタイプは理屈が通じませんから…」

消火活動を行うガードダイバーも彼のことを思い出し、ぼやいていた。

「このヌーベルトキオシティは世界の鉄道網の中心なんだ。時代遅れのサムライの好きになどさせるものか」

「ま…奴が本当に日本のことを理解してるのか、わからんけどな。よし、周囲に敵影なしっと」

ヴァングレイのセンサーで周囲に残った敵、まだ隠れている敵がいないかを確認し終えたソウジだが、急にセンサーが何か正体不明の反応を拾い上げる。

「なんだよ、この反応は!?」

生体反応でも熱源反応でもない、今まで見たことのない反応を線路付近のビルの屋上から拾ったソウジは困惑する。

しかし、同時に表示されたアイコンを見たとき、その困惑は驚きへ変わった。

アイコンには『99』と表示され、更にはこの世界で戦いに巻き込まれたときに出会った少女の姿が映し出されたからだ。

ソウジはヴァングレイをそのビルのある場所へ向かわせる。

「君は…」

コックピットを開き、屋上を肉眼で見ると、そこにはその少女が無表情のまま座っていた。

 

-ヌーベルトキオシティ 旋風寺コンツェルン本社社長室-

「…では、ソウジさん」

ガレキの撤去や消火作業を終え、後のことをガードダイバーとトライボンバーに任せて帰還したソウジは同じく帰還した舞人のいる社長室で、彼からバッジを受け取る。

MGと描かれた金色のバッジで、受け取ったソウジはそれを左胸につける。

丁寧なことに、ジャケットにもつけることができるようにシールのように貼ったり剥がせたりするタイプのバッジにしてもらった。

「あなたを勇者特急隊の特別隊員に任命します。ヴァングレイの補給その他に関しては、こちらに任せてください」

「了解だ、舞人社長。よろしく頼むぜ」

笑みを浮かべたソウジは受け取ったバッジに目を向ける。

さすがに街中ではこれは外しておく必要があるものの、自分も正義のヒーローであることを認めてもらえたことが何よりもうれしいことだった。

おまけに、旋風寺コンツェルンの社員という表向きの肩書を与えられており、給料も支払われることになる。

これで当面の生活の心配もなくなったということになる。

ただ、住む場所を見つけるまでは辰ノ進の元で世話になることになるが…。

「しかし、別世界からの転移者だなんて…」

めぐみはバッジを受け取る前にソウジが改めて話した、自分とチトセ、そしてヴァングレイの素性を辰ノ進らとともに聞いていた。

最初は半信半疑だが、少なくともヴァングレイの技術がこの世界の物ではないことが分かったことで、信じるしかなくなった。

「でも、ソウジさんが嘘をついているようには思えません」

「大変だったんだな…チトセちゃん」

苦労をねぎらうように、辰ノ進はチトセに語り掛ける。

2人のいる世界が侵略者によって、あと1年で滅亡してしまうという状況も聞いたからだ。

それについては、ヴァングレイが地球での戦闘をなぜか録画しており、それを見せることで理解してもらえた。

「…もう、済んだことですから」

「チトセちゃん…」

しかし、チトセはどこか吹っ切れた様子を見せていた。

ずっと隠していて、フラストレーションがたまり続けたこの1週間よりも、少しだけ気が楽になった。

だからといって、これから自分が何をすればいいのかは決めることができていないが、それについてはこれから探せばいい。

「だが、驚きなのは別世界の存在だけじゃない」

「私のことですか?」

全員の関心が、今度はソウジが連れてきた例の少女に向けられる。

ソウジの話が正しければ、彼女がヴァングレイのOSである99の正体ということになる。

「うむ…失礼だが、君はあのヴァングレイの制御用OSであることが理解できないのだが…」

しかし、どう見ても今の彼女は人間にしか見えないため、半信半疑なのが正直なところだ。

それは大阪だけでなく、ほかの面々も同様だ。

「あなたが…あのシステム99ってことは、なんとなくだけどわかるわ」

「お、チトセちゃん。それは俺も同じだ。特にしゃべり方がシステム99そのものだ」

だが、ソウジとチトセはなんとなくだが、彼女がその99だということが理解できた。

理屈ではないため、うまく説明できないし、しゃべり方が似ていることが手伝っているのか、彼女がヴァングレイと同じく、一緒に戦ってきた仲間のように思えた。

だが、99は不満げな表情を2人に見せる。

しゃべり方をあまり褒められたことがないためか、それで判断されたのが面白くないようだ。

そんなことを気にせず、ソウジは話題を変える。

「改めて、聞こうじゃないか。君がどうして存在しているのかを」

ヴァングレイの中に、彼女がそのまま入っていたというのはあり得ない。

しかも、次元断層での戦闘で損傷したヴァングレイを改修したのは彼女だというのは分かるが、どうやって資材を調達し、修理したのかはまだ分かっていない。

それに、なぜこのように少女の姿で目の前にいるのかも。

「…私は損傷したヴァングレイと共にこの世界へ飛ばされました。そして、とある研究機関で修理をした後であなたたちを探すためにこの世界の地球とコロニーを回っていました。あらゆるネットワークにハッキングして、情報を手にしていましたが、それでも1週間かかったことはお詫びいたします」

「別世界でまったく手掛かりのない状態から2人の居場所を突き止めたなんて、すごいと思うよ」

浜田の言う通りで、まったく見知らぬ場所で特定の2人を探し出すのは砂場でコンタクトレンズを探すよりも難しいことだ。

それに、飛ばされた結果、まったく別の世界に流れ着いてしまった可能性だってある。

そんな中で、ソウジとチトセを探し当てただけでも、彼女は優秀だという証明になる。

「私、優秀ですから」

「優秀って…自分で言うのかよ?」

「でも、どうして女の子の姿に?」

次にチトセが彼女に質問する。

本当であれば、自分たちを探す中で自分の体を作るのは全く無駄な行動だ。

そんなことをしなくても、ネットワークにハッキングできるということは探すのに問題はないはずだ。

それに、この世界でソウジがヴァングレイと再会したとき、ヴァングレイはパイロット無しでソウジの元へやってきて、コックピットに乗せた。

ということは、彼女は乗っていなくてもヴァングレイを動かせるということになり、操縦するためという理由は成立しない。

「コミュニケーションをとる際に人間の姿の方が都合がいいからです。そのため、ヴァングレイの改修のついでにその施設にあった資材を使って、肉体を作ったうえで、機能をこちらへ移しました」

「サブアームとかマニピュレーターがかなり精密に操作できたから、器用だとは思ったけど…」

「うむ…ただの姿勢制御OSではない、ということか…」

この世界でも、ガインのような超AIが存在するが、そんな彼らでも自ら整備を行ったり、施設を利用して肉体を作るような芸当は不可能だ。

精神が人間に近いため、もしかしたら将来、そういうことも可能になるかもしれないが、それはどれだけ先になるかわからない。

つまり、目の前の彼女はある意味、超AI以上の存在と言える。

話を聞いていたソウジはん?となにか重要なことを思い出す。

「ちょっと待った!じゃあ、今のヴァングレイはOSが空っぽだってことか!?」

「問題ありません。半径30キロ以内であれば、私が遠隔操作できますから。それに、もしもの場合、私はヴァングレイに乗っていない方が都合がいいでしょうから」

「その、もしもの場合とは?」

「ヴァングレイが撃墜されたとき、もしくは部隊が壊滅したとき」

あまりにも縁起でもない場合を無表情でぶちかました彼女にソウジとチトセはどんよりとした気分になる。

そうなると、必要以上に長距離から遠隔操作できるように設計した理由も理解できるが、もう少し自分たちのことを信用してほしいとさえ思えてしまう。

信用、という概念がない点から考えると、もしかしたら超AIとは人間性という点で少し見劣りがあるのかもしれないなとソウジは考える。

「冗談です」

「「笑えないって!」」

ソウジとチトセが息の合った突っ込みを見せる。

その瞬間、再び彼女が不機嫌な表情になり、ソウジとチトセをにらむ。

「ああ、もう!ヘソ曲げんなよ!」

「とにかく、再会できたのを喜びましょう。ね?」

「…苦労して、探し当てたのに、あなたたちは私をわかってくれなかった…」

「もしかして、機嫌が悪いのはそれが理由で!?」

「ほかに理由はあります?」

ソウジとチトセはこの世界に流されてから、確かに仲間たちがいると思われるヤマトを探そうとしていた。

ヴァングレイについては、ヤマトと一緒にいるだろうと思い、あまり探していなかったのは事実だ。

また、せっかく再会したというのに、状況もあってか喜び合うタイミングが今しか見つけることができなかった。

「っていうか、分かるわけないだろうが!?」

「…もう、いいです」

「こういうかわいくないところって、人間になっても変わってないような…」

「駄目ですよ、チトセさん。こんなかわいい女の子にそんなことを言うなんて。ソウジさんも、ちゃんと謝らないと」

3人のやり取りを見ていた舞人は笑いながら、2人を促す。

ソウジとチトセはヴァングレイに乗っており、その中にいたころの99を知っているからそういう反応をしているが、初対面である舞人は2人と違って、素直に反応することができている。

ヒーローのような性格をしており、女性に優しいというところが出ているだけなのかもしれないが、彼の言うことにも一理ある。

「そうですよ。それに、とってもけなげじゃありませんか」

「ハハハハ!これは…2人の負けじゃな」

辰ノ進の言う通り、彼女に謝れという意見を持っている方が優勢となっており、おそらく大阪と浜田も同じ意見だ。

民主主義の原理、多数決を考慮すると、ソウジ達の負けは確定している。

「分かった、分かったって。俺が悪かった、謝るよ」

「ごめんなさい。それから、見つけてくれたありがとう」

「分かってくれたなら、いいです」

謝ってもらえたことで、99は再び無表情になる。

少しは喜んでくれてもいいが、やはり元々がプログラムだからか、難しいのだろう。

「とにかく、これから俺たち3人一緒だ。よろしく頼むな、システム99」

「うーん、ソウジさん。人間の姿をしてるから、そういう名前はちょっと…」

チトセも一緒に戦うのを暗に示しているような発言については、まだ迷っていることもあり、明言を避けたものの、人間の体を手に入れた彼女をシステムの名前で呼ぶのには違和感を覚える。

ソウジも同じ感じを覚えたのか、考え始める。

「んじゃあ、今日から、君はナインだ!」

「ナイン…」

番号をそのままとったように感じるシンプルな名前だが、それほど悪い気がしないのか、彼女は無表情のまま聞いていた。

「ねえ、もしかして…嫌?」

「あなたたちは私のマスターです。拒否する理由はありません」

若干顔を赤く染めたナインが目を背ける。

ようやく人間らしい表情を見せたことで、2人は少し安心した。

「ええっと、ナイン。できれば、マスターって呼ぶのはちょっと。できれば、お姉ちゃんとか」

「名前で呼んでくれよ。パートナーで五分なんだからよ」

「私はAIです。立場はわきまえています。ですから、あなたのことはキャップと、あなたのことは姉さんと呼ばれてもらいます」

「キャップに姉さん、か…。まぁ、マスターよりはマシか」

名前で呼んでもらいたかったが、まあそれでも良いかとソウジは納得する。

姉さんと呼ばれたチトセは少し表情を暗くする。

「…姉さん?」

「あ、ごめんなさい!なんでもない、なんでもないの。その…私、ちょっと外の空気吸ってくる。ソウジさんのこと、お願いね。ナイン!」

背を向けたチトセは走って社長室を後にする。

去ってしまったチトセをソウジは追いかけることができなかった。

(そうだった…チトセちゃん、妹のことを…)

自分たちの家族のことを知らない舞人達はなぜチトセが出ていったのかわからずにいる。

ソウジは彼女の心の傷がいえる日が来るのを願うしかなかった。

 

-旋風寺コンツェルン 女性用トイレ-

1人になれる場所を探していたチトセは社長室と同じ階にある女性用トイレに入った。

あまりここには人が来ていないのか、清潔な状態を維持しており、チトセは洗面台の前に立っていた。

鏡に映っているチトセの眼には涙が浮かんでおり、目頭も赤くなっている。

「ああ、もう…!何をやってるんだろう、私って…」

ナインに姉さんと呼ばれたチトセは死んだ妹、優美のことを思い出してしまった。

彼女に妹の面影を感じてしまった。

自分なりに乗り越えたと思っていたが、次元断層での一件もあって、まだ乗り越えることができていないことを自覚した分、余計につらく感じた。

(こんな私に…これ以上戦う資格なんて…。私は、ソウジさんみたいに、強くないから…)

 

-勇者特急隊基地 マイトステーション 司令室-

翌日、ソウジは舞人達の案内により、ヌーベルトキオシティ付近の海に浮かぶ勇者特急隊基地であるマイトステーションに来ていた。

そこにはオペレーターや整備士を含めた、勇者特急隊の関係者がいて、彼らは表向きは旋風寺コンツェルンの社員として舞人達をサポートしている。

勇者特急隊はここから出撃し、ヌーベルトキオシティだけでなく、世界中に飛び回る。

なお、マイトステーションは出撃時を除いて、水中に姿を隠しており、 電磁迷彩システムによって水中でも浮上している際にも、センサーやレーダーに反応せず、更に必要であれば肉眼で見えないくらいに姿を消すことも可能となっている。

その構造はミラージュコロイドとは根本的に異なるようで、ミラージュコロイドの軍事利用を禁止したユニウス条約には抵触していない。

「どうだ、浜田。見つけられたか?」

「駄目ですね。ヤマトのヤの字も出てきません」

世界中のネットワークを調べている浜田だが、情報が見つからない。

ソウジ達がここにいる理由は、ナインからある情報を手に入れたからだ。

2人を探している中で、ヤマトらしき存在に関する情報を見つけたとのことで、ヤマトがこの世界にいるかもしれないということが明らかとなった。

マイトステーションでは、勇者特急隊の活動拠点である都合上、世界中の情報を手に入れることができるため、ここで情報を集めることになった。

「浜田君といずみさん、青木さんが総がかりで調べても見つからない…。そうなると、お手上げだな」

彼ら3人の情報収集能力は勇者特急隊でも随一で、彼らの手でも見つけられなかったヤマトの情報をわずかではあるが入手したナインの優秀さを改めて感じてしまう。

「気にしないでくれ、もしかしたら誤報だったのかもしれないからな」

「いえ…そうとも限りませんよ。もしかしたら、ヤマトの情報が意図的に隠されているのかも…」

「情報を隠す?それって、あり得るのか?」

「今の大統領になってからは変わり始めていますが、先代の大統領になるまでは情報統制が当たり前のように行われていたんです」

舞人の言葉に、ソウジはアロウズの背後にいたイノベイドという人造人間のことを思い出す。

イノベイドは将来、この世界に現れるであろう新人類であるイノベイターを模倣して作られたもので、量子型演算処理システムであるヴェーダの代理人として情報を手に入れる役割が与えられていた。

しかし、そのイノベイドの1人であるリボンズ・アルマークを中心とした一派が主であるヴェーダを掌握し、アロウズの黒幕として世界に干渉を始めた。

アロウズが高度な情報統制ができたこと、そしてソレスタルビーイングが情報を手に入れることができたのはヴェーダが存在したからだ。

しかし、リボンズ・アルマークと彼の仲間はソレスタルビーイングとの戦いで全滅し、アロウズが解体されたこと、彼らの所業が明るみになったことがきっかけで、現政権は方針転換した。

そんな現政権が今更情報統制を行うのは軍事的な事情がない限りはあり得ないことだ。

となると、彼らがヤマトを入手した可能性は否定できない。

「昔は、そうした隠された情報を探ることはタブーになっていて、そういうことをした人間は社会的に抹殺されていました」

「確かにそうかもな…。あの蜉蝣戦争なんか、下手をすると今の地球連合がひっくり返りかねない一大スキャンダルだしな」

「木連…表向きでは全滅したということになっていた宇宙移民者。彼らは過去の政権によって社会的に抹殺されたような形ですからね」

蜉蝣戦争は以前までは無人兵器による地球やコロニーへの攻撃と表向きでは伝えられていた。

実際、木連が使用していた兵器のほとんどが無人兵器であるため、民衆も本当のことだと受け止めていた。

だからこそ、情報開示によってその事実が明らかになった際は大きな波紋を呼んだ。

「軍以外では始祖連合国がヤマトを手に入れた可能性もあり得ます。あそこからの情報は一切、僕たちには入ってきませんから…」

「うげぇ、それだとめちゃくちゃ厄介だぜ…」

もし浜田の言うことが事実だったら、いくら勇者特急隊でもヤマトを取り戻すのは不可能になる。

それなら、地球連合軍かプラントに確保されていたほうがましだ。

調べ始めて早4時間、結局ヤマトの居場所をつかむことができなかった。

「これ以上調べても仕方ないだろ?いったん休憩するとしますか」

「お疲れ様です。そういえば、ナインはどこへ?」

「青戸の工場だ。超AIのボーイフレンドができたからな」

人間相手よりも、むしろ同じAIとの方が仲良くしやすいかもしれない。

舞人と一緒にマイトステーションを離れるソウジは彼女が彼らに自分たちにしたような笑えない冗談を言わないことを願った。

 

-ヌーベルトキオシティ 青戸工場地下-

「難しい質問だな…」

修理を終えたガインは正面に立っているナインを見ながら、悩んでいる。

超AIの中にある数多くのパターンの中で、その質問に対する答えが出せないでいる。

その場合は独自に考えて、新しい答えを導き出すという人間に近い能力を発揮するのだが、それでも答えを出すのが難しい。

本人も、それについて考えたことがなかったことも影響しているかもしれない。

「ふぃー、やっと整備が終わったぜ。って、ガイン?どうしたんだよ、そんな難しい顔をして」

「いくら超AIが搭載されたとしても、そこまで複雑な表情は出せないと思うが…」

緑を基調として、ライオンの鬣がついたような頭を持つライオボンバーに対して、消防車が人型に変形したかのような、マッシブな体つきのファイアボンバーが冷静に反応する。

確かに、勇者特急隊には顔があるものの、それを人間のように自在に動かせるわけではない。

ガインの今の表情はいつもと変わらないため、彼らの感情の判断材料は口調としぐさだ。

「そういうのはノリだって!硬いなぁ、ファイアボンバーは」

青を基調とした、縦長の頭を持つダイノボンバーは背伸びをする。

修理や補給の間はむやみに動くことができないため、それらが終わったらこうしてしまう癖がある。

関節などに負荷を与えるため、やめろと大阪などから言われているが、一向に直る気配がない。

「こちらの皆さんは…?」

ライオボンバー達の姿を見たナインが彼らに尋ねる。

彼らは合体して、それぞれバトルボンバーとガードダイバーという名前で戦っていたため、こういう形では初対面ということになる。

「紹介しよう、私の仲間…勇者特急隊のボンバーズとダイバーズだ」

「もしかして、彼らが…」

「そうだ。合体することでバトルボンバーとガードダイバーになる」

「おいおい、いくらなんでも端折りすぎじゃないか?」

彼ら1人1人の名前を言わずに紹介を終えようとするガインにパトカーをほうふつとさせる外見をしたポリスダイバーが待ったをかける。

別に合体している時だけでなく、分離している際もそれぞれ勇者特急隊として救助活動や戦闘などを行うことができる。

さすがに合体しているときには及ばないが、それぞれに超AIによる人格があるため、それを無視してほしくない。

「仕方ないですよ。ボンバーズは3機、ダイバーズは4機、合計7機もいるんですから、覚えられませんよ」

青緑を基調とした、ジェット機のコックピットが胸についたようなロボットのジェットダイバーがやんわりとフォローを入れる。

彼本人も、できれば1人1人の名前を憶えてほしいが、さすがに7機全員の名前を覚えるのは難しいだろうと思った。

しかし、2枚の鋭利な羽根を左右につけた頭部をもつ赤いロボットのバードボンバーは納得できていない。

「だからってよぉ、せっかくかわいい女の子が俺たちに興味を持ってくれたんだぜ。はぁ…超AIの女の子、いねえかなぁー」

「まるでキャップみたいなことを言ってますね」

「うぐ…その眼はやめてくれ」

ジト目で見られたバードボンバーはわずかに後ろへ下がる。

ナインは彼からソウジに似たにおいを感じていた。

「私もバートボンバーに賛成です。やり直しを要求します」

ドリルを下に倒して、胸につけているオレンジのロボットのドリルダイバーが右手を上げ、ガインに抗議する。

彼らの抗議を受け、さすがにこの対応は悪かったとガインは反省した。

「では、改めて…1人1人紹介する。私の仲間はライオボンバー、ダイノボンバー、バードボンバー、ファイアダイバー、ポリスダイバー、ジェットダイバー、ドリルダイバーだ」

「だから、それじゃあ早すぎだろう!?」

「本当に紹介する気があるんですか?ガイン…」

早口言葉をしゃべるかのような名前だけの紹介にライオボンバーは不満を露わにし、ドリルボンバーが突っ込む。

見知らぬ子供にそんな紹介をしたら、覚えてもらえないのは明確だ。

しかし、彼らの目の前にいるのは只の少女ではない。

それを今から思い知ることになる。

「よろしくお願いします。ライオ、ダイノ、バードボンバーさん。ファイア、ポリス、ジェット、ドリルダイバーさん」

「チームごとにまとめられた!」

「しかし、すごいですね。一度聞いただけですべて覚えてしまうなんて」

超AIは人間の脳と構造が近いようで、彼らの場合は先ほどのように言われても一発で覚えることができない。

しかし、ナインは人間と同じ感情表現ができるだけでなく、ノーマルのAIの良い点もそのまま受け継いでいるようだ。

これは、ナインにとっても意地を見せるいい機会だった。

「私のAIも、皆さんの超AIに負けない性能を持っていると自負しています」

「ん…?AI?」

「聞いていなかったのか?彼女はAIなんだぞ?」

既にナインから自身の素性を聞いていたガインはなぜいまさらと思いながら答える。

ナインがあまりにも人間に近い体をしていたため、彼らは今までナインをただの女の子とばかり思っていたようだ。

「そうです。私はAIのナイン。名前はキャップ…叢雲総司三尉につけてもらいました」

「三尉…?ああ、彼は元の世界では軍人でしたね」

「でも、信じられない…。こんなロボットがいるなんて…」

きっと、説明を聞かなかったら、人間でも超AIでも彼女を人間と誤認してしまうだろう。

ソウジとチトセですら、最初は人間の少女と誤解していたため、なおさらそうだ。

「では、皆さんにもお聞きします。人間と超AIの違いは何ですか?」

驚く彼らにナインは先ほどガインに尋ねた質問をぶつける。

「え…?」

「いきなり言われても…」

「こえが…ガインが困っていた理由か…」

「そういうことだ」

やはりガインと同じく、ほかの面々もこれまで考えたことがなかったようで、答えられずに首をかしげる。

「回答をお願いします」

ガインにその質問をぶつけたのは十数分前、

AIである部分が抜け切れていないためか、ナインは彼らに回答を急かす。

「俺たちは戦うために作られたからな…」

「人間とは違うということは認識していますが、どこがどう違うかについて言われると、どう答えたらいいか、困ってしまいますね」

「しかし、もし勇者特急隊のロボットが戦うためだけの存在なら、合理性と効率性から判断すると、超AIを搭載する必要はなかったでしょう。単に自律行動以上の何かを求めたから、あなたたちは心を持っていると推測します」

彼女がそのような質問をする最大の理由はそれだ。

超AIは人間的な思考が可能になる反面、命令に反発したり感情を持ったりすることで操縦者や使用者の意図に反する動きを見せることがある。

それに、必要以上の思い入れをしてしまい、そのAIを搭載したロボットを使用者がかばうというケースはあってはならないこと。

無論、舞人はその点はわきまえているとナインは判断しているが。

「うぐぐ…ますます難しくなってきた!」

「ダイバーズ!!何か答えろよ!」

「いや、心と言われても…私にもわかりませんよ!というより、自分たちでも考えてください!」

戦闘向けのボンバーズの面々にはこのような哲学にまで発展しそうなナインの質問は明らかに許容範囲外だ。

我思う、故に我ありやら、弁証法やら、実存主義やらその他もろもろを引っ張り出すことなんてできるはずがない。

「俺たちでも駄目なら、舞人や浜田君、大阪工場長に聞くのは…」

3人は超AIを開発にかかわった人物であり、彼らであれば、人間と超AIの違いを知っているかもしれない。

なお、超AIは勇者特急隊の門外不出の技術であり、勇者特急隊でも彼らのような一部の中心人物しか、その作り方を知らない。

話によると、その技術はとある火星帰りの大富豪がかかわっているらしい。

「私は、あなたたちから聞きたいんです」

逃げ道をふさぐように、ナインは言う。

彼女にとって、この質問の答えを超AIを持つガイン達から聞くことで、初めて価値を見出すことができる。

人間に聞いたとしても、無価値だ。

「頑固なお嬢さんだ」

「何とでもおっしゃってください」

まさにてこでも動かない状態で、そうなると答えを頭からひねり出すしかない。

超AIがオーバーヒートを起こさないか心配しつつ、ガイン達は考える。

考える中で、一つだけ思い浮かぶ答えがあった。

しかし、それが彼女の求める答えであるかどうかは分からない。

「ナイン…心を持ってよかったと思うことはある」

「それは何です?」

「正義を知ることができたからだ」

「正義…ですか?」

勇者特急隊を名乗る以上、彼らには何かしら正義を持っている。

ナインは文脈ではわかるものの、彼らの持つ正義とはなにかはまだわからないようだ。

「ああ!それなら、俺たちも分かるぜ!」

「私もですよ。正義は私たちの超AIの一番大事な部分ですから」

「あの…それは、正しいことを自分自身で決めることができるということでしょうか?」

「そうだ。答えになっているかはわからないが…」

「まだわからないところがあります。ですが、話を聞けて良かったって思っています。ありがとうございます」

笑みを浮かべたナインはお礼を言うと、秘密基地で整備されているヴァングレイの元へ向かう。

勇者特急隊の整備スタッフがヴァングレイの弾薬の補給やパーツの交換などを行っていた。

「あの、昨日提案した武器はいつごろ完成しますか?」

「ん?ナインちゃんか。あと2日か3日と言ったところかな。しかし、すごいな。ただの姿勢制御OSかと思っていた君がヴァングレイの整備や改修プランを提示することができるなんてなぁ」

「私、優秀ですから」

褒められたことがうれしいのか、ナインはにっこりと笑っていた。




機体名:マイトガイン
形式番号:なし
建造:勇者特急隊
全高:25メートル
全備重量:104.7トン
武装:マイティバルカン、マイティディスチャージャー、マイティサーチャー、マイティスライサー、マイティカッター、マイティキャノン、シグナルビーム、動輪剣×2、マイティシールド
主なパイロット:旋風寺舞人(出力制御) ガイン(操縦)

ガインとロコモライザー、マイトウィングが合体することで生まれる勇者特急隊の切り札。
3機に搭載されているパワーエクステンダーの存在により、他のバッテリー搭載の武装ロボットと比較すると作戦行動可能時間や出力が大幅に上回っている。
また、フェイズシフト装甲が採用されているため、防御性能は高いが、その結果同じサイズの武装ロボットと比較すると、重量が重くなっている(ただし、搭載されている武器についてはフェイズシフトでカバーできないため、頭突きをした際にシグナルビームが破損するというようなケースがある)。
また、舞人とガインが二人三脚で動かすことが前提の設計であるため、どちらか一方が戦闘不能となると大幅に性能が落ちてしまう。
武装はシグナルビームを除くと、いずれも爆発物を用いない実弾兵器のみとなっており、それは市街地やコロニー内での戦闘を考慮しているため。
欠点としては、大ジャンプ程度の飛行能力しかないことで、飛行可能な武装ロボットに苦戦してしまう恐れがある。
そのため、現在はヴァングレイのスラスターから得られたデータを基に、マイトガインを飛行可能にするためのプランが作成されている。
なお、動輪剣についてはナインの解析によるとダブルオークアンタのGNソードⅤと構造が似ているようで、その関連性については不明。

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